僕は麻帆良のぬらりひょん!   作:Amber bird

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第5話

 ネギ・スプリングフィールド……

 

 大戦の英雄の息子。破天荒な父親と違い、真面目で努力家。魔法の才能は親譲り!

 そしてトラブルメカーとしても、両親の血を色濃く引いていた。

 

 ラッキースケベ&女性恐怖症……

 

 なし崩し的にエロい事をしてしまうのに、被害者の筈の相手を怖がる。相手の女性は、やられ損な感じが漂う迷惑な存在だった!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そんなネギ君も、麻帆良男子中等部一年に赴任した副担任。担当教科は英語。日本の学校で教師になる事が試練の内容だ!

 学園長より、徹底的に教師として行動する様に本人も周りも言い含めている。

 魔法に関しては、魔力制御と基礎体力作り。まさに健全な肉体には健全な精神が宿る……かも知れない生活だ!

 

「「「おはよーございます!ネギせんせー!」」」

 

「はい、皆さんおはよーございます!では出席を取りますね……」

 

 麻帆良に来てから一週間。学校にも慣れて、朝礼から出欠席の確認。連絡事項の確認など、副担任として様になってきた。

 

「……では、今日は此から健康診断が有ります。皆さん教室で準備を始めて下さい」

 

 そう言って教室を出て職員室に向かう。男ばかりの男の園では、彼のスキルも無用の長物だ!

 職員室で割り当てられた机に座り、次の授業の支度をしていると、同僚の男性教諭から声を掛けられる。

 

「ネギ先生。大分慣れたようですね?」

 

「ネギ先生。中々様になってますよ」

 

 学園長が、ネギ君の同僚として送り込んだ弐集院先生と瀬流彦先生だ。彼らはネギ君の監視とフォローが仕事!

 さり気なくネギ君のストーカーをしている。

 

「ああ、弐集院先生・瀬流彦先生、有難う御座います。大分慣れて来ました。やっと生徒さん達の顔と名前が一致する様になりました……」

 

 エヘヘッっと照れる彼は、ショタ好きには堪らないご馳走だ!残念ながら、ここは男子中等部。

 男の為の男の園……養護教員から一般教員に至る迄、全員男!完全男の環境だ!

 事前に年配でも性別が♀の方は、学園長が穏便に異動して頂いた。

 

 英雄の息子、ネギ・スプリングフィールドの為だけに用意された「完全なる(男)世界」なのだ!

 

 だから幾らショタっ子成分をバラ蒔いても、何の障害も無い。ラッキースケベも発動する切欠すら、完全に無い!

 誰得なのか分からない、不思議な世界なのだ……

 

「それは良かった。あと三週間ですが、頑張りましょうね」

 

「はい!有難う御座います」

 

 元気よくお礼を言って授業に向かうネギ君を見て、ポツリと呟く……

 

「弐集院先生……学園長からの連絡をどう思いますか?」

 

「ああ……超君が学園長のお孫さんに、ネギ君がヤング性犯罪者と教えた事だね。

超君か……何か得体の知れない娘だよね。警戒するしか無いかな。

ネギ君は、教師生活を楽しんでいるし。このままイギリスへ帰してあげたい」

 

 学園長は魔法関係者に、超鈴音の事を報告している。ネギ・スプリングフィールドに絡んで来た事を……

 そして彼女が魔法世界の関係者だと考えている事も。但し直接の手出しは控えて、あくまでも監視重視でと厳命した。

 原作より早々に危険人物として警戒され、監視も付けられた超鈴音で有った……

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 授業を終えて職員室に戻り、定時を迎えて寮に戻る……帰り道で部活動で残っている生徒達が挨拶をしてくれる。それにイチイチ律儀に挨拶を返す!

 

「「「ネギ先生さよーなら!」」」

 

「はい、さよーなら!暗くなる前に帰るんですよ」

 

 僅か一週間だが、ネギは麻帆良学園を気に入っていた。此処には英雄の息子と言う色眼鏡で見る連中は居ない。

 メルディアナ魔法学校で感じていた、周りの連中のよそよそしさも無い。同年代の男の子達と、こんなに楽しく接したのは始めてだ。

 何時もネカネお姉ちゃんとアーニャとしか、親しく話していない。

 しかも彼女達は、事故で胸や尻を触ったりすると途端に変な雰囲気になる……

 

 何故彼女達は、にじり寄ってくるのか?捕食される生き物の気持ちになるんだ。

 

 だから真っ裸で……いや、マッハで逃げる。

 

「学園長の言った事は間違いじゃないんだ!前に比べたら此処は天国です。僕は此処で漢とは何たるかを学び取るぞ!

男の園、バンザーイ!男だけの世界、バンザーイ!」

 

 一つ間違えれば、ショタホモだ!ご機嫌で帰路に就くネギを見守る不審者が居る。

 

 超鈴音……彼女は埒があかない現状を打破する為に、直接ネギに接触を試みるつもりだ。

 

「なっ?やはり、この世界のネギは変態ネ!男だらけを喜ぶなんて……私、もしかしたら産まれないかも知れないヨ……」

 

 声を掛けようとしたが、ネギの魂の奇声に気勢を削がれた形になる。

 

「まだ餓鬼の癖に、男だらけを喜ぶ変態ネ!阿部さんが聞いたら拉致られるヨ」

 

 呆然と見送るネギは、本当に男だらけな環境を楽しんでいるのが分かった。

 道行く男達を親しげに挨拶を交わすネギ……しかし男同士の友情は、不思議と余り感じられない。

 男達と和気藹々(わきあいあい)と楽しんでいるよりは、男だらけの環境が嬉しく感じているみたいだ……

 

 ネギ・スプリングフィールド……

 

 餓鬼の癖に早々に従者ハーレムを作った男の敵。しかし実際は男の味方……「ドキッ!男だらけの麻帆良学院・ポロリも有るよ!」状態だ……

 

「アレは、もう放っておくネ。私の計画の要だったが、居なくても良い方法を探すヨ……」

 

 世界に魔法の存在をバラすだけなら、あの変態に関わらなくても良いネ。

 最悪、目的が達成されるなら私は産まれてこなくても構わないヨ……もはや、どうにも知っている過去じゃない世界。

 

 ならば違う方法を探せば良いだけだ……

 

 此処に来て未来人は、根本的な目的を達成する為にネギ・スプリングフィールドとの関わり合いを切った。

 超鈴音にとって、魔法の存在を世界中にバラすだけなら修正可能だから……

 そっとネギ・スプリングフィールドから目線を外し、逆方向に歩き去る超鈴音を何人かの魔法関係者が確認していた。

 怪しい行動をする超鈴音。この報告は、直ぐに学園長に伝わる事になる……

 

 

 

 超鈴音が、ネギ・スプリングフィールドとの関わり合いを諦めた頃、学園長はオデコちゃん……桜咲刹那に対して、どう説得するかを悩んでいた。

 彼女は関西を裏切る様な形で関東に、麻帆良学園に来た。

 それは爺さんと婿殿と言うか、関西呪術協会の長の思惑の元に……烏族とのハーフで有る事を悩む、真面目で堅物の女の子だ。

 

 何と背中に羽根が生えるらしい。しかも白い羽根が……

 

 しかし爺さんの記憶には、もっとビックリな連中が居るし、可愛い女の子に羽根が生える位では驚かない。

 それよりも萌え……そうモフモフ萌えが芽生えそうだ!

 昔は家で飼っていたアヒルのお尻のプリプリな所に、萌えを感じていたんだ!

 是非とも触り捲りたい!クンカクンカしたい!心行くまで、モフりたいんだけど……

 

 残念ながら見た目が爺さんの僕が、女子中学生の背中にのし掛かって羽根をモフモフしたりクンカクンカしたりする事は……

 残念ながら出来ないだろう。普通に考えても即アウト!性犯罪者として扱われて変態の烙印を押される。

 

 爺さんだって、可愛い物が好きでも良いじゃないか!

 

 モフモフっ娘にクンカクンカしたって……いや、それはマズいよね?

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そんな桜咲刹那の背中の羽根について妄想していると、学園長室に呼び出していた彼女が来た。

 

「学園長、お呼びにより伺いました」

 

 ドアをノックする音と共に、幾分固い感じの声が聞こえた……羽根モフモフ娘が、やって来たぞ!

 

 彼女の見えない白い羽根に心をかき乱されながら「開いてる……」「開いてるぞ!早く入れ、桜咲刹那」僕の声に被せる様に、エヴァが入室の許可を出す。

 

 今日は年齢詐称薬か幻術かは知らないが、アダルト秘書バージョンだ!

 

「……?失礼します……あれ?絡繰さん、どうして学園長室に?」

 

 幾分緊張した感じで部屋に入ってきた刹那君だが、茶々丸を見て固まっている。

 しかし魔法関係者には、連絡を廻して有る筈だけど。エヴァと茶々丸の待遇についてを……まさか、回覧を読んでいないのかな?

 

「桜咲さん、お久し振りです。私とマスターは、学園長に雇われて秘書兼護衛の任に就いています」

 

「そうだそ!桜咲刹那、久し振りだな」

 

 アダルト秘書バージョンのエヴァに話し掛けられて、余計動揺している?

 

「まぁなんじゃ……エヴァも何時までも女子中学生をやらせておく訳にもいかないからな。

呪いを緩和して、学生でなく職員にしたのじゃ。連絡は廻して有る筈だが?」

 

 無駄に幻術で立派になった双子山を仰け反らすエヴァ!己の胸元に目線を送り、憮然とした顔の刹那君……

 

「すみません……確認していませんでした。しかし、学園長!闇の福音を職員になど、何を考えているのですか?」

 

 今更なんだけど……彼女もエヴァに関しては、他の魔法先生と一緒の反応か……いや、木乃香ちゃんに害をなすかもしれないと思っているのかな?

 エヴァは、そんなに悪い娘じゃない。意地っ張りでプライドが高く、扱い辛いが寂しがり屋な一面を持つ永遠のロリータだよ。

 

 僕には、未だ怖い時も有るけどね……

 

「エヴァの賞金は既に取り下げられている。それに……何時までも呪いのせいで、学生をやらせ続けるのも忍びないでな」

 

「しかし……」

 

 ガンドルフィーニ先生並みに頭が固い娘だな。

 

「今日呼んだのはの……木乃香の事じゃ。来月、儂と共に関西へ帰る事にした。勿論、君もじゃよ」

 

「なっ?何故です?そんな急に……」

 

「儂は関西呪術協会と和解する。婿殿も、西の長を辞する事になるじゃろう……儂も関東魔法協会の会長職と、麻帆良学園の学園長を辞する。

これは関西へ対しての誠意と贖罪じゃ。大戦の被害者と、その家族への保障もするつもりじゃよ」

 

 桜咲刹那には、木乃香ちゃんの護衛を引き続きして欲しい。だから真実を話す。

 

「学園長!そんな事をすれば、お嬢様を守る力が……」

 

「権力では守り切れない事も有る。儂と婿殿を恨む連中は多い……だからこそ、我らの側から謝罪せねばならぬ。

家族を木乃香を巻き込まない為にもケジメは必要じゃ……負の連鎖は断たねばならない。だからこそ、君にも関西へ戻って貰いたい」

 

「わっ私は……常にお嬢様の側に……」

 

 彼女は木乃香ちゃん第一主義だ。しかし裏切り行為とも取れる関東への移籍……関西には戻り辛い筈なのに、気丈に答えている。

 その白く細い手が、僅かに震えるのを見て見ぬ振りをする……

 

「そうか!一緒に帰ってくれるか。すまんの……関西を半ば裏切る様な形で関東に来たのに。

それと木乃香には、魔法の件を教えるぞ。もはや何も知らないでは、身を守れない……

刹那君。

すまぬが、より一層木乃香の側に居て欲しい。今の様な護衛体制では駄目じゃ」

 

 ここで護衛を引き合いに、微妙な距離を無くす。

 正体がバレる事への恐怖か知らないが、中途半端な護衛は無意味だし当人達にも辛いだけだし……ベッタリ張り付いて欲しいんだ。

 そして仲良くして欲しい。記憶に有る昔の様に……

 

「お嬢様に魔法を?でも、お嬢様には何も知らずに幸せに暮らして欲しいと……」

 

 自分が狙われているのを理解してるか、してないか……これは大きな問題だよ。

 

「超鈴音……

何やら木乃香に接触し、彼女にネギ君の事を教えた。知っての通りネギ君は、ナギ・スプリングフィールドの息子。彼女が何を考えているか分からない。

それに関西と何時までも仲違いしては、木乃香に危険が迫るやも知れん……だから関西との関係回復で有り、護衛体制の変更じゃ!

木乃香は刹那君を受け入れてくれるじゃろう。優しい娘じゃからな……今はその彼女を悲しませているのじゃよ、君は。分かるな?」

 

 俯いて両手を握り締める彼女は、何も言わなかった……簡単には解決出来ないだろう。

 刹那君は、木乃香ちゃんに自分を否定されるのを恐れているから……

 

「わ……わたしは……その、お嬢様の近くに……でも私は……私が傍に居ては……お嬢様が……」

 

「木乃香にも危険が迫っているのじゃ。どうか、この通り孫娘を守って欲しいのじゃ」

 

 そう言って頭を下げる……真面目で石頭であるからこそ、年配者に頭を下げられれは困る筈。

 

「わっ分かりました!しかし、直ぐには……今まで避けていましたし……」

 

「その辺のフォローは儂からもしよう。昔の様に仲良くして欲しいのじゃよ……それだけで、木乃香は強くなるじゃろう。本当にすまなんだ……」

 

 これで少しは彼女達が幸せになれる確率は上がった。後は僕と周りの大人達の頑張りなんですが……木乃香ちゃんと再び仲良く出来るかも知れない。

 しかし正体を知られ嫌われるかも知れない。そんな心が揺れ動く彼女を見ながら、昔飼っていたアヒルを思い出した……

 

「ガァ吉、元気かな?ああ、モフモフしてー!クンカクンカしてー!」

 

 ブツブツ呟く僕を不審者を見る様な眼で記録する茶々丸が居た……

 

「学園長……流石は変態ぬらりひょん!お二方がドン引きですよ……」

 

 

 

 美少女モフモフ娘も、関西に帰る事を承知してくれた……しかし立場が微妙な娘なので、フォローは必要だろう。

 魔法については木乃香ちゃんに、ちゃんと教えるつもりだ。才能と言う点では、ネギ君にも劣らない。

 

 勿論、保有魔力もだ……今から教え込めば、ある程度は自衛も出来るだろう。

 

 嗚呼……最近、爺さんとの融合が進んでいるのを感じる。

 

 一寸前は普通の中学生だったのに、それなりに爺さんとしての立場と仕事がこなせているんだ。社会人になってない子供がですよ?

 精神?魂?が、肉体と記憶に引き摺られているのかな……もう僕は、爺さん(の記憶と肉体)と融合しているのだろう。

 

 最近、魔法の練習もしているんだ。

 

 体が記憶しているのだろう、魔法は思ったよりすんなり使えた……西洋魔法の他に東洋の呪術も使える。

 爺さんは、かなりの使い手だったから記憶をトレースするだけで良いんだよね。

 しかし所詮は他人の記憶を宛てにしているから、いざ戦闘とかは無理だと思う……言うなれば、仮免練習中なのにレーシングカーに乗ってるんだ。

 気を許せば、簡単に事故るよ。始めて魔法を使えた時も、喜んで制御を疎かにしてしまい片手が燃えたから。

 勿論、興味本位で魔法の練習をしているんじゃない。相坂さんを何とか出来ないかな?と考えた末に、辿り着いたのが依代だ!

 

 憑代・依代・憑り代・依り代……

 

 言い方は色々有るが、日本の古神道では全ての物に神が宿る。八百万の神々が居たと考えられていた。

 つくも神とかも、そんな考えから来てるのかも知れないし……だから魂が宿れる物を用意すれば、可能性は高い筈んだ。

 相坂さんの憑依出来る依代を用意すれば、彼女は麻帆良学園から出れると思う。

 

 出来れば人型を用意してあげたいけど……人型……人形……ドールマスター?

 

 エヴァなら何か作れるかも知れないな。今度聞いてみよう!

 勿論、本人の同意は必要だし何故そこまでするの?って言われても、僕だって分からない……同情なのか、爺さんの初恋の相手だからか?

 

 全く難儀で厄介な人生だ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 木乃香ちゃんで癒やしを貰ったら、次は相坂さんだ!

 年齢詐称薬を飲み、夜の麻帆良へ繰り出した……まだ春先とは言え、夜は冷え込む。

 学生服のポケットに両手を突っ込み、背を丸めて歩いて行く……目指すは相坂さんの居るコンビニ。

 前に言っていた、夜はコンビニかファミレスに居るって……だから二回程会ったコンビニに向かう。

 まだまだ冷え込む為に、吐く息が白い……街灯しか照らす物が無い夜道にぽっかりと明るい建物。

 

 コンビニエンス・ストアのMAGGYだ!

 

 目を凝らして見ると……居た!相坂さよさん。

 ボーっと店内を眺めている相坂さんの隣に立つ……この時間だと店内は無人だ。店員も奥に引き籠もっているのかな?

 店内に入ればセンサーチャイムも鳴るから、出てくるだろう……

 

「今晩は!相坂さん、ちょっと待っててね……」

 

「今晩は、近衛君。久し振りですね」

 

 気持ち嬉しそうな彼女の脇を通り店内へ。自動ドアが開くと共に、軽快な電子音が鳴り響く……

 

「いらっしゃいませー!」

 

 気の抜けた声で挨拶をしながら、奥から若い店員が出てくる。毎回違う店員だが?

 いや、コンビニのバイト君なんて毎日同じじゃないし、夜間シフトはローテーションか?

 どうでも良い事を考えながら、ホットドリンクコーナーへ……僕は同じ珈琲だが、相坂さんにはココアを選んだ。

 飲めなくても、女の子だし珈琲よりは甘いココアが良いかなって。支払いをして店を出る……

 

「何時もの公園へ行こうか……」

 

 そう声を掛けてから、夜の麻帆良を歩く。何故だろう?一緒に居て一番しっくり来るのが相坂さんだ……

 何も喋る訳でも無いが、心地良い時間が流れる。

 何時ものベンチに辿り着き、何時もの様にココアのプルタプを開けてから彼女の前に置く……

 

「温かくて美味しそうですね……でも勿体無いですよ。私は飲めないのに……」

 

 彼女の横に座りながら、自分の缶コーヒーを開けて飲む。

 

「1人で飲むのも気が引けるし……相坂さんは、お供え物として食べたり飲んだりは出来ないの?」

 

 良く仏壇に供えたよ。果物とか、あと炊きたてのご飯を……

 

「良く分かりませんが……こうして近衛君が置いてくれた物は、何となく味が分かる気がします。お供え、なのかな?」

 

 相坂さんは、へへへって笑ってくれた……暫くは一方的に、僕からの近状報告だ。しかし、他の女性と会っている事は言わない。

 例えば木乃香ちゃんと食事したとか、モフモフ娘の桜咲刹那君とお話したとか……あと、見た目を誤魔化した美人秘書とロボ娘な美少女秘書の事とか。

 それ以外だと、ネギ君の事が必然と多い……

 

「でね……そいつ本当に本人は良い子なのに、周りに迷惑を掛け捲りなんだ!全く、何とかして欲しいよ……」

 

 そう言って一旦話を止める。僕だけが一方的に話してるだけじゃ嫌だからね。

 

「相坂さんは……最近、変わった事が有ったの?」

 

 缶に残ったコーヒーを一気飲みする。冷たくなっているが、喋り過ぎた喉を気持ち良く通って行く……

 

「私の方ですか?そうですね……ちょっと前に、変な子を見ましたよ。

小さな子供なのに、ダブダブの学生服を着てました。何なんでしょうか?」

 

 ネギ君だ……何故、男子エリアに押し込めているのに相坂さんが知ってるの?

 

「ふーん……お兄ちゃんの学生服を黙って着てしまった弟君?微笑ましいね」

 

 取り敢えず誤魔化す……

 

「うーん……微笑ましくは無いかもしれません。何故か女性に悪戯して、叩かれてましたから」

 

「悪戯?はははっ……カエルでも見せたとか?」

 

 ネギ君、何をやってるんだよ?

 

「いえ……転んでスカートを脱がしてましたね。アレは恥ずかしいと思います」

 

 話題を変えよう……この話を続けると、トンでもない事になりそうだから。

 

「そっそうだ!相坂さんは、麻帆良学園の外には出れないんだよね?もし……学園の外に出られる方法が有ったら、どうしたい?」

 

「わっ私がですか?」

 

 彼女は、ビックリした顔で僕を見詰めていた……

 

 

 

 嗚呼、僕は相坂さんと離れたくないんだ……護身の為に関西へ引き籠もるから、彼女を連れて行きたいと思っている。

 正直に言えば、爺さんの初恋の相手であるのも関係してそうだが……僕と爺さんの気持ちが混じり合ったからか?

 兎に角、彼女を関西に連れて行きたいんだ。

 

 そして相坂さんは……いきなり麻帆良学園の外へ出たいか?何て聞かれて複雑な顔をしている……

 

「近衛君?何を急に言い出すの?

でも……近衛君が連れて行ってくれるなら、麻帆良学園の外に行ってみたいと思うわ。

私は……もう何故死んだのかも分からないし、何故この麻帆良学園に括られているのかも分からないの。

でも何故か外へは出れないし、出たいとも思わなかった……何故かしら?」

 

 不思議そうに首を傾げている……この地を離れる発想が無いのは、地縛霊だからかな?

 それとも、本当に麻帆良の土地に括られているのかな?

 

「もう擦り切れた記憶だけど、私が死んだのは1940年……当時15歳だったわ。

日本は激動の時代に突入し始めた年……翌年には第二次世界大戦に突入していった。

辛い時代が続いたの……だからかも知れないわ。私の記憶が曖昧なのは、きっと辛い事を忘れたいのかもしれない……」

 

 確か真珠湾攻撃が、1941年の12月だっけ?それから日本は大変だった筈だ。

 彼女は幽霊だったが、周りの人達の苦労を見ていたんだろう……だからかな?辛い時期の記憶が薄くなるのは……

 

「世界中が辛い時代だったんだよね?僕は戦争の事とか、資料でしか知らないけど……

でも、僕は関西に行ったら多分戻ってこれない。だから、相坂さんには一緒に行って欲しいんだ……」

 

 僕が居なくなると、彼女はまた一人ぼっちだし……勿論、僕も離れたくは無いし。

 

「私と一緒に?私、幽霊だよ?」

 

「暫くは成仏しないんでしょ?なら色々楽しまなきゃ!麻帆良も良い所だけど、関西だって楽しいよ。京都とか奈良とか神戸とかさ……」

 

 女の子なんだから、神社仏閣よりもお洒落な場所の方が良いんだろうけど……生憎と僕は気の利いた事は言えないんだ。

 

「楽しそうね……そんな方法が有るのなら、私を連れて行って欲しい」

 

 そう優しく微笑んでくれた……月に照らされた彼女は、正にこの世の者とは思えない美しさだった。

 これは依り代作りを頑張るしかないと思った……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 木乃香ちゃんとモフモフ娘……それに相坂さんに話もしたし、そろそろ関西呪術協会との話し合いを進めたい。

 遺族達への補償の裏金も用意出来たし、後は婿殿……近衛詠春さんの説得だけど、どうしようか?

 

 記憶に有る、つまり爺さんが考えていた彼の人物像は……エロに弱い・詰めが甘い・生真面目で堅物。

 そして騙し易く、扱い易い……何て言うか、アレな人なんだな。

 

 記憶に有る実の娘さんは、かなりの美人さんだ!

 

 彼女と関西呪術協会の長の座を提示されて、籠絡されたと見るべきかな?

 

 うん……駄目だ、この人は……爺さんに良い様に扱われているし、下の連中には煙たがれている。人望も無さそうだよ。

 

 大戦の英雄の肩書きは、日本では役に立たないからね……本人に組織を運営する能力が有るなら別だけど、爺さんの言いなりじゃ無理だよね。

 本人も組織改革とか、配下の人達と上手くやろうとか思わないのかな?

 関西呪術協会は、読んで字の如く呪術を扱う集団だ……それを神鳴流の剣士が長ってだけでも変だ。

 普通は呪術的な実力が高い人とか、最大派閥の頭首とかがなる役職でしょう……それを近衛家の入り婿とはいえ、大戦の英雄を据えるなんて!

 

 爺さんは、既に関西に喧嘩を売ってますよね?

 

 しかも関東魔法協会の下の位置付けっぽいし。まぁ逆に考えれば、2人して責任を取る為に職を辞すると言えば、案外納得しそうだ……

 役職に固執してないから、何とかしようとも思わなかったのかな?お飾りの長なんて、辛いだけだったろうに。

 

 ん?爺さんの記憶だと、綺麗どころの巫女さんを侍らしてるだと?

 

 しかも接待をする時は、彼女達にお酌迄させるだと?

 うっ羨ましい……でも呪術を扱う巫女さんって、本来は神楽を舞ったり御神託を受けたり祈祷したり。

 

 多分、彼女達は力ある巫女さんだと思う。

 

 神社の神事や神主さんの補佐などは、明治以降の巫女さんの仕事だ……こんなキャバ嬢みたいな扱いは、彼女達を怒らせてないかな?

 言わば有資格の技術者に、畑違いの夜の接待を強要してるんだから。その辺は、即改善しないと駄目だよね。

 後は、事前に日程を教えておいて最低限の共を連れて行くだけだ。エヴァと茶々丸とも打合せしないと。

 特にエヴァは京都行きを楽しみにしてたし。急に言うと、準備が未だだとか言われそうだよ。

 

 最近のエヴァの行動を思い出す……

 

 学園長室に入り浸ってガイドブックを読み漁り、慣れない手付きで茶々丸に教わりながらパソコン検索をしていた……

 旅の予定表を何回も作り直していたし。彼女にすれば、15年振りの麻帆良からのお出掛けだからね。

 ご機嫌を取ってから、相坂さんの依り代の件を相談しよう……

 ドールマスターとして茶々丸達を造ったエヴァなら、相坂さんの依り代について、何か良いアイデアが有る筈だ!

 勿論、見返りも要求するだろうけどね。そんなに無茶は言わないと思う……費用はコッチ持ち。

 そして完成の暁には同じ様に、希望の場所へ外出を約束すればどうかな?

 確かに彼女は吸血鬼の真祖であり、長く生きている。また生きる為に、襲ってきた奴らを返り討ちにしてきた。

 

 でも、彼女から襲った事は……調べた限りでは無いんだよね。

 

 吸血衝動の為に、処女を襲い殺したりはしない娘だよ。だから相坂さんの現実を知れば、手伝ってくれる筈だ。

 照れながら悪態をついたりするけど、暫く一緒に居たから分かる。

 エヴァは良い娘なんだ……僕が、こんな事を考えていたら、彼女はクシャミが止まらないだろうね?

 

 

 

 関西呪術協会への交渉準備は順調だ。既に先方には、訪問の理由も日程も伝えて有る。

 それは長で有る詠春さんへの他に、関西呪術協会宛てにも書式で通達済みだ。

 詠春さんだけに知らせてると、何か面倒臭い感じがするんだ……

 

 こう、何時もの様に「お前らだけで、やれば良いじゃん!」じゃ駄目なんだよね、今回は。

 

 ちゃんと関西呪術協会の幹部連中にも、同席して貰わないと意味が無い。

 そこで言質を取らないと駄目だと思う。

 

「私達は知らなかった」

 

「また勝手に話を進めてるだけだろう」

 

「だから、この話は無効だ」

 

 こういう言い逃れを無くす為にも、今回の話し合いは広く皆さんに伝えて欲しいんだ。勿論、僕が襲われ難くなる為にです。

 これだけ誠意を持って話をしたのに、僕を襲う奴らが居れば……エヴァ&茶々丸が撃退しても、ある程度は言い訳出来るから。

 学園長室で午後の日差しを浴びながら、ノンビリと報告書を読み進める……流石は巨大学園都市。

 

色んな案件が有るなぁ……承認印を押しながら、僕が辞めた後の麻帆良学園がどうなるのか?

 

 考えてみたけど、僕の後任って誰なのかな……本国から派遣されるのは、間違い無いだろう。

 関西に戻れば、多分だけど……関東とは疎遠になる。これは仕方無いと思う。

 

 関東魔法協会の後任は、本国から来るガチガチな魔法使い。多分だけど、正義の魔法使いを自称してる連中の誰かだと思う。

 逆に関西呪術協会の方は、彼らの中でも実力を伴った者が長になる……互いに積極的に仲良くしようなんて、絶対思わない。

 

 今回の件で、ある程度の道筋や交渉のラインは残しておくけど……下手をすれば、僕の謝罪は無い物になるかもね。

 

 プライドの高い自称正義の魔法使い達が、大戦について非が有ったなんて認めないかも……散々貢献した爺さんも、スッパリ切られても可笑しくないんだよね。

 だから、裏金の全てと利権の幾つかは貰って行くんだ。それに、実は関西呪術協会は神鳴流や日本政府にも太いパイプを持っている。

 関東魔法協会も持ってはいるが、担当は全て爺さんだった。そして麻帆良学園の存在を認めさせるだけだから、大して太くも無い。

 

 現地政府と上手くやっていけば、日本政府から見れば麻帆良学園は異物だ……上手く煽れば排斥運動を起こせるよね?

 

 最悪、僕が去った後に関東魔法協会と敵対する事になれば……あの閉鎖した好き放題の学園を攻める手立ては、色々有ると思うよ。

 出来れば穏便に済ませたいが、僕の老後の幸せの為なら……利権の幾つかを関西呪術協会に譲渡しても良い。

 この腹黒い爺さんは、関連企業の株をかなり握っているし……技術的な部分も、異常な位に進んでいるから。

 きっと日本政府は関西呪術協会に付く。関東魔法協会も、魔法と言う直接的な武力で威圧するだろう。

 

 それは関西呪術協会も、同じ事が出来る。

 

 しかし関東と違い関西は、ピンポイントで個人に呪いをかけると言う手段が有る……果たして役人達が、どちらも武力を持って圧力を掛けてきた場合。

 自分が直接的に呪われる危険が有る、関西呪術協会を邪険に出来るかな?

 まぁ直ぐにどうなる訳でもないし、僕の命尽きる迄は劇的に動かないと良いな……引退した爺さんを引っ張り出す事も無いよね?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ご機嫌な洋ロリが、授業の始まった麻帆良学園の廊下を歩いている……後ろにはメイド服を着た茶々丸が付き従う。

 

「ふふん!前は学園に来るのも嫌々だったが、今は何も感じないな」

 

「登校地獄……ふざけた呪いのせいですね。しかし……私達は学園を去った身ですので、余り目立った行動は控えた方が良いかと」

 

 彼女達は、学園長により転校扱いになっている。それを私服で校内を歩いていれば、不信に思う者も居るかもしれない。

 

「なに、転校先で必要な書類を貰いに来たとか言えば問題無い」

 

 必要な書類?京都や奈良のガイドブックを小脇に抱えて、書類?

 

「……何か言いたそうだな?」

 

「いえ……週末から京都に仕事ですね」

 

 主の機嫌が良くなる話題を振る茶々丸……

 

「そうだ!京都旅行だ、観光だ!」

 

 両手を振り回し、喜びを表すエヴァ!すっかり仕事→旅行と書き換わっているが、大層な喜び様だ……

 

「嗚呼……マスターが幼子の様に無邪気にお喜びになって……ハァハァ……」

 

 主の様子を熱心にハードディスクに録画する従者。暫くこんな遣り取りをしながら学園長室に辿り着いた……ノックもソコソコに部屋に入る。

 

「邪魔するぞ、ジジィ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 学園長室の執務机に座り、校庭を走り回るブルマ集団を眺める……

 源しずな先生を秘書っぽい仕事から解放した為、目の保養が洋ロリとロボ秘書しか居なくなった。

 なので、やはり校庭でキャーキャー聞こえると目をやってしまう……運動場では、ドッヂボールに興じる女の子達が!

 

「魔力で視力の強化……まるで目の前で見学してる様なダイナミック感が有るよね……

オゥ!激しいアクションは女子校ならではの無防備さですか?」

 

 爺さんは絶対ロリコンだった筈だ!こんな素晴らしい環境を用意しているのだから……

 勝敗がついてコートから出て行く彼女達を見て、覗き見を止めて机の上に開きっ放しの書類を読み始める。

 いよいよ週末は関西呪術協会へと向かう。ある程度の仕事は終わらせておかないと……

 

「邪魔するぞ、ジジィ!」

 

 元気良くエヴァが入ってくる……随分とご機嫌だ!

 

「なっなんじゃい?いきなりじゃな……」

 

 良かった……また僕がブルマに見取れていたなんて思われたら、からかわれて最悪だったよ。

 

「ジジィ……週末から京都旅行だろ?」

 

「旅行って……エヴァよ、遊びに行くだけじゃないんじゃぞ」

 

 すっかり観光気分だね。

 

「別にどっちでも良い!それで……出来れば着て行く服とかを買いたいのだが……」

 

 この洋ロリ、僕に服をねだっているのかな?報酬として服位なら、買っても良いけど……

 

「ああ、良いぞ。服位なら買ってやるぞ」

 

「ちがーう!買って欲しいんじゃなくて、買いに行きたいんだ。麻帆良内の店じゃなく、都内に行きたいんだ」

 

 えっと……確かに僕に同行すれば、比較的簡単に呪いは誤魔化せる。秘書として、雇用主と共に出掛けるのなら……

 

「いや……エヴァよ。それは……」

 

 マズいと思うんだ。ただでさえ、君を関西に連れて行くのも反対されてるのに……

 

「時に学園長……学園長、ドッヂボールをする女子中学生に興奮されるのですか?激しいアクションは女子校ならでは?とか?」

 

 何故、僕の呟きが?まるで変態性欲者を見る様な茶々丸。両手で自らの肩をかき抱き、後ずさるエヴァ……

 

「きゅ急に都内に行きたくなったぞ!それも渋谷とか、何処でも良いんだけど……うん、出掛けたいなー」

 

「では、私達も同行させて頂きます」

 

 深々と頭を下げる茶々丸……きっと下を向いたその顔は、ニヤリとしているのだろう……

 

 

 

 

 ルート別エンド さよ

 

 僕の覗き見をネタに茶々丸に脅迫されました……仕方無くエヴァの買い物を麻帆良学園以外でする為に、車を出して都内に向かってます。

 

「なぁジジィ?老いて益々お盛んなのは構わないのだが……私をその対象にするなよ。

知っているか?麻帆良学園の学園長は、ロリコンって言う噂を」

 

 はぁ?なにそれ?僕は本来なら15歳のピチピチボーイ!女子中学生達を眺めて楽しんでも、全然おかしくないぞ!

 

「なっ何でじゃ?」

 

「他にも、ロリコンからコスプレ迄を網羅する絶倫翁!などと一部の方々から噂が広まってます。主に、屋敷で働くお手伝いさんからでは?」

 

 直接的な口止めはしなかった……だって無実だし、それを口止めするのは認めたって事じゃないか!

 

「……他には?」

 

「取り敢えずは、そんなモノかな。クックック……噂を聞いた魔法関係者はどう思うかな?

まさか闇の福音に誑し込まれたのか?とか、騒ぎ出すかもな」

 

 何て不名誉な噂だ……

 

「茶々丸さん?何故、貴女のマスターも噂のネタなのに止めないんですか?コレってインターネット上の話では?」

 

 和風メイド服を着込んだ茶々丸さんに尋ねる……敬語口調で。

 

「マスターは酷い風評被害を学園長絡みで受けています。全く許し難いのですが……

今まで浮いた噂一つ無かったマスターに、色恋沙汰?の噂は面白い……いえ、珍しいので静観しています」

 

 ナニその放置っぷりは!

 

「エヴァよ……お前の従者が面白い壊れっぷりじゃぞ!エヴァも変な噂が広まって困るじゃろ?早く茶々丸を何とかせい!」

 

 呑気に車窓から景色を眺めてないで、何とか言って下さい!足を楽しそうにブラブラさせない!

 

「ん?ああ……放っておけば沈静化するだろ?

それよりも、麻帆良はヨーロッパ調だが外は不調和な程に和洋中入り乱れた街並みだな……あのネオンなど綺麗じゃないか!

何なんだ?ピンサロ、ヘルス、ハプニングバー……ハプニング?落ち着いて酒が飲めない店なのか?」

 

 歓楽街のネオン看板をガン見する洋ロリ……

 

「お主には、まだ早いわ!」

 

 慌てて目を塞ぐ。情操教育に良くないぞ!その点、麻帆良には学園都市故にイカガワシイ店は無いからな……

 

「えーい、放さんかジジィ!抱きつくな。あっコラ……ドコを触ってるんだ!だから変な噂が立つんだぞ!」

 

 腕の中で騒ぐ洋ロリを何とか窓際から離す……齢600年とはいえ、エッチな店を興味深く見るのは良くないぞ。

 

「あっ痛い!噛んだな、この洋ロリが!噛みやがったな!」

 

「黙れ、ロリコンジジィ!いきなり抱き付くなんて変態以外の何者でもないわ!」

 

 ギャーギャーと騒いでいたら、目的地に着いてました!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 案内されて来たのは、都内某所に有るゴスロリ専門店……「closet ch○ld」だ。

 

 古着等の本格的な輸入ゴスロリ衣装や、廉価版の合成繊維系の物も有る。

 その外にもコスプレでも使えそうなメイド服や大正時代の袴や巫女服に……チャイナ服やアオザイとか、僕が分かるだけでも色々有ります。

 

 うん!見てるだけで楽しいかも……元々ゴスロリでキメている洋ロリに、和風メイド服の……これは茶々丸のお手製な衣装なんだが。

 その道を極めたみたいな金髪ゴスロリ美幼女と、付き従う和風メイド美少女……それに変な頭の和服老人。周りの視線を集め捲りだ!

 

「店主!店主は居るか?衣装を合わせたい。お薦めを持って来てくれ」

 

 人に命令するのが板に付いているエヴァ……何人かの店員に店長らしき人が集まって来る。

 途端にファッションショーの如く着せ替えが始まった。試着した服を無造作に放り投げては、新しい服を着させて貰う。

 店員さんも、これほどの洋ロリ美幼女は初めてなのだろう……着替える毎に写真を撮っている。

 勿論、茶々丸は最前列で撮影中だ……エヴァも何気にポーズをキメてカメラ目線だし。

 確かに可愛いし楽しいのだが、少し居辛い。

 

「あのお爺ちゃんが保護者なのかしら?」

 

「孫娘と使用人?さんにコスプレさせるなんて……」

 

 ヒソヒソ話に耳が痛いですねー!店長さんに選んだ服は全て買うからと伝えて、茶々丸にカードを渡しておいた。

 ブラックのカードを見た店長は、変な気合いが入ったみたいで……倉庫に走っていった。

 

「秘蔵品を出しますわー!上客キター!」

 

 とか騒いでいたが……まぁ高くても何百万なら、今の僕には安い物だ。変な雰囲気になった店を出て、待たせている車に戻っていよう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 店を出て前に路駐させている車に乗り込もうとしたら

 

「お爺ちゃん、ちょっとすみませーん」

 

 何とも間延びした口調の女の子に話し掛けられた。彼女もロリータファッションで小さめなメガネをチョコンと鼻に乗せている。

 ふわふわな感じの女の子だな……さっきの店のお客さんか関係者かな?

 

「儂に何か用かな?お嬢ちゃん」

 

 ニコニコと近付いてくる。

 

「本当は強い女の子が好きなんですがー、えぃ!」

 

 彼女がそう言った後に、鋭い痛みが下腹部を襲う……見ればお腹から血が吹き出している?

 

「なっ何を……」

 

 見上げれば、既に何処にも彼女は居なかった。

 

「油断した……な。簡易的な認識阻害の魔法はかけていても……麻帆良の外で……単独行動を……するから……か……」

 

 ズルズルと座り込む。視界の隅に、慌てて車から降りる運転手さんが見える。

 嗚呼、携帯で救急車を呼んでくれるんだ……

 

 でも……もう……無理そう……だよ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 気がつけば、僕は見慣れた麻帆良学園の公園に立っていた……彼女に殺されて、僕は幽霊になったのだろう。

 手を見れば、皺が全く無くてツルツルだ!

 これは元の僕の姿に戻ったのかな?服装は……多分爺さんの思い出の学生服だと思う。

 顔や頭をペタペタと触れたので確認したが。

 

 うん!あの変な頭じゃない。普通の形だよ!

 

 しかし鏡や水溜まりにも映らないから、顔が分からない。触った位で、どんな顔なのか分からないんだ……

 服装は爺さんの学生服。手も若返っている。しかし顔がどっちなのか分からないんだ。

 爺さんの若い頃なら、悔しいがイケメンだったからな。そっちが良いんだけど……ボーっと考えていたら、辺りが真っ暗になっていた。

 

 時間の感じ方が早い様な……

 

「幽霊って、時間の進み方が違うのかな?」

 

 人気の無い公園から離れ、明かりが点いている建物へと移動する。

 うん、足で歩いてるけど……ピョンピョン飛び上がってみたが、飛べないみたいだ。

 

「幽霊一年生は、全く能力無し?」

 

 相坂さんは、ポルターガイストや血文字が書けるらしいが、僕には才能が無いのかな?

 

「こっ近衛君?近衛君、幽霊になってますよ?」

 

 振り向けば、驚いた顔の相坂さんが居た。近衛君?やったぞ、幽霊だけどイケメンになれたぞ!

 

「今晩は、相坂さん。事故でね、死んじゃったんだ。気が付いたら、あの公園に立ってた」

 

 まさか、実は殺されたんだ!とか言えないよね。

 

「そんな……事故って……痛くないんですか?」

 

 心配そうに、遠慮がちに胸の辺りに手を当ててくれる……彼女の奥ゆかしい優しさが嬉しい。

 

 アレ?手を当てて?彼女の手を両手で握り締めてみる。

 

「きゃ?あの……近衛君?恥ずかしいよ」

 

 顔が真っ赤になるが、それでも振り払わない彼女……

 

「触れるね……幽霊同士なら触れ合えるんだね。相坂さん!幽霊の先輩として、これから宜しくお願いします」

 

 名残惜しいが、彼女の手を離し頭を下げる。

 

「先輩ですか?でも、これからは独りぼっちじゃないんですね?嬉しい……」

 

 泣き出した彼女を軽く抱き締める。嗚呼、こんな美少女を抱き締める事が出来るなんて幸せだ!

 

「これからは、ずっと一緒だよ。成仏が2人を分かつまで……なんてね」

 

 駄洒落を言って彼女を笑わせようとしたが、失敗したみたいだ……彼女は僕の腕の中で身を固くしている。

 古風な彼女だし、スキンシップし過ぎたかな?

 

「ごめんね。嬉しくてつい……だって前は、相坂さんに触れる事も出来なかったし……」

 

 そう言って素直に詫びました。

 

「そっその……嫌じゃないんですが、恥ずかしいです」

 

 はにかむ彼女を見て、改めて可愛いと思う。しかも触れるし、もう年も取らないんだよ。

 

 最初の人生は、平々凡々だった。

 

 二度目の人生は、波乱万丈の爺さん憑依の悪の首領生活。

 

 三度目?の人生は、楽しくなりそうだ。

 

 僕らは取り敢えず、初めて出会ったコンビニに向かった。何故かって?やはり幽霊でも暗い所だと、変な気持ちになっちゃうからね!

 相坂さんは古風な美少女だから、きっと恋愛事は奥手な筈だ……時間は無限に有るから、ゆっくりと仲良くなれば良いから。

 コンビニの駐車場に並んで座り、これからどうするかを話し合う。

 

 先ずは新居を探すかな……2人での生活は、これからだから!

 

 

 さよルートエンド 終了

 

 

 

 茶々丸さんの脅迫のせいで、都内へお出掛けする羽目になった……

 

「エヴァよ。麻帆良学園都市の外は危険じゃぞ。どうするのじゃ?」

 

 認識阻害位しか使えないし、女性の買い物に付き合うのは大変なのは理解している。

 

「ふむ、護衛か。確かに茄子頭のジジィは目立つからな……この時期に無用な問題を起こすと、京都旅行にも影響がでるか……」

 

 ウンウンと悩む幼女。お持ち帰りしたいです。

 

「茶々丸の見立てなら、エヴァも納得するのではないのか?彼女なら、何か有っても対処出来るじゃろ?エヴァは儂と留守番じゃな……」

 

 当たり障りの無いプランを提案する。

 

「ふむ……茶々丸頼んだぞ。そうだな、黒を基調にした物でロング丈が良いな。京都はまだまだ寒そうだからな」

 

「畏まりました……では学園長、マスターを頼みます」

 

 一礼して出掛けようとする茶々丸を呼び止め、カードを渡す。茶々丸名義のクレジットカードだ。

 

「これは京都への護衛の報酬じゃ。序でに茶々丸の服も買うと良いぞ。

メイド服や秘書ルックも良いが、たまには年相応のお洒落もしてみてはどうじゃ?」

 

 苦労を労う提案だったのに……茶々丸さんが無表情にドン引きしてますが?ポーズがね、大袈裟なんですよ……

 

「学園長?年相応とは、私は制作されてから一年と少し。つまり赤ちゃんプレイを私に望むのですか?」

 

「「違うわー!ボケロボットがー!見た目相応って意味だー」」

 

 思わずエヴァとシンクロしてしまった。アレ?この言い回しは、某エヴァンゲリオン?

 

「分かりました、お爺ちゃんバブー。有難う御座いますバブー」

 

 すっかり赤ちゃんプレイな感じで、茶々丸が出掛けて行った……

 

「エヴァよ……従者の教育はしっかり頼むぞ。最近の茶々丸は、弾け過ぎてないか?」

 

「私は貴様の性癖の幅が心配だ。茶々丸は貸さないしやらないぞ。赤ちゃんプレイもお断りだ!

あれは大切な従者だからな。変な癖をつけられては困る」

 

「茶々丸は欲しいが、性的な意味は断じて無い!無いったら無い」

 

 人が一生懸命否定しているのに秘書用の机に座り、ぎこちない操作でパソコンを起動させている。

 どうやら京都観光のプランの最終調整をするのだろう……

 

「ジジィ、お茶くれ!」

 

 何てフリーダムな幼女だ。仕方なく来客用のお茶を淹れてやる。端から見れば、孫娘に頭が上がらない駄目爺さんだよね?

 暫くはカチャカチャとマウスを操作する音だけが、室内に響く。僕も仕事の続きをしているし……

 

「なぁジジィ?」

 

 パソコン画面から目を逸らさずに、エヴァが話し掛けてくる。

 

「何じゃ?おやつの時間迄は、まだ暫くあるぞ?」

 

 今日は濡れ煎餅を用意している。あのネチャネチャ感は堪らない。

 

「違うぞ、おやつじゃない……その、何だ。もし関西との関係回復が上手く行けば、ジジィは関西に帰るんだろ?」

 

 関東と関西の関係回復でなくて、僕と関西の関係回復なんだけどね……

 

「そうじゃな……近衛の本家に戻って、余生を気楽に過ごすよ」

 

 それが僕の最終目的!悠々自適な老後の為に、頑張ってますから。

 

「新しい学園長は……本国から来るんだろ?私は……麻帆良には居たくないな」

 

 今は僕が、最高責任者の爺さんが庇護と言うか周りを抑えている。しかし、僕が居なくなったら?

 彼女は又、登校地獄と言うふざけた呪いに苦しむのか?それとも迫害されるか?

 

 確かに、エヴァを残したら碌な未来が無い……か。

 

「前にも言ったが……関西に来ても良いんじゃぞ?

お前さんは関東の、魔法使いの連中からは煙違われている。つまり関西からすれば、悪くない相手だ。

言葉は悪いが西洋魔術を使うが、西洋魔法使いを沢山殺している。それに過去の大戦に関わってないし、な……」

 

 その分、関東と関西は仲良くはならない。別に仲良くならなくても、僕は極論なら構わないけどね。

 

「私と茶々丸、それにチャチャゼロと共に……」

 

「儂と一緒に来るか?その代わりに木乃香に魔法を教えたり、儂の護衛を引き続きしたりと自由は無いかもしれんよ」

 

 呪いについては、関西呪術協会に派遣扱いとすれば何とかなりそうだ。

 あの呪いは、ナギ・スプリングフィールドの性格と同様に馬鹿みたいな力が有るが、大ざっぱだ!

 誤魔化す事自体は、難しく無いと思う。

 

「ふっ……ふん!ジジィの為じゃないぞ。京都は素晴らしい。そこで生活したいだけだからな!勘違いするなよ」

 

 ツンデレ乙!そうだ!

 

「それと……エヴァは2-Aの出席番号1番、相坂さよを知っているかの?」

 

 直球で聞いてみた。

 

「ああ、あの妙に隠密性の高い幽霊の事か?長い間、麻帆良に居るが暫く経ってからだな。アレに気付いたのは……」

 

 エヴァでも気付いたのが遅かったのか?僕は、何故彼女を見れたのかな?

 

「彼女は15歳で亡くなり、以来70年以上独りぼっちで幽霊をしているんじゃ。儂らが居なくなれば、下手すれば除霊されるやも知れん……」

 

「しかし……見た感じだがアレは、この地に括られているぞ」

 

 流石に良く見てるなぁ……

 

「だが、依り代を用意すればどうじゃ?ドールマスターと言われたお主なら」

 

 何やら複雑な表情で考え込む幼女……

 

「何故、そこまでするんだ?何十年も放置していたのだろ?今更だな……」

 

 それは爺さんで有り、僕は未だ出会って1ヶ月位ですよ。

 

「関西に行けば、再び麻帆良学園に来る事は無いからの……出来るだけの事はしておきたいんじゃ」

 

 こんな非常識な街には近付かないよ!

 

「ふん!序でだからな、面倒を見てやるよ……しかし材料の調達と時間が足りないな。いや時間なら別荘を使えば……」

 

 何やらブツブツと独り言を始めたけど、依り代制作の事みたいだからな。

 少し早いが、お茶と茶請けの濡れ煎餅の用意をしてあげようかな……「よっこらしょ!」っと魔法の言葉を言いながら立ち上がる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 その頃の茶々丸さんは、エヴァに似合いそうなゴスロリ衣装を何点か購入。学園長に言われた、自分の為の衣装を吟味中だ……

 

「赤ちゃんプレイ……検索では自身が赤ちゃんとなり、母親役の女性に甘える変態行為。

しかし学園長は私にそれを求めた。つまり赤ちゃんプレイではなく、母親プレイが?

いや、しかし……あのお年で学生服を着る方ですから。もっと深い意味が……」

 

 なにやら赤ちゃんコーナーで、涎掛けを手に悩んでいた。

 

 周りからは「偉い若いお母さんね……できちゃった結婚かしら?」「まさか未婚のママ?」と、物議を醸し出していたのは別のお話しで……

 

 

 

 茶々丸を買い出しに向かわせてる間中、エヴァは学園長室に入り浸っていた。

 確かに表向きは秘書として雇ったから、それはそれで良いのだが……

 

「ジジィ……京都御所の見学には事前申し込みがいるそうだ。何とかならないか?」

 

「エヴァよ……無理を言うな。儂でも無理じゃ」

 

「ちっ……こんな時だけ真面目ぶるなんてな」

 

「あれだけ事前に調べておきながら、何故申請しなかったんじゃ?」

 

「急にジジィが日程を決めるからだ!」

 

「んー旅行会社を利用すれば、団体で事前に申し込みをしてるから見れるぞ」

 

「ツアーか?駄目だ、アレは見たくない所も廻るし自由が無い」

 

 確かにツアーは楽だけど、名所を廻るのと同じ位、お土産屋も廻るし……自由行動の時間も短いからな。

 

「京都観光は電車やバス、タクシーを利用した方が良いぞ。エヴァはどんな所に行きたいんじゃ?」

 

 しまった!目が爛々とし始めたぞ。これは長くなる……

 

「何だ?ジジィも気になるのか?

そうだな……先ずは六波羅蜜寺は外せない。定番だが清水寺から二年坂三年坂。

それと最近は茶わん坂も渋めの焼き物屋が軒を連ねてるそうだ……安倍晴明の縁の晴明神社や……」

 

 長い、長いぞエヴァ!それに一日半では廻り切れないだろう。茶々丸が帰って来たら、行動予定表を作らせるか……所謂「旅のしおり」だな。

 両手を振り回し力説するエヴァを見ながら、のんびりと考えていた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「只今帰りました」

 

 茶々丸が帰って来るまで三時間以上か?随時と旅行談義を一方的に聞かされていた。正直、辛かったです。

 

「おかえり、茶々丸。良い物は買えたかの?」

 

 両手一杯に紙袋を下げている彼女に聞いてみる。

 

「はい。定番物を少しと、春の新作が出ていましたので……」

 

 早々に袋を漁るエヴァを手伝いながら、律儀に答えてくれる。

 袋から出された衣装を見れば、エヴァが着れば西洋人形の様に似合うセレクトだった。

 彼女の見立ては素晴らしい……暫し、服を体に当てて確認しているエヴァを見て和む。茶々丸は録画モードだ!

 

「ん?何だ?これは私のではないな……茶々丸の服か?」

 

 エヴァの手にはワンピースが……アレ?これは茶々丸さんのかな?淡い桜色のシンプルなワンピースと、薄緑色のスプリングコートだ。

 

「それは茶々丸のかの?お前さんが普通の服を着ているのを見た事は無いが、髪の色にも合っているし春待ちの色で良いと思うぞ」

 

 彼女は半分コスプレイヤーみたいだったし、普通の服を着ているのを見た事なかったな。茶々丸がワンピースか……新鮮かもしれない。

 

「申し訳有りません。学園長の依頼品であるベビー服は私では着用が難しく……

逆に涎掛けやおしゃぶりしただけでは、興が削がれると思い断念しましたバブー」

 

 全然残念じゃないよね?

 

「儂は幼児プレイなどせん!」

 

「はい。幼児プレイとは、学園長が幼児に変装し母親役の女性にセクハラする性癖。

残念ながら、私を幼児と見立てのプレイは……母親プレイ?」

 

「違うわー!そのプレイから頭を切り離せ!儂はノーマルじゃ」

 

 アレ?茶々丸だけでなく、エヴァまで信じられない物を見る様な目で?

 

「ジジィ……その、なんだ。学生服を着て夜な夜な徘徊する性癖がノーマル?」

 

「そのお年で、未だ現役ノーマルプレイ?」

 

「……もう良い。早く帰れ!」

 

 実年齢は15歳のピチピチボーイに酷い扱いだ!未だエロ本だって見た事ないんだぞ!純情ボーイなんだぞ!

 笑いながら出て行くエヴァを見送りながら、心の中で涙しました……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 大宮駅……

 

 待ち合わせは大型オブジェ、「行きかう・線」通称「豆の木」の前だ。何故に待ち合わせ?

 

 エヴァ曰わく「旅行とは待ち合わせから始まるのだ!遅れるなよ」とか言っていたけど、コレってデートの心得では?

 

 又は行けなかった修学旅行をなぞってるのか?

 兎に角、車で大宮駅まで送ってもらい待ち合わせの場所に10分前に到着した……既にエヴァ達は居ますね。

 

「おはよう、エヴァ……早いの」

 

 遠くから見てもハイテンションのエヴァ。

 

「ジジィ!遅い、遅いぞ!」

 

「お早う御座います、学園長。マスターと共に一時間前から待っていました」

 

 ゴスロリ服にマントを羽織ったエヴァ。ちょっと寒いのに、先日購入したワンピースとスプリングコートを着ている茶々丸。

 彼女には寒暖差は関係無いのだが、端から見れば少し寒そうだ。

 

「新幹線の発車迄は30分は有るが、早めにホームに行くかの?」

 

「そうだな……土産物屋で駅弁やお菓子を勝っておくか。たまには市販の弁当も食べてみたいからな」

 

 さっさと改札に向かうエヴァの後を追う……

 

「学園長、有難う御座います。マスターがあんなに楽しそうなのは、初めて見ます」

 

「15年振りの遠出だしの……多分エヴァは日本での観光は初めてじゃろ?前は直ぐに麻帆良に来た筈じゃし……」

 

 ナギ・スプリングフィールドの罠に嵌り、そのまま連行された筈だよね……走り出すエヴァは、周りの視線を集めて居る。

 金髪ゴスロリ洋ロリに、緑の髪の美少女。そして変な頭の和服の爺さん……周りの連中は、僕達を見て何を考えているのやら。

 

 どう見ても血縁関係は無さそうだしね……

 

 茶々丸に教えて貰い、新幹線の改札口から中に入ってるエヴァを見ながら、アレが600歳とは思えない!

 肉体に精神が引っ張られるのは有るんだなー。僕もすっかり爺さんの肉体に引っ張られてるなー。とか感じていた。

 

「ジジィ、ボケたのか?早く来い」

 

 そんな見掛けによらぬ言葉使いに、周りを驚かせながら騒いでいる彼女に手を振る……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 新幹線に乗っても、彼女のテンションは下がらなかった。駅の売店で買った弁当をガサガサと開け始めた……

 

「エヴァよ……まだ出発して間もないのに、もう食べるのか?」

 

 さっそく一つ目に取り掛かっている彼女に聞いてみる……時刻は9時を回ったばかり、昼頃には京都に着く。

 向こうでは、懐石料理の名店を予約しているのだが……

 

「懐石弁当大人の休日・春か……2000円もするだけ有り、季節を感じさせる品数の多さだな」

 

 人の話なんて聞いていないな。

 

「豪華大宮弁当か……埼玉県の名産品を集めた幕の内弁当だな。地元だからか、目新しさは無いが美味いな」

 

「幸福弁当……煮物が多くヘルシーだが、白米に自信が有る弁当だ。日本人は米を食わねばならない!」

 

「あさりおこわ弁当か。ふむ……あさりの身も大きく食べ応えがあるな。悪くは無いな」

 

「東京笹寿司?何故、埼玉で東京なのだ?これはジジィにやるぞ」

 

 そう言って、包みも開かずに投げて寄越す……しかし僕の膝の上は、エヴァが少しずつ食べた弁当達が有る。

 

「あのな……幾らなんでも食べかけの弁当を渡すんじゃないぞ。結局全て食べ切れてないではないか?」

 

 取り敢えず、懐石弁当大人の休日・春を食べ始める。エビフライや唐揚げなど、メインだが油っこい物は残して有るな……老人を高血圧で殺す気か?

 

「ふん!ジジィみたいなロリコンにはご馳走だろ?美少女の食べ残しは……」

 

 ニヤニヤしながら、茶々丸がポットから入れてくれたお茶を飲みやがって!僕にもくれるんですか?有難う御座います。

 ズズーッとお茶を飲みながら、一つ目を食べ終わる。

 

「美少女じゃなく美幼女じゃな……しかし老人には2つで目一杯じゃ。これらは残すかの……」

 

 そう言うと、茶々丸が包装紙で包み直す。

 

「ふむ……捨てるのも忍びないし、誰かにあげようかの?」

 

 そう言った瞬間に、周りの温度が上がった。暑苦しい位に牽制し合う乗客……

 

「お祖父様、その残りの弁当は私めが処理を致します……」

 

「いやいやいや!俺、俺が食べるって!」

 

「ふん!卑しい連中め……爺さん、俺がキチンと食べてやるぜ」

 

 比較的若い男達が名乗りを上げた!

 

「ふむ……では仲良く分けるんじゃぞ?」

 

 そう言って茶々丸を目で促し、彼らに弁当を渡し……た?直ぐに取り合いが始まったが、気にしない事にする。

 

「もう小田原か……ジジィ、車内販売を勝ってよいか?」

 

 僕はハイテンションなエヴァに、ただ頷くしかなかった。

 

 

 

 昔の人は言った……旅の楽しみは食べ物だと。

 大宮駅で駅弁を買い漁り適当につまんだ後、車内販売の笹蒲鉾をくわえてはしゃぐ洋ロリ……和みますね?

 周りからは、孫娘と旅行を楽しむ金持ち爺さんな感じになってます。

 

 流石は認識阻害!

 

 緑の髪の茶々丸も、変な頭の僕も問題無く馴染んでいます。エヴァは海が見えてきた辺りから、窓にがぶり寄りだ。

 茶々丸が靴を脱がせて居る。シートに横向に正座をして窓を眺める美幼女……そろそろ他の車両にも噂が広まったのか?

 前の通路を無闇に通おる連中が増えて来た。因みにグリーン車だから、そんなに通れる筈はないんだけどね……

 

 あっお前!

 

 何気無く携帯を見ながら歩いてる振りをして、録画モードだな。仕方ないから、僕の後頭部をアップで撮らせてやるぞ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 流石に名古屋を過ぎた辺りから疲れたのか?茶々丸の膝の上で眠ってしまった。

 マスターの髪を梳きながら、僕と向かい合わせで座る茶々丸……2人とも言葉は少ないが、長閑な時間が流れていく……

 

「学園長……学園長が引退して、私達が関西に行くのは賛成です。しかし、本当に麻帆良学園を去るのですか?」

 

 ん?茶々丸は爺さんが麻帆良学園に愛着が有り、本当に二度と来れなくても良いのか……そう聞いてるのかな?

 

「儂は、儂の立場は微妙じゃからな。一度離れれば、麻帆良に立ち入る事は難しい。

何しろ、正義の魔法使いを目指す者が大戦の非を認め関西呪術協会に謝罪するのじゃから……頭の固い彼らは納得出来ないじゃろ?」

 

「そうですね。未だにマスターに隔意有る人達ですから……学園長が去った後の、私達の扱いは酷いと思います」

 

 あれだけ周りを説得したが、エヴァに向ける隔意は変わらなかった。シスターシャクティーや弐集院先生や明石教授位かな?

 態度を軟化させたのは……ガンドルフィーニ先生は、警戒が必要だ!って騒いでたなー。

 

 半ば強行した関西行きだが、基本的に魔法先生達は関西呪術協会に興味が薄い……島国の一呪術団体位な位置付けなんだろうね。

 

「登校地獄……確かに強力だが、大雑把じゃからな。騙す事は難しくない。それに感じているじゃろ?

麻帆良学園を出てから……エヴァの魔力が強くなってないか?」

 

 エヴァが麻帆良を離れる。つまり彼女の魔力を縛る結界が作用しない。逆に、その膨大な電力を結界に回せるんだ。

 エヴァの魔力を押さえ付けられる程の電力だ。結界の強度は下がるが、さほど心配する程でなはい。

 

 逆にエヴァが騒ぎ出さないのが不思議だった……

 

「ふん……知っていたよ、私の魔力を押さえている小細工が有るのを。初めて麻帆良に来た時は、魔力は普通に使えた。

それが急に使えなくなったのが不思議だった。当時は呪いの一部と思ったが、ジジィの仕業だろ?」

 

 そうなんだ……爺さんが結界の強化に流用したんだよね。序でに彼女に首輪を付けたんだ……

 

「そうじゃ……

魔法世界で半ば伝説のお前さんが、幾らナギが連れてきたからと言っても受け入れはしない連中が多かったからの。

だから麻帆良学園に呪いで括り、尚且つ力を封印したのじゃ……悪かったとは思っている。

暫く様子を見て、魔法関係者が軟化すれば或いは解除もと思ったが、な」

 

 いえ、爺さんは結界強化を緩めるつもりは無かった……つまりナギやネギ君とかがエヴァを解放しない限り、自分からは解く事はしなかっただろう……

 でも彼女達を麻帆良に残して行けば、悲劇しか無いだろうね。

 下手をすれば、弱体化したままネギ君の踏み台として討伐されそうだ……ネギ君は善悪とか、その辺の考え方が固いから簡単に騙されるだろう。

 

「まあ良い……ジジィも関西に同行する護衛が、最盛期の私ならば都合が良いのだろ?

なにせ西洋魔法使いの嫌われ者を関西に引っ張るんだ。連中への牽制や意思表示には丁度良いな。

これならジジィは関東魔法協会に見切りをつけたと言っても良いしな。考え方次第では、今度は向こうに喧嘩を売ってるぞ」

 

 くっくっく……私はそれでも構わないがな!とか、怖い台詞を言われたけど……

 

 本当に解放したエヴァを関西に連れて行くのはマズいのかな?

 連中からすれば頭の痛い存在が居なくなるのだから、良くないのかな?

 

「マスター……

学園長は私達を残していけば、必ず迫害か討伐をされてしまうのを理解して関西同行を許したと思います。

どちらにしても、関東魔法協会の会長職を辞して関西に戻るのですから。

彼らからすれば裏切り行為……戦力は多い方が良い。そう言う事ですよね、学園長?」

 

 えっ?アレ?僕は死亡フラグを潰して、関西で余生を楽しく過ごしたいんだけど?

 

 何だろうか……所謂、魔法世界の本国に敵対する事になってますよ?

 

 職業選択の自由が有りますよね?退職の自由だって有りますよね?ね?

 

「大したジジィだよ!全く私達をこうも簡単に自軍に引き込むとはな……

まぁ私達にもメリットはデカいし、ネギ・スプリングフィールドの扱い方を見ても魔法使い側で無いのは理解しているよ。

まぁジジィが死ぬ迄は関西呪術協会に雇われてやる。その代わり、呪いを本格的に解く研究に協力しろ!

呪術の本家なら、何かしらのヒントが有るだろう」

 

 さっきまでは旅行を楽しむ幼女だったのに、今は凄い勘違い理論を展開してる幼女だぞ!

 

「いっいや……エヴァ、それは違う……」

 

「皆まで言わせるな……大丈夫だ!誰が来ても守ってやるよ。なぁ茶々丸」

 

「はい。

先立って姉さんと、デストロイモード装備一式を宅配便で送って有ります。軍隊でも持って来いや!この野郎状態です」

 

 はぁ?姉さん?チャチャゼロさん?デストロイモード?軍隊って戦争するの?

 

「いや、その、何だ……穏便に、な?

儂も関西と仲良くしたいから、今回の訪問なんだし……端っから喧嘩モードは良くないと思うのじゃよ……」

 

 なにその分かってるから安心しろや!みたいな態度は?

 今回は確かに、関西の跳ねっ返りの護衛とエヴァへのご褒美の意味で同行して貰ったんだよ。

 そんな深い考えは無かったし、そもそも引退して余生を楽しむ所じゃ無いよね?

 

 そんな未来設計は嫌だー!

 

 

 

 古都京都……

 

 現在は国際的に観光地として有名だが、かつては日本の政治と文化の中心だった都だ。

 関西呪術協会と言う日本古来の呪術集団と、京都神鳴流と言うトンでもない剣士集団が居る魔都だ。

 兎に角、京都神鳴流とは刀一つで魔法にも匹敵する攻撃力を発揮する連中だ。

 ピンキリだが、桜咲刹那を見ればどんな集団かは見当がつくし、今のトップは歴代最強だそうだ……

 短く感じた新幹線の旅も終わりが近付いて来たみたいだ。

 車内の電光掲示板に、next station Kyoto の文字が走っている。周りの景色にも古い寺社仏閣が見えている。

 

「アレが京都タワーか……古都京都には似合わないな。

ふむ、東寺……いや教王護国寺の五重塔が見える。素晴らしいな。

ジジィ知っているか?あれは真言宗の総本山であり、弘法大師空海の……」

 

 エヴァの蘊蓄を聞き流し、降りる支度をする。新幹線は滑る様に京都駅のホームに入る……小さな手提げ鞄一つの僕。

 手ぶらなエヴァ。そして大きなトランクを軽々と引き摺る茶々丸……どんだけ荷物あるの?

 ホームには事前に連絡しておいた為に、近衛本家からの人員が待機していた。

 

「近右衛門様。お久し振りで御座います」

 

「うむ……世話になるぞ」

 

 数人の厳つい和服連中を見て、何処のヤクザの大親分かと周りが遠巻きに警戒している。

 

「ジジィ、お迎えか?」

 

「学園長、近衛本家の方々ですか?」

 

 その後ろに居る金髪幼女と緑髪美少女の存在に、アレは何なんだ?みたいな空気が流れる……

 

「ヤクザの大親分の孫娘か?しかし外人だから、マフィアか?」

 

「どう見ても似てないし、洋ロリだぞ?」

 

「緑の髪の毛?美少女コスプレイヤー?あの爺さん、何者だよ?」

 

「写メったら怖いお兄さんに連行されるかな?」

 

 認識阻害の魔法が効いても、この程度の騒ぎにはなる……しかし普通なら、僕の頭を見て驚くだろうから……それなりに効果は有るんだよね。

 近衛本家の連中に先導され、ターミナルに停めてあるリムジンに乗り込む。全部で二台だ。

 

 エヴァも茶々丸も同じ車に乗り込む……音も無く走り出すリムジン。流石は高級車だけあり、車内は静かだね。

 

「近右衛門様……屋敷の方に近代兵器一式と……可愛い人形が届いてますが、アレは何んでしょうか?」

 

 ああ、さっき聞いたアレか……

 

「武装一式は私の装備です。アレなら軍隊でも止めてみせます」

 

「人形は、私の従者だよ……魔力回路は繋がったからな。そろそろ動き出しているだろう……」

 

 茶々丸とエヴァを見て、本家の方々が微妙な表情を浮かべている。

 

「何じゃ?彼女達は儂の護衛じゃよ。多分じゃが戦力的には最高クラスじゃ」

 

「闇の福音……実在したのですな。都市伝説の類かと思っていました。

そろそろ屋敷に着きます。暫し休まれてから関西呪術協会にお送りします」

 

「姉さんと話すのは、別荘の外では久し振りですね」

 

「ふん。アヤツも存分に暴れさせてやらねばな」

 

 何やら不穏な台詞が?

 

「エヴァよ……専守防衛じゃぞ?くれぐれも穏便にな……」

 

 良い笑顔を浮かべる洋ロリに念を押す。勿論、茶々丸にもだ!

 未だに爺さんを良く思ってない連中が居る都市だが、取り敢えずは何も無かった。

 仕掛けるなら移動中か夜か……そう思い警戒していたが、流石に昼間に街中では仕掛けてこないのかな?

 気を付けないといけないのはコレからだけどね……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 京都の近衛本家……

 

 

 客間の和室で寛ぎながら、雪見障子越しに遠くの山々を見れば、未だ雪が積もっている。

 近衛本家は爺さんの実家だ……普段は麻帆良に単身で居るが、それなりの人材・それなりの結界で守られている。

 

「ケケケケケ!久シ振リダナ、オイ」

 

「姉さん、刃物を振り回すのは危ないです」

 

 そして居間には、自慢?の獲物の手入れをする人形姉妹?が居た……

 割と広い和室を二間続きで使用しているのだが、隣の部屋を占領する機材の山と刃物の山。

 チャチャゼロは大振りのナイフの手入れをしている。中には、我が家に有った日本刀の類も有る。

 見た目はエヴァよりも更に幼女だが、彼女曰わく男女とかの区別は無いそうだ……どう見ても女の子だし、服装も女の子なんだが。

 球体関節が、彼女を人形と思わせるのだが……正直な感想を言えば、抱き締めたい。

 

 そんな愛らしさが有ります。

 

 チャチャゼロのゼロとは、エヴァはチャチャシリーズでも造ってるのだろうか?その集大成が茶々丸か?

 その茶々丸はと言えば、チャチャゼロの隣でデストロイモード装備を組み立てて居る。

 まるでバックパックウェポンだ……多分だが、重機関銃とか言うのを組み立てている。

 ウチの連中が本体だけでも10キロ以上、弾倉を含め30キロを超える機関銃を軽々と振り回す茶々丸に拍手を贈っていた。

 他にも色々な武器弾薬が並んでいるのだが……携帯ロケットランチャーやら色々と危険なブツが並んでいます。

 

 こんな物が宅配便で送られて良いのか?

 

「あの……茶々丸さん?そんな重装備では、街中を歩けんぞ?

どうするつもりじゃ?チャチャゼロも、そんなに刃物を帯びては……」

 

 どう見ても、職務質問から逮捕の流れしか思い浮かばない……

 

「ケケケケケ!細カイ事ヲ言ウジャネェカ?」

 

「学園長、大丈夫です。此方で待機し、マスターに召喚して貰いますから」

 

 ああ、契約のカードか……アレって便利だよね!アイテムも貰えるしさ。

 しかし、そんな過積載みたいな装備を背負った茶々丸を召喚出来るのか?

 

「ケケケケケ!心配スンナッテ。敵ハ皆殺シニスッカラ、安心シロッテ」

 

「何てフリーダムな従者達じゃ……エヴァ、エヴァよ。何とかして欲しいのじゃが?」

 

 物騒な従者2人を従える吸血鬼の真祖は……のんびりとお茶を啜っていた。

 

「ふん!苦労性だなジジィ……さて、そろそろ時間ではないか?では、関西呪術協会の総本山に行こうか!」

 

 すくっと立ち上がり、決め台詞を言うエヴァ……頼もしいのだが、口の回りにみたらし団子の餡がべったり付いています。

 

 僕達の分まで、1人で食べていたからなー。

 


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