憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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5 もう一人の暴君

 あれから数年が経った。

 

 今の俺は16歳――前世ではクーデターを起こした年齢になった。俺のいないボンゴレはクーデターは起こらないだろう。大体、俺がいなかったら誰がクーデターを起こす?

 

 

 今の所ボンゴレとは関わらずに済んでいる。ボンゴレが殲滅対象になることはまず無いからな。

 

 更に付け加えれば、顔バレしていないので捜索される心配もない。

 

 復讐者といえば黒服と包帯だろう。そう、バミューダは俺にそれらを身に着けろと押し付けてきた。

 

 互いに炎を出しながらの睨み合いから始まり、最終的にじゃんけんで勝敗を決めた。

 

 

 覚えているだろうか。俺はボンゴレの血を継いでいる。つまり、超直感が備わっているということを。

 

 

 じゃんけんで勝利した俺は、当初は着ないと言って返した。だが、偶々全員が揃って話し合いをした際にどうしても目立った。

 

 俺としては構わなかったが、復讐者達に着ろと強引に包帯を巻かれた。一致団結した奴らに、俺は為す術もなく為されるがままだった。

 

 逃げようとしても炎はバミューダに回収された。カッ消そうとすればイェーガーに抑えられた。

 

 奴らに抑えられている間に俺は顔に包帯を巻かれ、上から黒のカスマントを被せられた。こうして俺は、外見だけ復讐者になった。

 

 

 どう見ても外見上は復讐者の俺は、他の奴らにも復讐者だと認識された。

 

 

 マフィア界で広まった俺の異名。それは「復讐者の死神」というありきたりな、俺からすると不愉快極まりない異名であった。

 

 カスが付けるカスな名前が俺の異名らしい。

 

 

 ふざけんな、カッ消すぞ――と思っても仕方がないだろう。異名を広めたファミリーをカッ消そうと暴れた俺はイェーガーによって再び抑えられた。

 

 気にくわないが、イェーガーが俺より強いのは明らかだ。

 

 強くなってイェーガーを先にカッ消さねぇとな。そうすれば復讐者の最高戦力が減るが――俺には関係ない。

 

 

 あれからリストを10回ぐらい更新させている。一つのリストに50のファミリーの名前が載っている。ということは、俺は500のファミリーカッ消したことになる。

 

 500のマフィアを数年でカッ消している。にもかかわらず、マフィアの数は年々増している。思えばマフィアがどうつくられているのか考えたことがないな。

 

 ボンゴレは自警団からだったが、それは例外の中の例外。他のマフィアはどうだろうか。

 

 

「ほら、これで11枚目だよ。君の活躍にはこちらも感謝している」

「フン、カッ消せればどうでもいい」

「恥ずかしいからお礼はいらない、と解釈しておくよ」

「カッ消すぞこのドカスチビ」

「やめてよ、僕が悪かった。君をツンデレフィルターに適用できると思った僕が悪かった」

 

 口が減らないこのカスチビは肩を竦めて「めんごー」と詫びた。テメェ謝罪する気ないだろ。

 

 ツンデレフィルターってのは何だ。

 

 大体そんな枠組みに俺を入れようとすんじゃねぇ。カッ消すぞこのカスチビ。雇い主だろうが何だろうがイラつくやつはカッ消す。

 

 最近どうもこいつが馴れ馴れしい。何があったのかは知らねぇが、一々鬱陶しい。

 

「そういえば最近、ヴァリアーのボスが変わったらしいからね」

「あ?」

 

 ヴァリアーのボスか。テュールの奴が死んで、カス鮫がボスか?俺がヴァリアーにいないと奴らはクーデターを起こさねぇだろうが……。

 

「わかりやすい反応をどうもありがとう。ただ、不可解なことが一つある」

 

 不可解なこと?カス鮫がボスになるのが不可解だというのか?それはないな。なら、予期せぬ事態が起きたとでも?

 

 

 勿体振らないで早くぶちまけやがれ。

 

 

「新しい名前、君と一緒なんだよ」

「は?どういうことだ」

「だから、新しいボスの名前はXANXUSって言うのさ」

 

 どういうことだ?同じ世界に俺が二人も現れるか?同じ世界に同じ人物は存在できないはずだ。

 

 白蘭が自分をパラレルワールドから連れて来ようとして、結局失敗したようにな。あれは人間じゃなく"現象"だと六道骸が言っていたな。

 

 

 今世でヴァリアーのボスになった記憶はない。露骨に顔を顰めた俺を見たバミューダはあからさまに胸を撫で下ろした。

 

「良かった。僕は君がボスになったとばかり思ってたよ」

「俺がボンゴレなんざに関わりたくねぇのはテメェも知っている筈だ」

「だとしても、心配しちゃうんだよ。ヴァリアーが九代目直属ってのを知らなかったという間抜けな子オチだと思ったらね」

 

 こいつ俺を馬鹿にしてんのか?ヴァリアーがボンゴレの一部くらい、誰でも知っているだろ。

 

 俺を間抜けだと、こいつは暗に侮辱している。気にくわねぇな、カッ消す!

 

「ちょ、手に炎を灯さないでよ!一応ここ牢獄だよ、脱獄したらどうしてくれるんだい!」

「知るか」

「三文字で終わらせちゃったよ!」

 

 今の立場に加えて復讐者の夜の炎は結構重宝している。脱獄でもさせて追い出されたら炎が使えなくなる。

 

 面倒だ、俺は移動に時間を掛けたくねぇ。しょうがねぇから炎を収める。感謝しやがれカスチビ。

 

 

「誰だ、ヴァリアーのボスXANXUSってのは」

「君だろ――ごめん、そんな目で見ないで。とりあえず調査はしておいたよ、君だとばかり思っていたからね」

 

 渡された資料には、最近のヴァリアーの幹部の名前やボスの情報が書かれていた。ヴァリアーの連中は気付いていないだろうな。

 

 こいつ等は情報を得るのが上手い。伊達にマフィアを監視してねぇな。こいつ等の情報と比べれば、ボンゴレの情報操作なんざ赤子同然だ。

 

 一番新しいヴァリアーのボスの名前は"XANXUS"と書かれている。だが、他の幹部は見知った名前ばかりだった。

 

 カス鮫、カス、カスオカマ、カス王子、そしてマーモン。

 

 カス鮫はボスにはならなかったようだな。俺の時と同じ理由か?それよりも気になるのは"XANXUS"についてだな。

 

「で、これがXANXUSについての詳しい資料。これを読めば君がボスではないと確実にわかる」

 

 さっきまでのは冗談だったらしい。俺をからかうだと?いい度胸だな、カッ消す。だが、まずは資料を見てからだ。

 

 XANXUS

 ヴァリアーのボス。16歳。

 ボンゴレⅨ世の一人娘。

 本名はヴィオラ。

 

 

「…娘、だと?」

「そう、女なんだよね――流石の君も女装まではしないだろうなと思って」

 

 俺が女装するわけないだろうドカス。反吐が出る。考えさせるなカッ消すぞ。手に持っていたニンニクを投げつけた。

 

 臭いと騒ぐバミューダを尻目に資料を読み漁る。

 

 

 資料によればそのカスは外の連中には"XANXUS"と名乗っているようだ。だが、身内には本名で呼ばせているらしい。

 

 意味が解らねぇな。俺の名前を名乗って何を考えている?同じ立場で同じ名前。ただし性別は逆。どう考えても怪しい。

 

 

 前世で俺が死んだ切欠であるあの女の時と、似通っている部分が多々ある。

 

 

 あの時のカス女、俺たちのことを一般人だと言いながら知っていた。いや、知り過ぎていた。

 

 何故後に来たやつが「ゆりかご」のことを知っている?それに加えて、奴はどこからか見ていたような言い方で俺がジジイの子供ではないと言い切った。

 

 奴は不可解なカスだった。もしかしたら、こいつはあのカスか?それとも、同じようなカスか。

 

 

 推測の域を出ないが、この資料に載る女も恐らく幹部狙いのカスだ。身内には本名を呼ばせている時点でお察しくださいという奴だな。

 

 外には冷酷な暴君として知らしめておいて、内側には優しい乙女でも演じているつもりか?

 

 気色悪いな。そんなカスに惚れるあいつ等もやはりカスに違いない。

 

 

 俺の名を名乗り、侮辱するとは不愉快極まりない。俺の名を勝手に名乗るなんざ許せねぇ。カッ消したいが、復讐者はボンゴレに手は出せねぇ。

 

 あいつ等はまだ、何の過ちを犯していねぇからな。

 

 幸いにも、復讐者としてカス共をカッ消すときには一切名乗っていなかった。暫くは名前も名乗れねぇな。

 

 「俺が奴に憧れて同じ名前を名乗っている」とでも勝手に話を広められたら顔も出せなくなる。屈辱だ――カッ消したい、今すぐにでも。

 

 

 そうはいっても、今の俺の実力は未熟で復讐者の中で最も弱い。残念なことに、それが現実だ。

 

 他のカス共にとっては強いのかもしれない。復讐者にとっては俺の存在は手のかかるガキらしい。バミューダが愚痴っていた。

 

 俺をガキ扱いしやがって――カッ消すと炎を投げてみても奴らには逃げられる。強くなる必要性を思い知った。

 

 

 まずは強くなる必要がある。話はそれからだ。

 

 

 俺の名を勝手に名乗りやがってドカスが。時期が来たら必ず――カッ消す。


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