僕は麻帆良のぬらりひょん!   作:Amber bird

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第8話

 タカミチがネギ・スプリングフィールドにやらかした、セクハラの尻拭いをさせられている。

 全く何で僕が、そんな苦労を強いられるんだよ!

 ネギ君もネギ君だ。もっと自分の立場って者を自覚して欲しいよ。

 君は魔法関係者にとって、希望であり厄介事なんだから……

 って10歳児に言う事じゃないけど、僕だって見た目は爺さんだけど実年齢は15歳なんだけどさ。

 ラッキースケベなんて奇跡のスキル持ちなんて、男として羨ましいに尽きるんだぜ?

 何で、そんな羨ま妬ましいスキル持ちなのに女性恐怖症?馬鹿なの?何て勿体無いの?

 

 ハァハァ……

 

 言いたい事を言ったから、少し落ち着いた。しかし、ネギ君の事ばかり言ってみても気が付けば僕もエヴァにセクハラをしていた!

 これじゃ同類だ……人の振り見て我が振り直せと言うが、僕も欲求不満なのだろうか?

 ペットのガー吉のモフモフお尻を思い出し、エアーアヒル尻を撫で捲っていたら……何故かエヴァを膝の上に乗せて、脇腹を撫で回していたそうだ。

 

 自覚が無いから始末に負えない……

 

 僕も妄想癖を治さないと駄目だ。現在進行形でエヴァに対して、頭を下げ捲っています。

 

「全く……少し前は飄々として、掴み所の無いジジィだったのに。最近はやたらと私にセクハラを働いてないか?ああ?

あのデカい胸先生を秘書みたいな事から外したのは……まさか私の肉体が目当てか?シネ、ジジィ!」

 

 エヴァは百年位前に日本を訪れた時に、変なオッサンから合気道を学んでいる。それを自己鍛錬で技の研鑽を怠らなかったから……

 

「イタっ……いたたたた……エヴァ、止めてくれ!腕はそんな方向には……人体の構造上無理……

いや、無理やり曲げないで……本当にスマンカッタ!反省してますから……」

 

 小さな体で器用に僕の利き腕を捻り上げるの止めてー!それ合気道じゃなくて、違う格闘技入って無い?

 

「全く……猛省しろ、変態ジジィ。別に用が無くて来た訳じゃないぞ。

あの関西から連れてきた露出度の高い巫女服ババァだが……何やら調べ初めて居るぞ。

茶々丸が目を光らせているが、西洋魔法使いの事や大戦の事。それなら黙認するつもりだが、ジジィの身辺も調べ始めたぞ。

あの女、何か関西の連中に言い含められてそうだな……殺るか?いや拉致るか?」

 

 天ヶ崎さんか……ただの手伝いじゃないとは思っていたけど。

 でも、着任そうそう此方に行動がバレるって、あんまり有能じゃないのかな? 

 関西の連中だって僕を警戒してるのはバレバレなのに、差し向けた彼女にこんな行動を取らせるなんて……

 いや、寧ろ彼女が自主的に動いているか?そう仕向けられているのか?この時期に油断は出来ないね。

 

「なる程の……彼女は、その……ちゃんと隠密行動をしてるのか?まさか能力が低くてバレバレなのか?」

 

 それにより、対応を考えなくては駄目だ。ただ、己の復讐の相手を調べたいのか?何か関西の連中と示し合わせているのか?

 

「ん?それなりに動いてはいるが、この学園都市で一般レベルのハッキングじゃバレバレだろ。

まして茶々丸が管理しているジジィのデータベースにアクセスなど……散々苦労して、つかんだデータは、アレだ。

詠春から貰った「春夏秋冬巫女祭り」だったか?それは悲惨な顔をしていたぞ」

 

 くっくっく……

 

 破廉恥な巫女服ババァには、あの写真の美しさとは真逆な格好だからな……とか凄い良い笑顔で、とんでもない事を言いやがった!

 

「儂のお宝映像を勝手に見せたんか?ああ?アレは良い物なんだぞ!」

 

 この洋ロリめ!もしデータが破壊されていたら大変だ。アレは無理を言って詠春さんから貰ったデータなんだ。

 アルバムも有るけど、やはり高画質の物はそれなりな環境で見たいから……

 

「ああ、茶々丸がジジィが映した私の画像を吸い上げていたな。

変わりに、何か圧縮されたデータを入れたと言っていたが……兎に角、ジジィは今後私にセクハラを働くのは禁止だ!

じゃあな……この報酬は、例のホテルのディナーで手を打とう」

 

 そう言って、影をゲートにして移転していった……僕の大切なデータ!

 早く帰って確認しなければ。しかし簡単にはハッキング出来ない筈だぞ!

 それを考えると、天ヶ崎さんはソコソコ有能なのかな。後は真意を確認しておかないと……本当に上手く行かないね。

 

 ヤレヤレだぜ、まったく……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漸く自宅に帰る事が出来た。

 

 馴れた手付きで着物を脱いで、少しラフな感じの普段着用の着物に着替える……帯を結わいながら、本当に馴れてきたなと思う。

 居間に行きソファーに沈み込む様に座ると、すかさずお茶が出てきた。

 

 新しいお手伝いさんだ!前任の方は、情報漏洩の責任により穏便に変わっていただきました。

 

「うむ、有難う……」

 

 お茶と共に豆大福が2つ乗った皿を静かに置いて、一礼して立ち去る。

 前の方も有能でしたが、今回の方も中々良くしてくれますね。流石は金持ち相手の家政婦派遣会社。

 あくまでも家政婦であって、メイドさんではありません。残念ながら……

 豆大福をモグモグと食べながら、今後について考える。明日、ネギ君を迎えに行って彼に今後の事を話さなければならない。

 既にこの学園での修行は破綻している。巻き込まれたとは言え、授業を私用で休んでいるのだ。

 

 しかし!「そんなの関係ねー!」と頭に海パン一丁の芸人のようなイメージが浮かんだ!

 

 この時期にパンイチ?どんな猥褻物陳列罪だよ!しかし「そんなの関係ねー!」の通りに修行達成して貰いますよ。

 後は彼自身の修行についてだ…

 もはや女性恐怖症については、これ以上の記憶操作は危険だからね。

 正直、打つ手がない。後は魔力制御。これは……しまった!エヴァに修行方法を聞こうとしてて忘れたよ。

 

 しかし、彼女達に頼りっきりだよね。周りの連中がイマイチ信用出来ないから。

 だから、魔法関係者から一線を引いている彼女達を信用している。最初は、彼女の解放を餌に交渉したんだっけ?

 関西同行から、関西呪術協会の連中との交渉に護衛。他の魔法関係者から、あれだけ嫌われ恐れられ……

 悪の魔法使い、闇の福音、齢600年の吸血鬼の真祖なのに。僕にとっては一番信用出来る相手とはね。

 

 不思議な洋ロリだよ、全くさ。

 

 

 

 病院の退院手続きとは?大体朝食を食べてから担当医からお話が有り、そして退院だと思う。

 家族が迎えに来たり、自分で帰るかは別の話だ。ネギ君の場合は自力で帰れないから、僕が迎えに行く。

 入院費用とかは僕、と言うか学園持ちだ。

 だからネギ君は僕が行くまでは帰れないし、退院するにしても昼前位になるだろう。一応、病院にはネギ君の迎えは昼前と伝えた。

 そして僕は、麻帆良学園女子中等部の中に有る学園長室に居る。

 ネギ君の煩い保護者で有るネカネさんとガールフレンドだろうアーニャちゃんに送るビデオの編集中だ。

 日本は時代はCDとかDVDなのだが、イギリスはどうなんだろうか?

 麻帆良学園の科学は進みすぎてるから、もしかしたらウェールズはビデオが普通かも知れないし……

 念の為に、ビデオを編集したらCDにも焼いて渡そう。

 何を送るかと言えば、麻帆良学園男子中等部でのネギ・スプリングフィールドの盗撮……いや、修行の記録だ。

 彼女達は、ネギ君の真綿で首を絞める様な魔法関係者の態度を知っている。

 

 英雄になるんだ!なるべきなんだ!父親の様になるんだ!その為に生まれたんだ!

 

 彼女達は自分達も思っているけど、それを苦々しく思う良心も持っている。

 だから日本では、こんなに普通の少年の様に過ごしてましたよ。同性の同世代の友達も沢山出来ましたよ。

 人間として最低限必要なコミュニケーションを学びましたよ。

 そう訴える意味で……このビデオを編集してます。

 

 茶々丸さんが……

 

 カタカタと軽快なタッチでパソコンを操作し、瀬流彦先生と弐集院先生が撮り貯めた画像を編集しています。

 その場に有ったコメントや音楽を流したりして、一寸したネギ君の麻帆良成長記の完成です。

 

 Vシネマ並みのクォリティーが有ります。

 

「流石は学園長です。

これを見れば、我々はネギ・スプリングフィールドに人並みの幸せと人間関係の構築方法を教えたダケに見えます。

実際はショタコンの団体に襲われ、タカミチと言う規格外の変態に襲われた。

しかも自身はラッキースケベ&女性恐怖症と言う免罪符で女性を襲う。なんて哀れで滑稽な英雄の息子なのでしょう」

 

 無表情で毒を吐く茶々丸さんには、中々慣れません。

 

 ラベルをテプラで作り、簡単な紹介文を添えて完成した「ネギ・スプリングフィールド君の麻帆良学園成長記」をそっと僕に渡してくれた。

 

 ああ、今日の茶々丸さんは巫女服です。エヴァもチャチャゼロも巫女服。多分、天ヶ崎さんへの当て付けなんだろうけど……

 

「茶々丸……ご苦労様じゃった。しかし、もう少しオブラートに包んでくれんか?表現が痛々しいぞ」

 

 ビデオが完成し、CDの作成に入った茶々丸さんにお願いする。確かにイギリスに無事凱旋しても、何をしていたのか? 

 そう聞かれるとヤバいし、ネギ君も向こうで暴走するやもしれん。いや、するだろう……

 しかし、暴走癖は従来からだ!トラウマの原因なんて、管理時間外の出来事だ!

 僕らは、ちゃんと修行で必要な事は全てなし終えたんだ!

 

 だから、コレが証拠ですよ。的な意味でのビデオ報告書です。少しは役に立ってくれるだろう……

 

 何せ、ネカネさんアーニャちゃんはネギ君を溺愛し甘やかしている。

 ラッキースケベのセクハラを度々受けても、傍を離れないなんて大した愛情だ!

 それ所か、セキハラを発動すると妖しく迫ってくるらしい……余程、ネギ君を愛しているのだろう。

 

「ほんに学園長はんは、お人が悪いどすな。

あんな変態小僧に育て上げた責任を回避する為に、小細工をなさるなんて……最低どすな」

 

 ほほほほ、と口に手を添えて高笑いする天ヶ崎さんは……彼女は、あの改造巫女服を着てある。

 中々の巨乳で有る彼女が仰け反って高笑いすると、際どく開いた胸元には目が逝って……いや行ってしまいます。

 

 だって男の子だもん……

 

「今のネギ君に育てたのは儂じゃないぞ。それに彼を襲ったショタコンの群れも関係無いぞ。

あくまでも麻帆良学園とは無関係じゃよ。しかもウェールズ魔法学校からの依頼は、ネギ君を教師として育てる事。

完璧な教師振りじゃろ?何の問題も無い筈じゃ」

 

 もはや残り二週間を切った状態では、ネギ君にしてやれる事は少ない。精々が、残りの学園生活を楽しく過ごして貰えるかだ。

 

「ふん!信じられまへんな。うちに、裏の仕事着を着させて侍らす変態は!」

 

 仕事もせずに、女性誌ばかり読んでる貴女に言われたくはありません!

 

「フザケンナ!貴重な儂の、お宝映像記録を消しおって!ああ?貴様がハッキングした記録は残ってるんだぞ。

それを破廉恥な巫女服を着ただけで許しているのじゃ!

嫌ならマトモな巫女服を着て「春夏秋冬巫女祭り」の様な、素晴らしい巫女の方々の表情が貴様に出来るのか?

無理じゃろう?あの一瞬の切なさを捉えた、素晴らしい表情は!破廉恥な天ヶ崎殿では不可能じゃよ!

何故ならば、神聖な巫女服を破廉恥に改造するなど、神が許しても儂は許さないからじゃ!だから、せめて目の保養位させんか」

 

 昨日、エヴァの報告の後に大切なデータを調べたら……見事に消されてました。

 だから茶々丸に証拠を示して貰い、天ヶ崎さんに詰め寄りました。

 

「何故、素晴らしき巫女達の記録映像を消したのか?普通なら貴様の存在を消しても釣り合わない大罪だぞ!どうしてくれるんだ?」

 

 最初は白を切ってたけど、巫女達の素晴らしさを訴え改造巫女服を止めるように言ったら

 

「ふざけるな変態!あんな破廉恥な画像なんて消えて無くなれば良いんどす。それに私の巫女服にもファンが……」と、自爆しました。

 

 やはり天ヶ崎さんは能力が有るのに、性格で損をするお間抜けタイプだった!

 

「消えてしまったデータは甦らない……ならば新しい巫女画像で補填するか、貴女の命で購うか……どちらが良いのじゃ?」

 

 そう脅したら、渋々改造巫女服を着てくれた。何だかんだ言っても、ちゃんと改造巫女服を持ち歩いてる天ヶ崎さんが少し好きになれそうです。

 因みに「春夏秋冬巫女祭り」の画像データは、当然バックアップは複数とっています。

 コレクターとして当たり前の行動でしょう。天ヶ崎さんが消したのは、観賞用の一部改竄し際どい物は省いた物……

 だけど彼女の行動を制限する為に、やっちまいました!

 

 わが学園長室は、美女・美少女・美幼女が巫女服を着て侍ってくれるパラダイスになりました!

 

 

 

 巫女服について、天ヶ崎さんと良く話し合える事が出来た。彼女の改造巫女服も、まぁ見慣れれば味わいが有るのかもしれない。

 

 変化球的な意味でだが……

 

 渋々と仕事を始めた彼女と、素晴らしき着こなしの茶々丸&エヴァを見る。

 この素晴らしき空間を守る為に、詠春さんは関西呪術協会所属の巫女さん達を侍らせたのか……今、彼の気持ちを理解した。

 成る程、あの魅力にあがらうのは難しいだろう。

 カリカリと静寂に包まれた学園長室で至福の時間を味わう……ああ、パラダイス……だが、僕の至福の時間もドアをノックする音で終わりを告げた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「失礼します」

 

 そう言って学園長室に入ってきた刀子先生は、何故か固まっている。メガネも少しずり落ちている様な……

 彼女はキリリとしたビジネススーツを着込み、手には何故か刀袋?アレって日本刀だよね?

 

 彼女もキチ○イに刃物なのか……

 

 モフモフ刹那ちゃんも常に刀袋持ってるし、もう少し周りを気にして下さい。

 

「葛葉先生?どうしたんじゃ、固まって……今日呼んだのは、聞いておるかの?」

 

 授業の空き時間に来てくれって言ったけど、来た早々に固まられても……

 

「葛葉先生?」

 

「学園長!何ですか?この巫女服を着た彼女達は?」

 

 再起動したら叱られた。

 

「いや、仕事着じゃが?葛葉先生も、京都神鳴流の一員じゃろ?普通に巫女服を着ていたはずじゃが、何か問題でも?」

 

 葛葉先生の巫女服姿か……現代の巫女さんの適齢期にはギリギリアウトだけど、葛葉先生の巫女服姿を見てみたいな。

 

 隣で天ヶ崎さんが「コイツは西洋魔法使いと駆け落ちした裏切り者やないか?」とか呟いている。

 

 彼女の情報収集能力か記憶力は中々なんだろう……まぁ葛葉先生は、その筋では有名らしいけど。

 

「いえ、確かに京都神鳴流に所属している者は男女共に袴姿ですが……それを学園長室で着せる事に意味は……」

 

 別に悪い事はしていないから、言葉も最後は萎んで行くよね。でも刀袋を握る手には、力が入ってます?

 

「それよりも葛葉先生。日本には銃刀法違反と言う言葉があっての。

いくら麻帆良学園の中とは言え、日本刀を持ち歩くのは問題が有るぞ。刹那君もそうだが、少しは自重せんか」

 

「こっこれは……高畑先生対策です!あの変態は、今度何か変な事をしたら……チョンギリます」

 

 ナニを?ナニをチョンギるの?

 

「その……なんじゃ?彼は今、海外に出張中じゃし落ち着いてな」

 

 明らかに殺る気満々な表情だ!

 

「それは、それとして……葛葉先生。先ずは落ち着いて座りたまえ。茶々丸さん、お茶を頼むぞ」

 

 彼女にソファーに座る様に勧める。失礼します、と座る彼女の前に座り茶々丸さんの淹れてくれる日本茶を待つ……

 

「粗茶ですが、どうぞ……」

 

 粗茶と言えども、センサーで温度管理して淹れたお茶は最良の状態で出してくれる。

 和解してなかった一寸前は、ペットボトルのお茶を出されたからなー。一口、お茶を啜ってから話し出す。

 

「葛葉先生。儂らは……儂と木乃香、それに刹那君やエヴァに茶々丸。勿論チャチャゼロもじゃが、来月には関西に戻る。

関東魔法協会の会長の座を辞するのは知っての通りじゃが……葛葉先生はどうするのじゃ?

出来れば一緒に関西に戻って欲しいのじゃ」

 

 貴女を連れて帰れば、京都神鳴流は味方に引き込める。最悪でも中立だ。

 

「なっ?やはり本気なのですね。しかし……私は、関西を裏切る様に此方に来た女。今更戻るなんて……」

 

 彼女は手に持った湯呑みに視線を落とす。落ち込んでいるみたいだ……

 

「葛葉先生にも都合が有るじゃろ。しかし儂が関西に行けば、この麻帆良学園も変わるじゃろう。

後任は、本国から来るのは確実じゃ。葛葉先生の立場は微妙になるじゃろう。

しかし、儂らと一緒に戻るならば関西の連中は受け入れてくれるぞ。その為に、先日関西に話をつけにいったのじゃ。

それと……青山鶴子女史からも、君の事を頼まれておる。どうじゃ、葛葉先生?一緒に関西に戻ってくれぬか……」

 

 長い説明を一気に話して、彼女の目を見る。端から見ても悩み捲ってるのが分かる。

 足を組み直したり、お茶を飲んだり……だけど葛葉先生が話し出すまでは、じっと様子を見る。

 葛葉先生が関東に残る事は、彼女にとってマイナスしか無い。

 シスターシャクティとは仲良くやっているみたいだが、別に関西に戻っても友誼は壊れないだろう。

 実際に、葛葉先生と青山鶴子は友人関係を続けているし……

 

「わっ私は……関西には戻れません。駆け落ち同然に、裏切る様に関東に来たんです。今更、どの面下げて戻れるのですか?」

 

 正論だ……考えに考えたであろう回答は、大人の常識から言ってもその通りだろう。

 

「じゃか……葛葉先生が関東に残れば、辛い事も多くなるじゃろう。

立場的にも微妙じゃし、後ろ盾も無い。それに一緒に関西に戻るならば……

近衛一族の総力を持って、好条件の再婚相手を探し出す用意が有るのじゃ。

具体的には、紹介出来る見合い相手がダース単位で居るのじゃが。どうかのう?」

 

 近衛一族でも、適齢期の独身男性は沢山居る。葛葉先生は刃物キチ○イだが、それを打ち消す美人さんでもある。

 元々裏家業の近衛一族だし、京都神鳴流の青山鶴子との繋ぎの意味でも彼女を嫁に望む者は居る。

 

「儂の一族じゃから身元はバッチリじゃ!しかも裏家業に理解も有るし金も持っている。

例えば、こやつ等はどうじゃ?年下じゃが、儂の経営する関連企業で……」

 

 用意していた見合い写真を並べて行く。気の無い振りをしているが、視線は写真に釘付けだ!

 大分、揺らいで来たな。もう一息、仕方無いじゃないと言う理由を用意してあるんだよ。

 

「葛葉先生……それに刹那君の事も有るのじゃ。彼女は、木乃香の為に一緒に関西に戻る事を了承してくれた……

でも1人では辛いじゃろう?だから彼女の為にも一緒に戻ってはくれぬか?

勿論、向こうでの立場は儂が保証するし悪くはしない……どうじゃ?」

 

 刹那君の為……この大義名分ならどうだ?

 

「彼女の為に?」

 

「そうじゃ!刹那君の為にも、この老いぼれの頼みを聞いて欲しいんじゃ」

 

 頭を下げた時に見た葛葉先生は……見合い写真に手を伸ばしていた。

 この前、一般人の彼氏と破局したのを知っているからこその口説き文句だけど、上手く行きそうだ……

 頭を下げたまま新世界の神の様に、ニヤリと笑ってしまった。

 

 

 

 婚期を焦る女性とは、扱いが大変難しいのであろう。

 しかし、このお見合い写真を真剣に見詰める女性は……此方に引き込むのは意外と楽だった。

 葛葉先生は、そろそろ結婚適齢期ギリギリな人なので我が近衛一族の独身男性の写真とプロフィールに食い付いています。

 興味の無さそうな振りをしていますが、写真を選別する仕草。

 コレと思った写真を凝視しつつも、他の写真と見比べたりと……

 まぁ見てくればイケメンを集めたし、お見合いして成功するか・しないかは、関西に戻ってからの話だからね。

 

 「後は若い者同士2人切りで……」そんな使い古されたフレーズが似合う様な感じでしょうか?

 

 まぁ僕には結婚なんて無理な話だから、羨ましいです。

 仮に僕と結婚して良いとか言う若い女性は、完全に財産目当てでしょう……だって見た目は爺さんだもん。

 実年齢に合う女性は、流石に無理でしょ?かと言って、見た目相応な女性は無理だし。だから僕は、結婚は諦めてます……

 

「葛葉先生……写真はお渡しするので、ゆっくり選んで下され。

希望の相手が決まりましたら、関西に戻った後で彼方にて会場のセッティングをしますぞ。

では、葛葉先生からも青山鶴子女史と刹那君へ関西へ共に戻る旨を知らせて下され……」

 

「えっええ……私はどうでも良いのですが……仕方無いですわね。教え子の為ですから……」

 

 口の端が笑うのを懸命に堪え、退出する葛葉先生を見送りながらポツリと零す……

 

「あれだけの美人でも結婚は儘ならぬのか?世の適齢期を迎えた男女は大変じゃな……天ヶ崎殿には、良いお相手は居るのかの?」

 

 突然話を振られた彼女はキョドっている?

 

「う、うちの良い人どすか?いや、まぁ……居ますけど、未だ……いややわ。そんな事を聞くなんてセクハラどすえ、エロジジィ」

 

 ああ、居ないんだな。生暖かい目で、見守りますよ。

 

「なんやねん、その目ぇは?うちにも居ます!それはそれは、立派な旦那様が!ただアンタに言う必要が無いだけどす」

 

「ふん、無様だな」

 

「天ヶ崎さんの体温・心拍数・発汗状態を総合的に判断し、彼女が嘘をついていると断定します」

 

「ケケケケケ!露出狂ジャ男ヲ捕マエルノハ無理カヨ」

 

 エヴァファミリーに一斉にダメ出しされたよ!

 

「ふっふざけないでおくれやす。そんなに言うなら、アンタはどうなんどす?」

 

 真っ赤になってアタフタしてますが、否定はしないんですね?

 

「ふん。吸血鬼の真祖と添い遂げようなんて物好きはいないさ……」

 

 えっ?エヴァさんはSな洋ロリでしょ?もれなく茶々丸も付いて来るんでしょ?幾らでも需要は有るじゃん!

 

「ふん!600年もいかず後家どすか?哀れどすな……」

 

 天ヶ崎さん、何を真っ向から喧嘩売ってるの?

 

「ほう……では死ぬか?今の三対一の戦力比で喧嘩を売るとは、中々見所が有るよ……」

 

「ダーッ!落ち着かんか2人共。

2人共タイプは違うが、どちらも美人なんじゃし本気で恋人を探せば引く手あまたじゃろ?だから落ち着かんか!」

 

 天ヶ崎さんだって、黙っていれば美人だしエヴァはエターナルなロリだ。しかも今は巫女服だし。

 このまま秋葉原で恋人募集って叫べば行列が出来るって!

 

「「ふん!余計なお世話どす(だ)」」

 

 何故、仲裁した僕が叱られるの?だから恋愛絡みの女性は大変なのね……

 

「……すまんの。儂、ネギ君を迎えに行くから。後は頼むぞ」

 

 そう茶々丸に言って、この異様な空間から逃げ出す。さっきまでは巫女パラダイスだったのに、どこで間違えたんだ?

 

「行ってらっしゃいませ」

 

 行儀よく送り出してくれる茶々丸だけが、癒やしです……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 自家用のリムジンに乗ってネギ君の病院に向かう。今日は1人だ。

 お昼前だからか、街中はガランとしている……学園都市だからか。

 大体の住人は学校関係者か生徒だ。今は授業中だから、逆に出歩いているのは限られた連中だろう。

 フカフカの後部座席に埋まり、先程の事を考える。

 

 葛葉先生について……

 

 関西に連れて戻るのは問題無いだろう。その後で、何回かの見合いをセッティングすれば良い。成功するかは、本人次第だ。

 

 天ヶ崎さん……

 

 イマイチ行動が掴めない。しかしパトロンや黒幕は居なさそうだ。ウッカリ属性を持つ人だよね。

 ハッキング中に僕の巫女画像を見て驚いて消しちゃうなんてさ。動揺してたのか、痕跡が残り捲りだったそうだ。

 「基本的に悪人に成り切れてない中途半端」とは、エヴァの評価だ。

 確かに根っこの所が、優しく善人なんだろうね。彼女は監視を続けていれば平気だと思う。

 

 最期に、ネギ・スプリングフィールド……

 

 予測がつかない。この先どうするか?既に見捨てると言うか、工作ビデオは送った。依頼された修行は成功しつつある。

 後は生徒との感動の別れのシーンを撮影し送れば、彼に甘いウェールズの連中は感謝するだろう。

 特にネカネさんやアーニャちゃんは。後は彼のトラウマを何処まで処置出来るか?もう魔法制御迄は見込めない。

 欲張るよりは、ヤバいトラウマ解消一本に絞るべきだろう……僕がネギ君にしてやれる事は、それだけだ。

 

 方向性が纏まった所で病院についた。先ずは受付でネギ君の退院手続きをする。

 医療費を清算してから漸くネギ君の病室へ……エレベーターで八階に上がりナースステーションに顔を出す。

 

「すまんですが、今日退院するネギ君の……ネギ・スプリングフィールド君の迎えに来たのじゃが……」

 

 何だろう?今日は看護士さんが誰も居ないぞ。暫く呼び掛けると、漸く奥から人が……彼は魔法関係者で有り、ネギ君の担当医だけど。

 何故か慌てて此方に……

 

「ああ、近衛さん良かった。今、報告しようと……

ネギ・スプリングフィールド君ですが先程病室を抜け出した所でウチの看護士に見付かり部屋に連れ戻そうとした所で……

何故か暴走し武装解除の魔法をかけまくり何人かの看護士を脱がせました。今は医療行為?による頭部への鈍器の様な物で痛打し取り押さえています。

すみません。女性に会わせない様に配慮していたのですが……」

 

 なっナンダッテー?

 

「それで被害者は?処置はどうしたんじゃ?」

 

 あのセクハラ小僧!何人脱がせば良いんだよ?

 

「幸いな事に脱がされた看護士は魔法関係者です。隔離病棟でしたので、他の連中に見られずショックは受けていません。

元々仕事柄、その程度では動揺しませんがネギ・スプリングフィールドが一般病棟へ走り出したので、近くにあった鈍器の様な物で彼を痛打。

現在、拘束中です」

 

 へなへなと、その場に座り込む……良かった、女性への被害は最小限か。

 しかしネギ君の女性恐怖症は悪化している。もはや手段は選べない……

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールド……

 もはや女性にとって厄災でしかないレベルに昇華したラッキースケベ+女性恐怖症のコンボ。

 これは繰上卒業をさせないとヤバいかもしれない。看護士さんのナイスな鈍器攻撃により昏倒しているネギ君を見ながら思う。

 

「もう、無理。実家に帰って下さい……」

 

 記憶消去に抵抗は有るので、ネギ君を昏倒させた看護士さんの件は固く口止めをした。

 何たって一部で噂の英雄の息子様だ!怪我をさせたなんて知れたら?

 

 ガンドルフィーニさんとか、ガンドルフィーニさんとか、騒ぎ出しそうだし……

 本当の意味でネギ君の暴走を止めた英雄の看護士さんに迷惑は掛けられない。

 病院関係者に再度、固く口止めをして病院を去る。勿論、ネギ君を連れてだ。

 近衛一族の黒服護衛に背負われて、取り敢えず自分の宿舎へ送って行く事にした。

 この病院に、もう迷惑は掛けられないから……瀬流彦先生と弐集院先生には連絡を入れてある。

 兎に角、付きっ切りで男性の監視が必要だ。リムジンに乗り込み、隣でスヤスヤと寝入るネギ君を見る。

 後頭部にデッカいタンコブが有るが、仕方無いだろう。

 

 申し訳程度に塗り薬の後が……流石は白衣の天使。こんな無意識セクハラ小僧にも、ちゃんと接してくれているんだ。

 

「むにゃむにゃ……お父さん……」

 

 端から見れば可愛い寝言なんだろう。可哀想だが、来週末に試練達成→生徒達と涙の別れ→そしてイギリスへ!

 

 この三連コンボを決めさせてもらうよ。携帯電話を取り出し、麻帆良学園男子中等部の校長へ連絡する。

 

「ああ、儂じゃ。すまんな、ネギ君の事で苦労をかけて……ネギ君か?過労じゃったよ。

10歳児を他国で1人働かせているんじゃ。疲労も溜まるじゃろ?肉体的にも、精神的にも。

じゃから彼のクラスに来週でネギ君がイギリスへ帰る事になったと伝えて欲しいのじゃ。

勿論、感動的な別れのシーンを演出し、それをスポンサーたる彼の保護者に送る。

それでお終いじゃよ。では、頼んだぞ……」

 

 これで良いだろう。彼は一般人であり、ネギ君は麻帆良学園の有力スポンサーの息子と言ってある。

 だから、早々に厄介者が居なくなるなら万々歳だね。後は、魔法関係者への連絡と僕の心のケアだ!

 

 心のケア……

 

 今夜、木乃香ちゃんを夕食に招待したんだ。それとモフモフの刹那ちゃんも。

 彼女は木乃香ちゃんが一緒だと最初は躊躇した。まだ自身の秘密を受け入れてくれるのかが、不安なんだろう。

 

 しかし、四の五の言ってられない状況だ。

 

「この先、関西に戻ったら木乃香は魔法関係者として自覚させなければならんのじゃ。

刹那君には悪いが、今後はベッタリ警護しなければならないんだぞ!今までの警備体制は忘れて、これからは常に一緒位の覚悟が必要じゃ。

勿論、こちらもサポートするし詠春殿も了承しているぞ」

 

 そう言って納得させた。

 

 彼女は……まだ少し戸惑いを見せていたが、それでも最後は嬉しそうに微笑んでいたよ。

 魔法関係者なら、魔法世界には異形の方々も居るし日本にだって人外の人達は居る。

 一部の連中とは意志の疎通が出来るし、悪い人達じゃない。今までは一般人として木乃香ちゃんを育てる!

 だから烏族とのハーフたる彼女は、本性を知られるのを恐れた。でも今からは大義名分が有るからね。

 大手を振って木乃香ちゃんと一緒に来るだろう。

 そして、そして実の父親と自分の師匠から託された……この巫女服を着て貰うんだ!

 

「やっぱり巫女服って良いよねー!」

 

 思わず奇声を上げてしまうのも仕方無いだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 木乃香ちゃんとモフモフ刹那君が来る。

 日本人的な美少女が家に来てくれるなんて、昔なら考えられなかっただろう……まぁ祖父と仕える組織の長としての関係なんだけどさ。

 今日のメニューは、若い娘さんの好みを考えてイタリアンにして貰いました。

 前の家政婦さんは和食と中華が得意だったけど、新しい彼女は洋食全般を得意としていた。

 

「ギクシャクしている孫娘と、その友人の仲を取り持つ為に夕食に招待したい」

 

 そうお願いしたら「若い娘ですしマナーに五月蠅くないイタリアンが良いでしょう。イタリア料理には自身が有りますから楽しみにしていて下さい!」そう請け負ってくれた。

 

 イタリアンは……コッチに来てから、食べた事がなかったな。前の時は、精々がファミレス位だったし。

 本格的なコース料理を用意するって張り切っていたから、僕も楽しみだ!

 書斎で、食後の撮影会に必要な機材の手入れをしていたら彼女達が来たと報告が有った。

 では、僕の心のケアで有る美少女2人と夕食を楽しもうかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「おお、待たせたの。今日は木乃香と刹那君の仲直りを兼ねての夕食会じゃ。遠慮はいらんぞ」

 

 食事処はイタリアンの為にテーブル席だ。和食の時は和室と、食べる場所にも爺さんは拘っていた。

 

 流石はブルジョワだ!

 

 今回は四人席用のテーブルを用意し、木乃香ちゃんとモフモフ刹那君が並んで座れる様に配慮。既に座っている彼女達の距離は近い。

 

「お爺ちゃん、いややわ。ウチら仲良しだよ」

 

「こっこのちゃん……近いです。学園長、今日はお招き頂き有難う御座います」

 

 刹那君の腕を抱え込む木乃香ちゃんは、とても嬉しそうだ。

 刹那君は、スキンシップが馴れてないのか挙動不審で赤くなっているが……これはこれで、その……

 

「はい、チーズじゃ!」

 

 最近持ち歩く様になった麻帆良謹製のデジカメを取り出し、パシャりと一枚。うん、良い写り具合だ。

 

「なんなん?お爺ちゃん、カメラの趣味あったん?」

 

「学園長、いきなり写真は恥ずかしいです」

 

 不躾だったけど、そんなに嫌がって無いね。良かった。これなら、あの作戦も……

 

「いや、婿殿から愛娘の成長を写真に収めて送って欲しいと頼まれての。

それと2人の事を話たら、昔、お揃いで着ていた服を仕立て直したので着て欲しいと言ってだぞ。

服は用意して有るから、昔を懐かしんで着てみてはどうじゃ?婿殿も2人の晴れ姿を楽しみにしていたぞ」

 

 ヨシ、自然な感じで詠春さんに全てを押し付けた!反応はどうだ?

 

「せっちゃん、何だろう?楽しみだね」

 

「このちゃん、毎回抱きつくのは……」

 

 食い付いたー!これで心の友の依頼達成かな?

 

 

 

 美少女2人が、隣の部屋で生着替えをしております。

 

「いやや、せっちゃん。そんな所を触っちゃ!うち、くすぐったいやん」

 

「このちゃん、動かないで下さい。これをこうして……あら?」

 

「いややー、脱げてしまったん」

 

 ガールズトーク炸裂中!ああ、僕は正座をして待てば良いのでしょうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 新しい家政婦さんのイタリア料理は、素晴らしい物でした。

 元々イタリアンなどパスタやピザ、それにティラミス等のデザート位しか知らなかったんだけど……

 コースで出された料理は、どれも素晴らしかった!

 先ずは食前酒だが、ランブルスコと言う銘柄の甘めなワインが出た。

 本来は食欲を増進させる為に薬草の入ったお酒や、発泡ワイン又はビール等が一般的らしい。

 まぁ今回の主賓は女子中学生だから、甘くてアルコール度が低い天然弱発泡性の赤ワインだそうだ。

 

 彼女達も「このちゃん……これお酒?」「せっちゃん、大丈夫や。これ、甘くて飲みやすい」そう言ってグラスを空けてましたし。

 

 ほんのり頬が赤くなっているのは、女子中学生だから当たり前ですね。

 これがエヴァみたいに、見た目幼女の酒豪とかは勘弁して欲しい。ギャップ萌えも良し悪しだ。

 

 次は前菜。

 

 ハムやチーズ・燻製やカルパッチョ等、少量づつ綺麗に盛り付けられている。

 特にチーズは数種類、癖の有るブルーチーズ等は無く割とアッサリした物がチョイスされていた。

 マスカルポーネやモッツァレラやリコッタ等、日本でもお馴染みの物だ。

 お酒が入って緊張が無くなったのか、2人でキャッキャ言いながら食べている。

 

「このちゃん、コレは何でしょうか?」

 

「せっちゃんチーズ苦手なん?じゃウチが食べさせて……」

 

 是非、私めにアーンして欲しいです。正直、会話に入り辛くて寂しい。

 しかし、美少女達が物を食べるのを見ているだけで……こう、何て言うか、幸せ?な感じがしますね。

 

 さて次は主菜だが……

 

 プリモ・ピァットとセコンド・ピァットに分かれているらしい。

 直訳すれば、主菜の一皿目・二皿目と言うらしいのだが……そんなに食べれるのだろうか?

 食を極めたイタリア人らしい、主菜は一種類では無いのだよ!的な事だろうか?

 

 一皿目は、アランチーニと言うイタリア風ライスコロッケが出た。

 イタリアでは米は、小さなパスタと同様に扱ったりデザートにも使用したりするんだよね。

 

 二皿目は、コトレッタ・アッラ・ミラネーゼ……洋風カツレツだろうか?

 

 そして副菜としてサラダが出ました。

 

 日本だと最初の方でサラダを食べるけど、イタリアでは主菜と共にオーダーするそうです。

 そう言えば、主菜の皿の付け合わせにも野菜は無かったね……イタリアの食文化って、本当に奥が深い。

 

 大の大人でも結構食べでがあったのに、向かいに座る少女達は完食していた!

 その細い腰のどの部分に、あれだけの食材が収まるの?全く女体の神秘だ!

 

 次はお待ちかねのデザート!今風ならスィーツ?

 これは女性陣も目が輝いていた!配られたお皿には、数種類の焼き菓子が綺麗に並べられている。

 

 先ずはカンローノ。

 これはシチリア島で一番有名な焼き菓子だ。本来は謝肉祭の時に供される季節料理らしい。

 

 次はアマレッティ。

 これも焼き菓子だが、少しビターな感じがします。語源も「少し苦い」らしいですよ。

 

 最後にスフォリアッテラ。

 パイ生地を重ねて、中にチーズやクリームを挟んでカリカリに焼いた菓子。

 

 それに珈琲が一緒に出た。

 マッタリと珈琲を啜りながら、目の前の百合百合しい2人を見つめる。

 木乃香ちゃんは、麻帆良に来てから余所余所しくなった刹那君との時間を取り戻す様にベッタリだ!

 今のも、真っ赤になっている刹那君の腕に絡みついている……

 

「こっこのちゃん、少し離れて下さい。学園長が見てます」

 

「いや!」

 

 即答です。これで仲良くなってくれれば幸いだから……楽しい時間は過ぎて、最後に食後酒だ!

 

 マラスキーノと言う、度数は比較的弱い果実酒です。

 これはサクランボを原料にしたお酒で、日本ではチェリーブランデーとも言われています。

 木乃香ちゃんも刹那君も堪能してくれたみたいだ。食後酒をチビチビと飲みながら、今日の本題に入る。

 ……でも2人共、大分真っ赤だな。少しお酒を飲ませ過ぎたか?

 

「さて……2人共、食事は楽しんで貰えたかの?」

 

「はい学園長、有難う御座いました」

 

「お爺ちゃん、美味しかったえ」

 

 僕も百合百合しい君達を見れて、ご馳走様です。

 

「そうかそうか……木乃香と刹那君が、ギクシャクしてると聞いてな。

来週には関西に戻る関係で、今後は刹那君には木乃香にベッタリ張り付いて貰わねばならん。今夜の様子を見れば、問題は無いの……」

 

 ベッタリ張り付いて、の件で2人が別々な反応をしたが……どちらも嬉しい反応だから構わないでしょう。

 素直に喜ぶか、テレが入っているかの違いだ。

 

「最後に、婿殿から……詠春殿から、君達への贈り物が有るんじゃよ。隣の部屋に用意してある。

何でも、幼い頃は2人で良く着ていた着物らしいの……それを仕立て直したので、着せて欲しい。

そして写真を何枚か撮って送って欲しいそうじゃ。今から着て貰っても良いかの?」

 

 そう言って麻帆良謹製のデジカメをテーブルに置く。

 

「お父様が?」

 

「長がですか?」

 

 黙って頷くと「良えよ。お父様のお願いなら。せっちゃんも良えよね?」「はい。長の頼みなら……でもお揃いの着物とは?」そう言いながら隣の部屋に行き、扉を閉める時に

 

「お爺ちゃん!覗いちゃ駄目やよ」そう言って、パタンと扉を閉めた。

 

「ヨッシャー!大成功だぜ!」

 

 思わずガッツポーズをする。

 

 隣の部屋からは「なっ?何で巫女服なんですか!」「わぁ久し振りやん。ねぇねぇ、せっちゃん早く着よう。ウチが脱がしたるわ」「だっ駄目です……このちゃん、落ち着いて」

 「嫌よ嫌よも好きの内や!パーッと脱がんかい」最初はノリノリの木乃香ちゃんだったが、途中から攻守が逆転し刹那君が攻めに回ったのでした……

 

「有難う、詠春さん!最高の写真を撮るからね!」

 

 着替え終わった2人が出て来るのが、待ち遠しいです!

 

 

 

 美少女2人が、壁一枚を挟んで生着替え……こんな時、漢ならドカッと構えているべきか?

 それともアクティブに攻めるべきか?いやいや、木乃香ちゃんとは血が繋がっているんだ!

 

 自重しろ!

 

 でも刹那ちゃんがモフモフの羽を出していたら?いやいや、まだ木乃香ちゃんに知られたくない筈だから……

 でも関西に戻って魔法の事を木乃香ちゃんに教えたら、刹那ちゃんの出生の秘密は教えないと。

 守られる者が、守る者の事を知らなすぎるのは大問題だ!だからモフモフは、関西に戻れば?

 

 ウヘヘヘヘ……

 

 などと真剣に考えていたら、扉が開きました!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お爺ちゃん、何故か巫女装束が入ってたんよ。お父様、私を巫女さんにしたいん?」

 

「あの……これって京都神鳴流の装束ですよね?何故、長は私とこのちゃんのサイズを把握してたのでしょうか?」

 

 ほろ酔い美少女キター!

 

 この時の為に用意したデジカメを使用し、連続撮影で舐めるように2人を激写する。

 

「ふむ……流石は婿殿と言う事かのぅ。大切な愛娘と、愛弟子の事は把握してるんじゃろ?

ほら刹那君、表情が固いぞ。

木乃香や……少し刹那君に絡んで緊張を解すのじゃ。うん、素晴らしいぞ!

目線を此方にゆっくりと……そうじゃな。自然な感じで抱き合うのじゃ!

いや、恥ずかしい事じゃないぞ。友愛じゃよ……

ほら、刹那君も婿殿に木乃香と上手くいってる事を知らせる為に。

そうじゃ!

頬と頬を合わせる様に……グレイッ!

素晴らしいぞ2人とも。次は椅子をアイテムに……そうじゃ!

木乃香は、座る刹那君にもたれ掛かる様に……

フォー!

これは2人の友愛が溢れちょるぞ。次は……」

 

 もつれ合う様に座る2人を激写!何て素晴らしいんだ!ようこそ、巫女パラダイスへ。有難う巫女服!

 

「お爺ちゃん、うちら本当にお父様の為になってるん?」

 

「学園長……その、嬉しいのですが恥ずかしいです」

 

 少し拗ね気味の木乃香ちゃんと、逆に頬を染めてモジモジする刹那君!

 

「モチのロンじゃ!この後、電話で確認しても構わんぞい。

さっ続きじゃ!

刹那君、もちっと上目使いで……良いぞ良いぞ。木乃香も拗ねては可愛い顔が台無しじゃぞ!

もっと刹那君に寄り添う様に……フォーキター萌っ娘巫女姉妹キター!

ふははははー!

詠春さん、見てますかー!貴方の理想が、今ここに!刹那君、木乃香の頬に軽くキスじゃ!

照れるで無い。あっコラ、木乃香!

急に動いては……嗚呼、マウス・トゥー・マウスに!これは、これで……2人とも真っ赤じゃぞ!

 

だが、そ・れ・が・よ・い!仲良き事は、良い事なり」

 

 最後に最高のサプライズが有ったけど、大成功だー!

 かなり百合百合しい展開になってしまったが、当人達のわだかまりも薄れただろう……

 

「木乃香や……今日は刹那君とウチに泊まっていくと良いぞ。

2人で風呂に入り、一緒の部屋で寝れば……もう昔の様に垣根の無い仲良しに戻れるじゃろ?刹那君も良いな」

 

 そう言って部屋を出る。

 これだけスキンシップを重ねれば、刹那君も自身の出生に拘らず木乃香ちゃんと仲良く出来るだろう。

 仲良くなり過ぎた感も有ったけど……早速、この画像データを保管し編集が済んでから詠春さんに送ろう!

 今夜は夜更かしかもしれないな……いそいそとデジカメを持って、書斎に向かう変態1人。

 

 こゆい人達に染められてしまったのだろうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何だか良く分からない内に、学園長の屋敷に泊まる事になってしまった。このちゃんと一緒に……

 今は寝室に通され、既に敷かれていた布団に座っている。隣では、このちゃんがウンウンと悩んで?

 

「なぁせっちゃん……お爺ちゃん、少し変態じゃなかったん?」

 

「はぁ……かなり変態でしたね。孫娘のこのちゃんと一緒に、私なんてを写しても」

 

 あの迫力に呑まれ、つい言う通りの仕草をしてしまい、最後は……こっこのちゃんと、キス迄しちゃったし。

 

「いややわ!きっキスまで、このちゃんと……せっ責任取らなくちゃ」

 

「落ち着いてな、せっちゃん。キスは恥ずかしかったけど、うち……せっちゃんとなら嫌じゃなかったんよ」

 

 嗚呼、私は性転換を受けなくてはならない!しかし性転換可能な魔法は聞いた事がない。

 年齢詐称薬なら有るのだが……それならお金を稼いで、モロッコで性転換手術を?

 いやいや、ブロー博士は既にお亡くなりになってるそうですし……ならばシンガポール?でも、あの国の医師は荒っぽいと。ならばタイしか!

 

「えぃ!」

 

 突然、どたまに痛みが?

 

「こっこのちゃん?その手に持ってるのハンマー?」

 

「せっちゃん?目がグルグルして、何か妖しいの言葉がだだ漏れだったんよ。お爺ちゃんより変態っぽかったんで心配やった」

 

 学園長より変態?それは、物凄くショックです!

 

「このちゃん、すみません。大丈夫です!ちゃんと責任を取りますから、安心して下さい」

 

「……?なんや分からんけど良いよ。待っていれば良いん?」

 

 嗚呼、このちゃん……ちゃんとタイで男になって来ますから!待っていて下さい。

 

「ええ、待っていて下さい。高校卒業迄には何とかしますから」

 

 最悪は学園長にお願いして、依頼料の前借りを……

 

「ほなお風呂行こう!お爺ちゃんの家の風呂な、露天も有るんよ。そうだ!久し振りに流しっこや!」

 

「なっ流しっこ?分かりました。ご一緒します……」

 

 このちゃんとお風呂!何時以来だろうか?学生寮のお風呂では、警戒の為に近くには居たが流しっこなど……エヘエヘ!

 

 真・刹那覚醒!

 

 何やら妖しい職業にシフトチェンジが始まった。

 近衛木乃香、幼なじみと久し振りに仲良く出来ると喜ぶも相手は自分の婿になろうと突っ走っていた!

 互いの気持ちが交わっていそうで、実は微妙にズレていた。刹那が性転換手術をする迄の猶予は、後三年と少し。

 木乃香は彼女の間違いを正してあげれるのか?

 

 

 

 カタカタとキーボードを打ち、マウスを忙しくクリックする。木乃香ちゃんと刹那君の画像編集だ!

 この内容だと、幼気な美少女の百合百合しい物語になってしまうが構わない。

 詠春さんは刹那の美しさを盗撮という形で残すが、僕には気配を断つとか無理だからモデルを頼むしかない。

 でも彼女達には、今後も友情を確かめる為にも撮影を続けねばなるまい。これは肉親としての義務だ!

 

 あれ?何故か僕も変態道を爆進してない?

 

 あれあれ?僕って、こんなキャラだっけ?

 

 悩んでも仕方ないから、編集済みのデータを詠春さんに送信する。エンターキーをポンと押すと、直ぐに送信完了の表示が!

 初めての撮影だから、イマイチかも知れない。だから詠春さんの評価が楽しみだなぁ……きっと有意義な意見交換が出来る筈だ!

 などと夢を膨らませていたら、机の上の携帯がピロピロと軽快な電子音を奏でる。

 

 やれやれ、また魔法関係者が何かしたのか?かったるく携帯電話の通話ボタンを押す……

 

「もしもし……儂じゃ」

 

「義父さん!木乃香が、木乃香が!どどど、どう言う状況なのですか?」

 

 凄いな、詠春さん。まだ送信してから、三分位だよ。

 

「どうじゃ?儂の作品は?中々良いじゃろ。木乃香と刹那君の、甘酸っぱい友情が溢れて……」

 

「けしからんですぞ!妖しい迄の幼気な美少女の痴態。これは近衛一族の家宝として……いやいやいや。門外不出にしなければ!」

 

 詠春さん、気に入ってくれたんだ。良かった、頑張った甲斐があったね。

 

「気に入って貰えたかの?実は、まだ送ってないハプニング集があってな」

 

 木乃香ちゃんと刹那君のキスシーンですよ!バッチリ撮影してますから!

 

「ななな、何と?義父さん、それは何時出来上がるのですか?」

 

 時計をチラリと見る。もう23時を過ぎている、か……もうひと頑張りすれば、日付が変わる前には送れるかな?

 

「そうじゃな……日付が変わる頃には送れるじゃろ。

凄いぞ、ハプニング集は?何と、木乃香りと刹那君がキッスを……

詠春殿?

どうしたんじゃ?何か凄い音がしたぞ?おい、大丈夫か?」

 

 何故か電話越しに凄い音が?

 

「義父さん!」

 

「なっ何じゃ?」

 

「ハリーハリーハリー!私はパソコンの前から動きませんから、早くその画像を送って下さい!」

 

 そんなに気に入ってくれたんだ!ヨシ、頑張るぞ!

 

「まかせるんじゃ、詠春殿!速攻編集し送るぞ。ではな!」

 

 電話を切ってパソコンに向かう……気が付けば、先程まで騒がしかった客間が静かになったな。

 流石に女子中学生には、この時間は遅いのだろう。

 既に寝たんだね……お風呂場からもキャーキャー騒がしかったが、2人共楽しんでいるのだろう。

 流石に入浴シーンや寝顔は撮影出来ない。最低限のモラルとして、許可がなければ撮影しない。

 彼女達は、まだ女子中学生なんだからね。

 

 エヴァ?彼女は600歳だし問題無いでしょ?

 

 天ヶ崎さん?元々露出が趣味なら撮影されれば、逆に喜ぶんじゃないの?

 

 そう思うと、詠春さんが関西で嫌われていたのは盗撮癖が有るからかな?

 仮でも組織の長が、配下の女性達を侍らせ盗撮し捲るなんて……詠春さん、自業自得だよ?

 

 僕は……幾ら趣味でも自重しよう。

 

 そして妖しい雰囲気のキスシーンを編集し、詠春さんに送信した……

 送信後、暫くは詠春さんから連絡が有ると思い待っていたが、流石に0時過ぎでは連絡は自重したのだろう。

 僕は今日の、いやもう既に昨日だが……撮影したデータを複数コピーし保存した。

 一つはCDにコピーして、更に紙に印刷して金庫にしまう。ハッキングもネットに繋げなければ無理だろう。

 

 完璧だぜ!

 

 こうした処理を終えて、やっと布団に入る。今夜は良い夢が見られそうだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お早う御座います、義父さん」

 

「お久し振りですね、近衛老」

 

 早朝、我が屋敷に関西から来客が有りました。詠春さんと、記憶では随分前に会った事が有ったかもしれない……青山鶴子女史が居ました。

 2人共、京都神鳴流の正装?たる袴姿で。

 

「……何故じゃ?」

 

 朝も5時過ぎで、まだ街は寝静まっている。季節的にも日の出は6時過ぎだから、暗い!それを京都から公共交通機関も動いてないのに?

 

「婿殿?何故、今時期に関東魔法協会のお膝元。麻帆良学園に?不味いじゃろ?

それに京都神鳴流の青山鶴子が同伴とは……再婚の許可は出来ない……いや、すまぬな。老人の戯言じゃよ。

まぁ上がってくだされ」冗談を言ったら、トンでもないプレッシャーが……

 

「ほな、お邪魔します」

 

「義父さん、上がらせて貰います」

 

 意味不明な2人を客間に案内する。家政婦さんは起きていたので、お茶を出して貰い3人になった所で、来訪の意味を……

 鶴子さん、やはり妖艶な魅力が有るな。流石に袴姿も着慣れているし、キリリとした感じが良いな……

 

「それで?関西の重要人物がアポ無しの訪問は何故じゃ?」

 

 しかも早朝ですよ?お互い良い大人なんですから、常識を弁えましょう。

 

「青山殿は、私があの写真を見せてしまったので……」

 

「近衛老……昨晩はお楽しみどすな?」

 

 アレ?この2人って繋がってたの?

 

「婿殿?確かにお主も京都神鳴流の剣士……青山殿との繋がりは有るのだろう。しかし、あの写真を見せる程の仲だったのか?」

 

 あれ?目が泳いでいるよ……

 

「先日、京都神鳴流に訪問し青山殿の袴姿を盗撮……いえ、撮影した事がバレてまして……

ははは、刹那君に送った袴は青山殿が用意してくれたのですよ」

 

「そうどす。刹那はんの事は気に病んでたました。

だから彼女達が仲良くする為に、袴を用意していた詠春はんを手伝いましたが……結果がアレどすか?」

 

 あーキスシーン見ちゃった?

 

「ふぉ?アレは仲良くなり過ぎたハプニングじゃよ。本人達も気にしておらんし……

偶然に、接触しただけじゃ!ノーカンじゃよ」

 

 鶴子さんて厳格なのかな?ならばマズかったか……

 詠春さんも詠春さんだよ。何で正直に見せるかな。

 

「義父さん。今回の訪問、関東の魔法関係者にはバレてません。

我々の隠密能力をもってして全力で侵入しましたから……直ぐに帰りますし、安心して下さい。

エヴァにはバレてしまいましたが、説得しました。後ほど連絡が入るでしょう」

 

 コレって2人で僕を説教パターン?

 

 

 

 早朝に来訪と言う、社会人としてどうなの?仮にも組織のトップに居る連中なのに、非常識で良いの?

 そう思ってしまうのも仕方ないだろう。

 しかも隠密盗撮特化型な詠春さんと、歴代神鳴流最強と言われる青山鶴子さん……この2人が本気で麻帆良に侵入してきたよ。

 バレてしまえば、関西が関東に侵攻したって言われても仕方ないんだよ!

 

 でも……エヴァ一味を押さえている今ならば、麻帆良制圧は可能だろう。

 

 問題は侵攻後に、この地を守り切れない事。変態タカミチの行動の予測不可能さ。

 それとタイミング的に、ネギ君が滞在中な事。この事を考えても、穏便に済ませたい。

 しかし呑気に出されたお茶を飲む詠春さんと、優雅にお茶を嗜む鶴子さん……先ずは来訪の意味を確かめたいんだけど。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「義父さん、何て羨ましい妬ましい作品を作り上げたのですか?これは、ヤバいですよ木乃香が!」

 

「近衛老?刹那はんの扱い……ほんまに貴方に任せても平気どすか?」

 

 ああ……何となく分かった。詠春さんは、ただの暴走で麻帆良に強襲。鶴子さんは、刹那ちゃんが心配で来たのか。

 

「お二方も知っておろう。大切な孫娘の木乃香は、ナギを凌ぐ魔力を保有しておる。

対する刹那君は、その木乃香を守る為に麻帆良学園へ、半ば関西を裏切る様に来てしまった……」

 

 2人の様子を確認すれば、頷いて先を促す仕草をしている。

 

「彼女達も、幼少の頃から仲が良くての。

しかし此方に来るに当たり、儂らは木乃香が魔法を知らない普通の生活を送る事を望んだ。

そして刹那君に護衛を頼んだのじゃ。知っての通り、刹那君は烏族とのハーフ。

つまり魔法関係者じゃ……だから彼女は、木乃香から距離をおいて守る事とした。

それには、自身の秘密がバレて拒絶されるのを恐れる気持ちも大きかったのじゃろう。

しかし……儂らは、その気持ちを利用したのじゃ。彼女が辛い立場になるのを承知で、な」

 

 詠春さんは苦々しい顔をして、鶴子さんは笑っている……目がね、笑ってないけど。

 

「しかし木乃香の立場が、そんな事で良くなる訳もなかったのじゃよ。

守られる者が、その危険さも理由も知らず……守る者が近くに居ない。これでは幾ら平和ボケした日本でも危険じゃ。

だから儂らは関東に見切りを付けて、関西に戻るのじゃよ。これからも刹那君には、木乃香を守って欲しい。

それも近くでじゃ!

しかし、一旦距離を置く事に慣れてしまった刹那君には……中々、木乃香と昔の様に接する事は出来なんだ。

自然と壁が出来てしまったのじゃな……」

 

 ここで、一旦話を切る。

 

儂でなく儂らと言ったのは、責任の所在の分散化です。被害は詠春さんにも均等に受けて貰わねば……

 

「だから一気に仲良くさせる為の百合百合しい行為を強要させた。流石は義父さん!そこに痺れる憧れるー!」

 

 詠春さん、フォローになってません!鶴子さんの笑顔も変わりません!

 

「違うぞ!しかし、真面目と言うか頭の固い刹那君は一度作ってしまった壁を粉々に砕く必要が有ったのも事実。

現に、あの後は仲良く風呂に一緒に入り一緒の部屋で寝たんじゃよ……アレ?ヤバいかの?」

 

 何か男女なら危険な不純異性交遊まっしぐらな展開か?

 

「ふふふふふ……近衛老?つまり刹那はんと木乃香はんの仲を取り持つ為に、あの様な行為に及んだ、と?」

 

 ああ、プレッシャーが収まらないよ……喉が、喉がカラカラだ。

 

「そうじゃよ……彼女達は、後で様子を見るがよい。

もうすっかり昔の雰囲気を取り戻しておる。このちゃん、せっちゃんと呼び合っていた頃にの……」

 

 お願いだから僕の為に、百合百合しくない様に仲良くなっていて下さい。

 

「流石は義父さんだ!そんな考えがあったなんて」

 

 ナイスフォローだよ、詠春さん!

 

「勿論じゃ!彼女達には幸せになって欲しいのじゃよ。大人の都合で振り回してしまったが、これからは昔の様にの……

それに魔法の事を自分の置かれた立場を理解すれば、刹那君のコンプレックスを拭う事も可能じゃろ?

儂はもう長くない……出来るだけの事をして上げたいのじゃ」

 

 そう言って鶴子さんを見れば、漸くプレッシャーを収めてくれました……はぁ辛かったです。

 美人の笑顔が、こんなにも怖いなんて……

 ここで携帯が鳴り、表示されたディスプレイを見れば魔法関係者の1人だった……

 目線を2人に向けると、鶴子さんが頷いたので通話ボタンを押す。

 

「儂じゃ……」

 

「学園長!先ほど麻帆良内に結界を破って侵入した者が居ます。痕跡を追っていますが、特定出来ません。気を付けて下さい」

 

 気を付けるも何も、当の侵入者は目の前に居ますよ。

 

「分かった。引き続き探索を頼むぞ。こちらも警戒しておく」

 

 そう言うって電話を切る……流石に結界に触れた事は隠しきれないか。

 でも、そこからウチに来る迄の道筋は追えない様にしているのは流石だ。

 

「さて、帰りは気を付けて下され。まさかお主らが捕まるとも思えぬが、の……」

 

 この2人なら、強行突破も難しくないだろう。しかし技を使うと京都神鳴流とバレてしまうので、見付からない様にお願いしますよ、本当に……

 

「近衛老……刀子はんから連絡が有ったんや。何でも見合いをセッティングしてくれたらしいどすな……近衛一族の者を」

 

「ふぉ?身元が確かで、裏の事情に理解有る男など儂の関係者が最適じゃろ?

儂はの……木乃香と刹那君の事を大切に思っている。次代を担う彼女達を……ならば、最善の人事じゃろ?

刹那君も葛葉先生と一緒なら心強い筈じゃ。彼女達の事は、鶴子殿も頼みますぞ。

京都神鳴流から破門や裏切り者扱いはしないで欲しいのじゃ……」

 

 もう、モフモフ娘もキチガイに刃物美人も纏めて面倒見ますって!毒を食らわば皿までじゃ!

 

「ふふふふ……良いどすな。近衛老の企みに乗りまひょ。刀子はんと刹那はんの事、頼みましたで。

京都神鳴流は、関東魔法協会とは距離を置きますよって、安心しておくれやす……では詠春はん、帰りますどぇ」

 

 そう言って、スッと立ち上がった。

 

「義父さん、では帰ります。此方の魔法関係者には、接触しない様に戻りますからご安心を……

では、また木乃香と刹那君の写真をお願いします」

 

 そう言って、気が付けば既に姿形が無くなっている……さて、魔法先生方は大混乱だろうな。

 身元不明な者が、侵入して脱出した事は結界の構成上分かるだろう。

 

 そうだ!エヴァと口裏を合わせないとマズいね……

 

 携帯を取り出し、彼女に連絡を入れよう!口止めしないと、関西の最高戦力が麻帆良に武力侵攻してきた!と、言われても仕方ないのですから……

 

 

 

 謎の勢力が麻帆良の結界を破り侵入し、一時間後に又結界を破り撤収して行った……

 今の結界はエヴァの膨大な魔力を転用した訳じゃなく、彼女を抑えつけていた結界の電力を元にした結界に変更してある。

 結界の弱体化は危険だが、どの道エヴァは麻帆良学園から去るのだから……

 最悪、敵対するかも知れない勢力の守りを強化する意味も無いから放置だ。

 麻帆良に侵入した当の本人達は悠々と帰って行ったので、エヴァには理由を説明しなければならない。

 

 電話では、盗聴などの可能性も有るから「先程の侵入者の件で、急ぎ話が有る」と伝えた。

 

 魔法関係者との会議の前に、対策を練って口裏を合わせておこう。

 

 これなら彼ら……詠春さんと鶴子さんの事はバレない。だから、魔法関係者の慌て振りは凄い事になっているだろう。

 正体不明の何かの出入りを許してしまったんだ。今日は緊急で対策会議をしないと疑われる。

 学園長は何か知っているんじゃないか?学園長は何か隠している?彼らも無能ではないし、その考えに行き着くのは容易かも知れない。

 

 何せ、ネギ・スプリングフィールドという爆弾を抱えているのだ……周りが、彼に危険が有るのでは?

 

 なんて騒ぎ出す……だろうな。

 

 この辺を良く打ち合わせておかないとマズい。暫し考えに耽っていたら、エヴァが影を使ったゲートで執務室に現れる。

 全くアクティブでアグレッシブなロリめ……しかし頼りになるロリでも有るからね!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「それで?奴らは何が目的で、麻帆良に侵入したんだ?」

 

 ソファーにふんぞり返り、尊大な態度で聞くエヴァさんは……需要の多いSなロリだ!

 

「ふむ……詠春殿は、只の親バカじゃな。木乃香と刹那君の仲良くし過ぎた写真に興奮して……本能的に暴走したんじゃろう」

 

 コレじゃよ、と言って昨晩撮った百合百合しい2人の写真を見せる。思わず写真を見て呻く洋ロリ……

 

「うっ!これは……ジジィの孫娘はヤバい系か?まさかの女の園が、危険な遊戯に手を出す切欠に?

まぁ人それぞれだからな、性癖などは。案外、刹那は男装が似合いそうだな。お似合いか……

祝福しようではないか!女×女のカップル誕生に。だが、青山の化け物は何故来たんだ?」

 

 全く失礼な!木乃香ちゃんと刹那君は健全な関係だぞ!ただ一寸、刹那君が暴走気味な気も……

 

「青山殿は刀子君の事が心配だったんじゃろ?

彼女の見合い相手に、儂の一族の若者を見繕って写真を見せたら……偉い食い付いてな。早速、青山殿に報告したんじゃろうな。

だから心配した……このまま近衛一族に引き込んで、何をさせるのかを確認しに、の」

 

 あのプレッシャーは辛かった……今でも良く耐えたって自分を誉めたい気持ちで一杯です。

 しかし端から見れば、女心を利用したと思われても仕方ないからね。

 鶴子さんの心配も最もだ!男を餌に親友が誑かされていると思ったんだろう。

 

「ああ……何でも一般人の恋人に振られたらしいな。しかし直ぐに新しい男に食い付くとは……

飢えていたんだな、ヤレヤレ。で?本音は、あの刃物キチガイを取り込みたいのか?」

 

 刀子さん……貴女への周りの認識は、刃物キチガイですよ!少しは考えないと駄目なんじゃ?

 

「まぁ刹那君の為じゃな……同じ京都神鳴流の剣士じゃし、立場も互いに裏切り者扱い。

じゃから刹那君の為に手元に呼ぶのじゃよ。木乃香の護衛としても有能じゃろ?」

 

 能力は上位だし、女性の護衛に女性をあてるのは色々と都合が良い。刹那君も良くやってくれるけど、未成年だから。

 成人女性だと色々と有利な面も多いからね。

 

「それを納得して帰ったと?あの化け物にしては、甘くないか?」

 

 武力と知力は別物だと思うけど?でも日本最大の武装派組織?を束ねているのだ。有能なのは間違い無いか……

 

「メリット、デメリットを考えての納得じゃな……

しかし関東魔法協会への協力を控える事や、刹那君と刀子君の京都神鳴流での立場に付いて助力してくれるそうじゃ……

京都神鳴流を抑えられるのはデカい。最悪中立でもな」

 

 あんな刃物キチガイの集団を……ああ、僕も彼らをそう思っていたのか。考え直さないと駄目だね……

 でも手近な見本が刀子君と刹那君では、ねえ?色々と彼女達の報告は聞いているし……口よりも太刀で会話するんだもん、あの2人。

 

「なる程な。だがジジィ、何故あの2人が一緒に来たのだ?

今の話だと個別の理由で確認に来たんだろ?幾ら詠春が、神鳴流の剣士でも変だぞ?」

 

 エヴァって、結構鋭いよな。確かに、あの2人が共闘する意味が分からないよね、普通は……

 

「それは……詠春殿が鶴子殿に頭が上がらない。彼女に此方の情報を教えたら、その後に一緒に行動したんじゃな……」

 

 ポカンとした顔も、中々可愛いな。あっ再起動した……

 

「…………?尻に敷かれているのか?」

 

 そっちに考えが向かったのか?僕も最初、冗談でそう言ったんだよね。

 凄い殺気を貰って、鶴子さんは色恋沙汰の戯言は言っちゃ駄目だと理解したんだっけ。

 

「盗撮の件がな……バレたんじゃろう」

 

 あっ今度は蔑む様なSの目つきに。

 

「……なぁジジィ?」

 

 ソファーに対面で座りながら、足を組み替える高等チララズムテクニックを披露するエヴァ!残念ながら、僕には幼女趣味は無いから不発だ。

 

「なんじゃ?」

 

 酷く冷静に聞き返す。

 

「近衛一族は変態ばかりなのか?」

 

 ふん!って吐き捨てる様に言われました!まさかエヴァは僕を調教するつもりか?いやしているのか?

 

「普通じゃろ?ただ少し趣味に対する手段も方法も、色々持っているから問題も有るんじゃよ」

 

 あっ!ソファーからずり落ちたぞ。捲れ上がったスカートから、色違いの何かが見えたが……そこは大人の対応でスルーだ!

 

「エヴァよ……兎に角、エヴァが結界に侵入した痕跡を捉えて現地に向かったが、既に現場には誰も居なかった。

付近を捜索するも、別の場所から結界を抜けるのを知覚したが追跡は無理じゃった。そして今、儂に報告に来た……で、よいな?」

 

 捏造だが、本当の事を言えば西と東で戦争になるかも知れないからね。

 

 ニヤリと笑いながら「随分と沢山の貸しが出来たが?どう返してくれるのか楽しみだな」ソファーでふんぞり返る洋ロリが、何を要求してくるか不安で一杯です。

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールド……

 

 魔法世界で知らぬ者が居ない程、有名な両親を持つ才能溢れてる子供。しかし、この世の神は彼を祝福しなかった。

 才能は有れども、環境が最悪だったのだ。それに神から与えられた要らないギフトも厄介だし……

 

「ラッキースケベ!」

 

 伝説級のレアスキルも、足されたトラウマの女性恐怖症で相殺された。いや、相殺どころかオーバーキル状態だ……

 あの後、ネギ君が病院で暴走してからは、彼は完全に女性から隔離させた。

 彼の通う、男子中等部と学生寮を中心に半径二キロに及び女性の立ち入り禁止。

 弐集院先生と瀬流彦先生を常に完全密着させた。しかしネギ君は、その隔離した環境が良かったのか?

 それからは暴走する事も無く、副担任としての職務を全うし今日晴れて魔法使いの試練を達成した!

 

 強引にした!

 

 いや、させた!

 

 今、彼は多くの生徒に見送られている……今日はネギ・スプリングフィールド先生が、イギリスへ帰る日だ。

 クラス全員と打ち解けたんだろう……彼を見送る為に多くの学校関係者が校庭に集まり、今まさに送迎の車に乗り込もうとしている彼と別れを惜しんでいる。

 彼は、ネギ君は多くの問題を抱えていたが、教師としては及第点を与えても良い程に頑張っていた。

 

 才能と努力……方向さえ間違わなければ、彼は正しく英雄になれる素質が有る!

 

「頑張れ!ネギ君。君のコミュニケーション能力は、男性限定で向上したのじゃ!

イギリスでも男友達を沢山作って、女性には近付かないんじゃぞ!」

 

 学校の屋上から、本人には聞こえないだろうエールを贈る!何も対面で別れを惜しむだけが全てでは無い!男の別れとは、ただ密かにエールを贈る。

 

 これも有りだろう。見た目は爺さんだが、ハードボイルドにキメて見る!

 

「学園長……人それを問題先送りないし丸投げと言います」

 

「ケケケケケ?完全ニ他人事ダナ、アノ餓鬼ニアレダケ懐カレテタノニ切リ捨テカヨ」

 

「ジジィ。漸く帰ったな……小僧は、イギリスに帰る前に機内か空港で騒ぎを起こすぞ。ジジィの願いは、直ぐに破綻するだろうな」

 

 エヴァ御一行の厳しい指摘をスルーする。屋上の手摺の部分に4人並んでネギ君を見送る。

 エヴァも茶々丸もチャチャゼロも女性?だからね。

 折角纏まろうとしているんだから、わざわざネギ君のトラウマを刺激する必要も無いのだから……

 

「それに対しては万全な手を打ったぞ。ネギ君はイギリスまでは、完全に女性と隔離して行動出来る手筈じゃ……

後は……全ては、時間と本来の保護者達が解決する問題じゃよ。儂らは、やれる事はやったのじゃ……」

 

 春の日差しを浴びながら、ボンヤリと他人事の様に呟く。僕らの麻帆良学園生活も今日で終わりなんだ……

 僅か数ヶ月にも満たない爺さん憑依生活だが、楽しい老後は此から始まるのだから!

 

「頑張るんじゃぞ、ネギ君!お互い頑張ろう。有難う、そしてサヨウナラ……」

 

 もう会う事もないだろう英雄の息子に、もう一度手を振る。屋上に吹く風は、大層冷たかった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僕は、漸く一人前の魔法使いになる試練を達成した!

 学園長さんは喜んでくれて、此方の校長に掛け合ってクラスでお別れ会を催してくれました。

 初めて出来た、同性の生徒(友達)さん達。初めて出来た、同僚の先生方。

 

 そして、初めて僕を一個人として接してくれた学園長さん……

 

 学園長さんには、不条理だけど英雄の息子だから皆が優しく接してくれるんだ!

 皆が期待をかけるんだ!皆が僕を利用しようとしているんだ!

 

「だから、もっと周りに気を付けなくては駄目だぞ。ネギ君の未来はネギ君だけの物じゃ!良く考えて行動するのじゃぞ」

 

 最後の別れをわざわざ僕の中等部まで来てくれて、しかもアドバイスまでしてくれて、色々教えてくれた優しい人だ。

 本当のお爺ちゃんの様に接してくれた。今迄で初めての人。

 僕が何度も失敗しても、悪い所を教えてくれてフォローしてくれた。

 僕が、こうして幸せに試練を乗り越え沢山の友達と居られる様にしてくれた人。

 

「ネギ先生!向こうでも頑張れよな」

 

「ネギ先生!メール送れよ、忘れずに。僕達も送るから」

 

「今度また日本に来る事が有れば、麻帆良学園に顔を出せよな!」

 

 暖かいエールを教え子達から貰って、全員と握手をして……寄せ書きやプレゼントを幾つも貰って……

 出来れば、ここに……麻帆良学園で、みんなと暮らしたい。

 

 でも、僕にはお父さんの様な立派な魔法使いになる夢が有るんだ!

 

 別れは凄く寂しいけど、それを振り払い、僕は学園長が用意してくれたバスのタラップに片足を乗せて振り返る。

 皆が笑顔で、僕を送り出してくれていた!

 

「みんな、有難う!僕が一人前になれたのは、みんなのお陰です。本当に有難う!」

 

 そう言って深々と頭を下げた。別れは辛いけど、立派な魔法使いになったら、また日本に来れば良いんだ! 

 だから暫くの別れだけなんだ!そう考えて、もう一度両手を振って別れを惜しんだ。

 

 扉が閉まったので、最後尾の席まで行って、みんなが見えなくなるまで手を振っていた……

 三分もしない間に、みんなは見えなくなったので、そのまま最後尾の座席に座る。

 

 このバスは初めて日本に来た時に、僕が埼京線で痴漢に合ったと話した学園長さんが、わざわざ用意してくれたバスです。

 成田空港まで送ってくれるって!しかもイギリス迄の飛行機も貸切で用意してくれたらしいんだ。

 今も、学園長の一族の方がイギリス迄……向こうで迎えに来てくれるネカネお姉ちゃんやアーニャに引き渡す迄、同行してくれるんだって!

 

 何から何まで有難う、学園長さん。

 

 僕は日本の電車が怖いから、会わすに送って貰えるのは嬉しい!学園長さんには、お礼がし足りない。

 今度、何か僕に出来る事が有るか聞いてみよう!

 

 ネギ・スプリングフィールドを乗せた貸切バスは、一路羽田空港まで走って行く……完全に女性との接触を絶つ段取りで、イギリスまで一直線だ!

 今、やっとネギ君はイギリスへ凱旋するのであった!

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 遠く道路を走るバスをネギ君が教師として頑張っていた学校の屋上から眺める……彼の帰国を悲しむ者も沢山居るが、喜ぶ者はもっといますよ。

 

「漸く……漸く、ネギ君が帰ってくれたか……」

 

「ヤレヤレ……厄介者が、やっと帰ったな。しかし、随分と懐かれていたではないか?

何だかんだ言っても、あの小僧をまともに扱ったのはジジィだけだったからな。

英雄の息子様に懐かれるとは。小僧は、また問題をおこしそうだぞ?」

 

 くっくっく……と、嫌な笑顔で言ってくれました。確かに、ネギ君は妙に僕に懐いていたな。

 

 何故だろう?

 

 彼の乗るバスを見送りながら我々も今日、関西に旅立つ事になっている。

 

 

 エヴァと茶々丸、それとチャチャゼロ。刀子さんに刹那君。それに僕と木乃香ちゃんと一緒に……

 

「さて、儂らも行こうかの……大宮まで詠春殿と鶴子殿が迎えに来てくれている。待たせる訳にはいかぬのでな」

 

 半ば強引に引き継ぎをして、後任の学園長が来る前に関西に戻る事にした。

 業務に影響は無い様にしてあるから平気だと思いたい……タカミチは、イギリス方面のテロ組織鎮圧に向かわせている。

 

「ネギ君の帰る国を綺麗に掃除しておく様に。暫く滞在しても良いぞ。来週にはネギ君も帰るからな」

 

「学園長!任せて下さい。必ずネギ君を立派なナギにしてみせます!」

 

「儂は……その件については、担当を離れるからの。後は自己責任じゃぞ!」

 

「勿論です!」

 

 そう言って男の園で頑張って副担任をしているネギ君に、チョッカイかけようとした彼を国外追放にした!

 序でに、この遣り取りも茶々丸に録画させている。責任回避、大切ですから。

 

 そうそう。

 

 辞任を公表した後、超鈴音から接触が有った……茶々丸の定期メンテナンスの時に同行し話を聞いた。

 彼女とは、茶々丸の点検や修理の関係で縁は切れないからね。

 

「学園長。私は、私と仲間の為に麻帆良の学園祭で行動を起こすヨ!誰にも止めさせないヨ」

 

 そう言って、此方を睨んでいた。

 

「好きにすればよい。儂らには、もう関係無いのでな。精々頑張るんじゃな」

 

 他人事の様に言ったら、凄い慌てていた。

 

「魔法を世界にバラすネ!大混乱だヨ」

 

 多分、実行する迄は秘密にしなければならない事を教える程に、彼女は大混乱だった。

 

「儂ら関西呪術協会にとって、魔法をバラすのは大歓迎じゃ!

元々この国を呪術的に護ってきた歴史と実績が有るのだから……しかし、呪術など非科学的なまやかしだ!

そんな事が有る訳ない!そう言われてきた。しかし、西洋魔法がバレて麻帆良学園の事が知られても、儂らは困らない。

何故なら……彼らを侵略者にする事は簡単だし、我らは平安の時代から国を護ってきた一族じゃ。

ならば、その実績を公表するだけじゃな」

 

 儂は、元麻帆良学園長として責められるかも知れないけどね。

 超は、壊れた様に笑っていた……どうやら、僕達が彼女を止めると思ったらしい。

 

 僕達が居なくなり、ネギ君やタカミチがイギリスに行ってしまった麻帆良学園に超鈴音を止められる人材が居るとは思えない。

 超には、後任の学園長が来てから行動を起こす様に頼んだ。

 

「分かったヨ!この極悪人、しかしお互い干渉は無しネ」

 

 お互いの不干渉を約束し、超一味と別れた。もしもの時の為に、茶々丸の整備関連のデータを貰って。

 此方はタカミチをイギリスに追いやる事を条件とした……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漸く、漸く麻帆良学園から、西洋魔法使いから離れて関西へ戻れる。

 大宮駅に向かうリムジンの中は、エヴァ・茶々丸・チャチャゼロ・刀子さん・刹那君そして木乃香ちゃんと美女・美少女・美幼女とパラダイス状態だ!

 ああ、オマケで天ヶ崎さんも乗っている。

 

 あの改造巫女服で……

 

 彼女は、復讐心を利用されたスパイらしかったが、根っこがドジで優しい為に行動を起こす前に関西に帰る事になった。

 つまり僕の目の保養要員だった訳だね。車窓からヨーロッパの街並みみたいな麻帆良を眺めながら、ふと思う。

 体は爺さんだけど、これだけの女性達を侍らす?事に成功した。

 京都に戻ったら、詠春さんと京都中の神社の巫女マップを作る予定だ。京都が完成したら、関西圏そして全国版だ!

 

「ジジィ!京都に行ったら花見をするぞ。嵐山に円山公園、哲学の小径……夜桜の下で宴会だ!」

 

 そうか、前回は梅が満開だったけど今回は桜か……

 

「うむ……皆も良いかのう。木乃香や、茶々丸と料理を頼むぞ。儂は秘蔵の酒を出すか……勿論、未成年者は酒は駄目じゃぞ」

 

 彼女達と花見か……楽しみだね!

 

「エヴァよ。超の企み……

学園祭の時期は五月蝿くなりそうじゃな。どうじゃ?ハワイにでも行かぬか?勿論、木乃香達も一緒にの」

 

 青い海、白い雲、輝く水着の彼女達……

 

 実際は早めに遊びに行って、何か有れば帰国だけどアリバイ作りには良いよね。何たって海外なんだし、超とグルとは思えまい。

 

「ハワイか……そうだな、修学旅行で行けなかったからな。ハワイにリベンジだ!」

 

「お爺ちゃん、うちらパスポート持ってないよ。どうするん?」

 

「うちは行きませんよ。何であんた等と、行かなあかんのや」

 

 賑やかで騒がしいけど、これが幸せなんだろうね。

 

「詠春殿、先ずは北野天満宮からじゃな!」

 

「そうですよ、義父さん!我らの活動は始まったばかりですよ」

 

「「先ずは京都府内全ての巫女さん(の画像を)をこの手に!」」

 

 周りの女性陣は諦めているのか、ただただ溜め息だけをついていた……

 

 

 後書き

 

 最後まで、この誰得?な老人憑依小説を読んで頂き有難う御座います。

 

 この作品は、二次創作で大抵嫌われ者である麻帆良のぬらりひょん!

 

 近衛近右衛門が、綺麗なぬらりひょんになったら?

 

 ネギ・スプリングフィールドが女性恐怖症だったら?

 

 他の方が考えないだろう、ひねくれた発想から始めました。

 

 ネギ君の周りから2-Aの原作女性陣を一切接触させないという暴挙(笑)

 

 そして問題一杯なのに、エヴァさん達と関西に引き籠もる最後。

 

 続編も書ける終わり方ですが、此処で一端の終了とさせて頂きます。

 

 暫くしたら、関西に戻って嫌々と対関東対策をさせられる主人公とか。

 

 超さんの活躍とか、ネギ君のその後とか書こうと思います。

 

 最後まで読んで頂いた方には、最大限の感謝を!

 

 

 


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