僕は麻帆良のぬらりひょん!   作:Amber bird

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第2話

 公園のベンチに座り、買ってきたばかりの肉まんにガブリと食い付く。ホカホカの皮とジュっと広がる肉汁に、思わず火傷しそうになる。

 

「あちち……舌が火傷するよ!でも美味いな」

 

 黙々と肉まんを食べ続ける……2つを食べ終わり、落ち着いたので買っておいた缶コーヒーのプルタブを開ける。

 カシャっとした小気味良い音をしながら開けて一口……本当は、炭酸飲料が飲みたい!

 

 しかし、人目が有るし爺さんにサイダーは似合わないだろう。口の中の肉汁を流し込む様に、缶コーヒーを飲み干す。

 ベンチの隣に有るクズカゴに捨てて、大きく伸びをする……

 

「良い天気じゃのぅ……」

 

 未だに慣れない爺さんの口調を真似てみるが、微妙に違う気もするんだ。誰も違和感を抱いてないのかが不思議だ……

 もしかしたら、何時もと違うな?って感じている人も居るかもしれない。

 

 問い詰められたら、どう誤魔化すか……

 

「実は違う世界で死んだ高校生なんですが、目が覚めたら爺さんでした!」

 

 ……駄目だ。ボケ老人として介護施設に直行だ!

 

「年かのぅ?段々昔の事を思い出せなくなってのう……」

 

 まさに老人性痴呆症が進行中です状態。介護施設に直行だ!

 

「儂は変わっておらん!昔のままじゃ」

 

 老人性痴呆症の症状として、怒りっぽくなるそうだ。これも介護施設に直行だ!

 

「駄目だ……何を言っても、ボケ老人で納得されてしまう」

 

 これからの見通しは、真っ暗だ……しかし、今は悩んでいても仕方ない。勢い良く膝を叩いて立ち上がる。

 綺麗に整備された公園内を見回しながら歩き出す。

 冬の時期だが、それなりに緑が有り目を楽しませてくれる……そう言えば、憑依してからこんなにノンビリしたのは初めてだ。

 たかが高校一年生が、あんな化け物みたいな連中と話し合いをしたんだ!それだけでも大した物だろう。

 一応トップだから周りも気を使っているが、半端ないプレッシャーを正面から受けたら間違い無くボロがでるよ。

 少年漫画のノリで話を進めたけど、後は彼らにお任せしよう……彼らは本職の教師でも有るんだ。

 僕がとやかく言うよりは、余程効率的な教え方を知っているだろう……しかも大切な英雄の息子さんなんだし。

 

 餅は餅屋、教育は教師の仕事だよね。

 

 石畳の歩道をノンビリと歩き、住宅街を抜けたら我が家が見えた。洋風建築が建ち並ぶのに、ここは純和風だ!

 まぁ着物を着た爺さんが、洋風な屋敷に住んでいたら違和感が有り過ぎるか……ベルサイユ宮殿に、髷を結った着物姿の爺さん。

 

 確かに似合わない……

 

 逆にドレスアップした貴婦人が、和室でコタツに入っている。こっちも変だ……見てくれに会わせれば、日本家屋が一番か。

 お手伝いさんに迎えられて私室に入ると、机の上に小包が……アレが来たのかな?

 

 宛名書きを見れば、まほネットから送られてきている。間違い無くアレだ!

 

 しかし、今はお手伝いさんも居るし夕飯とかで顔を会わせるから……開けるのは、寝る前の時間帯だな。

 チクショウ、我慢出来るか分からないぜ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 家の者達が私室に戻り寝静まった頃に、漸く書斎に置いてある小包に向かい合う……ワクワクと包装紙を破いて中身を確かめる。

 まほネットで取り寄せたアレ!

 

「赤いあめ玉・青いあめ玉・年齢詐称薬」

 

 一粒二千円の怪しい薬だ!しかし、成長させる方は要らなかったな。僕は若返りたいんだよ!

 先ずは説明書を読む。ナニナニ……赤いあめ玉を食べると年を取り、逆に青いあめ玉を食べると若返る。

 効果は幻術により周りに年齢変化を感じさせる事で、実際に年を取ったり若返ったりはしない……何だ、見せ掛けだけなのか。

 

 試しに一粒食べてみる。

 

 ボフンっと言う音と共に効果が現れたみたいだ。期待に満ちて鏡を見る。どれだけ若返ったのか?

 

「アレ?全く変わって無いよ……」

 

 爺さんだから一粒じゃ駄目か。もう一粒食べてみる。同じ様に、ボフンっと音がして効果が現れた。

 

 鏡を見る……

 

「余り変わってない……いや、少し若返って爺さんからオッサン?」

 

 説明書には、一粒で10歳前後の変化が有ると……70歳を越える爺さんが、二粒食べて50〜60歳。元の年齢になるには、あと四粒位か?

 ひょいひょいと二粒を口に放り込む……何故か先程より反応が?

 

 一際大きくバフンッと音がすると……中々精悍な少年が立っていた。鏡を見て喜びが湧き上がる!

 

「ヨッシャー!成功だ。若いし、頭の形も普通だ!やった、成功だよ。

チクショウ、爺さん若い頃はイケメンじゃねぇか!金持ちのイケメンかよ。モゲロよ!いや、今は僕のだから駄目だ!」

 

 心の底から湧き上がる喜び!普段より、いま前の体の時もこんなに高揚した感覚は無かったんだけど?

 

 妙にハイテンション!

 

「ヒャッハー!部屋になんて閉じこもってられねーぜ。くっくっく……夜の麻帆良を探検だぜー!」

 

 落ち着いて部屋になんて居られない。興奮して体が熱いぜ!丁度冬だし、外で体を冷やそうか。

 自分の体を見回す……着物かよ、ダセーぜ。衣装箪笥を引っ掻き回しても着物ばかりか……

 

 おっ?

 

 何だ、この古い学生服は?ああ、爺さんの青春の思い出か……少し防虫剤臭いけど、構わないや。

 洋服に身を包み、財布を持って屋敷を出る……久し振りに爺さんじゃない格好で、しかも憑依前よりイケメンで出歩けるなんてな!

 

「麻帆良よ……俺は若返って帰って来たー!アーッハッハッハー!サイコーにハイってヤツだー!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 気分は高揚している!

 

 足取りも軽く徘徊するが、所詮は学生の街。夜遅くに開いている店もなければ、人通りすら無い。

 

「おっ?灯りが点いている店が有るな!……MAGGY?コンビニか?」

 

 夜中の街を徘徊するのも飽きたし、コンビニで立ち読みでもするか。この世界の漫画ってどうなんだろう?

 ネギ君の教育資料として、魁る男の塾とか熱血漫画が有るのかな?等と考えながら店のオートドアを潜ろうとしたら、声を掛けられた。

 

「近衛君?近衛君でしょ?」

 

 女性の声で呼び止められた……

 

 

 

 

 まほネットで取り寄せた、年齢詐称薬……四粒飲んで十代の姿に若返った僕は、生まれて初めての高揚感に身を包み、夜の麻帆良に飛び出した!

 しかし、所詮は学園都市……学生が多く住む街は、生活サイクルが昼間を中心としているのだろう。 

 深夜に開いている店を探すのが大変だった。漸く見つけたコンビニに入ろうとした所で、女性の声で呼び止められる……

 

「近衛君?近衛君でしょ?」

 

 耳元で聞こえた声に振り返れば……話し掛けてくれた相手が居ない?

 

「……アレ?幻聴かな……」

 

「反応してくれたって事は聞こえていますよね?近衛君、私です。相坂です」

 

 声はすれども姿は見えず……相坂……相坂だって?相坂と言う単語に反応し、爺さんの記憶が浮かび上がる……

 相坂さよ。爺さんの初恋の相手だ……

 

「相坂……さよ……」

 

「そうです!相坂さよです。近衛君、60年振りですね!

良かった、やっと話せる人を見つけられて……それで近衛君は何故、姿が変わってないの?」

 

 

 いやいやいや……声のする方を気合いを入れて見詰めると、ぼんやりと少女の姿が見えた。

 古風なセーラー服を身を包んだ、中々の清楚で大人しい感じの美少女だ!

 

 幽霊?自縛霊?

 

 幽霊の存在は、記憶で居ると理解している。しかし実際に見えるとなれば、驚きだ!

 

「いや儂……いやいや僕は近衛だけど近右衛門じゃなくて……ああ、違うんだよ」

 

 コンビニの中から店員が不審な顔で見ているのに気が付いた。

 

「ちょっと待ってて……」

 

 取り敢えず携帯を開いて持ちながら店内に入りパタンと閉じる。オーバーリアクションだけど、携帯で通話していたアピールだ。

 店内をぐるりと周り、缶コーヒーを二本持ってレジへ。未だに不審顔の店員を睨み付ける様にしてカウンターに置く。

 

 大学生位の店員は、慌ててバーコードを商品に当てて「240円になります!」て言ってきた。

 

 コンビニ袋に入れて貰った商品を受け取り外に出る……

 

 オートドアの脇に居た相坂幽霊に「人目が無い所まで付いてきて……」と言って先に歩き出す。

 

 暫くは無言で夜の町を歩く……見える人が見れば、幽霊に取り憑かれた人に見えるだろう。

 コンビニから少し歩いた所に有る公園に入りベンチを探す。少し街灯から外れたベンチを見付けて、そこへ行く。

 多少暗い方が、相坂幽霊が良く見えるかも?と思ったからだ。

 

 ベンチの端に座り、隣を見ると相坂幽霊も座っていた。姿がハッキリ見えるのは、焦点が合ってきたからかな?

 二本買った内の一本を差し出す。

 

「ごめんなさい……私、飲めないから」

 

 俯いてしまった彼女の脇に、プルタブを開けて置く。

 

「一人だと飲みにくいからね。付き合ってよ」

 

 そう言って自分の分もプルタブを開けて一口……少し冷めたが、ほろ苦い味が口の中に広がる。

 

「相坂さんは……幽霊なんだよね?」

 

「もう60年以上も幽霊をしています。近衛君は……生きてるみたいだけど、昔のままだね。もしかして、不老不死なのかな?」

 

 何故か嬉しそうな顔をしている。

 

「相坂さんの言っている近衛君とは……近衛近右衛門は、僕の爺さんだと思う。

君の事は、爺さんが飾っている写真で知っていた。でも幽霊とは……正直、今でも信じられないよ」

 

「じゃあ、近衛君はもう……」

 

 さっきとは一転、悲しい顔をする。

 

「いや、元気に生きてるよ……」

 

 爺さんの魂が、意識が何処に有るかは知らない……しかし、体は元気に生きて居ます。

 

「そうなんだ!元気にしているのね?」

 

 それから、黙ってしまい並んで座るだけ……

 

「近衛君……私の事が怖くないの?私、地縛霊……じゃないけど幽霊だよ」

 

「うーん?幽霊だけど、相坂さん可愛いし怖いって感じじゃないんだ。何だろう?素直に言えば、珍しい?」

 

「めっ珍しい?確かに私は幽霊だから、珍しいのかな?」

 

 顔を見合わせてクスクスと笑う。

 

「私ね……私を見える、見てくれる人を探していたの。

昼間は2-Aに居るんだけど夜は暗くて怖いから、コンビニかファミレスの前に居るんです。

色々な人に話し掛けるけど、誰も気がついてくれないから、寂しかったんだ」

 

 そう言って儚く笑う彼女は紛れもなく美少女だ。

 

 神様……

 

 何故、枯れ果てた爺さんの体に押し込んだのに美少女と引き合わせるのですか?しかも木乃香ちゃんは、血の繋がった孫娘。

 さよちゃんは、既に亡くなっている幽霊。

 

 何故なんですか?

 

「ゆっ幽霊なのに、暗がりが怖いって?相坂さん、面白いですよ」

 

「いえ、笑い話じゃないんですよ。それに暇なんです。だからバトントワリングの練習したり……」

 

「バトントワリング?」

 

「ペン回しです。結構上手なんですよ」

 

 幽霊が、教室で黙々とペン回しの練習?シュールだ……

 

「他に何か出来るの?」

 

「気合いを入れると、ポルターガイストや血文字を浮かび上がらせる事が出来ます!」

 

 力こぶを作る様に腕を振り上げる!

 

「ポルターガイストに血文字……怪奇現象だよね?他には何か出来るの?」

 

 振り上げた腕を下ろして、シュンとうなだれてしまう。

 

「他には何も……」

 

「いや、普通それだけでも凄いから!相坂さん凄いなー」

 

 誤魔化すように言って、手に持っていた缶コーヒーを飲み干す。すっかり冷えてしまっていた。

 近くのゴミ箱に投げ入れる……しかし入らない。

 入れ直そうと立ち上がるが、空き缶はフワリと飛び上がってゴミ箱の中へ。

 相坂さんの方を見れば、眉間にシワを寄せて意識を集中しているみたいだ……

 

「えへへ!ポルターガイストです」

 

 微笑んでくれた彼女は、本当に儚げで優しい女の子だった。

 

「コレ、どうしましょう?すっかり冷えてしまったけど、私は飲めないから……」

 

 彼女の脇に置いてあった缶コーヒーを持つと、一気飲みをした。今度はゴミ箱に歩いて近付いて入れる。

 

「ゴミはゴミ箱に、ね?」

 

 二人で微笑み合う。

 

「また会おうね。今日は遅いから、帰るよ。相坂さんは、これからどうするの?」

 

「私は……コンビニかファミレスの方に行きます。やっぱり教室は暗くて怖いから」

 

 彼女は60年間も、そんな生活をしているのか……

 

「それじゃ!また会おうね」

 

 手を振って別れの挨拶をする。

 

「うん!また会って下さい。私、昼間は女子中等部に居るけど夜はコンビニかファミレスの前に居ますから……」

 

 そう言って律儀に歩いて行った。飛んだり消えたりは出来ないのだろうか?

 

「相坂さん、か……今時珍しい、大和撫子な娘だな。

いや木乃香ちゃんもそうだけど、彼女は結構ヤンチャな気もするんだよな」

 

 麻帆良に来てから美少女遭遇率が高い。しかし、決して結ばれる事はない女の子達だけどね……

 

 

 

 相坂さよ……

 

 60年間も幽霊をしている、幽霊なのに暗がりが怖いと言う優しい娘。

 普通なら、其処まで現世に括られたか未練が有るから成仏出来ないと思う。

 そして執着から悪霊化するのが、ホラー漫画の定番なんだが……彼女は生前の優しさを持っている。

 しかし非常識な魔法使いが居ると思えば幽霊か……非常識の単語に反応して、記憶が浮かび上がる。

 

 忍者、ロボット、吸血鬼、カンフー娘、スナイパー、アダルトバディな女子中学生、園児体型の女子中学生……次々と非常識な連中が、頭に思い浮かぶ。

 

 この麻帆良って、非常識のびっくり箱だ!

 

「はっ、ハックション!ううっ寒い……真冬の夜に学生服だけじゃ寒いか。何かテンションも落ちたし、帰るか……」

 

 そう思った瞬間に、ボフンっと音がして年齢詐称薬の効果が切れた。

 

 ちょうど良いや、帰ろう……ポケットに手を突っ込み、来た道を戻って行く。

 あの年齢詐称薬の効果か副作用なのか、妙にハイテンションになった。

 普段なら幽霊と言う知識は有っても、ああも自然に話が出来たか分からないし……でも相坂さんとは、また会いたいな

 

「じっジジイ?何て格好をしてるのだ?コスプレか!」

 

「学園長……そのお年で、その格好では変態と呼称されても反論は不可能かと」

 

 いきなり後ろから、失礼な言葉を掛けられた?

 

 振り向けば……「エヴァと茶々丸か……」黒いマントを羽織ったエヴァと、制服姿の茶々丸が居た。

 

 エヴァの表情は、驚愕で目を見開いている。目線の先は僕……そして、今の自分の格好に思い至る。

 学生服を着たジジイ……コレナンテ、イメージプレイ?

 

「いっいや、コレは違うんじゃ!いや違わないけど、そういう意味でのプレイじゃなくて……」

 

「寄るな、変態ジジイ!茶々丸、画像を録画しているか?」

 

「はい。嫌々ですが、最高画質で録画中です」

 

 ちょ、お前なに言ってるの?

 

「じゃあな、ジジイ!変態プレイも程々にしろよ?」

 

 そう言って、人の話を聞こうともせず飛び立って行った。

 

「コラ!洋ロリ、戻って来い。ふざけんな、ロリババァ!お前だって600歳の癖に女子中学生じゃないか。変態はお互い様だろうが!」

 

 飛んでいった空に向かい暴言を吐く!

 

「誰が洋ロリだー!貴様こそ、変態ジジイだろうがぁ」

 

 踵を返し戻ってきた。600歳の癖に、短気で怒りっぽい。ボケの徴候だよエヴァ!

 

「儂は老い先短いから、昔を懐かしむつもりで学生服を着てみたのじゃ!断じて変態的な意味合いは無い。

エヴァこそ、深夜にエロエロな格好にマントだと?露出狂とは頂けないのぅ」

 

 彼女は中々刺激的な黒のアンダーコスチュームだ。病的なまでに白く細くしなやかな手足を極限まで晒して、裸足にマント!

 洋ロリ好きには、堪らないご馳走だ!

 

「こっこれは吸血鬼の基本的なスタイルだ!」

 

「嘘だ!普通はもっとゴシック的なドレスとかだ!

下着姿に近い格好で彷徨くのは、変態に襲われたい更なる変態だ!普通の吸血鬼は襲う方だろうが?」

 

 ハァハァと顔を近付けて怒鳴りあう。あと10センチでキス出来そうな位に……はっ、と気付いて顔を話す。

 

「ジジイ……変わったな。前はもっと飄々として掴み辛かったが!

口喧嘩など、暖簾に袖通しだった筈だ。どうした?悪い物でも拾い食いしたのか?」

 

 ヤバい?つい素で言い合いをしてしまった!

 

「嗚呼、マスター……あんなに楽しそうに学園長とお話するのは初めてです、ハァハァ」

 

 ……茶々丸さん?そんなキャラでしたか?記憶では、貴女は無表情クール美少女ロボだったはずですよね?

 ああ、ロボでなくガイノイドだっけ?

 

「わっ儂は変わっては……いや、変わったかのぅ。

エヴァよ。

600年生きて、お前は変わったのか?儂は高々100年にも満たないが、変わりつつある……」

 

 激高した表情を引き締め、訝しげに此方を睨む。

 

「……ジジイ?本当に平気か?おい茶々丸、ジジイは本当に平気なのか?」

 

 直立不動で隣に居る茶々丸に声を掛けるが

 

「学園長の体温・心拍数共に正常数値内です。声紋確認、本人の物です。

最後にお会いした時の画像と現在との身体的特徴の差違は2%以下です。この変態は学園長と同一人物と認められます」

 

 ……サラッと変態とダメ押しされた?流石に肉体的には爺さんだから、憑依して中の人が別人とは気が付かないのか……よかった。

 しかし、この子?も爺さんの野望の被害者なんだよな。力を封じ込めて学園に括り、ネギ君の成長の道具にしようとしてたし……

 

「儂は、そろそろ関東魔法協会の会長を引退しようと思うのじゃ……

麻帆良に括られ、儂の比護の下に居るお前さんじゃが、儂が引退したその後どうするのじゃ?その呪いが解けた後じゃよ?」

 

 鳩が豆鉄砲を喰らったみたいな顔だ。外見は洋ロリの美幼女のエヴァがすると、正直可愛いと思う。

 

「ジジイ、本気か?」

 

 本気です。危険な立場からは引退して、余生を好きに生きたいんです。後10年位しか寿命が無いと思うし……

 

「お前さんの呪いは……もはやナギでも解けんじゃろ?

アヤツは魔力は馬鹿デカいが繊細な制御など出来んかった。力任せの固結びの様な歪な呪いじゃ……

解く事は出来ん。ただ力ずくで引き千切る位が精々じゃろ?」

 

「ジジイ……

ナギは死んだ。しかし、ナギの息子が来るだろ?ソイツの血を死ぬまで啜れば解けるかもしれんぞ?

どうする?英雄の息子に害なそうとする私を……」

 

 洋ロリと見詰め合う。彼女は何を考えているのだろうか……

 

「エヴァ……」

 

 万感の思いを込めて、声を掛ける。

 

「マスター、学園長……その話し合いは場所を変える事を提案します。

下着姿のロリと学生服を着込んだ老人。深夜の密会は、面白過ぎるネタでしかありません」

 

「「どんな突っ込みだー!」」

 

 声を揃えて突っ込みを入れた!

 

「このポンコツ従者め!ネジを巻いてやる」

 

 茶々丸に襲い掛かるエヴァ!

 

「嗚呼、マスターご無体な!ハァハァ……学園長がイヤラシい目で私を眺めてます」

 

 何故か恍惚と喜ぶ茶々丸……君はM子か?

 

 

 

 お父さん、お母さん。お元気ですか?先立った不幸をお許し下さい。

 僕は貴方達よりも更に年上な爺さんの中に入り、悪の組織のトップに君臨しています。

 まだ一週間程ですが、前の世界では考えられない程の4人の極上な美少女達と出逢いました。

 

 しかし……しかしです。

 

 1人は、この体の持ち主と血の繋がった孫娘。

 1人は、60年物の幽霊。

 1人は、齢600年の吸血鬼。

 そして最後は、M子なロボっ子です。

 

 極上の美少女達なのに、どう足掻いても結ばれる事の無い彼女達……この世界の神様に、正面から喧嘩を売られた気持ちです。

 まぁ枯れ果てた爺さんだから、恋愛要素は皆無の人生なんですけどね。

 

 

 あの後……

 

「ジジイ……何を考えているか知らないが、話は落ち着いた場所でするぞ。明日の夜、私のログハウスに来るが良い」

 

 夜に美幼女の家に招待されました。女子の家に呼ばれるなんて初めてなのに……しかも洋ロリ。

 等と考えながら、ネギ君に手紙を書いています。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 拝啓、ネギ君。

 

 儂は、麻帆良学園の学園長を務める近衛近右衛門じゃ。君が来月から修行で来る事は連絡を受けている。

 失礼ながら、君について調べさせてもらった。

 君がナギの息子で有り、彼を追っている事を……そして君の成長の記録を……

 君は、君の年では習う事を禁じられている魔法を内緒で学んでいるのう?

 それ自体はいけない事じゃが、君の生い立ちを考えれば致し方ない事だ。

 その年で、其処まで力を得たのは才能と努力の賜物じゃろう。

 しかし、君は大切な事を置き去りにしている。

 

 それは、努力・友情・熱血じゃ!そもそも、独りで出来る事は少ない。

 

 君の父親であるナギでさえ、仲間と共に行動したからこそアレだけの偉業を達成出来たのじゃ。

 

 しかもメンバーは脳筋の筋肉馬鹿、むっつり剣士、変態魔法使い、ダンディー親父、老魔法使い、これらのアクの強い連中を纏め上げて、率いていたのだ!

 

 君は、人との繋がりが少ない。今の君では、彼らのような連中を率いる事は出来ないじゃろう。

 それは環境を考えれば、仕方の無い事だ。幸いな事に、麻帆良は学園都市じゃ。君と年の近い同性の子供達が沢山居る。

 此処で君には、人との絆の大切さを学んで貰う。その為に、本校男子中等部一年の副担任として赴任して貰う。

 君には期待しているのじゃ!だから先に資料を送ろう。分かり易い様に漫画じゃ!

 しかし、ネギ君の不足している物が沢山詰まっているのじゃ!

 学ぶ物は、君自身が読み取って欲しい。

 先に、これだけの内容を教えるのには訳が有るんじゃ!君には、正規の試練の他にもう一つの試練を与える。

 それは、一般人についてと女性についてじゃ!

 麻帆良学園は学園都市故に、男女共に沢山の生徒達が居る……女性の誘惑が多いのじゃ!

 

 ナギも女千人切りのサウザントマスター!とか、英雄色を好む!とか言われたが、あれは全くの誤解じゃ。

 その証拠に、君の母上以外とは結ばれていない。

 ナギには、やんちゃ坊主で生意気で……それでいて人を惹きつける魅力が有ったのじゃ!

 決してハーレムやモテモテ君を望んでいなかった。

 もし君が従者ハーレムを作るつもりならば、世界の半分を敵にすると思え!

 勿論、そうなれば儂も全力でネギ君と敵対するじゃろう……

 君には、タカミチ君が色々な手段で麻帆良の一般人の女生徒と引き合わせようと画策するじゃろう。

 

 残念な事に、彼はロリコンと言う心の病なのじゃ!そして君を悪のエロエロハーレムマスターにしようと目論んでいる。

 だからネギ君はタカミチ君が偶然を装い、あの手この手で女生徒に引き合わせようとするのを断るのじゃ!

 

 特に仮契約など言語道断!

 

 これが失敗したら、試練は即刻中止。イギリスに帰って貰う。

 あとタカミチ君がロリコンで、君を悪の道に引きずり込もうとしている事を知らない様にするのじゃ!

 時には味方を欺いても達成しなければならない事も有る。

 辛い事じゃがな……彼もまた、エロの被害者なのじゃ。

 彼の罪を暴かずに、そっとしておいて欲しい……それもまた一つの正義じゃよ。

 大変じゃと思うが頑張って欲しい。

 参考の資料本を同送するので、来日迄にしっかり予習をしてくるのじゃ!

 

 リングにかけろ!あしたのジョー!はじめの一歩!巨人の星!エースをねらえ!!魁男塾!聖闘士星矢!

 

 このスポ根&熱血バトル漫画で、漢らしい少年に育って欲しいのじゃ。

 

 君に期待する爺さんより

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 これで良いだろう。タカミチ君の牽制にもなるし、本人が女生徒と接点を持ったら警告。

 仮契約をしたら退場。報告書通りの真面目な子なら問題無いね。後は極力タカミチ君は海外出張だ!

 

 さてと……

 

 今夜はエヴァの家に招待されている。話はネギ君の対応と、登校地獄って変な呪いだ。

 爺さんの記憶によれば、麻帆良の警備をする者が欲しいとナギに零したら、エヴァを捕まえてきたんだ。

 当初の呪いでは弱体化は無かった。当然たよね、警備を頼む相手を弱らせてどうするの?

 しかし爺さんは、エヴァが反抗しても平気な様に首輪を付けた。

 それが、麻帆良にかかる魔法陣と電力による魔力弱体化の呪いだ。エヴァの膨大な魔力を麻帆良の結界に利用。

 

 大した爺さんだよ、本当に……使える者は骨までしゃぶるつもりかね?

 しかしエヴァのお陰で、麻帆良の結界が維持出来る。

 それは僕の安全にも直結しているから、おいそれと解く訳にはいかない……ならば、どうする?

 

 爺さんの記憶と知識では、幾つか解く方法が有る。流石は東洋の呪術士の流れを組む近衛家の当主。

 呪い的な事は、得意分野だった。登校地獄を解いても、麻帆良を離れない理由と麻帆良の結界の維持。

 

 これを両立しなければ……んー思考が爺さん的になっている気がする。

 普段なら可哀想だから!とか言って後先考えずに、呪いを解くとか考えた筈なのに……魂が肉体に影響されているのかな?

 僕も、段々爺さん的思考の持ち主になるのかな?

 

 んー、何だろう……ヤバい気がする。

 

 なまじ権力を持ってるから、こういう思考は拙くないか?

 僕が悪の首領的な思考になり……いや、実際に立場はそうなんだけど。

 自分が自分で無くなる?本当は怖い筈なのに、全然怖くないんだ……それが当たり前な気持ちが何処かに有る。

 昔の僕なら、絶対に考えなかった事なのに……僕は……僕は、どうなってるんだ?

 

 

 

 自分の性格が、知らず知らずの内に変わっていく恐怖……

 この体に憑依してから未だ一週間に満たない筈なのに、何故か謀略と言って良い思考をする様になっている恐怖……

 

 しかし、それを!

 

 その異常を普通だと考えてしまう恐怖……この街に来てから一介の高校生の僕が、悪の組織に染まりつつ有るのか?

 深く考えないと、それが普通だと思ってしまうからたちが悪い。

 きっと時間が経つと、こんな悩みや恐怖も薄れてしまうのだろう……これが彼らの言う、認識阻害なのか?

 早く今の立場を退いて、麻帆良を出ないと危険かもしれない。

 

 しかし……先ずは今晩の、エヴァとの話し合いだろう。

 

 エヴァンジェリン……

 

 真祖の吸血鬼。齢600年の悪の大魔法使いでありドールマスター。

 茶々丸とチャチャゼロと言う2つの殺戮人形を操る。今は魔力が足りず、チャチャゼロは動かせない。

 しかし動力源を科学に頼る事により、茶々丸は普通に動く。

 学園の魔法先生達も、忌み嫌っているが実力は一目置いている厄介な相手だ。

 

 彼女の枷は……

 

 麻帆良に括る登校地獄。魔力を抑える結界。この2つを持って、何とかしているんだ。

 魔力を抑える結界は、その魔力運用により麻帆良を守る結界の維持もしているから、誰も簡単に解放なんてしない。

 

 皆、自分が大切だから……

 

 僕だって、自分の護りを弱めるのは嫌だ。登校地獄を何とかする方法は幾つか有る。

 

 契約の精霊を誤魔化せる手立ては……

 

 ①卒業させる。これなら麻帆良に括られず解放される。

 

 ②通信教育に切り替える。直接教室に行かなくても、通信手段さえ有ればオーケー!何処に居ても良いが定期的なやり取りをすれば良い。

 

 ③臨時教職員として採用。麻帆良に括り、仕事も頼める。ある程度の自由も今よりは有るだろう。

 

 ④今のままで良いじゃん!これは、人間的にどうかと思います。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そして、現在エヴァのログハウスの玄関扉の前です。結局、考えは纏まらず此処まで来ました……

 

 では、呼び鈴を「いらっしゃいませ、学園長。マスターがお待ちです」がチャリと扉が開いて、メイド服姿の茶々丸が出迎えてくれた。

 

 取り敢えず、この人差し指はどうしたら……

 

「ああ、お邪魔するぞい……」

 

 何となく負けた気分で、家の中に入って行く。玄関から入り、直ぐ先の応接間に通される。ソファーに座ると直ぐにお茶が出される。

 

「粗茶ですが……」

 

 出された日本茶を一口。うん、安いお茶です。最近肥えた舌に突き刺さる、懐かしい味わい……つまり茶々丸さんには、歓迎されていませんね。

 黙々とお茶を飲む……

 

「お代わりをお持ちしましょうか?」

 

 甲斐甲斐しい言葉と裏腹に、手には「おーいお茶」のペットボトルが?

 

「……いや、もう結構じゃよ」

 

 これ以上は、主に僕の心にダメージがデカいから。

 

 暫く待つと「待たせたな、ジジイ。今日は何時もの服装だな。昨夜は肝を冷やしたぞ。遂にボケたかとな!」ニヤリとしながら、向かいに座る洋ロリ。

 中々にサディスティックな表情ですね。

 

「いやはや、エヴァにしてみれば儂など鼻タレ小僧じゃろうに……今夜は露出は無しじゃぞ」

 

 挨拶代わりの嫌みの応酬……やはり僕の性格が変わっている。吸血鬼なんて伝説上の怪物と差し向かいでも、恐怖を感じていない。

 

「ふん!普段通りか……しかし昨夜の話。ジジイ、現役を退くつもりか?」

 

「そうじゃの……儂がトップに居続ける弊害が出て来たしの。ネギ君の試練が終われば、引退も良いかの」

 

 黙ってお茶を飲み合う。エヴァには何時の間にか紅茶が用意され、僕の前にはお茶のペットボトルが置かれていた。

 ペットボトルの蓋を開けて、湯呑みに注ぐ。

 

「茶々丸、ジジイにちゃんとしたお茶を淹れてやれ」

 

 見かねた?エヴァが、茶々丸に頼んでくれた。

 

「はい。学園長、失礼しました」

 

 今度こそ、来客用の玉露を淹れてくれる……

 

「この仕打ち……年甲斐も無く泣きたくなるのぅ」

 

 淹れてくれたお茶を一口。

 

「ふむ、美味いの……」

 

 高々一週間で、随分と口が肥えたものだ。

 

「それで、関東魔法協会の会長を辞めてどうする?麻帆良をどうするんだ?」

 

「後任が本国より来るじゃろう……それ迄に、お前さんの事をどうするかじゃ!

まさか儂が居なくなっても、麻帆良の警備員を続けられるとは思っていまい?」

 

 下手したら、正義を掲げる魔法使い達に襲われるだろう。魔力を封じられたエヴァなら、もしもの事も有り得るし……

 

「私が自分にかけられた呪いについて何も調べてないと思うのか?来月、ナギの息子が来るだろう?奴の血を吸えば、この忌々しい呪いは解けるやもしれん」

 

 確かにネギ君の血には膨大な魔力が有る。吸血鬼の特性として、一時的に魔力が物凄く高まれば呪いに打ち勝つやもしれない……

 

「じゃが、どれだけの血液を必要とするのじゃ?ネギ君は精々が40キロ前後の体重……血液の総量は3リットル位じゃ。

人は急激に出血すると死ぬ。仮に二割を吸ったとしても0.6リットル。これ以上、一度に吸えば死ぬぞ。

仮に全てを吸い尽くしても3リットル程度で呪いを解けるのか?

エヴァよ……英雄と祭り上げられたナギの息子を殺害すれば、いくら儂では庇いきれん。呪いが解けても死を待つだけじゃ……」

 

 エヴァは黙り込んでしまった。高々3リットル程度では、呪いを解くには至らないだろう……

 

「ジジイ……正義の魔法使いにしては、随分な台詞じゃないか!英雄に祭り上げられた、か……他の奴らが聞いたら、どう思うかな?」

 

 確かに正義と言う免罪符を掲げた魔法世界の連中に、ナギと言う英雄は絶対的だろう。

 

「反発するじゃろ?エヴァよ……お前さん、呪いが解けたらどうするのじゃ?何かしたい事が有るのかのぅ?」

 

 あっさりと肯定した事に、少し驚いたみたいだ。

 

「くっ……したい事だと!この忌々しい呪いが解けたら、この地を離れて自由に暮らすだけだ!」

 

「エヴァよ……お前さんに自由は無いじゃろ?解っている筈じゃ。本国に目を付けられておるのだ。麻帆良と言う枷を無くせば……」

 

 彼女は確かに真祖の吸血鬼。強い力を持っている。しかし個人が組織に勝てると言うのは難しい。

 ナギだって勝った訳じゃない。ただ組織側が彼に利用価値有りと、英雄に祭り上げただけだ!彼女だって600年も追われ続けたのだ。

 

「エヴァよ……また逃げ回る生活が始まるだけじゃよ」

 

 彼女は何も答えなかった……

 

 

 

 深夜の応接間で向かい合う、洋ロリと爺さん。祖父と孫としては似ておらず、そこに甘い雰囲気も無い。

 仄かに漂うは殺気のみ……エヴァに、自由にはなれないと伝えた。実際には無理だろう。

 彼女は本国にも目を付けられている。自由になるには、何処かの組織の比護を頼むしかないが……そこに自由は無いんだ。

 吸血鬼の真祖にしても、ままならぬ世界。

 

「ジジイ……其処まで言うからには、何か考えが有るんだろうな?私を虚仮にしたんだ。何も無いじゃ許さないぞ」

 

 洋ロリに威嚇される。しかし見た目が可愛いので怖くない。其処まで本気で威嚇していないんだ。

 

「さての……お前さんの立場を明確にして、多少の義務を負えば見合った自由は確保出来るかもしれん」

 

「今だって麻帆良の警備員として働いているだろう?」

 

 確かにエヴァは外敵の排除をしてくれている。しかし立場は微妙で、周りも敵対こそしないが受け入れてもいない……

 

「エヴァよ……儂が居なくなっても後任とそれなりに付き合えるか?

お前さんのワガママを聞いてやれるのは儂くらいじゃ。本国のお堅い奴が来てみい。どうなんじゃ?」

 

「それは……奴らは私を始末するだろうな。だから自由と力を!」

 

「取り戻しても同じじゃろう……エヴァ程の力が合っても、600年も追われ続けたじゃろ?それとも次は逃げ切れると思うてか?」

 

 ダン!っと机を叩く!

 

「では、貴様等に飼い殺しにされる現状を受け入れろと言うのか?誇りある悪の魔法使いの私が!偽善者に頭を垂れろと?」

 

 誇りある悪の魔法使いを自認するエヴァには受け入れがたいだろう。茶々丸は、僕とエヴァを交互に見てオロオロしている。

 

「儂がお前さんに提示出来る事は2つじゃ。女子中学生に囲まれて、卒業と共に忘れ去れてしまう事は回避出来る。

永遠に繰り返すママゴトを止める事はの……

 

1つは通信教育に切り替える。毎日学校に行かずとも、通信手段さえ構築していれば後は自由じゃ!もっとも麻帆良からは出れんがの……

 

もう1つは、教職員として働くかじゃ。今よりは自由が利くし、確固たる身分保障になる。我らとて同僚は護るよ……これは呪いを解くのでは無く誤魔化す事じゃな」

 

「そんな事で誤魔化せるなら、いっそ卒業すれば!」

 

「麻帆良に括られずに済むやもしれん……しかし、お前さんを卒業させるなど本国が許さんよ。それは枷を外し自由にするのと同じじゃからな」

 

「マスター、お話に割り込んで済みません。学園長、2つ目の提案を呑んだ場合はどうなるのでしょうか?」

 

 大人しくエヴァの後ろに直立不動で聞いていた茶々丸が質問してくる。

 

「っ茶々丸、何を……」

 

「構わんよ。その場合は、麻帆良学園として表の顔……そうじゃな。お前さんの見てくれだと事務員とかじゃろうか。

裏の顔は魔法関係者として今まで通り麻帆良に侵入する輩の排除じゃ。

メリットは、学生でなくなる事により彼女達の卒業と共に記憶から無くなる事は無い。

正式な職員なれば、儂の比護を堂々と受けれる。表も裏もな。

デメリットは……お前さんが納得出来ない事じゃろうか」

 

 エヴァは神妙な表情で、しかし確固たる意志が有るのだろう。

 

「ジジイ……

それは、それは出来ない。私にも培って来たプライドも有るし貫いてきた生き方その物に関わる。私が私で無くなるよ。今更無理だ……」

 

 キッパリと言った。

 

「マスター……」

 

 茶々丸は微妙な表情だ……己の主人の安否に関わる事だから。出来れば受け入れて欲しかったのか?

 

「私が私で無くなる……」この一言は、僕にも当てはまる事だ。

 

「エヴァよ……直ぐにとは言わぬよ。儂は4月には職を辞そうと考えておる。お前さんには出来るだけの事はしよう。

しかし、今のままでは駄目じゃ。独りは弱い。茶々丸やチャチャゼロも居るじゃろう。

しかし、もっと沢山の絆を見付けてみてはどうじゃ?さすれば、誰にも干渉されない力も得られよう。では、帰るかのぅ……」

 

 よっこらせっと言いながらソファーから立ち上がる。

 

「ジジイ……ジジイは私と絆が欲しいか?」

 

「エヴァとの絆は既に有るじゃろ。絆とは人と人との繋がりじゃ。

それが利害関係・主従関係・友情・愛情・信頼……憎しみだって絆には違いないじゃろ?

今の儂とお前さんを繋ぐ絆はなんじゃろうな?良く考えてな」

 

 応接間を出て玄関まで歩いて行く。エヴァはソファーに座ったままだが、茶々丸は見送りをしてくれた。

 

「それじゃエヴァに宜しくの」

 

 片手を上げて挨拶をする。

 

「学園長。次に来られた時には最高のお茶をお出しします。マスターをお願いします」

 

 そう言って深々と頭を下げる……

 

「この爺さんの現役の内なら力になろう。しかし時間は少ないぞ」

 

 そう言って、後ろを振り返らずに歩き出す。道は示した。後はエヴァが判断する事だ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ジジイは帰ったのか?」

 

「はい、先ほど……」

 

 学園長を送り出し応接間に戻って来ても、エヴァはソファーに座ったままだ。

 

「ジジイは……

関東魔法協会の会長の座と麻帆良学園都市の学園長の座の両方を辞すると言った……本気なのだろうな。

悔しいがジジイ以外の相手では私は扱えないだろう。茶々丸……私はどうしたら良い?

私は、今更人との絆なんて……」

 

 頭を抱えて悩むエヴァ……溜まらず茶々丸は声を掛ける。

 

「マスター……

私はマスターの安全を優先させたいと思います。お話の間、学園長の心拍数・体温・発汗などを全て調べていました。

その数値を検討するに、学園長は嘘を言っていないと判断します」

 

 あの提案は偽りなき言葉だったのか……

 

「そうか……ジジイは嘘を言っていないのか。

しかし……そう簡単には生き方を変えられんよ。

ジジイは私に何をさせたいんだ?ただ私の為に提案する程、善人では無い筈だ。必ず裏が有る……」

 

 普段(憑依前)の行いからか、100%は信じて貰えなかった。

 日頃の行い、日常の積み重ね……これは双方にとっても、歩み寄りを妨げる一因で有り自業自得でもあった。

 

 

 

 エヴァのログハウスを後にして、トボトボと歩く……1月の夜風は、爺さんには厳し過ぎる寒さだ。

 彼女が、どんな答えを選ぶかが気になる……どんな結果で有ろうとも、最悪でも通信教育には切り替えてあげよう。

 結界の維持は、代替え魔力が無いから……

 

 魔力……

 

 魔力か……居るじゃん、2人も!ナギをも凌ぐ魔力タンクが!

 

 でも駄目だ。

 

 木乃香ちゃんは、こんなヤクザな世界とは関わり合いを持たせない。

 そしてネギ君を麻帆良に滞在させ続けるのも不可能だし、そもそも不味い事にしかならないだろう。

 アレは疫災の火種だ!色々な問題を抱え込む……それは英雄への試練。

 そして彼を利用するつもりの無い僕には、厄介事でしか無い。

 

 我が孫娘、木乃香……彼女が、麻帆良に居る意味って何なんだ?父親は、魔法世界から遠ざける為に魔法使いの街に送った……

 

 うん、バカだな!ムッツリ剣士は。

 

 しかも護衛は子飼いの刹那1人だけ……アレが関西呪術協会のトップで平気なんだろうか?

 こりゃ下を抑え切れずに、関東にチョッカイかけてくる訳だ。しかし爺さんはそれを踏まえて、彼が御し易いと見込んだ。

 単純バカだが、英雄の一翼だったからな。しかも戦力として数えられる。下が暴発したら、武力鎮圧も可能とみたか?

 

 僕の現役引退は、ハードルが高過ぎないか……先ずは関西呪術協会との関係改善が急務だな。

 

 謝罪と補償!これが一般的な大人の対応だ。

 

 しかし爺さんの個人資産は、僕の老後に必要だ。ならば有る所から、引っ張れば良い。

 学園都市麻帆良には、どれだけの資産が有るのかを調べるか……補償はこれで良し。

 では謝罪は?僕が責任を取って辞職する……後は公的な場所で謝罪会見かな?

 

 そして、ムッツリ剣士も一緒にクビだ!これなら関西の関係者も納得はせずとも誠意は伝わるだろう。

 後は時間が解決してくれるのを待つ。憎しみが風化する頃には、首謀者の僕はボケ老人か……既に、この世に居ないだろう。

 

 帰ったら、早速学園都市の資産を調べるか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 学園長室にて、仕事の傍ら調べ事をする。学園都市麻帆良の経済状況は凄いです。億単位の予算が、幾つも動いてます。

 しかし資金の流れに不透明な部分や、一部の部署に流用されている。汚職かと思えば、慈善事業も多々有る。

 表に出せないお金で助けている場合も多い。流石は正義の魔法使い!やる事は、ちゃんとやっています。

 

 んー難しい。一体幾ら要るんだ?

 

 関西の被害者家族は、百世帯位か?いや、もっと居るのか?1人頭2000万円として、百世帯で20億円か。

 例え倍にしても賄える資金が有るから平気かな?後はタイミングと、補償を認めさせるにはどうするかだ……

 正義に拘る連中だから、自分達が謝罪や補償を受ける側だと信じている。 

 これを覆すのは、並大抵の事じゃない……いきなり詰んだかな?

 

 パソコンを前に頭を抱える……

 

「真っ当な手段では納得しないだろう。ならば私財を投げ打って補償する事にしよう。しかし、流石にそんな金は無いから……業務上横領をする!」

 

 兎に角、金を押さえて補償する。横領でも何でも良いや。関東魔法協会の会長が私財を投げ打って補償した!

 この事実が重要だから……しかし犯罪行為だし、手段が限られるな。

 嗚呼、平気で犯罪行為をしようって思考に……やはり僕は狂ってるのか、狂い始めてるのか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 エヴァとの話し合いの後、今後の展開について考えた。残りの問題は金・カネ・かね……爺さんの個人資産は10億円程度。

 近衛の実家を頼れば、更に20億円は有る。これは資産の全てを売却した値段だ……

 

「詰まる所、どんな世界でも金が物を言うのか……」

 

「学園長?話を聞いていますか?」

 

 ん?目の前に巨乳が?いや源しずな先生か……

 

「ああ、すまんの。ちと考え事をしておった。で、何かの?」

 

「この書類の決済をお願いします」

 

 胸に抱え込んだ紙の束を机に並べる。

 

「校内階段手摺新設工事」

 

「本校高等部ドッヂボールコート新設工事」

 

「桜並木通り公園施設改修計画」

 

 年度末で予算が余ったので、来期に予定していた工事を繰り上げて起案した件か……決済承認の欄に押印する。

 この金額だけでも補償金に回せたらなぁ……裏金作りか。

 

「学園長?良からぬ事を考えていませんか?」

 

 しずな君は、勘が鋭いのかな?何時もドキッとする事を言うね……

 

「いや、全く考えてないぞ……ドッヂボール部が全国制覇したそうじゃな。

ウルスラだったか……コートの新設も仕方無しじゃ。

校内には階段に手摺が無い場所が多い。安全対策は必要じゃ。

桜並木通りか……夜は薄暗い部分が有るから、照明の増設は良いの。

それに夜は立ち入りを禁止する柵も良い考えじゃ。夜の公園なぞ危ない事になりかねん。

用無くば、立ち入り禁止措置が妥当じゃ……ちゃんと真っ当な事を考えているぞい」

 

 失礼しました!と、しずな君は書類を持って出て行った。何だろう?

 何かフラグを潰し捲った気がしてきたな……誰の何のフラグだ?まぁ良いか……

 爺さんの記憶を掘り下げでいったら……有りました、裏金。使途不明金として、プールし続けた予算です。

 多分、魔法世界関係で必要になった時に使うのだろう……後は、この国の政府関係者の賄賂とか?

 これだけの学園都市を丸々維持してる訳だし、外の常識を照らし合わせると色々不味い物も有る。

 工作費用は必要悪だね。自称正義の味方の連中は、この金については知らないみたいだ……これを補償にあてよう。

 有る所には有るものだね……しかも、この金は爺さん名義だし。やっぱこの爺さんは、誰が何と言おうと悪の首領だわ!

 この積み重ねた負債の清算を僕がするの?誰か味方に巻き込まないと危険かも知れないな。

 誰が良いかな……

 

 

 

 昔の自分の家程も有る広さの和室……寝室だけで広さは12畳だ。前は2DKに親子三人が暮らしていた。

 憑依してから、人との距離が開いた感じがする。

 

 近衛近右衛門……

 

 この昔話に出てくる妖怪の様な容姿の老人。裏の顔が、関東魔法協会のトップ。表の顔は、学園都市麻帆良の学園長。

 関西呪術協会の連中から憎まれている。僕は、何時ボケるか何時体が老化で動けなくなるかの不安と戦っている。

 

 男としてのパトスも……

 

 既に枯れ果てて、漢としては終わっている体。容姿も、恋愛事にはハンデにしかならない。魂は15歳なのだ!

 外観相応の相手だと、既にお婆ちゃんしか居ないだろう……恋人をすっ飛ばして茶飲み友達だ!

 

 それに……

 

 この体に染み付いた前の持ち主の思考が、僕にまで影響しているみたいだ。僕はごく普通の田舎で暮らしている、ただの高校生だった。

 日常は長閑で退屈で……毎日同じ時間が流れている様な単調な生活。

 精々が裏山から猪や熊が降りてくるのが事件扱いな平和な寒村だった。

 それが今では魔法と言う非日常的な力を持ち、戦争や権力争いが普通に有る世界の一勢力の長だ!

 そんなテレビか漫画の世界に僕は居る。しかも、性格が変わってきている。

 

 こんな異常な世界を当たり前に受け止め、そして謀略や犯罪ギリギリな行為を許容している。

 あまつさえ、魔法先生と言うヤクザな連中と会議で渡り合える程に……

 僕は、もう僕ではない違う誰かになっている。常識と言う認識がズレてきているみたいだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「おはよう。

明日、いよいよナギの息子。ネギ・スプリングフィールドを麻帆良学園に迎え入れる。皆の準備はどうじゃ?」

 

 一同に集めた魔法先生をグルリと見回しながら話し掛ける。今はネギ君の対策会議だ!

 皆期待に満ちた顔をしている……そんなに英雄様の息子が来るのが嬉しいのだろうか?

 彼には彼の責任ではない厄介事が、沢山有るんだよ!

 

 

 

 僕の目の前に陣取っているのは……

 

 タカミチ君。コイツは、明日居ない様に面倒な事件の……規模のデカいテロ組織の撲滅を頼んだのだが、本拠地壊滅と言う力業で早めに帰って来やがった。

 腐り輝く瞳で此方を見ている。一番危険なのは彼だろう。

 

 ガンドルフィーニ君や神多羅木君、それに瀬流彦君はネギ君の育成プランを嬉しそうに報告し合っていた。

 

「学園長!明日は私がネギ君を迎えに行きます」

 

 ニヒルな外見の癖に、人の良さそうな笑みを浮かべながら立候補するタカミチ君……渋いイケメンだけに余計にムカつく。

 

「いや、儂が出迎えをするぞ。本校男子中等部の校長は一般人じゃ。儂が行って色々と彼に便宜を図る様に頼まねばなるまい。

それにネギ君には話も有る。彼は田舎暮らし故に、魔法の秘匿に疎い傾向が見られる。

その辺も良く説明せねばなるまい。まさか、魔法が一般人にバレてオコジョ刑では洒落にならんからのぅ……」

 

 ネギ君の様な問題児を人任せにするのは危険だ!

 

 彼に先入観を……学園長たる僕が、一般人を巻き込むのを凄く凄く嫌っている事を分からせねばならない。

 

 何事も最初が肝心だ!

 

「しかし!学園長は忙しい筈です。ここは僕がネギ君を出迎え、学園長室に案内を……」

 

「学園長室は、女子中等部の中じゃ!

ネギ君には、一般人の女生徒との接触を極力避けさせるつもりじゃ。特にお祭り騒ぎの2-Aの連中には会わせん!

どうみても彼女達は、ネギ君の成長に悪影響しか及ぼさない。これは決定事項じゃ!分かったな、タカミチ君?」

 

 凄く不満そうだ!

 

 コイツ、やはり木乃香ちゃんや明日菜ちゃんと引き合わせるつもりだな。

 彼のパートナーにする様に仕向けるんだろう。当初の爺さんもそうだったから、急に方向転換した僕を疑っている……

 いっそお前がパートナーになれば良いじゃん!

 

「弐集院先生、瀬流彦先生。転勤の件で問題は有るかね?」

 

 この2人は先日辞令を出して本校男子中等部の先生として送り込んだ。ネギ君のサポートをさせる為に……

 

「問題有りません。僕のクラスの副担任としてネギ君を受け入れ、指導します」

 

「僕も同学年の担任になりましたから、慣れない彼を同僚としてフォローします」

 

 この2人は、比較的常識を弁えている。彼らなら変な優遇も甘やかしもしないだろう……

 

「うむ。彼の試練は、日本で先生をする事!本来は、コレを順調に行わせなければならん!魔法指導はついでなのじゃ。

表向きはの……

彼が麻帆良学園にいるのは僅かな期間じゃ!しかし関東魔法協会として、ネギ君に良き指導をしたと認められねばならん。

彼を一人前の漢として、イギリスに送り返せるようにじゃ!先生方も、そのつもりで宜しく頼むわい」

 

 

 一同、礼をして席を立って行った……

 

 刀子君やシスター・シャクティなどは無言だったが、反対意見は言わなかった。

 しかし表向きネギ君を優遇し過ぎているのが気に入らないのか?彼女達は、ネギ君とは接触させないから不満なのかな?

 

「学園長!やはり僕は納得出来ません。ネギ君は……マギステル・マギに、英雄にする子です。だから従者には」

 

「木乃香と明日菜君か?」

 

「そうです!彼女達の特殊能力は、必ずやネギ君の力に……」

 

 英雄にする子……コイツ、そう言ったぞ。

 

 やはり爺さんとタカミチの中では、イギリスから魔法使いの試練で日本に来たネギ君を関東魔法協会の手で英雄にするつもり……

 は麻帆良に関係する者達を従者にする事で関係を強めるつもりなんだな。

 

「タカミチ君や……

ネギ君をナギの息子の彼は、必ずや英雄になるだろう。しかし儂は、ハーレムを率いた英雄は万人受けはしないの考え直したのじゃ!

ナギは……

生意気で我が儘で自己中なクソガキだったが、不思議と人を惹きつける魅力が有った。

しかし報告書のネギ君は歪な優等生じゃ!魔法の習得の為なら禁書も無断侵入で読んでいる。

しかも幼なじみの女の子を巻き込んで……こんな姑息な手段は、ナギならしなかった!

分かるか、タカミチ君?先ずはネギ君を漢として再教育をするのじゃ!

漢の道に女は不要。

ネギ君が漢道を極めたなら……女など幾らでも集まるじゃろう。しかし、今は駄目じゃ!」

 

「漢道……ナギさんと同じ……分かりました、学園長!ネギ君を立派な漢に育てましょう」

 

「そうじゃ!

タカミチ君。君もネギ君を導くのじゃ。彼に漢の素晴らしさを伝え、ガキ大将だったナギと同じ英雄に……君が導くのじゃよ」

 

「僕が、僕の手でナギさんの様に……」

 

 腐り輝く瞳で、譫言の様にナギさんナギさん言ってるコイツも被害者なんだろうな……僕には理解は出来ないけどね。

 しかし、これで準備は全て整った。

 

 さぁ来い、ネギ君!

 

 

 

 久し振りに帰ってきた、家のソファーで寛ぐ。

 

 マールボロをくわえ火をつけ、紫煙を吸い込む……ふーっと吐き出し、バーボンを一口。

 グラスを傾け、ニヒルな仕草で漢の時間を楽しむ……先程の会議の内容を考え直す。

 

 学園長は変わられた……当初、ネギ君を。ナギさんの息子を2-Aの、才能ある女の子を集めたクラスに放り込むつもりだった。

 ご自分の孫娘をも巻き込んで、英雄たるナギさんの息子も英雄にする、と……しかし考え直したと言い、全く正反対の男の園に放り込んで教育すると。

 ナギさんは、確かに女性にはモテモテだった。しかし、いつも僕達仲間と馬鹿をやっている方が楽しそうだった。

 学園長の言ったガキ大将……まさにナギさんはガキ大将だった。

 しかしネギ君は歪な優等生と……優等生?ナギさんとは正反対だ!彼はカリスマ不良だろう。

 

 なる程、学園長は良く考えている。ナギさんのナギさんたる根本的な部分を僕は分かっていなかった……

 ならば、ネギ君を立派な漢にしてみせよう!

 まだ10歳だからな……酒も駄目だし煙草も駄目だ。

 

 ならばどうする?漢道とは何なのだ?分からない……品行方正な優等生をナギさんの様に変えるには……荒療治が必要だな。

 まほネットで、漢のキーワードで検索するか……久し振りにパソコンに電源を入れる。

 

 検索キーワードは「漢と教育」だ!

 

 

「漢字検定特訓、漢字検定はやわかり、漢字検定絶対合格……漢に字と書いて、何故漢字なのだ!

ああ?可笑しいだろう!漢字ならば、おとこじじゃないのか?」

 

 

 ハァハァ……このキーワードは駄目だ!今更ネギ君に漢字を教えても無駄だろう。

 

 

 次のキーワードは「漢と修行」だ!

 

 

「ふむふむ……滝行?滝に打たれる修行か。

深山幽谷に分け入り厳しい修行を修める事により、超自然的な能力が開化する、か……ネギ君を麻帆良周辺の山へ連れて行って鍛えるかな。

序でに僕もラーメン道の修行を行い、彼に究極のラーメンを食べてもらおう。

ふふふ……ネギ君と修行か、良いかもしれないな。ナギさんにも稽古をつけて貰った事もあったな……ナギさんの息子を僕が鍛える、か」

 

 思わず頬が緩む。

 

 それと、たかみちラーメン……世界を巡り自身で研究をしているが、イマイチ納得出来る物が無い。この麻帆良で究極のラーメンを作ってみせる!

 

「ふははははぁ!ネギ君、僕が君に究極ラーメンを食べさせてあげるからね」

 

 タカミチに究極のラーメン、世界チンミー麺への道が開けた!ネギに食中毒のフラグが立った!ネギにオッサンと山籠もり修行のフラグが立った!

 一つのドラム缶で、オッサンと混浴イベントが発生します。それは、某女忍者との修行フラグがへし折れた瞬間でもあった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 弐集院先生のお薦めの居酒屋で、明日から始まるネギ君の修行について話し合う。しかし、焼き鳥の匂いが気になり話に集中出来ない。

 

「瀬流彦先生!先ずは一杯どうぞ。お話は、少し食べてからにしましょう」

 

 そう言ってビール瓶を僕の方へ傾けてくれた。

 

「いただきます、弐集院先生。すいません。つい焼き鳥の匂いに気を取られまして……」

 

 話に集中出来なかった事を詫びてからビールを注いで貰う。焼き鳥にはビール!これは鉄板だ。

 

「いよいよ明日、ネギ君が麻帆良に来ますね。しかし……学園長が意外とマトモな対応をしているので驚きました」

 

「そうですね。学園長は……普段は良い教育者ですが、イベント事になると、羽目を外す傾向が有りますからね。

しかし、流石に学園長もナギの息子には真面目に対応したのでしょう」

 

 普段の学園長ならネギ君を使い、周りを引っ掻き回そうとするだろう。

 彼の成長の為にと周りを巻き込んでの、お祭り騒ぎになると危惧していた。しかし今回のネギ君への対応はマトモだ!

 

「そうですよね。

ネギ君に何か有ったら大変な事になりますからね。学園長もこのまま真面目のままで、いてくれれば良いのですが……」

 

 長い付き合いの彼らは、何時学園長が騒ぎを起こすかを心配していた。

 

「でも我々に指導を託したのです、学園長は。ならば期待に応えねばなりませんね」

 

 丁度来た焼き鳥の盛り合わせが運ばれて来た。ハツ・タン・レバー・皮・ポンポチにツクネにネギま!

 その中からネギまを取り、かじりながら答える。

 

 ネギま……ネギ君?

 

 葱って野菜の葱だよね。何でナギは息子の名前を食べ物にしたんだろう?

 イジメは名前がヘンだから!とか簡単な事でも始まる。

 

 彼の受け持つクラスは、中等部一年生……去年までは小学生だったのだ。

 そんなクラスにネギなんて野菜の名前を持つ彼が来る……ネギ、カモとネギ、カモネギ?

 そう言えば在校生に鴨志田とか鴨川とか名字を持つ子が居たな……2人並べば、カモがネギ背負ってカモネギか?

 

 これはイジメられるかも知れない!

 

 彼らが出会わない様に、気を付けて監視をしないといけないな。

 

「明日から大変かも知れませんが、頑張りましょう!瀬流彦先生」

 

「分かりました、弐集院先生!ネギ君が、野菜の名前だからってイジメられない様に注意して監視します!

それに鴨の名を持つ生徒を近づけさせません」

 

「イジメ?野菜?鴨?何を言ってるのですか?瀬流彦先生、大丈夫ですか?」

 

「ネギとカモ……カモネギ?駄目だ!彼の周りにヘンな名前のヤツを近づけては……」

 

 ブツブツと呟きだした、瀬流彦先生を冷や汗を流しながら見詰める弐集院先生……ここにもネギの為に逝ってしまった漢が居た。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 いよいよ明日、ネギ君が来る。明日は早朝から忙しくなるので早めに就寝する。

 無駄に広い和室の真ん中に布団がひいてある。フカフカの敷布団に、これもフカフカの羽毛布団。

 何とも寝心地が良い寝具だ……気持ち良い布団にくるまれながら、明日の事について考える。

 ネギ君を迎えに行くのは、僕としずな君と……ゴネにゴネたタカミチ君だ!

 そして男子中等部に連れて行く。

 

 ネギ君……

 

 君には悪いが僕の妬みと嫉妬と八つ当たりの為に、男の園で暮らしてくれ!

 ちゃんと試練は達成させるし、短期でイギリスに帰れる様にするから安心して下さい。しかし、麻帆良学園の女生徒は1人も君にはあげないからね!

 

 

 

 明日いよいよネギ君が麻帆良学院に来る。考え出したら寝れなくなったので、年齢詐称薬を4粒飲んで学生服に着替える。

 

 この薬の影響なのか、ハイテンショーン!

 

 軽やかに屋敷を抜け出し夜の街へ……久し振りに相坂さんに会いに行こう。

 前に言っていた、夜はコンビニかファミレスに居るって……だから初めて会ったコンビニに向かう。

 まだまだ冷え込む為に、吐く息が白い……街灯しか照らす物が無い夜道にぽっかりと明るい建物。

 

 コンビニエンス・ストアのMAGGYだ!

 

 目を凝らして見ると……居た!相坂さよさん。入口の脇に、ボーっと突っ立っている。

 彼女に「今晩は!」って小声で挨拶しながら店内へ……今日の店員は前回とは違う人だ。

 缶コーヒーを二本買って店を出る。

 

 入口では、彼女が僕を見詰めていたので「この間の場所へ行こう」そう小声で声を掛けてから脇を通り抜ける。

 

 横目で見た彼女は嬉しそうな顔をしていた。

 ドキドキするが、彼女は幽霊なんだよな……こんな美少女と知り合えても、相手は幽霊で僕の本性は枯れ果てた爺さん。

 生産性の無い出会いだ。人通りが無い道を2人並んで歩く……

 

「今晩は!相坂さん、元気してた?」

 

 彼女は月明かりに照らされてボンヤリと輪郭が光っている……

 

「幽霊に元気してた?は、変ですよ。近衛君は最近どうだったんですか?」

 

 逆に聞き返された。当たり障りの無い会話。うん!美少女にも臆せず話せるなんて……

 

「僕の方は大変だったよ。何でもお偉いさんの息子を強引に学園で働かせる為の準備を手伝わされてね。

しかも、そいつイケメンで天才なんだぜ!やってられないよ、全くさ。妬ましい羨ましい」

 

 つい彼女に愚痴を言ってしまった。

 

「近衛君、学園の仕事を手伝ってるんだ!凄いね。……近衛君も……その……格好良いよ。

だっ、だから僻まなくても……それに学生なのに学園の手伝いもしているんでしょ?凄いですよ」

 

 そうにっこりとフォローしてくれた。良い娘だなぁ……これで幽霊なんだから勿体無いよね。

 

「有難う。そう言って貰えると、少し落ち着いたよ。でもソイツってさ……」

 

 暫しネギ君の愚痴を彼女に話し……彼女は黙って僕の愚痴を聞いてくれた。

 30分位話しただろうか?手に持つ缶コーヒーがすっかり冷たくなってしまった……

 

「有難う、相坂さん。話を聞いて貰って、何かスッキリしたよ。明日の朝に彼を迎えに行かなくちゃならないんだ。

でも相坂さんに話を聞いて貰えたので、彼に普通に接する事が出来そうだ。本当に有難う……」

 

 そう言って頭を下げる。

 

「近衛君、お礼を言ってばっかりですよ。ふふふ……私、死んでからこんなに長い話をしたの初めて。私も楽しかったから……だから良いです」

 

 何とも心地良い空間だ……幽霊とホノボノ?心は温かくなったが、体は冷え切ってしまったみたいだ。

 思わずクシャミを連発してしまった。

 

「近衛君?大丈夫ですか?もう遅いから帰りましょう。ごめんなさい。私、幽霊だから寒さとか感じなくて……」

 

 恐縮しまくりの彼女に大丈夫だから!と言って別れた。

 彼女と話したら大分気持ちが落ち着いた……これなら明日、いやもう今日か。

 ネギ君と会っても普通に接する事が出来るだろう。

 大戦の英雄を父に持つ、天才少年か……どんな感じの子何だろうか?

 写真と報告書で知っている少年は、真面目で頑固。魔法の素養と魔力保有が凄く、本人も努力家。

 しかもイギリス紳士として振る舞っているらしい……10歳にして英語と日本語をマスターしている。

 写真を見れば今は可愛い系だが、将来的にイケメンになる事を約束された顔立ちだ!

 

 くっ……これが噂に聞く主人公属性ってヤツかな?

 

 まぁ良いや。ネギ君には漢らしく、漢臭い教育を施そう!

 丁度公園に差し掛かった所で年齢詐称薬の効果が切れた……ボフンと言う効果音と共に元の姿に戻る。

 

「やっぱり老人に学生服は似合わないな」

 

 自身の姿を見て呟く。

 

「そうでしょうか?ギャップ萌え……ならばギリギリ通用するかもしれません」

 

「狂ったかジジィ?まさか毎夜そんな姿で徘徊してないよな?」

 

 振り返って見れば、驚愕の表情の2人……しかし、直ぐに表情を変える。エヴァはニタニタ。茶々丸は無表情だが、どうみても録画モードだ!

 

「エヴァ、茶々丸……お主らも暇じゃな。何で毎回会うんじゃ?しかも夜の公園で」

 

「ふん!私は夜の眷族だからな。散歩だよ」

 

「学園長、マスターは呪いを自力で解こうと血を頂ける女生徒を物色している最中です」

 

 オイオイ……明日から英雄様の息子が来るんだぞ!問題を起こすなよな。

 

「悪い事は言わない……明日からは暫く大人しくしてるんじゃ!ナギの息子のネギが来るんじゃぞ。

闇の福音と言われたお前さんがコソコソ動いては、他の魔法先生も黙ってはいまい。面倒事はご免じゃぞ……」

 

 ネギ君大事な連中から、彼に危害を加える危険性有りと思われるだろ?

 

「ふっ、ふん!私が何をしようと私の勝手だ」

 

 真っ赤になりながら反論する幼女!

 

「ご心配有難う御座います、学園長。しかし、未だ目的は達せず誰の血も吸っていませんので大丈夫です」

 

「ちがーう!何故か公園内に人が居ないんだ。

不審に思って掲示板を見れば、公園内の整備工事で立入禁止になるじゃないか!私は夜桜の中で吸血行為をしたいんだ」

 

 なんて五月蝿い吸血鬼だ!血を吸う状況の拘りなんか聞いてないですよ。

 

「いくら学園都市とは言え、不審者は多い。じゃから変質者が好む暗がりや人気の無い場所は立入禁止だ!」

 

「私は不審者でも変質者でもないわー!」

 

「ああ、マスターがあんなに元気になって……しかも学生服の老人と掛け合い漫才。

こんな貴重な映像は心のハードディスクに焼き付けます。そしてマスターと学園長。今まさにお二人が不審者で変質者です。

セクシーランジェリー幼女と学生服を着た老人。どんな需要が有るのか皆目見当もつきません。

ターゲットはロリ層なのか?はたまたジジ専なのか?嗚呼、これが人の不条理と言う事なのでしょうか」

 

「「違うわー!ボケロボットがー」」

 

 しかし、端から見れば三人共に不審者で変質者でしかなかったのだが……

 

 


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