憤怒の暴君、転生する 作:鯱丸
ベスターを伴って復讐者の牢獄、の近くにある俺の家に帰った。便利なことに夜空の炎を使えば一瞬で戻ることができる。ヴァリアークオリティより移動速度が速い。
ということは、だ。ヴァリアークオリティは実はそれほど大したものではないのか。
ヴァリアーも所詮は人間ということだな。前世のことだから関係ないので好きなだけ貶せるのは良いのか悪いのか。俺にもよくわからん。
「やあ」
ベスターが先程から俺を見上げて何かを言いたげに唸っている。肉が欲しいのだろうか。そういえば、今日はまだ肉をあげていない。
「ねぇ」
さて、ベスターが肉を欲しがっているかもしれないのでイェーガーでも呼んで来よう。奴が出られないのなら「情けない」とか「ハッ、それくらいもできねぇのか」とか言ってやる。そうすれば自ずと奴は動く。
「ちょっと、無視しないでよ」
おいベスター。お前は肉の焼き加減は何が良い?レアか?
「ガゥガゥ」
「あ?ミディアムだと?」
「ガゥ」
ふむ。ミディアムか、良いチョイスだな。そこら辺に立っているイェーガーに命令しておくか。
「おい、イェーガー。ミディアムとウェルダンの肉を持ってこい」
「その前にバミューダに気付け」
肩に乗るカスチビを指しながら奴は言った。カスチビと目が合えば奴は俺の肩に乗ってきた。炎を回復しているのはわかるのだが、恨めしげに叩くのはやめやがれ。痛くはないがイラつく。
あと、カスチビに気付いてはいた。知らない振りをしていただけだ。
カスチビ達にそう言ってみたら、カスチビは不機嫌になった。俺の頭によじ登って叩いてくるのだが、俺をイラつかせたいだけなのか。正直言って痛くない。だが、腸が煮え繰り返る。
「僕をこれほどまでにおちょくる存在は君が初めてだよ!!」
「チェッカーフェイスはどうした?アイツもテメェをおちょくっていただろうが」
「ああ言えばこう言う。君はホントに僕をおちょくるのが好きだね」
「否定はしない」
「否定してよ!!」
カスチビを馬鹿にするのはつまらないが暇つぶしには丁度いい。暇つぶし、といえば今ここで暇そうにしているイェーガーにでも命令するか。カスチビが俺の頭の上にいるので暇らしい。こいつの仕事はバミューダの椅子なのか?
「肉を持ってこい」
「承知した」
「って、イェーガー君!?なんで彼の命令に従うの!?」
カスチビが俺の頭の上から声をかけるがすでに遅い。イェーガーは俺の命令を果たすべく肉屋に向かっていた。無論、夜空の炎でだ。行動力の速さは流石復讐者と言ったところか。
前世の代理戦争でもあいつらは強引に参加した夜から闇討ちしているからな。行動力の速さはどこの平行世界でも共通らしい。
イェーガーが来るまで時間が少しかかるだろう。その間にベスターにこのカスチビの存在を認識させておく。
勿論、敵としてだ。
「ベスター、こいつがカスチビだ。ドカスと呼んでやれ」
「ペットに何て事教えてるのさ!」
カスチビはさり気なくベスターを蔑んだ。こいつがただのペットだと?寝言も大概にしやがれ。こいつのどこがペットなんだ?愛玩動物に見えるか?テメェの目は節穴か?ああ、包帯巻いているせいで何も見えないか。馬鹿なんだな、そうなんだろう。
「……なんか今、心にナイフが刺さった気がする。長年輝いていた僕の純粋なハートにひびが入った気がするんだけど」
「純粋なハート……」
「ちょっと、そこだけ繰り返さないでよ。冗談のつもりで言ったのに、そんな可哀相なものを見る目で見ないでよ!」
冗談だと?俺に冗談を言う、だと?カスチビは平然と俺に冗談を言っていて、しかも後悔していないようだ。
慌てたように両手を振っているが、それは自分が馬鹿だと思われているから慌てているだけだ。その行為が俺に冗談を言ったことを後悔しているようには見えない。
いいだろう、カッ消してやる。
「テメェは自己紹介もできないのか。これだからドカスは……」
「なんでできない子を咎める母親みたいな目をしているのさ!!僕だって自己紹介はできるよ、僕を何歳だと思ってるんだい!?」
「こういうときは精神年齢破綻者であることを自慢するのか。精神年齢が百オーバーと言ったら怒る癖に」
「ああ、もう!どうして君と話すとこんなにイラつくんだ!」
「奇遇だな。俺もそう思っているところだ」
カスチビは地団太を踏んで怒りの声を上げた。おい、お前、俺の頭を踏んでるが俺が何とも思っていないと思うなよ。
「なんで僕はこんなのを復讐者に入れたんだ!過去の僕の、バカァー!!」
「ベスター、やれ」
隙を晒しているカスチビ。今ならカッ消せる。
ベスターは口を大きく開けて咆哮した。
「ガオオオォォオ!」
「え、ちょ何今の!?」
チッ、外したか。
「僕が炎を使わなかったらどうしたのさ!」
「諸手を上げて喜んだ」
「ムキーッ!」
カスチビはどこからか持って来たハンカチを噛み締めて俺を睨みつけてくる。どこかのカスの真似でもしているのだろうか。何故にハンカチ。
悔しげに睨んでいるが、俺も悔しかったりする。折角のチャンスだったところだが奴に逃げられたからな。気に喰わないが夜空の炎は調和の力より速いらしい。まあ、そうだろうが。
全くムカつくカスチビだ。
カスチビの速さは俺も認めたくはないが認めている。ベスターは俺の命令が遂行できなかったと落ち込んでいるが、俺も追いつけないので責めることはしない。カスチビに攻撃ができないことは薄々感じていたからな。
「ガゥ……」
「落ち込むなベスター。次、あいつをカッ消せば良いだけだ」
「ガォ!」
「何この連係プレー。仲間外れすぎて僕は泣きたい」
嘘泣きをしているカスチビが目に余るので炎を投げる。避けられるのはいつものことだ。カス鮫のように甘んじて受け止めてくれていたら良いものを……。
イェーガーが肉を抱えて帰って来たので場所を移動する。
カスチビがイェーガーと言い合いしているのを横目に俺達は肉を食う。あいつら、仲が良いかと思えばそうでもないんだな。
そう言ってみれば、何故かカスチビにわさびを投げられた。
「君が全ての原因なんだよ!」
俗にいう逆ギレをしてきたのでわさびを投げ返した。わさびは肉に合わないからな。ベスターが物欲しそうにわさびを見ていたが、ネコ科にわさびは食えるのか?
涙目になると王者の風格が失われるのでわさびはあげなかった。
イェーガーに焼肉のたれを渡されたのでそれを漬けながら食べることにする。ちなみに焼肉のたれは日本製だった。あいつらは一瞬の間に日本のスーパーに駆けこんだのだろうか。笑えないな。
肉を食いながら奴らの言い争いに耳を傾ける。
「納得がいかないよ!なんで彼の命令にも従うんだい!!」
「バミューダの命令は退屈だ」
「退屈!?君は肉を買うのが退屈ではないと言いたいのかい!?」
「いかにも。肉を買いに行く、それはすなわち冒険……昔を思い出すな」
「肉を買うことで君達は冒険をしていると言いたいの!?君達のやること成すこと、全部理解できないよ!」
こいつらは仲が良いのではないのだろうか。この言い争いの内容を聞いて疑問に思う。くだらない言い合いをするほど仲が良いのか。それとも目的のために付き合っているだけなので仲の良し悪しは関係ないのか。
前世では普通に仲間意識があった筈なんだが。パラレルワールドというのはこういう所でも些細な違いがあるのだな。
「ガゥ」
ベスターが一声鳴いた。おかわりか。
「おい、イェーガー。肉だ」
「ジャックにでも買いに行かせよう」
顔だけ俺の方を見たイェーガーはジャックとか言う復讐者を呼んで指示を飛ばした。ジャックとかいう奴、いたか?あいつらは顔を隠しているからどいつもこいつも同じ奴にしか見えねえ。
肉と一緒に置かれていた酒を飲みながら、ベスターの相手をしてやる。何故か酒の隣にねこじゃらしがあったのでベスターの目の前で振ってやる。
「ガウッ♪」
忙しそうに飛びついたり床を転がるベスター。ライガーではなくてただのネコだ。顔の近くで振るのが飽きたので遠くに投げればベスターは犬のように追いかけて行った。
遠くまで転がるベスターを酒を飲みながら見ていると、バミューダが疲れたように俺の目の前に座った。疲れたようにといっても奴の顔は包帯で巻かれているので雰囲気や直感でしかわからないがな。
結構わかりやすいと思ってしまう辺り、否応なく付き合いの長さを悟ってしまう。こんなカスのこと理解したくないのだが。
イェーガーの姿がないが、どこかに冒険にでも出かけたのだろうか。ジャックとか言う奴が買い物に出かけているからイェーガーも買い物というのは考えられないのだがな。まあいい、肉が来ればどこ行っても構わねぇ。
「そういえば君、自分の誕生日にベスター君と会ったんだね。前世の自分からのプレゼントかな」
「俺とベスターが会った日を知っているとは、テメェ、ストーカーだな」
「何言ってるんだい!?僕が知っているのは君達の噂が流れてきたのが丁度、君の誕生日だったからだよ!」
「そもそも俺の誕生日を知っている時点でストーカーだな」
俺はカスチビに誕生日を教えた覚えはない。付き合いは長いが俺達は誕生日が云々言うような歳でもない。そういうのに拘るのはガキだからな。
ストーカーと三回ほど連呼すればカスチビにキレられた。
「折角君に誕生プレゼントを渡そうと思ったのに!欲しくないのかい!?」
「知り合って数年は経つのに今更渡すのか。気色悪いな」
「余計なひと言だよ!チクショウ、これを受け取って僕に感謝するがいい!」
捨て台詞を言うと同時に奴は箱を投げ渡した。ご丁寧にリボンまで付けやがって。贈り物にリボンなんざ付けんじゃねえ。気色悪いぞカスチビ。
今更誕生日プレゼントとは、明らかに何かを企んでいる。俺のご機嫌取りをして、何をしたいのだろうか?
「ほら、開けてみなよ」
「……これは」
仕方なく奴に従ってプレゼントを開ける。
前世の俺の武器が、中に入っていた。
態々俺の前世の武器をオーダーメイドしたのか?こいつ等、やはり何か企んでいるな。
「そんな目で見ないでよ、これは純粋な気持ちだ。君と僕は友達じゃないか」
「あ?」
「………お前何言ってんだ、みたいな眼差しはやめて。心が痛い」
友達?俺とお前が?
馬鹿じゃねぇのか。このカスチビ、意味の解らないことを連呼して……ついに復讐心に囚われて気が狂ったのか?
友達なんて言葉ほどくだらねぇものはねぇ。世の中は利益と打算で出来ている。無償の愛、友情なんてあるが訳ねぇ。それは全て自分の思い込みと押し付けと偽善だ。
俺が論じてみると、奴は当然のことのように反論した。
「それは君が愛を知らないからだろ」
なら、それを言うお前は愛を知っているのか?復讐者であるこいつが、復讐心以外を持っていることが驚きだな。俺からすればこいつは絶対に愛を知らないと思っていたんだが。
まあいい、こいつの事情はどうでもいいからな。
「そうそう。その銃、好きにしていいから。じゃあね」
そう言うと奴は黒い炎と共に消えた。別の場所に用事でもあるのか?あいつが外を出歩くのはあまり見ないのだが。どうでもいいか。
別に奴が個人的に肉を買いたくてイェーガーを追いかけていたとしてもどうでもいい。
プレゼントの箱に銃以外の何かが入っていたので、取り出す。俺の前世の話を聞いて準備したのなら、当然アレも入っている筈だ。
「チッ、死ぬ気弾か」
やはり入れて来たか。ボンゴレ秘蔵の銃弾、死ぬ気弾。
死ぬ気弾まで用意するとは連中め、何を企んでいる?ボンゴレ秘蔵だぞ、秘蔵。つまり奴らはボンゴレから製造法もしくは既製品を盗んだことになる。奴らがボンゴレ相手に商売するとは思えないしな。
奴らがそこまでして俺の機嫌取りをするとは、余程マフィアに渡したくないようだな。それとも、前世の記憶を持ち奴らの秘密を握る俺は奴らの監視下に置くべき存在だということか。
気に入らねぇ。今直ぐにでも抜け出したい所だが、メリットとデメリットを秤にかけるとメリットにどうしても傾くため動けない。奴らの炎の利便性は言うまでもなく高いのだから。
「炎……か」
奴らに敵対するなら、相応の実力が必要になってくる。復讐者を抜けるとしても奴らを出し抜かなければ意味はない。夜空の炎を実際に使って見てその情報を集め、奴らに対抗する術を探さねぇとな。
あのカスチビが俺を利用するというのなら、こちらも利用すれば良い。そもそも、俺は容易く利用されるほど御しやすい奴でもない。
「俺を甘く見ていると後悔するぞカスチビ」
まずは奴の下で情報収集と鍛錬を重ねるのみだ。奴に一発喰らわせなきゃ気が済まねぇ。
今は奴に下ってやっているがいずれは革命を起こす――――復讐者のトップになるのは俺だ。