憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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オリジナル展開と言いますか、最早おかしいのですよ
ご注意なのです


13 再会は新たな出会いを齎す

「このこのこのっ!どうして二人とも勝手にやりたいことやって死ぬんだい!僕は強欲とはいえ施しは嫌なんだよ!!なのに二人とも金も命も放り投げて、それで何をするべきかわかんない僕を勝手に置いてけぼりにするなんて!これだから身勝手な奴は嫌いなんだぁあっ!!!!」

 

 らしくもない大声を上げて弱々しい拳で叩き続ける赤ん坊。矛先は俺だけではない筈なのだが何故か拳は俺に振り上げられている。

 止める気はないのでそのまま放っておく。好きなだけ叫ばせておけば後で疲れるだろう。

 荒い息を吐く小さなアルコバレーノに溜息が零れた。

 

 

 復讐者の情報により判明した有名な情報屋の正体。その一人は前世の部下、マーモンだった。

 ヴァリアーにいる筈のマーモンを探しに奴らの家に押しかけた俺達は、マーモンの驚愕した顔を拝んでめでたく再会を果たした。

 そして今に至る。

 

「良かったねーXANXUS君。僕に感謝しても良いんだよ」

 

 俺に同行した凪は六道骸によく似た男に絡まれていて近くにいない。だが勝手についてきたカスチビとベスターは叩かれている俺を見物している。

 ベスターは口を開かずじっと見つめているだけで無害だがカスチビは違う。先程から絡んできて鬱陶しい。

 カスチビが鼻にかけたような態度で俺を見下ろすのが気に喰わない。ベスターに指示を出す。

 

「ベスター、やれ」

「ガルルッ」

「のわーっ!」

 

 痛む身体を引き摺ってカスチビを追いかけるベスター。同じく痛む身体を引き摺って逃げ出すカスチビ。

 今回は凪の所為で炎は使えないのでこちらが有利だ。そうだベスター、捕まえてドブにでも落とせ。

 

 ベスターに指示を出しつつ頭の上に乗るマーモンを掴み、目の前に落とす。

 前世と全く変わらない格好をしたマーモンに懐かしさを覚える。懐かしさの後に迫る怒りだけは勘弁だがな。

 

「テメェも誰かに殺されたのか」

 

 俺も凪も殺されたから転生している。もしマーモンも殺されたのなら、前世で殺された奴らは転生している可能性が否めない。

 だがマーモンはフードに隠された頭を振った。

 

「僕はきちんと生きたよ。ボスが残したお金とクローム髑髏、今は凪だっけ?彼女が勝手に契約した家でね」

「凪もテメェに何かしたのか?」

 

 凪からは何も聞いていないが。

 俺が尋ねたことでマーモンは先程の怒りを思い出したらしい。再び声を荒げながら説明した。

 

 俺が死んだ後、マーモンはカス鮫がボスになることに反対してヴァリアーを抜けたらしい。大勢の奴らに止められたがマーモンはそのまま抜け出した。

 その直後に今度は凪のありもしない噂が流れて来たらしい。

 だがマーモンはカス女が凪に暴力を振るわれたと言ったその時間帯に、丁度凪と一緒にいた。マーモンが証人として凪の無実を訴え、その時は凪は咎められなかったらしい。

 この件について凪は恩義を感じていたらしく、自分が死ぬ直前にマーモン宛に航空券と家の契約書を送ったそうだ。

 

「その後僕は裏社会から足を洗って平和に暮らしたよ。だけどボンゴレはあの女と共に在りたいとかほざいた沢田綱吉によって解体されて裏社会は大混乱。裏社会の混乱に激怒したユニによってボンゴレギアは取り上げられ、全てチェッカーフェイスに返還されたらしいよ」

「なんだって!?チェッカーフェイスが関与したの!?」

 

 先程まで俺を笑いながら見物していたカスチビが動揺した。チェッカーフェイスの話題となると食いつきが良くなるのは相変わらずだ。

 マーモンは奴が驚く理由を知っている。そのこともあって、声を荒げているのを見ても驚くことはない。

 マーモンは奴の問いに頷くことで応えた。

 

「チェッカーフェイスはアルコバレーノの継承にしか関わらないんじゃあ……」

 

 カスチビの言うことは確かに正しい。奴自身も言っていたらしいからな。自分はアルコバレーノにしか関わらない、と。

 詳しく聞きたいので話を促すことにする。

 

「話せ」

「単純な話さ、ボス。チェッカーフェイスは自分から頭を突っ込んだんじゃない。ユニが返しただけだ……元々、トゥリニセッテはあの男が管理していたものだろう?持ち主に返すのは当然のことさ」

「なんだ、そういうことか」

 

 よくわかった。ユニは大空のアルコバレーノの権限を使って管理者であるあの男に返したと言う事らしい。

 元は地球人らしいあの男とその種族のものであるため、返したところで問題はないということだろう。あの男一人で管理するのは難しいらしいが、その辺りはユニも負担した……らしい。

 ユニに負担をかけさせるとは、あのカスは本当にカスだな。

 

 例の件に何一つ関わっていないユニが一番苦労するとは意味が解らない。沢田綱吉は碌な人生を送ってなさそうだ。最期辺りは一体どんな死にざまだったのか気になるものだ。

 

 俺は理解できたが、俺より頭が悪いカスチビはまだよくわかっていないようだ。

 あいつにとってあの男は極悪人。何をしても悪いように受け取られると言うのも、結構問題なモンだな。

 

 更に詳しく聞いてきたカスチビを無視し、マーモンは俺の方を向いた。 

 

「前世の話はこれくらいでいいかな、ボス。今度はそこにいるデイモンについて話さないといけないからね」

「ああ」

 

 視界の端に映る(デイモン)スペードが何故ここにいるのか。流石に俺もわからない。何故マーモンがこいつを仲間にしたのか。そして、何故あの男は仲間に入ったのか。

 前世でのあの男の行動原理を考えると今の状況がいかに不可解かわかる。

 より強いボンゴレの為に生きていた男が、ただの情報屋をしているのが不可解だ。前世ではシモン・ファミリーのボスの家族を惨殺したとか聞いたことがあるが……果たして、そのようなことをした男とマーモンは行動をとるだろうか。

 

 視線を再びマーモンに移し話すように促す、その前にカスチビをゴミ箱に捨てた。さっきから「チェッカーフェイス」とうるさいんだよカスチビが。それくらい奴のことが好きならそこで叫んでろカスが。

 ゴミの海で溺れるカスチビを変なものを見る目で見ながらマーモンは話し始めた。 

 

「僕がデイモンと会ったのはゆりかご後、僕が暇になった時だよ。情報屋を始めたばっかりの僕に、彼が客として来たのが始まりだ」

 

 デイモンはマーモンにボンゴレの内部事情を尋ねに来たと言う。

 ちなみに奴だが、本当は情報を欲していたわけではなく、マーモンを試しに来ていただけらしい。しかしマーモンはボンゴレの人間。そのため、ボンゴレの事情をあっさりと渡すことができた。

 

 難攻不落のボンゴレから情報を盗むことができるマーモンを、デイモンは一時は脅威と見なしたらしい。

 この脅威と言うのは術士の力を意味しているのであって、あいつ自身の野望の脅威のことではない。そもそも奴は野望を持っていない……らしい。にわかに信じがたいが。

 

 まあ兎も角。奴はマーモンのことを自分の敵に成り得る奴だと思ったのだとか。そのこともあって、デイモンはマーモンと組んでその情報がどこから取り入れられているのか探った。

 マーモンは知っていながら敢えて手元に置き、デイモンを監視していた。前世の騒ぎのことを覚えていたからだろう。

 

 互いに監視をし合って数年。そこでマーモンは違和感に気付いた。 

 デイモンは前世通りに、古里炎真の家族を殺さなかった。沢田家光に容疑がかかった門外顧問の事件も起きていない。この数年、デイモンはただマーモンの傍にいただけだった。

 

 そこまで言い終えると、マーモンは凪と幻覚のトレーニングをしているデイモンを見やった。

 

「前世通りに行動しないあの男は転生者じゃないかって思ったときもあった……だけど違ったよ。彼は正真正銘、この世界に生きるデイモンだった……ただ、僕の知る前世のデイモンとは歩んだ過去が違っていただけ」

 

 マーモンは続けた。

 

「彼はとある事情でボンゴレⅠ世(プリーモ)を恨み、自分の理想とする最強のボンゴレをつくるべく暗躍した……というのが前世の話だけど、ここでは少し違う」

 

 マーモンが言うにはデイモンは暗躍はしていないらしい。あいつが暗躍したのはプリーモを引退に追いやったところまでで、それ以降は活動していないのだとか……本当かは疑わしいが。

 ただ、あいつは自分が暗躍してボンゴレを監視する前に理想が早々と現実になったので、その気が失せたらしい。

 

「彼の理想のボンゴレだけど、プリーモが日本に引退した後に次のボンゴレを継いだボンゴレⅡ世(セコンド)が叶えたんだよ。圧倒的に強く、裏社会から恐れられ、そして弱者を庇護するボンゴレを……ね。それで彼はセコンドに恩義を感じているみたいで、彼の最期の言葉を守るべく今も生きているんだって」

 

 セコンドの最期の言葉は、自分の子孫を頼む的なことらしい。らしい、というのはデイモンはその言葉を自分だけで独占したいらしくマーモンには教えなかったためだ。大方そのようなことを言ったとのこと。

 ここのデイモンは大分俺の先祖を慕っていたらしい……前世では考えられんが。

 

 一通り話し終えたマーモンは満足そうにお茶を啜った。いつの間にか現れたちゃぶ台に置かれたお茶を俺も啜る。

 マーモンが幻覚かサイキックで何かしたのだろうと思い、横を向くと――イェーガーがサムズアップしていたので視線を戻す。

 

「彼、随分と変わったね」

「前世は前世、と割り切った方が良いかもしれねぇ」

 

 じゃねぇと、あんなのに前世は負けたんだとムカつきがおさまらねぇ。

 そう続ければマーモンは楽しそうに声を上げた。

 

「ボスのところは楽しそうだね。僕も加わりたい」

「金は?」

「金は前世の分も含めて考えると十分すぎるよ、ボスからはもう金はとらない」

 

 カスチビと同じサイズの手を差し出したマーモンのそれを握る。

 

「今生も宜しく、ボス」

「ああ」

 

 そういえば、前世では握手なんてしたことがなかった。何もしなくても勝手にあいつらが着いてきた。

 誰かと組む時もそいつが頭を下げて、俺が許可をした形だったから握手なんてしなかった。

 

 自然と手を伸ばしたということは、やはり俺の中で何かが変わっていると言うことなのか。

 

 

 握手を交わした俺達は仲良くお茶を飲んでいる術士達の元へ向かった。

 カスチビ?知らねぇな、海で溺れ死んだんじゃねぇのか?まあ、どうでもいい。

 

「ボス」

 

 目が合うと凪は満面の笑みを浮かべて走り寄って来た。その後ろからデイモンがゆっくりと近づいてきた。

 心なしかその目は驚きからか見開いているような気がしなくもない。

 上から下まで俺を見定めるように見てきたデイモンは、訝しげに俺を見ている。特に顔を。

 

「他人の空似……ですかね?」

 

 首を捻りながら零した一言。そこでようやく思い出した。

 マーモンの言う通りならばこいつはセコンドの子孫が云々だった筈だ。それで俺はその子孫……こいつは知らなさそうだが。知らないながらも俺の顔はセコンドそっくりなので思うところがある、と言ったところか。まあ、それは正しい。

 

 しかしマーモンは前世の俺がボンゴレの血を引いていなかったことを知っている。そのこともあって、恐らく俺が今回はボンゴレの血を引いていることを知らないだろう。

 だとすれば、マーモンはデイモンに俺のことを話していない、話せるわけがない。

 

 不思議そうな顔をするデイモンにマーモンは「他人の空似だよ」と返す。

 一応、俺にも正しいことを言う権利はあるので訂正する。

 

「その件だが、マーモン。どうも今回はボンゴレの血を引いているらしい。カスチビの持っているボンゴレの家系図に載っていたからな」

「えぇっ!?そ、そうなのボス?」

「では、あなたはセコンドの子孫……ですか?」

 

 誰の子孫かは直ぐにわかったらしい。確認してきたデイモンに頷く。

 すると、奴は目を輝かせて俺を両手を握ってきた。

 ぶん殴りてぇ。

 

「ああ、やっと会えました!長年、セコンドの子孫を探していたのです!情報屋をしているマーモンの傍にいれば何かがわかると思っていたのですが、まさか元から縁があったとは!!私は嬉しくて、涙が……嗚呼、エレナ!エレナーッ!!!」

 

 口を挟む隙すら与えずにノンブレスで叫んだデイモンは、女の名を呼びながらどこかへ走り去った。

 やはり術士はどこかおかしい。

 

 

…… ……

…… ……

 

 

「じゃあ、君達はXANXUS君の部下と言う形で復讐者に入るんだね」

「そうしようかな。だけど今はヴァリアーにいるから無所属の方が良いかな?そっち的に考えると僕の立ち位置は微妙でしょ」

 

 似ている口調で話をするチビ達はあれから所属についての話をしていた。

 カスチビは残念ながらイェーガーに救出されたようだが、それでも特有の臭い――ゴミの臭いは染みついている。無様で滑稽だぜ。あと、臭い。

 

 こういう話はチビ共に投げつけて、飯を食べる手を動かす。イェーガーの料理は専門的だが、家庭的な味も悪くない。

 隠し味が効いているのか、それとも作る側の想いとやらでもあるのか。とりあえず、美味い。

 

「どう?美味しい?」

 

 問いに頷けば、嬉しそうにはにかむ女。

 前世では関わりがない、というか会えるはずもない人物――デイモンの恋人、エレナ。

 

 デイモンの力によるものなのか、エレナは今も生きていた。いや、それでは語弊があるか。

 エレナは実際は死んでいる。術士ではない為、デイモンのように禁術で生きることはできない。しかしながら、デイモンはエレナと共に暮らす夢を諦めなかった。

 その結果の産物がエレナ、の思念だ。

 

 リングにエレナの思いを封じ込め、そしてそれをリングにより実体化させる。

 この方法は未来で見た初代ボンゴレの思念が現れたボンゴレリングと同じだが、元々それはデイモンが編み出したものらしい。各ボンゴレリングに各守護者の思いを入れたなら、勿論恋人の思いも別のリングに入れるだろう。

 

 普通のリングに入れたのなら、大した力は発揮できなかったかもしれない。ボンゴレリングのように、強い力を持っているリングでない限り強い思いを閉じ込めても実体化するのは難しいらしいからな。

 しかし、デイモンがエレナの思念を入れたリングは、ただのリングではなかった。

 

 俗にいう、ヘルリングだった。

 

 この事実に対してマーモンは「ヘルリングに入れるなんてヤンデレ化しそうなのに」とのことだったが、エレナは至って普通の女である。

 ちなみに霧の炎を使っているらしいので実体はある。ヘルリングの強力な力を借りていることもあって、普通の人間と変わらないように見える。超直感がなかったら見抜けなかっただろうな。

 

「あら、デイモン。クリームがついているわ」

「ヌフフ……すいません、エレナ」

 

 恋人らしい甘いやり取りに吐き気がする。ベスターが唸り声を上げる。俺の気持ちとシンクロしたようだ。

 目の前でやるな、と言いたいが……その前に吐き気がしてやる気が湧かない。

 

 視線を逸らせば口元と胸元を手で押さえていた凪と目が合った。

 

「ボス……胸焼けがするの」

 

 どうやら奴らの甘い空気に当てられたらしい。吐き気だけの俺より症状が重そうだな。

 こういうのに憧れるかと思いきや逆だったようだ。前世のトラウマか?

 

「消化に良いモン食って、牛乳飲んで、その後寝ろ。寝るときは上半身を高くしてからだ」

「うん、わかった」

 

 いつの間にか用意されていたおかゆを食べ始める凪。邪魔をするつもりはないのでチビ共が話し合う場所へ視線を移す。

 話が終わっていないようなので、ふと思い出した前世のことを考えてみることにする。

 

 沢田綱吉の仲間には二種類のタイプの奴がいる。ちなみにヴァリアーは知らん。

 一つ、あいつと関わる以前から甘い奴。もう一つはあいつと関わってから甘くなった奴。この二つのタイプが奴を支えている。例外はない。

 

 例えば凪。こいつは元から甘いタイプだ。あいつがいるから甘くなるのではなく、元から甘い。

 雲雀恭弥みたいな、あいつに加わってから甘くなった奴とは反対側に位置している。

 それが強さと関係するのかは俺も知らん。元から甘いと強くなるのかと俺は疑問に思うんだが。沢田綱吉の例もあってこの辺りの問題は難しい所だ。

 

 沢田綱吉のことはどこかに捨て置く。

 さて、この二種類の甘さ、どちらがマシだと思うか?

 

 俺は元から甘い方が後から甘くなるよりマシだと思っている。元から甘くない方が理想だが、沢田綱吉の仲間というのを考える以上、このそれは望めない。

 

 理想はヴァリアーだったんだが……まあ、あいつらの落ちぶれ様からわかるように、後から甘くなった奴は総じて弱くなる。これがセオリーだ……雲雀恭弥も最後辺りは最強を名乗れるような奴じゃなくなったしな。

 

 俺がここまであいつの悪口を言っているのは奴が「ボス猿」と呼んでいたことに対して怒っているわけではない。断じて。

 

 何かが動く気配がしたので視線を戻せば、凪が毛布を被っているところだった。上半身を高めにしているのを確認。ベスターに背中を預けて高くしているが……まあ、きちんと対処しているようだ。

 再び視線をチビに戻せば、先程まで話し合っていたチビ達がこちらに近付いていた。終わったのか。

 カスチビに用はないので無視。マーモンの用を聞こうか。

 カップルは知らん。勝手に爆発しておけ。

 

「ボス、そういえば重要なことを話すの忘れてたよ。ヴァリアーのことだけど」

 

 そういえば、マーモンは今もヴァリアーにいたな。ヴァリアー、それも幹部に復讐者のスパイがいるのは……ご愁傷様と言う奴だろうか。恐らくそうだな。

 前世だったら何としてでも排除しただろうな。復讐者の人間なんて爆弾、抱えるのは勿論、話しかけるのも避けたいくらいだ。

 なにせ復讐者は厄介事とカスの塊だ。ただしカスチビのみ。

 

 イェーガー?あいつは良い奴だろう?

 

 

 兎も角、ヴァリアーがあまりにもどうでも良すぎて今まで忘れていた。

 マーモンがここにいる以上、ヴァリアーに魅力はない。カス共はどうでもいいからな。

 しかし、俺の名を名乗ってる女がいる以上、何かがおかしくなっているはず。この辺りは聞いておかないと何かがあったときに困る。

 

 椅子に座り直し、話を促す。

 

「何か変わっていることはあったか」

「そうだね。ボスの名を名乗っている女は、あの時の女と同様に男を引っ掛けるのが上手いらしい。自分が"XANXUS"だと思い込んでて、しかも"彼に成り切る"とばかり言っている……女なのに男になろうとしていると同情を集めているよ」

 

 マーモンの話はこうだ。

 カス女は俺と同じ道を歩むべく行動していたそうだ。ゆりかごを起こしたのも、俺が起こしたからだと女は言ったらしい。

 女に従うカス達は「女なのに男として生きていこうとするカッコいいボス」みたいな認識を持っているようだ。馬鹿だな。

 

「スクアーロは『何故成り切ろうとする。お前はお前だろ』とか言ってるけどね」

「反吐が出る」

「まったくだよ」

 

 ということは、カス鮫はあの女に惚れてる訳だ。フン、下らねぇ。

 なら、力は落ちぶれているだろうな……愛とかいう下らねぇ感情に惑わされた奴は碌な目に遭わない。碌に強くなれない。

 ただただ、奈落の底に落ちて悲惨な未来が来るまで愛に溺れるだけだ。

 

 鼻で嘲笑えばマーモンもフードの下で歪んだ笑みを見せた。

 

「あの女の謎と言うか、不可解な点はボスもわかると思う。ボスが前世にやったことを何故女は知っているのか、僕等の平穏を壊したあの女のように、僕等のことを知る術を今回の女も持っているみたいだね」

 

 俺の過去。決して真実を明かすことがなかったゆりかごのことも知っていた、あの女。

 あいつが何者かは俺は知ることはなかったが、今回も同じように知っている……か。

 

「碌な手段じゃねぇだろうな」

 

 俺達が知りようもない、理解できようがない手段を使っていそうだ。

 理解できなければ探し求めたところで意味はない……が、カス女には個人的に用がある。

 俺の名を好き勝手に使い、求めてもないのに勝手に「俺に成り切る」とかほざきやがったからな。

 となれば、やることはひとつ。

 

「カスは、カッ消すに限る。カスひとつ残らず……なあ、マーモン」

「わかってるよ」

「最期の舞台だ、滑稽に踊らせてやる……」

 

 そのための時間と労力は惜しまない。

 使えるものをすべて使って、カスに絶望を……沢田綱吉達には恐怖を与えてやる。

 

 さて、前世とは少し違ったリング争奪戦を演出するか。

 リング争奪戦まであと少し。カスをカッ消せるかと思うと怒りが湧くぜ。

 


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