ご愁傷さま金剛くん   作:やじゅせん

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第二話  酢豚をプロデュース 2

 

 

 

「おい金剛。なんで今日は起こしてくれなかったんだよ。おかげで遅刻するとこだったぜ」

 

 朝のHRが始まるちょうど十分前。

 前髪にぴょん、と大きな寝癖を残しながら一夏が廊下から急いで教室に入ってきた。

 彼はまっすぐと俺の前の席まで足を運ぶと、不満そうに口をとがらせる。

 

「あー……ごめんごめん。忘れてた」

 

 うそをついた。

 ほんとのところ、今朝は一夏と顔を合わせるのがなんとなく気まずくてそのまま放置してしまったのだが、オレはあえて適当にごまかすことにした。まさか今朝の一夏の気持ち悪い寝言のことなどセシリアや篠ノ之のいるこの場で言えるわけもない。

 

 ただでさえ、

 

「やはり……いくら幼馴染とはいえ、年頃の男女が同じ部屋で寝食を共にしているのはどうかと思いますわっ」

 

 セシリアみたいな意見を持つ生徒も少なくないんだから。

 不用意な発言は控えた方がいいだろう。

 

「しょうがないだろ。千冬姉に部屋が余ってないって言われたんだから」

「でしたら、一夏さんがわたくしの部屋に泊まってくださったら――」

「矛盾してるぞ。それ」

「う……」

 

 一夏は席に座る。

 オレの一つとなりの席だ。

 

「ごほん。それはそうと一夏。寝癖ついてるぞ」

「あら、本当ですわ」

「え? マジか?」

 

 そういえば席替とかってするのかな、このクラス。

 次に席替するときは前じゃなくて後ろの方がいいなぁ。

 授業中に千冬さんにいびられなくてすむし。

 

「くそ、うまく直らないな」

 

 隣の席がのほほんさんだったらなおよし。

 篠ノ之のとなりとかだったら、胃が重くなるからちょっとやだな……。

 いや、……別に嫌いってわけじゃないんだけどさ。

 

「あはは、オリムーの寝癖強いね~」

「笑わないでくれよ、のほほんさん」

 

 セシリアの隣もいいな。

 彼女は一夏関係のことを抜きにすれば基本いい奴だし。

 

「あの、もしよろしかったら……わたくしが直してさしあげ――」

「――金剛。悪いけどちょっと俺の寝癖直してくれ」

 

 ぶっちゃけ言うと、オレはセシリアが好きだ。

 あ、別に変な意味じゃないぞ。人として好きって意味だぞ。

 彼女とは同じイギリスの代表候補生同士、いい関係を築いていきたいものである。

 

「おーい、金剛。聞いてるかー?」

「ん? ああ、聞いてる聞いて――」

 

 ――ってなんでセシリアこっちめっちゃにらんでんの?

 

「ぐぬぬぬぬぬ……」

 

 突然セシリアが顔を赤らめてこちらをにらんでくるもんだから、思わずぎょっとする。

 オレなんか悪いことしたっけ……?

 

「えーっとセシリア? なんで怒ってんの?」

「怒ってなんかいませんわ!」

 

 セシリアに頬を膨らませて、ふい、とそっぽを向かれてしまった。

 どうやら理由はよくわからんが嫌われてしまったらしい。

 

 解せぬ……。

 

「あ、そういえば織斑くん。きょう、二組に転校生が来るらしいよ」

 

 のほほんさんの横にいる鷹月さんがそう口にすると、一夏は興味深そうな顔を見せてきた。

 そして、首をかしげる。

 

「転校生? こんな時期に?」

「うん。なんでも聞くところによると中国の代表候補生だとか!」

「へえ、代表候補生か。クラストーナメントで俺と当たるかもしれないわけか。……強いのかな?」

 

 中国の代表候補生か。

 一体どんなやつが来るのだろうか。

 

「今のところ専用機持ちは一組と四組だけだから余裕だよ」

 

 鷹月さんがそう言ったと同時に、

 

「その情報、古いよ! 二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから!」

 

 クラスの扉が勢いよく何者かによってあけられた。

 思わず音のした方へと一斉に顔を向けるオレたち。

 すると、その視界に入ったのは――

 

「――お前、酢豚か!?」

 

 オレたちのかつての級友――凰鈴音だった。

 

 

 


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