特別になれない   作:解法辞典

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完全な私事になりますが、ブレイブルーのアーケード版のカグラが殆んど死んだも同然らしいです。
もう盆踊りでもいいから、攻撃をガードされなくても構えに移行でいいんじゃないかと思います。
新キャラなのに参入と同時にやれること減らしてどうするんだって、良くて中堅程度なのにアッパー調整じゃなくて火力減らすだけ減らしてどうするんだって、コマ投げからの火力減らしたいなら構え移行削除だけで十分なのに構え解除を鈍化したら元も子もないだろって、カグラが何をしたんだろうかと思う今日このごろ。
アークの社員さんが見ているとは思いませんがどうにかして欲しいです。



感想お待ちしています。


第二話 人は人の心を考える

 いたる所で、物と物とがぶつかり合う音がしている。時には甲高い音、時には鈍い音。其れだけでなく人々の奇声や音量の調整が間違っているであろう音楽も聞こえる。少し離れた所には一人黙々と集中して事に当たっている人や、若い集団も見える。

 ここはボーリング場だ。

 中学二年生の紗由理たちは下の子たちも連れて遊びに来ていた。お金は黒田家が全額負担しており天使に遊びに行きたいとせがまれた高昭が断れるはずもなく、それを頼むと黒田の両親も断れるはずもなく、お金の管理や安全面で心配があったのかその分のお金と紗由理たちも遊べる分のお金を紗由理に渡したのだ。

 黒田家の二人、板垣家の四人、そして紗由理と亜巳の友人、合計七人である。

 その内六人がスコアを競い合っており、友人一人がまったりと応援しているという状況だ。その友人はというと、自分のボールを取ろうとしたところに吐き出された重いボールが当たってびっくりしている。友人の玉の重さは10ポンド、ぶつかった玉の20ポンドだ。

 友人が玉を取り終わった所で更に玉が吐き出されて鈍い音を奏でながら他の玉にぶつかっている。初めの20ポンドは辰子の玉、次いでぶつかったのは竜兵の20ポンドの玉だ。

 天使と友人以外は全員が20ポンドを使っている。御蔭で紗由理と亜巳の腕はもう疲労がたまってきているのだ。元はといえば、辰子が何気なしに20ポンドのボーリング玉を持ってきて男の子の二人がそれに対抗、竜兵に煽られた亜巳が更に持ってきて、じっと見つめてくる高昭に耐え兼ねた紗由理も20ポンドを使っているのだ。

 高昭が入学してから黒田家に来ることが多くなった板垣家は、お戯れで武術を教えてもらっているのだが、全員紗由理と大差がないほどに才能がある。勿論、才能だけではどうにもならない世界が有るのだが、その中でも辰子は高昭を含めてもずば抜けて力がある。この力とは文字通りのパワーのことである。

 その結果、下らない意地が極地的に発生しているのだ。

 元々、天使にいいところを見せようと頑張っている高昭は身の丈に合わない重い球を使っていてもそれなりに良いスコアを残していて、天使に自慢したり、アドバイズをそれとなく送っている。年長者二人は大人気なくハイスコアを叩きだしている―――実際は重い玉のせいで余裕もないのだが。板垣家の双子はというと、なれない事であるボーリングであるのでどっこいどっこいだ。時たまにストライクが出るので一番楽しんでいる様にも見える。

「良かったね、下の子たち仲がいいみたいで、二人の時とは大違いだよ。」

 初めは8本次はガーターという結果を出してきた友人が紗由理と亜巳の隣に座る。丁度ゲーム一回分が終わったので、年長者三人はスコア表から除名をして子供たちが精一杯遊べるようにしている。

「そうだったっけ?私は友好的だったと思うがね、紗由理。」

 少しにやけた顔を紗由理に向けて亜巳が言った。

「あら、どの口がそんなこと言えるのかしら。敵意むき出しだったのは亜巳でしょうよ。」

 吐き捨てる様に紗由理が言う。イラついている訳では無く、今からしてみれば下らない事で揉めていたものだなと、改めて懐かしんでいるのだ。

「私からしたら、二人共大差なかったと思うけどな。」

 友人がオレンジジュースを飲み干して、そう言ってからゴミを捨てに席を立った。その後ろ姿を見ながら紗由理はポカリを亜巳はコーラを買ってくるようにと、声を投げかけた。友人は溜息を付きながら歩いて行った。

 そういえば四年も経ったのか、と亜巳が呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紗由理は酷く苛々していた。

 本当なら時間、あの友達と一緒に、あの通学路を歩きながら、クラス替えのことや、昨日のテレビのことなどを話しながら歩いていたのだろう。そう思いながらここに居ない親への鬱憤を晴らす対象もなく、ただ胸中に募らせていた。

 職員室でも何度か、心配をしてくれていた担任の先生の後を歩きながら未だに慣れない廊下の風景を忙しなく、見つめていた。少しでも気をそらしていないと、今朝のようにまた涙が溢れてしまいそうだった。正直学校に行きたくはなかったけれど、あんなに抗議して聞かなかった両親が今更になって行かなくていいなんて言う筈がなかった。元住んでいたところの近くには祖父の家があったからそこに住まわせてもらえば十分通うことは可能だった。可能だったのに。

 ままならないことだらけだ。でも、幾ら苛つくからといって、自分のために親身になってくれているこの担任の好意を無駄にしてはならないことも紗由理は分かっていた。だから、最低限の事はするつもりでいた。

 それでも、私の親友はあの子、私の故郷はあの町、それだけを心の支えにして、紗由理は担任の促すように教室へと入っていった。

 

「家の都合で転校してきました、黒田紗由理です。此方の土地勘や学校のことなどわからないことが多いので教えてくれると助かります。」

 貼り付けた笑顔で、自己紹介をした。

 家の都合では無く、親の都合と言いたかった。皆には緊張している風に見えただろうか。私は感情を押し殺す事に精一杯で雑音すら拾えていなかった。唯、空いている自分の席となる場所に向かう。横から二列目、前から三列目の席。

 腰を落ち着かせて前を見ると、此方のことなど気にせずに口早に喋る女の子がいた。それから長い付き合いになる彼女だが、その時私の頭の中は真っ白で、最後に言われた、宜しくの言葉だけしか聞き取れず、その子の名前はまだ分からぬままに、少しの間が空いてから此方こそと返したのだった。

 そんな事をしている間に一時間目の授業の予鈴がなっていた。

 転校生に興奮している目の前の女の子は少し遅れて教室に入ってきた担任の先生に注意をされるまで途切れることのない質問を私に浴びせていた。

 その子とは、転校の初日で十分に仲良くなった。紗由理が今まで会った同年代の子供の中で一番に性格が良かった。それでも紗由理は、前の学校の友人の事が頭に浮かんで、その子が友人であることを心から認めることは出来ずにいた。それでも話をしている分には楽しいし、初日の放課後に教室に残って駄弁っていた。

「なあ、あんた達。喋るなら他所でやってくれよ。」

 不意に教室の後ろから声をかけられて吃驚した。

「板垣さん。」

 友人が震えた声で、声の主の名前を呼んだ。

 板垣亜巳、今日は一言も話していないが確かに隣の席に座っていた。長めの箒を手にしており如何にも掃除の邪魔だ、と言わんばかりに此方を見ている。睨むでもなく、懇願するでもなく、何も映していない目で此方を見ている。

 怖がっているのかと思った友人は退出を促すわけでもなく。板垣さんから目をそらしている。何回か様子を伺ってもいる様であり、何か気になるところでも有るのだろうか。私もじっくりと観察をしてみることにした。どうせ家に帰ってもストレスが溜まるだけだから掃除でも手伝ってから帰ろうかと思った。

 しかし、そのことを直ぐに言い出すことは出来なかった。代わりに気にかかった事を口にする。

「板垣さん、他の掃除当番の人はどうしたの。」

 今週の掃除当番は一列目のはずだ。その一言で、教室の時間が止まってしまったかの様な気がした。虚ろな目をしていた板垣さんの目には感情が入ったように見え、私の隣の友人は息を止めている。掃除をしていた板垣さんは手を止めて改めて私たちを見た。

「帰った。」

 板垣さんは妙に強い口調で吐き捨てる様に言った。自分を見ていない両親が怒るのとは訳が違う。正面から感情を叩きつけられた私は、怖いと感じていた。でも、しっかりと剥き出しの敵意の様なものをぶつけられたのは初めてだ。転校が決まった時私自身が親に感情をぶつけたことは有ったが、感情をぶつけられたこと自体初めてだったかもしれない。板垣さんはさっきとは違い、私たちのことをしっかりと認識しているみたいだった。

「板垣さん、掃除手伝うよ。」

 できるだけ私の気持ちが伝わるように、最大限の笑みを浮かべて提案をした。私の提案に便乗する形で友人も、か細い声で手伝う、と言った。板垣さんは、少し困ったような表情をした。

「全く、いい親に育てられると言うことが違うね。」

 板垣さんの精一杯の皮肉だったんだろう。

 だが、幾ら冗談でも言っていい事と悪いことがある。その時、私が実は苛ついていた事も、私の家族の事も知らなかっただろう。私からしてみれば、板垣さんには親がいない事も、虐めに発展しかねない危ない状況だと言う事も、担任の先生から聞かされていた。同時に、隣の席だから気にかけてあげて欲しいとも聞いていた。

 だが、その時の私にはそれだけは、笑えない一言だったのだ。

「巫山戯ないでよ、あんな親から学ぶことなんて一つもないわ。」

 お互いに、爆弾を放り込んだ。

 

 

 

 明白に機嫌の悪くなった板垣さんの顔が伺える。今にも箒の柄を握りつぶさんとばかりに力が入っていて腕が震えているのが良くわかった。

「へえ、黒田さん。それは私への当て付けかい?」

 対する私も、板垣さんと向かい合う様に、教室の後ろ側の少し余裕のあるスペースに歩いた。

「まさか、あの親に自慢する部分なんてないわ。」

 ここまで他人に対して饒舌になるのは、引っ越してきて初めてだ。それ程までに親への不満が溜まっていたのが嫌でもわかった。同時に親がいない人に対して、なんて最低な事をしているのだろうかと自己嫌悪をしていた。それでも歯止めをかける事はできなかった。

「親がいるだけで十分だろ、その洋服だって靴だってご飯もガスも電気も、水も、家も、歯ブラシも薬も、なんでも。十分に幸せでしょ!」

 丁度置いてあったちりとりの上に板垣さんの涙が滴り落ちていく。それを見た私はそれ以上何も言うことが出来ずにいた。それでも板垣さんの言葉が私の逆鱗に触れた事は紛れもない事実である。私の、行き場のない怒りもまた目から溢れていた。

 他人に弱みを見せたのは何時ぶりだっただろう。

 弟ができてからは頼れる人間になりたいと願い、大人らしく心がけた。弟の才能が分かり私に興味を示さなくなった両親を見て、立派な人間になろうと決意した。転校の一件で両親を完全に見限った私は、人の心を考えることを知った。

 それでもこの結果だ。

 私は子供だったのだと痛感した。

 これでは両親と同じではないか、そう思い、只管に自分に腹が立った。行き場のない感情であったが既に涙は収まっていた。それは板垣さんも同じで、お互いに話す切っ掛けが分からない。私程度の人生経験で優しさを知ったならば、彼女は既に知っている。

 私よりも彼女は大人だ。

 それでも私と同じ様に子供でもある。

 つまらない事で言い争った事は、二人共分かっている。これから先触れてはいけないナイーブな問題でもある事も十分に承知している。非がある事も分かっている。しかし、謝るためにタイミングを掴み倦ねていた。板垣さんの顔を見る勇気がなかった。私と同じく早く顔を洗いに行きたいと思っているだろう。早く帰りたいだろう。

 声をかけるのが怖い。人に嫌われるのが怖いと感じたのは、嫌だと感じたのは、始めてだった。私たちのせいで、主に私のせいで、終わっていなかった掃除を友人が黙々と片付けている。失望されて見放されてしまったかも知れない。もう友人なんて呼べないかもしれない。

 掃除ロッカーを閉めた友人はランドセルを背負った。

「二人共早く帰ろ。」

 極自然にそう言いながら、私と、板垣さんの机に置いてあったランドセルを持ってきて私たちに手渡した。

「先生に見つかると面倒だから、早く仲直りしようよ。」

 そう言って友人は私の右手を掴んで、板垣さんの方に引っ張った。切っ掛けを作って、促してくれた友人に感謝をしつつ、板垣さんに頭を下げた。

「板垣さん、配慮が足りなくてごめんなさい。」

 この期に及んで少し上から目線の言葉が出てきてしまった事を猛省しながら、心から謝った。

「私の方こそごめん。」

 友人に引かれて握手の様な形になっていた私の手を握り返して、板垣さんが言った。

 

 その日の帰り道、お互いを名前で呼ぶようになった。

 

 

 亜巳が新聞配達で殆どの生計を立てている事を知って、手伝うかと提案するとそっちは余裕があるから放課後に特売などを手伝って欲しいと言っていた。他人の力は出来るだけ借りたくないと言っていたが、私たちとしてみれば少しでも負担は減らしてあげたかったし、他人ではないと思っていたので亜巳の生活の支援をすることを約束した。

 きちんと友達になって初めての週末に私たちは亜巳の家に、使えそうなものを持って行って無駄な歳出を抑えるようにした。例えば着れなくなった服を持って行って、亜巳の妹にお下がりとしてあげる事にした。特に私の家など、放任主義なので今までの服は全て私の部屋のタンスに入っている。いきなりなくなっても滅多に母は入ってこないし、元々片付いている部屋なので変に弄られることもなくバレる事はまずないと言って良かった。

 私よりも荷物が少ない、あげる物が異常に多い私の方が世間一般的に考えても可笑しいのだが、友人は私よりも早くに亜巳の家に着いていた。友人は裁縫道具やタオル、私と同じ様に衣類など、腹の足しにでもなれば、と大量のお菓子やカンパンなどの非常食を持ってきていた。私が板垣家に着く頃には入れ違いになっていて亜巳が言うには、近くのスーパーの無料で水が汲めるところに行っているとのことだった。

「お邪魔します。」

 インターホンで一頻り亜巳との会話を済ませて家の中に入る。想像よりも綺麗だった。無駄にするものがないと言うべきだろうか。

「よくそんな量の荷物を持てるね。」

 出迎えた亜巳は私の背負ってきた物を見てその様に嘆息した。無論、そういうリアクションが欲しかったということもあるが、単純に亜巳の事を考えると妥協をしたくなかったのだ。家の人に見つからずに家を出るのは大変で、道中で珍しいものを見る様な視線が集まっていたことを思うと少し堪えたが、やるなら全力でした方が良い。欲を言うなら友人もいれば、良い笑い話にできたのに、と思ったがこれはこれで都合が良かった。

 ポケットから取り出した封筒を亜巳に差し出す。亜巳は少し怪訝な顔をしたが、納得のいったように私を見てから溜息を突いた。

「紗由理。一応聞くけど、それは何だい。」

 当たりがついている事は分かっているので亜巳が聞きたいだろうことだけを話す。

「私のへそくり。本当だったら、あんな両親から貰った金だから成人したら叩き返してやろうって考えてたんだけどそれなら亜巳の役にたてたほうが良いと思ってね。それなりに生活が楽になる分はあると思うから。ああ、私のお小遣いに関しては問題ないよ。家の仕事手伝い、特に人前で演舞したりとかをして貰った正当な報酬分は私の手元にあるから安心していいからね。」

 そう言って封筒を亜巳に押し付けた。いざとなれば亜巳の下の子たちにでもあげれば、姉の負担を和らげたいと思うだろうから素直に受け取ってくれただろう。まあ、そんな事をするまでもなく、亜巳は受け取ってくれた。面倒くさい言い争いはもう懲り懲りなのは亜巳も同じのようだ。それでも煽るような事をしている私に溜息を吐いていたのだろう。私としては仲直りの証のつもりでしたブラックジョークだったのだが、お気に召してくれなかったみたいだ。今後は言わないようにしよう。

 

 

 

 

 

「あの頃が一番楽しかったかも知れない。」

 もう少しで終わりそうな下の子たちのゲームを眺めつつ、私は同意を求めるように二人に話し掛けた。

「私は安定している今の生活の方が楽でいいけどね。」

 亜巳は微笑みながらそう言った。

 今の生活は、私の家から板垣家に援助金を出している形になっている。というのも亜巳の特売に付き合うと帰るのが六時過ぎになってしまい、一介の小学生にしては遅い帰りなので親にしつこく原因の追求をされたのだ。面倒だったので嘘偽りの無い事実のみを伝えると、娘の成長が喜ばしいだのと言って感動し、板垣家にお金を出すようになったのだった。正確にはもう少し自分たちが育てた風な口調だったので、例に漏れずその時も私は苛々することになった。

「亜巳ちゃんの妹ちゃんと紗由理ちゃんの弟くんは本当に仲が良いね。」

 友人が二人を見ながらそう言ったが、私と亜巳は苦笑してしまった。

「仲はいいんだけどね。それだけっていうか、何と言えばいいのか分かんないけど。」

「まだ子供だからそういう事に疎いのは仕方ないけどね。それでもあそこまで気づかないと高昭君が可愛そうだよ。」

 あの二人が知り合ってから二年が経つが、まだ関係は進んでいない。入学式の放課後に迎えに行った時から高昭が天使ちゃんのことが好きなのは一目瞭然だった。家の関係を考えると長い間の付き合いになるだろうから、二人の仲を保ったままに、出来ればくっつけてしまうのが手っ取り早かった。関係が崩れてギクシャクするよりは余程ましだが、居た堪れない。

 まだ知識が備わっていないだけで、一番仲が良く家族を含めても一日で一番一緒にいる時間も長いはずだからその内どうにかなるのだろうが、少し心配だ。

 


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