憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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26 チョイス――選ばれた戦士たち――

 チョイス当日。沢田綱吉達が集まっているだろう時間帯に、俺達も集合していた。傍にはチェルベッロが立っている。

 

 俺達の目の前には、スクリーンに映った白蓮の姿が見える。白と似てなくもない容姿だと俺は思っていたんだが、凪や六道に言わせると「まったく似ていない」とのことだ。

 それは性格だろうと思ったが、あいつを猫可愛がりしている二人に言っても通じないので言うのはやめた。

 

『フィールドのカードは……雷だね――じゃあ、行こっか!』

 

 白蓮が笑うと共に、スクリーンに映された沢田綱吉達の姿が消えた。それを確認したチェルベッロが俺達を見る。

 

「皆様、準備は宜しいでしょうか」

「忘れモンはねぇだろうな?武器を忘れたらカッ消すぞ」

「ボス……ボスが忘れ物してる……これ」

「それは使わんから良い」

 

 凪が何かを持って来たかと思ったら、俺の匣兵器だった。ベスターが匣兵器ではないため、新たに一個作ったのだが……製作者の悪意にまみれていて使う気になれん。

 

 この匣兵器は大空属性ではなく、だからといって嵐でもない。では何かというと、俺が死ぬ気の到達点に達した時にできた俺だけの属性だ。ちなみに命名者はカスチビである。

 

『白夜』と『極夜』――それが俺と凪の属性名だ。

 

 ちなみにカスチビが言うところによると「凪君の場合は『夜霧』と迷った」とのことだが、そんなクサい名前付けるなと俺は言いたい。年齢が三桁いっている老人の癖に若いことばっかり考えて歳のことを忘れようとしているのが丸わかりだ。

 

 『夜』という字が外せなかったのは、俺達が復讐者に加担していることから付けたようである。どうでもいいがな。

 だが名前に困っていたし、カスチビに「ペットに『獣』という単語をもじって名前を付けた君よりはマシだよ」と言われたこともあって反論をやめたのもある。

 

 カスチビの名付けた悪意のある匣兵器。それだけで使いたくなくなる。それに匣アニマルがな……もういい。それはとにかく使わん。

 

「いらん。チェルベッロ、転送しろ」

「はい。では転送します――3,2,1,転送!」

 

 光が照射されると同時に身体が浮き上がる。それから時間を感じることもなく、いきなり地面に足がついた。

 見覚えがない場所だ。だが一部は知っている様子だ。

 

「ここ、前世でも来た会場……」

『ってことは彼女達にとって、ここまでは前世通りかな?』

「黙ってろカスチビ」

 

 イヤホンを通してカスチビが何かを言ってくる。自分が来れないからといって、様子は見る気満々なんだな。そこまで言うなら直に来て参加すればいいものを……いや、そうなればあいつが一人で楽しむことになるか。

 あいつが楽しんでいるのを見ると苛立ちが治まらんからこのままでいいか。

 

 そんなことを思っていると、隣にいたチェルベッロが下にいる沢田綱吉達の元へ降りて行った。

 

「お待ちください!参加者はまだ揃っていません!!」

「にゅ~?何言ってんの、参加者いるじゃん」

「いえ……あちらにいる、もう一つの勢力にも参加する資格があります」

 

 チェルベッロと会話を交わすミルフィオーレ勢が、一斉に俺達を見上げた。と同時に、一斉に驚愕した顔を見せた。

 それもそうだろうな。何せ、捕らわれている筈の白がいるんだからな。

 

「白蘭!?ど、どうして……復讐者に囚われていたんじゃ……」

「ふふん、僕はまだ運が尽きてなかったみたいだよ。みんなに感謝、感謝♪」

「え、あの人達って……!!?」

「その顔……十年後のXANXUSか?だがヴァリアーにいるとか何とかって聞いていたが……この面子を見る限りもう一つの勢力は……復讐者!」

 

 ポーカーフェイスに定評のあるリボーンが珍しくそれを崩す。意外性を突いた結果だが、どうだろうか?

 同じく、先程まで余裕そうに笑っていた白蓮も余裕がなくなっている。白と俺を見たからか?何せ、平行世界では俺は今回のことのような事態がない限り、ヴァリアーにいる筈だからな。

 俺のことは俺が一番よくわかっている。

 

「元気そうですね、沢田綱吉。くたばっていないようで安心しましたよ……クフフフフ」

「む、骸!?え、牢獄に囚われていたんじゃ……」

「騙されているようで何よりです。復讐者の情報管理は厳しいようですね」

 

 そう言い終えると、六道は俺を一度振り返ってから建物を降りた。沢田綱吉の傍まで来た奴は、沢田綱吉の方を見て食えない笑みを浮かべた。

 

「今回は事情が事情なので手伝ってあげますよ。霧の守護者、いないんでしょう?選ばれたら僕が参加しますよ」

「あ、ありがとう……俺達が炎を出していたとき、手伝ってくれた白いフクロウって……骸のだよね?ありがとう」

 

 律儀な男に六道はただ笑って手を振っただけだった。

 

「一体、どういうこと?復讐者の牢獄、最下層にいた筈じゃ……いや、幻覚?」

 

 動揺したように白蓮は言う。ちなみに距離が離れていても声が聞こえるのはスクリーンで音声と共にオンエアされているからだ。

 だがここにいても戦えない。奴らと顔を合わせるのは鳥肌と生理的な嫌悪感が湧いてくるが、そうでもしないと始まらん。

 

 背後を振り返り、全員の視線を受ける。白に抱えられたウサギ、ユニが笑って頷いた。

 

「行くぞ」

 

 全員の返事を背中に受けて、ビルから飛び降りる。俺達が潰れるとでも思っているのか、絶叫している沢田綱吉を含む一般人共。

 俺達を侮っているようで少し気に食わんが、一般人ならまあ仕方がない。だが沢田綱吉まで叫んでいるのはどうかと思う。こいつ、やっぱりマフィアに向いていねぇ。

 

 軽く地面に降り立ち、改めて白蓮と相対する。偽者ユニの姿がないが……一体どこに行ったのやら。カスチビに探させるか。

 初めて直接顔を合わせた白蓮の第一印象は「ただのカス」である。何かを秘めていることも考えて警戒は怠らないようにはするが……まあ、白を嵌めるくらいの何かはあると思っておこう。じゃないと気が緩みそうだ。弱すぎて。

 

「復讐者?でもヴァリアーにXANXUSはいたって報告が……!」

「ブハッ!テメェ、あの程度の工作に引っ掛かったのか!!ネタばらしをしてやれ、マーモン」

「了解だよ、ボス」

 

 凪の肩に乗っていたマーモンが俺の前まで浮かんだ。死んだ筈のアルコバレーノの姿に場は騒然としている。リボーンも驚いているようだ。良かったなマーモン、奴の表情を崩せて。

 驚愕の顔が好きというマーモンは、全員の顔を見回して満足気に頷いた。

 

「仕掛けは僕と六道の弟子のフランでやったよ。君の知識を確かめたくてね。そう、ボスがヴァリアーにいるという間違った認識を持っているかどうかを」

「カス鮫たちには復讐者の幻覚チームが幻覚でいじくりまわして、記憶を変えておいた。俺が説明しようとしても『殺してやる!』の一言で話にならんかったからな。実力行使でいかせてもらった」

「やっぱりこの人怖いーッ!!!え、っていうか記憶を変えたって、えーっ!!!」

 

 目を飛び出さんばかりに驚いている沢田綱吉。その隣にいる山本武が思い出したように手を叩いた。

 

「なるほど、どーりでな。なんかXANXUSのことを誇らしい!みたいな感じで話していたんだけど……XANXUSってヴァリアーにいなかったんじゃと思ってたんだ――って、親父!?」

「おー武じゃねぇか!久しぶりだなっ!」

 

 感動的らしい親子の再会は置いといて。白蓮は次々と襲ってくる予想外な出来事に混乱している。

 これも作戦の内だ。混乱している間にこっちのペースに持ち込んでやる。

 

「俺達もチョイスに参加する――おいユニ、何か言うことでもあるか?」

「はい」

「ユニ!?そんな、ユニはミルフィオーレ本部にいる筈……って、え?」

 

 途中で言いかけた白蓮は、白が掲げた「ユニ」に呆気にとられた声を上げる。沢田綱吉も頭上に疑問符を飛ばしている。

 それもそうだろう。ウサギが話しているんだからな。

 

「私はユニ。白蓮に魂を壊されることを辛うじて逃れて、避難した大空のアルコバレーノです」

「ユニ!お前……無事だったんだな」

「はい、リボーンおじさま」

「じゃあ、やっぱりユニの魂は……でもおかしい、なんで本体に戻ってないの?あの女の魂は何故抜けない?」

 

 この台詞で少し気付いた。白蓮とユニの仲はあまりよくないらしい。大体同じボスの位置につく奴に「あの女」で大方察すだろう。

 思考する白蓮を見て、まんまと引っ掛かったと哂うマーモン、凪、エレナの三人組。

 白蓮とユニの偽者が組んでいるかどうかを確認したかったと言っていた狙いは早々に達成できたな。

 

 

 さて、丁度頃合いなので、早くしろと言わんばかりに視線を寄越していたチェルベッロに任せる。

 チェルベッロは白蓮が持っていた変な物――白が言うには『ジャイロルーレット』というらしい――を奪い、どこかに投げ捨てた。

 呆気にとられた面々を余所に新しいものを取り出す。白蓮が持っていた二つの勢力用のルーレットが、三つ用になっただけのものだった。

 

「では、リングの手を歯車の側面に添えてください」

 

 チェルベッロの言葉に沢田綱吉は戸惑ったように右手を添える。白蓮はハッと今更ルーレットがないことに気づき、顔を顰めながら手を添えた。

 俺達の方は誰がやるんだと視線を向ける。と、一斉に視線を逸らした面々。何も知らずにニコニコと笑っている白を引っ張り、前に押し出す。

 

「え、僕?」

「やりたそうに見ていたからな」

 

 それとも、なんだ。俺が三人で仲よく手を合わせて、掛け声とともにルーレットを回せるとでも思ってんのか。

 そう言ってやれば、エレナが笑い始めた。

 

 そんなわけで、白がルーレットを回すことになった。

 

 戸惑っていたがルーレットを回すことは楽しいと思っているのか。隣にトラウマの原因である白蓮がいるというのに、恐れた様子もなく満面の笑みで沢田綱吉に話しかけている。トラウマは克服したのか?

 話しかけられている沢田綱吉といえば白蓮によく似た奴に話しかけられるのが怖いらしい。ビビっている。情けない。

 

 全員が手を添えたことを確認したチェルベッロは掛け声と同時に歯車を右に回すように指示した。

 全員が頷き、了承を示したところでチョイスの属性選定が始まった。

 

「では、行きます――チョイス」

 

 沢田綱吉が慌てながら回すのが見えた。白蓮と白は平然としているのに、沢田綱吉のトロさが全面的に押し出されている。

 恥ずかしく思わないのだろうか。見ているだけで怒りが湧いてくるトロさだ。

 

 回り続けるルーレットが止まった。スクリーンに表示される属性とその数を見て、エレナが悲鳴を上げた。

 

「無属性が……一つ!?私が、私が出ても良いわよね!」

「大空、霧、雨、雷、無属性か。というか、お前はどちらかといえば霧属性だろう。だからイェーガーを出す」

「そ、そんなぁ……」

 

 がくりと膝を着くエレナ。エレナを支えて慰めの言葉を凪がかけている間に、全員を集める。ボンゴレとミルフィオーレで何か騒いでいるが俺達は慣れあいをしに来ているわけではない。

 

「大空は俺だ。文句あるか?」

「ボスしかいない。文句はないと思う」

『僕は夜……夜空だよ』

 

 カスチビの余計な言葉が入ってきたが、そこはスルーする。他に異論はないようなので先に進める。

 

「霧は凪だ。エレナ、文句は言うなよ」

「わかってるわ。こうなったらユニちゃんを守るから」

「ありがとうございます!」

「私……頑張る」

 

 決意を秘めた拳を握る凪。モチベーションは高そうなので良しとする。心なしか「殺る気」が見えた気がしなくもないが……まさか、そんなわけがないだろう。

 

「雨は山本剛。ターゲットになっているから、コロネロは避けておいた」

 

 ターゲットになれば下手したら死ぬ。こうなればアルコバレーノのコロネロを出すわけにはいかないだろう。ユニへ視線をやれば頷かれた。

 山本剛は呑気に笑いながら竹刀で肩を叩いていた。

 

「ゲームかぁ……やるより見る方が好きなんだけどな」

「ターゲットになっているんだ。その妖刀、使わずに済むかもしれん」

「本当か?そりゃあいい!気味悪いモンだからな、魂とか吸われているかもとか思っちまってよ……それに、不吉だしな」

 

 安心したように息を吐く山本剛。ミルフィオーレから誘拐するより信頼できるのでこれはこのままでいいだろう。どうせ戦わせん。

 余りルールを理解してなさそうなので、ターゲットに関するルールをコロネロから説明するように言っておいた。コロネロの説明する声が背後から聞こえる。

 そういえば、マーモンは顔を出していたがコロネロは顔出しをまだしていない。丁度いい感じに隠れている。

 まあいい、不意を突くときに顔を出してもらおう。それまではエレナに隠してもらうか。

 

「雷は白だ。雷のマーレリング、持って来ているだろう?」

「うん……ホントは大空なんだけどなぁ。ま、いっか♪」

「で、無属性はイェーガーだ……イェーガー、来い」

 

 俺の隣に現れた黒い炎からイェーガーが一瞬で転移してきた。復讐者の装備をして、万全な準備だ。視界の端に見えたフライパンには何も言わないでおく。

 俺を見上げているベスターに、今回は参加できないことを言うと拗ねたように鳴いた。参加したかったらしい。

 

 ベスターの慰めも凪に任せて、凪以外のチョイスに出る面々を集める。

 

「山本剛がターゲットだ。炎の量に少し不安が残るから、一気に叩く」

「早期決着か。そうでこなくてはな」

「了解だよ♪」

 

 すまんなぁと言いながら朗らかに笑う山本剛に白は「早期決着が皆の為♪」と同じく笑いながら答えていた。あいつなりに慰めているのだろう。

 イェーガーは漲ると言わんばかりにフライパンの柄を強く握りしめた。格好がつかないのはフライパンだからだろうか。

 

 他のチームの属性表を見てみると、やはり前世とは違っていた。俺達が加わったことで未来が変わっていることは当然だ。となれば、チョイスの結果も少しずれるに決まっている。

 どの結果がずれたのかは凪の話とスクリーンに表示されている属性と数を見れば一目瞭然だ。

 

「ボンゴレ、ミルフィオーレは七人か。俺達が数では不利か……だが戦力で考えれば大して変わらん」

 

 ボンゴレは前世でも選ばれていた大空、雨、嵐、無属性二人に加えて霧と雲が新たに追加されていた。霧と雲が入ったことによりかなりの戦力が増えたな。誰かの陰謀か。

 対してミルフィオーレは晴、霧二人、雲、雨、嵐、大空となっている。誰が出るか言うまでもなく真六弔花全員が出ることになっている。

 

「予想外……だけどこれで勝つ確率が上がった。残念だね、ツナ君♪」

「ど、どうしよう……人数はこっちが多いけど、相手には白蓮サンがいる!」

「クフフ……もう諦めるのですか?情けないですねぇ」

 

 六道の笑っていない目で睨まれ、入江正一は慌てて「い、いや……骸さんや雲雀さんもいるし……だ、大丈夫だよ!」と訂正した。

 かと思いきや、そして何故かこちら側に視線を移した。入江正一が向いたからか沢田綱吉もこっちを見てくる。

 

「あ、あの!骸を守ってくれたのって、XANXUS達ですよね?ありがとう、ございます」

 

 無意識にか、沢田綱吉は六道骸が囚われていたわけだけでなく、保護されていたことも察したようだ。本人は何も気づいていないのだろうがな。

 

「直接働きかけたのは凪だ。礼ならあいつに言え」

 

 面倒になったので凪に全てを押し付けておく。一応、事実だ。六道を白蓮の罠から助け出したのは凪だしな。嘘は言っていない。

 頭を下げられて慌てている凪を見ながら、チェルベッロに先を促す。

 

「では、これからチョイスを始めますが、その前に報酬について話をしておきます」

「このチョイスの勝者はミルフィオーレ側の保持するマーレリングおよびアルコバレーノのおしゃぶり、ボンゴレ側の保持する全てのボンゴレリング、そして復讐者側の保持する一部の本物のおしゃぶりとその他諸々です」

「その他諸々ってなんだよー!!!」

 

 思わずツッコミを入れる、ツッコミが好きで仕方がないらしい沢田綱吉。その他諸々と敢えて言ってもらったのは、マーレリングに偽物が混じっていることを相手に知られないようにするためだ。

 また、ユニの魂を賭けるとかそんなのをガキ共の前で言うことじゃないしな。カスチビ曰く「情操教育に良くない」とのことらしい。

 そんなこともあって、俺達からの報酬はこんな感じになった。

 

 チェルベッロは報酬についての説明を終えた後、全員に伝えた。

 

「では、参加メンバーは基地ユニットにお入りください。フィールド内のランダムな位置に転送します。参加メンバー以外の皆様は勢力ごとに観覧席を用意しましたのでそちらへ」

「では三分後に開始します。用意してください」

 

 近づきつつある最終戦。白蓮もいるこの戦い、何があろうと負けるわけにはいかない。この戦いが最終戦にしろ、そうでないにしろ、カスはカッ消すだけだ。

 


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