ご愁傷さま金剛くん   作:やじゅせん

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第三話  酢豚をプロデュース 3

 

 

 

「そうよ! あたしは酢豚!! ……って誰が酢豚やねん!?」

 

 一夏の言葉に、勢いよくノリツッコミをする鈴。

 おおう……初っ端からいいパンチ打ってくんなぁ。

 

「酢豚、お前も日本(こっち)に来てたのかよ」

「あたしの名前は凰鈴音! 酢豚言うな!」

「だって酢豚は酢豚だろ?」

「…………もう酢豚でいいわ」

 

 疲れたようにそう口にする鈴。

 一夏のやつ……未だに林間学校で鈴が黙って酢豚にパイナップルを入れたこと根に持ってんのかよ。器が小さすぎんよ~。

 

「一夏さん、誰ですの? この方は!?」

 

 一夏の横に侍るセシリアがそう口にする。

 

「酢豚だ」

「おい、いつまで酢豚ネタ引っ張るんだよ」

「止めてくれるな。あの日から俺は鈴が酢豚にパイナップルを入れない派に転向するまで、こいつのことは酢豚と呼ぶことに決めてるんだ」

「ガキかお前は!」

 

 ……やべ、面倒だから口を出さないでいようと思っていたが……思わず突っ込んでしまった。

 鈴のぎょろりとした視線がこちらに当たる。

 

「……一夏とやけに親しげね。あんた、一夏のなんなの?」

 

 ……まあ、弾のときもあったしたぶん気づかれてないだろうな、ってのは薄々感じていたが……。友達に初対面扱いされるのは結構精神的に来るなぁ。

 

「おいおい、ジョークはよせよ鈴。誰がどうみても金剛じゃないか。中学の修学旅行の最中にB組の詩織ちゃんに自筆の痛いポエムを添えてラブレターを差し出すという我が校きっての武勇伝を残したあの島崎金剛だよ。俺たち同じクラスだったじゃないか」

「え!? あの告白のあと彼女の好きだった人が一夏だったのを知って、修学旅行の自由行動時間の真っ最中にバカヤローと叫びながら真夏の神戸湾に飛び込んだあの島崎金剛!?」

「そうだよ。その後、飛び込んだトコの水深が膝の深さしかなくてみんなの前で赤っ恥をかいたあの島崎金剛だよ!」

「……ねえ、なんでdisられてんの? なんで小生disられてんの?」

 

 お前ら、……ほんとオレをネタにいじるの大好きだな。

 あとそのデカい声での説明口調やめーや。

 

「金剛さん……」

 

 セシリアたちがオレから一歩距離を引いたぞ、おい。

 

「う、うそ……た、確かにそういえばどこか面影は残ってるけど……」

 

 一夏から俺の正体を聞いた鈴は――

 

「うひゃああっ!?」

 

 ――モニュッ。

 

 ……いきなり両胸を鷲掴みにしてきた。

 

「これ絶対入ってるよね?」

 

 モミ モミ モミ

 

「ちょ、……あんっ……くすぐったいって鈴」

「……え!? ま、まさか……本物……!?」

 

 ぐにっと力を込めて乳首をつねってきた。

 

「いたっ……」

 

 思わず声が出てきてしまう。

 

「…………」

「…………」

 

 無言のまま数秒間、見つめあうオレたち。

 

「ばんなそかな!?」

 

 彼女はそんなことを言い出した。

 

 

 ………………………………。

 

 ……………………。

 

 …………。

 

 

「――……大体の話の流れは掴めたわ。つまり、金剛(あんた)がそんな姿になったのはあの天才科学者の篠ノ之博士が関わっている……と」

「せやで」「せやせや」

 

 放課後、鈴音に呼び出されたオレと一夏は自室内にて二人で仲良くタイルがむき出しの床に正座をさせられていた。

 

「あのう、鈴はん。ワイ、英国生まれやから正座とかごっつきついねん。足崩してもええか?」「ワイもワイも」

「ダメ」

 

 はい。即答。

 二人してがっくりとうなだれる。

 鈴音はむすっとした表情でオレのベッドに腰かけ、部屋の周囲を見回していた。

 

「なにこれ?」

 

 鈴は部屋の隅に積まれた箱の一つを指さす。

 

「ジェンガ」

「なんでそんなのがこの部屋にあるのよ」

「俺たち部活入ってないからさ、アリーナの予約取れなかった日は基本暇なんだよ。だから放課後、二人で暇を潰せるようなゲームは一式そろえてるんだ」

「ほんとだ。ジェンガにオセロ、チェス、……いろんなものがあるわね。しかも全部、……二人用のゲームばかり」

「金剛くらいしか遊ぶ相手がいないしな」

「…………」

 

 しばしの間、口を閉ざす鈴。

 

「あんたたち……中学の時から仲がよすぎると思ってたのよ」

「仲良きことはよきことやで」「せやせや」

「少し黙って」

「「……はい」」

 

 鈴の鋭い眼光がオレたちをまっすぐと射抜いた。

 ……正直、すっげーおっかねー。

 

「でもね、……あんたたちは男同士だったし……同性同士のスキンシップってこんなもんかな、って大目に見てたのよ、あたしは」

「はあ」

「でもまさかこんなことになるなんてね……正直、想定外よ。あたしも」

「なあ、鈴、正座崩してもいいか?」

「ダメ」

 

 もうあきらめろ、一夏。

 黙って正座しとけ。

 

「まさかあんたたちが男と女の仲になるなんてね……」

 

 はぁああ……、と大きなため息をつく鈴音。

 

「鈴、変な言い方はやめてくれよ。確かにオレは今はこんな姿だがな、心はちゃんとれっきとした男のつもりだ」

「嘘。心までちゃんと男だったらそんなに綺麗な髪してないわ。枝毛一つないじゃない。女の子の髪の手入れってすごく大変なのよ、あんたみたいな長髪の子は特にね」

「……こ、これは千冬さんがちゃんとしろってうるさいから……」

 

 オレがそう反論すると、

 

「……千冬さん公認か……こりゃ、あたしが思ってる以上に不味いわね……」

 

 とか言いながら、自身の爪を噛んでいた。

 ……なにが不味いんだよ。

 

「あんた、生理とかって来るの?」

「げふっ! げふんげふん」

 

 鈴の問いに、横にいる一夏が急に噴きだした。

 

「……それは…………」

 

 思わずオレは言葉に詰まってしまう。

 なぜなら……それは――

 

「……来るのね?」

「…………うん」

 

 ――オレが最も認めたくない身体変化の一つだったからだ。

 

「じゃあ誰がどうみても女でしょうが。……あんたね、生理が来るってことはもう赤ちゃんだって産める身体になったってことなんだからね? …………一夏の前でこんなこと言いたくないけど、あんたのために言うわ。男があんたの、……その、あそこの中で射精したらね、妊娠だってするのよ?」

「…………妊娠」

 

 ……男のオレが誰かの子を妊娠するだって? 

 …………気持ち悪い。想像するだけで吐き気がしてきた。

 

「も、もうこの話はやめよう。考えたくない」

 

 オレがそう言うと、鈴は酷く冷たい目をしていた。

 

「……ふうん。あんた、そうやって自分が女になったって事実から逃げてきたんだ」

「鈴!」

 

 一夏がオレと鈴の間に入る。

 オレを庇うかのように鈴の前に立ちふさがる一夏の背中は――オレが思っていた以上に大きくて……。……なんだかこうして改めて考えてみると、本気で自分が女になってしまったみたいで……酷く惨めだった。

 

 

 

 

 

 


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