憤怒の暴君、転生する   作:鯱丸

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12 達した境地から発見した新たな繋がり

 「死ぬ気の到達点」に辿りつく道のりは険しかった。妥協するわけにはいかなかったので本当に死ぬ気にならなければならなかった。それが意味するのは実際に死にかけになっての死ぬ気になることだ。

 凪によるとカスチビは死ぬ間際に抱いた恨みや復讐心、絶望で到達点に辿りついたらしい。また、沢田綱吉は奴曰く「希望」を抱いて到達点に辿りついたのだとか。希望を抱いて辿りつくとか意味が分からねぇ。

 

 俺には「絶望」も「希望」もわからないのであいつらと同じ方法で辿り付けるはずもなかった。凪やベスターと共にどうしたら辿り付けるのか頭を悩ませたものだ。

 

 散々頭を悩ませたのが効を成したのか、俺達は全員到達点に辿り付き、カスチビをボコボコにすることができたのは良しとしておこう。

 

 ただ残念なことにカスチビが言うには「あれは偶然が重なっただけ」らしいが。負け惜しみかと思うかも知れないが奴の言葉は否定できない。あれは偶然が重なった結果カスチビが予想もしなかった事態になっただけだった。

 カスチビは俺が到達点に辿り付くことは想定していたらしい。俺が得た力は言うまでもなく攻撃的だろうというのは奴も俺も予測していた。そして実際、そうだった。

 奴が考えていなかったのはベスターが俺と同じタイミングで到達点に辿りついたこと。そして凪が到達点に辿りついたことだった。

 これは俺も驚愕した。予想外だ。

 

 張本人である凪は現在、全身に包帯を巻いた姿で緑茶を啜っている。隣にいるベスターも包帯が巻かれた姿で眠っている。

 

「お仕事……行かないの?」

「逆に聞くが、今の状態で行けると思ってんのか」

「……無理」

 

 満身創痍でマフィアの前に顔を出せるわけがねぇ。話を広めるのが好きな奴らのことだ、俺達が誰かにやられたとか流すだろう。実際は身内同士で戦っただけだというのに。ボンゴレの誰かにやられたとか、そういう話が創作されるのが気に喰わねぇ。

 凪もそうだが俺の全身にも包帯が巻かれている。俺達だけでなくカスチビも同様だ。

 そのカスチビは怠そうに布団に転がっている。雑誌を読んでいるがそのタイトルが「求人誌NEET」と書かれているのは見なかったことにしてやる。

 

「正直言って、僕は君達を侮っていたよ。死ぬ気の到達点になんて達する訳がないとか思ってた。だって、それに辿り付くにはそれこそ強い覚悟と感情が必要だから……なのにみんな辿り付いてるし」

「やることが沢山あるからな。簡単に死んでたまるか」

 

 カスチビから求人誌を奪って流し読みする。咎めるような視線は無視だ。

 

 カスチビは戦いにおいて容赦は一切与えなかった。後から聞けば「殺すつもりはなかった」と言っていたが戦っているときはどう見ても殺す気だった。

 嘘なのか奴の演技が上手いのか。騙されたような気がしないでもないが騙された方が悪いのだろう。こればかりは仕方がない。

 

 求人誌を握る、今も尚痛みを訴え続ける腕を見て思い出す――――初めて死ぬ気になったと感じたあの戦いを――――

 

…… ……

…… ……

 

 あの時の俺達は満身創痍だった。イェーガーに手酷くやられて、無様にも地に倒れていた。

 奴と戦う時に出された条件が「イェーガーの攻撃を避けてカスチビだけを狙う」という最初から不利な戦いだったからな。前世でも負けたイェーガーと戦うのはリベンジだと受け入れたが最初は後悔した。

 

「死ぬ気の到達点を甘く見てもらっては困るよ。動機が不十分なんじゃない?怒りなら、もっともっと強い怒り……復讐心レベルまでのものを抱かないと」

 

 地面に倒れる俺とイェーガーの上に乗る奴の距離が離れていることにどれほど腹が立っただろう。遥か高みから見下ろされているようで、今までにない怒りが湧いてきたのを今でも覚えている。

 ありとあらゆることに対しての怒りが次々と沸き起こり、気が付いたらカスチビを殴り飛ばしていた。

 脳裏に過る前世の死にざま。裏切者たちや憎きカス女の顔。悲鳴を上げるマーモン。

 

 激情に駆られるまま拳を振るっていて、その時に気が付いた。

 自分の拳に灯る見たことのない炎。憎悪を打ち負かさんばかりに灯る憤怒。

 

 前世で俺の匣兵器だったベスター。俺が怒ると同調し憤怒の炎を吐いたベスターもその時、俺と同じ炎をカスチビに放っていた。

 人間で多少の理性のある俺とは違って本能のままに生きるベスターは抑えが利かなかった。 

 暴れまわるベスターを抑えるイェーガーはカスチビを気にする余裕はなかった。これ幸いとカスチビ相手に攻撃していると今度は凪が覚醒した。

 

「未来を変えられないまま終わりたくない……!」

 

 心から叫んだだろうその言葉は凪に力を与えた。言葉通りにあいつは未来を変えた。

 本人の前で言うつもりはないが、カスチビに止めを刺せたのは凪の力があったからだ。戦闘中のあいつのあんな間抜けな顔を見るのは恐らくあれが最初で最後だと今なら思える。

 それほどまでに奴にとって凪の力は想定外のものだった。

 

 カスチビも予想外だった凪の力を借りて、あいつに止めを刺した。

 最後の最後に、あいつの顔面に前世から溜めてきた怒りを叩きこんだその瞬間は爽快、の一言だった。

 

…… ……

…… ……

 

「もう一度顔面に拳を叩き込みてぇ」

「僕は御免だよ」

 

 本音を零せば耳聡く聞かれていた奴に返された。しかし奴もわかっているだろう。俺が冗談で言っていたと言うことに。

 

 そもそも、今の俺は求人誌を握っているだけで激痛が走るほどの後遺症に襲われている。奴に拳を叩きこむのは言語道断だ。俺の手が使い物にならなくなる。

 

 これは俺の技の代償みたいなものらしい。破壊力が強い代わりに自分にも返ってくる。正直言って使い物にならない。代償付きの力なんて使う気にもなれん。

 だがカスチビの夜空の炎も最初はそんなものだったようだ。

 

「僕だってね、最初は移動するたびに全身に焼けるような痛みが走ったよ。光速ワープなんて論外だよ……死にかけたし」

 

 熟練者がここまで言うのだから、やはり最初はそんなモンなんだろう。まだ俺の偽者もといカスが眠っているとはいえ、奴が目覚めるまでに何とか使いこなさないといけねぇ。

 俺だけではなくベスターや凪も同様だ。力のコントロールができないと話にならん。

 

 だからこそ、早くカス共をカッ消しに行きたいのだが……それぞれの後遺症が酷くて彼是二週間経った今も動けない。

 凪は俺よりマシだが俺達から監視を受けている。監視される理由は一つ。死ぬ気の炎に触れさせないためだ。

 あいつの力は憤怒の炎を主とした戦い方を取る俺や、移動手段や戦闘手段に夜空の炎を使う復讐者達からすれば脅威そのものだった。

 霧属性が覚醒すると面倒なんだな……あのチェッカーフェイスもそういえば霧属性持ちだと聞いたことがある気がする。マーモンから聞いたから確かだ。

 

 力をコントロールするまで凪の近くで戦わない。夜空の炎で移動しない。この二つの約束事が俺達の間で成約された。

 

 もっとも、今の俺は戦うことすらできないので俺が炎をぶっ放すことはないが。

 

 俺にボコボコに殴られたせいで動けないカスチビ。後遺症で動けない俺。動けない俺達に監視されているために動けない凪。俺と同様の後遺症のために動けないベスター。

 動けない俺達の面倒を見ているのはイェーガー率いる復讐者達だ。

 

 あいつ等が持って来た夕飯を食いながらイェーガー達からの報告書を読み進める。外に出てカッ消せないが書類を見て情報を得ることくらいはできる。

 イェーガーが書いたと思われる美味いドルチェの店について紹介している報告書を読んでいると不意に名前を呼ばれた。

 

「XANXUS君。"双頭の悪魔"って名前に聞き覚えはあるかい?」

「なんだその名前は」

 

 聞き覚えのない名前を口にするカスチビに率直に尋ねる。悪魔なんて痛々しい名前を付ける奴らなんて知っている訳がねぇだろ。それともなんだ、俺が痛い奴だと言いたいのか。カッ消すぞ。

 カスチビを睨みつつイェーガーの報告書を凪に押し付けて他の書類を手に取る。

 

「……今度はジャックのか」

 

 また外れのようだ。新しく牢屋に入ったカスの名前が書かれているが俺はそんなものに興味はない。カスチビに放り投げる。

 危なげなく受け取ったカスチビはジャックのではなく先程の報告書を読みあげた。

 

「数年前から活躍している情報屋だよ。高価な金品を要求するけどその分の働きはする……君の前世にもそんな感じの情報屋、いたかい?」

「情報屋に世話になったことはねぇ。知るか」

「そっか」

 

 腕を組んで頭を悩ませるカスチビから報告書を奪い取り、中身を読んでみる。ひょっこり覗いてきた凪にも見えるように位置をずらす。

 

「双頭の悪魔なんて痛々しい名前を付けながら情報屋してんのか」

 

 悪魔を名乗っておきながら実力が見合わない奴らはザラにいる。だがこいつ等は報酬を払わなかったら地の果てまで追いかけてくることで有名らしい。

 追いかけても払わなかったり持っていなかった場合は殺されるらしい。物騒な情報屋だな。

 

 報告書を読み進めていくと、隣から覗きこんでいた凪があるページを押さえた。

 

「これ……」

 

 凪が押さえたページにはそいつ等に払われた対価のリストが挙げられていた。どうやって集めたのか聞いてみたいくらいだが今は止そう。

 金品のリストから結構な数の金品が支払われていることがわかったが……それ以上に気になることがあった。凪も気付いただろうその違和感。

 

「お金より指輪が多い……ボス、これって……」

「ああ、奴等はリングを集めてやがるな。死ぬ気の炎の存在を知っている、と俺達なら思うが……実際はどうだろうな」

「でも、ボス。この指輪……ヘルリングなの。あと、これも……」

 

 凪が指で示したその項目には「マロッキョ」「セーイ・セーイ・セーイ」と書かれていた。変な名前だと思っていたがリングの名前だったのか。

 霧属性最高ランクを持つリングを相次いで対価としてもらっているのか。死ぬ気の炎やリングの使い方について知っていそうではある。

 特に秘匿すべき情報ではないのでこのことをカスチビに話してやった。

 

「ヘルリングね……そんな呪われたリングを何の為に欲しているのやら」

「力を求めるのに理由はいらん。奴らが力を集めているのは明白だ。金だけを求めるならわざわざリングなんか求めねぇ」

 

 ヘルリングの転売によって得られる金は実はそれほど多くはない。今の時代で呪われたリングを欲しがるのはマニアだけだからな。マニアご用達の店なら兎も角、情報屋が転売する理由がない。

 金が欲しければ最初から金を求めているだろう。

 

 まだよくわかっていないカスチビに凪が説明する。

 

「ヘルリングは術士を強くするの。術士の精神を食べさせて契約するって言われてる……」

 

 凪が説明をしている間に情報収集を終わらせる。煩いカスチビが見ていない間に全ての資料を見てやる。まずはヘルリングが転売されたどうかを調べるために、奴らがリングを転売しているかどうかを調べねぇとな。

 そこら辺を歩いていた復讐者を捕まえて報告書を持って来させる。

 

 読み終わった報告書を渡して代わりに新しい方を受け取る。

 

 俺が踏んだ通り、復讐者はねちっこい性格のようだ。奴らが得た報酬がどうなったのか調べられている。この細かさをヴァリアーは習うべきだったな。今となっては困るが。

 リングの大半はそのまま宝石商に売り払われていることがわかった。販売されたリングはリストにも載っていることが確認されたが、凪の見つけたヘルリングは売られていなかった。

 奴らが管理している可能性が浮き上がってきたな。

 

 書類を読み終えるとタイミングよくイェーガーがコップを置いた。一飲みして次の書類を開く……ッ!?

 

「ぶふっ!」

「うわ!!一体なんだい!」

 

 つい目の前にいたカスチビに吹きだしてしまった。なんで牛乳入れてんだイェーガー、って違う。俺が吹きだしたのは牛乳が入っていたからではない。確かにそれも衝撃的だがそうじゃない。

 凪とベスターが不思議そうな顔をしてこちらへ視線を寄越してきた。

 

「……双頭の悪魔とは言い得て妙だった」

 

 報告書に挟まれていた一枚の写真を見えるようにテーブルに置く。覗き込んだ一人と一匹は見覚えのある姿に声を上げた。

 

「霧の赤ちゃんに……デイモン、スペード……?」

「グワッ!?」

 

 どうやら最近の俺は術士に縁があるらしい。あと、六道骸型の髪型に。

 写真には懐かしい赤ん坊の姿と、最近会った男と似た髪型をした男が写っていた。一人は関わりがなかったが、もう一人とは縁が深い。

 ヴァリアーの幹部である筈のマーモン。そして、前世では敵だったらしい(デイモン)・スペード。

 術士二人揃って何を企んでいる?


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