憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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久しぶりに書いたので何かがおかしい気がするですよ……( ゜Д゜;)


18 包帯を外した復讐心なき復讐者

 大空戦が始まった。前世の俺は戦いに夢中だったのだが、今回は観戦に夢中……というほどでもねぇ。

 それより俺は今更なことに気が付いた。

 

 最強と名高い暗殺集団のヴァリアーは、たかが一般人の中学生相手に苦戦しているということに。

 

 今更気づいたと先程言ったがそれでは語弊があるな。

 気付かなかったのではない。意図的にそのことを考えなかったのだ。

 記憶を省いて忘れたかのように。忘れられない記憶なのに、蓋をして。

 

 勿論それは情けない。黒歴史だ。と俺が思ったからなのだが。

 そしてそれはそうだ。黒歴史で誰にも見せたくない……あまりにも酷い。

 

 カスチビはこの光景を俺の服につけられたカメラで見ているため、後でからかわれそうだ。

 あいつがそれらしいことを言ってきたら、まずはわさびで目潰しをしよう。

 

 と、まぁカスチビの話はここまでにしておいて。

 

 さて、今回の大空戦は俺の知るものとは細部が違う。

 主な要因は俺達が関わったことによるものだが。それによって沢田綱吉は有利な状況になっている。

 俺と同じ顔をしている奴が悔しげな顔をしているのは何とも言えない奇妙さを感じる。それを抜きにしても、俺の真似をしている奴が苦しんでいるのはいい気味だ。

 

 俺達がこの戦いに関与したことで、まず沢田綱吉の戦力が大幅に上がった。

 霧の守護者戦でもそうだが六道骸を大空戦に直接投入したからな。あいつもビックリだったな。ついでに沢田綱吉も。

 

 ちなみに六道骸は毒の影響を受けながらも自力で解いていた。これは認めても良いと思う。

 その後雲雀恭弥と戦い始めたので同じ結末を迎えているんだがな。

 

 同じ結末とは、リングがヴァリアーに渡っていることだ――なにせ六道骸ときたら、雲雀恭弥と同様にリングを投げ捨てて戦っているのだからな。

 雲雀恭弥、かなり六道骸を挑発していたからな。最初は軽くいなしていた奴だが、雲雀が何か言ったらしい。最終的にガチギレして突撃して行った。

 

 ……雲雀恭弥は飄々とした六道骸を挑発できるほど口が上手い奴だったか?どちらかといえば口下手、手が先に出るような奴だった気がするが。

 違和感が拭えないが、まぁ結局奴らは争奪戦をそっちのけで戦い始めた。

 

 

 それをラッキーと言わんばかりに拾ったのはこちら側のマーモンだ。

 あいつらに気付かれずに拾ってそのままトンズラしていたのは見物だった。沢田綱吉側の観客が「卑怯な!」と言っていたのは滑稽だったな。

 卑怯だ?戦いの最中にそんな言葉はあってないようなモンだ。

 

 まぁ、そんな些細な違いはあれど、大きな違いはまだ見られない。

 沢田綱吉は初代の技とかを使ってあいつを徐々に追い詰めている。このままでは負けるのだろうが……いいぞ、もっとやれ。

 

 俺と同じくらい痛めつけられては俺が満足しない。直ぐに俺がカッ消すとはいえ、ボロボロのカスボロのみじめな姿で命乞いがされたいからな。

 一体どうやってあいつを追い詰めようか。ある程度考えているが、あいつとカス鮫が暴露したタイミングで喜劇を終わらせたいところだ。

 

 ところで今、この場に凪はいない。というのも、ヴァリアーが隊士を投入しているという情報を聞いたので凪に任せているからだ。

 殺しているか追い払っているかは知らねぇ。一般人に手を下そうとしたとはいえ未遂。復讐者としての結論は「追い払うだけ」なんだが、凪本人に決定権は委ねてある。

 カスチビは凪が苦手らしいからな。凪が消したところであいつは何も言えんだろう。

 

 凪のことだからカッ消すことはせずに追い払っているとは思うがな。現実を見るようになったとはいえ凪はまだ甘さや沢田綱吉の下で培った絆的な何かが捨てきれていない。

 六道骸には辛く当たるがあれは凪があのことを引き摺っているからだろうな。

 目の前に自分を裏切った奴と同じ顔がいて、そいつを前に平然とすることができるなんて芸当はあいつにはできない。

 不器用であることに加えて、引き摺りやすい性格をしているからな。

 

 俺の場合は吹っ切れた。だからカス鮫を前にしてもいつも通り、カス鮫を視界に入れた時並の感情しか湧かない。

 

 好きの反対は無関心だと、捻くれた奴は言う。そして間違いなくその通りだ。

 ぶっ殺したい程度の感情しか湧かないし、俺が湧くこの感情は別にカス鮫だからではなく自分以外の奴には湧く。

 カスチビを見てそう思っているようなものだ。

 

 つまり俺からすれば、俺を裏切ったカス鮫はカスチビ程度の関係に成り下がったということだ。

 俺の右腕だとほざいたカス鮫のことはもう知らねぇ。今の俺の右腕はマーモンだからな。

 カス鮫は俺のムカつく顔をしているだけの奴、という認識にまで下がっただけだ。ああ、可哀相に……なんて言っちまったらマーモンは恐らく笑うだろうな。

 

 そのカス鮫は、スクリーンに映されるカス女を見て何やら言っている。少し耳を澄ませば、どうやらこんなことを言っているようだ。

 

「あいつには、XANXUSほどの力はない……だが、XANXUSに劣らない思いを持っている」

「XANXUS?」

「どういうことだコラ!あいつがXANXUSなんだろ?それとも別にXANXUSがいるのか?」

 

 カス鮫はついにあの女についての情報を吐いたようだな。独り言ではないと思うが。台詞の意味合い的に。

 誰かに聞いてほしかったのか?くだらねぇな、それで同情を集めた気になっているのが片腹痛い。

 

 しかしマーモンから聞いた通り、カス鮫は女に信頼されているようだな。俺の顔とそっくりの奴がカス鮫を信頼しているのは見ているだけで吐き気を催す。

 いい加減に俺の真似をやめて女らしく媚びれば良いものを。

 媚びるのであればカスらしく無様なので俺もとやかく言う気はない。だが俺の真似をすることは断じて許さねぇ。

 

 そんなことを考えていたら、再びカス鮫が何かを呟いているので聞いてみる。カス女の情報の下らなさを聞きたいがためであり、カス鮫に興味はないと言っておこう。

 

 

 カス鮫の話があまりにも長いので要約してやった。カス鮫の長い話を要約するとこうだ。

 

「カス女は女らしく生きたいと思っていたが、自分がXANXUSであると知ってからはXANXUSとして生きていくべく本来の自分を封印せざるをえなかった」

 

 俺が要約してやったくらいでまあまあの長さだ。これは余計なものを省いたからこうなったのであって、実際はカス鮫による盛大な告発だったりするんだがな。

 復讐者の情報ではカス女が女であることが書き記されていたが、跳ね馬たちは知らなかったらしい。女だと知って仰天していた。

 というかなんだ、アレで女と気付かないあいつらは馬鹿なのか?

 顔立ち、歩き方、体つきその他諸々でわかるのだが……マフィアとかアルコバレーノがその程度の奴らか、もしくはどうでもいいと思って確認しなかったのかもしれんな。

 

 他にもカス鮫は自分の初恋?についても暴露してしまっていた。この空気だからか誰も指摘はしていないが……後で指摘してやろう。

 だが顔を赤らめるカス鮫は凄く気色悪い。通称変態老け顔カス変態野郎よりきっと……いや、奴ほどではないにせよ気持ち悪く、生理的嫌悪感を抱かせるものだ。

 指摘して顔を赤らめた奴を一気に真っ青にさせようか。その方が面白そうだ。俺がな。

 

 あいつは自分の初恋話どころか更に女がXANXUSとして生きる経緯まで詳しく、事細かに教えていた。

 暗殺者じゃねぇのかよ。とか、てめぇ情報漏えいって言葉知っているかという言葉はこの際置いておく。

 

 カス女がXANXUSだと気付いた、俺からすれば思い込んだのは九代目に拾われてからのようだ。最初に気付かなかったのは母親が炎を見つけてボンゴレに報告する、というプロセスがなかったのだそう。

 九代目もといクソジジイに保護された後は九代目の実子、XANXUSとして生きていたらしい。

 

 これを踏まえると、このカス女が一人で盛り上がった一因に俺がいるのがわかる。

 俺が証拠隠滅のために母親をカッ消したためにボンゴレは母親、子供を含めて敵対勢力に殺されたと思ったのかもしれない。

 しかし俺と同じく炎を灯せるカス女がボンゴレに拾われたことで、母親は死んだが子どもは生きていたとクソジジイは思った、といったところか。

 

 これは俺が悪いのか。それとも勝手に勘違いして思い込んだカス女が悪いのか。それともボンゴレの御曹司として拾ったクソジジイが悪いのか。

 

 個人個人で考え方が分かれるところだな。俺としては自分の身をボンゴレから守るためにやったことだ。後悔はしていない。

 

 俺は自分が悪くないと思っているので、俺以外の誰が悪いのか考えてみる。

 

 そもそも、女が勝手に思い込んだからボンゴレが保護に動き出した。間違った、そもそもXANXUSですらないただのカスを。

 俺が何もしなかったらあの女はXANXUSである俺と会ってどうしていたんだろうな。妹だとか言い出しそうなくらい似た顔だが。

 そう考えると俺が悪いようには思えないな。俺がというよりボンゴレとカス女が勝手に勘違いして勝手にやらかしてるだけじゃねぇか。

 

 結論。俺ではなく、俺が母諸共XANXUSの痕跡を消してやったのに成り切ろうとした馬鹿な女と、奴に騙されたボンゴレが悪い。

 

「馬鹿な女だ。女らしく生きればカスになることもなかっただろうに」

「何を言ってやがる、復讐者」

 

 アルコバレーノもといリボーンが俺の独り言に反応した。リボーンや跳ね馬たちに言ったつもりはなく、俺に着けられているマイクとカメラで観戦しているデイモンやエレナに向けて発言したものだが。

 まぁいい。今の内に威嚇というか、宣戦布告でもしておくか。先程からカス女は可哀相アピールしているカス鮫にムカついてきたからな。

 

「今の時点で沢田綱吉の勝利は見えている。敗者、ヴァリアーのボスへの制裁は――死だ」

「うお゙お゙おぉい!そんなことが許されると思っているのかあ゙ぁ!?そもそも、九代目がそんなことに同意するわけがねぇだろうが!」

「確かに、こればかりはスクアーロに同意だ。リング争奪戦そのものがヴァリアーによって仕組まれていたとしても、そのヴァリアーのスクアーロが復讐者の関与に驚いているのはおかしい――どういうことだ?復讐者」

 

 リボーンは賢く、察しが良いアルコバレーノだな。前世で忌々しいドカス女に惚れていなければ手放しで褒めていたところだ。

 違う世界のリボーンが愚か者だからな、こっちもいつかそうなるんじゃないかと思ってしまうのは転生した影響故か。こういう先入観がマズいのは知っているが、長い人生で培ったものは簡単に覆せはしない。

 

 今生は今生。前世は前世とは簡単に切り替えがつかねぇな。前世とは関係なかった奴らだと認識を変えることはできるが。

 

 おっと。リボーンの問いに答えてやらねぇとな。といっても、解答に捕捉を入れるだけだが。

 リボーンは答えを知っているじゃねぇか――「ヴァリアーがリング争奪戦を仕組んだ」ということを。

 

「お前はもう答えを言っているぞ、アルコバレーノ。ヴァリアーがリング争奪戦を仕組んだ――その通りだ。それが答えだ。俺達復讐者はヴァリアーによってこの件に関わった。誰とは言わないが、ヴァリアーからの依頼だ」

「なんだとお゙ぉ!?」

 

 一番驚いたのはヴァリアーのカス鮫か。次に驚いたのは跳ね馬、アルコバレーノ達か。門外顧問の……誰だったか?とりあえず門外顧問の奴とシャマルも驚いている。

 驚きの表情は嫌いじゃねぇ。楽しいからな。その隙に銃をぶっ放すのがどれだけ爽快感を伴うか……早くぶっ放してぇ。

 

 アルコバレーノ、コロネロは何かを言いたげな顔をして呟いた。

 

「ボンゴレも一枚岩じゃなかったみたいだが……それはヴァリアーも同じだな、コラ」

「スクアーロは心当たりがないのか?」

「あるわけがねぇ……ここにいる奴らは今までボスのために戦ってきた仲間だぞお゙ぉ!」

 

 ぶはっ!滑稽だな!!

 人がいなければ大笑いしていたところだ。辛うじて無表情に留めたが、正直笑っているのが見られてないか心配だ。

 

 ……包帯巻いていたから気付けるわけなかったな。まぁ、それはそれでいい。

 

 カス鮫の「仲間を信じてる発言」に俺は腹がねじれそうだ。ヴァリアーが仲間云々をほざくのは女のせいか?

 少なくとも俺がいた時は仲間の死に冷淡だったはずだが。

 カス鮫が死の危機に瀕した時は笑い、そしてボスである俺を殺した。仲間なんてクソ喰らえだった前世のヴァリアーが、ここでは沢田綱吉率いるボンゴレと大差ないとは!

 

 結局、俺になりたかったあの女は俺に成り切れなかった。それなのにその狭間で苦しんでいるのは演技か同情を集めたい悲劇のヒロインか。

 成り代わられた俺からしたら滑稽で、それでいて成り切れないからこそ怒りが湧く。

 

 そろそろ終焉を迎え始めたカス女の滑稽劇場に幕を降ろそうかと待っていると、声が聞こえてきた。

 

「ボス……」

 

 声に振り向けば、そこにはベスターを連れた凪がいた。

 手には血が滴るハルバートが握られている。それを見たからか門外顧問の奴と跳ね馬の顔が青くなった。

 

 だが何て言うか……殺した後特有の血の香りが薄い。

 

「生かしたか」

「……ごめんなさい」

 

 死なないように手加減をしたのかもしれない。凪からは血の香りが薄い。

 術士ということもあり、幻覚を使ったのなら薄くなるのも当然だ。ただ血濡れた武器を持っているから武器は使ったのだろう。

 

 凪は俺に頭を下げて謝罪をしているが、俺は別に「殺せ」と命じたわけではない。

 ここに来たということは俺が命じた「追い払え」という命令は実行されているため、怒る理由は存在しない。

 ただ凪としては殺せなかった自分を「甘い」と称したのだろう。

 

 凪について行ったベスターが一声鳴いた。庇うように凪の前にいる。

 

「いつの前に仲良くなったのやら……別に殺せと命じてはいない。どうせお前は殺さないと思っていたしな。気にすることはない」

「……ありがとう」

「ガゥ」

 

 ぺこりと頭を下げた凪に続き、ベスターも器用に頭を下げた。だからいつの間にそんな芸当を身に着けたんだ?

 ベスターに関しては疑問が尽きない。実は凪が仕込んでいたりするのか。

 

 疑問が湧くが、今はそれどころではない。丁度クライマックスに入ったからだ。

 

『がはぁっ!?』

『リングが……XANXUSの血を、拒んだんだ……』

 

 倒れ伏したカス女。沢田綱吉は何かを直感したようだ……"血"を拒んだと。前世の俺と同じように。

 

 女は血を吐き、止めどなく血を流しながら吠えた。

 

『俺と九代目は……血なんて繋がっちゃいねぇ!!』

 

 俺と似たような台詞を吐くその姿は、前世の俺を写しているようであった。

 

「違う……ボスがあの時言った言葉とこの人の言葉は、重みが違う……」

 

 心を読んだかのように、凪がぼそりと俺だけに聞こえる声量で反論した。

 凪は確か、あの場にもいたな。それで俺の時も覚えているということか。あの黒歴史を。

 

 アルコバレーノに聞こえないように声を潜め、凪は続けた。

 

「ボスはあの時、本当にそう思っていた……血が繋がってなくて、ボンゴレが継げないことに怒りと絶望を感じていた……だからその、魂の叫び?そんな感じが伝わってきた……でもこの人は違う。鮫の人の言葉が正しいのなら、この人はボスの苦しみを上辺だけ受け取っているように見える……この人はボンゴレを継ぎたいと微塵も思っていない。ボスと比べたら、直ぐにわかる程度に隠されている」

 

 珍しいことに凪が長いこと喋っている。それだけ思うことがあったということらしい。

 俺の内容であることに何も感じないわけではないが、あの時のことを持ち出されると些か気まずい。

 自分で過去を振り返るのはともかく、他人に言われるとキツイものがある。

 カスチビに言われるよりかはマシだがな。

 

 俺達の会話は、運が良いことに誰にも聞かれていなかった。というのも、カス鮫が出てきて何やら言い始めたからだ。

 生まれ変わって初めてカス鮫に感謝したかもしれない。だがその内容は反吐が出るもので、聞いた方が頭を抱えて叫びたくなるほどクソッタレだったがな。

 他人の愛の叫び、しかもその相手は俺そっくりの外見と俺の名を使っている。これでクソッタレと叫ばずにいられる奴はいない。

 

 愛の告白を省いた上で内容を俺がまとめてやるとこうなった。

 

「もうやめろ。この世界のXANXUSはお前だ。いもしない男に成り切ろうとして、こんなに血塗れになって。俺はもう見てられない」

 

 ここから先は愛の告白というかプロポーズ紛いの内容なので割愛する。誰が他人の告白をまとめないといけないんだ。

 凪が口元を抑えてあらぬところを見ていたり、マーモンが震えていたり、山本武が「えっ」と言いたげな顔をしていたり……とりあえずカス鮫、お前は空気を読め。

 

 マーモン以外の幹部は全てを知っていたのか、あの女に駆け寄って何やら仲間の絆とやらを見せている。

 なんだろうか。凄く……呆れて物が言えない。

 そして何気にマーモンがあの女の近くで慰めているのがシュールだった。スパイの癖して一丁前に仲間面してやがる。

 

 俺と視線が合うと奴は器用に口元だけ笑ってみせた。楽しそうだ。

 だがマーモンの出番はここまで。ここから俺の出番だ。それを楽しんでいるのかもしれないな。

 

「さて、敗者は決定した」

 

 前世と同様、俺達がいた観客席エリアにはマーモンが細工を仕掛けていた。

 だがそんなもん、カスチビの炎がある俺達には関係ない。一瞬で戦場跡まで移動できる。

 

 小細工をすっ飛ばして、俺の名を騙る愚かな女の傍に立つ。隣には、凪とベスターが控える。

 倒れた女はただ俺を見上げることしかできない。逆に俺はカスを見下ろし、包帯の下で嘲笑う。

 倒れた者と立つ者の、決定的な違い。ああ、無様だなドカス。俺の真似をして、そんなボロボロになって何が楽しい?

 

「XANXUSだと思った?ただ、外見と炎が似ていただけで?馬鹿馬鹿しい。そもそもテメェはXANXUSですらない、偽者に過ぎないただのカスだ」

 

 俺のことを知っているなら、近距離での俺の声と台詞で大体正体が掴めるはずだ。今まで気付かなかったのも馬鹿馬鹿しいが、思えばこの女は最初から馬鹿だ。

 これくらいでようやく気付ける程度の奴が、よくヴァリアーを率いたなと逆に感心してしまう。

 

「まさ、か……」

「ようやく気付いたようだなドカス。テメェは最初から最後まで本物にはなれない。大人しく下町で野たれ死んでいた方が幸せだっただろうに」

 

 ようやく気付いた超直感すらない女。ヴァリアーを腑抜けた絆大好きな奴らに劣化させるくらいに甘くて殺しに向かない女。

 殺しが嫌な癖に何故暗殺部隊なんているのか。矛盾した奴は嫌いだ。理解ができないから。

 

 顔を覆っていた暑苦しくてならない包帯に手をかけ、ひと思いに外す。

 

 外れた包帯は風にまかれて舞い上がり、そして塵となって消えた。

 


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