憤怒の暴君、転生する 作:鯱丸
前回「あいつら(雲雀・骸)に気付かれずに(リングを)拾ってそのままトンズラしていた」という言葉の詳細なのです。
この辺りは原作と違っていた為解説を入れましたです。
話には一切影響がないのですが一応、入れておきますです。
俺が包帯を取ったからだろう。カメラも俺の顔に焦点を当てている。そして視線も集中している。
「う、うそ……っ!?」
「XANXUSと同じ顔!?」
「ボス!?」
『うお゙お゙ぉい!どういうことだ!?XANXUSは本当にいたというのかあ゙!?』
沢田綱吉を筆頭に、跳ね馬やらヴァリアーのカス共やらカス鮫やらが一斉に煩わしくなる。
カス鮫は事情を知っていることもあり、色々知っているようだが。女はカス鮫だけには全てを明かしたのか。
気になりはするが、明かしたかどうかで何かが変わるわけでもないか。
ともかく、鬱陶しいな。
女は俺の顔に見覚えがあるのか、ここで初めてまともに顔を合わせたというのに喜色を浮かべている。
その僅かに浮かべられた表情が、前世のあの女と似てもないのに似ているのは……同類なのか?
女を見下ろしながら、誰が聞いてもわかるように流れを教えてやる。
「XANXUSという名前を妄想に憑りつかれた女につけられたガキは、母親をぶっ殺して証拠を隠滅し、ボンゴレの捜索をかく乱した……だがその直後に、偶然にもXANXUSとよく似た女がXANXUSとして拾われ、ボンゴレの御曹司になった。これが真相だ」
この事実に最も驚き、そして納得したのがあの女だった。
不可解なことに女は安堵したように息を吐いた。
「既にXANXUSがいるのなら……私は、私としてヴァリアーにいても……いいよね……?」
小さく、カメラのマイクすら拾えない声で呟く女。俺に対して言っているのか、許可をもらっているつもりなのか。
俺が何も言わないのを良いことに女は続けた。
「ヴァリアーのボスはXANXUS、あなたにあげるから……だから、私をヴァリアーにいさせて……」
ボンゴレを騙してXANXUSを名乗り、今更本人に会ったから帰すだと?馬鹿馬鹿しい、答えは一つしかない。
「笑止。さっさと死ね」
まだ殺すつもりはないので、まずは腹に蹴りを叩きこむ。
と、凪が珍しく声を上げて笑った。
「どうした凪。楽しそうだな」
「容赦ない一言に流石だと思って」
「そうか?」
女が何かをする前にその腕を踏みつけ、強く足を押し付ける。骨が軋む音が、立っている俺にも聞こえてきた。
苦悶の顔を浮かべ、汗を流す俺とよく似た顔と言われている女。俺も似ていると思ったが訂正しよう。全く似ていない。
こんな顔をしている奴が俺のわけがねぇ。
「ま、待って……!どうして、なんでこんなことを!!」
甘ったれなクソガキ、沢田綱吉は俺の予想通りに口を挟んできた。だがここで事実を突きつけて黙らせる。
「敗者への制裁内容を教えてやる。ボスをカッ消すことだ」
一瞬で沢田綱吉の顔が絶望へと化した。奴に続いて、一般人出身の奴らが多い沢田綱吉側は顔色を悪くする。
そうだ、恐ろしいんだ。自分の知り合いが、しかも一般人である沢田綱吉が同じ目に遭ったのかもしれないという恐怖を奴らは今、感じている。
俺が最初に沢田綱吉達に恐怖を見せると考えていたのは、つまりはこれのことだ。どちらにせよ奴らにはこっち側の闇を見ることになるからだ。
今まで戦った相手に沢田綱吉は非情になれなかったらしい。震える身体を叱咤しながら立ち上がり、震える声で俺に威嚇した。
「死ななくても良い戦いなんだ、こんなことをする必要はないんだ!」
「テメェが決めることか?九代目、否……依頼人の望みなんでな。なんでも、敗者に制裁を下すヴァリアーの規則を、ボスにも適用したいとか」
マーモンと口裏合わせて決めたもっともらしい理由だ。実際、マーモンの望みでもあるので嘘ではない。
その本人は必死に他の幹部達に混じって女を案じているフリをしているがな。あいつ、生まれ変わってイイ性格になったと思う。デイモンのように楽しむようになってきたな。
恐らく、あれが術士の最終地点だ。あそこに行ったら手遅れだ。
凪もそろそろ最終地点を突破しそうな勢いだ。ちらりと凪へ視線を寄越せば、不思議そうに目を丸くさせた両目と目が合った。
今はまだ、大丈夫そうか……?
そんなことを思っていると、足の下にいるカスのまだ無事な腕が動いたので一発炎を撃っておいた。
こんな奴からは一発ももらいたくねぇ。
俺の狙った炎は腹に命中。風穴があいたようだ。
これで死んでもらったら楽しめなくなる。少しくらいは施しを与えてやろう。
こちらを伺っていたベスターを手招き、風穴を指して命じる。
「ベスター、穴を塞いでやれ。慈悲をくれてやる」
「ガオォオッ!!」
「や……やめて……!」
困ったベスターだ。なんと、穴を塞いでやるどころか下半身を全て石にしてしまったようだ。
穴だけと言ったんだが……コントロールが難しかったということにしておこう。
申し訳なさそうに鳴くベスターの慰める役目は凪に丸投げして、石になってしまった女の足に自分の足を乗せた。
「ん?崩れたようだ」
なんとこの女の身体、予想外なことに大変脆かったらしい。呆気なく崩れてしまった。
だが周りは俺が体重をかけて崩したように見えたようだ。
マイクとカメラからこの状況を監視しているカスチビの煩わしいその声は、俺のアクシデントを故意にやったものだと断定している。
『崩れたんじゃない、崩したんだろ!!』
失礼なカスチビだ。崩したのではなく崩れただけだ。
『うお゙ぉお゙い!!跳ね馬ぁ!今すぐこっから出せえ゙ぇ!!マーモン、今すぐ結界を解け!』
カスチビにこっそりと訂正していたらカス鮫が女の元に行こうと暴れ始めたようだ。跳ね馬もこんな奴のお守なんて大変そうだ。
また、カス鮫はマーモンの小細工のことを知っていたようだ。もしくは奴が指図したのか。
マーモンが聞くのかどうかは知らないが、別に出て来ても構わない……そう思って合図を送ろうと思ったのだがあいつはやはり手遅れだった。
何かをやろうとする仕草をした後、マーモンはフードに隠された顔だというのに雰囲気で焦りを大袈裟に表現し叫んだ。
「ス、スクアーロ!僕の仕掛けが、何者かに乗っ取られて主導権が奪われた!!」
『なんだとお゙ぉ!?』
こいつ、自分でやってる癖して存在しない他人に責任を押し付けてやがる。どうもカス鮫を出したくないらしい。
いや、カス鮫の思い通りにいかせたくないからなのか?術士の考えることはあまりわからない。
勝手に行動するマーモンのフォローするのも仕方ない。
奴の言葉に説得力を持たせるため、凪に目で合図を送る。
「残念ね。私が主導権を握ってる……処刑は終わらない、終わらせない」
俺に劣らずとも負けない立派な悪役発言だ。マーモンも密かに「GJ」とサムズアップしている。
アドリブにしては上出来だ。満点をくれてやってもいい。
凪の渾身の演技に騙されている幹部たちは「畜生」と悔しげに顔を歪め、それでも必死に女の元に駆け寄ろうとする。
一定距離に近付くと俺がぶっ放しているため近づけていないが。残念だな。
ボロボロの奴らと、そもそも戦っていない俺。比べるまでもなく、俺の方に分配が上がるだろう。
人はそれを「卑怯」と呼ぶが、それはそれで構わない。卑怯な方が生き残りやすい。逆に正々堂々とした奴なんて嵌められてすぐに終わるだろう。
何度も何度も懲りずに吹っ飛んでいるヴァリアーの奴らはともかく。俺は先程から動きがない沢田綱吉とその守護者が気になる。
奴らがいるところへ視線を移すと、ボロボロの奴らは女への処刑を止める気はなさそうだった。嬉しいことに、沢田綱吉を除く全員が。
沢田綱吉は俺の方へ近づこうとしているようだが、周りに抑えられている……俺が近づいてきたヴァリアーに炎を撃っているからだろうか。
まぁ、邪魔はしないことがわかって何よりだ。邪魔されたら興が削がれて楽しくなくなるからな。
ヴァリアーのカス共が手を伸ばした相手である女は苦しさに喘いでいる。
大きく深呼吸をし、痛みから解放されようと肺を働かせているようだ。見ているだけでこいつは苦しんでいると認識できる。
石化した部分をそのまま砕いたためか血は出ていない。だから出血によるショックとか、失血死とかにはならない。だが顔は蒼白で血の気が足りない。
死にたそうな顔をするカスは、もうカッ消そうか。
これ以上こいつのために時間をかけるのも癪な気がしてきた。時間をかけるまでもない、取るに足らないカスだというのに。
寧ろここまで時間をかけて相手をしてやっていることに感謝をして欲しいくらいだ。
というわけで。最後は本人に選ばせようじゃねぇか。
「俺は最近になって丸くなったから慈悲を与えてやろう。死にたいならここで命乞いをし、死にたくなければ『死にたい』と俺に乞え」
痛みやらショックやらで判断能力が鈍った女は、どんな回答を残すのか。どんな回答をしても地獄一直線。それを知るのは俺だけ。
言葉通りに受け止めるか、それとも裏をかいて逆のことを言うか。
回答を待ち続けて五分、カス女は息も絶え絶えに答えた。
「殺さないで、まだ死にたくない……!生まれ変わって、やりたいことがまだたくさん残っているのに!」
「そうか。じゃあ――――死ね」
怒りを溜めた拳でカス女の心臓を一突き。死と血の香りが鼻につく。顔に液体もとい女の血が跳ねた。
沢田綱吉の悲鳴が鼓膜に響く。スクリーン越しのカス鮫の悲鳴は絶望一色に染まっていて非常に心地いい。
だが暗殺者が仲間、ボスに悲鳴を上げるなんて愚かなこと。非情に、冷静になるべき奴らがどうしてこうも感情豊かなのか。
使える道具が一つなくなったことに対する怒りはわかる。だが、親愛とか意味が解らない感情から湧く怒りなんて俺には理解できない。
カス鮫たちのあげる悲鳴は俺には一生かかっても理解できなかったモノ。
それを羨ましく思うことはなく、あいつらがただ暗殺者として未熟だったのだと俺は嗤ってやろう。
心臓を突かれた死体の隊服で手についた血を拭う。
背後の凪が差し出したタオルで顔を拭い、ついでに落とし切れなかった手の血を拭い取る。
「なんで、こんな……こんな終わり方って……」
膝を着く沢田綱吉は、やはりクソみたいなほど甘ったれだった。自分とその関係者を抹殺しようとした奴の死に涙を流しているのだから。
沢田綱吉は泣きながら俺に言ってきた。
「こんな終わり方があっていい筈がない!あの人、『死にたくない』って言っていたのに!!」
「何を言っている。あいつが『死にたくない』と言ったから殺してやったんだ。それともなんだ、俺の話を聞いていなかったのか?」
「ボスは『死にたいなら命乞いをしろ』って言った。あの人は死にたいから『死にたくない』と言った。どこがおかしいの?」
沢田綱吉は言葉を詰まらせた。しかしその代わりに獄寺隼人がこちらに指を突きつけて叫んだ。
「どの道あの女が『死にたい』と言ったらおめーらは殺しただろ!」
「何を当然のことを。『死にたい』と言ったなら殺すのは当然のことだ。それが慈悲ってモンだろ」
『ってことは、最初からボスが何を言っても殺すつもりだったのかあ゙ぁ!?』
「それが制裁だ」
犬のように喚くカス鮫は確かにあの女の犬だな。スクリーン越しだというのに、この大音量はどうにかしてほしい。
そこら辺に黙って立っているチェルベッロに音量を下げろと合図を送ったら「これが最小です」と返答された。
カス鮫の爆音はどこの世界でも共通らしい。
カス鮫の煩い声のことは諦めて、まずはこの無駄に長かった戦いを終わらせねぇとな。
「チェルベッロ、宣言を」
「かしこまりましたXANXUS様」
俺が制裁している間は無言を保っていたチェルベッロに出番を譲る。審判者であるこいつらが締めなければ締まらない。
最後に死体を憤怒の炎で燃やし尽くし、塵ひとつ残さずカッ消す。奴がここにいた痕跡すらも。
そうしてカスの存在すら消え、それを見届けたチェルベッロが厳かに告げた。
「復讐者、XANXUS様によるリング争奪戦の敗者であるヴァリアーへの制裁を終えました。これを持ちましてリング争奪戦が終わったとし、勝者である沢田綱吉氏とその守護者六名をボンゴレの後継者として認めます」
折角認められたというのに、沢田綱吉は暗い顔をして俯いている。それもそうだ。人が一人死んだ中で「万歳」と言えるほどできた奴ではない。
ボスが辛気臭い顔をしているからか、沢田綱吉側の守護者は誰一人喜色を浮かべておらず無表情だ。
達成感なんてないか?まぁ、これが裏社会だからな。
こっちはカス一人をようやく片付けたことで達成感を感じているが。長らく待っていた、カスの復活に合わせてようやくカッ消せたんだ。
これでヴァリアーのボスはいなくなったが、後釜は誰になるんだろうな。
俺はなるつもりはない。カスを殺してその居場所を奪うでも思ったか?
そんなわけがない。俺は今の位置が結構気に入っているんだ。
それに、腑抜けたヴァリアーなんて持ったとしても無駄過ぎてゴミ捨て場に捨てた方が世の中の為だぜ。
さて、カスのことは置いといて。俺には最後の後始末ということで、もう一仕事残っている。
それを完遂してさっさと帰るか。
解説~マーモンと骸の解毒について~
原作:
マーモン⇒ベルによって解毒、ベルと組んでリングを奪う
この話では:
骸⇒自力で解毒(こっちが先)
マーモン⇒骸が雲雀との戦闘中に捨てたリングを拾って解毒、トンズラ
※矛盾が発生しないように、雲雀VS骸の戦いは体育館で行われたものとしています。