憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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私は思った。かつてこの方を転生させた小説はあったのかと。
あ、後書きにはイェーさんの微笑ましいおまけがあるですよ!


23 黒幕を以て黒幕を制す

 チェッカーフェイス。奴は生粋の地球人と自らを称し、持っている死ぬ気の炎の量は俺達を軽く凌駕するほどだ。

 つまり、正攻法では奴と戦っても勝てる余地はない。全くない。革命が起きても、俺達が転生しても、それは変わらない。

 

 そんな奴が、何故か白蓮にリングを渡している。しかもマーモン達が持っているという本物の大空のマーレリングではない、偽物を。

 チェッカーフェイスの企みとは何なのか。トゥリニセッテを第一とするなら、その破壊を助長する行為を奴がするのはあまりにもおかしすぎる。

 

 俺以上にチェッカーフェイスを嫌悪するカスチビはこの知らせに目を大きくさせ声を荒げた。

 

「あいつは世界のためにアルコバレーノ制度をつくったというのに、そのアルコバレーノが減りつつある状況を助長していたというのか!?普通ならそれを阻止するのが道理だろう!非トゥリニセッテだってそうだ……放置していたのは奴が裏にいたからか!」

「その怒りもわかるよバミューダ。僕だって奴をぎったぎたに殺してやりたいくらいだ……だけど今はまだ殺せない」

「今でなくとも、奴を殺す術などないだろう。ここのチェッカーフェイスはどうかは知らんが、少なくとも俺達の世界のチェッカーフェイスを見たらわかる。あれに殺し合いを挑むのは無謀だ」

 

 至って冷静に指摘したのだが、何故かマーモンの顔は余裕を保っていた。

 いや、俺の発言に更に笑みを深めて楽しそうである。

 

 カスチビもマーモンの表情に何か思うところがあったらしい。不審さを露わに尋ねた。

 

「マーモン君はなんだか楽しそうじゃないか。あいつを出し抜く案でもあるのかい?」

 

 マーモンは「まぁね。奴に頼るのは癪だけど」と驕るわけでもなく、当然のように頷いた。

 それを耳にしながら、先程から発言していないコロネロは困惑を色濃く映した顔で俺達に語った。

 

「俺にとっては頭がパンクしそうな話だったぜ。意味がわかんねぇ。そもそもお前らが転生したとかいう話もビックリなモンだったんだからな、コラ」

「……マーモンが話したのか?」

「僕()話していないさ。僕がボスの最大の秘密をそう明かすわけがないじゃないか」

 

 金を積まれたら明かしそうだが、という言葉が出かかったが寸前で呑みこむ。

 

「ということは、お前の所にお前以外の転生者がいるということか」

「正解!」

 

 パンと小さな手を鳴らしてマーモンはにんまりと笑った。

 嫌な予感しか感じさせない笑顔に自然と眦が上がり睨みつけてしまう。奴がここまで調子に乗るとは、相当ヤバそうな奴であることは確かだ。

 少なくとも、チェッカーフェイスに関する諸問題を力技で解決できそうな奴であるということが察せられるが……そんな奴、俺達の世界にはいなかった筈だ。

 

 マーモン達と行動している奴は一体どこの誰なのか。

 転生者でかつ、マーモンの敵ではないとすれば自ずと限られてくるはずである。ヴァリアーではないことは確かだ。

 となると、選択肢が狭められていく。ヴァリアーではない、マーモンの味方――ユニだ。

 

 だが、あいつは魂を壊されていたんじゃないのか?いや、確か賭けるモノに「ユニの魂」と言っていた。どういうことだ?

 

 俺の疑問を読んだらしい。マーモンは「ボスの言いたいこともわかるよ」と言い置き、続けた。

 

「僕達の世界の彼女は、パラレルワールドを渡れるんだよ。一旦はそこに逃げて、そしてまたこの世界に戻ってきた……僕達が用意した別の媒体の中にね」

「術士にはいつも驚かされるぜ。だけどまぁ、ユニがそれで無事だから良いんだけどよ、コラ」

「ということは、ユニは俺達の世界からのユニか。だがユニは巫女だ。戦力外だというのに、チェッカーフェイスを出し抜くことはできるのか?ここのチェッカーフェイスは明らかに俺達の知っている奴と違う」

「戦力になるのはユニじゃない。だけどユニじゃないと手に入れることはできなかった戦力があった。僕達だけだったら、あいつは協力しなかったよ」

 

 ここで何故かマーモンは突然キレた。今までの鬱憤が溜まったのか、コロネロの肩を揺さぶりながら俺に向けて愚痴をぶちまけた。

 

「大体ねぇ、あいつは何て言ったと思う!?あいつ、僕に向かって『ああ、久しぶりだねマーモン君。生まれ変わっても何やら大変そうだが、まあ頑張りたまえ。それが人生だ』とかほざきやがってんだよ!あんな○○××(ピー!!)野郎なんてロリコンとか言われてればいいんだ!そうだ、奴はロリコンだ!△△(ピー)野郎だ!!」

 

 俺を揺さぶっているつもりでコロネロを揺さぶっているのか。必死の形相でこちらを見る様は複雑な感情を催してくる。

 先程から顔が青いコロネロは、もし俺に霊感があったら魂が口から出ているように見えたかも知れない。とにかく、それほど死にそうだ。

 

 魂が出かかっているコロネロは死にそうな顔でマーモンに言った。だが、それは火に油を注いだだけだった。

 

「ま、まぁ……ほら、あいつは転生前は長生きしてたんだろ……?だったら俺達を見守っていたりしなくも……」

「あ゙ぁ!!??」

「すいませんでした」

 

 フードで顔が見えないからこそ恐ろしさが倍増しだ。それを間近で見たコロネロはご愁傷様と言っておくべきか。

 カス鮫にも劣らない怒声は、あいつが斜めにずれて突っ走った産物ではないかと何となく思った。前世のマーモンはここまで熱くはなかった。

 

「あいつが僕達を見守る!?そんなバカなことがあるわけがないじゃないか!見守るんじゃない、見下ろして嘲笑い、鼻で嗤っているんだ!!あいつはそういう男だ、それが――――チェッカーフェイスだ!!!」

 

 ……また、チェッカーフェイスか?

 何やら色々衝撃的すぎて反応があまりできなかった。

 

 だが、隣で話を聞いていたカスチビはまだ余裕があったようだ。奴は俺よりリアクションが激しかった。

 

「な、なんだって!?チェッカーフェイス!!?」

 

 ビックリ仰天、を顔で諸に表現しているカスチビ。目が飛び出していると表した方が良いだろうか。とりあえずあいつは俺より驚いている。

 驚きすぎて言葉にならないことを喚いているカスチビを見ていると冷静さが戻ってきた気がした。

 自分より驚いている奴を見ると逆に落ち着くのはどこの世界でも、どこの誰でも共通らしい。

 

 一つ深呼吸して落ち着く。喚いてるカスチビの口に近くにあった雑巾を押し込んで黙らせる。

 

「さっきもチェッカーフェイス、そしてまたチェッカーフェイス。お前は何人のチェッカーフェイスを知っているんだ?まさか敵も味方もチェッカーフェイス、チェッカーフェイスによる奴のためのパーティとかじゃあないだろうな?」

「そんなのあるわけないじゃないか!あったら僕らアルコバレーノで粉々に壊してマントルに埋めてるよ」

「それには賛成だ、コラ……『ドキッ☆チェッカーフェイスだらけのパーティ♡』なんて気色悪い以外の何物でもないぜ……」

 

 ここにきてようやく復活したらしいコロネロは意識回復後に壮絶な話を聞かされたからか、顔が真っ白だ。

 それでもノリは残っているのか、耳にするだけで鳥肌が治まらない名称を口にしている。

 

 ただ残念ながら、回復したコロネロは不愉快に思ったマーモンによってアイアンクローをやられている。

 

「それを口にするなコロネロ……!つい想像しちゃったじゃないか!!……まぁ、そういうわけで、ボス。白蘭と同じようにチェッカーフェイスも二人いるけど、一人は味方だよ」

「話を聞く限り、そのチェッカーフェイスは俺達の世界の方か。だが敵の方のチェッカーフェイスとは戦わないといけないのか?今のところ、白蓮としか関わっていないようだが……できれば一人だけ相手した方が楽なんだがな」

 

 マーモンを見て『生まれ変わっても』とか言っているなら、奴は転生したことを知っているようだな。

 俺達の世界のユニがいればチェッカーフェイスももれなく着いて来るのか。ぶっちゃけいらねぇ。金を渡されても返品したいレベルだ。

 

 まぁ、奴の値段や価値はともかく。

 今回の敵は白蓮だとみなしていたが、マーモンの答え次第では考えさないといけないことが増える。

 今俺が知りたいのは敵の数だ。倒さなければいけない敵がいるならカッ消すだけだ。白の件しかり、今回のボンゴレ狩りの件しかり……集めようと思えば白蓮の罪はいくらでも集まる。

 つまり、一般人を巻き込んだ罪や善良なマフィアを殺しつづけている罪で奴への制裁を、復讐者が下すことができるということだ。

 

 白蓮をカッ消すことはカスチビとの話でも大方決まっていた。だがここでチェッカーフェイスが加わるというなら、更に計画を練り直さないといけねぇ。

 

 だが、俺の思いは杞憂だった。

 

「それについては心配ないよ、ボス。チェッカーフェイスは今回は本格的には関わってこない。ユニが予言したから絶対だよ。奴は仕掛けたモノがどういう風に暴走して、収束するのか。まるで神のようになった気分でただ上から見下ろしてるだけさ。いずれ引きずりおろされることも知らずに、ね」

「なら、白蓮を倒すことだけを考えておくか。それで、結構前の話に戻すが……チョイスに参加するとはどういうことだ?」

「言葉通りの意味だよ。ユニは大空のアルコバレーノの特権でそれ無効化にしようと考えたみたいだけど、ちょっと無理そうだったからね。だから正式にトゥリニセッテを獲得するためには割り込むしかない。でも奇襲して強奪なんて卑怯なことをユニが望むわけがないだろう?僕はやろうと思ったんだけどね」

 

 こいつが正攻法で挑むなんて珍しいと思っていたのだが、やはり本音としては卑怯な手段を使いたかったらしい。流石術士。

 確かにユニの性格を考えれば正攻法だろうな。それにコロネロもいれば外道な手段も使えまい。マーモンにとっては物足りないだろう。

 

 案の定、マーモンの口元は不服そうに歪んでいる。それを目にしたコロネロの顔色が変わっていたのは……まぁ、恐らくそういうことなんだろう。

 あいつも苦労していたんだな。

 

 実を言えば、マーモンとスクリーン越しで顔を合わせることは多々あるが彼是数年間、直接顔を合わせていない。

 というのも、俺達はミルフィオーレにバレないようにコソコソ動いているからだ。それで変に動いてマーモン達のことがバレたら元も子もない。

 そんなこともあって、スクリーン越しの会話はあれど、直接奴に会ったことはない。

 

 だからコロネロはマーモンの被害を一人で被っていたらしい。あいつがユニに苦労をかけるわけがないからな。コロネロのみだ……流石にチェッカーフェイスを弄る勇気はないだろう。

 ちなみにコロネロはマーモンに救われた恩もあり、中々強く言い出せないらしいが。それを利用されていることに早く気づいてもらいたいものだ。じゃないとマーモンだ、財産を含めてありとあらゆるものを絞り尽くされるぞ。

 

 さて、マーモンとコロネロが生きている理由には俺達が関わっていたりする。といっても俺たちなりの作戦が結果的にあの二人を救うことになっただけの話だがな。

 俺はその作戦を主導していたわけではなく、人任せにしていたので復讐者サイドでの話でしか知らん。

 

 誤魔化す際は有幻覚の死体や偽物のおしゃぶりを用意して誤魔化したそうだが、そう簡単にいくものかと思っていた。だが実際、結構簡単にいった。

 

 たかが有幻覚で白蓮を騙せるのかと俺は思っていたのだが、それについてマーモンが言うには「有幻覚ではない、最早本物にしか見えないおしゃぶりを用意した奴がいた」とのことだった。

 当時は誰だろうかと思っていたが、今になったらわかる。レプリカを用意したのは恐らく味方らしいチェッカーフェイスだ。

 

 あと、カスチビが非トゥリニセッテの中でも行動できるように特殊なおしゃぶりカバーが郵送で送られていたが……一応あいつも手違いのアルコバレーノだからな。結構平気そうだったが奴はああ見えて慎重なようで、万一のことも考えてか身に着けていた。

 あれを送った奴はマーモンのお抱えの技術者かと思ってたんだが、もしかしたらあれもチェッカーフェイスか。あいつ、技術屋でもやってんのか?

 

 チェッカーフェイスに関する謎がますます深くなるばかりだ。俺達の味方をしているチェッカーフェイスと、敵対しているチェッカーフェイス……なんだ、チェルベッロみたいに双子説か?いや、片方は転生してるのか。

 詳しくは直接本人に聞くしかないな。あとそう、チェルベッロで思い出した。そもそも、俺はチョイスの話をしていた。

 

「チョイスのルールはあまりわからねぇが……人数はどうする?」

「ボスから借りたいな。こっちは実質的にコロネロと僕しかいないからね。ユニは戦力外だし、チェッカーフェイスの今の姿はボスも知っている、ボンゴレ寄りの人間だからね」

「……ボンゴレ?あいつが?」

 

 前世ではどこにも属さなかったような奴が、ボンゴレ?何を企んでいるのかと聞きたくなる。だが妙にマーモンの言い回しがおかしい。

 『今の姿はボスも知っている』という言葉、俺が奴に会ったことがあるみたいな言い方ではないか。

 

 俺の考えを読んだか、マーモンは「そうだよ」と頷いた。

 

「ボスは一度、彼に会ってる……あれを会うというのかはわかんないけどね。でもボスは彼の姿を見てはいるさ。彼はボンゴレ側だと認めたがらないけど、まぁ……守護者なんだから、ボンゴレ側だよね」

「守護者!?だ、誰だい?」

「守護者か。だとしたら、チェッカーフェイスはまさか――――雲雀恭弥?」

 

 沢田綱吉の守護者の中で、六道とは違うが沢田綱吉に忠誠を誓っているわけではない男、雲雀恭弥。

 他の奴らが沢田綱吉に従っている以上、六道を除外すれば残りは雲雀恭弥しかいない。

 

 そして、リング争奪戦で違和感を持った相手も雲雀恭弥だ。

 六道に挑発している姿を見て違和感を抱いていたのだが、まさかチェッカーフェイスだったとは……それならわかる気がする。

 あいつも確か霧属性だったな。互いに相容れない存在で、しかも奴の性格上挑発は上手いだろう……相手を欺くことも上手そうな、デイモンと似ている外道術士なのだからな。

 

 で、一体何がどうなってる?

 




おま毛~その頃のイェーガー~

 不気味な鼻歌が復讐者の牢獄内にある牢番の部屋にて響き渡る。その近隣の牢屋にいる囚人たちはあまりの不気味な音色に身体を震わせる。

 一体誰が歌っているのか。彼らの脳裏によぎるのは黒い悪魔の姿をした何か。悪魔が牢番をしているのか。復讐者の包帯を外せば悪魔なのか。

 まさか囚人たちは歌っている者が料理を作っていること。そして包帯を外しても別に悪魔ではないことを知る由もない。


「も~りの~くまさんに~であ~った~」
「イェーガー。あなた、歌が下手だわ」
「何を言っている。この歌唱力、復讐者一だ」
「あら、そう?私は凪ちゃんを推すけど」

 エレナが挑発的に笑う。その笑みを殴り飛ばしたいと言わんばかりに睨むのは、オーブンの前で座り込んでいるイェーガーだった。
 何故座っているのか。それはオーブンの中に入っている物の行く先を見届けているからだ。焦げてしまっては意味がない。最高に美味な瞬間を狙って、熱き地獄の中から解放しなければならない。

 立って調理しているエレナを結果的に見上げる形となっているイェーガーだが、誰も男の上目遣いなんて見たくないのでその描写はカットしても構わないだろう。
 エレナは包丁を片手にイェーガーを鼻で嗤った。

「凪ちゃんの次はマーモン、その次が私かデイモンね。XANXUSは歌ってるところが予想できないから論外。私は敢えて音痴だということにしておくわ。でもあなたよりきっとマシよ」
「ではバミューダは?」
「音痴ね。XANXUSと五分五分かも」

 そうなれば結果的にイェーガーがビリということになる。それに気づいた彼はその大きな手をエレナに向けた。

「ここで実力差を思い知らせてやろうか、小娘」
「短気は損気よ。あら、そのパイ、焦げそうじゃない」
「ななな、なんだと!」
「まだまだね~ふふふっ」

 慌ててオーブンに向かうイェーガーに笑みが抑えられないエレナ。オーブンから取り出した二種類のパイを見てほっと安堵の息を吐くイェーガー。
 復讐者のトップを争う料理家たちが調理器具を片手に戦いに参戦する日はそう遠くはない。

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