憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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16 嘲笑浮かべて顔を合わせる

 六道骸を牢屋に突っ込んだ凪の機嫌は良い。反して、デイモンに何かをされていたらしいカスチビの機嫌は最悪だった。

 あいつに直接何かをしたのはデイモンだというのに、あのカスチビは俺のせいだと詰る。理解できねぇ。

 

 しかし残念ながらいくらカスチビがイェーガーに飯抜きを命じようとイェーガーはこっち側だ。よって、俺への制裁は思うようには進まなかった。

 そのせいもあって、俺とカスチビは冷戦状態になっていた。過去形だ。あいつ、俺が無言なのが耐えられないらしい。

 耐久性ゼロの俗にいう「かまってちゃん」ことカスチビ。凪にまであしらわれたら降参を認めることしかできなかった。

 

 結局のところ、カスチビは喋るのが好きな奴だ。俺が無言だったら続いて無言になる凪。二人だけの世界をつくって無視をしかねないデイモンとエレナ。そして普段から話さないイェーガーとなると、俺達の陣営には沈黙しか訪れなくなる。

 お喋りなカスチビが耐えられる訳もない。あいつは直ぐに白旗を上げて俺に近付いてきた。それが一週間前のことである。

 

 冷戦状態から一時停戦に入って一週間。相変わらずカスチビはカスチビで俺には理解できないことを考えている。

 何やら最近、イェーガーと何かを企んでいるようだ。楽しそうに話しているので碌なことじゃないと思い、あいつらの横で堂々と盗聴している。被害に遭うのは御免だからな。

 そんな時、俺に凪が近づいてきた。その傍には相変わらずベスターが陣取っている。

 

「ボス、マーモンから連絡……これからヴァリアーは並盛に向かうって……」

 

 携帯端末を差し出した凪からそれを受け取る。マーモンから短い文のメールが来ていた。

 どうやら顔合わせは今日行うようである。沢田綱吉とカス女が顔合わせ……どっちの面も見たくねぇ俺としてはこれからが憂鬱だ。

 しかしこうすることを選んだのは俺なので今更とやかく言えないが。

 

 端末を凪に返し、先程から含み笑いをしているカスチビに蹴りを入れる。躱されるのはいつものことなので気にしない。

 

「ちょっと、なんとなく僕を蹴るのはやめてと何度言ったらわかるんだい」

「並盛に向かう」

「あ、そう。行ってらっしゃい……じゃなくてねっ!」

 

 まだ話は終わっていないとカスチビは言っているが俺の方は終わっている。話をするのが面倒なので凪に相手を任せる。

 途端にたじたじになるカスチビを鼻で笑う。どうもあいつは凪が苦手らしい。

 

 凪に弄られているカスチビを放置し、爛々と目を輝かせているデイモンから目を逸らす。

 ボンゴレの事情に口を挟む気はないらしいが、次期ボンゴレ十代目には興味があるようだ。

 

 あいつとしてはボンゴレはセコンドの子孫である俺に継いでほしいらしいが、そもそも沢田綱吉は創設者の子孫。どちらが優先されるかは考えるまでもない。

 そして俺はボンゴレと関わるつもりは毛頭ない。今回関わるのはボンゴレが云々ではなく俺の事情だからな。ただ合法的に関わるにはボンゴレと関わらないといけねぇだけだ……それが気に食わねぇ。

 

「ガゥ」

 

 俺の怒りを察してかベスターが一鳴きした。ベスターの言いたいことはわかっている。だからこそ極力堪えている。

 ここで怒りを爆発させても意味がない。復讐者という立場である以上、私情で動けば立場が悪くなる。

 俺はボンゴレに喧嘩を売る為に奴らと顔を合わすためではない。目的は沢田綱吉ではなくあのカスなのだから。

 

 一つ、溜息を零して炎に包まれる。

 

「……行くか、カス共の元へ」

「ガゥッ」

「うん」

 

 ベスターとカスチビ弄りを終えた凪を連れて並盛へと向かう。一瞬で移動できるカスチビの力は奴の存在よりありがたみを感じるぜ。

 あいつなしでこの力を使うことが出来ればとどれくらい思ったことか。

 

 

…… ……

…… ……

 

 

 タイミングの良さには定評がある。今回もまた、良いタイミングで登場することができた。

 丁度俺達が現れた時にはチェルベッロ、門外顧問、ヴァリアー、そして沢田綱吉達が顔を合わせていた時だった。

 

 懐かしさよりもあの時の苛立ちが沸き起こるがここは堪える。怒りはまだ沸騰していない。それに近い状態ではあるが。

 

 俺達の登場にざわめく場。その中でチェルベッロは僅かに頭を下げて挨拶をしてきた。

 俺達とチェルベッロは今回は組んでいる。打ち合わせもしたこともあり、その通りに行動しねぇとな。

 

 目で合図を送り、チェルベッロに俺達のことを明かしてもらう。チェルベッロは頷き返したのちに動揺するマフィアたちに告げた。

 

「このリング争奪戦での敗者は復讐者によって制裁が下されます」

「ちょっと待て!そんな話、聞いていない!!」

 

 誰も聞いていなかったのだろう。ヴァリアーもそうだが門外顧問側も驚いている。沢田綱吉は言うまでもない。こいつだけ何も知らされてないからな。

 まったく、可哀相だ。張本人だというのに何も知らないとはな。

 

 チェルベッロに噛みつくのは勿論、前世でも噛みついていた沢田家光だ。門外顧問のリーダーでありながら今回のことは殆ど知らない、可哀相な男である。

 今回の戦いだけで言うならば沢田綱吉の次に可哀相かもしれない。鼻で笑ってやろう。

 

 視界に入れるのも可哀相なくらい吠えている沢田家光に言ってやる。

 

「異例の件だが九代目は了承している。それとも沢田家光、テメェがブチ込まれるか?」

 

 魔法の言葉「九代目は了承している」を使えば沢田家光は嫌でも静かになる。こいつにとって九代目が一番だからな。

 息子である沢田綱吉よりも、あんなクソジジイが大事なんざあいつはイカれてる。

 

 そんなイカれた男に九代目の死炎印がついた紙を突き出す。これが証拠だ。

 その実態はマーモンが無理矢理押したモンだがそれを言う必要はない。マーモンがフードの下で笑っているのが見えた。

 

 沢田家光が黙ったのでチェルベッロに続けさせようと声をかけた。了承したチェルベッロが口を開く前に、なんとなく次に騒ぐだろうと思っていた人物が遮った。

 

「本当にそれは本物の九代目が押した死炎印なのか」 

「見てわからねぇか?」

 

 俺の名を名乗るカス女が俺のように話しかける。本当は今すぐに「うるせぇ、カッ消えろドカスが」と言って炎をブチ込みたいところだが後のお楽しみの為に堪える。

 にしても口調も俺に似せているとかこの女は何なんだ。俺のストーカーか?

 隣に控えている凪が静かに殺気を放とうとしているのを制し、警戒したようにこちらを見るカス共に告げる。

 

「テメェ等に割いてやる時間はない。俺がやることは敗者を裁くこと……まだ一般人である挑戦者たちを巻き込んだボンゴレに対する罰だ」

「だがもしツナ達が負けたら、その巻き込まれたツナ達が復讐者に連れて行かれるってのか……?」

「ツナ達は関係ないぞ!」

 

 アルコバレーノに続き沢田家光が畳み掛ける。殺気を放って脅していても普段からソレに関わりのある俺には痛くも痒くもない。

 だがアルコバレーノ達の言い分もわからなくもない。関係ない沢田綱吉達もヴァリアーと同じ制約を受けているのだからな。

 しかしこれは、沢田綱吉達がヴァリアーに負けるという仮定が無ければ成り立たないものではあるが。

 

 そう、要は負けなければいい。

 この計画は沢田綱吉達が勝つことを前提として組まれた計画だ。もし負けたら施しを与えようがない。カスチビは最後まで反対していたが俺が押し切った。

 ここであいつが負けたら意味がないのは俺もカスチビも同じ気持ちだ。しかしどちらかといえば前世より甘いと俺は思っているんだがな。なにせ、あいつらには施しが待っているのだから。

 

 施しのことはひとまず置いておく。ずっと後に出てくることなので今気にしても無意味だからな。

 先程から答えを待っている九代目の犬共に答えを提示するのが先だ。

 

「フンッ――テメェ等がボスと掲げる沢田綱吉が勝てばいいだけの話じゃねぇか。それともなんだ、テメェ等は仲間だとほざきながら結局はこいつを信じず負けると既に悟っているのか?」

 

 ハッと何かに気付いたように固まる二人。正しい指摘だろうと零せば隣にいる凪が二度頷いた。そうだ、俺は正しい。

 仲間は信じるが信条のこいつらが信じないわけがあるまい。結局は信じるのだろうが……何故疑っているのやら。思考回路がわからねぇ。

 

 黙り込んだ沢田綱吉の保護者達から視線を逸らし、待機していたチェルベッロへ合図を送る。勿論目での合図だ。手を振っての合図とか口パクでの合図とか今の姿ではできねぇ。やる気もないが。

 そう、今更なんだが俺の姿は普通の姿ではない。復讐者として顔を出している以上、奴らと同じような格好をしなければならないからだ。不満は沢山あるが今となっては感謝だ。

 

 何故感謝するのか?

 

 それは、俺の名を持つカス女と俺の外見はかなり似ていたからだ。俺がカスに憧れて整形しただとか。カス女と実は兄妹だったとか。そんなあらぬ疑いをかけられたくはない。

 何より、カス女と似ている顔と言うことで何かを察されても不愉快だからな。XANXUSは俺だが、だからといってヴァリアーのボスになりたいわけでも十代目を目指している訳でもない。

 俺は前世とは違う。

 

 まぁそんなわけで、あのカス女と顔を合わせても全く疑問に思われないのは顔を隠しているからだ。カスチビと同じように顔に包帯を巻、身体にはあの復讐者らしい黒服を纏っている。

 あいつと同じ格好は今でも嫌だがこの際は考えないでおこう。ちなみに終盤には外す予定だ。

 この世界にXANXUSなんて、二人はいらないだろう?

 

 チェルベッロと視線を交わして合図を送り、リング争奪戦の始まりとも言えるこの顔合わせの時間を終わらせてもらう。制裁者である復讐者の紹介が終わった以上、もう話すことはないからな。

 合図を受けたチェルベッロは頷いてから声を張り上げた。

 

「では、明晩11時、並盛中学校にてお待ちしています」

「さようなら」

 

 沢田綱吉の悲鳴にも沢田家光の制止にも意を貸さずにチェルベッロたちは早々に退散した。いつも思うがあいつらはどこでリング争奪戦を過ごす予定なのだろうか。

 ホテルとか宿泊していたら笑える自信がある。しかも同じ顔をした奴らが何人もホテルで待機とか笑える……笑えねぇか?

 違うというのはわかっているんだがな。勘だが。

 

 さて、チェルベッロ達が帰ったので俺達も帰るか。カス共と話をしていたら計画外のことをやらかしそうだからな。無論、俺がだ。

 凪はなんだかんだいって理性があるし、何よりあいつが最も嫌っているのが六道骸だ。沢田綱吉ではない。そのためあいつらを見ても理性は残る。俺とは違ってな。

 しかし俺は違う。沢田綱吉もカス女もヴァリアーも地雷だ。踏んだら爆発、俺の炎も怒りも沸騰して大爆発だ。

 地雷が沢山ある俺は地雷が沢山爆発する雲の守護者の対決、ではなく最も巨大な地雷が爆発する大空戦で爆発する予定だ。

 

 これは最期に良い夢を見させてやろうという俺とカスチビの慈悲だ。慈悲と言う言葉ほど俺に似合わないものはねぇな。今更だが。

 

 帰る前にもう一度俺の名を騙るカス女を見やる。

 余裕そうな顔の裏に"XANXUSに成り切れているか"という不安を隠すカス女を見て嘲笑う。俺の口元は恐らく弧を描いている筈。幸いなことに、包帯を巻いていないので誰かに見られる心配はない。

 しかし凪は俺が笑っていることを察したようで顔を向けてきた。

 

「ボス?」

 

 尋ねた凪に笑いながら答える。

 

「俺に成り切れるかどうかなんざ考えるだけで滑稽だと思わねぇか?――本物になれるわけねぇだろ、紛い物の分際で」

「――うん」

 

 俺やカスチビと同じように顔を隠した凪の口元も弧を描いた気がした。

 


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