憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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お久しぶりなのです。叶うならばザン様にテストをカッ消してもらいたいです


22 未来編始動、動き出した歯車

 大空戦からもう直ぐ十年が経つ。正確に言えば九年と数ヶ月だろうが。

 凪を伴って俺が来た場所は、たまに寄る復讐者の牢獄。脱獄がほぼ不可能とされた出口のない地獄。

 ここに来たのはそこにいる、他称「極悪囚人」達に用があったからだ。

 

 

「僕が言った通り、沢田綱吉が過去から来たでしょう?XANXUS」

「そうだな。で、テメェはどうするんだ?」

 

 牢屋にしては豪華な部屋に住む男、六道はニヤリと口角を吊り上げた。明らかに何かを企んでいるその笑みに碌なことじゃねぇと溜息が出る。

 そして俺の予想通り、やはり碌なことじゃなかった。

 

「情報を集めておきたいので、もうしばらくここに居させてください。代わりにミルフィオーレの情報を流しますから」

「良いだろう。だが情報収集が終わり次第、テメェは出す……いつも思うが囚人を守る牢番なんてここだけだろうな」

「ですが、感謝していますよ。おかげで僕はボンゴレ狩りの対象外ですから」

 

 そう言って笑う六道は、彼是十年程牢獄に世話になっている。

 

 沢田綱吉がボンゴレを継いだ時も、その継承式は欠席していた。まぁ、牢に繋がれていたから出られるわけがない。

 対外的にはボンゴレの守護者になっている六道は最近始まったボンゴレ狩りの対象だが、ミルフィオーレの連中がここに来て奴を殺せるわけもないので、こいつは実質的に免除だ。

 

 それが良いことなのか悪いことなのかは俺にはどうでもいい。沢田綱吉は死に、六道は奴が最後に送った手紙に従って未だにここに残っている。

 本当は既にこの男は釈放されているのだが、理由があって残っている。それが今回のミルフィオーレへの潜入計画だ。

 

 釈放される筈の囚人なので、他の囚人と同じ扱いをしてもおかしいということでこいつの部屋は普通の部屋と変わらない。

 俺達は奴の希望を聞くいわれもないと当初は一蹴したが、事情が変わって奴を残しているのが現状だ。

 

 その事情の一つに、数年前に投獄されたある男の存在がある。

 

「やっと動くんだね骸君。でも気を付けてね。きっと彼女のことだから君が来るのを知っているよ」

「ええ、しかし見逃されている範囲で暴れ回るとしますよ。少しでも情報が欲しい状況ですので……忠告ありがとうございます、白蘭」

「蘭の名は捨てたよ。今はただの(はく)

 

 今にも壊れそうなほど繊細な笑みを浮かべたのは、前世では世界征服を企んだ男、白蘭。

 だがこの男は世界征服など企んでいない。そういう野心はないし、こいつにはついて来る部下もいなかった。

 

 こいつの台詞にある「蘭の名は捨てた」というのは、こいつがミルフィオーレには所属していないという意味合いを持っている。

 しかし周りは嫌がるこいつを真六弔花の位置に召し上げ、そして今は復讐者の牢獄に投獄されている。

 俺が哀れんでしまうほどの運のなさだ。だがこいつはここでいつも幸せそうに笑っている。

 

「でも心配だなぁ。白蓮、人の心を手に入れる薬を持っているし。骸君、白蓮がくれたものは食べたり飲んだりしないで。あと、においにも気を付けてね」

「憑依するだけなので実体には影響がないと思うのですが……まぁ、何を隠し持っているかわかりませんしね。気をつけます」

「うん。それでよし、だよ」

 

 無邪気な笑顔で場を和ませる白蘭、もとい白。こいつの監視官は凪となっているが、子供のようなこいつを結構可愛がっているらしい。

 たまに餌付けしているのを見かけた。

 

「では、僕は行ってきます」

 

 ミルフィオーレへ潜入するのか、六道は横になって眠りについた。精神を器に飛ばしているのだろう。

 六道からの反応がなくなり、退屈になったのか白はこちらを見た。

 

「XANXUS君達はどうするの?寂しいからまだここにいてほしいなぁ」

「俺は帰るが凪は置いておく。六道が戻って来るまで凪、お前はここにいておけ……あいつに何かがあったら困るのは俺達だ」

「了解、ボス」

 

 六道のこともあるが、白の精神安定のために凪を置いておく。事前に話をしていたので事情を把握している凪はすぐに了承した。

 用意した椅子に座って白の話し相手になる凪を見てから、凶悪な囚人達を収容していると思えない豪華な牢獄を後にした。

 

 

 牢獄の近くにある俺の家に戻ればカスチビが新聞を読みながら片手を上げた。

 

「おかえりXANXUS君。凪君は向こうかな?」

「あぁ。それにしても前世の記憶はこうなってしまっては殆ど役に立たねぇ」

「ザマァ!と言いたいけど、事情が事情だしなぁ……僕らは別に戦う必要がないって前に聞いていたから余裕面してたけど……」

「そんなわけにもいかなくなったな」

 

 嫌なことにカスチビと溜息のタイミングが重なった。気付かなかったことにして続ける。

 

 

「まさか白蘭が二人いるとは思いもしなかった」

 

 そう、前世なら白蘭は一人だった。いや、正確に言えば二人いたが、一人は沢田綱吉に吸い込まれる運命にあったのと人ですらなかったので含まない。

 だがこの世界の白蘭は、生身の人間で二人もいる。

 その内の一人はこっち側にいるが……厄介な奴の方がミルフィオーレを率いている。

 

 厄介な白蘭。この世界では白蓮と名乗っている、女である。

 ……そう、女だ。それだけで嫌な予感が尋常じゃねぇ。

 

 女で、白蘭が二人いる。この状況で考えられるのは十年以上前の俺の名を名乗ったカス女の出現と同じこと。

 姉弟関係で、俺のように勘違いがどうのこうのとか、俺になるために云々とかはないが、それが余計に事情を複雑化させている。

 

 複雑化してよくわからないことになっているが、整理して考えてみると実は結構単純だ。

 前世と違うことは多々ある。しかし基本は同じ。

 

 例えば俺達側の白蘭は、前世の『GHOST』扱いだ。

力を強制的に暴走させられ、善良なマフィア共を抹殺した。その罪で投獄された奴は、実は雷の真六弔花である。

 

 だがあいつはミルフィオーレに戻ることを恐怖している。このまま永遠に閉じ込めてくれと泣きついてきたくらいだ。

 まさか奴が泣くとは思ってもなかったので、奴に縋りつかれた俺と凪は『未だかつてないほどシュールな顔』をしていたらしい。カスチビ談だが。

 

 それで、白がミルフィオーレに恐怖している理由は至って単純だ。白蓮の存在に恐怖しているからだ。

 あいつから聞く話によると、ミルフィオーレ結成時のボスはユニと白の二人だったらしい。

 俺達の世界とは違い、この世界の二人の仲は良好で同盟も賛成されていた。そして、そこに白蓮の入る隙はなかった。

 

 だがある日、白蓮が急に強力な力を手に入れてミルフィオーレにやって来たことが全ての始まりだったらしい。

 

 ユニはおかしくなり、白は自身の部下たちに裏切られた。

 匣兵器を身体に埋め込まれる実験の最初の実験体となった白に、白蓮はこう言ったそうだ。

 

「今まで可笑しいと思っていた。白蘭が何故ユニと仲が良いのか。そして白蘭が何故ユニの心を壊さないのか。色々考えて、このリングを手に入れた私は気が付いた――そう、私が白蘭だった!!パラレルワールドの知識を知る能力は、アンタじゃなく私が持っていた!だから、私が白蘭!!ミルフィオーレを手にし、世界の頂点に立つのは私!」

 

 狂ったように笑う奴の指には、羽のついたリングが嵌められていたと白は言っていた。

 つまり、マーレリングに認められたのは白ではなく奴だった。

 

 パラレルワールドを網羅する能力を持つ白蓮は、俺達の知る白蘭のように暴走し始めた。

 今まで白と親しかった部下たちは全員が狂ったように白蓮に盲信し、白は蔑ろにされた。終いには六道のように実験の被害者となったのだから、もう何も言えまい。

 そんなこともあって、六道は白にはやたらと優しい。

 

 部下に裏切られ、親しかったユニも別人のようになり、白の心は崩壊していた。

 そんな折に力を暴走させて投獄されたところで、俺達に会ったわけだ。

 

 白蘭という存在を警戒していた俺達は、ミルフィオーレ結成のときも注意深く監視していた。

 だから、ミルフィオーレ結成時の白と投獄されたときの白の余りの変わりように絶句したものだ。

 

 マーレリングに認められてもおかしくないほど、ボスとしての覇気やカリスマを持っていたあの男が、子供のようにただ周りに怯えていたのだから。

 

 白を保護した俺達は、それからミルフィオーレの監視を厳しくした。だが、内部に入るには危険すぎると白蓮の力を危惧したカスチビにより、外側だけ監視をしていた。

 しかし沢田綱吉が何やら企むようになり、六道が内部に潜入することになった。

 危険なマフィアの監視のために潜入するならばと、俺達は結果的に六道の本体をミルフィオーレから守りながら奴に潜入させることにした。

 

 ある意味、六道を通してボンゴレと組んでいる状態だが……今回は致し方ない。

 沢田綱吉の計画には目を瞑り俺達は六道を保護している。その代わり、六道は保護してもらうために潜入して得た情報を俺達に流す。

 このように利益が互いにあるため、今回は組んでいる状態だ。

 

「だが前のように今回は上手くいくのやら……白蓮とかいう奴、前の世界での出来事を知っていそうだな。例のドカス達のようにな」

「確かに『ユニと白蘭の仲が良いのはおかしい』なんて考えるの、仲が悪かったってことを知っていないと言わないよね」

 

 パラレルワールドからの知識なのかそれとも違うところからの情報からか、白蓮は俺達の前世かもしくはそれと似たような顛末を迎えた世界を知っているということだ。

 ということは、奴は奴にとっての最悪な未来を回避する可能性がある。

 

 ユニは恐らく殺さない筈だ。最後の最後まで閉じ込めて、アルコバレーノの復活を断固阻止するだろう。

 だが納得がいかない点もある。

 

「ユニの魂があってこそ奴の野望が叶うだろうに、何故心を壊したのか……手懐けた方が有利な筈だが」

「ユニ君は白君と仲が良かったんだろう?だったら、白蓮とは仲が悪い筈だよ。何せ全てを壊したんだから。それで白蓮はそのままユニ君の心を壊した……そう考えた方が自然だ」

「だがここのユニの魂が無事であるという確証がないとできないだろう。俺達の世界では確か、パラレルワールドを渡れる能力があったからこそユニは無事だったと聞いた。だが白蘭はそれを知らなかったぞ」

 

 そうして、ユニの存在の重要さを知って手に入れようとした。これが俺達の世界での流れだ。

 この流れで最も重要なのは、ユニが偶然パラレルワールドを渡れる能力を持っていることにある。つまり、ユニが力を持っていなかった場合、ユニは精神的に死んでいることになる。

 ユニが精神的に死ねば奴の計画は失敗する。世界征服をしてもトゥリニセッテを制することができない。

 

 また、白が語る「ユニのおかしさ」は俺達の知る「ユニの傀儡化」と同じなのかどうかも疑問が残る。

 同じ劇薬を使えば同じようになるのは明白だが……白の話を聞く限り、俺達の知るユニとはどうも違う。

 

「太陽のような笑みではなくて道化師のような笑み。守護者であるγを邪険に扱い、白を熱い視線で見つめていた。白蓮とは仲が悪く、言い争うことも多々あった……どう考えても違う奴にしか思えねぇ。どっかの術士に憑依されたのか?」

 

 パラレルワールドだからと言ってその人間の本質的なものが消え失せるなんてことは考えられない。

 俺や凪、マーモンも色々変わりはしたが根本的なものは変わっていない筈だ。パラレルだからこそ違いが少しあるだけであって、同じところが大半。

 だというのに列挙できる数ほど変わっているとすると、それは最早別人だ。

 

 果たして白蓮の使った劇薬は一体何か。ユニの性格が激変したのは何故か。疑問が残り、動くこともままならない。

 せめて六道が有力な情報を掴んでくれたらいいのだが……

 

 六道が情報を掴まなかったらあいつを簀巻きにしてミルフィオーレ本部の前に捨ててやる。

 

 そんな決意を固めていると、カスチビがファンシーな文字で「予定表」と書かれた紙を目の前に突き出してきた。

 それはファンシーな見出しとは裏腹に、俺と凪が記憶にある限りの未来での出来事を書いた真面目な表である。

 見出しのデザインをしたのはカスチビであり俺ではないと敢えて言っておこう。

 

 カスチビから紙を受け取り、なんとなく流し読みする。

 

「俺達の記憶と違うところが多すぎる。特にアルコバレーノがな……」

 

 俺達の記憶ではアルコバレーノはユニを除き全員死んでいた。それはマーモンも含まれている。

 だが、今回は一部を除きアルコバレーノは生きている。しかもミルフィオーレはそれを知らない。

 奴らは非トゥリニセッテを放射してアルコバレーノの動きを止め、そしてアルコバレーノを殺したと思っている。

 

 ここで疑問に思うだろう。おしゃぶりを回収しているのにアルコバレーノが生きているのはどういうことだ、と。

 俺も最初聞いたときはこれを報告してきたマーモンの頭の中身を疑ったものだ。

 

 

 予定表から視線を外し、丁度点灯したスクリーンを見る。

 そこには、本来なら死んでいる筈のマーモンが相変わらずのフードを被ってスクリーン上に映っていた。

 

「やぁ、ボス。僕は元気だよ。元気がありすぎてコロネロをパシリにして王様ごっこしていたくらいだ。彼はもう僕の奴隷だからね、ボス。僕の奴隷はボスの奴隷。つまりコロネロを自由に指図できる権利はボスにもあるんだよ。というわけでねボス、コロネロに何か命令してよ」

 

 ここ十年でマーモンは変わってしまった。前から酷くなったがそれに拍車がかかった。

 デイモンを凌ぐ鬼畜さと、エレナを凌ぐ暗黒的な何かを奴は修得してしまっていた。

 

 凪が奴の影響を受けずに真っ当なのは、真っ白すぎる白が近くにいたからではないかと俺は何となく思っている。

 これ以上暗黒物質が増えてはならないので凪は今のままが良いのだがな。

 

 それにしても、何故マーモンが激変したのかは俺にもわからない。ストレスで人格が変わったのか、それともこれが本性だったのか。

 前者の方がまだ救いようがあったと思う。後者だったら……いや、えげつないのも良いかもしれんな。対外的に。

 

 さて、マーモンが先程から奴隷と言っているコロネロだが。こいつもマーモン同様、俺達の世界では死んでいた筈の奴だ。

 しかしこの世界では何故か生きている。その理由は俺も詳しくは知らない。というのも、マーモンが珍しく口籠っているからだ。

 

 言えないわけではないらしいが、何やら重要機密があるらしい。矛盾しているようだがマーモンはアルコバレーノの秘密を順守するために、俺達には言っても構わない情報を秘匿しているのだとか。

 アルコバレーノ関連の話に頭は突っ込みたくないので俺は黙っている。カスチビはいつも知りたがっているがな。

 

 先程まではマーモンしか映っていなかったスクリーンには、金髪の赤ん坊が映っていた。

 言うまでもない、奴隷宣言をされたコロネロである。

 

「頼むから何か命令してくれ、コラ!じゃないとマーモンにもっと酷い命令を……」

「ムフフ」

「ギャーッ!!」

 

 コントをしている赤ん坊共を無視したいところだが、マーモンが通信をしてきた以上用件を聞かなければならない。

 面倒だが、とてつもなく面倒だが、仕方なくマーモンに声をかけて用件を尋ねた。

 

 マーモンの用件は至って簡単だった。

 

「そろそろアルコバレーノの秘密を話すからという連絡がまず一つ。あと、時期が来たらそっちに戻ってチョイスに割り込むからね、ボス」

 

 最初の方は「あ、そうか」で終わった。そこまではいい。だが、その後に続けられた言葉が頂けない。

 画面で悪戯が成功したと言わんばかりに笑う奴を睨む。

 

「何故チョイスに割り込む。俺達は囚人を預かっているだけでありマフィアの戦いに顔を出すいわれはないだろう」

「いんや、ボス。正当な理由があるよ。それに僕達はチョイスに賭けるモノがある。本当はこんなものを賭けるつもりはないし反吐が出るけど、やらざるを得なくなった」

 

 思いもよらぬマーモンの言葉に自然と眉間に皺が寄る。チョイスに参加せざるを得ない理由か。俺には関係ないだろうが、そもそもボンゴレ対ミルフィオーレの戦いに復讐者が混じっても良いのか。

 いや、マーモンはどっち側で戦おうとしているのかが問題だな。

 俺達復讐者は戦いに関係がない以上、必ずどっちかにつくだろう。六道がここにいて、ある種の協力関係を結んでいるのであれば、俺達はボンゴレと組んでいるのだろうが……。

 

 だがそれは極秘であるため公式にはできない。だとすれば、マーモンは一体何を考えて。そして何を持ってチョイスに挑もうとしているのか。

 ボンゴレがボンゴレリング、ミルフィオーレがボンゴレリングを除くトゥリニセッテを賭けるように、マーモン達は何か賭けるモノがあるというのか。

 

「お前らが賭けるのは何だ?」

 

 奴が答えるとは思えず、答えには期待していなかったが、意外なことにマーモンはその問いに答えた。

 フードの下で笑みを形作った奴は、とっておきと言わんばかりにとんでもないことを言った。

 

「僕達が賭けるのは僕とコロネロの本物(・・)のおしゃぶりと本物(・・)の大空のマーレリング、そして――――本物(・・)のユニの魂だよ」

「……テメェらのことは生きているからおしゃぶりも持っているとは思っていたが……マーレリングにユニの魂だと?どういうことだ?」

「マーレリング……正確に言えば大空のマーレリングだけど。それは、白蓮ではなく白蘭に渡されるものだよ。チェルベッロがマーレリングを白蘭に渡す前に白蓮が誰かから(・・・・)リングをもらったらしくてね」

 

 白蓮にリングを渡した人物。マーモンの話を聞く限り、チェルベッロとは関係がないのだろう。

 だとしたら俺に心当たりがあるはずもない。ただ、マーモンは明らかに何かを知っているかのように口にしている。

ニヤリとわかりやすく笑ってまで、こいつは何を伝えたいのか。焦らされるのは嫌いだ。

 

「テメェがここまで回りくどいということは、大方知っているんだな」

「やっぱりボスにはわかっちゃうか。そうだよ。白蓮にリングを渡した奴はもう誰かわかっている。わかっているけど……正直、僕らの手には負えない奴だよ」

「君がそこまで言うのなら、相当ヤバくてイカれた奴なのかい?」

「あれ、バミューダ。いつの間にいたの」

「僕は最初からここにいたよっ!!」

 

 俺も気付かなかった。あまりにも影が薄すぎて。

 俺とマーモンが会話をしている間に気を利かせたかと一瞬考えたのだが、思えばこいつはそんな気の利く奴ではない。

 

 だったら俺の近くにいたということになるが……無言だったからか、すっかり奴のことを忘れていた。

 忘れられたカスチビは怒りを露わにして「ぷんぷん!」とふざけたことを言っている。

 

 こいつがいると話が進まないので近くにあった置物で潰しておく。

 

「むぐぐ……自由の女神ェ……」

「で、マーモン。先程から尋常にない程の嫌な予感がするのだが……もしかして、白蓮に支援をした奴は……」

 

 俺が最後まで言い終える前に、マーモンがその一言を言い切った。

 

「チェッカーフェイスだ」


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