憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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25 集う生き残った虹の赤ん坊たち

 修行をしたり、白の相手をしてやったり、六道が色々とまずいことになったりと過ごしていた俺は、やっと来たマーモン達を迎えていた。

 六道のことを知っているのだろう、マーモン達は最初に奴の部屋を訪問した。

 

 六道は潜入中に白蓮と交戦した。まあ、前世通りのことなので俺達は焦ってはいなかった。白蓮が俺達の知らない技を使うことは想定済みだったし、そのために凪をずっと六道の傍に置いていた。

 凪の力により、白蓮の力に絡め取られそうになっていた六道の救出に成功した。もし凪がいなければ奴は白蓮の手に落ちていただろう。

 

 マーモン達と訪れた六道の部屋には、見覚えの面々が顔を揃えていた。

 

「というか、お前らは何をしている」

「退院パーティだよ!」

「釈放パーティですよ」

 

 白と六道で言っていることが違うが、これはいつものことである。花を飛ばしていそうなほど無邪気に笑う白と、呆れたように溜息を吐きながらも微笑ましそうに見ている六道。

 前世ではこんな関係ではなかった筈だが、まあこんな関係もありなんだろう。

 

 二人の部屋には、凪やベスターにカスチビなど、毎日顔を合わせている面々が菓子を手に騒いでいた。

 菓子はエレナの手作り、料理はイェーガーと山本剛が調理したものらしい。

 

 山本剛がここにいることを知らされていなかったマーモンは不思議そうに首を傾げた。

 

「あれ、もしかして彼が雨の代理人?」

「ん?どっかの誰かと似ているぜ、コラ!」

 

 マーモンの後から入ってきたコロネロは山本剛の顔を見て唸る。山本武を知っているのなら見覚えがあってもおかしくはないだろう。

 しばらく唸っていたコロネロがその名前を言おうとしたとき、見事に遮られた。

 

「白蘭、じゃない!白!!」

「ユニチャン?」

 

 きょろきょろと迷子の子供のように辺りを見回す白。声の主には心当たりがあったのだろう、直ぐに名前を呼んでいた。

 白が首を傾げた時、部屋に新たな人物が入ってきた……って、何だ?

 

「白っ!」

「ユニチャン!?……って、その外見……」

「これはマーモンが用意してくれた媒体です」

「え……」

 

 凪が何とも言えない目でマーモンを見つめる。確かに。確かに、術士が使う媒体にフクロウを選んだ変な奴もいる。だがこれはないだろう。

 フクロウを媒体にしたことのある六道骸も何とも言えない顔でマーモンを見て、首を振った。

 

「女の子にそれはダメでしょう……」

 

 六道はマーモンに言う。心なしか呆れているような口ぶりだ。

 だがマーモンは何が悪いのかまるでわかっていない。先程から何を言っているんだと言いたげな顔をしている。

 

 俺の方へ振り返ったマーモンは俺を味方だと思っているらしく尋ねてきた。

 

「ねぇ、これのどこがおかしいの?ボス」

「すべてだ」

「ボ、ボスまでもが僕の頭がおかしいと言うの!?」

 

 頭がおかしいとまでは言っていないがな。まあ、結構前から言っているからそれはそれでいい。もうどうでもいい。

 救いようのないマーモンは放っておいて。どこがおかしいのか同じくわかっていないユニを摘まんで凪に渡す。

 

「こいつを別の媒体に入れてやってくれ」

「うん」

 

 即座に頷いた凪は、懐から匣兵器を出した。中から飛び出たのは霧の炎を纏った子ウサギ。生まれたばかりという設定なのかどうか今一わからんが、子供サイズだ。潜入用であるため戦いには優れていない代物だが、どうせ戦わないユニには良いだろう。

 凪はそれをユニに見せながら、魂を移すように説得していた。

 

「このぬいぐるみの居心地もいいんですけど……皆さんがそこまで言うのでしたら何か理由があるのでしょう」

 

 そう言ってユニはウサギの中に入った。これで一件落着である。凪も安心したように真っ白なウサギを抱きかかえた。

 ウサギなユニをどうやら白は気に入ったようで、凪から渡されて存分に撫でていた。ユニと白は久しぶりの再会というわけで、しばらくは二人だけにしておく。

 

 俺達は戻って来て早々にやらかしたマーモンのぶっ飛び加減に呆れながら、用意されていた椅子に腰かけた。

 

「いくらなんでもゾンビはダメ……」

「そうかい?ユニは別に良いって言っていたけど」

「ユニ君、本当は『あなたはなんて物を……!』とか思いながら中に入ったかもね」

 

 凪とカスチビの台詞に同意を示す。するとマーモンは「ボスが……僕を裏切っただと!?」とか言いながら大袈裟に仰け反っていた。

 ノリが良くなったのか。それとも本気で思っているのか。ついに判別が出来なくなってしまった。

 

 山本剛の寿司を片手に、もう片方にエレナの淹れた茶を持って話し合いを始める。

 議題は勿論、明日に行われるチョイスのことだ。情報は仕入れているから後れをとっていることはない。まあ、勝手に情報が入って来たというのもあるが。

 

 実はつい最近、チェッカーフェイスもとい雲雀恭弥からアクセスがあった。あいつ、復讐者のネットワークにハッキングしてから情報を送り込みやがった。

 これを知ったカスチビは激怒。ネットワークを管理していた復讐者の部下にビンタして三日ほど逆さ吊りしていた。

 

 まぁ、そんなこともあってチョイスに関する情報は万全だ。あと、俺達のネットワークもかなり厳しくした……らしい。カスチビが一人で燃えていたからその辺はよくわからん。

 明日のチョイス、どういう組み合わせで選ばれるかわからんが……なるようになれといった感じだ。

 

 だが俺と違って他の奴らは盛り上がっていた。なんでも、久しぶりの出番だとかようやく戦えるとか言っていたな。

 俺達側で盛り上がっている奴はかなりいるが、ボンゴレが関わってくるということで、デイモンだけは顔を出すつもりがないらしい。

 

 その一方で、エレナは参加する気満々だ。エレナが言うには「ボンゴレには私のデータがないから自由なのよ!」とのことだ。

 エレナが参加するとなると、今度はエレナのライバルを自負しているイェーガーが出たがりはじめた。前も争っていたが、エレナが出ると本格的に言い出してから激化した。

 

 激化している最中、カスチビが余計なことを言ったせいでイェーガーとカスチビで激突していた。このチビはまだ「復讐者が出ること」に対して抵抗感があるらしい。

 だが、こいつには言っておかないといけないことがある。

 

「復讐者が出てはならんとか言っているが、そもそも俺達は既に関わってるだろ。確かアレハンドロだったか。あいつの件はどう言い訳するつもりだ?」

「……あっ」

 

 そんなことがあり、カスチビはイェーガーの参戦を認めた。

 

 ちなみにアレハンドロは復讐者の一人だ。

 奴はカスチビの命令で、ジンジャー・ブレッドという奴にとっては子供のような人形をミルフィオーレに入れていた。

 ジンジャー・ブレッドとして信用されるために、アルコバレーノを二人殺した……という風に見せかけての実際は保護をしたというわけだ。この作戦に関してはマーモンと連携を取りつつ、何も知らないコロネロで相手を惑わして上手く逃げ切った。

 

 この作戦を主導していたのはデイモンとエレナだから俺はあまり知らんがな。レプリカのおしゃぶりを用意したのはチェッカーフェイスもとい雲雀恭弥だから、そいつとも組んでいたということか。

 大規模なプロジェクトだったんだな。あの面子で成功しないわけがない。

 

 まぁ、この話を出して何が言いたかったかというと。つまり、復讐者は序盤の方で既に関わっているということだ。

 今更関与しないと言っても遅い……というかカスチビ、絶対に忘れていただろうな。

 

 

 さて、無駄に長い過去を思い出したところで時間潰しにはなったか。白と話し終えたらしいユニが凪に抱えられて俺達の所に来た。

 テーブルに降ろされ、ウサギの姿をしたユニは行儀よく座った。

 

「こんにちは。前世以来ですねXANXUSさん、クロ……いえ、凪さん」

「久しぶり……」

「そして皆さん。私達のためにチョイスに参加して下さり、本当にありがとうございます」

 

 ウサギの姿で礼をするユニ。微笑ましそうに見ている一部の面々は見なかったことにしてやる。デレたイェーガーの顔を見ても良いことはない。

 挨拶を一通り終えたユニは、早速本題に入った。

 

「私達は並盛神社の方には集まらずに、沢田さん達が決めた場所に転送される手筈になっています。えっと、戦いが始まる前に基地ごと転送されることになっているのですが……確か、デイモンさんとバミューダさんが造って下さることになったんですよね?」

「もう既に完成していますよ」

 

 胸を張るデイモン。大方のデザインと制作はデイモンで、いちゃもんをつけたのがカスチビだ。復讐者っぽく演出したがっていたデイモンだが「それではつまらん」という、いらんいちゃもんのせいでファンタジー全開になった。

 この中に入りたくねぇ……ちなみに強力な有幻覚をベースに造っている。基地としての機能を放棄した、ただの箱のようなものだが俺達に基地はいらん。

 

 デイモンの頼りのある言葉にユニは再び礼を言った。ウサギの姿で器用に一礼して続けた。イェーガーが手を意味あり気に動かしていたのは見なかったことにする。

 

「なお、白蓮にこのことは伝えないようにチェルベッロさん達にお願いしてみたところ、問題ないようでした」

「贔屓になってねぇか?」

「贔屓になってもおかしくはありませんよ。本来であれば彼女達は白にマーレリングを渡すはずでした。しかし先に白蓮が偽者から受け取ったため、彼女達は何者かの陰謀を感じ取って本物を私に預けたのですから」

 

 贔屓であることを認めた気がしなくもないが、そういえば前世の白蘭はチェルベッロらしき奴らからマーレリングをもらったとか言っていたな。

 こっちの世界ではチェルベッロで確定か。いつも気になるがチェルベッロの正体はなんだろうな。タブーかもしれんから黙っておくが。

 

 様々な疑惑のあるチェルベッロからリングを預かったユニは、それを直ぐにマーモンとコロネロにパス。白を追い出した白蓮が次に自分を狙ってくることは想定していたらしい。

 それで劇薬を投与された際に逃走、マーモンが用意したゾンビの中に飛び込んだというわけだ。

 

「マーモンとコロネロ、あと二人を殺めたように見せかけて保護してくれた復讐者の皆さんには何とお礼したらいいのか……私も彼らに保護されたので、彼らを保護して下さったあなた方に保護してもらったと同義です」

「こっちはお前に死んでもらったら困るからな」

 

 アルコバレーノを生き返らすのかどうかは知らんが、そうだとしたら死んでもらっては困る。マーモンとコロネロは生きているがそれ以外は死んでいる。それ以外の面々を生き返らすにはどうしてもユニの力が必要というわけだ。

 俺自身は別に生き返ろうが死んでいようがどうでもいいんだがな。だがアルコバレーノが死んだままというのはあまり良くないことらしい。

 

「チェッカーフェイス……いえ、雲雀さんが言っていたのですが、アルコバレーノ不在時は呪いが一層強くなるそうです。前世で私が力を失うのが早かったり、前世でラルの体調が悪化していたりしたのはその影響があったようです」

 

 ラル・ミルチはなりそこないとはいえ、アルコバレーノ。呪いの一端を背負っているわけだから、一部と言えどかなり強く影響していたというわけだ。

 しかし今回は大空以外のアルコバレーノで二人生存している。呪いが分割され、恐らくラル・ミルチも前世ほど酷くはないだろうということだ。

 

 話が丁度一区切りしたとき、今まで凪と会話をしていた六道が思い出したように言った。

 

「そういえば、潜入していたとき……そこの彼女、ユニでしたか?彼女の身体に乗っ取った何者かが僕に接触してきました。彼女を探ってみたのですが、これはまた面白いことがわかりましたよ」

「そうでした!私の身体に誰かの魂が入ったんですよね?私が出てからの話なので、それを聞いたときは驚いたのですが……一体何がわかったのですか?」

 

 六道の話はまだ聞いていなかったので、これ幸いと聞くことにする。何せ今まで顔すら出してなかった性格の激変した偽者だ。知りたくなるのも当然のことだろう。

 豹変を直に目にした白だけは聞きたくもなさそうだったが。

 

 当事者であるユニを含めて、興味津々な面々。六道は一つ咳払いした後、思い出すように語り始めた。

 

「僕が白蓮のお使いに仕方なく従っているときの話です。僕が手続を進めていたときに、ミルフィオーレのマントを羽織った少女が来たんです。僕はその時は彼女がユニだということに気付かなかったのですが、彼女から自分で言ってきましたよ。まぁ、それで探ろうと思ったわけですが」

 

 一息置いて、六道は続けた。

 

「彼女は僕が六道骸であることを見抜きました。未来を知っているかのような言い方。しかし彼女は僕が未だに牢獄に囚われていると思っていることから、僕は彼女には巫女の力がないということに気づきました」

「なるほどな。力を持っていたらテメェが牢獄にはいるが牢屋にはいないことに気付かないわけがないということか」

「ええ。しかも不思議なことに、彼女は『牢獄の最下層、あの暗い水牢の中にいるのですね』と哀れんでいました……ぶっちゃけなくても、心当たりが全くありません。捕まっているはずの僕に心当たりがないなんておかしいでしょう?それで僕はさらに気づきました――彼女は未来の知識をどこからか仕入れていて、それが間違っていると」

 

 俺達の前世の記憶と似ているな。前世では女の記憶と同じように最下層にぶち込まれていたからな。だがここでは違う、そしてそれをユニの儀者は知らない。

 まぁ、未来が読めないことは明らかだ。だが大方、そのどこからか仕入れた知識がユニの未来予知だとでも思っているんだろう。

 

 六道の話を聞いて、ユニは顔をしかめた。

 

「未来は確定していませんのに……私の未来予知は確定したものではありませんし、漠然としたものでしかわかりません。何も知らない方は私の未来予知が『いつにどこで何があって、誰がどうなるのか』なんて全て知っているのかと思っているのでしょうけど……予言は万能ではありません」

 

 むっとしたような顔で語ったユニに、同意するように頷いたのは凪だった。俺も確かにその辺りは同意できる。というか俺達がいる時点で未来が変わっているしな。

 マーモンやコロネロの死亡なんて、恐らくユニの儀者は想定していない。六道の件も勝手に思い違いしていたんだ、今回とて例外ではない筈。

 もし知っていたら、白蓮に言うなり二人を探すなりしているだろうからな。なのにその動きもみられない。

 

 断定はできないが偽者はユニの力は持ってはいない。だが何らかの知識を使って、こっちの未来ではなく平行世界の未来の出来事を知っているということ。

 白蓮も知っていそうだが、ユニの偽者も知っている。どこからその知識を得たのか見当もつかないが、どちらも警戒しておくに越したことはない。

 

 結論として、二人を重点的に警戒することに決まった。ついでにチョイスで選ばれなかった奴らが警戒をする役を担うことで一致した。

 

「みなさん、ありがとうございます」

 

 そう言って笑ったユニに、凪は笑って首を振った。

 

「恩人だから、当然……ね、ボス」

「奴らはどんな手を使ってでも負かす。運の良いことに躊躇するような奴はここにはいないからな」

「……やりすぎはダメですよ?」

 

 何を言っているんだ。どこかの台詞であっただろう。やり過ぎくらいがちょうどいい、とな。

 


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