ご愁傷さま金剛くん   作:やじゅせん

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第十五話 英国料理の真髄3

 

 

 

「金剛、替えの服置いとくぞ」

 

 オレが湯船に使っていると、ドア一枚向こうの部屋から一夏の声が聞こえてくる。

 どうやらオレのために服を持ってきてくれたらしい。

 

 が、

 

「え、替えの服? オレ持ってきてなかったと思うけど……」

 

 IS学園に戻るまで着替えは我慢しよう、さっきまではそう思っていたオレであったが……。

 オレは当然のごとく疑問を口にする。

 すると一夏がオレの思ってることを察したかのごとく、

 

「ああ、それなら榛名がさっき持ってきてくれたぞ」

 

 と、すぐさま答えた。

 

 なるほど。榛名が持ってきてくれたのか。それなら納得だ。

 風呂につかりながら、オレは一人納得する。

 ちなみにいうと榛名とはオレの二番目の妹である。

 オレが病院に運ばれた時に真っ先に駆けつけてくれたのも彼女だった。

 

「お前が俺らと泊まること伝えたらさ、お姉さまに変なことしたら榛名が許しません! ……って怒られちゃったよ、俺」

「あはは……ドンマイ」

 

 そう言っている榛名の姿が頭に浮かび、思わず苦笑する。

 

 …………ポチャン。

 

「…………」

「…………」

 

 しばしの沈黙。水面に落ちるしずくの音のみが静かに木霊する。

 

 その沈黙の中、

 

「金剛。俺、今日お前と遊べて楽しかった」

 

 一夏が唐突にそう切り出した。

 

「なんか今日一日、昔に戻ったみたいにさ……弾がいて俺がいて、……お前がいた」

「…………」

 

 黙ったまま一夏の声に耳を傾ける。

 別に言葉を発するのが億劫だったわけじゃない。

 ただ、こう……なんというか、今オレが何かをしゃべるのは無粋なんじゃないか。

 そんな気がしたんだ。

 

「本当は鈴もいればみんな揃ったのにな」

 

 どこか残念そうに、一夏はつぶやく。

 

「金剛、ありがとな」

「え? あ、ああ……うん」

 

 改めてお礼を言われるとなんだか変な感じがする。

 だからというわけではないが、オレは歯切れの悪い返事を返すことしかできなかった。

 

「……じゃあ俺は向こう行くから、あがったら教えてくれ」

 

 一夏はそう言うと脱衣所の扉を開け、出ていった。

 

 

 

 タオルでごしごしと頭をふきながら、リビングに入る。

 一夏はソファに横たわり雑誌を読んでおり、弾は弾でテレビを横目に携帯をいじっていた。

 

「風呂あがったよ」

 

 オレが一夏の横に腰かけて二人にそう言うと、

 

「そうか、わかっ――」

 

 弾がオレを見て硬直した。

 

「な、なんか……風呂上りの美少女って……すげえエロく感じるのは俺だけ?」

 

 弾が小声でごにょごにょと言っているが、うまく聞き取れない。

 

「ん、なんかいった?」

 

 思わずオレは聞き返す。

 すると、

 

「い、いや、……なんでもない」

 

 そう言ってそっぽを向いてしまった。

 

「……一夏、お前……いつもこんなの耐えてんのか?」

「…………ああ」

「……すげえなお前。俺だったら三日で我慢できなくなるぞ、多分。……それ以上一緒にいたら、間違いなくあの唇にむしゃぶりつく自信あるね」

「……お前それ金剛に言うの絶対にやめろよ。あいつそういうの一番嫌がるから」

「……わかってるって」

 

 二人がこそこそと話をしているが……何だろう?

 

「どうした? 二人とも」

「気にしないでくれ」「気にすんな」

 

 二人の声が見事に重なる。

 

「?」

 

 ……まぁ、いいか。

 

「そ、そんなことより、金剛。冷蔵庫にアイスたくさんあるから好きなだけ食べていいぞ」

 

 弾が話題を唐突に変えるかのごとく、突然そう言った。

 

「え、マジ?」

 

 アイスか。

 最近全然食べてないな。

 久しぶりに食べてみたい気もする。

 よし。ここは弾の厚意に甘えるとしよう。

 

「ありがと、いただくわ」

「おう、あっちの冷蔵庫にあるから」

 

 そう言って弾は台所を指さした。

 オレは弾の言葉に従い、台所の冷蔵庫まで足を運ぶ。

 

(お、ゴリゴリ君の紅茶味まであるじゃん)

 

 冷蔵庫をあけると、オレが今ちょうど食べたかったアイスがあった。

 

「よし、……じゃあ俺はちょっくら風呂にでも入りますかね」

 

(おっ、バーゲンダッツ紅茶味まである)

 

「待てよ弾、次は俺が入る」

「ダメだ一夏。次は俺だ。お前が入ったあとの残り湯なんて飲めるかこの野郎」

「風呂の残り湯飲むとか発想がキモいんだよ、お前は!」

「風呂場にカップ麺持っていこうとしてるお前にキモいとか言われたくねーわ! お湯はどこで調達すんだよ、お湯は!」

「そう言うお前こそ、その手のインスタントコーヒーは何だよ!」

 

(うーん……迷うな……。二つ食うと太るしなぁ……)

 

「風呂場で飲むんだよ! 悪いかこの野郎!」

「開き直ってんじゃねーぞ、弾!」

「んだとごらぁ一夏!」

 

(よし。ゴリゴリ君にしよっと。IS学園じゃ売ってないもんな、これ)

 

 ゴリゴリ君を冷蔵庫から取だし、袋を開ける。

 そして一口、二口と、アイスをかじった。

 

 ……うまい!

 

 やっぱ夏はアイスだよな、アイス。

 こうしてオレは少し早い夏の風物詩を堪能したのであった。

 

 

 PS;一夏と弾はオレがアイスを食べてる間に二人で仲好く風呂に入ったようです。

 

 ┌(┌ ^o^)┐めでたしめでたし♂×♂=♡♡♡

 

 

 

 


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