憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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4 復讐相手のいない復讐者

 チェッカーフェイスに暴言を吐いたりと暴走したが気にする必要はない。どうやらチェッカーフェイスを恨むのは復讐者の使命らしい。

 

 ということで、復讐者の名前だけを借りることにする。対等関係を結べば別に復讐者所属でも構わないがな。

 

 俺は誰かに従うのが嫌なだけだ。

 

 

 俺の要望にバミューダは「我儘すぎる!こんな展開なんて予想していないよ、チクショウ!」と地団太を踏んでいた。

 

 大体の性格を調査してから接触を図ろうとは考えなかったのだろうか。事前調査は大切だと母親に習わなかったのか?別に先生でもチェッカーフェイスでもいいが。二つを合わせると"チェッカーフェイス先生"になるが――これ以上考えると俺の腹筋が爆発するので忘れておこう。

 

 先ほどからチェッカーフェイスが出てくるのは何故だ。奴の陰謀か。

 

 

 地団太を踏んで気分を入れ替えたのか、幾分かすっきりした顔でバミューダは提案した。

 

「わかったよ、君を直接復讐者には入れない。対等に契約を結ぼう。これで不満はないと思うけど」

「内容は」

 

 奴の説明によると、俺の仕事は以下の三つらしい。

一つ、奴が渡したリストに書いてあるファミリーをカッ消す。

二つ、奴が捕えたカス共のアジトをカッ消す。

三つ、その他奴の要請に応じて敵をカッ消す。

 

 

 要は、俺の炎を使ってカッ消してほしいらしい。俺の炎は奴らの炎とは違って完全に攻撃に向いた技を持っている。

 

 力自体は奴らの方が上だが、炎単体での殲滅力では俺の方が勝っている。その代わり、俺の炎は生け捕りには向いていない。

 

 確かにそうだろうな。奴らの炎は移動の速さに秀でている。場所に制限がないらしいので移動手段として有用な炎である。

 

 一瞬で現れて一瞬で連れ去る。復讐者の謎は夜空の炎にあることがわかるだろう。

 

 

 提示された労働条件によると、俺の仕事はカス共をカッ消すことだ。労働条件に関してはそれほど不満はない。

 

 カッ消すのは嫌いじゃねぇからな。復讐者に許可されているならやりたい放題だ。

 

「フン、良いだろう。テメェ等の提案に乗ってやる」

「上から目線だね相変わらず……。君って生まれながらの王者のようだよ」

「当たり前だ」

 

 俺がキングだと豪語するわけではないが、俺が偉いのは当然だ。自然の摂理で真理である。俺が乞食や庶民だと、断じてあってはならないことだ。

 

 

 契約書に互いにサインをし、ここに契約が成立した。

 

 

 奴と契約を結んだ俺は、奴の炎によって復讐者の本拠地に送られた。復讐者の本拠地は牢獄である。

 

 前世では考えられないことだな。この俺が牢獄を住処にするとは頭がどうかしちまっている。といっても、復讐者達も牢獄で寝食しているわけではないらしい。

 

 流石に囚人どもと寝食を共にしたくないのか。それは奴らしか知らない。

 

 

 牢獄には死にぞこないのカス共が沢山収監されている。何故収監しているのか意味が解らねぇな。罪人ならカッ消す、簡単な話だろう。

 

「簡単に殺すわけにはいかないよ。

死ぬまで牢獄で過ごすんだ、これ程酷な刑もない」

 

 バミューダに話を聞いてみたところ、「寧ろ死んだ方がマシじゃないのかな」との回答をもらった。

 

 罪人側の視点で考えると、確かに死ぬまで囚われの身は屈辱だろうな。俺なら牢獄入りした時点で自殺している。牢獄で囚われるより死んだ方がマシだ。

 

 

 一方、管理側としては生かすことほど億劫なことはないだろう。ここに囚われているカス共は死ぬことが許されていない。となれば俺達もカス共を殺すことができないのだ。

 

 そうすると、今度はカス共のエサが必要になる。最低限の食料で生かすとしても、こちらから奴らに施しを与えないといけなくなる。

 

「そうだね。僕等は最低限生かすために三食与えているよ」

 

 三食だと?一日一食でも生きようと思えば生きられる。にもかかわらず、三食?金持ってんのかテメェ等。

 

 バミューダは意外に情け深いらしい。人事でも尽くしているつもりか?

 

 

「俺としては、カス共に一々生きるための食糧を施すことすらしたくねぇがな」

「君って良心ってものがないのかい?」

 

 バミューダは咎めるように俺を見やる。投げかけられた言葉を口に出すことなく心の中で吐き捨てる。良心?そんなもの家の跡地に捨ててきた。

 

 

 カス共にくれてやるものは何もねぇ。俺がカス共に分け与えるとでも思ってんのかドカスが。奴らは施したところでもっと欲しいと縋るようなカスだ。

 

 そんなに生きたいのならゴミでも食って生きればいい。死にたいのなら死ねばいい。それで良いだろう。カス共が死んだところで隣の牢屋に住むカスが嘆くだけだ。

 

 

「君ってマフィアな性質して……謝るからそんな殺気向けないでくれるかな」

「俺はマフィアじゃねぇ――カッ消すぞ」

「わかったよ、そんなに怒らないでよ。リストあげるから」

 

 肩を竦めた奴は、お詫びにとリストを渡した。渡されたリストには、俺が知らないファミリーの名前が縦一列に並んでいた。

 

 名前が上がる前に力尽きて人体実験に手を出したか。くだらねぇな。

 

 

「君をここに移動させた時点で僕の炎を分けておいたよ。君の炎と組み合わせるとどんな風になるのかな。良かったら研究してみてよ」

 

 言いたいことだけ言うと、奴は牢獄へと帰った。早速仕事のようだ。

 

 ふと、前世を思い出した。前世でヴァリアーとして任務が与えられていた頃を。どうやら俺は任務が好きなようだな。

 

 与えられる任務に喜びを感じているとは、案外俺は命令されるのが好き――なわけないな。俺が好き好んで奴隷に成り下がるわけがねぇ。

 

 

 任務でも始めるとするか。今世での仕事は自由度が高いからか、前世の時よりは期待できる。

 

 

 最初の任務に気合を入れるほど俺はガキではない。与えられた仕事は直ぐに終わらせる。期限がないのが楽だな。バミューダは破格の労働条件を提示したようだ。

 

 奴の炎を使って、とりあえず移動してみる。使い方は俺の勘――奴曰く超直感らしい――を使えば何となくわかった。

 

 辿りついた先は大きくも小さくもない街中。人体実験をやりやすいように、敢えて人のいる街中にアジトを造ったようだな。

 

 

 カスの分際でマフィアを名乗りやがって。どちらにせよカッ消す。

 

 

「カッ消えろ!」

 

 怒りの爆発(スコッピオ・ディーラ)を両手で発動する。銃+死ぬ気弾が入っている状態よりは威力は断然低いが、それでもアジトをカッ消すには十分だ。

 

 耳を聾する爆音と共に、アジトが崩壊する。橙色の閃光が幾度も迸って爆発を繰り返す。迸る橙色に意図せずとも視線が吸い寄せられる。フンッ、憤怒の炎は圧倒的な力の象徴だな。

 

 一発でアジトが崩壊するほどの威力を持つ憤怒の炎。だが前世と比べて炎圧と破壊力がガタ落ちしている。

 

 更に威力を大きくするには死ぬ気弾と銃が必要だな。バミューダなら持っていそうだが、頼るのは俺のプライドが許さねぇ。

 

 

「な、なんだこのガキ!」

「いきなりアジトを破壊しやがって!」

「生き残りがいたのか?運が良かったじゃねぇか」

 

 やはり威力が弱いようだな。いや、このカス共は運良く外にいて被害から逃れた奴らか。どちらにせよ生存者はゼロにするつもりだがな。

 

 銃を構えた愚かなカス二人をカッ消した。俺を"ガキ"と呼んだから一発でカッ消してやった。ガキ呼ばわりは断固として許さねぇ。

 

 

 街中で大規模な技を放って騒ぎを起こしてしまったが、別にいいだろう。

 

 

 崩壊したアジトを歩き回りながら生き残りを探す。無論生き残りも全員カッ消す。それが俺のポリシーだ。

 

 本音は「俺の技を喰らって生き残る奴は俺が許さねぇから」だが。

 

 逃げ惑うカス共を次々とカッ消しながら、俺は前へと進む。地下にいたらしい実験体は無事だったらしい。俺の技は地下まで及ぼせるほど強くはないようだ。実力の底上げをする必要性が増した。

 

 捕らわれていた実験体は開放し、カスはカッ消す。解放した礼を言われたが聞き流し、生き残りを探しては消す作業を続けた。

 

 

 アジトを襲撃して三十分が経った。

 

 

 アジト跡には、何も残っていなかった。俺が完璧なまでにカッ消したからだ。建物が建っていた痕跡でさえも消した。

 

 このことは地方紙にも載りそうだな。近隣の住民はこの施設は工場だという認識を持っているらしい。資料に書いてあった。

 

 近隣の住民が「工場がない!」と騒ぐ前に炎で現場を去る。自由になった実験体が何をしようとも俺には関係ねぇ。

 

 再び実験体として捕まろうが、転んで車に轢かれて死のうが関係ない。。

 

 そもそも奴らは実験体については何も言ってねぇからな。罪人を裁くだけであって関与してねぇ奴らには興味もねぇんだろ。

 

 この件に関しては意見が合うようだ。

 

 

「仕事が早いね。君には才能があるようだ」

「フンッ、才能が有ろうがが無かろうが使えねぇならただのカスだ。違うか?」

「いや、流石にカスまでとは言わないよ」

 

 帰って来た俺の肩に乗った奴はリストを受け取って、沢山並ぶ名前のうちの一つにチェックを入れた。

 

「僕は君ほど外道で我儘で残酷な暴君じゃないからね」

 

 皮肉を言っているつもりなのか、言葉を募っているが褒め言葉だな。俺が"外道で我儘で残酷な暴君"だという認識を持っているらしい。

 

「俺を表す素晴らしい言葉を羅列してくれたとは――褒めて遣わそう。礼に憤怒の炎をやろうと思うがどうだろうか」

「いやだよ!それなんて死亡フラグ!?」

 

 俺の肩に乗って「ぺちっ」と間抜けな音を立てながら奴は俺の肩を叩く。俺の肩に乗るなら叩くんじゃねぇ。

 

 肩に乗るな、と言おうと口を開きかけたところで思い出した。

 

 そういえばこいつの炎は定期的に補充するものだった。流石に移動手段がなくなると移動が面倒になるので、口を閉じることにする。

 

 

「このリストが全部チェックされたら次のリストを渡そう。でもたまにはこっちに来て。炎を補充したいんだ」

「良いだろう、アルコバレーノ」

「え、君なんで知って……!?」

 

 奴が何かを言う前に炎で別の場所へ飛ぶ。この技も慣れると使い勝手が良い。今世は移動が楽な人生を送れそうだな。

 

 前世ではヴァリアークオリティを駆使していたからな。今世では夜空の炎を駆使することにしよう。

 

 そのせいでバミューダが過労死したら腹を抱えて笑ってやろう。泣くふりもしてやろう。墓に団子も供えてやるからさっさと逝って来い。黄泉に片足突っ込んでいるから逝こうと思えば滑るように入れるだろう。

 

 

 団子はどうするのかって?

 

 別に好きなわけじゃないが供えた後に俺が食べるつもりだ。


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