憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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17 記憶通りの現在で向きを変えて

 いよいよお待ちかねのリング争奪戦。と言っておきながら、実はあれから数日経っている。

 具体的に言えば、今日は霧の守護者の対決だ。この戦いの前後には俺達の出番が少しだけある。

 

 今、俺達は並盛中学校という俺にとって忌々しい記憶でしかない学校にいる。

 俺達と表するだけあって、俺だけが待機しているわけではない。今回はいつものメンバーに加えてスペシャルゲストもいる。

 

 頬を脹らませて不機嫌であることを視覚で示す凪。ニヤニヤと楽しそうに嗤うカスチビ。

 そしてカスチビの陰謀に巻き込まれた哀れなガキ。

 

 これでわかったら天才ならぬ甜菜だ。つまりこれくらいわかれということだ。

 

 カスチビの悪巧みに巻き込まれた哀れなガキの名は六道骸。沢田綱吉の霧の守護者として戦うことになっている。

 と、ここで疑問に思うかも知れない。

 

 何故六道骸を俺達がここに連れて来ているのか。そして、どうやってこのガキが霧の守護者になったのか。

 

 この二点の疑問に簡潔に答えてやるとこうなる。

 答えは「カスチビが悪巧みした結果」である。

 

 詳しく説明してやろう。事の発端は凪が「六道骸はもう一度脱獄をしようとする」と言ったところからだ。

 あいつが脱獄しようとしても前世とは違い、俺がそこら辺にいる。ということは奴が脱獄しても俺が目を光らせている以上捕らえられると言うことに他ならない。

 俺はイェーガーの次に職務に真面目だ。とか言ってみるが、実は復讐者の面子を保ちたいがためだ。俺の所属する場所が最強でなければ気が済まねぇ性分なんでな。

 

 とまぁ、こういうことがあって六道骸は二度目の脱獄は実質不可能となった。

 今回はカスチビも流石に二回も脱獄させるのは外聞に悪いということで何もしなかったこともある。

 

 しかしこうなってしまうと、今度は六道骸の仲間と沢田家光が接触できなくなる。

 俺としてはどうでもいいことだったのだが、凪が言うには「この接触が無ければ沢田家光から霧のハーフボンゴレリングを受け取らなかった」ということらしい。

 

 俺は知らなかったが、どうも六道骸は仲間を保護してもらう代わりに守護者を引き受けたらしい。これは沢田家光がマフィアらしい男であることの証明の一つだな。

 沢田綱吉が知れば侮蔑の視線を寄越すだろうに。あのガキはこういうのに厳しかった筈だからな。

 

 さて、話を戻すか。先程までの話は前世での話だ。

 今回はどうしたのかと言うと、先程言ったようにカスチビが暗躍した結果である。

 

 六道骸を沢田綱吉に貸し出す。

 

 カスチビの案に凪は不服そうに口を尖らせ、デイモンやエレナは片眉を上げた。

 俺はどうでも良かったがカスチビがどうしてもと煩かったので結果的に協力した。

 別に肉のタワーが出たから協力したとかじゃねぇ。

 

 今までにないくらい美味かったステーキについての話は置いておく。

 結果的に俺が協力してやったのでカスチビはただ案を出すだけで済んだ。

 沢田家光と六道骸にはこっちが声をかけておいたからな。意外でもなんでもないがあいつらは飛びついた。

 霧の守護者を貸し出す事とあいつの仲間に限って早く出所させることは奴らにとって破格の条件だったんだろう。

 

 苦々しい顔をしていた凪には悪いが、今回ばかりは仕方ない。六道骸がいなければ沢田綱吉は負けるからな。

 

 そして凪は今も渋い顔をして前世は憧れだっただろう男を据わった目で睨んでいる。

 睨まれている六道骸は心当たりがないようで戸惑っているが。

 

「先程から僕を睨んでいますが、僕はあなたに何かしましたか?」

 

 戸惑いが限界を越したようだ。六道骸はついに凪に話しかけてきた。

 だが凪が六道骸に視線を向けた時、あいつは自分に向けられた殺気の強さに僅かに肩を震わせた。

 こっちには影響はないが凪の殺気は初対面の時よりずっと濃く、濃密だ。

 

 俺の隣で先程から雑誌を読みながらニヤニヤ笑っているカスチビも殺伐とした空気を察したようだ。雑誌から顔を上げている。

 というか何を読んでいるんだ。カスチビの真上から雑誌を覗き込む。

 

「……テメェ……んなモン読みやがって……」

「ち、違う!君は誤解をしているっ!!」

「それに誤解も何もあるかよ。テメェって奴はこんな時に何読んでやがるんだ」

 

 凪に見せたら怒りに震えるだろう。だがここで怒られたら六道骸の命が危ないので敢えて見せるようなことはしない。

 ここであいつが死んだらこっちも困る。

 

 凪に見えない様にカスチビから雑誌を奪って燃やす。灰も残さず消えた雑誌をカスチビは呆けたように見つめた。そこには既に虚空しかない。

 それとも奴には虚空が雑誌にでも見えるのか。

 鼻で笑ってやるとカスチビが頭上に乗って来たので地面に叩きつけた。

 

「いてっ!」

「テメェに付き合うのも飽きた。時間だ」

 

 どうせカスチビは沢田綱吉の前には顔を晒さない。なのにここに来ているその理由は遊びに来ているだけだ。深い理由はない。

 留守番しているデイモンとエレナの元にカスチビを送り、人が集まっているであろう体育館へと足を向かわせた。

 

 俺の背後には凪が六道骸を繋ぐ鎖を持って後に続いている。

 今回の戦いは機嫌の悪い凪を更に嫌な気分にさせてしまうだろうな。

 凪も知っているとはいえいい気はしないだろう。今回の戦いは八百長と言っても良いくらいだからな。

 

 さて、こうしているうちに体育館に到着したようだ。人の気配が濃いので結構な人数が集まっているのだろう。

 時間はまだあるので心配はない。

 

 体育館の扉を蹴飛ばしてから中に入る。目の前に見えた茶色の頭が大袈裟なほど震えた。

 振り返った茶色――沢田綱吉は俺の姿を視界に入れたからか、目を剥いて絶叫した。

 

「ギャーッ!おばけ!!」

 

 絶叫にチェルベッロを含める体育館内の人間が顔を顰めた。その時見えたカス女は俺の真似かは知らないが椅子に踏ん反り返っている。

 ここで一番偉いのは自分と言わんばかりの姿勢にふつふつと怒りが煮えてくる。だがまだ沸騰はしない。

 前の俺だったら既に沸騰して憤怒を叩きこんでいたところだが今の俺は違う。こうして考えると俺も成長したな。

 

 それにしても、あのカス女はあまり事態を変えることを望まないようだ。これまでの戦いの結果は全て俺の記憶通りだった。

 そして今回もそうなる。

 

 

 さて、今日の主役は六道骸にやられたフリ(・・)をするマーモンが主役だ。あまり主役を待たせるのも問題なので用事を済ませる。

 

「沢田綱吉」

「ヒィッ」

「沢田家光との取引により、この戦いに限り六道骸を解放する」

「ヒィーッ!ごめんなさい……えっ?」

 

 なんであいつは謝ってんだ?よくわからないが、後ろにいる凪へ顎をしゃくる。

 

「あいつを出せ」

「了解」

 

 俺の指示に従い、鎖を握る凪が前に出て六道骸を沢田綱吉に押し付けた。その後鎖を解き、鋭い眼差しで元脱獄囚を射抜いた。

 

「ここで自由になっても……逃げられると思わない方が良い」

 

 これまでの間に凪に恐怖感を持っていたようだ。六道骸は神妙に頷いていた。

 

「ではチェルベッロ、始めろ」

「かしこまりました。では、只今より霧の守護者の戦いを始めます」

 

 ヴァリアー側にいるマーモンと視線が絡んだ。互いに顔を隠しているので目が合うかどうかは普通はわからない。だが長い付き合いであることもあり、何となくわかってしまうものだ。

 マーモンは口を動かすことはしなかった。アルコバレーノに勘付かれないようにするためだ。

 だが僅かに引きあがった口元を見逃しはしなかった。

 

――術士らしく、僕は味方も敵も欺くさ。

 

――そして僕は霧らしく、華麗に裏切ってやるよ。

 

 前日にそう宣言したマーモンはアルコバレーノらしい風格を備えていた。凪が師匠と称えるだけはあり、俺が右腕と称するだけの性格はしている。

 確か、それを聞いたデイモンがサムズアップをしていたな。裏切りは霧を一層濃くするとかなんとか言っていたが……まぁ、気にするだけ無駄か。

 

 そして、勝敗の決まった戦いを俺達は観戦した。

 

 

…… ……

…… ……

 

 

「ボス、ボス……チェルベッロに呼ばれてる」

 

 不意に肩を揺らされて意識が覚醒する。覚醒、ということはもしかしたら今までのは夢か?

 ああ、そういえば昨日の話だったな。マーモンが滑稽に踊っていたあの戦いは。

 

 あいつは悪役らしい台詞を吐き、追い詰めておきながら結局は負けるという流れで戦っていた。マーモンが言うには「主人公補正なるものを演出してやったのさ」ということらしい。

 主人公補正か。沢田綱吉とかあの辺りの奴が持っていそうだな。

 

 まぁ、なんていうか。六道骸は主人公ってガラじゃねぇ気がする。

 あいつはそもそも脱獄囚であり犯罪者だ。犯罪者に主人公もクソもねぇ。カスだ。

 

 六道骸のことはどうでもいい。話を戻す。

 あの戦いは六道骸が勝ったので沢田綱吉達は首が繋がった感じだった。あいつに感謝されていた六道骸の顔は複雑極まりないと言いたげだったのを覚えている。

 普通はそうだろうな。敵だった奴に面と向かって礼を言われても困る。

 俺とてあいつに礼を言われたらまずはカッ消す。その次にカッ消す。そして最後にカッ消す。

 

 沢田綱吉は敵だった奴に頭を下げて感謝をしていて、それがまたアルコバレーノのお気に召したようだった。あいつはポーカーフェイスのままだったが「うちのツナは敵に感謝の言葉も言えるくらい心が広いんだぜ」とでも言っているような顔だった。

 実際そう思っているかは俺も知らねぇ。なんとなく思っただけだ。

 だとしても、俺は敵に感謝の言葉を言えるから心が広いという事実に直結するとは思えないがな。

 

 俺には感謝なんて言葉はいらねぇ。俺が感謝するんじゃない、周りが俺に感謝するからな。

 

「ボス?」

 

 凪の声を聞いて思い出す。

 そういえば、今は雲の守護者の対決を観戦していたところだった。あのカス女が何かするか気になって観ていたのだが退屈して寝ていたんだった。

 

 凪には「何かあったら起こせ」と言っておいたので起こしてきたと言うことは何かがあったと言うこと。

 ああ、先程「チェルベッロに呼ばれている」と言っていたな。確かに何かが起きたようだ。

 

 寝転がっていた体勢から起き上がり、壊れたフェンスから下を見下ろす。

 今まで気付かなかったが、屋上まで何かが攻撃をしていたらしい。フェンスが壊れて地面に落ちている。

 しかも、周りを見る限り火の海だ。

 

 考えなくともわかる。この事態を引き起こしたのはモスカだ。

 

「ジジイはやはり突っ込まれていたか……」

「うん。今は沢田綱吉が『お前に九代目の跡は継がせない』と言って、大空戦の話が出てきてるところ」

 

 あの話か。随分と懐かしい、いや忌々しい記憶だ。

 今となっては忌々しいの一言で終わるが、当時は一言では表現できないほどの怒りがあったな。

 その怒りもボンゴレに裏切られればボンゴレに対する怒りにすり替わったが。

 

 チェルベッロがこちらを見上げたタイミングに合わせて、炎で屋上から一気に奴らの前までワープする。

 飛び降りなかったのはその方が復讐者らしいからだ。

 黒衣を纏った顔面包帯もとい不審者が屋上からスカイダイビングする光景なんざ誰も見たくねぇだろ。

 

 チェルベッロは現れた俺達に目礼した後に手で示した。

 

「大空のリング戦で敗北すると、当初説明した通りこちらの復讐者達によって牢獄へ連れ去られることになります」

「ご了承ください」

「……というわけだ、マフィア共。精々死なないように足掻け――最後の最後で楽しいことがあるからな」

 

 チェルベッロに続けて発言する。この発言は明日、俺がやることを示唆している。

 といえども、この言葉だけで俺がやることを察知することができるわけもない。超直感で危険を察知しようがしまいがどちらにせよ明確なことはわからないだろう。

 嘘発見器にはなるかもしれない超直感だが、どこかのシャーマンと違って具体的な未来予知ができるわけでもないからな。

 

 それに、未覚醒の沢田綱吉の超直感では何もわからんだろう。

 さらに付け加えれば、あいつの今の状態では何もわからない。もし自分が負けたら仲間も自分も恐ろしい目に遭うと怯えているようだ。

 

 こんな奴を十代目に推薦した沢田家光やジジイの考えが読めねぇ。前世でもそうだがここでもわからん。

 本当にあいつらは性格だけを見ているのか?争いが嫌いで、それでいて弱者を救えそうだと?

 前世の、俺の最期を思い出す限りではそんな性格とはかけ離れていたが。

 

 碌でもねぇ前世を思い出しても碌なことにはならねぇ。一度目を閉じて忌々しい記憶を拭い、そして再び目を開ける。

 その際、楽しげな表情の裏に俺達の存在に対する不安を隠すカス女と目が合った。

 

 テメェが馬鹿馬鹿しく滑稽に踊っている様を俺は盛大に嗤って、その後テメェを奈落の底に叩き落してやる。

 

 言葉には乗せずに心の中で宣言すれば、何かを悟ったかのように奴の心の中を占める不安の割合が増した。

 心を読まれているとも知らずに、奴は今にも割れそうな仮面を被り続ける。そして仮面の人物に成り切った気でいるのだ。

 

 あのカス女について論じれば、それを聞いた凪がぼそりとあの女を嘲った。

 

「でも、仮面を被らないと醜い顔が見えちゃうの。仮面が割れた隙間から見える顔は見るに堪えない」

「それもそうだ」

 

 言い得て妙だ。あの女は仮面で醜い顔を隠している。その本性を、俺の性格で塗りつぶしている。誤魔化している。

 だが、誤魔化せるのも今日までだ。明日は仮面を剥がして素顔を外気に晒してやるのだから。

 

 仮面を剥がされた大根役者は、どんな反応を示すのか。

 仮面を剥がした復讐者は、次に何をするのか。 

 

 全ては明日になってからのお楽しみだ。

 




おま毛

 イェーガーは満足気に笑っていた。彼の視線は欠片一つ残さず食べ尽くされた皿へと注がれている。
 彼の脳裏には3メートルもの高さのあった肉の塔が思い浮かべられていた。

「実に良い食べっぷりだった」

 皿を片付けた後、イェーガーは腕を捲り上げて先程まで作業していた台所へと目を向けた。

 肉の塔を食いつくした男のために、また面白いものでも作ろうか。今度は肉のケーキなんてどうだろう。
 創作意欲に突き動かされたイェーガーは一心不乱に腕を振るった。

「楽しみにしておくのだ、XANXUS」

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