憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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2 歩む道は既に違えた

 俺が再び俺として生まれ変わって数年が経った。母親だと認めたくないあの女は、既に俺の父親が誰かも覚えていないほどイカれちまっている。

 

 この状況下で炎を灯すバカはいねぇ。この状況で炎を灯した前世の俺はバカだったのか?まあいい、前世は前世だ。今世は賢く生きてやる。

 

 まず考えることは、この女からどう離れるかだ。

 

 どうやら父親似の俺は手放したくないらしく、イカれ始めてからずっと俺は家から出ていない。いや、出させてもらえないと言った方が正しいか?俺が外に出ようとすれば泣いて止めようとする。

 

 

 縛られる人生は御免だ。このままでは、炎を灯さずとも監禁生活で死に絶える未来しか浮かばない。

 

 まず、この家を出ることを最優先に考える。ここから出ること自体は簡単だが、問題はその後だ。家を出たとしてもどこに向かえばいいのか。

 

 カスボンゴレに向かうのは論外だ。俺はもうアレには捕らわれないし、縛られるつもりもない。自由に生きるつもりだ。

 

 その為には、誰にも邪魔させねぇ…例えそれが、母親であってもな。もし邪魔をするようならカッ消せばいいだけの話だ。

 

 

 そこまで考えてふと閃いた。

 

 

 この状況で炎を出して、そのまま姿を消せばどうなるだろうか。

 

 母親は妄言に囚われて九代目を探すだろう。だが、九代目が見つかる前にこちらが先に逃げ切ればどうだ?

 

 炎を灯せると知った母親の拘束が以前より強くなるのは明白だ。だが炎を使えるということを知っている以上、母親の目の前でも灯せる利点がある。

 

 

 先程言った「この状況で炎を灯すバカはいねぇ」という言葉は取り消そう。寧ろ、この状況で灯さずしていつ灯す?

 

「それは、ボンゴレ直系に伝わる死ぬ気の炎…!ああ、貴方の父親はボンゴレⅨ世なのよ!」

「そうか」

 

 思いついたら即実行。それがヴァリアークオリティだ。…少し違うか?

 

 早速炎を灯してみれば、目ざとく見つけた母親は妄言を吐いた。くだらねぇと思うが、前世の俺はこれをずっと信じつづけていたんだな。

 

 あの時のことを思い出すと、前世の自分をカッ消したくなった。そんな見え透いた妄言に騙され続けた俺は、間抜けか馬鹿かそれともカスか。あの時は年齢通りのガキだったとはいえ、騙されたのは気にくわねぇ。

 

「お父さんに、ボンゴレⅨ世に会いに行きましょう…。ボンゴレⅩ世になるのはお前よ。XANXUS!お前の名はXANXUSよ。十代目を示すXが二つもある最高の名前よ!」

「そうか」 

 

 母親から再びXANXUSという名前をもらった。前世も同様だが、この女には一つだけ感謝している。

 

 それは、俺の名前を"XANXUS"にしたことだ。この名前をもらう前はありふれた名前だった。そんなありふれた、どこにでもいるような名前は俺に相応しくねぇ。

 

 今世でも、今まで使っていた名前はどこにでもいるような名前だった。母親に付けられたこの機会に、この名前を今世でも使っていこう。

 

 

 新たに決意を固めた際にふと疑問に浮かんだ。"XANXUS"に使われているXが二つあるという意味は一体何だろうか。

 

 母親に言われたから前世の俺も「俺は名にXの称号を二つ持つ男XANXUS」と吹聴していたが、二つ持っていて何になるのか。今更疑問に思ってもどうしようもないが、気になってしょうがない。

 

 別に一つでもいいはずだが何故二つ?俺の知る限り、俺の名に最も近い名前は"XANTHUS"である。Xは一つで何ら問題がないが、わざわざスペルを変えて何故Xを二つ付けたのか。

 ちなみに"XANTHUS"はギリシャ語で"金"という意味である。俺よりマーモンに相応しいと言えなくもない。

 

 名前に付いてとやかく言うのは止しておこう。なんだかんだ言って名前には愛着があるからな。

 

 

 話を戻すが、この名前は結構気に入っている。その主な理由は、前世ではその名前がある種の恐怖の象徴だったからだ。

 

 最強の暗殺部隊を纏め上げるボスとなれば、恐れられるものだろう。ボンゴレの穢れ仕事を請け負っているからな。

 

 綺麗なボンゴレは、ヴァリアーに仕事を押し付けて穢れなき状態を保っていた。今考えてみれば結局それを考えるあたり、ボンゴレも穢れた組織だな。

 何が市民に尊敬されるマフィアだ。やってることは他と変わりしねぇ。

 

 

 ボンゴレに入る気のない俺は、XANXUSという名を"ヴァリアーのボス"として恐れさせるつもりはない。

 

 組織の中の一人として恐れさせて満足していたとは、今となっては情けなく思う。更に恐怖に陥れたいのなら、独りで活動して名前を聞いただけで竦み上がるような存在になれば良かったのだ。

 

 カス共は俺に恐怖を抱きつづけ、俺に傅けばいい。それは今世でも同様だ。俺はその名前を耳に入れただけで震え上がるような存在であるべきだ。

 

 

「XANXUS、ご飯だよ」

「XANXUS、もう直ぐお父さんと会えるからね」

 

 母親からそう言われ続けて1週間。まるで媚を売るようなその姿に虫唾が走る。自分の子が"ボンゴレⅩ世"になるかもしれないと思うとここまで変貌するのか。

 

 一週間となれば、そろそろクソジジイが来るかもしれねぇ。

 

 そして俺の勘が今日逃げた方が良いと訴えている。超直感ではないだろうが、自分の勘はよく当たる。

 

 明日辺りにジジイが来るのだろう。逃げるのは、今日だ。

 

「おい」

「どうしたのXANXUS。調子が悪いの?」

「俺はボンゴレⅨ世とやらのカスの元にはいかねぇ」

「どうし、」

「テメェはカッ消す――証拠隠滅だ」

 

 母親の言葉を遮り、憤怒の炎を今の時点で解放できる限りの力を一度に放出した。眩い閃光が視界を覆い、晴れた時には家のあった場所は更地へと変わっていた。

 

 俺は炎を灯して家ごと母親をカッ消した。言葉通り、証拠隠滅だ。母親なら、俺が家出をしたところでボンゴレに俺を捜索させるはずだ。

 

 「ボンゴレの嫡子が誘拐された」とでもほざけば、ボンゴレは動かない訳にはいかなくなる。何せ、向こうは俺が死ぬ気の炎を灯せることを知っているからな。

 

 死ぬ気の炎を持つ俺を他のファミリーに渡さまいと、恐らくボンゴレは必死になって探す。だからこその、証拠隠滅だ。

 

 これでボンゴレが親子共々死んだと思えば、俺の目論みは成功する。

 

 

 何も無くなった家の跡地を一度だけ振り返って、この場を立ち去る。目的地はイタリアから遠い場所だ。

 

 どこに行くかは決まっていないが、とりあえずイタリアから去るのが先決だ。警戒しておいて損はしない。

 

 

 夜の街を走り抜けると、嫌でも体力のなさを自覚できる。体力は前世と比べるとカス同然。

 

 閉じ込められた家の中でできるだけの鍛錬はしたとはいえ、今の実力では並の暗殺者よりも弱いだろう――――炎がなければ。

 

 現時点では、死ぬ気の炎を扱う時代がまだ到来していない。そのため、死ぬ気の炎――特に憤怒の炎の火力はそこらの火器類よりある。

 

 その一方で、強大な力を扱う人間としてボンゴレに情報が伝わる恐れがある。

 

 ボンゴレに知られるリスクがあるが、離れた場所で活動している限り奴らと関わることはない。

 

 無論、追いかけてきたらカッ消すが。

 

 

 それからは、目についたマフィアの基地をカッ消し、金を奪って資金にしていた。生きるためには金が必要だからな。マーモンほどではないが、俺にも金欲はある。

 

 俺が消すマフィアは、人体実験をしているカスなマフィアばかりであるため問題ないだろう。復讐者は善良なマフィアをカッ消したら出てくるが、そうでないカス共の場合は干渉してこない筈だ。

 

 奴らに何か言われても問題ないように、ついでに捕まっていたガキを解放してやる。これを行うことによって、ただ資金欲しさにカッ消しているとは思われなくなる。

 

 にしても、人体実験は大人よりガキが多いのは適応力を考えた上らしいが――くだらねぇな。

 

 

 六道骸が俺を「マフィアの闇そのもの」と言いやがったが、それは間違いだ。奴の言う"マフィアの闇"は"マフィアの闇"らしい俺でもわからねぇ。

 

 だが、ジジイをモスカに押し込んだ俺と、人体実験をしているカス共のどっちがマシだと訊かれたら、100人中100人が俺だと答えるだろう。

 

 人体実験しているカス共がマシだと言った奴は恐らく変態的思考を持つカスか、老人が相当好きなカスだ。どちらも限定的だから大抵は俺だと答えると思うが。

 

 

 ヒーローになるつもりはないが、カスマフィアがいるとイライラするのは仕事上仕方がねぇ。前世の俺はそういうカス共をカッ消す任務を請け負っていたからな。

 

 勘を頼りながらカスマフィアだけを狙ってカッ消し、ついでに実験体も開放する。理性が無いただの獣になった実験体は、俺がカッ消す。

 

 理性がないただの獣は親に会えたところで捨てられるのが目に見えている。異質な力を持つ者を拒絶するのは人間のくだらない感情の一つだ。

 

 

 マフィアをカッ消すだけの退屈な日々送っていた俺に、変化が訪れた。前世にはない、大きな変化だった。

 

 

 目の前に黒い炎が現れたかと思うと、忘れもしないあいつ等が目の前に現れた。

 

 前世の俺を傷めつけやがった憎き黒い集団。ヴァリアーの黒と被っているのが気に障る。黒には良い思い出がない。

 

 黒い炎と言えば、復讐者。

 

 そう、復讐者が目の前に現れた。俺はマフィアではないにもかかわらず、奴らが現れたとなれば何かある。

 

 何を企んでいるのか知らないが、俺をカッ消すつもりなら先に奴らをカッ消すまでだ。


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