憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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7 導かれた憤怒の主従

 昨日はBBQを中断してカスチビと戦った。忌々しいことにあのカスチビをカッ消すことはできなかった。それでもいつの間にか実力は付いていたらしく、あのカスチビと同等には殺りあえた。

 

 あいつ等の夜の炎を使うと、戦いやすくなるな。これからも使いたいのでもう暫く復讐者の元にいることにする。

 

 カスチビにそう言ってみれば、奴はムカつく返し方をしてきた。キャッチボールで言うなら変化球だ。

 

「ツンデレだね。本当は僕とお喋りしたくて残ってるんでしょ」

「いや、高級な肉があるからだ」

「それが本音!?」

 

 高級な肉が無償で提供されるならそれに越したことはねぇ。高級な肉は買いに行くもんじゃねぇ、奪うものだ。

 

 買いに行くのが面倒というわけではない。買いに行かせることで肉の味が増す、というのは前世で知ったことだ。農家でも言うだろう、苦労して作った自分の野菜は美味いとな。

 

 俺の場合は他人が苦労して得たものを奪って食べると、美味さがより感じられるというだけだ。残念ながら復讐者は苦労して肉を得ている訳ではないので美味さが半減しちまってるがな。

 

「おかしいな。肉って新鮮さとか良い牛を使ってるかどうかとかで味は決まらない?なんで人を使ったら美味しくなるの?あれ、僕がおかしいの?」

 

 鬱陶しい程の疑問符をつける奴に炎を一発お見舞いしておく。勿論奴が簡単に炎に当たるわけもなく、炎も使わずに逃げられた。

 

 チッ。

 

「そんな露骨に舌打ちしないでよ。君みたいな暴れん坊の話し相手ってだけで貴重な存在なんだよ、僕は」

「フンッ、テメェの存在価値は俺の話し相手か。テメェも堕ちたもんだな」

「……なんだろう、上から目線で君を諭したのに逆に僕が貶められているような感じがするんだけど……」

 

 何気なく言った言葉だが奴にダメージを与えたようだ。奴は地面に手をついては頭を垂れている。

 

 隙を晒しているので炎を投げるがやはり躱された。項垂れたままでも避けれるのは夜空の炎で逃げているからだ。こうして見てみるとこいつらの炎は実に便利だ。

 

 炎を避けた奴は絶望ポーズをやめて立ち上がった。服を叩きながらついてもいない埃を落としている。

 

 やれやれ、と言いたげに腕を広げたカスチビはため息交じりに俺に言った。

 

「ふぅ、君と話していると疲れるよ」

「俺もだ」

 

 このカスチビ、沢田綱吉みてぇでカッ消したくなる。これ以上視界に入れていたら怒りの爆発(スコッピオ・ディーラ)を出しそうだ。こいつ以上の視界の暴力を見たことは幾度もあるが、こいつも中々の視界の暴力だ。

 

 暫くは顔も見たくねぇ、カスマフィア共をカッ消しに行くか。

 

「暫くはテメェの顔が見たくねぇ。リストを渡せ」

「あ、うん……そこまで言われると落ち込むな。ほら、リスト」

 

 落ち込んでいる、と言っている割には平気そうな顔をしているがな。オーバーリアクションが過ぎんだよカスチビ。

 

 リストを受け取り、今回も聞いた覚えのないファミリーばかりだとため息を吐く。有名どころだと、骨のある奴もたまにいるから良いんだが、ただの雑魚マフィアだとカスのより取り見取りだ。またの名をカスバーゲンという。

 

「一ヶ月は来ねぇ」

「じゃあ、炎はあまり使わないようにね」

「俺に指図すんな」

 

 一々煩いカスチビに炎を投げてから夜空の炎で移動する。チラリと見たが今回も奴は避けていた。残念だが機会はまた来るだろう。

 

 

 炎で移動した場所はイタリアではなくロシア。今まではイタリアにいるカス共をカッ消していたが、今回から場所が変わった。

 

 カスチビ曰く、

「イタリア産の汚物は消毒したから綺麗だ」

とのことらしい。

 

 回りくどいカスチビの説明をわかりやすくすればこうなる。

 

 要は、イタリアに巣食っていたカスマフィアは俺が駆逐もとい消毒したということだ。例えて言うならイタリアを拠点とするカスマフィアは絶滅したかもしくは絶滅危惧種だろうか。

 

 こんなもんで絶滅危惧種を名乗っては動物愛護団体とやらに非難されそうだな。言葉の絢だが。

 

 

 こうして俺はロシアで任務を行うことになったわけだが。最近ではロシアンマフィアの方もカス度が上がっているようだ。イタリアンに負けたくないのか。それとも単にそういう奴らが多いのかは知らないがな。

 

 どちらにせよ、カスであることには変わりはねぇ。

 

 

 決別の一撃(コルポ・ダッディオ)でアジトを破壊し、生き残りをカッ消す。

 

 ボンゴレに所属していないせいで、俺は未だに武器が無い。死ぬ気弾はボンゴレが製造しているからな。ボンゴレでもねぇ俺が得られる訳ねぇ。

 

 前に一度、製造法を盗みに行くと言った俺をカスチビは懸命に止めた。復讐者を五人ほど出したほどだ……チッ、あの時止めなければ武器があったものを。余計なことしやがってあのカスが。

 

 

 不意に、俺の勘がこのアジトに何かがあることを訴えた。超直感らしい俺の勘は、自覚すると前世の時よりも鋭い直感となった。

 

 その勘が、俺に何かを訴えているとすればこいつ等は何かをやらかしたんだろう。生き残りをカッ消すついでに見てやろう。奴ら曰く「面白い」実験の結果でも直感したのだろうか。

 

 こればかりは直接確認しなければいけねぇが……嫌な予感はしないので俺の命に危険な代物ではないようだ。それならどうでもいい。

 

「うわあああ!イタリアにしか出ないはずの死神が!!」

「ぎゃあああ」

「フンッ、誰がイタリアにしかいないと言った?」

 

 カス野郎め。誰が俺がイタリアにしか出ないと言った?俺は言ってない。どうせ、カス共の願望だろう。

 

 俺がロシアに来なかったのは、今までのリストに載っていたファミリーが全部イタリアンマフィアばかりだっただけだ。ロシアンマフィアが含まれるのなら、これからはロシアを中心に活動するがな。

 

 崩壊したアジトを渡り歩いて、そこら辺にいたカス共をカッ消す。何やら地下に逃げるカス共がいたが、恐らく地下に逃げ道でもあるんだろう。

 

 愚かなカスだ……地下に逃げ場があったとしても、俺が逃がすわけがない。どこにでも姿を現せられるカスチビの夜空の炎があれば逃げ道など意味を成さない。

 

 獲物を追い詰めるように、奴らの背後を歩く。恐怖に身体を震わせて死を背後に感じる奴らは俺を見ては先の見えない道を逃げ続ける。

 

「逃げろ!地下に逃げれば死神も殺せる!!」

 

 つまらない追いかけっこは僅か五分で片付いた。逃げる気を失ったわけではなく戦う気であるらしいカス共は「秘密兵器」を繰り出した。

 

 カスチビのリスト入りするマフィア共は人体実験など非道と認められることを行うマフィアだ。ここでいう「秘密兵器」は無論、奴らの行為によって作り出された哀れな実験体だ。

 

「覚悟しろ死神!」

「コイツがいればお前も一撃だ!」

 

 実験体如きで俺を殺せると思っているらしいカス共。奴らが豪語しながら引きずったのは、一匹の獣。

 

 頑丈な首輪に鎖が締められているが堂々としていて、その目はまさに誇り高い王者。見覚えのある血の色。

 

 こいつ……まさか……。

 

「ベスター?」

「ガォオオオ!!!」

 

 俺の呟きに反応したのか、ベスターが鳴き声を上げる。すると、その場にいたカス共が全員石になった。

 

 とりあえず、カス共は全員炎でカッ消す。これでカス共は一掃した。気配を確認しても認識できる気配はない。

 

 俺の勘はベスターがいることを伝えたかったようだ。それなら嫌な予感がしないだろう。ベスターは前世から俺の傍にいたからな、危険な存在なわけがない……ここにいるのが不可解だが。

 

 こいつは匣兵器じゃねぇのか?

 

「ガウ」

 

 地面に座って俺を見上げるベスターには、前世では俺が決してつけなかった首輪や鎖が着けられていた。誰かの所有物のように示されていては不愉快だ。

 

 ベスターは俺のモンだ。それにここにはもう誰もいないしな。俺が所有したところで文句を言う奴はいない。

 

 ベスターを縛り付けていた全てのものをカス一つ残さず消した。これで自由だ、ベスター。

 

「ガルル」

「お前は匣兵器……ではないな。匣兵器なら所有者がいなくなった時点で匣に戻っているだろうしな」

 

 となると、ベスターは匣兵器だというのにただの動物に生まれ変わったのか。聞いたことがねぇ。だが、俺だって転生している。

 

「俺の前に来たということは俺についてくるんだな、ベスター」

「ガウ!」

 

 言葉は話さないが長年の経験で何を言いたいのかはわかる。前世の所有者を未だに主と認めているらしいベスターは今生でも俺に付いていくようだ。

 

 良いだろうベスター。これも何かの縁だというなら、連れて行くのも悪くない。これがどこかのカスだったりしたら違っただろうが、こいつは俺の匣兵器だったからな。

 

 匣兵器だったのは過去のことで今のこいつは匣兵器じゃねぇ。形態変化を望むこともできないのは痛手か。

 

 もっとも、今の俺は銃すら持ってないからどちらにせよ無理だろうがな。ベスターが形態変化できたとしても武器が無ければ意味を成さない。ボンゴレではないことが悔やまれる、とまではいかないが不便であることは否定できない。

 

 だが思えば、匣兵器時代と同様な技を使えるベスターがいればそれほど心配はいらないか。これで憤怒の炎を一発撃つだけで余計なカス共をカッ消せるな。ベスターを使って石で固め、炎でカッ消す。ツーステップで完成する完全犯罪だ。

 

 これならカス共を一掃する際も余計な力を使わずに済みそうだ。

 

「行くぞ、ベスター」

「ガウッ!!」

 

……

……

 

 

 あれから俺はベスターと共にリストに載るカス共を次々とカッ消していった。ベスターを連れていたからか、ロシアでは「猛獣使い」とも呼ばれるようになった。

 

 一頭しか使ってねぇぞ。文法一回勉強して来いドカスが。

 

 国語力がないカス共の付けた「猛獣使い」という呼び名の俺と共に戦うベスターは「死神の猛獣」と呼ばれるようになった。

 

 最近はベスターだけで殲滅を任せるときもあるからな。マフィア共のベスターに対する認知度は高まってきているとみていいだろう。

 

 認知度が高まってきていることに関しては不満はない。認知度と恐れは比例関係だ。どちらかが上がるともう片方も上がる。

 

 不満点はただひとつ、ベスターの呼び名が気に喰わないことだけだ。

 

 猛獣と言う定義には「大型で獰猛な、基本的には捕食性の肉食の哺乳類」というのがある。ベスターはそれには当てはまっているが「猛獣」なんてどこの強そうな動物にはつけられている名称だ。このことから奴らの語彙力がないことがわかる。

 

 ベスターにそんな、ありふれた平凡な呼び名が似合うわけがない。もっと聞いた者を恐怖に落とすような、そんな名前が相応しい。

 

 

「ガォオオオオ!!!」

「カッ消えろ!!」

 

 そして今日も、俺達は一つのマフィアをカッ消した。

 

 

 五分前まではそこに存在していた建築物は既にない。姿を隠したわけではなく、その存在ごと消し去られただけだ。

 

 跡でも残っていたら後に「昔のマフィアの基地」として認知されていたかもしれない。だがこの基地は認知される以前に跡形もなく炎によって分解され、過去の栄光ごと葬られた。

 

 ドカス共は愚かだ。人体実験と言う、カスチビ達が目に付けることに手を付けたからな。人体実験に手を付ける奴らの気が知れない。一体どのような夢を掲げて奴らはその道へ行ったのか。

 

 殺しには染まっても人体実験だけには手をつけなかった俺にはわからないがな。わかったところで俺の興味を惹くものはないだろう。

 

「ガゥ」

 

 引っ張られる感覚に下を見下ろす。ベスターが服の裾を引っ張っていた。こういうときは大抵、何かを言いたい時だが……恐らく、早く帰るぞとでも言いたいのだろう。

 

 ベスターの要望もあることだ、そろそろ帰るか。カス共をカッ消すまで泊まっていたホテルではなく復讐者の牢獄近隣にある俺の家に。

 

 カスチビの所に「帰る」と称するのは癪だが、俺にとっての家はあそこしかない。俺が生まれた家なんざ、自分でカッ消したからな。

 

 認めるのも嫌だが一応俺の家はあそこだ。リストに載っているカス共も消したことだし、そろそろ帰ってリストを更新させなければならない。

 

 俺がベスターを連れていることはロシアンマフィアでは有名だ。それを奴ら――カスチビ共が知らない筈がない。

 

 だとすれば、早く向かわなければあのカスチビが自分からやって来そうだ。あいつが来ると鬱陶しいからな、それよりかは自分から来た方がマシだ。

 

 俺に余計な手間を掛けさせやがって。やはりあのカスチビ、いつかカッ消す。

 

 ベスター、覚えておけ。今から会うカスチビはいつかカッ消すからな。

 


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