憤怒の暴君、転生する 作:鯱丸
ヴァリアーのボスにXANXUSという名を名乗る女がなってから数ヶ月が経った。女はクーデターを起こし、ボンゴレの監視下に置かれたらしい。
だが、この様子だと俺と同じような目に遭っている可能性が高いな。だからと言って、同情する気はねぇが。俺の場合は兎も角、女も娘ではないと知ってクーデターを起こしたのだろうか。不可解だが俺に知る術は無い。
俺はボンゴレとは関与することもなく、カスマフィアを次々とカッ消していった。カスチビが言うには、俺のことはボンゴレでさえも恐れているという。フンッ、それは気分が良いな。
「最近は君をヴァリアーの新しいボスに入れるのはどうかって話があるみたいだよ」
「ふざけてんのか?」
「いや、僕に言わないでよ。それはボンゴレに直訴しなよ」
「あいつ等とは顔も合わせたくねぇ」
「全く、一体どんな因縁があるんだい」
バミューダが「調べても全く出てこないよ」と溜息と共に吐かれた言葉に「当然だ」と答える。当たり前だ、前世の話を調べられたらそれこそ驚きだ。
大空のアルコバレーノならわかりそうだがな。確か、未来を見ることができるんだったか?未来どころか過去すらも見ることが出来そうだな。
「僕としても君がマフィアに行ってしまっては困る。だけどその様子だと心配はいらないようだね」
「フンッ、ボンゴレが接触しようとするならカッ消すまでだ」
「ちょっと待ってよ、ボンゴレは掟を犯していないから消せない。逆に消してしまったら僕達の責任になる」
「知るか」
「また三文字で終わらせた!」
カスチビが何や喚いているが、視線を外してあらぬ方向を向く。ったく、こいつは相変わらずうるさい。一度くらい殴り飛ばしてカッ消して土下座させたいが、まだ勝てないだろう。伊達に何百年も生きていないからな、この赤ん坊。
こいつと戦うことになろうとも、ボンゴレが俺に接触してきたらカッ消す。俺を止められる奴はそれこそ存在しねぇ。カスチビが何を言おうと、俺は止まらねぇ。
実力の差があろうと歯向かうのは当然だ。俺の辞書に諦めという言葉と従うという言葉はない。
「君は本当に暴君だ、復讐者の中でも随一だね」
「テメェらに暴君も何もあんのか。生きた屍が」
「だから何で君、知ってるの?今日こそはその訳、話してよね」
逃がさないよ、と奴は背後に鎖を持った配下を出現させる。配下の復讐者達が俺を心なしか睨んでいる気がしなくもない。
こいつらが周りにいようと、全員が武器を持っていたとしても何も言うつもりはねぇ。今は話したい気分じゃねぇからな。
そういえば、最近肉を食っていない。別に復讐者が全員ベジタリアンだからというわけではない。そもそも奴らは食わないと思う。
俺が肉を食べていない理由は、単に買っていないからだ。俺はわざわざ自分で買いに行くという性格をしていない。つまり、誰かに買いに行ってもらわないと俺は肉が食えない。
めんどくさがりや?なんとでも言え。
俺が何のために自分の金で肉を買いに行かねぇといけないんだ。貢げばいいんだ、肉を貢げ。ということなので、カスチビに肉を所望してみる。
「そんなに話させたきゃ肉持ってこい。無論、高級肉だ。最近肉食ってねぇ」
俺の言葉に暫し固まっていたバミューダだが、不意に正気に戻って絶叫した。
「……肉ぅう!高級な肉をありったけ持ってこぉおい!」
「…良イノカ、ソレデ」
「…バミューダ…」
配下が呆れたように首を振るのに気付くことなく、カスチビは肉を買ってこいと復讐者達を追い出した。
それから戻ってきた復讐者達は肉を持っていたので、全てを平らげる。久しぶりに旨い肉を食った俺は、機嫌がいいので話してやることにする。
別に最初から肉を出されたら話そうとか思っちゃあいねぇ。話しても良い気分になったから話してやってるだけだ。
「簡単な話だ、前世の記憶って奴だ」
「どこが簡単だよ!難しいじゃないか!」
「俺に前世の記憶があって、死んで生まれ変わったから記憶がある。以上」
「簡潔に纏めすぎだよ!具体的に話して」
我儘すぎるなこのカスチビ、一回カッ消そうか。まあいい、肉を食った俺は機嫌がいいからな。一から全部話してやる。隠すこともないので全部話してやった。
マーモンの代理でこいつ等と戦ったという話をすれば、興味深そうに聞いていた。パラレルワールドといい、自分たちの話は聞きたくなるものらしい。そういえば前世ではあれから復讐者と関わることもなかったな。
「ふぅん…。人の命を奪わず永久におしゃぶりに炎を供給する装置…か」
「信頼できるのか、バミューダ」
「わからない、けどタルボとやらが鍵を握っているのは確かだよ」
俺が肉を食っている合間にも、カスチビは配下の奴らと話し合いをしていた。カスチビの配下の奴らは半信半疑のようだな。カスチビは若干信じているようだな。
俺としてはこいつ等の呪いがどうとか関係ねぇからどうでもいいんだがな。呪いが解けても「そうか」、解けなかったら「ざまぁ」で終わりだ。所詮その程度の間柄だからな。
にしてもこいつ等何も食わねぇ癖に何で肉なんかがあるんだ?囚人どもには高級な肉、食わせねぇだろ。
これは間違いなく高級な肉だ。俺の好物な奴だ。誰に食わせてんだ?トップであるカスチビに尋ねれば、あっさりと答えが返ってきた。
「え?肉は僕が食べてるよ」
「テメェかよ。俺にも出しやがれ」
「た、たまになら良いけど」
「たまに、だと?毎日だ」
「無理だよ!」
無理なんざ言わせねぇ。テメェ等金あるだろ。肉買ってこい。あ?俺に従う気はねぇだと?
俺の言葉に復讐者が言い返してきているのがムカついたので、こちらも言い返してやる。
「テメェ等、カスチビがいなきゃ買い物もできねぇのか?」
俺の言葉に、復讐者達は唖然とした。そんなことない、と誰かが言えば次々と同意を示していく。
その答えに感心したように奴らを見て、「なら、証明して見せろ」と唆せば簡単だ。奴らは俺が誘導している事にも気づかずに、カスチビに申し出た。
「バミューダ無シデモ肉グライ買イニ行ケルコトヲ証明シテミセヨウ」
「ではバミューダ、我々は肉を買いに行く」
「ちょっと、君達!自分が利用されてるのに気付いて!」
復讐者たちは炎に包まれて姿を消した。カスチビが何やら言っているようだが遅い。あいつ等は俺の為の肉を買いに行ったんだ。テメェにはやらねぇ。
暫くして戻ってきた奴らは、肉を持っていた。どこに買いに行っていたのか疑問だが、高級なラム肉だったので良いだろう。
奴らは自分たちは買い物に行けると誇らしげに言っているが、そりゃ当たり前だ。行けねぇ奴はただのカスだ。
「フンッ、施しだ」
「君のじゃないよ、その肉!……頂くけど!」
カスチビに肉を施してやった。どうやらこいつも肉が好きなようだ。肉好きがこうして揃うと争いになりそうだな。だが俺はこいつに勝てる自信はある。肉を懸けた争いなら負ける気がしない。
それから何故だか知らねぇが、カスチビに
「BBQをやらないか」
と言われて断る前に巻き込まれた。二人でバーベキューしたところで楽しくもなんともないだろう……他の復讐者は食べないだろうに。
買い物に行けた復讐者たちを見た他の奴らは、自分たちも肉を買いに行くと揃って姿を消した。負けず嫌いなのかは知らないがこいつらはこういう性格していたのか?敵対していたからわからなかったな。
どこに買いに行っているのか知らねぇが、いずれにせよ目立っていそうだな。肉屋の店主が腰を抜かしている様がありありと思い浮かべることができる。
買い物から帰ってきた奴らは揃いも揃って自分たちは行けたと自慢し、食べねぇ癖に自分たちで調理を始めた。食べない割にこいつ等は調理するのが上手い。
それでも結局肉を食うのは俺とカスチビの二人だ。
「美味しいね」
「久しぶりに旨い肉食ったな」
「君、肉好きの割にいつも野菜食べてたよね」
「安い肉は食わねぇ。高い肉しか食う気がねぇ。安い肉食うなら野菜食った方がマシだ」
「どんだけ安い肉が嫌いなの!?」
安い肉なんざ、カスが食べるものだろ。この俺がカスしか食わねぇものを食う訳がねぇ。安い肉は不味い、何より不味い。一言で不味い、だ。
テメェも高い肉食いやがって…俺の真似すんじゃねぇ、カッ消すぞ。
「それは流石に理不尽だよ!」
「テメェ、沢田綱吉みたいだなって言われねぇか」
「言われないよ!まだ生まれてもない奴に似て堪るか!」
沢田綱吉はもう生まれているぞ、カスチビ。それとも沢田綱吉が生まれていないときにそう言われるわけないと言いたいのか?
何にせよ、このカスチビ…やはり一度カッ消すべきか?肉好きと言い、俺を真似しやがったな。少し偉くなったからといって調子乗ってると痛い目見るぞ。今度ツッコミを入れてみろ、俺は本気でテメェをカッ消す。
「テメェ、今度ツッコミを入れたらカッ消すぞ」
「そんな理不尽なことあって堪るか!」
「ツッコミを入れたな、カッ消す!」
「これで本気出して戦うなんて大人気ないよ、前世分の歳を重ねた癖に!」
「うるせぇ、精神年齢破綻者」
「失礼な!」
結局BBQどころではなくなった。俺達が戦い始めたからだ。復讐達が影を背負いながらとぼとぼと片づけをしているが知るか。
あいつらが俺の知る復讐者ではない気がするんだが気のせいか?