Sorciere   作:惠一

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初めましての方は初めまして、こんにちは!
惠一と申します。
物語を書くのが大好きな暇人です。
とんだド素人ではありますが、魔法だのかっこいい青年だの大好きなんだ!っていう方は、ちらりとでも読んでいただければ光栄です。


Ⅰ〜魔女の遺物〜

「魔女?」

青年はその意味がわからないと言った表情で、上官を見つめる。

「そうだ。だが、本物の魔女がいるというわけじゃない。そんなのはおとぎ話にでも出てくる作り物だ」

「はあ、そうですね」

「私が言っているのは、”魔女”と呼ばれた一族の残した遺物のことだ」

「遺物、ですか」

「そうだ。どんな形状をしているのかは解らないが、今から1000年も前に滅んだ一族が持っていた不思議な力を持つ道具だという。なんでも、手に入れた者は全てを支配する力を持つのだそうだ」

そして、上官は目をすがめてみせた。

「それを、手に入れてきてもらいたい――――――私が頂上へと上り詰めるために」

青年の顔つきが変わる。

「レイム・ソリチュード監査官」

 

 

*  *  *

 

 

地面を踏みしめるたびに、きしっきしっという音が響く。

吐いた息は白く、刺すような冷たさが肌を刺激した。

「冬という季節は厄介なものだな・・・」

ひとりごちて、金髪、青い瞳の青年―――レイムはため息をついた。

彼の胸には軍を意味する紋章のブローチが鈍い光を放っている。長く黒いコートも軍仕様の高価なものだ。

レイムは今、ひとり冬の道を歩いていた。

どこまでも平坦な道が続き、あたりにはしんしんと雪が降り積もる。

彼がそんな場所を歩き続けているのには理由があった。

”魔女”。

かつて、そう呼ばれた者たちが残したという≪全てを支配する力を持つ≫という遺物。

それを彼の尊敬する上官に手に入れてくるよう命令されたからである。

だが、どんなものなのか一切の情報がない。まずは、手当たり次第に”魔女”が住んでいたとされる場所を巡ることにしたのだが如何せん、小さい一族ながらに散らばって暮らしていたらしく範囲が広かった。

仕方なく、まずは近場から回ることにしたというわけだ。

彼が向かっているのは、シュイラの街と呼ばれる場所だった。

魔女だけでなく、多くの史実に名を残している街だ。かつて名を馳せた英雄の出身地でもあるという。

「だが、こうも景色の代わり映えがしないと・・・」

ふと、道を間違ってはいないかと不安になった。

方向音痴の気はないはずだが、と地図を見直そうとしたその時。

遠くから、女の悲鳴が聞こえた。

「なんだ・・・!?」

立ち止まり、声のした方向に目を凝らす。

遠目に走ってくる少女の姿が見えた。その少女の背後に――――。

「たすけてえええええええ!!!狼いいいいいいいいいいいいいい!!!」

「おっ・・・」

狼?!

状況をきっちり把握する暇もなく、雪煙をたてながら少女と、その最後に恐らく狼が3体。

なんにしろ、少女が危ない。

「おい!こっちだ!!」

「えっ、・・・人がいるっ」

息を切らして少女がレイムの方へと走ってくる。だが、バランスを崩してその場に倒れてしまった。

「ッ・・・!」

咄嗟にレイムは持っていた荷物を投げ出し、狼へむかって駆け出した。

「印、我契りを交わし、汝と繋ぐ者なり」

右手の親指、人差し指、中指をたて祈るようにしながら呟く。

少女を庇うように立ち、狼たちを睨みつける。

冷えた体の奥底から、熱く滾る熱がこみ上げるような感覚を感じながら、それを結んだ指の先に集中させた。

「鳳来!!」

叫んで、印を結んだ右手を鋭く突き出す。

瞬間、うねるように熱が狼たちを取り囲み、キャインという鳴き声と共に狼たちは雪の地面へと倒れた。

それを確認して、レイムはふうっと息を吐き出す。

印を解いて、背後に倒れ込んでいる少女を振り返る。

「大丈夫か」

「あなた・・・」

呆然とした表情でレイムを見上げていた少女だったが、伸ばされた手に気がついて立ち上がった。

コートについた雪をパンパンと手で払って、少女はぺこりと頭を下げる。

「助けてくれてどうもありがとう。あなたは旅の方?」

「ああ、ところで君はどうして狼なんかに追われていたんだ?」

「これを取りに行っていたの」

少女がポシェットから取り出したのは、薄い緑の葉だった。

「このあたりで取れる薬草よ。この季節じゃ貴重なの」

「なるほど・・・それで、狼に見つかったのか」

「普段ならこの時間はいないんだけど・・・あなたがいなかったら死んでいたかもしれないわね」

少女は肩をすくめてみせ、再度レイムを見上げる。

「それで旅の方、あなたはどこへ向かっているの?」

「ああ、シュイラの街に行こうと歩いていた。どのあたりか知らないか?」

「シュイラの街?」

少女は少し驚いたような反応を見せたあと、にっこりと微笑んだ。

「それなら私の住む街よ。これも何かの縁ね、良かったら案内するわ」

 

 

街の程近いところまでは来ていたらしく、少女の案内ですぐに着くことができた。

街は冬の寒さを跳ね返すように活気に満ち溢れ、人々の声が行き交う。

「シュイラの街へようこそ。私が代表であなたを歓迎するわ。ええっと…」

「レイム・ソリチュード。レイムで構わない」

「じゃあレイムさん。私はリリアよ。改めて、ようこそ」

リリアはそう言って、少し考えるように尋ねる。

「レイムさんはこの後どうするの?どこか行くの?」

「いや、決まって行かねばならないところはない。ただ、ここへは探し物をしに来た。それに関する聞き込みをするつもりだ」

「探し物を?ふぅん、見つかるといいわね…でも、もう明日にした方がいいと思うわ」

「何故だ?」

「もうじき日が暮れる。そうなったら、この街にはあいつらが来るから」

「あいつら?」

怪訝な表情のレイムにリリアは小さく頷いた。

「この辺りを根城にしてる窃盗団よ。最近やってきて、街の人を襲うようになったの。だから、暗くなるとみんな、家へ閉じこもるのよ」

「窃盗団…不貞の輩が潜んでいるのか」

面倒なことにならなければいいが、とレイムは溜息をついた。

「そうだわレイムさん、良かったらうちに泊まらない?」

リリアがぽんと手を叩き、レイムは目を丸くする。

「泊まる?」

「どうせ泊まるところ決まってないんでしょ?大丈夫、お金は取らないわ。助けてもらったお礼もしたいし、うちは部屋が空いてるから」

 

どう?と尋ねられ、レイム は少し考えたが、今後の旅路を考慮すれば出費が抑えられるのはありがたい。

数分の後、レイムは宜しく頼む、と返事を返した。

リリアの家は、シュイラの街の教会の近くにあった。木造の小さな、質素な家ではあったが綺麗にされている。

「他に家族は?」

「いないわ。私一人で住んでるの。今お茶を淹れるわね」

レイムは少し驚いた。

「そうなのか?だが君は、まだ子供だろう」

「あら、失礼ね!私は16歳よ、子供じゃないわ」

それにしては、リリアは少し幼い容姿をしていた。だが、栗色の髪とくっきりした目がリリアの美しさを物語る。

リリアはココアを差し出しながらふと尋ねた。

「そういえば、レイムさんは探し物をしてるって言ってたわよね。それって、ここに絶対あるの?どんなもの?」

「絶対…とはいえない。だが、ないとも分からない。どんなものなのかも、あまり知らないんだ。それでも、私はそれを見つけなければならない」

「そう…知っているものならお手伝いしようと思ったのだけど、それじゃ難しそうね」

リリアもココアを口にしながら、ねぇ、と続ける。

「壁にかけてるコート。凄く高そうだけど、レイムさんて実は貴族なの?」

「いや。貴族じゃない」

「あれ?違うんだ。どこから来たの?」

「…セントラルだ」

「セントラル!?あんな遠いところから来たの?」

「ああ。探し物がここに無ければ、すぐに他へ発つがな」

「壮大なのね。…ね、全くわからないの?どんなものか」

レイムは少し考えて、リリアに視線を戻す。

「…”魔女”と呼ばれた一族を知っているか?」

「魔女?魔女って、おとぎ話に出てくるみたいな?」

「ああ、いや。その魔女とは少し違う。なんでも、まじないに詳しい一族だったらしい。私は、その一族が遺したという遺物を探しているんだ」

「おまじないか…そういえば、おまじないとは少し違うけど私の母親が薬草に詳しかったわ」

「薬草?」

「そう。私も、薬師をしているんだけど。熱さましや、火傷に効く薬草の中には、おまじないに似た効果があるものがあったから…」

なるほど、とレイムは頷く。

確かにまじないの形は決まっていない。そもそも遺物がなんなのかすら分からないのだから、関係の有無もあまり区別ができないのだが。

その後少し話をし、軽く食事をとって休むことになった。

 

 

片付けをしてから休むから、とリリアに言われ、レイムは先に空いた部屋へ通された。使っていないにしてはきちんと掃除がしてあり、ベッドのシーツも汚れていない。

ベッドへ腰を下ろしたレイムは、深く息を吐き出す。

『お前には期待しているんだ、レイム』

出発前を思い出し、目を閉じる。

尊敬する上官。監査官の役目。期待に報おうという思い。

拳を硬く握りしめる。

「必ず、この手で」

あの人を上へ押し上げる。

それが、今の自身の生きる喜び。

レイムは再び深く息を吐き、ベッドに倒れこむ。目を閉じてしまうと、身体がどっと重く感じ、すぐに眠気が訪れる。

そのまま、レイムは深い眠りに落ちていった。

 

 

リリアは洗い物と朝食の下ごしらえを済ませ、昼間採ってきた薬草を片付けていた。

「えっと…こっちが痛み止めで、こっちが…」

種類ごとに分け、木箱にいれてしまうとほっと一息つく。

すっかり冷めてしまったココアをちびちびと飲みながら、ふとレイムに貸した部屋を見やる。

物音がしないから、もう寝てしまったのだろうか。

セントラルから来たと言っていたから、きっと疲れているだろう。それも、こんな雪の中。

立派とはいえコートだけで、この寒空の下を歩いたのだ。

「…寒くないかしら」

ぽつりと口にして、立ち上がる。

少し、確認するだけだ。彼が眠っているかどうか。

何故だかーーーとても気になるのだ、彼のことが。

そっとドアノブに手を掛ける。

そして、ゆっくりとドアノブをひねーー…、

その時、玄関のドアがドンドンドン!と強く叩かれた。

リリアは思わず、びくりとドアノブをはなす。振り返ると、外から複数の男の声が飛び込んできた。

「おい!誰かいるんだろ?」

「徴収の時間だぜ、さっさと出すもんだしな!」

はっ、として後ずさる。背中を嫌な汗が流れ落ちた。

「あいつら…」

どうするかと思案する暇もなく、玄関のドアが乱暴に蹴破られる。派手に音を立てて、壊れたドアが倒れた。

「なんだよ、やっぱ人がいるんじゃねえか」

「っ…!入ってこないで!」

咄嗟に近くにあったナイフを掴み、男たちに向かって構えると、男たちは可笑しそうに笑った。

「ずいぶん勇ましい嬢ちゃんだが、てめぇ一人かい?」

「はやく出てってよ!あなたたちにあげるものなんて一つもないわ!」

「ほう?…おっとなんだこりゃ凄えな!」

ひとりの男が壁にかけてあったコートを手にする。

「それはっ…!」

レイムのコートだ。

かけていたことをすっかり忘れていた。

「見ろよ、すげえ細工だ。しかもこれボタンが銀だぜ!」

「おお、本当だこりゃすげえ!一体幾らになるだろうな」

男たちはコートの値踏みをはじめ、リリアは焦りながらナイフをぎゅっと握りしめた。

「ーーー返してっ!」

「おっと危ねえ」

叫びながら切りかかる。

しかし、あっさりと腕を掴まれ、床に引き倒された。

手を離れたナイフが床を滑る。

「ったく、手のかかるガキだな」

「痛っ…!!」

後ろ手に取られ、痛みに呻く。

「安心しな、大人しく金目のもんを出しゃ命は取らねえ」

にやにやと笑いながら見下される。

「いやよ、返して…!」

身をよじるが男の力に勝てるはずもなく、頭を押さえつけられたことでさらに呻くことになった。

「しつけぇよ、殺さねえって言ってんだ。それとも何か、殺されてえのか?あ?」

落としたナイフを頬にぴたぴたと当てられ、リリアはびくりと身をすくませる。

冷たい刃の感触に身体中が恐怖に侵されていく。

「い、いや…」

どうしようーーー。

「…騒がしいと思えば、何事だ」

訝しむような声の後、一人の男がどさりと倒れこむ。

「な、なんだ!?」

「おい!後ろだ、男がいやがった!」

リリアはハッとし、男たちが混乱している間に無理やり立ち上がった。

「レイムさん!」

呼ぶと、レイムは無言でリリアを背後へ押しやる。

「…こんな夜更けに、客人ではないな?例の窃盗団という奴か」

「てめぇ、よくもやりやがったな!」

「俺たちに刃向かうなんざ、いい度胸じゃねぇか!ちっと痛い目見ねぇと自分の立場がわかんねぇらしい」

男たちはにやにやしながら指をポキポキと鳴らすと、一気にレイムに飛びかかった。

「レイムさんっ!」

「少し下がっていてくれるか」

言いながら殴りかかった男の拳を受け止め、ひねり上げて床へ倒す。続いて鈍器を振りかざした男の懐に素早く入り込み、鳩尾を殴ると背後に迫った男を蹴り倒した。

「やろぉっ!!」

レイムの背後から、男が剣を振りかざす。

「ちょっ…」

リリアは目を見開き、咄嗟に男の腰にしがみつく。

「んなっ!放しやがっ…」

「無茶をするな」

手早く男に拳をめりこませたレイムが溜息をついた。倒れこむ男から離れたリリアが、肩を竦める。

「レディに手を上げるからよ」

 

 

「じゃ、こいつらは役場に連れてくからな」

「お願いします」

リリアが軽く頭を下げ、縄につながれた男たちが恨めしそうな表情で役人に連れられて行く。

「ひとまず安心、かな」

「そうだな」

男たちを片付けた後、床にのびている男たちを縛り上げ、役人を呼んだのだった。2人ほど気絶したままだったが。

ふと、レイムは落ちていたコートに気がつき拾い上げる。

「あ…ごめんなさい、破れたりしてない?」

「ああ、大丈夫だ」

レイムが頷くとリリアはほっと息をついた。

「リリアも怪我はないか?」

「大丈夫、少し手首をひねっただけ…でも、部屋にいたはずなのにどうして…?」

ああ、とレイムは微かに笑う。

「部屋の窓から外に出たんだ。ドアはすでに壊れていて、開ける必要もなく背後にまわることができた」

「そ、そうだったの…」

見事に破壊されたドアを振り返って、リリアは苦笑する。

「それにしても…」

「え?」

レイムは思案するように眉を寄せる。

「さっきの奴らがリリアの言う窃盗団か?あの程度なら、役人たちがすぐにも排除できただろう」

「確かに、あいつらも窃盗団の一員だと思うけど…あんな奴らなら、過去に何人も捕まっているわ」

「まだいるのか?」

「あんなの雑魚よ!…私にとっては十分厄介だけど」

リリアはぎゅっと拳を握り締める。

「”闇のバルドー”…」

「バルドー?」

「窃盗団のボスの名前よ。街の人を襲ったり、金を奪ったり…役人も何度も捕まえようとしたけど、だめだった。あいつは、剣も銃もなしに、人を殺すの」

「なんだと?」

「あいつは、魔術を使うって言われてる」

噂だけどね、とリリアは自嘲気味に微笑んだ。

「魔術…」

『魔女の遺物は、幾つ存在しているのかすらわからない。形状も。なにも、わからない。ただ、不思議な力を宿し、持つものに力を与える』

「ーーー可能性はある、か」

レイムはリリアに向き直る。

「リリア。そのバルドーについて、知っていることを教えてくれ」

 




読んで下さってありがとうございました!

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