憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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3 道は違えど繋がりは絶えず

 手に炎を灯し、黒尽くめの集団――復讐者を見据える。炎を見たからなのか奴らは一瞬ざわめいた。

 奴らを従える赤ん坊の目は、動揺はしていないが推し量るように俺を見据えていた。

 

「復讐者か」

「復讐者って一纏めにしないでくれるかな。僕はバミューダって言うんだ」

 

 リーダー格の赤ん坊――バミューダは諫めるように口を利いた。見た目は赤ん坊だが、見た目以上に生きていると聞き及んでいる。侮って良い相手じゃねぇ。

 

 さらに、こいつと俺の実力差は歴然としている。あの時の俺でも敵わなかったのだから、今の俺なら一瞬で死ぬだろう。

 

 折角手に入れた自由を、ここで台無しにするわけにはいかない。無力さを痛感するが、だからといって生きることを諦めるわけではない。

 

 こいつ等は奇襲を得意とする奴らだ。夜空の炎を使って一瞬で現れて殺せるからな。奴らが俺を殺す気なら、こうして顔を合わせる前に殺している。

 

 

「さっさと用件を言え。俺に用があるんだろう」

 

 バミューダへと視線を向けて話を促せば、奴は包帯が巻かれた顔を俺に向けて用件を述べ始めた。

 

「君は沢山のマフィアを殺してきたみたいだけど――どれも凶悪なマフィアばかり。そこで、僕から君に提案があるんだ。どう?聞いてくれる?」

 

 「聞いてくれる?」と言っておきながら殺気が抑えられてねぇな。フン、聞かなきゃぶっ殺すつもりか?俺に選択肢なんざ無いのも同然だな。

 

「俺に選択肢がねぇのを知っていて言っているだろう。早く言いやがれ」

「口が悪いね、君……。まあいいや。僕は――――君に復讐者になってほしい」

 

 本心からの言葉なのだろう、真摯に言葉を紡ぐ奴から誠意が伝わってくる。奴の周りの復讐者達は言葉を発さずに頷いている。どうやら俺の復讐者入りには反対はしていないようだ。

 

 話を合わせているのだろうが、俺を復讐者に入れようとする理由がわからない。そもそも何故奴らからわざわざ接触を図って来るのか。

 

「頭沸いてんじゃねぇのか」

 

 嘲笑と共に零れた言葉に、復讐者達が俺を囲んだ。いつでも殺せるというアピールか?

 

 実力差は弁えているつもりだが俺は正直者だからな。大体これぐらいでブチ切れるような短気さだとたかが知れたもんだ。

 

 

 静かに怒る復讐者を余所に、バミューダは肩を竦めて続けた。

 

「……勿論、君にもメリットが存在する」

 

 バミューダは俺のメリットについて説明し始めた。だが、長々と説明していたのが癪に触ったので要点だけをまとめてもらった。

 

 別に「早くしやがれ」と怒り余って炎を放ったわけではないと補足しておく。

 

 

 俺のメリット、それは三つあるらしい。

一つ、復讐者所属を名乗って思う存分カスマフィアをカッ消すことができること。

二つ、衣食住に加えて給金も出すらしい――俺にはどうでもいいが。

三つ、特例として夜の炎を与えるらしい。何でも、移動用に与えるのだとか。

 

 

 俺としては、どこにも所属するつもりはない。だが、独りで活動していると勧誘は避けられなくなる。

 

 特にボンゴレは、"悪い"マフィアをカッ消すような輩は身内に入れたがる。何せ、そのカス共をカッ消して自分たちは"良い"マフィアだと豪語しているからな。

 

 そんなボンゴレと、俺の思想は微妙に似通っている。フリーだと知られたらボンゴレはしつこく勧誘してくるだろう。

 

 だが、復讐者に所属すればその問題が解決される。

 

 

 復讐者に所属していれば、ボンゴレに入らずに済む。まさか、マフィアも好んで復讐者の息がかかる奴を身内に入れようとはしないだろう。いくらボンゴレであろうとも、やるはずがない。

 

 ボンゴレも一介のマフィアだ。掟に触れることをやらかしたことは一度や二度じゃないだろう。

 

 流石のボンゴレも、掟に触れないままでマフィア界最強を名乗ることはできない。

 

 

 ここまで散々復讐者を持ち上げておいてなんだが、俺は復讐者所属になるつもりはない。

 

 バミューダの提案には、デメリットもある。俺はそのデメリットがある限り奴の提案に取り合うつもりはない。

 

 

 この提案のデメリット――それは、俺が誰かに仕えることになることだ。俺が一番許せねぇことだ。この俺が、誰かに従うだと?

 

「不服そうな顔をしているね。何が不満なんだい?」

 

 バミューダはどうやら俺がこの提案に一も二もなく賛同すると思っていたらしい。俺を買い被ってもらっては困る。

 

 俺のことをよく知らないのは当たり前だが、僅かな時間で大体の人柄は掴んだと思うんだがな。

 

 

 解せないと言いたげな顔をしたバミューダは、この提案を拒否した理由を尋ねた。

 

「俺が、この俺が誰かに従うことだ」

「……。」

 

 吐き捨てた言葉に、バミューダは呆気に取られたような顔をする。目を丸くし、二度瞬いた奴は呆れ返ったように言った。

 

「君は誰かに従うのだけが不服だと言うのかい?」

「当たり前だ。俺は従わねぇ。俺を従わせてぇんなら他を当たれ」

「……君のような人材は中々見ないんだよ。だから、是非とも君を入れたい」

「ハンッ、無駄だな」

 

 誰がテメェに従ってやるものか。俺は誰にも従わねぇ。バミューダは執拗に勧誘しようとするが、無論耳を塞いでその声を拒絶する。

 

 諦めるのかそれとも別の案を考えているのか。奴は傍に控えていた他の復讐者たちと何やら会話を始めた。

 

 俺を入れてぇ理由なんざどうでもいい。別に復讐者を名乗らなくともカス共をカッ消すことはできる。

 

 そもそも、俺がカス共をカッ消すのは資金目当てだ。ボンゴレがやっているようなヒーローごっこじゃねぇ。

 

 

 話を終えたのか、バミューダは再び俺へと視線を向けた。

 

「君が綺麗な目的で凶悪なマフィアを殲滅しているとは思っていないよ。君はそんな綺麗な性格してないからね」

 

 捻くれていると言いたいらしい。そんなの自覚済みだ、残念だな。前世からこの性格は続いているからな、今更治るわけがねぇ。

 

 

 大体綺麗な俺を想像してみろ、反吐が出る。どれほど想像できないか敢えて例を挙げてみる。

 

 例えば、ヒーローの典型的な台詞は「俺は皆の笑顔が守りたいんだー!」とかだろう。仲間を守る、でもいいかもしれねぇ。ヒーローは仲間を大事にするらしいからな。

 

 だが、これを叫んで敵をカッ消す俺を想像できるか?

 

 

 無論、論外である。

 

 

 俺ほどヒーローが似合わない奴も中々いないだろう。そういえばふと頭に過ぎったが、ミルフィオーレのグロ・キシニアもヒーローが似合わないな。

 

 あの男が子供番組でヒーローとして出ていたなら、ガキ共はあの年齢で現実を突きつけられるだろう。

 

 

 結局何が言いたかったのか忘れてしまう所だった。そう、俺は綺麗な性格をしていないと言うことだ。

 

 俺は綺麗な性格はしていないが、だからといって外道じゃねぇ。利己的なだけだ。

 

「俺は利己的なだけだ。それが何だ?」

「君の力――憤怒の炎は、我々にとって脅威だ。ボンゴレの血を継いだ者が野放しにされるのは危険なんだ」

 

 ボンゴレの血?何故ここでボンゴレの話題が出る?

 

 生憎、俺はジジイと血は繋がっちゃいねぇ。故にボンゴレの血も継いでいない。そんな俺がどこからボンゴレの血を入れるというんだ?

 

「俺がボンゴレの血を継いでいるだと?ふざけるのも大概にしやがれ」

「本当に君はボンゴレの血を継いでいる――ボンゴレⅡ世の血をね」

「…ボンゴレⅡ世だと?」

 

 Ⅱ世と血が繋がっていると聞いたのは初耳だが、信じられる要素がない。大体何故こいつ等が知っている?

 

 バミューダが長生きしているのは耳にしているが、ボンゴレの子孫を逐一頭に入れているとは思えない。

 

 俺の疑問に奴は本当だと言いながら家系図を渡してきた。

 

 何故こいつがボンゴレの家系図を持っている?ますますわからなくなってきた。ボンゴレの子孫を逐一家系図に残しているのか?やはりボンゴレと密接に関わっているのだろうか。

 

 

 この疑問の答えではないが、それに近い前世の記憶が蘇った。代理戦争の際に耳に入れた復讐者の真実についてだ。

 

 

 こいつ等がマフィア界の番人をしているのは、チェッカーフェイスとやらの動向を掴むためだと聞いたことがある。

 

 ボンゴレはトゥリニセッテの一角を担うボンゴレリングを保持している。トゥリニセッテを担うのがマフィアだったから、こいつ等もマフィアに関われるようにマフィアを裁く機関をつくった。

 

 マフィアとなったボンゴレを監視していれば、いずれチェッカーフェイスのしっぽを掴めると考えたのだろう。実際は代理戦争になってようやく掴めたらしいが。

 

 となれば、ボンゴレの家系図を持っているのは本来の目的の"おまけ"か。ボンゴレを監視するのはあくまでもチェッカーフェイスの"ついで"だということか。

 

 

 そこまで考えて、気にする必要がないと気付いた。ボンゴレと関わっているのはチェッカーフェイスのついで。故に、俺個人の問題とは何ら関係ないと。

 

 ちなみにこの話をしたのはマーモンである。代理戦争の際に沢田綱吉からも聞いたことがある。だが、あのドカスの言葉は全て抹消しているから記憶にない。

 

 

「ほら、Ⅱ世の家系図だよ」

「ボス全員の子孫を把握してんのか」

「まぁね」

 

 得意気なバミューダに渡されたボンゴレⅡ世の家系図に目を通す。自分の父親の名前を知らないのにどう把握すればいいのか。

 

 とりあえず自分の前の名前で探せば良いだろうと思いながら探してみれば、確かに自分の名を発見した。

 

「…………"XANXUS"って下に書かれてあるな」

「あ、それ?僕が修正したんだ」

 

 偉そうに胸を張っている奴から目を逸らし、奴を肩に乗せている復讐者――名をイェーガーというらしい――に家系図を返す。

 

 ここで敢えて奴に返さないのは奴の顔を見るとカッ消したくなるからだ。偉そうな顔すんじゃねぇ。チェッカーフェイスに相手にされていない癖に調子乗んな。

 

 

 監視のためとはいえ、ボンゴレと関係があるなら避けるに越したことはない。ボンゴレに入りたくねぇ俺からしたら、自分から近づいているようなものだからな。

 

 復讐者を名乗って思うままにカス共をカッ消せるのは面白いだろうが、ボンゴレと関わるなら話は別だ。

 

「ボンゴレなんざと関わるのは御免だ」

「あ、それが本音?大丈夫だよ、ボンゴレとはトゥリニセッテ関係で繋がりがあるけど接点はないよ」

 

 ハッ、誰が信じるかよカス野郎―――と言いたいところだが、前世では確かに復讐者とボンゴレは関わりがなかった。

 

 俺がボンゴレ候補として名が挙がっていた時期も干渉がなかったからな。こいつ等は本当にチェッカーフェイスしか見ていないようだ。

 

 

 男に後ろを狙われるなんざ、チェッカーフェイスも運がないな。哀れんでしまいそうだ。そんな奴に敢えてこの言葉を送ってやろう。

 

 ざまあみやがれドカスが!

 

 この言葉の後にいうのもなんだが、別にチェッカーフェイス個人を恨んでいるわけではないと補足しておく。


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