ご愁傷さま金剛くん   作:やじゅせん

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第八話  淫夢 2

 

 

 

 織斑一夏が実姉――千冬に呼び出されたのは今から数時間ほど前のことである。

 千冬曰く「金剛が私の部屋で寝てしまったから、取りに来い」とのことだった。

 

(……まったく。しょうがないな、金剛は)

 

 一夏はセシリアや箒たちと夕食を摂っている最中であったが、携帯電話でそのことを千冬から伝えられるとすぐに残りのカレーを胃袋に収め、彼女を迎えに行く準備をした。

 

「悪い。箒、セシリア。用事できたから先行くな」

「そんな! 一夏さん!?」

「待て一夏!」 

 

 後ろから聞こえてくる彼女たちの声を半ば強引に遮る形で立ち上がると、食器を片づけ、金剛のもとへと足を運んだのだった。

 

 

 

 千冬の部屋のドアを三度ノックする。

 

「千冬姉、金剛を返してもらいに来たぞ」

 

 すると数秒の間を置いて部屋の中からニヤニヤとした表情の千冬がひょっこりと顔を覗かせた。

 

「返してもらいにきた、か」

「……な、なんだよ。その含みのある言い方は」

「いやあ、別に?」

 

 一夏がジト目で千冬を睨むと彼女は苦笑しながら一夏を部屋の中へ招き入れる。部屋に備え付けられたベッドの上には下着姿の金剛がすやすやと気持ちよさそうに大の字で寝転んでいた。

 

(うわっ……なんつう恰好で寝てんだこいつは)

 

 ……ごくり。

 幼馴染のあられもない姿に、一夏は思わず生唾を飲み込んだ。

 

(う、うわっ……すげえ綺麗)

 

「なんだ一夏。金剛の下着姿に見とれたか?」

「な、ナニヲイッテルンダヨ。千冬姉」

 

 一夏は咄嗟に金剛から目を逸らした。

 一瞬、元男の幼なじみの下着姿に見惚れてしまったのは内緒である。

 

「そ、それよりもなんで金剛のやつ、制服着てないんだよ!」

「ん? ああ、制服ならそこだ」

 

 千冬はそう言って部屋の隅に干してある女子用の制服を指さした。

 

「なんで金剛の制服があんなとこにあんだよ……」

「……いや、……まあ、話せば長くなるんだがな、金剛に今日も冗談半分で酒を勧めてみたら意外にも呑むと言い出してな。こっちが言い出した手前、冗談だとも言い出せず酒を飲ませてみたんだが……金剛のやつ、二杯目で吐いたんだよ」

「……千冬姉、あんた仮にも教育者だろ。なに生徒に酒飲ませてんだよ」

「いや……ほんとにすまん。まさか金剛が本当に呑むとは思わなくてな」

「……ちなみになに呑ませた?」

「……………………スピリタス」

「ファッ!? なんつうもん呑ませてんだあんた!?」

 

 一夏は慌てて金剛のもとまで行き、彼女の胸に耳を合わせる。

 そして、彼女の心音が止まっていないことを確認すると、ほっと胸をなでおろしたのだった。

 

「どうした一夏。金剛のエロボディに発情したか? 夜這いならちゃんとゴム使うんだぞ」

「やかまし! 誰が夜這いなんかするか!」

「……なんだ。しないのか」

「しねーよ! なんで、しないのか(残念)みたいな雰囲気出してんだよ……」

 

 一夏は頭を抱えながら千冬のほうを見る。

 千冬はニヤニヤとした表情で取り乱す一夏の様子を楽しげに見ていたのだった。

 

「まあ、なんだ。金剛にはさすがにお前が心配するほど飲ませてないから安心しろ」

「一杯でも飲ませてる時点で信用できないんですがそれは……」

 

 一夏はげっそりとした表情でそう呟くと金剛のもとまで行き、彼女の頬を軽くぺしぺしと叩いた。

 

「おーい起きろ、金剛。帰るぞー」

「…………ZZZZZZZZ」

「金剛、おい、金剛」

「……んんン……いちかぁ……?」

「おう俺だ。戻るぞ、部屋に」

「やだ。……ねむいもん」

「わがまま言うんじゃありません。ほら行くぞ」

 

 今晩で金剛とは一緒の部屋で寝れなくなってしまうんだ。

 最期の夜くらいは一緒の部屋で眠りたい。そう思った一夏は半ば強引に金剛の手を引いた。

 

「いーやー!」

「来ーなーさーいー!」

 

 ベッドの上で繰り広げられる激しい攻防戦()。

 千冬の目から見ると一夏が強引に金剛を襲っているように見えなくもなかった。

 

(……これをオルコットたちが見たらなんと思うのだろうか)

 

 ふと千冬は他人事のようにそう考えた。

 

「ああもう! どうしたら動いてくれるんだよ金剛」

「おんぶして♪」

「……お前酔ってるだろ、絶対」

「酔ってないもーん♬」

「酔っぱらいはみんなそう言うんだよ。……ったくしょうがねえなあ」

「えへへ一夏スキー♡」

「へいへい。ほら行くぞ、お姫さま」

 

(……うぜえ、こいつら)

 

 こいつら爆発しねえかなあ……。

 部屋を後にする二人を見て、ふとそう思った千冬だった。

 

 

 


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