僕は麻帆良のぬらりひょん!   作:Amber bird

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第6話

 京都の近衛本家……

 

 爺さんの実家で有り、本来なら関西呪術協会に所属する力有る旧家だ。

 現当主は、近衛近右衛門。つまり爺さんであり、僕でもある。そして僕は、関東魔法協会の会長だ。

 だから爺さんは大戦の英雄の1人を入り婿として、関西呪術協会の長に据えた……詠春さんは、本当にお飾りな長だったみたいだ。

 

 何も改革せず、配下と打ち解けもせず……ずっと爺さんの言いなりだった。

 

 辛く無かったのかな?嗚呼、巫女さん侍らせてウハウハだったっけ。例え巫女パラダイスでも、僕なら針のムシロみたいな生活は嫌だよ。

 だから僕は、関東から逃げ出す準備をしてるのだから……凛々しく関西呪術協会の総本山に向かおう!

 そう言ったエヴァは、口の回りを茶々丸に拭いて貰っている……みたらし団子を1人だけで食べたからだが。何とも締まらないな。

 

「ケケケケケ!頭ニ乗ルゼ。何ダヨ、安定悪ナァ」

 

 チャチャゼロが、僕の頭によじ登って来た。凹凸が有り面積の大きいこの頭なら、安定すると思うんだけど?

 

「いや、お前さんはエヴァの方に……」

 

 人形本体+刃物だと結構重いんです。

 

「チャチャゼロは護衛だよ。くっくっく……まるで人形好きな変態ジジィだな」

 

「姉さん、学園長を宜しくお願いします。私は、この屋敷で待機していますので……」

 

 茶々丸さんはお留守番です。しかし既に完全武装済みで、何か有れば当然の様に参戦するつもりですよね?

 本当に心強いです。実はもう一つ……茶々丸は、未だに怪しい超鈴音に情報が行きそうだから話し合いには不参加です。

 それも今更なんだけどね……

 最初から記録出来るガイノイドを同伴するのも、先方に要らぬ警戒心を抱かせそうだから。それも理由の一つだけどね。

 何て考えているけど、頭の上に幼女人形を乗せている僕。何とも微妙な格好で、先方に向かう事になった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛本家は、左京区に有る。どちらかと言えば、琵琶湖に近い。大文字山の付近と言えば分かり易いだろうか……

 それなりの広さの屋敷を構えているので、京都市内では場所の確保が難しい。

 それに、呪術を扱うので人目に付かない人里離れた山間部が都合が良かったのだ。

 

 リムジンに分乗し、関西呪術協会に向かう……

 

 流石のエヴァも緊張しているのか、お気に入りの京都の街並みを見てもはしゃいではいない。

 頭の上のチャチャゼロは、たまに「ケケケケケ」と奇声を上げているのがきになるのだが。

 

「ジジィ……これからが本番だな。最悪、話が拗れたら強制的に相手を薙ぎ払い脱出するが良いな?」

 

「なるべく穏便に進めたいのじゃが……どちらかと言えば話し合いに参加する連中よりは、参加しない連中の襲撃が問題じゃな……」

 

「む、そうだな……ジジィと話す事は無い!とかの連中か」

 

 そうなんだ……僕がこの体に入る原因を作った連中は、話し合いの場に出れる様な奴らでは無い気がするんだ。

 実際に命を捨てて爺さんの魂を消滅させた連中は、居なくなっても分からない奴らだった……調べてみたが、行方不明者を特定出来なかった。

 襲撃の犯人は、実際に肉親を亡くした人達なんだよね。

 

つまり実行部隊としての兵士達……さほど重要な地位には居ない、現場を支える人達なんだ。

 

 だから、この話し合いでは彼らは納得しないかもしれない……先ずは贖罪の一歩目だ。

 

「実際に肉親を亡くした連中からすれば、受け入れ難いじゃろ?」

 

 そうこうしている内に、車が目的地に着いた様だ……ドアを開けて外に出る。

 リムジンは、長い長い階段の下で停まっていた……コレを登るのか?

 爺さんの体に優しくない立地条件だよね。

 我々が到着したからか、階段脇の灯籠に火が灯る……此方の面子は、僕とエヴァにチャチャゼロだ。

 近衛本家の人達は、車を移動して他の場所で待機。

 

 エヴァは軽々と階段を登り、僕は魔法の呪文を唱えながら登っていく……

 

「よっこらしょ!全く老人に優しくない場所じゃな……」

 

 登る事、百段以上。五分以上かけて登りきった!

 

 そこには正門が有り、既に門は開いて左右に巫女さん達が並んで居る。

 その最奥に、婿殿……西の長、詠春さんが待っていてくれたけど。巫女さん達は能面の様に表情が無い。

 彼女達は、この扱いに不満が有るんだよね……

 

「義父さん、良くいらっしゃいました。それに……エヴァ!驚いたよ、君が来るなんて」

 

 にこやかに迎えてくれたけど、今日は正式な訪問だから……これは拙い対応だよ。

 

「詠春殿。本日は、関東魔法協会の会長として正式な訪問じゃ。その対応は拙いぞ。

それと……今は義理の父として言わせて貰うが。彼女達は、古来よりの神秘の力を受け継ぐ巫女じゃ。

現代風の巫女さんとは違うのじゃ。接待には使ってはいかんぞ。そう手紙でも書いた筈じゃよ……

力を持つ者を適材適所に配するのが長の務めじゃ。まぁ固い話は、話し合いの場所でしようかの……」

 

 詠春さん……

 

 巫女さんを接待に使っちゃ駄目だって、手紙に書いたよね?

 

「詠春よ。相変わらずムッツリスケベだな……巫女を侍らせて楽しいのか?

アレらは本来違う働きをする連中だよ。巫女と戯れたいなら、そう言う店に行くのだな」

 

 エヴァにトドメを刺されど苦笑いの詠春さん……笑い事じゃないんですよ。

 既にメンバーは揃っているらしく、僕達が最後みたいだ……会場まで詠春さん自ら案内してくれたが、コレも拙いんだよね。

 

 本来立場は対等。

 

 別に優劣も上下関係も無いのに、この持て成しは詠春さんが爺さんより下と考えていると思われてるよ。

 

 廊下を歩いているとエヴァが「殺気を抑えられない連中が多いぞ。ジジィ、気をつけろ」そう助言してくれた……

 

 アウェーだからか、最初から辛い立場だね。

 

「義父さん、此方へ……」

 

 長い廊下の突き当たりに会場が用意されていた。和室だが100畳位有るんじゃない?

 最初に見事な襖絵が目に入ってきた……歴史有る関西呪術協会の総本山だけ有り、何か凄いって感じがします。

 

 さて、いよいよ本番だ!

 

 頑張らないとね。僕の楽しい老後の為にも……

 

 

 

 詠春さんに先導されて、話し合いの場に入る。100畳位有る広い和室だ!

 其処には向かい合う様に座布団が並べられ、小さな座卓が置いてある。

 んー洋風?今時?な会議室に慣れてると、座布団に座りながらの話し合いって新鮮な感じがしますね……

 

「皆さんお待たせしました……さぁ此方へ」

 

 案内してくれたのは上座だろうか……コの字形に並べられた席の中心に当たる部分だ。そこに席が3つ並んでいる。

 

 詠春さん、僕とエヴァのだろう。

 

「時間に余裕を持って来たつもりじゃが、待たせてしまったみたいじゃの……」

 

 一言添えてから座布団に座る。そして頭の上のチャチャゼロをそっと膝の上に乗せる……

 

「ケケケケケ!何ダヨ、ジジィノ膝ノ上カヨ」

 

 誰もチャチャゼロの扱いに突っ込まないね。厳つい人達が多いんだけど……

 座卓の上に、湯呑みが直ぐに置かれる……驚いた事に、チャチャゼロの分まで用意してくれた。

 これも巫女さんなんだが、ぺこりと頭を下げる。普通なら嬉しいけど、詠春さんは本当に巫女さん好きなのか?

 お茶汲みにまで巫女さんを使うとは……

 

「ああ、有難う」

 

 僕とチャチャゼロとエヴァ、そして詠春さんの順番に湯呑みが置かれる。

 何か置く順番にも隔意が有りそうな……コホン、と咳払いをしてから出席者を見回す。

 

 やはり力有る連中だけあり……正直怖いです。

 

「では、先ずはこの話し合いの場を設けてくれた事に礼を言おう……」

 

 進行役が誰だか分からないから、取り敢えず僕が進めるしかないのかな?でも皆さん無言です!怖いです……

 

「単刀直入に言おう……儂は関東魔法協会の会長職を辞する。後任は本国から適当な人材が来るだろう。

そして、詠春だが……共に関西呪術協会の長の座を退いて貰う」

 

 相手をしてくれないなら、言いたい事を言うしかない。流石に関東と関西のトップが辞めると言えば、反応は合った。

 

「それで?主が関東から撤退し、関西呪術協会の長にでもなりたいのか?」

 

「ふん。何を考えているのかな。全く笑い話にもならんな」

 

 しかし、冷たく突き放すお言葉です……詠春さんは驚いて固まっており、エヴァはニヤニヤしている。

 チャチャゼロは……お茶を飲んでいるね。

 茶々丸は食事は出来ないのに、チャチャゼロは飲み食い出来るんだよね……

 もしかして、長く生きてるから妖精化とか九十九神化とかしてるのか?

 

「ナンダヨ、酒ハ無イノカヨ。ツマンネーナ」

 

 チャチャゼロの頭をポンポンと軽く叩く。うん、少し怖さが和らいだよ……

 

「別に何も企んではおらんよ。儂も、もう年じゃからな……この辺で権力の座から退いて後任に託すつもりじゃ。

詠春殿には悪いが、近衛の名を持つからな。共に職を辞するのじゃ」

 

 僕と言うか、爺さんが退けば詠春さんが長で居る意味も力も無いだろう……クーデターとか下剋上の前に、共に居なくなろうね。

 

「ふん……成る程な、関東で何か失敗でもやらかしたか?関西に逃げ込むつもりかな」

 

「全く問題を押し付ける物よの。毎回な……」

 

 完全に悪意でしか見られてない?爺さん、相当恨まれてるぞ。

 

「別に失策はしてないつもりじゃよ。もう年じゃからな……此処に居る連中で、儂より年上は居まい」

 

 そう言って周りを見る……大体が40〜60歳位かな?爺さんは80前後は年食ってる筈だからね。

 皆さん年下です……

 

「なれば……黙って辞めれば良かろう!何故、我らを集めた」

 

「そうだな……何時も、そこの長と勝手に決めてるじゃないか!」

 

 発言をするのは20人近く居る中で、6人だけだ。それも下座に近い連中……では僕に近い位置に居る連中は、何を考えて沈黙してるのかな?

 

「儂が皆を集めた理由は……大戦の時に、多くの人材を死地に送った事を謝罪する事と……残された遺族に補償をしたいからじゃ」

 

 そう言って土下座をする。ちゃんと座布団から下がってだ……

 

「なっ?」

 

 空気が固まった気がする。

 

「遺族達の事は主等の方が把握してるじゃろう……下世話な話じゃが補償金も用意している。リストを貰えれば対応しよう……」

 

 未だ頭を下げて、言いたい事を言う。これは気持ちの問題だからね……

 

「フザケルナ!今更、都合良く謝罪だと」

 

「引退目前で許しをこうだと!我々は貴様の事を許すつもりは無い!」

 

 嗚呼、やはり無理か……謝罪をしたら雰囲気が更に悪化するって、何でだよ。

 

「いや儂は許しを……」

 

「黙れ貴様ら!ジジィのお陰で、魔法世界のキチガイ共から直接の被害が無いんだぞ!

あの大戦で、メガロメセンブリアの元老員共は日本の魔法関係者に援軍を求めた!

いち極東の魔法勢力のトップが彼らに逆らえる訳があるまい。

逆に人員を送ったからこそ、奴らも要らんチョッカイを此方にしてこないんだぞ。そのジジィが関東魔法協会の会長職を辞する。

後任には、本国の意向がかなり反映された人材が来るだろう……もうジジィと言う防波堤は居ないぞ。

どうする?極東の呪術士達よ?」

 

 エヴァが、凄い気合いの入った説明的台詞を言ってくれた!しかし、そんなに深く考えて無かったケド?

 

「いや、そんな深い考えは……」

 

「今まで好き放題していた癖に、我らが為だと?」

 

「その大戦の英雄さんを担ぎ上げて、日本の西と東を牛耳っていたのにか?」

 

 僕の言葉を遮り、凄い剣幕でエヴァを睨んでますね……僕、要らない子?

 

「ふん!

魔法世界の戦乱が一応収まり、メガロメセンブリアの連中が目を外へ向け始めた時に。

いち早く大戦の英雄の1人を引き抜き、関西呪術協会の長に据える……元老員の奴らも、お前らに手は出し難かっただろうな。

何せお飾りでも英雄様だしな。そしてジジィが関東魔法協会の会長となり、奴らからの要求をのらりくらりとかわしていたのだそ。

大体、乗っ取りを考えているならとっくに貴様等など殺しているぞ!

それで?

何かお飾りの長以外に実害が合ったのか?搾取されたか?無用な役を押し付けられたのか?

本国の魔法使い共を要職に派遣されたか?精々が詠春の巫女遊び位だろ?それとて手込めにしてなかろう。

木乃香の異母兄弟姉妹が居ないのだから……」

 

 そう言われると、爺さんは関西の人達に何かしてるって記憶は無いな……でもそんなに親切な理由も無いと思うケド?

 それまで沈黙していた上座の連中が、初めて此方を向いてきた……威圧感がハンパないです。

 

 思わずチャチャゼロの両脇を掴んでしまう……

 

「近衛近右衛門殿。成る程、言われれば貴殿のお陰で忌々しい魔法使い共からの接触は無かった」

 

「お飾りの長殿も、居るだけで組織の運営には口を出さなかったのも貴殿が言い含めての事か?」

 

 何か、良い方向へと進んでいる?

 

「いや、全ては過ぎた事……何も言わんよ」

 

 言ったら拙い事が、沢山有りそうだから……

 

 このまま有耶無耶に進めた方が「ならば、何故今更職を辞して関西に来るのだ!これからの事はどうする?まさか、引退するから後は頼むではなかろうな?」ああ、この人達も責めるんですね?

 

 僕のお気楽極楽隠居ライフは風前の灯火だ……

 

 

 

 遂に関西呪術協会の面々と話し合いの場につけた……しかし、端っから敵対ムードが漂っている。

 そんな中で、エヴァが凄いフォローをしてくれた!

 

 まるで……僕は要らない子の様に。

 

 良いぞエヴァ、もっと言ってやって下さい。僕は黙って聞いてますから!

 エヴァは、何を言っても懐疑的と言うか否定的な連中を睨み付けている。何て頼りになる洋ロリだ!

 

「何から何までジジィ頼りとは情けないな。貴様等、それでも東洋の呪術集団か?

ジジィ、言ってやれ!貴様の考えを。これから関東魔法協会、いやメガロメセンブリアを敵に回しでもってやっていける考えを!」

 

 えっ?そんな考えなんて有りましたっけ?今まで僕は要らない子扱いだったのに……エヴァさん、いきなり無茶振りですよ。

 

 泣きそうな顔でエヴァを見詰める。

 

「ふん……ジジィも人が悪いな。自らは言わない気か?

お前等、何故私がジジィと同行していると思う?闇の福音、ダーク・エヴァンジェリンがだ」

 

 仄かに殺気を纏い、目の白黒が反転して糸切り歯?犬歯?をキラリと光らせたエヴァが周りを威嚇する……

 周りの面々も見た目に騙されていた幼女が、吸血鬼の真祖と思い付いたのだろう。腰を浮かせて臨戦態勢になる……

 

「落ち着くのじゃ……エヴァは西洋魔法使いで吸血鬼じゃ。

しかも齢600歳の真祖のな。しかし、儂と共に関西に来ている。この意味は分かるじゃろ?」

 

 関東魔法協会で最強の魔法使いが同行する。本音は僕の護衛に、一番強い人に頼んだんだ。

 でも先程のエヴァの話を元に考えれば……結構ヤバい人選だった!

 

 ならば、この状況を利用しよう。エヴァも勘違いだけど、その気になってますから……

 

「なる程……戦力の引き抜きか。しかしドールマスターの異名を持つにしては可愛い人形だな」

 

 僕の膝の上のチャチャゼロを見ながら、名家の1人で有ろう壮年の男性が言う……揶揄しているのかな?

 

「ケケケケケ!」

 

 奇声を上げてチャチャゼロが消えたと思えば……先程の男性の首筋に大振りのナイフを当てている!

 ちょ、エヴァ止めて……頼みの綱のエヴァは、パクティオーカードを構えていた。

 

 嗚呼、デストロイモード茶々丸の登場か……

 

 そして僕の前に、殺戮兵器を構えた茶々丸が居た。

 

「老害共よ……指一本動かせば蜂の巣にします」

 

 重機関銃を両手に構えた茶々丸さんが、静かに宣言してくれました……

 

「エヴァ、落ち着かんか……茶々丸とチャチャゼロもな。

儂らは喧嘩をしに来た訳じゃないのだが……しかし彼女達の力は分かった筈じゃよ?

これだけの力を持ちながらも、エヴァを押さえ付けていた連中と敵対するのじゃ。問題は多いのは理解したじゃろう?」

 

 そう言うとチャチャゼロは僕の頭の上に戻り、茶々丸は両手を下げた。

 

 エヴァは……まだ吸血鬼モードだね。

 

「ケケケケケ!コイツ等弱イゼ……役ニ立ツノカ?」

 

 チャチャゼロが挑発する。彼女?の両脇に手を入れて持ち上げ、膝の上に座らせる。

 

「敵は強大じゃよ……しかも彼らは、日本に意図的に溶け込もうとしているのじゃ。

魔法使いだと黙って此方の世界の住人と結婚する連中も居る。その子供達の扱いは?

偽善者の建前論を振りかざせば、彼らを受け入れる口実になるのう……奴らは正義の魔法使いを名乗っている。

呪術と言う、人を呪う術を持つ我らとは相容れないじゃろ?やがてこの世界にも進出してくるだろう……

彼らは亜人を含めて12億人じゃ。我らでは……我ら単体では勝負にもならないじゃろう」

 

 話を大きくして、彼らの不安を煽って見た。チャチャゼロと茶々丸さんの先走りを帳消しにする意味でも……

 武器を納めた事に、より彼らも落ち着いたのか?席に座り直して、話し合いを進める体制になった。

 

 もう後戻りは出来なさそうです……

 

「ジジィは日本政府を抱き込めって言ってるんだよ。地球には50億からの人間が居るからな。

数なら魔法世界の連中を圧倒しているだろう?要は魔法使い達を弾き出せば良いんだ。

そもそも関西呪術協会とは、時の権力者と密接な関わりが有ろう?関東での現政府とのパイプは、ジジィが一任しているからな。

奴らが日本国に、いや地球に進出し始めたと言えば……かなり面白い展開になるだろう」

 

 やっと周りの連中も、腕を組んで考え始めたり目を瞑りながら天井に向いたりして思案し初めた。

 先程迄のプレッシャーが、嘘の様に無くなった……やっと僕も一息つく。

 

「ふぅ……やれやれじゃな」

 

 膝の上のチャチャゼロが、三色団子を食べているが?

 

「チャチャゼロよ……その団子はどうしたのじゃ?」

 

 そもそも人形サイズで人間用の団子って……比較すると、僕だとソフトボール大の団子?いやいや、何処から団子が?

 

「……どうぞ」

 

 巫女さんが、僕にも三色団子を三本のせた皿を置いてくれました。

 

「いや、お主等にお茶汲みの様な真似は……」

 

 自分の分を食べ終わり、僕の皿に手を伸ばすチャチャゼロを牽制しながら巫女さんに言うが……

 

「ほんに可愛らしい人形どすな……それに力も感じますえ」

 

 お代わりの皿をチャチャゼロに差し出しながら、巫女さんは下がっていった……やはり呪術系女子には、呪い人形は人気なのか?

 両手で団子を掴むチャチャゼロを撫でながら考える……巫女さん……素晴らしい!

 

 詠春さんの気持ちが、一気に理解出来た!

 

 しかし彼女達は、お茶汲みや接待・雑用から外さないとね。エヴァも団子のお陰で落ち着きを取り戻したみたいだ……

 思案中の連中にも、麩饅頭やら水羊羹やらが並んでいる。

 

 皆さん甘党なのか?

 

 団子を食べ終えたエヴァが

 

「そうそう……

今、麻帆良学園にはナギ・スプリングフィールドの息子が来ている。アレを取り込めば、魔法世界ではデカい顔が出来るだろう……

偶像の英雄の息子か。しかしジジィは、ヤツを……ネギ・スプリングフィールドを男子中学校に押し込んだ。

試練の内容が、麻帆良で先生をする事なんだと……全くフザケテるな。正義の魔法使い様は。

私がジジィを信用したのは、大戦の英雄の忘れ形見の扱いだ!ネギを自陣営に引き込むなら、孫娘と仮契約させれば手っ取り早い。

しかしジジィは、ネギを一般人に極力迷惑を掛けずに、イギリスに送り返す手筈にしたよ。これで魔法使い側に未練が無いのは明白だろ?」

 

 あーエヴァさん、それは多大な誤解です。

 あのラッキースケベのスキル持ちは、女性から隔離が必要だったんです!

 皆さんも、なる程とか、嗚呼とか、納得してますが……偉い勘違いですよ?

 

 

 

 関西呪術協会の関係者が、一同に会してお茶と和菓子を食べている……不思議な空間が出来上がっています。

 エヴァ御一行が偉く活躍し、僕は要らない子状態で話が進みました……

 ネギ君の件も話題になり、扱い方にも多大な勘違いが有りましたが、概ね纏まりました。

 

「近衛殿……貴殿の今までの行動は、大体納得はした。

しかし、ならば何故に向かった刺客達にその話をしなかったのだ?かなりの人数が、返り討ちにあっただろう……」

 

 ああ、確かに記憶に浮かぶだけでも結構な回数襲われている。爺さんの自業自得だけど……

 

「しかし、それは……」

 

「ふん!そいつ等はジジィの言う事を素直に聞いたか?

悪いが話しても無駄だったよ……私も何人か、侵入してきた奴らを撃退した。

それに組織のトップが、そんな甘ちゃんでどうするんだ?時には非情にならねば、纏まる物も纏まるまい……」

 

 エヴァが、僕の台詞に被せて言ってくれた!彼女も侵入者として、過去に襲撃犯を撃退しているから……他人事では無いんだよね。

 

「……そうじゃな。可哀想とは思うが、儂も死ぬ訳にはいかぬからな。それに最後の襲撃は、白昼堂々と進攻して来ての……

一般人にも被害が出そうじゃった。だから、今回の件を急いだのじゃよ」

 

 そう言ってお茶を飲む……ヤバいな、手が少し震えているよ。本音は、先の襲撃が怖かったんだ。

 自分を犠牲にしてまで、あんな純粋な憎悪を向けられるのは……記憶を思い出しても、怖かったんだ。

 もうあんな思いは嫌だし、次に襲撃されれば……撃退出来る自信は無いよ。

 僕はタダの中学生だったんだ……爺さんの体に憑依し、肉体や知識を得ても無理だと確信している。

 

 肝心の心が弱いから……

 

 

「そうか……先の話で遺族への補助金の事が有ったな。出来れば襲撃犯の遺族にも慈悲をかけて欲しい。

我らは……情けないが、復讐に捕らわれ残された人達の事は二の次だったな」

 

「しかし憎しみは消えぬよ……理由はどうあれ、復讐心を糧に生きてきた連中も居るからな。すまぬが全ての連中が納得はすまい」

 

「だが、各々の派閥の連中は抑えよう……本当に恨む相手は、メガロメセンブリア。

連中との戦いは、これからになるのか……長い戦いになりそうだな」

 

「では遺族リストを……対応は早めにしよう」

 

 やっ、やっと僕に優しい言葉が聞けた!これで、いきなりグサッと刺される心配は減ったね。

 後は残された人達に見舞金を配って誠意を見せれば、少しは良くなるかな?

 

 この話し合いは上手く行った……

 

 後は徐々に表舞台から引いて行けば、お気楽極楽な老後ライフが過ごせるよね?

 こうして関西呪術協会との話し合いは、ある程度の成果が有った……後は今後の対応で誠意を見せれば、平気かな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛近右衛門と詠春、それにエヴァ御一行が部屋を出て行った。

 残された面々の感情は微妙だ……上座に座っていた六人こそが、実質的に関西呪術協会を動かしている。

 お飾りの長が辞めるとなれば……

 

 

「近衛近右衛門……今の話が全てではなかろうが、確かに我々はいけ好かない魔法使い達からは距離を置けていたな」

 

「ふむ。確かに野心家ならばナギ・スプリングフィールドの息子を放ってはおくまい。

取り込めば、大いに役立つのは確かだ……しかし、奴の若い頃を知っている私としては、俄には信じ難い。

ただの善意?まさか!必ずそれ以外の目的が有る筈だよ」

 

「つまり……今は我々と利害が一致している訳だな」

 

「それに闇の福音と殺戮人形達か。確かに戦力としては使えるな」

 

「ならば、奴の話に乗ろう。どちらにしても悪い提案では無い。

関東魔法協会の会長職は辞しても、西洋魔法使い共の矢面には立って貰おうか」

 

「そうだな……日本政府との関係を強めるか。それと京都神鳴流。詠春殿に動いて貰うか。

あの連中を抱き込めれば力強い。逆に西洋魔法使い側に付かれたら厄介だ。

基本的に金で雇える連中だし、財力負けでは笑えぬからな……最悪はサムライマスター殿と、その義理の父親に動いて貰うか」

 

「奴も嫌とは言えぬだろう……義理とは言え身内。

しかし、あまり神鳴流と癒着されても困るな……適度に距離を持たせねば」

 

「後は……奴に鈴を付けよう。人材は奴を恨んでいる方が良いな……

謝罪をしてきたが、信用出来ぬから調べるのだ!とか言えば、我々の言う通りに動く駒が良いな」

 

「ふむ……身寄りなく奴に復讐心が有り、しかしそれを隠して行動出来るだけの能力が有る者を。

子供か女の方が、奴も扱い辛くて良かろうな……」

 

「さて……誰が良いかの?

私の配下では両親が亡くなり、憎しみの全てを西洋魔法使いに向ける娘がいるぞ。

娘と言うには少し年をとっているが、中々に強かな奴がな。皆も思い当たる人選は有るだろう?」

 

「まぁな……それとは別に、もう一つの問題も話し合わねばな!」

 

 

「「「「「「誰が次の長になるかだな!」」」」」」

 

 

 この話し合いは長くなるだろう……近衛近右衛門。古巣には、彼を良く知る連中が居た。

 つまり強かで欲深い彼が、善意だけの行動だとは端から信じていなかった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 エヴァ御一行と詠春さんを伴い、近衛本家に帰って来た……あの話し合いの中で、全く無言の詠春さん。

 実は彼をかなり蔑ろにした様な話し合いだったので、気になっていた……あの人達もお飾りお飾り騒いでいたし、詠春さんも辛かった筈だから。

 取り敢えず帰ってから、応接室に集まる。皆に日本茶が配られてから今日の反省会をする……

 

「皆、お疲れ様じゃった……婿殿もご苦労じゃったな。すまぬな、お飾りお飾りと連呼させてしまった。

しかし、関西呪術協会を奴らの影響下から引き離すには仕方なかったのじゃ……」

 

 素直に頭を下げる。

 

「良いんですよ、お義父さん。私は人の上に立つ器ではなかった……

しかし巫女さんに囲まれて暮らす10年以上の歳月は、有り余る幸せでした」

 

 目がね……ヤバいんだよ、詠春さん!アレはタカミチ君の腐り輝く目と同じなんだ……

 彼は巫女さんと言う魔性の職業に魅せられた被害者なのだろうか?

 

「嗚呼……緋袴からチラリと見える柔肌が……清楚な黒髪……ファンタスティック巫女パラダイス!」

 

 駄目だ、コイツも腐ってやがる!早すぎたんだ……

 

 

 

 美幼女吸血鬼御一行in京都!

 

 

「ふはははははー!これが自由、そして日本文化の原点。そうだ!京都だ!」

 

 ハイテンション幼女、京都駅前で騒ぐ。周りから生暖かい目で見られています。

 

「あらあら……随分と可愛い外人さんね」

 

「間違った日本文化を覚えて帰らなければ良いけどね」

 

「ハァハァ……エヴァたん、かわゆす」

 

 若干名、変なのが混じってはいたが概ね友好的だ。彼女は詠春さんの秘蔵コレクションの巫女服を来ていた……

 彼は真っ当な変態巫女フェチで有り、京都観光なら和服で!そして寺社仏閣を巡るなら巫女服。それ以外は日本文化の冒涜でしかない!

 

 ビバ・巫女さん!

 

 そう力説し、エヴァ・茶々丸・チャチャゼロのサイズピッタリな巫女服を用意していた。

 元々着物とは、ある程度の幅は何とか許容できるのだが丈はそうはいかない……

 しかしチャチャゼロの人形サイズから茶々丸の普通サイズまで、難なく用意出来るコレクションを持っていたのだ。

 

 僕は、詠春さんを好きになれそうです。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 彼の秘蔵本やコレクションを見せて貰う為に、彼の私邸を訪問。エヴァ達とは別行動になってしまったが、後悔はしていない。

 なに、サムライマスターが護衛として居るのだ。それに近衛本家からの護衛も居る。

 関西の跳ねっ返りは昨日の話し合いで、抑えてくれているだろう……

 

「ふはははは……婿殿のコレクションには感心しきりじゃ。

特に市販の写真集でなく、オリジナルアルバムのクォリティーの高さときたら……

これを出版社に持ち込めば、ミリオンセラー間違い無しじゃ!」

 

 大切に自費で書籍化したのだろう。

 

詠春コレクション

 

 「巫女そして桜吹雪」

 

 「巫女の美と夜祭り」

 

 「巫女と哀愁の紅葉」

 

 「巫女フォーエバー粉雪」

 

春夏秋冬・巫女祭り、この四巻セットは圧巻だ!

 

 四季折々の景色に溶け込む巫女さん……時に喜び、憂いを帯び、哀愁を漂わせ、そして清烈な美貌をさらけ出す。

 この写真集には、一年を通じての巫女さんの魅力が満載だ!

 これは関西呪術協会に所属する巫女さんだけでなく、近隣の神社の巫女さんも網羅しているのは間違い無い!

 

「ふふふふふ……義父さん。マニアとは人が持ってない物を自慢するのが楽しみなのです。

私の10年間の集大成は、私だけの物なのです。分かりますか?」

 

 なる程、これだけの写真集を独占するとは、な……サムライマスター詠春。空恐ろしい漢よの。

 

「分かる、分かるぞ!婿殿、他には何か無いのか?」

 

 マニアとは、コレクターとは自慢のコレクションを見せるのも愉悦な筈。

 詠春さんは、次々と自慢のコレクションを奥から持ってきてくれる……

 

「これは、木乃香と刹那君が幼少の頃から着させていた巫女服の記録。言わば娘の成長のダイアリー!見ますか?」

 

 なっなんと!和風美少女木乃香ちゃんとデコ翼っ子の巫女服姿だと!

 

「けしからん!けしからんですぞ、婿殿。では、早速……」

 

 手渡されたアルバムを開く……くーっ、幼い木乃香ちゃんの巫女姿!ハァハァ……刹那ちゃんも、この頃は自然に笑っているね。

 

「けしからんクォリティーじゃな……しかし、この頃の刹那君は自然と笑っておる。関西に連れ戻したら、彼女の件も考えねばならないの……」

 

 半分裏切る様に関東魔法協会に所属した彼女は……僕程じゃないが、此方の人達からは良くは思われてはいないだろう。

 しかも烏族とのハーフだからね……あのモフモフは素晴らしいのにな。

 

「これは……婿殿、このアルバムは何じゃ?他よりは仕上がりが雑みたいじゃが?」

 

 これは普通の市販のアルバムだ……これまでの手の込んだ作りでは無いけど、未整理写真かな?パラパラとページを捲って見る。

 

 何だ?この破廉恥な改造巫女服は?

 

「なっなんじゃ?このいかがわしい改造巫女服は?婿殿……何処の風俗娘じゃ?この様な巫女服は……断じて巫女服とは認めぬぞ」

 

「流石は義父さんですね……私も同意見です。

彼女は関西呪術協会に所属する術士なのですが……それを仕事着としています。

私としても、正統派巫女服を勧めたのですが……意趣返しか、着ぐるみを着る始末。

しかし捨てるのもコレクターとしてはどうかと思い、適当なアルバムにしまっておきました」

 

 着ぐるみ?

 

 アレかな?

 

 ドン・キホーテで売ってるスエット生地の、カエルとかイヌとかの安っぽいヤツ?

 

「それは……婿殿、配下の連中の教育がなってないのではないか?

写真を見る限りでは、彼女は中々の美女じゃ。こんな破廉恥な改造巫女服など着なくても、正統派巫女服で十分似合うじゃろ?」

 

 全く勿体無い……このキツめなお姉さんに、正統派巫女服を着て欲しいな。きっと似合う筈だよ。

 

「彼女は……天ヶ崎千草と言ったかな?両親を大戦で失っているのです。だからでしょうか?私に対してキツいのは……」

 

 ああ……彼女は被害者なのか……それなら無理強いは出来ないな。

 

 あんな破廉恥な格好も、心の平穏の為に仕方なく着ているのかも知れないのだから……

 

「そうか……今度会ったならば、謝罪と補償をしなければならないな。我らの為に彼女は不幸になったのじゃから……」

 

 天ヶ崎さんに正統な巫女服を着せるのは難しい。不本意だが、あの破廉恥な格好を認めよう。

 

「婿殿。関西土産に、木乃香と刹那君に巫女服を贈りたいのじゃが……勿論、撮影し送るぞ。何か良い服は有るかの?」

 

「義父さん!ならばこの巫女服を……これは愛娘とその友人の為にこさえました。これを着せて下さい」

 

 それはそれは、見事に鮮やかな緋色と白色の巫女服だった……

 

「ハイクォリティー!素晴らしい出来映えじゃな……婿殿よ、約束しよう。

必ず木乃香と刹那君に着させるぞ。そして彼女達の写真を送る事を約束しよう……」

 

 さて、父親からの贈り物だよ!そう言って渡すかな……そしてビデオレターを送るからと着替えさせる!完璧だ、まさに完璧だよ。

 

 そうだ!

 

 エヴァ達が帰って来たら、彼女達の写真も撮ろう!老後の楽しみは写真だね。早く引退して趣味に走りたいなぁ!

 

 

 

 そう言えば、茶々丸にクレジットカードを渡していたんだ。観光都市の京都は、結構小さい店でもカード支払いが出来る。

 そして荷物持ちには、大の男顔負けの力持ちの茶々丸が居るので……

 

「帰ったぞ、ジジィ!」

 

 茶々丸は両手一杯に土産物を持っていた。

 

「只今帰りました、学園長」

 

「ケケケケケ!久シ振リノ自由ハイイゼ」

 

 チャチャゼロも、流石に両手一杯に荷物を持っている茶々丸には乗らず、エヴァに貼り付いていた。

 

「ああ、楽しんできたかのぅ?明日は京都駅に3時には着いていたいのじゃが……明日の予定はどうじゃ?」

 

 早速、巫女服姿の三人を撮影する……後で茶々丸には、今回の撮影した画像データを貰おうかな。

 

「なぁジジィ……私達を撮ってどうするんだ?いや、回答しだいでは許さんぞ」

 

「いや……巫女服の魅力を此処まで引き出すとは、流石ははエヴァと言うべきかの」

 

 ささっとデジカメをしまい、室内に誘う……僕も何か趣味を見付けようかな。

 

「ジジィが、遂に変態に成り下がってしまったのか?」

 

 何やらエヴァが、ブツブツと失礼な独り言を言っているが気にしない。

 

「明日は世界遺産を廻る予定だ!ジジィ知ってるか?京都には世界遺産に認定された物が沢山あるのだ。

西本願寺に東寺。清水寺に金閣寺・銀閣寺、二条城に下鴨神社。

竜安寺に仁和寺なども有名だ!足を延ばせれば、醍醐寺や平等院も良いな……」

 

 流石は京都に恋い焦がれたエヴァ……流石だ!

 

「流石じゃな……だが、そんなに時間は無いぞ。西本願寺に東寺……それに二条城辺りかのぅ?」

 

「ふむ……仕方無いか。今日は予定通り清水寺から二年坂・三年坂をのんびりと廻ったぞ。

その後、石塀小路とねねの道を通って円山公園へ……名物のいもぼうを食べた!

今の時期は里芋でなくエビ芋を棒鱈と炊き合わせてな……それは美味だったぞ!その後は八坂神社へ……」

 

 両手を振り回し、今日の出来事を説明するエヴァ!相当楽しかったのだろう……

 

「疲れているんじゃろ?先ずは休んで風呂にでも入ったらどうじゃ?」

 

 そう労って家の中へ招く……今日の夕飯は賑やかになるだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌朝、エヴァ達は早起きをして観光に向かった。僕は別行動で、詠春さんと京都神鳴流に向かう。

 記憶に有る京都神鳴流の連中の非常識さ!それと金で雇える厄介さを考えて、一言現当主に話しておくのだ。

 最悪、金にあかせて彼らを大量投入されたら厄介だからね……実際は彼らだって馬鹿じゃないから、そんな利用のされ方はしないだろう。

 しかし僕と詠春さんが、揃って引退するのは説明しておかないと……最悪、変に勘ぐられても困るからね。

 此方にもサムライマスター詠春さんと、翼っ子刹那君が居るのだから……残念ながら、歴代最強の青山鶴子さんは不在らしいので親書を届けるだけだ!

 どんな怖いお姉さんか知らないけど、全盛時の詠春さんでも勝てないらしいから……多分、凄い人なんだろうね。

 

 そうだ!

 

 京都神鳴流の人達は、男は浅葱・女は緋の袴が基本じゃった……ただ親書を届けただけだったけど、中々に有意義だったと記しておく。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 京都旅行?最後の日……別行動だったが、有意義な内容だった。エヴァと京都駅の空中経路で待ち合わせ。

 デパート棟に向かい、最後のお土産買い物タイムとお茶を堪能した。

 因みに木乃香ちゃんと刹那君には、一三やの本つげ櫛と髪留め……それとお手入れ用の椿油のセットです。

 魔法関係者には、纏めて京都銘柄の詰め合わせ。会議の時にでも配るつもりです。

 源しずな先生には、お世話になりっぱなしだったので本つげ櫛を用意しました……最後の京都を堪能し、新幹線のホームで詠春さんと別れを惜しむ。

 

 この集団は目立つ……

 

 変なジジィに着物姿の壮年の男性。美少女・美幼女・美幼女人形……全員が普通じゃない。周りも遠巻きにチラチラと視線を送ってるし。

 中にはカメラを構える奴もいるが、事前に察知した僕と詠春さんの後頭部と尻しか写せてないだろう……

 しかし僕の頭を不思議に思わないとは、コッチの方が不思議だと思う。

 

 これが認識阻害か……後で写真を見たら、どう思うのだろう?変な後頭部の写真を。

 

 茶々丸は駄目押しでエヴァが買った土産物を大量に持っている。殆どを宅配便で送ったのにだ!

 月末のカード決算が心配だよね……多分だが、月限度額一杯だと思います。

 

 まぁ良いか……

 

 僕は、この関西訪問ですっかり仲良くなった詠春さんに向き合う。

 

「婿殿、いや詠春殿……来月には京都に戻ってくるので、例の研鑽の結果を頼みますぞ」

 

「義父さんも、プレゼントを着た彼女達の写真をお願いします」

 

 ガッチリと握手をしながら、次回までの互いのノルマを確認した……詠春さんは、すっとmicroSDを差し出し

 

「それと……これは先程行った時に盗撮した、京都神鳴流の袴姿の女性達です。

所属する私が言うのも何ですが、良い衣装だと思いますね。日本人は着物をもっと着なければならない」

 

「ふむ。あれだけ警戒されていたのは、詠春殿の盗撮に関してだったのじゃな……流石はサムライマスター!その名に偽り無しじゃ」

 

 有り難くmicroSDを貰う。麻帆良に帰ったら、早速チェックしなければ……そうだ!

 相坂さんにも巫女服を着せたいな……大和撫子な彼女なら、似合うのは間違い無いと思うけど。

 

「学園長、そろそろ新幹線の出発時刻です。車内の方に移動をお願いします」

 

 丁寧な口調だけど、僕の襟首を掴んで引き摺って……

 

「首がっ!茶々丸さん、首が痛いから……詠春殿、ではまたのぅ」

 

 記憶に有るサムライマスターは、凄く楽しい人だった!これは京都に引き籠もっても、楽しい生活が送れそうだね!

 ニコニコしながら指定席に向かう……2人席を続けて予約した筈だが、誰かが先に座って居るよ?

 席の前まで進むと、座っている人物が立ち上がった。

 

「天ヶ崎千草どす。関西呪術協会より派遣されましてな。よろしゅうお願いします」

 

 まさかの改造巫女服の女性が居た!勿論、あの破廉恥な巫女服は着ていないが……アレは仕事着だと言っていたから。

 

 

 

 

 天ヶ崎千草……

 

 先の大戦で両親が殺された。身寄り無く、しかし術者として力を付けてきた彼女だ。

 並大抵の苦労では無く、勿論直接の原因の爺さんを……僕を恨んでいるだろう。

 彼女の態度が、そう言っている。

 目を合わせないとか、会話に参加しないとか……貧乏揺すりとか、それはもう不機嫌さのオンパレードですね。

 仕方無く同行してやってるのだと。気持ちを考えれば分かります。

 

 しかし……

 

 あの改造巫女服については、何とか正統派巫女服に替えて欲しい。

 彼女のアイデンティティが、あの破廉恥な巫女服なのだろう……いつか間違いに気付くまで、見守るしかあるまい。

 貴女には、正統派巫女服が似合います、と。

 

「あの……その……なんじゃ。何故、君が同行する話になったのじゃ?儂らは聞いてないぞ。それに連絡も無いのじゃが……」

 

 取り敢えず向かいの窓側に座る天ヶ崎さんに聞いてみる。

 因みに僕は通路側。窓側の隣にはエヴァ。僕の正面に茶々丸&チャチャゼロ。その隣が天ヶ崎さんだ!

 

 彼女は視線を中々僕には向けてくれない……車窓からの眺めを楽しんでる訳でもない。

 

「……これや」

 

 此方を見ずに、ぶっきらぼうに手紙を渡してくる。和紙にくるまれた手紙。宛名は、近衛近右衛門殿……つまり僕宛てだ。

 

「読まさせてもらうかの……」

 

 手紙を受け取り、断りを入れてから読み始める。エヴァが気になるのか、肩に顎を乗せて覗き込む……

 ああ、幼女とは言え美が付く幼女とスキンシップ?は嬉しく思います。若干ニヤニヤしてしまう……気が付けば茶々丸の視線と絡み付いて?

 

「やはり学園長はロリを超えたペド……しかしマスターは実は年上です。

学園長はロリなのか、実は老け専なのか……私に赤ちゃんプレイを要求したりと、実に複雑怪奇です。

プレイに幅が有りすぎて特定出来ないなんて!これが人間の不条理……姉さんは、どう思いますか?」

 

 頭の上に乗っているチャチャゼロに問う……

 

「ケケケケケ!元カラ変ダカラナ、変態ニ進化シタカ」

 

 酷い言われようです。無視して手紙を読む。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛近右衛門殿

 

 先の話し合いについて、有意義な内容で有った事を双方が理解したと思う。

 

 永きに渡り不仲と言われていた、関東魔法協会と関西呪術協会の友好の為に。

 

 また相互のコミュニケーションを円滑にする為にも、関西呪術協会から人員を派遣する事とする。

 

 彼女は、天ヶ崎千草。

 

 術者として平均以上の能力を持っている。上手く活用して欲しい。

 

 

 

 

 これだけ?確かに話し合いは前進したし、双方に利の有る内容で有った。

 しかし、実は関東魔法協会とは僕が職を辞した後、敵対する可能性も有る。この時期に、人員派遣とは……

 

「天ヶ崎殿……この内容、確かに関東魔法協会としては有り難いが……先の話し合いは、お主も知らされているじゃろ?

この時期に派遣され、しかも儂と共に来月に関西へ戻る。そう考えて良いのかのう?」

 

 嫌々そうな顔で、漸く此方を見る彼女……

 

「なかなか鋭いどすな……そうどす。来月には、いけ好かない西洋魔法使いの街から帰ります。

あくまでも近衛はんの監視の意味を含めての派遣どす。私は嫌々や……」

 

 全く、何でウチが行かなならんのよ……気色悪いんよ、何がが詰まってる頭とか……そうブツブツと文句を言われました。

 面と向かって女性に嫌われるのは……正直、凹みます。

 なる程、鈴を付けられた!要は信用出来ないから監視を付けた。

 

 そう言う意味か……

 

「お主の扱いについては、儂の秘書で良いな?どちらにしても、儂の周りに居ないと意味が無いじゃろ?

それと、衣食住の面倒はみよう。適当な住居と、当座の資金。

仕事は実質は無いが、茶々丸から教えて貰うのじゃな……彼女の方が、秘書としては先輩じゃからな」

 

 隣に座る茶々丸をマジマジと見ている。そして、頭の上のチャチャゼロを見てから……ため息をついたぞ?

 

「秘書?先輩?全く、こんな若い娘を侍らすなんて!長と良い、近衛の方は変態どすな」

 

 もう話す事は無い!そんな感じで首を振りながら、キツい毒を吐かれた……詠春さん、この人に相当警戒されてる?

 きっと盗撮の件は、関西呪術協会の巫女さん達にはバレていたのだろう……

 

「くっくっく……天ヶ崎と言ったな。

お前も目先の相手に捕らわれ過ぎて、本当の敵には何もしないとは!見ていて滑稽だよ」

 

 エヴァが、サラリと毒を吐いた!もう景色は見飽きたの?

 キッと言う感じで、エヴァを睨み付ける天ヶ崎さん……その幼女、危険につき気を付けて下さい。

 

「なんどすか?捕らわれの吸血鬼の癖に、分かった様な事を言わんといてや!」

 

 かなりイラッと来ています……両親の間接的な敵を目の前にして、冷静じゃいられないか。

 

「本当に大戦でおまえ等を殺したのは……魔法世界のメガロメセンブリアの元老員の連中さ。

だけどおまえ等は、末端のジジィだけを恨んで何度も刺客を差し向けた。

目先の敵に釣られてな……このジジィが居なくなれば、連中は都合が良くなったと地球に侵出するぞ。

それを防いでいたのはジジィだし、これからの対応もジジィが中心だ。結局、おまえ等はジジィは殺したい。西洋魔法使いは嫌い。視野が狭いな」

 

「「なっ?」」

 

 何だと?僕のお気楽極楽老後ライフを乱すのか?エヴァよ、見損なったぞ!僕は関西でニートになるんだ!

 

「ちょ、おま、それ違う……」

 

「ふざけるな、吸血鬼!おとんとおかんを殺したのは西洋魔法使い。魔法世界に送り込んだのは、このジジィや!」

 

 天ヶ崎さん!周り、周り見て!大声を出したがら、他の乗客が気にし出したよ。

 認識阻害の魔法だって万能じゃないんだ。変な風に記憶に残ると大変なんだって。記憶操作とかは、やらないんだよ僕は……

 

「天ヶ崎殿、周りから注目されとるぞ。落ち着かれよ。エヴァも挑発するでない。

儂が彼女の両親達を死地に送ったのは事実じゃよ。しかし、儂も年じゃからの……

関東魔法協会の会長を辞する前に、今後の事を何とかする為に動いておる。それは天ヶ崎殿も理解しておるな?」

 

「ふん。悪かったどすな」

 

「くっくっく……随分と丸くなったなジジィ」

 

 ふてくされ美女とニヤニヤ美幼女。無表情でマスターを見詰める従者に、ケケケケケ笑う呪い人形……

 新幹線で行きも帰りも目立つとは。変な噂が立たないと良いけど……

 

 

 

 関西呪術協会との話し合いは、まずまずだった。互いの立場も認識出来たし、主力派閥の跳ね返りは抑えて貰える。

 後は組織を抜けて来る連中だが、そうは居ないだろう……個人での襲撃なら大した脅威は無い。

 バックアップする組織が面倒なんだと思う。

 今、バックアップしてただろう組織は、今後の展開で僕を亡き者にしたデメリットが大きいのを理解させた……

 しかし連中も只では済まさないのだろう。

 

 天ヶ崎千草……

 

 彼女を押し付けた意味を解りかねている。どう見ても復讐者だと思うんだ。

 僕に鈴を付けたのか?何か有れば彼女をけしかけるのか?単なる厄介者を押し付けたのか?

 色々考えられるが、今は彼女の居場所を手配しなければならない。

 携帯で源しずな先生に連絡をする為に、断りをいれて席を立つ……携帯の通話は連結部でするのがマナーですから。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 近衛近右衛門が席を立った為に、エヴァ一派と天ヶ崎千草だけとなる。元々エヴァは、彼女の事など気にしていない。

 早々に車内販売のお姉さんを呼び止め、お菓子やら飲み物を購入!

 

 勿論自分達だけだ……

 

 茶々丸に麦酒のプルタブを開けて貰い、自らお菓子の封を切る。

 

 

「なんだ?やらんぞ、そもそも西洋魔法使いから施しは受けないだろ?」

 

 サキイカをかじりながら、エヴァが問う。片手に麦酒を持ち、サキイカをかじる幼女……これじゃオヤジ臭が漂うぞ、エヴァ!

 

「見かけによらずオヤジどすな。うちらにも情報が来てますな……麻帆良に捕らわれし闇の福音様。ええ様どすな」

 

「ああ、復讐に捕らわれた陰陽師も大差ないな。私の拘束は既に解かれたも同じだよ。お前はどうなんだ?」

 

 嫌みの応酬だ!

 

「ふん!うちは行きたくなかったんや。西洋魔法使いの街なんて、お断りや!」

 

「くっくっく……切れやすいな。だからあいつ等に利用されやすい、か」

 

 グビグビと麦酒を飲み干し、空き缶を握り潰す。クシャっと小さな音がして、ピンポン球位の塊に……それをヒョイと彼女に投げる。

 

「黙れ小娘!たかだか30年位しか生きてなくて、大きな口をきくなよ。今の私なら瞬殺出来るのだぞ?」

 

 殺気を乗せて天ヶ崎千草を威圧する。半端ないプレッシャーだ……

 

「……ほんまに嫌やわ。西洋魔法使いは……」

 

 流石の彼女も黙り込む。その握り締めた手が僅かに震えてるのは、仕方無いだろう。

 新幹線の座席は向かい合わせに出来る。

 その対面の至近距離で、エヴァの殺気に晒されたのだ……実戦経験が有るからこそ、力の差に恐怖した。

 

「うちはオバハンやない!まだまだ20代や!ピチピチどす」

 

 いやピチピチも古いから……

 

「ジジィは、関西に良かれと動いている。詰まらぬ事で邪魔するなら……潰すぞ、陰陽師よ」

 

 駄目押しに恫喝された……天ヶ崎千草、涙目だ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 源しずな先生と話をしてから席に戻る。彼女には秘書の仕事から離れて貰ったのに、悪い事をしたなぁ……席に戻ると変な雰囲気だよ?

 

「待たせたの。天ヶ崎殿には、麻帆良滞在中はホテルを用意させてもらうぞ。

最大1ヶ月じゃし、朝食付きの長期滞在プランじゃ……ホテルには温泉ではないが、大浴場も有る。

麻帆良は学園都市じゃから各種食堂も安くて美味いから……不便は感じぬじゃろ?」

 

 宿泊代位は面倒をみましょう。生活費は秘書業を本当にやらせるか、出来るかで違うけど……まぁ一月だし30万も有ればお釣りがくるよね?

 

「……どうしたんじゃ?怯えているようじゃが?」

 

 天ヶ崎さんの態度が微妙なんだけど?席に付いて訪ねるが、先程みたいな尖り感が無いよ。

 

「あれだ。少し脅しすぎたかな。しかし、コイツが何かすれば折角纏まった今回の話も微妙になるからな。

釘を刺したのさ。天ヶ崎千草と言ったな。問題を起こしたら?分かるよな」

 

 キラリと牙を見せるエヴァ……本当に僕は要らない子状態だよね。

 

「ふむ……天ヶ崎殿、儂が関東魔法協会の会長を辞めると、確かに関西呪術協会にも影響が出るのじゃ。

だから問題は起こさない様に頼むぞ。特にネギ・スプリングフィールドとの接触は禁ずる。

お前さんも西と東が全面戦争など困るじゃろ?」

 

 あの子に手を出せば、魔法関係者は黙っていない。ネギ君に関しては、やり過ぎでも関係無いばかりに暴走するだろう……

 それよりも彼女の貞操が心配だ!

 幾ら破廉恥改造巫女服を着てると言っても、人前で裸にひん剥かれるのは勘弁だと思うし……

 

「いけ好かない西洋魔法使いになんて、会いまへん」

 

「ネギ君には……ラッキースケベと言う不思議スキルが有るんじゃ。アレは危険じゃよ……

お主も公衆の面前で全裸にされたくはなかろう?露出気味な改造巫女服を着る様だが……

警告はしたぞ!アレに接触するのは、女性としての終わりを意味するだろう」

 

 凄い微妙な顔で此方を見ています。何だろう?握り締めた両手に力が籠もって……

 

「そんな性犯罪者を野放しにするなー!うちは頼まれても近づかんわ!」

 

 そうだよねー……普通に考えても、即逮捕か即補導だよね。

 立ち上がった天ヶ崎さんを見上げながら、茶々丸から貰った麦酒を開ける。

 

「ん!」

 

「すまんの……サキイカか。お酒のお供に最適じゃな」

 

 エヴァが差し出したサキイカの袋から何本か貰いかじる……

 

「そう言えばエヴァは日本は初めてじゃ無いと聞いたが……」

 

 確か、昔に合気道を習ったとか何とか?

 

「ああ、百年近く昔だが、チンチクリのオッサンに習ったんだ。武田惣角と言ったかな、あのチンチクリは。

合気柔術と言ったら良いかな……日本語も、その時に覚えたよ」

 

 武田惣角?あの有名な?確か1930年位まで東北地方を中心に教えていたんだっけ?

 

 すると教えて貰った後に、百年以上研鑽したのか……この洋ロリも実際は凄いロリだよね。

 

「やはりエヴァは凄いな!何て言うか別格のロリじゃな」

 

「ふふふふふ……もっと誉めて構わんぞ!最近になってジジィも漸くと私の素晴らしさが理解出来たのか?」

 

 無い胸を逸らしながら嬉しそうに話すエヴァ……伊達に600歳じゃないって事だ!取り敢えずパチパチと拍手を送っておいた……

 

 

 

 僅か3日間……僅か3日間で、この始末書の山になるのは何故だ?

 

 関西呪術協会との話し合いは、一応の成功だ!各派閥の長に謝罪し、此からの対応を説明出来た。

 後は彼らから末端の構成員まで話が伝わる。それと大戦の被害者の遺族達に補償する為に、リスト作成もお願いした……

 実際に補償金が貰えれば、僕に対しての態度が有る程度は軟化するよね?

 それとメガロメセンブリアを悪役として、日本を守るのは関西呪術協会しかないんだ!

 

 そう吹き込んだ……彼らも自分達の利権の為に、必死に動くだろう。

 

 それは良い……それは良いのだが……執務机の上の始末書の山に、正直うんざりです。

 

「学園長はんも大変やなぁ……里帰りから戻ってみれば、始末書の山や。ほんにお気の毒どすえ」

 

 全然やる気無く、急拵えの秘書机で日本茶を啜る天ヶ崎さん。

 

「全くネギ・スプリングフィールドか……ナギより始末が悪いな。何なんだ?この魔力暴走による痴漢行為の山は!」

 

 此方も応接セットで日本茶を啜るエヴァ。パラパラと始末書を流し読みしている。

 

「ふむ……

女性恐怖症により、自身に触れた相手を脱がすのか?そもそも本当に女性恐怖症か?

楽しんで脱がしてるとしか思えないな。しかも脱がす基準が有るのか、若く美人ばかり……

暴走しながらワザワザ人の密集する方に走り出すとは……まさに厄災の一人息子な訳だ。くっくっく……」

 

 ポンと机に始末書を投げ出すと、そのままソファーにゴロリと横になる。白く細いふくらはぎが丸見えだ!

 両足をブラブラさせるのも良いが、残念ながら向きが……ね?

 

「大戦の英雄の息子……誰が見ても性犯罪者どすな。コレを放っておくなんて、学園長もお優しいどすな」

 

 此方は非難を込めた視線です……

 

「まぁ公には出来んよ。だからネギ君には、魔力制御とトラウマ治療を最優先させていたのじゃが……

あと三週間。何としても無事に過ぎて欲しい」

 

 やっぱりどうにもならへんな……そう言いながら女性誌を眺めだした天ヶ崎さん。

 エヴァ同様、働く気持ちは少ないのか?僕は仕方無く、始末書の山を切り崩す事にする。

 午前中は、この書類の処理で終わるかな……頼みの綱の茶々丸さんは、エヴァのマッサージ中。

 だらしなく寝転んだ幼女を肴に仕事をする……

 兎に角、始末書だけでは状況が分からないので魔法関係者を集めての対策会議をしなければならない。

 

「全く……たかが3日間も大人しく出来ないとは。弐集院先生達は、何をしていたんじゃ?」

 

 思わず愚痴を言ってしまうのは、仕方無いだろう……先ずは机の上の書類の片付けが先だ!

 漸く茶々丸も専用の事務机に座ってくれたから、少しは事務処理も捗るだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 放課後になり、学園の業務が一段落した先生方を会議室に集める。

 

 タカミチ君に弐集院先生、瀬流彦先生に明石教授。刀子先生に、シスター・シャクティ。それにガンドルフィーニだ!

 指パッチンの神多羅木先生は、魔法関係の仕事で麻帆良学園を離れている。

 

 続々と会議室に集まる関係者達……彼らが全員席に付く迄、黙って居る。

 此方はネギ君の事を聞きたい。しかし、彼方は関西呪術協会との事を聞きたい。

 

 そんな感じで集まった面子だ……

 

 最後に弐集院先生と瀬流彦先生の男子中等部派遣組が到着し、全員が集まった。コの字型に並んだ机に、各々が座る。

 一応ネギ君の件についての召集とは伝えている。一同の顔を見回してから、問いただす。

 

「皆の者、忙しい中すまぬの。じゃが、儂が麻帆良を離れて関西に向かった3日間……

僅か3日間で、前回以上にネギ君が暴走した。そう報告と始末書が来ているが、何故じゃ?理由を聞こうかの……」

 

 この中で、反ネギ君っぽい刀子先生に聞いてみる。

 

 刀子先生は、何故かばつの悪そうな顔で説明してくれた。

 

 「今回のネギ・スプリングフィールドの暴走は……高畑先生が一番お詳しい筈です。何せ二人きりで修行をなさっていたのですから?」

 

 修行?ネギ君の修行は、魔力制御だけの筈だけど……

 

「学園長!今回の件は、僕とネギ君が修行の為に人里を離れていたのですが……

ちょっとした行き違いで、ネギ君が1人で人里に降りてしまったのです」

 

 人里を離れた?修行?山籠もりでもしたのかな?

 

「ネギ君の修行については、結界を敷いた訓練所で魔力制御を学ばせていた筈じゃが……山籠もりとは、何故じゃ?」

 

 スポコン漫画みたく山籠もりって初めて聞いたんだけど……ああ、タカミチ君の目が、腐り輝き始めた。

 

 また遅すぎたのか……

 

「学園長!漢として育てるのには、修行は必須。

修行と言えば、滝に打たれたり険しい山道を走ったり熊と戦ったり……

そんなシュチュを求めて僕が強制的にネギ君を山に連れて行きました。修行は順調でした。

特に蜂蜜をめぐっての熊とのおいかけっこは……ネギ君に忘れられない経験になった筈です」

 

 何やら異常な展開になってますよ?熊に襲われたのか?忘れられない経験って、トラウマを増やしてどうするのさ!

 

「たっタカミチ君……それはネギ君にとって迷惑以外では……」

 

「そして修行の一環として川で魚を捕り、山で山菜を探して自給自足の生活……僕もチンミー麺を彼に振る舞いました。

最後は、星が降る様な夜景の中で入るドラム缶風呂……ネギ君と十分なスキンシップが出来たのです……」

 

 はぁ?何言ってんのコイツ!こんな変態が指導しながら、熊に襲われ変なラーメンを食べさせられ……一緒にドラム缶風呂に入るだって!

 まさか、夜は同じテントで2人で寝たのか?さっきから席を立ち熱弁を振るう、この腐り輝く目をした男を見る。

 ネギ君に、これ以上変な事はしてないよね?

 

「そっそれで……夜はどうしたのじゃ?」

 

 一番大切な事だ!もしネギ君が傷物になっていたら……僕らは只では済まないんですよ!

 

「勿論、同じ寝袋に入り漢とは何か!それを話し合いましたよ」

 

 爽やかに言ってんじゃねーよ!まさか、おホモな漢じゃないだろうね?

 

「……それが、何故今回のネギ君の暴走に繋がるんじゃ?」

 

「ああ、それはですね学園長……熱く語り過ぎて僕が翌朝寝過ごしたら、ネギ君が居なかったのです。

何故か1人で山を降りたらしく……それで麓で問題をおこしまして……」

 

 はははははって、爽やかに笑ってんじゃねーよ!お前が嫌だから、ネギ君は逃げ出して暴走した。

 

「全部、お前が悪いんじゃねーか!」

 

 僕の叫びに、タカミチ君以外の先生方が頷いた。いや、貴方方も止めて下さい。皆さんにネギ君の修行を任せた筈ですよね?

 

 

 

 僕が関西に行っている僅か3日間で、ネギ君が問題を起こした……

 たったの3日間も大人しく出来ないのかとムカついたが、それには理由が有ったんだ。

 タカミチ君みたいな真性の変態と、山籠もりで2人っきり?変態云々なら詠春さんの方が全然無害だったな……いや有益でさえ有った!

 特にコレクションは素晴らしかったぞ。

 兎に角、僕ならタカミチ君と山籠もりだけでも嫌々なのに……

 しかもタカミチ君はネギ君に熊と追いかけっこをさせたり、食べ物を自分で取ってこさせ……いや、これはサバイバルなら当たり前かな?

 最後に、あの狭いドラム缶風呂に2人で入って一緒の寝袋で……だっ駄目だ、寒気がしてきました。

 

「タカミチ君……ネギ君の扱い方が酷過ぎるぞ!他の皆も何故止めなかったんじゃ?儂ならオッサンとミチミチドラム缶風呂なぞお断りじゃ!」

 

 目を逸らしたり、下を向いたり……彼らも悪いとは思っているのかな?

 

「兎に角、今回に関してはネギ君も被害者じゃ!この始末書の通りで致し方ないじゃろ。記憶操作などは本来はやりたく無いのじゃが……な」

 

 山籠もりとタカミチ君から逃げ出す為に暴走した。これは仕方無い事だ!自分が、もしネギ君と同じ立場なら……やっぱり逃げ出すよ。

 

 貞操の危機だよ。

 

「学園長!ネギ君には修行が必要です。もっと、もっとです!学校の先生をしている暇はないのです。

僕と2人でナギさんの様な英雄に、ちょい悪なワイルドな漢に……」

 

 ネギ君と修行して、変なスイッチが入ってしまったのかな?腐り輝く目が、どんよりと濁り輝いている……タカミチ君の暴走が止まらない。

 

「ナギさん……貴方も僕を修行と言って、谷に突き落としたり色々やってくれましたが。

あのシゴキには、こんな意味が有ったのですね?ああ、ナギさん……」

 

 見知らぬ彼方に精神を飛ばした真性の変態は放っておく。他の皆さんにも、良く言い聞かせないと駄目だ。

 ネギ君とも、今夜辺りに話し合いをしなければ……

 

「兎に角、ネギ君の修行は決められた場所だけじゃ。変更は禁止する。それと魔力制御だけを叩き込むんじゃ。

彼が来てから、まだ二週間だが暴走したなら成果は無いと同じ……あと三週間じゃ!我々に残された時間は、三週間しか無いのじゃ。

各員、一層の努力をする様に!

それと葛葉先生とシスター・シャクティは、タカミチ君の監視を任務に追加する!

この逝っちゃってる変態をネギ君に近付けるな。本国にバレたら、儂らは英雄の息子を変態に育ててしまったと非難されるぞ」

 

 本当に頼みますよ!今でさえ女性恐怖症なのに、変態恐怖症が追加なんて笑い話じゃないよ。

 

「「……分かりました」」

 

 凄い嫌々な感じで返事をしてくれました。

 

 シスター・シャクティは十字架を握り締めて「これは神の試練なのですね……」とか言ってるし、葛葉先生は「変態を私に押し付けるのですか?変な頭の貴方が……」とか言ってます。

 

 彼女達も、タカミチ君には警戒しているのですね……しかし独り言とは言え、もう少し僕に配慮して下さい。

 

「それで学園長……

関西呪術協会の方は、どうだったのですか?向こうから1人、秘書として受け入れた人材が居るらしいですが?」

 

 ダンマリを決め込んでいたガンドルフィーニ先生が、このタイミングで質問するとは……

 腕を組んで厳つい表情で黙っていたから、ネギ君の件で騒ぎ出すと思ったのに。

 

「関西呪術協会との関係回復は……一応の目処がついた。向こうは謝罪を受け入れ、被害者達に補償や今後の事を話せる土台は作ったよ」

 

「謝罪!我らは悪く無い!全ては正義の為の尊い犠牲だ。それを分からぬとは」

 

 机を叩いて興奮してます……もうヤダ、この人達は。

 

「ガンドルフィーニ先生……彼らに魔法世界の戦争や英雄等は関係ないんじゃ。

儂の様に西洋魔法に恩恵を受けている訳でもない。彼らにしてみれば、知らない国の内戦の犠牲になっただけじゃ……」

 

 爺さんの様に、関東魔法協会の会長として富と権力を得た訳じゃないし……

 

「あの大戦を……我らを侮辱するのですか?」

 

 戦争に正義なんて無い。大義名分が有れば……それだけで、勝てば何とでもなるんですよ。

 僕も爺さんの記憶と、この現状で嫌でも理解した……魔法世界の連中の我が儘を。

 

「ガンドルフィーニ先生……

関西呪術協会の関係者の為に、命を掛けられるかの?

例えばお主の身内が強制的に彼らの勢力抗争に無償で協力し、命を落としても当然と言えるかの?

無理じゃろ?彼らは儂と違い、西洋魔法に・本国に……何の義理も借りも無いんじゃよ。

そんな彼らを魔法世界に行かせて、殺した……ガンドルフィーニ先生なら、逆の立場になったら納得するかの?」

 

 爺さんは早い段階から魔法世界と関係を持ち、恩恵を受けていた。

 だから、本国と言うかメガロメセンブリアからの出兵要請を断れず、関係の無い関西呪術協会を巻き込んだんだ。

 

 全ては爺さんが悪だ!

 

「そっそれは……」

 

 此処まで言えば、自称正義の味方を目指す彼らは何も言えないかな。

 

「関西呪術協会から派遣された者……天ヶ崎千草。彼女は先の大戦で、両親を亡くしている。無用な接触は避けて欲しいのじゃ。

彼女は此方の監視も兼ねている。儂らが本当に関係回復を望んでいるのかを、の……」

 

 こう言って会議を締めくくった。天ヶ崎さんを刺激して欲しくないし……彼女は、こう……何故か、オチ担当の様な気がするんだ。

 騒動を起こしては、何故か上手く行かずに自身が被害を被る様な……物事を大袈裟にしてしまう様な……兎に角、彼女にも大人しくしておいて欲しい。

 

 残り三週間……

 

 僕の引退まで、騒ぎを極力抑えてね。

 さて、詠春さんから預かった巫女服を木乃香ちゃんとモフモフ刹那君に着せて撮影会を行わなければ……

 実の父親と直属の上司からの贈り物だ!彼女達も断れないだろう。

 

 何処で着替えて貰い撮影するかな……やはり自宅に呼ぶのが安全かな?

 

 僕の新たな趣味、巫女服探訪の活動は始まったばかりです。

 

 


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