憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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9 マフィアを憎む者

 忌々しいカスチビから銃を贈られて数年。前世の俺が目覚めるまであと何年だろうか。まあ、五、六年はあるかもな。

 前世の記憶だというのに何故曖昧なのかと思った奴がいる筈だ。だが考えてみろ、前世の記憶は今生きている年月を含めると彼是三十年以上の前の話だ。覚えていなくて当然のことだ。

 覚えていないと言ったが、別に忘れたわけではない。前世の、特にリング争奪戦の辺りの忌々しい記憶は脳の記憶を司る海馬に封じ込んでいる。長期記憶として残っているのが癪だが、いつか使いそうな気がしなくもないからな。持っておいて損はない……と思う。

 夢に出てくるとその翌日は炎を携えてカスチビを追いかけるがな。まったく忌々しい夢だ……今の俺はボンゴレに興味はないというのに。

 

 俺とベスターは今の所、主にロシアで活動を行っている。そして今の所、ロシアでの活動は嫌いではない。雑魚しかいないが、ロシアと言う寒い環境でしかできないこともあるからな。

 俺が何をしているのかというと、ベスターを枕にして寝ているだけだ。これで苛立ちは一割はなくなる。

 イタリアで枕になんかできるわけねぇ。確かに涼しいときもあるが、極寒地域の方が毛皮をより深く味わえると言うものだ。

 

 ここまで話しておいてなんだが、俺は今、ロシアではなくイタリアにいる。

 

 カスチビの悪意にまみれたリストにはロシアンマフィアとイタリアンマフィアがランダムに入り混じっていた。それが意味するのは、ロシアとイタリアを行き来すると言うことだ。まったくもって面倒だ。

 移動距離が長いとそれだけ炎も消費するので、結構こまめに奴の元に帰っている。忌々しいカスチビめ。俺が帰ってくると母親面してうるせぇ。

 何が「そんな薄着だと風邪ひくよ」だ。テメェ等の方が明らかに薄着だろうが。

 

「ガゥ」

 

 ベスターが裾を引っ張り、何かを言いたげな顔をしている。

 そういえば、何が言いたいのか忘れていたな。カスチビの悪口が続きそうだった。

 

 話を戻す。イタリアにいる俺達だが、先程からどうも超直感が俺に何かを訴えている。

 超直感は俺がリストを見てからイタリアに飛んだ辺りから騒いでいる。今回カッ消すカス共と何らかの関係があるのはわかったが、俺の前世とは関連があるのだろうか。

 前世の俺はこの時期は氷の中だ。つまり、俺に直接関係ないことだろう。氷の中にいる俺がこのファミリーといざこざを起こせるわけがないしな。

 にしても、「エストラーネオファミリー」という名前、どこかで聞いたことがあるんだが。どこだろうか。

 

 エストラーネオファミリー、以下カスファミリーは人体実験を行っているマフィアだ。資料によれば人間爆弾、超人的・動物の力を入れた人間など、人体実験のオンパレードだ。まさにカスだ。

 倫理的問題が云々と言っている場合ではない。そもそも奴らの存在が問題だと言える。そしてそんなカス共は社会だけでなくこの世からカッ消すべきだと大多数の人間は言うだろう。

 カスはカッ消すに限る。塵ひとつ残らず、な。

 

 アジトの前に来た俺達はまず、奴等のアジトを石化させた。ドアを探すのが面倒だ。視界の端に映るドアまで歩くのが面倒なので、強行突破をさせてもらおう。

 石化はベスター、そして石化からの破壊が俺だ。

 

「うぎゃああ!ロシアにいるはずの死神がなんでここに!?」

「あの猛獣も連れているぞ!」

 

 別に俺は必ずしもロシアにいるわけではない。情報が遅れてるのか?最近の俺はイタリアンな気分だ……いや、カスチビのリストにイタリアンマフィアが書かれていただけだが。

 それにしても、情報が遅れている奴らは正直に言ってこれから先、長く続かないと思う。これは普通のことだが、情報はあらゆる場面で必要不可欠だ。探すこと、そして隠すこと……それらができてねぇとマフィアの存在なんかバレて終わりだ。

 どうやらこいつら、そんな基本的な事すらできていないらしい。馬鹿だな。ドカスだ。

 

「邪魔なカス共はカッ消す。テメェ等の存在価値はカス一つないからな」

「ガオオオ!!」

 

 身近にいたカスを炎でカッ消す。隣にいるベスターも咆哮し、相手を石に固めていく。得体のしれない技には恐怖しかない。奴らは早々に俺達に背を向けて逃げ始めた。

 これがマフィアの本質って奴だ。敵わないと知ったら尻尾を巻いて逃げる……情けないことこの上ない。

 

 逃げ惑う奴らを追い詰める、いや始末する。カスチビが押し付けた銃で次々と炎を撃って石をぶっ壊す。壊れた石は復元することはなく、復元したところで奴らのグロ死体ができあがるだけだ。石化した時点で、奴らの命運は決まった。

 別に素手でもできるのだが、銃があると面倒な手段が省かれるので使っているのだ。素手でやるよりは楽で、何より死ぬ気弾もあるので威力が上がる……効率を求めるなら銃を使った方が良いに決まっている。

 カスチビが押し付けたから使わない、と言うほど俺はガキではない。仕事の為ならある程度の私情は廃する。例えどれだけイラついても、任務の効率を考えるとやはり使った方が遥かに早く事が済むのだから。

 あいつ等の考えることは本当によくわからない。俺がいつか奴らに牙を剥くことを考えていないのか。それとも、余裕をぶっこいているのか。どちらにせよ腹が立つ。

 

「に、にげろぉ!死神から逃げるんだ!」

 

 仲間達と手を取り合って、生き残りは奥の部屋に逃走した。逃げたところで俺のポリシーは「皆殺し」なので、逃げようが誰かを人質にしようが俺は必ず殺す。奴らが非道な手段を使ったとしても、それが俺に精神的苦痛を与えることはない。

 恐らく奴らの逃げた先には、実験体が存在する筈だ。一人や二人のレベルではなく、百人レベルのな。

 

「奥に行くぞ」

「ガウッ」

 

 ベスターは一声鳴くと先に奥へ進んでいった。その一瞬後にベスターの雄叫びが耳に入ってきた。男達の戸惑ったような、恐怖を吐きだすような声で断末魔の声を上げるのが聞こえる。

 

 先に行った相棒の後に続けば、石化したカス共がいるだけだった。

 ベスターは自慢げに一声鳴き、そしてまた先に進んだ。カス共を破壊しながら、再びベスターに続く。標的が固まっているとは随分間抜けなものだ。間抜けなカス共はカスになって無様にカッ消えるのがお似合いだ。

 

「あ、あぐぅ……あぅ」

 

 ふと、声が聞こえた。そして視線を感じた。

 実験体モドキが俺の方に手を差し伸ばしていた。

 

「あ、あぁ……」

 

 言葉にならない声を上げて、俺の方に必死に手を伸ばしている。涙を流しながら、間抜けにも涎を垂らしながら。

 明らかに手遅れな、実験体の失敗作だった。

 俺に触れたら生きることができると思っているのか。淡い期待を抱いているようだが、何をしようとそいつは決して元に戻ることはないだろう。

 

「強い生命力でも付けられたか」

 

 顔が半分吹き飛んでも、未だに生きている。一般人なら死んでいるこの状態。しかし、こいつは生きている。

 生かされてると言ったところか。

 

 そいつの傍に屈みこみ、憤怒の炎を撃った。死にぞこないへ、俺からの温情だ。

 

「楽になれ」

 

 俺みたいに死んだらまた自分に生まれ変わるのだろうか。

 そんなことを思いながら、先に進んだ。背後は振り返らない。俺は常に前を見据える。

 

 奥へと進むと実験体がいたので解放してやった。あのカス共は奥に逃げながらも、どうやら実験体を始末しなかったらしい。間抜けなのか。それとも逃げることを優先したのか。

 後者だと思うが実験体からすれば運が良いものだな。

 

 壁を破壊して実験体どもをアジトから出してやる。礼を言って逃げたガキ共を見送り、最奥へ進んだ。

 

 

 辿りついた最奥の部屋は静まっていた。

 

 先に奥へと進んでいたベスターが足元に座る。ちらりと俺に視線を寄越した後、奥へ促すように目を向けた。

 血の香りが濃いこの部屋の中は、逃げた筈のカス共の死体が散乱していた。

 ベスターではない奴が殺めたようだ。

 

 そしてその犯人は、見慣れた色をしていた。

 

「道理で直感が騒いでいたのか」

「ガウ」

 

 超直感は前世で会った人物との邂逅を予知していたらしいな。そうか、こいつはここであの目を得たのか。

 見覚えのある藍色をした憎き沢田綱吉の守護者――六道骸。

 

 六道骸は愛用の槍を俺に向けながら前世でよく見た、人を見下すような笑みを浮かべていた。無表情を貫く弟子とは正反対に笑顔を保ち、気色悪い鳴き声を上げた。

 

「クフフ、やはりマフィアは汚いものです。僕が消さなければいけない」

「マフィアが汚いのは常識だ、ドカス。だが、カス共をカッ消すのはテメェじゃねぇ……俺だ」

「マフィアだというのに、マフィアを消すのですか?クフフ、つまらない冗談ですね。そこの獣を改造したのはあなたでしょう、その獣は明らかに普通の獣ではない……」

 

 蔑むように見られるのは心外だ。そして久しぶりの「クフフ」は聞いていてストレスが湧いてくる。

 それ以上にムカつくのは、ベスターが改造されたと勝手に決めつけていることだ。改造された奴が強いなんて誰が決めた?

 

「ベスターは改造されていねぇ。こいつは改造なんて簡単にやらせてくれるほど甘くはない。テメェの価値観や常識を俺達に押し付けんじゃねぇ、虫唾が走る」

 

 俺はベスターが改造されたとは思ったことはない。だがカスチビ達は疑っていた。

 そしてそのために、ベスターは健康診断を受けた。

 その結果は白。ベスターの身体にはメスの跡すら残っておらず、実験施設にいただけであったことがわかった。検査はされていたがそのデータは俺がカッ消した。故に実験施設にいただけだとカスチビに言ったが奴はまだ信じなかった。

 そんなカスチビがベスターの記憶を調べた所、ベスターはカス共がライガーをつくるためだけにライオンと虎を交配させて生まれたことがわかった。酷い扱い、それこそ身体を弄る系統は一切なかった。

 奴らはベスターを「秘密兵器」と称していたが、それはベスターを検査した上で異常な数値が出ていたから期待していたのかもしれない。奴らのデータを見てみたが、ベスターの能力はかなり高かった。ライガーに期待していたのだろうが……まさかベスターが隠し技を持っていたとは思わなかったんだろう。

 

 そんなわけで、ベスターが改造されたとかいう六道骸の妄想は妄想止まりだと言うことだ。

 根拠もないのに論じるんじゃねぇ、と言っておく。

 

「それに俺はマフィアじゃねぇ」

「僕がそれを信じるとでも?」

 

 信じろって言ってねぇよドカス。俺はただ勝手に勘違いされているのを訂正しただけだ。信じてくださいと頼んでるわけじゃねぇ。

 挑発しているのか?俺を怒らせたいのか?

 

 警戒心をあらわに奴は俺を睨んでいる。その右目には「一」と描かれていて、奴が幻術を繰り出してくることが予想できた。逃げるのかそれとも攻撃するのか。

 それを考える前に、奴は先に告げた。

 

「マフィアは僕の手で始末します。覚悟、うぁっ!?」

 

 奴が俺を敵認定し槍を地面に突き刺す前にベスターが動いた。

 六道骸の顔に飛び掛かったベスターは、そのまま奴の身体を抑えつけた。奴の手から槍を奪い取り、俺の方に寄越した。

 

 飛んできた槍を受け取り、じっくりと観察してみる。思えば、こいつの武器をこうしてじっくり見るのは初めてだ。

 奴が復讐者の世話になることも踏まえて情報でも集めるか。まあ、大して役に立たないだろうがな。

 

「有幻覚だな。マーモンが言うには人間道には死ぬ気の炎が灯っているとか……だから有幻覚か」

 

 奴の右目自体に死ぬ気の炎が灯っているため、右目でつくった奴の槍は有幻覚となる……つまり実体を持つ。突き刺して血が出るのは幻覚ではなく実体があるから。

 なるほど、確かに厄介だ。特に今の時代では死ぬ気の炎がボンゴレの血筋にしか灯せないと言われているからな。

 

「ガゥッ!」

「あ?ああ、こいつを動けないようにしたのか。別に解放しても構わねぇ……もう帰るからな」

 

 妙に六道骸が静かだと思っていたら、なんと石化していた。俺が始末しても良いように石化させていたようだ。

 ベスターに元に戻させ、口を開きかけた奴を踏みつけ、殴り、叩きつける。俺に恨みを抱こうが構わねぇ。俺も嫌いだからな。

 これが俗にいう「お相子」だとその言葉の使い方も知らないカスチビに教えてやりたい。

 

 六道骸の閉じられた目を見てふと思った。

 確か、こいつは自分の目が前世云々とかほざいていたが何も覚えてねぇじゃねぇか。前世の記憶が云々言ってるなら俺のことはわかるはずだが結局戯言を吐いていたのか。それとも六道輪廻とやらは地獄の記憶しか残らねぇのか?

 分野違いの問いは俺では答えを見つけることはできないだろう。結局はわからないままか。

 

 まあいい、重要なのは過去ではなく今だからな。

 

「ただの実験体如きには手は出さねぇ、カスガキ共。それほどカッ消されてぇならマフィアどもを殺せばいい。そうすれば、俺がテメェ等をカッ消してやる」

 

 聞こえていないだろうが警告はしてやる。奴の近くにいたガキ共は聞こえていただろうがな……隠れていてもバレバレだ。

 

 ベスターを伴い、アジトを脱出する。

 後始末に決別の一撃(コルポ・ダッディオ)を放ち、アジトを崩壊させる。これで奴等が生きていないようなら、所詮そこまでだということだ……まあ、前世のことを考えると生きているだろうが。

 

 アジト跡地へは目を向けず、リストから次の名前を探す。

 

「またロシアか」

「ガウ~」

 

 俺の考えとシンクロしたらしいベスターは面倒臭そうに鳴いた。


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