憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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14 時は成長を運び人は変わる

 リング争奪戦に向けて少しずつ動き始めた。

 具体的なことは伏せるが、前とは違う戦いを演出することは確定している。

 

 俺の名を勝手に名乗る女をカッ消すつもりで企んだこの計画。実は新たな課題も出てきたので、そのついでにそれも解決しようという運びになった。

 

 課題。それは凪が「六道骸の代理は嫌だ」と言い出したことだ。

 

 気持ちはわからなくもないので計画に加えることになった。このことでマーモンの心労も積み重なった気が否めないが、あいつも六道骸が嫌いだからな。気にしない筈だ。

 自分が鍛えた凪があいつの代理をすることはマーモンも嫌だろう。

 

 変更というより新たに計画に追加された事案があったが、概ね進んでいるところだ。

 リング争奪戦が楽しみだ。

 

 

 さて、俺達が復讐者の本来の目的に沿わない裏工作に勤しんでいる間。この期間にマフィアが惨殺される事件があったらしい。

 ちなみに俺達の裏工作はカスチビが容認している。というより、俺が「カス女をカッ消して争奪戦を強制的に終わらせる」と言ったときに奴が「それは認めない」と言い出したのが始まりだが。

 

 まあ、話を戻す。

 マフィア惨殺の件だが、殺されたのがただのカス共だったら鼻で笑うだけで済んだらしい。ただ、善悪問わずに相次いで殺されていることでカスチビはこの件の犯人に興味を持ったようだ。気の毒だな。

 

 その事件の名前は忘れたが、善良なマフィアを殲滅から事件が始まったと言われている。善良なマフィアをカッ消した後は善悪問わずに殺していったそうだ。ちなみに犯人の一味は既に牢に入れられたようだ。

 一味の筆頭の名はランチア。どこかで聞いたことがある名だ。

 

「どこイタリアかわかんないけど、そこの最強らしいよ」

 

 カスチビはそう言った後、いきなり笑い出した。気色悪い。

 俺が余程嫌そうな顔をしていたらしい。カスチビは憮然とした顔に変わった。

 

「なんで僕が笑うとそんな顔するのさ。まあいいや。なんかね、"最強"なんて二つ名モドキほど笑えるものないよねと思ってね」

「テメェも"最強"名乗ってんじゃねぇのか。歴代アルコバレーノ最強ってな。まあ、"最強"ほど真実味に欠ける二つ名はないだろうがな」

「それって僕が弱いと言いたいのかい」

「自覚してるじゃねぇか」

 

 鼻で嗤ってやればカスチビの雰囲気が変化した。濃密な殺気に笑みが零れる。

 背後に控えるベスターが殺気に反応し、戦闘準備に入る。

 

 炎を纏うカスチビに合わせてこちらも炎を纏う。

 訓練なんて甘い物を俺達はしない。殺し合い、常に命のやり取りだ。

 ようやく身に付けた俺とベスターだけの炎を拳に集める。

 

「覚悟しなよXANXUS君。今日こそ『バミューダ様万歳』と言わせてやるっ!」

「ハッ、やれるモンならやってみろ」

 

 奴が一瞬で距離を詰めることは想定済み。現れる地点を直感で計算し、拳を叩きこむ――チッ、やはり受け止められるか。

 チビの癖によく拳を受け止められるなと感心する前に次の一撃を放つ。

 

 だが、カスチビの姿はない。

 

 どこに来るのか考える、その一瞬で隙ができることを俺達は知っている。何度もその手には乗らねぇ。

 離れた場所に待機していたベスターが僅かな気配を追って飛び掛かる。

 カスチビの場所を掴んだようだ。

 

「まだまだ!」

 

 ベスターを押しのけて拳を振り上げたカスチビの攻撃を躱す。

 攻撃をしたときが一番の隙。奴が対処できない死角を狙ってムカつく面を殴り飛ばす。

 

 しかし俺が予想していたように、奴は夜の炎で回避した。

 

「ほら、一発!」

「チッ」

 

 身体を捻らせて急所は回避する。掠っただけなので問題ない。

 ここで距離を取るのが普通かもしれないが俺はそうしない。奴はまだ体勢を整えていないからな。

 伸ばされたままの奴の腕を掴んで身体に炎を叩きこむ。

 

「残念だけど、君の攻撃は……んなぁっ!?」

 

 カスチビは炎で逃げるつもりだったようだがそうもいかない。一人で戦えと奴が言っていない以上、誰が加わっても構わないからな。

 何が言いたいかと言えば、つまりは援軍だ。

 

「私もいるから……」

「そりゃわかるけど!いくらなんでも、これは危ないよ!!」

「ごめんなさい?」

「謝って済むならそうして、うわわぁっ!今度は君か!」

 

 また外したか。凪と会話をさせてその隙に一発見舞おうと思っていたんだが失敗した。

 恨めしげにこちらを見るカスチビは無視して腕を振る。

 

 とその時、武器を再び構えた凪と目が合う。

 

「……それ、重くないか?」

 

 カスチビも動きを止めて深く頷いた。

 

「絶対重いよ。やめた方がいいって」

「大丈夫……たぶん」

「不安が残る言い方だけどっ!?」

 

 途中で手放したらとんでもないことになるのは目に見えているのだが。

 まあ、何はともあれ、凪のとんでも武器によって戦う気が失せた。最近、有幻覚で何かをしていると思ったらまさかコレを造っていたとは。

 俺達を驚かせたかったらしいが、寧ろ自滅しないか気になって仕方ない。

 

 思わずカスチビと顔を見合わせた。

 

「アレ、自分に刺さるよ絶対に」

「確かに」

 

 あいつと訓練しているマーモンやデイモンは一体何をしていたんだ?まさか、放置していたとかはないよな。

 あいつらをここに呼びつけるか。

 

 確かマーモンは最近はヴァリアーの方にいた筈だ。だが今回はヴァリアーより重要な案件だからな。呼んでも良いだろう。

 というわけでそこら辺に歩いていた復讐者に命令しておく。

 

 迎えのために消えた復讐者を見送り、凪に武器を下ろすように命じる。

 

「うん、わかった」

 

 こくりと頷いた凪はそのまま武器を地面に突き刺した。

 ……地面に刺すのか。

 

 凪の身長の二倍ほどある長い棒。地面に突き刺さった刃は広く、細かい装飾が施されていた。

 実用的に見えないが、霧の炎を纏えばそれすら武器になる。

 これは槍の一種。だが六道骸の扱うトライデントより遥かに殺傷力は高い。

 

 凪が振り回した武器。それは、三メートルを超えるハルバートだった。

 

 扱いが難しいのは勿論、非力な凪が使えば自滅しかねない武器だ。

 トライデントより遥かに重量感の大きいハルバート。六道骸に対抗しているのかもしれないが……まさか、重量で対決してねぇよな?

 

 ハルバートを指してこれを持つ理由を問うてみる。返ってきた答えはやはり予想していた通りだった。

 いや、それより更に酷かった。

 

「六道骸と同じ武器は嫌だったの。でも、槍の方が使い慣れてるからやっぱり槍系統が良いと思ってハルバートにしたの。トライデントよりは使えると思う……引っ掛けて突き刺して叩き斬ることができるから」

 

 鋭い眼光で言い切った凪。そこに前世の面影は殆ど見いだせない。

 これを成長と言うならそうなんだろうが、そう言い切るには違和感が拭えないのは当然かもしれない。

 

 カスチビは懸命に語りかけているが凪は素知らぬ顔だ。

 無視を続ける凪についにキレたカスチビが身を乗り出した時、タイミングよくマーモンが現れた。

 

「ボス、呼んだ?」

「アレは何だ」

「アレ?ああ、ハルバート?」

 

 やはりマーモンは知っていたか。見えない様にしているのかは知らんが、とりあえず一言。

 

「誤魔化そうとしても無駄だ。口元、見えるぞ」

 

 慌ててフードを深く被るも既に遅し。ニヤニヤと企んだような笑みがフードの下から見えた。

 どうやら、マーモンは知っていて何も言わなかったらしい。

 

 開き直ったマーモンは小さい体を張って偉そうに言い切った。

 

「体格に合わない武器を使うのも一手さ。ボスもバミューダもビックリしただろう?」

「自滅する可能性は?」

「それは自己責任だ」

「丸投げかよっ!」

 

 マーモンの堂々たる押し付け発現にツッコミを炸裂させたのは無論、カスチビだ。

 カスチビのツッコミに怯むことなくマーモンは平然と答えた。

 

「だって、僕が扱うんじゃないからね。確かにアドバイスはしたけど僕は使わないよ。あんなのごめんだ」

「自分で嫌がってる癖して他人に押し付けるのかい!?」

 

 チビ共の口論は続く。

 聞いているこっちが疲れてきたので奴等の元から離れ、ハルバートを軽く振り回している凪に言う。

 

「使いこなせるなら何も言うつもりはない」

 

 自滅さえしなければまあいい。俺もそうだがカスチビも面子を大事にするからな。

 復讐者で自分の武器で自滅する奴がいるとかいう話が出回ると困る。迂闊に顔も出せなくなる。

 マフィア界の掟の番人を名乗っている以上、簡単にやられるわけにはいかない。なのに自滅とかになったら……話にならねぇ。

 

 それらを説明し、了承した凪に修行を続けるように言った。

 許可が出たと嬉しそうに笑った凪はハルバートを担いで小走りで山を登って行った。

 

 ……山?まあ、自滅しなければ何をしても構わんか。

 

 

 凪を見送ってから家に戻る。ベスターは凪を追いかけたので今は一人だ。

 最近、あいつはやたらと凪に構う。理由は俺でもわからん。

 

 テーブルの上に現れたステーキにフォークを突き刺し、頬張る。

 またイェーガーは腕を上げたらしい。これほどの腕だとステーキ屋に行くまでもないな。

 

 イェーガーの得意料理であるステーキを頬張っていた時、テーブルを挟んだ向かい側に黒炎が出現した。

 現れた一組の男女、仕事に出かけていたデイモンとエレナだ。相変わらず互いの距離が近い。

 

 そういえば言い忘れていたが、デイモン、エレナ、マーモンの三人は復讐者所属になった。

 マーモンは今はヴァリアーに所属していることもあって、復讐者所属のヴァリアーへ派遣されたスパイと言う扱いになっている。対してデイモンやエレナはそう言った事情もないため復讐者所属となった。

 

 こいつらの仕事は二つ。

 カス共の生け捕り。カス共を殺す。

 この二つの仕事を担当している。相反する仕事をしているのはこいつらだけだろうな。

 

 こっちに来たと言うことは肉を食いに来たのだろうか。俺の家に勝手に来るなというツッコミはこの際しない。

 

 肉を食っている俺にデイモンは一枚の紙を手渡した。

 

「エレナと任務だそうですよ、XANXUS。私のエレナに手を出さないでくださいね」

「誰が出すか」

 

 殺気を放つデイモンに呆れながら返す。

 紙を読んでみると、とあるカスをカッ消す任務であることが分かった。

 しかしエレナと組む必要性が感じられない。あいつはもう、一人でも十分な筈だが。

 

 エレナへ視線を向けると、背中に背負った武器を掲げて微笑んでいた。

 

「そろそろ見てもらおうと思って、バミューダにお願いしたの。デイモンはいつも褒めるけど実際はわからないもの」

 

 その笑顔と掲げるモノを見比べていつも思うことがある。

 こいつはこんな性格をしていただろうかと。

 

 凪によればエレナは弱者を守るボンゴレを誇りに思っていたらしい。俺はそれでこいつのことを優しくて甘い奴だと思っていたのだが……俺の思い違いなのか?

 それとも、知らず知らずのうちにヘルリングの影響を受けたのか。こっちだと信じたい。元からこれだったら手が付けられねぇ。

 

 

…… ……

…… ……

 

 

 ――シカゴ、アメリカ。

 

「距離3000、風速3、前方から誤差1.5……標的捕捉……随分と豪華な食事ね」

「どうせ最期の晩餐だ」

「それもそうだわ」

 

 スコープを通して見える肥えた男。これが最期の晩餐とは露知らず、肉に舌鼓を打っている。

 向かい側の女は奴の愛人。正しくは愛人のフリをした敵対勢力の諜報員だ。

 偽りの笑顔を振りまくのもここまでだ。これから笑顔を引き攣らせることになる。そうだな、気が弱ければ失神するかもな。

 

 全面ガラス張りのビルで警戒心すら抱かずに食事するのは強者がすること。

 だが、夜景を楽しむことは、三流がやることだ。

 

 一流は夜景に紛れる煩わしいカス共を嘲笑い、楽しむ。

 

「エレナ、やれ」

「了解」

 

 一瞬だった。

 一瞬で豚の頭が消し飛んだ。向かい側の女の顔が滑稽で笑いが零れる。

 悲鳴を上げたのか。それとも倒れたか。

 

 否、女は悲鳴を上げながら倒れた。諜報員にしては無様だ。

 それをエレナは嗤いながら自ら心臓を晒して死を乞う女に己の武器を向けた。

 

「そういえばね、XANXUS。彼女は新しい諜報員を育てるために何の罪もない子供たちを誘拐して、非道な訓練を施しているそうよ。弱者は守らないといけないわ。任務にはないけど――撃ってもいいかしら?」

「勝手にしろ」

 

 エレナは弱者を守るためなら殺すことを厭わない。それで弱者が守られると言うなら自ら喜んで血に汚れると言うほどだ。

 この考えが根付いたのは自分が弱かった故に一度死んだからだとデイモンは言っていた。

 

 弱者を守ってほしいとデイモンたちに言い続けているのに自分は何もしなかった。

 デイモンたちは手を穢しているのに自分は綺麗なままだった。理想を語り現実から目を逸らした。

 

 そんなエレナはデイモンが暴走したことに重い責任を感じていると言う。

 

「私が死んだ後、彼はボンゴレの為に暗躍した……私の言葉が彼を苦しめたの。なのに私だけが綺麗なままだなんていられない。いくらデイモンが望んでいたとしても、私は前のままではいたくない。弱者を守るために、彼らを虐げる人達を殺める覚悟はあるわ……あとは、力だけ。もし、またデイモンが暴走しても止められるような、そんな力が……私は欲しい」

 

 そう言って力を乞うたエレナに俺は力を与えた。

 デイモンの反対を押し切り、エレナに狙撃術を伝授した。

 

 これで才能が無かったらそれまでだ。

 

 そう思って伝授してみたのは良いが……意外なことにエレナには才能があった。

 人を消し飛ばす、殺しの才能が。

 生まれながらの殺し屋の才能は死んでからようやく表に出てきたようだ。

 

 表に出てきた才能にエレナは諸手を上げて喜んだ。

 

 これでただただデイモンに寄り添うだけの、無力な自分とはお別れだと。

 血濡れた話を避けて平和な日常の話しかしないデイモンと対等な位置に立てるのだと。

 本当の意味で互いに支え合って生きていくことができると。

 

 エレナの喜び様に凪は「これが愛なのか」と学んだようだ。俺も学んだかもしれん。

 だからといって愛に理解を示すかと言われればそんなことないがな。

 

 愛は下らん。俺にはいらねぇ。

 

 

…… ……

…… ……

 

 

 エレナを伴って任務から帰ってきた俺にカスチビは吐いた。

 

「おかえり。君がいると無理ゲーだなぁと思って、君がいない間に六道骸君を脱獄させたよ」

 

 テメェの牢獄だろ。何故脱獄させたカス野郎。

 


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