「だけど、時折人間臭い言葉をさらっと口にする。飾り気がなくてぶっきらぼうなその言葉にどこか温かさがある。そして、あの人・・・もといあのロボットが大切にしているものが何なのか、短い時間の中でようやく理解した。そう・・・・・・家族だった」
西暦5538年 4月27日
キューバ共和国 ジョニー・タピアの屋敷跡
ドカ―――ン!!!
機銃掃射とロケット砲からの攻撃を潜り抜け、タピアから強奪したジープは敷地を後にする。
「トラックに乗れ!」
住まいを跡形もなく破壊され、名誉も誇りも傷つけられ怒り心頭のタピアはカルロスを小型トラックに乗せ、逃げるジープを追いかける。
ドラ達が別ルートでの脱出を図った直後、地下トンネルを通って隠れ家へと戻った駱太郎と龍樹、昇流は息を切らす。
「は、は、は、こりゃ参ったぜ・・・」
「そこらじゅう軍隊だ!」
「ドラたち、大丈夫かよ?!」
軍隊を味方に付けたタピアはトラックに乗って屋敷を出発。逃走するドラたちのジープを執拗に追跡し、その息の根を止めようと執念を燃やす。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
軍隊からの機銃掃射が後を絶えない。
荷台の上でドラは飛んでくる銃弾を刀で弾きつつ、隣のチトに懇願する。
「グァンタナモ湾まで案内してくれ、チト!」
「ダメだダメだ。アメリカ軍基地には入れない!」
キューバ東南部のグァンタナモ湾に位置するアメリカ海軍の基地―――それが、グァンタナモ米軍基地である。1903年以来、アメリカ合衆国が租借しており、2002年からはアフガニスタンやイラクで拘束された人の収容所としても使用されている。そのため、グァンタナモ収容所とも呼ばれる。
ドラはそこに助けを求めようと考えたが、望みは無いとチトは真っ向から提案を否定する。
「俺ら時間の調整者、TBTだぜ!」
「それが何だ! それとこれとは話は別だ!」
幸吉郎も必死で食い下がるが、国防を守護するアメリカ軍が時間を守護するTBTの味方になると思っているドラ達の考えはお門違いだと、チトはハッキリと口にする。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
「「うおおおおお(きゃああああ)」」
後ろから飛んでくるタピアからの凶弾が、ジープの窓を突き破り車内に侵入―――後部座席の写ノ神と茜に襲い掛かる。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
「太田さ。オイラこういう状況になった時、いつも不安がってるみんなのこと安心させるために“大丈夫、きっと助かる”って言うんだよ!」
「そうなんですか、知りませんでしたよ!」
「今も言えるぞ。でも、今日言ったらひどいウソだね!」
望み薄という現実を突き付けられていながら、ジープはタピアの追っ手から逃れるために、グァンタナモ湾方面を走り続ける。
道中、青さびた粗末な壁と雨風を凌ぐ程度の屋根が乗っかっただけのあばら家が密集する貧困集落へと突入する。
既にそこにはタピアからの連絡を受けた兵士たちが先回りして待ち構えていた。
「兵隊だ! 兵隊だ!」
「どっちだ! どっちだ!」
「右だ、右! 右だ!」
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
チトの案内の元、幸吉郎は右ハンドルを切り―――兵隊からの機銃掃射から逃れる。
「やあああああああああ!!」
興奮状態のタピアは助手席から奇声を発し、持っていた機関銃をジープ目掛けて撃ちまくる。
「ドラックディーラーの小屋だ! コカイン作ってる!」
言いながら、激しい揺れで態勢を整えることで必死のチトが前方に見えてきた小屋を指差した。
「爆発するものねーだろうな!」
「神様・・・どうか私たちを助けてください!」
全員が息を飲む中、ジープは小屋に向かって一直線に突進する。
ドカ―――ン!!!
加速に乗せて突っ込んだジープは小屋を突っ切ると同時に、突っ込んだ衝撃で引火しやすい化学物質の入った瓶が破裂し、大爆発を起こす。
「「「「「「うわああああああ!!!」」」」」」
こうなることを何となくでも予期していた六人だが、予想以上の爆風に車体は大きく揺れ、激しい衝撃を伴った。
「急げ! あのクズどもぶっ殺してやる!」
爆発を逃れたタピアのトラックはアクセルを全開にし、逃げるジープを追いかける。
「突っ込むぞ!」
「このデカ丘下るんすか!」
急こう配の丘に向かってジープは限界のスピードで飛び込み、集落を破壊しながら車体を宙に浮かせる。
「「「「「「うわああああああ!!!」」」」」」
ドン!! ドーン!! ドドド!!
「くそ! これも作戦Bなのかよ!?」
「作戦Cに移行したんじゃないですか!」
「どっちでもねぇ! 作戦Dに決まってるだろ!」
「Dはあれですか、“ダメだこりゃ”のDでしょう!!」
「ナイスツッコミ!! 太田、お前ツッコミの才能あると思うよ!!」
ドン!! ドーン!! ドドド!!
過激な逃亡撃。現れる障害物と言う障害物―――貧困者の住まいを次々と破壊し、大きな風穴を開けるジープ。
「やあああああああ!!!」
ドン!! ドーン!! ドドド!!
「「「「「「わあああああああ!!」」」」」」
ドン!! ドーン!! ドドド!!
当たり所が悪い家からは炎が上がり、一瞬にして炎上―――跡形もなく吹き飛ぶ。
どうしてこんな無茶な出来事が立て続けに起こるんだ!! 太田は内心深く悲嘆し、この身の不幸が魔猫による呪いだと本気で錯覚する。
ドン!! ドーン!! ドドド!!
「いって!!」
「舌かんじゃいました///」
小高い丘を下った際の衝撃は凄まじく、運転手よりもその運転手に振り回される乗客へのダメージが大きい。
周りに多大な被害を加えながら丘を下り切ったジープは、地元住民から激しい抗議の声と、バナナなどの物を投擲される。
「お、バナナだ。ラッキー! ちょうど腹空いてたんだ!」
「呑気すぎるぞ!!」
怒りの矛先として投げられたバナナをドラは臨時の食糧として受け取り、揺れる荷台の上で食べ始める。その突飛すぎる行動にチトは声を荒げた。
ジープは集落を越え、グァンタナモ米軍基地までの道のりをひたすらに進んでいくが―――ドラ達を執拗に追いかけるタピアのトラックとの距離は急速に縮まりつつある。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
「ヤベエ! みんな、何でもいいから撃ち返してくれ!」
後方から飛んでくる銃撃が激しくなると、幸吉郎は焦りを抱き、全員に反撃を促す。
「撃て! 撃て!」
ダン! ダン! ダン! ダン! ダン! ダン!
「くそ! 弾キレだ!」
「こっちもです!」
写ノ神と茜が使っていたハンドガンの弾倉が尽きた。
「僕のは残り二発!」
「こっちは一発だ!」
幸吉郎が持っている銃には一発、太田の銃には二発だけ弾が残っているが、とてもこの状況を乗り切ることはできない。
「ヤッバ! こっちもなくなった!」
荷台のドラから聞かされた衝撃の言葉。全員は夢であると信じたくなった。
「こんなに銃あんのに誰も弾ねぇのか!?」
「俺は一発、ケツに受けた!」
険しい表情と脂汗を浮かべ、チトは尻の傷口を押え出血を押える。
「撃たれてますよ!!」
「おい急がないと!」
「おい、あれは!」
そのとき―――前方の方から白を基調とする建物が見えて来、壁には英語でアメリカ海軍と表記されていた。
「基地だ!」
「こうなりゃ一か八かだ!!」
「急げ! 急げ! 行け!」
クラクションを鳴らし、ジープは最後の駆け込み口である前方のグァンタナモ米軍基地へと直行する。
有刺鉄線に近付く二台の車。クラクションの音を聞いた監視台のアメリカ海軍が一斉に機関銃を手に取り、銃口を向けてくる。
「助けてくれ! 俺達は無実だ!」
幸吉郎は切に訴えながら有刺鉄線目掛けてアクセルを踏み続ける。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
「突っ切れ! 突っ切れ!」
ドラが言うと、幸吉郎は海軍からの銃撃を受けながら、そのまま有刺鉄線を突っ切り―――強引にグァンタナモ米軍基地へと侵入、
停車したジープ。その後を追って来たトラックも急ブレーキをかけて停車する。
二台の車が突然基地内に侵入してきたことを受け、武装した海兵たちが現場に駆けつけ、鉄ネットの向こう側からドラ達に機関銃を構える。
「降りるんだ!」
荷台から降りたドラは、幸吉郎たちに降車を促し、タピアとカルロスもトラックから降り、その手に銃を携える。
車の陰に隠れながら、両者は銃撃に備え息を潜める。
「行け、行け、行け!」
幸吉郎は写ノ神と茜、太田を先に逃がす。
ドン!
タピアらしきものの影を捕えた幸吉郎が銃を撃つが、銃弾はトラックの前輪に当たった。
「クソー」
これで幸吉郎の弾は底を尽きた。銃撃を避けたタピアは、ジープの右側から回り込み―――幸吉郎の首筋に狙いを定める。
「幸吉郎っ!」
ドラに担がれていたチトが、サイドミラーに映ったタピアの影を捕え、幸吉郎に注意を促す。
ドン!
タピアの放った銃弾は幸吉郎を撃ち損ね、ジープのサイドミラーに当たる。
カチャ・・・・・・。幸吉郎がサイドミラーの方へ空の銃口を突き付けた瞬間、回り込んだタピアの機関銃が幸吉郎の
一方、白砂の上を走ってカルロスから逃げる写ノ神と茜、太田の三人目掛けて海軍が発砲する。
海軍は三人の動きを止めると、スピーカーで注意を呼びかける。
身動きが取れず、抵抗のできなくなった幸吉郎は銃を捨て、白砂の上の三人も両手を上げる。
「アメリカ人だ! 税金だって払ってんだぞ! あっちを撃てよ!」
「ドラさん無理ありすぎですよ! こんなアメリカ人見たこと無いし、そもそも人ですらないでしょう!!」
聞き苦しいドラの大ボラに、太田は聞くに堪えることができなかった。
「コノヤロー、銃を捨てろ! 伏せろ! 伏せるんだ!」
タピアとともにドラ達を追いかけて来たカルロスは銃を突き付けながら、白砂の上に足を乗せ―――三人の元へと銃口を突き付ける。
「あいつらが助けてくれるもんか。ここはキューバだ!」
絶体絶命の中、幸吉郎の蟀谷から首筋の方へと銃口を向けたタピアは勝ち誇ったようにつぶやく。
窮地に立たされたドラ達。そんな彼らに対し、海兵は英語で切羽詰った様子で何かを訴えかけようとしている。
そのとき、白砂の上を歩いていた一匹のイグアナが砂の上に設置されたスイッチらしきものを踏みつける。
ドカぁ―――ン!!
ドラ達は自分が置かれている状況を一瞬にして理解し、青ざめた顔となる。
「お前たちは今、地雷原に立っている! 動くな!」
地獄で仏と期待して基地内に突っ込んでみれば、更に悪い結果を招いた。砂の上に立ってしまった三人はそこから一歩も動けなくなった。
緊迫した状況において、幸吉郎は嘆息を吐くと、銃口を突き付けるタピアにむけておもむろに語りかける。
「なぁ、家に帰ろうじゃねぇか。俺は家で、お前はホテルだけど・・・決着はまたの日だ。今日はお互いツイてねーみてぇだからな」
「銃をよこせ!」
カルロスが銃を所持する茜へと強く要求する。
要求を聞き入れた茜は写ノ神と見合ってから、左手に持っていたハンドガンを手放す。
「わかりました。そっちに放りますよ―――地雷のすぐ横にですが!」
刹那、茜は左手のハンドガンを放ると同時に写ノ神や太田と一緒に身を低くし―――投げられたハンドガンはカルロスの近くの地雷原スイッチに触れる。
その瞬間、起動した地雷原は宙に浮かび上がり、カルロスの手前で爆発する。
ドカ―――ン!!
地雷の爆発に巻き込まれ、カルロスは吹き飛ばされ、黒焦げとなって爆死する。
「今だぁ!! 太田ぁ!!」
そして、ドラの掛け声に合わせ―――太田は最後の一発をタピアに向けて撃ち放った。
ドンッ―――。
幸吉郎の顔すれすれを通り越し、太田の放った渾身の一撃はタピアの眉間を見事に撃ち抜いた。
脳天を貫かれたタピアは力なく砂地へと仰向けに倒れ―――その下に埋められた地雷原のスイッチを起動させる。
ドカぁ―――ン!!
地雷原の上に倒れこんだ瞬間、爆発の威力でタピアの上半身が吹き飛んだ。
吹き飛んだ上半身が幸吉郎の頭上を乗り越え―――ネットの近くでグチャッと言う音を立て、落下する。
一瞬の出来事に唖然とする幸吉郎。
間一髪のところで命拾いをした彼は、安どのため息をつくとギリギリの荒業を披露した太田に言い放つ。
「じゅ、銃ってのはそういう風に撃つんだよ! そうだよ、これからはなそういう風に撃つんだぞ! だおー!」
自らの手でタピアに止めを差した太田は頭の中で整理がついていない様子で、小刻みに震える手を凝視している。
「でーっははははははは!!! オイラが言えたことじゃないけどさ、あんな風に頭ぶち抜くのはまともな人間にはできないねぇ! 今のは本当イカれてた! とりあえず今度の休みはまたバーベキューに誘って上げるよ!」
辛うじて時間犯罪者による脅威を退け、緊張が解けた太田を労うドラのその言葉を耳に入れてから、写ノ神はかたわらの茜の身を案じる。
「茜、無事か。このためにキューバまで来た」
「写ノ神君・・・///」
見つめ合う二人。おもむろに目を瞑ってから唇を重ねあわせ―――地雷原の上に立っていると言う事を忘れて情熱的な
「止してくださいよ・・・地雷原でそんなことしないでくださいってば!」
恋愛経験ばかりか、これまで女性との付き合いも碌に経験した事の無い太田にとって―――目の前であからさまに見せつけられる情熱的な愛の行為は、ただの嫌がらせでしかなかった。
「おい! このバカップルに言ってやってくださいよ! 地雷原であんなことしてると危険だって! おい!! 止めろっつってんだろうが!! 舌を絡めるな!! ディープ禁止ッ!!!」
気恥ずかしいを通り越して、腹立たしくて仕方なかった太田は海軍やドラたちに必死で訴えかける。
ドラと幸吉郎、チトはやれやれと言いながら―――愛する者たちの行為を静かに見守り、それが終わるのを待つことにした。
プルルル・・・。プルルルッ・・・。
そのとき、頃合いを見計らったようにドラの携帯に着信が入る。
掛けて来たのは、四分隊の科学捜査班所員であるハールヴェイトだった。
「オイラだ」
『その様子だと、なんとかなったみたいだな』
「かなりギリギリだったけど」
「お前に頼まれた例の件、調べてみたぞ。正直・・・・・・驚いたぜ」
言いながら、ハールヴェイトは資料片手にドラに要件を伝える。日本から掛かってきた彼の報告を聞くと、ドラは眉間に皺を寄せる。
「・・・そうか。わかった、ありがとな」
電話を切ると、ドラは幸吉郎の方へと目を向ける。
「兄貴・・・・・・まさか」
「ああ。オイラの思った通りだったよ・・・・・・この事件は、まだ終わってない」
「え・・・・・・」
深刻そうな表情で話をするドラの会話を横で聞いていた太田は、怪訝そうな顔を浮かべ―――ドラの方を凝視する。
ドラの胸中に宿る事件の真実。麻薬王ジョニー・タピアの戦いに決着が着いた今、彼が導き出すものとは――――――・・・
≒
4月25日―――
TBT本部 特殊先行部隊“鋼鉄の絆”オフィス
遡ること三日前―――葬儀社への潜入調査へ向かう直前、ドラは副隊長である幸吉郎だけをオフィスに残し、ある推測を打ち明かした。
「何ですって!?」
信頼するドラという存在から聞かされた衝撃の報せに、幸吉郎は驚愕のあまり絶句する。驚く幸吉郎とは対照的に、物思いに考えながらドラは目を瞑る。
「兄貴、俺の聞き間違えかもしれないので、もう一度言ってくれませんか・・・・・・」
「だからさ、TBT内部にタピアに情報を漏らした人間・・・つまりは、内通者がいる可能性が高いって言ってるの」
ドラから語られた推測―――それは、麻薬王ジョニー・タピアにTBT内部から何者かが内通者として情報をリークしているという話。
「ずっと頭の片隅で引っかかってたんだ。確かにタピアは北米を拠点にする麻薬王で、勢力の拡大を図っているのは間違いない。だけど、TBTによる取り締まりが強化されているにもかかわらず、それを嘲笑うかのようにここ数年における麻薬関連の時間犯罪件数は増える一方だ。で、いろいろ考えた結果・・・・・・ピンときた」
「そんな・・・し、しかしTBTに組織の内通者がいるなんて」
「可能性はなくはないよ。内部犯ほど気づきにくいものはないからね」
一時(ひととき)の沈黙が流れる。口籠る幸吉郎だが、ふと気づいたように「あっ」と声をもらす。
「待ってください。逆にそいつの正体がわかれば、キングの正体を掴めるうえ、組織を一気に壊滅できるかもってことですよね!」
「それは違う気がするな。恐らく、内通者にとって組織が壊滅しようがしまいが、どちらでもいいんだ」
「どういうことですか?」
「内通者はTBTの情報網を使って世界各地の時間犯罪者に情報を流してる。そして、その見返りとして顧客はスポンサー、つまり内通者に多額の情報量を支払う。言ってみれば、その内通者こそが組織の黒幕、“キング” の正体ってことだ」
ドラが確信を持って言い放った推測を聞き、幸吉郎は目を見開き―――頭の中で話の内容をゆっくりと整理してから、おもむろに尋ねる。
「じゃあ、ジョニー・タピアは・・・・・・」
問いかけを受けると、ドラはブラックチョコレートをひと口かじってから、返事をする。
「所詮は、奴も捨て駒の一人にすぎないって事だね。まぁ早い話、この一連の事件に組織なんて最初から存在しないんだ」
「だとすれば・・・・・・もしも、兄貴の推測通り内通者がいたとしたら・・・」
「ああ。例のガサ入れで、太田が携帯電話を鳴らしたミスも単なる偶然とは思えない」
「って事は、掛かってきた番号が解れば内通者が解るって事ですね! あ、でも非通知だったから番号はわからないですよね・・・」
真相を突き止めようにも、非通知設定で掛かってきた電話番号を調べることはできない。幸吉郎が歯がゆい気持ちとなる中、ドラは冷静に逡巡し、一つの解を導く。
「いや、分かるかもしれない」
「え?」
解を導き出したドラは、内線で四分隊の科学捜査班へと繋ぎ―――ハールヴェイトに緊急の依頼を頼む。
「ハールヴェイトか、大至急調べてもらいたいことがある。うちのルーキーがミスしたとき、ガサ入れ現場にいた捜査員全員の発信履歴を調べてくれ」
≒
三日後―――。
ジョニー・タピアの一件に決着を着け、茜の奪還を成功させたドラたち
到着したのはTBT第一分隊・組織犯罪対策課のオフィス。おもむろに扉を開けると、中にいたのは太田の元・上司で責任者である立花宗彦。
灯りをつけず、暗いオフィスの中で立花は背を向けたまま地元・小樽の街並みを見下ろしている。
「・・・今回の件、礼を言っておく。ありがとう」
「どういたしまして」
「本部に内通者がいるっていうのは、本当か?」
ドラの方へと振り返った立花が神妙な表情で尋ねると、「ああ」と口に―――ドラは不敵な笑みで語りだす。
「つくづく思わないか・・・気を付けなきゃいけないのは、悪に討ち滅ぼされることよりも、正義の中から悪を生み出さないようにすることだって。結論から言うと・・・・・・本当の敵は敵のような顔をしていない奴だったんだ」
「どういうことだ?」
「とぼけるのは止めてくれよ、立花。いや・・・・・・“キング”」
眼前に立ち尽くす同僚を差して、ドラは立花をキングと称し―――鋭い眼差しを向ける。立花は沈黙し、魔猫から向けられる視線から目を逸らさない。
「俺たちは当初、ジョニー・タピアが密輸グループの黒幕、“キング”の正体だとばかり決めつけていた。だが、真実はそうじゃなかった。タピアはただの影武者の一人で、黒幕はあんただった。そうやってあんたは、何食わぬ顔で捜査官としての自分を周りに主張する一方、時間犯罪者どもに情報を流していた」
ドラの言葉に続いて、幸吉郎が立花を睨み付けながら言い放つ。
「私がキング?私が情報を漏らした? ・・・・・・何を根拠にそんなこと言ってんのか知らんが、大した想像力だ」
「だったらどうしてあのガサ入れの時、密輸グループを取り逃がしちまったんだ?」
立花への猜疑心でいっぱいの駱太郎が問い質す。
「それは、この新人がヘマをしたからだ!」
と、立花は4月13日のガサ入れ現場に居合わせた太田を指さし、自らの潔白を主張した。
「でもそう仕向けたのはお前だ!」
ドラが言った後、龍樹は立花の前に出るや―――持っていた茶封筒を取出し、その中から携帯電話の発進履歴調書を証拠品として見せつける。
「立花隊長。あのガサ入れの時にいた捜査員全員の、携帯電話の通話記録を調べさせてもらった」
見せつけられた動かぬ証拠。調書には、確かに4月13日のガサ入れのタイミングでハールヴェイトの携帯から太田の携帯に向けて発信があったことが記載されていた。
怪訝し沈黙する立花に、ドラは工藤優作顔負けの推理を披露する。
「お前は昔から用心深い性格だった。だから、自分の手を汚そうなどという事はしない筈だ。だから絶対にスケープゴートを用意していると踏んでいた。そしてお前は、その役目をハールヴェイトに押し付けた」
「何のためにだ?」
「あいつの経歴を知らないわけじゃないだろう。アイツは元・国際的ブラックハットハッカー。TBTの機密情報を盗み出そうとして逮捕され、その腕を買われた。でも人の性根はそう簡単に変わらない。お前はあいつが裏でウィルスを作っているという情報を内々に仕入れ、あいつの弱みに付け込んだんだ。当然あいつは逆らえないし言う通りにするしかなかった。でも魔猫のオイラにかかればたとえどんなヤツでも1分もしないうちにゲロっちまうんだ。だからあいつに調べ物があると言って呼びつけ、調べものついでに問い詰めてやったんだ」
「・・・・・・・・・」
「ガサ入れの直前、捜査官全員は公務用の携帯を支給される。当然、セキュリティ対策も万全だ。だがお前は新人である太田の携帯電話にだけ・・・―――ハールヴェイトの作ったウィルスを感染させていた。そして突入の瞬間、最高のタイミングで太田の携帯電話を鳴らしたんだ。おそらく、太田が携帯の電源を切っていたのは本当だろう。でもウィルスは感染したプログラムを組み替えるリプログラミング機能がある。だから本人の意思とは無関係にハールヴェイトのゴーサインとともにウィルスが作動し、携帯を鳴らさせたんだ」
ドラは客観的な裏付けの元に、自らの推測を目の前の立花に淡々と述べる。
「さすがのおまえも、自分の身代わりの携帯電話の発信記録を調べられるとは思ってもいなかった。ましてエリートである自分がならず者のドラえもんに疑われるなんて―――そうだよな?」
「ですが、私達が一番驚いたのはあなたがただの内通者ではなく、すべての密輸事件における組織の黒幕“キング”、その人だったと言う事です」
落ち着いた口調で茜が言うと、続けざまに太田が立花を見ながら口にする。
「あのガサ入れの時、あなたの部下は取引相手であるロシアンマフィアに車の中に“キング”がいると、そう思いこませる為に芝居をしていただけだったんですよね?」
「TBTがいくら追っても、捕まえられなかったのは当然だった」
「“キング”とは、あんたが作り上げた虚像・・・だったんだな?」
昇流と写ノ神が言ってから、ドラはこの場には居合わせていない螻蛄壌とハールヴェイトに頼んで押収した重要データが保存されたUSBメモリを取出し、立花に見せつける。
「うちの七席と優秀な捜査官が入手してくれた。このUSBに、すべての顧客データとヤクの密輸経路、その他諸々すべての証拠が記録されている。立花、もう終わりにしよう」
エリート意識が高い一分隊の捜査官に、掃き溜めと揶揄した者たちから決定的な証拠品が突き付けられた。
追い詰められた立花は、思い悩んだ顔で深い溜息を吐く。
「・・・・・・もう終わりか」
直後、懐から拳銃を取り出しドラたちへと突き付けると思いきや―――その拳銃をゆっくりと自分の左の蟀谷へと突き付ける。
引き金を引こうとした瞬間、走って来た太田が立花の持っていた拳銃を叩き落とした。
自殺を未然に防いだ彼は、複雑な想いを胸に抱きながら目の前の立花に呟く。
「あなたは、僕の憧れでした。TBT捜査官としての正義を守っていくあなたの姿が、僕の――――――・・・」
「正義?」
太田の言葉を聞いた瞬間、立花は「ふはははは」と笑い出し、彼が口にした“正義”という言葉について言及する。
「お前、本当にそんなものがあると思ってるのか?!」
正義の存在を信じていない目の前の男の事を、太田を始めこの場に居合わせたドラ達は口を閉ざし凝視する。
「誰もが自分のことしか考えず、少しでも楽をして人より良い暮らしを・・・・・・自分以外の奴を出し抜いて、金を儲けたいと思ってるこの社会に――――――“正義”? ・・・・・・そんなものがあるかっ!!」
オフィスに響き渡る立花の本心から来る諦観に満ちた言葉。
話を聞いたドラは、目を瞑りながら淡々と語り始める。
「資本主義って知ってるか?」
「俺を誰だと思ってる。時間犯罪者どもがまさにそのイズムの権化じゃないか!」
「イグザクトリー! つまり資本主義には功罪がある訳だ・・・・・・それは豊かな暮らしをもたらした一方、格差を作り、人間の価値観を多様化させた」
「歴史や思想の話をするつもりはない」
「まあそう言わず話を聞けよ。いいか、この資本主義ってのは、20世紀―――すなわち昭和時代、一家に一台しかテレビが置かれなかったのは、単に金がないんだと考えていたから。当たり前のように聞こえるかもしれないけど、資本主義が貫かれたのは、『わけること』で自分の好きなテレビを見ることができる、お金があれば自由になれる、みんな好きなようにできるという発想があったからだ。そして、その『わけること』が本質的に家族を『わけること』を引き起こすことになるとは誰も思わなかった」
「いい加減にしろよ?」
全くと言っていいほど場違いなドラの話に食い下がる立花。ドラは資本主義が社会にもたらした功罪を前置きとして述べ、本論へと入っていく。
「価値観が多様化した現代、お前が言うようにこんな混沌とした社会に正義なんて呼べるものは無いのかもしれない。実際、オイラも正義なんてものはないと割り切ってる。誰もアンパンマンの様に身を引き千切ってでも誰かに愛を配ろうとも思ってないし、スーパー戦隊の様に人類の生活を脅かす巨大な悪に敢然と立ち向かう勇気を持ってる人なんてそうはいない。みんなそれぞれの家庭があって、守りたいものがあって、何よりも根本的な話、自分を生かすことに躍起になってる。ただ、それだけ」
悲観主義と現実主義の考えから来るドラの持論。達観した物言いで淡々と語っていたドラはそこまでを言ってから、「だが」と付け加える。
「自分が何を信じたいのか、それすら形にない奴が世の中の『正義』を信じることなんてできないだろう?」
立花に対し、清々しいまでの顔でドラは持論を展開した。ドラの言葉を聞き、幸吉郎たちもまたそれに同意したような清々しい顔を浮かべる。
「お前は何を信じているんだ、立花? 少なくともオイラ達にはそれぞれに信じるものってものがあってさ。その信じたものを無理に押し通そうとした先にあるものが―――ときたま『正義』って形になる。オイラは、それでいいと思ってる」
それこそが、ドラが信じる正義の根幹にある思考。
彼にとっての正義は、自らの目に映る世界が第三者によるエゴで壊されそうになったとき、それを壊されるのが嫌だという気持ちから来るもの。そして、壊されたくないために意地になる姿勢が時折「正義」というものとなる。
「・・・・・・俺の信じたかったもの、か・・・」
静かに呟く立花。それから程なくして、頃合いを見たように捜査官が一斉に駆け込んできた。
立花は潔くドラの前に出ると、両腕を差し出し-――ドラの手によって手錠をかけられた。
◇
麻薬王ジョニー・タピアによる今回の事件と、密輸事件の一連の黒幕“キング”こと、TBT捜査官・立花宗彦の逮捕から数日が経過した―――
≡
4月30日―――
TBT本部 特殊先行部隊“鋼鉄の絆”オフィス
「えぇええええええええ!!!」
素っ頓狂な声が響き渡った。声の主―――太田基明は、前触れもなくドラから突如告げられた辞令に驚愕する。
「僕がアメリカ支部に異動!?」
「正確には期限付きの研修だよ。今回の功績を大長官が評価してくれてね、麻薬局で一年間キッチリもまれて、その上でまた本部へ戻す。そしたら、今度こそお前は一分隊の捜査官に復帰だ」
「そう・・・ですか」
アメリカ支部への異動を聞かされた直後、太田は嬉しくもある反面、どこか切ない気持ちになった。
「なんだ? 嬉しくねぇのか」
「いえ、そんなことは! ただ、いくらなんでも急すぎる気がして・・・・・・僕また悪い夢でも見てるんじゃないでしょうか?」
ドォ―――ン!
「いってえええええ!!!」
夢と疑う太田の顔面を、ドラは無表情で殴りつけた。
「良かったな。夢じゃなくて」
「なに殴ってるんすか! 普通はつねるでしょうが!!」
「でははははははは!!!」
と、相変わらず罪悪感はおろか―――理不尽な事を涼しい顔でやってのける魔猫。ドラは太田の癇に障るその笑いをオフィス中に響かせる。
「く~~~!! 上等ですよ!! こんなところこっちから願い下げですよ!! アメリカでもインドでも、ここより危ないところは無いんですからね!!」
自棄になった太田がそんな事を口にすると、彼もまたドラの笑いに釣られて破顔一笑。大笑いを始める。
「ははははははは!!!!!!」
「でーっははははははは!!!!!!」
清々しく笑い合うドラと太田を横目に、事情を知る幸吉郎達は太田には聞こえない声でつぶやく。
「本当は、ドラさんが大長官さんに説得したんでしょうね」
「ったく。いつもながら素直じゃねぇの」
「まぁ、それがドラというものじゃが」
今回の事件解決に尽力した
そんな中、チームのまとめ役であるサムライ・ドラは彦斎に直接、太田のアメリカ研修を打診し、彼に言いくるめられた彦斎はそれを承諾した。
「よ―――し! そうとわかれば、今日は全員でルーキーの送別会だ!!」
「じゃ、杯長官が全額奢ってくれるんですね♪」
「だから! おごるわけねーだろう!」
「「「「「「「ははははは!!」」」」」」」
太田が言う冗談に昇流は激怒し、この部屋に奇跡的な条件の元に集った個性豊かな七人は大いに笑い合った。
◇
5月3日―――
千歳地 新千歳空港 ターミナル
太田基明のアメリカ行きを見送る為、螻蛄壌を除く
「短い間でしたが、お世話になりました」
荷物をまとめ、太田はごく短い期間のうちに濃密な人生経験をさせてもらったドラ達に感謝の念を込め深々と頭を下げる。
鼻で笑うと、駱太郎が太田へと近づきその肩に手を置き言う。
「もう帰ってくんなよ」
「えぇぇぇえええ!!!」
励ましの言葉を掛けられるかと思いきや、心にもないような冷徹な言葉を向けられた。
「はは、冗談だよ!」
「止めてくれませんか駱太郎さん、そういうのホント要りませんから!」
「お土産送らなかったらイタ電かけまくるからな」
「もしくはお前の枕元に化けて出る!」
「だからなんでそう言うことになるんですか!? やっぱりあなた達全員マフィアだ!」
駱太郎の言葉に便乗するように、幸吉郎とドラがそんな事を言って来るので、太田は本心で言っているのか冗談で言っているのかわからない彼らに―――最後まで力強くツッコみを入れざるを得なかった。
「まぁ、太田さんがどう思おうと私たちはこのままのスタンスを保ち続けますけど」
「お前も自分らしさを失わずにがんばれ」
「寂しくなったらいつでもTOKIOの歌でも歌って、気を強く持つ事じゃな」
「今度ルーキー君が日本に帰って来たときは、アカザのおひたしサービスしますよ」
「銃の撃ち方、もうちょっと上手くなれよな」
個性が強い面子による激励が一通り向けられると、当初は戸惑いと疑問、文句ばかりが絶えなかった太田も、自然と表情を和らげ笑みを浮かべることができるようになった。
「ほら、もう時間だろ。行けよ」
出発時刻を迎えると、ドラに促され―――太田はキャリーバッグを手に持つ。
そして、改めて最後の挨拶を済ませる。
「えっと・・・・・・みなさんと過ごした濃密な経験を活かして、向こうでも頑張ります! そして、いつか本当の正義の味方になって帰ってきます!!」
「お前には無理だね」
乾いた声でドラが口にしたその言葉を聞いた瞬間、バナナの皮で滑ったように太田は持っていたキャリーバッグごと、思い切り転倒する。
尻餅をついた太田は強く打ちつけた箇所を押えながら、苦い顔でドラに言う。
「いやいや!! そこは前向きに“お前にならできる”とか、“無理すんなよ”とか言ってくれないと!!」
「言う訳ないじゃん。だって、オイラ魔猫だもん!」
完全なる開き直りだった。質問する相手を完全に間違えた太田は、盛大に溜息を吐いてから諦観した様子で口にする。
「それもそうですね・・・・・・貴方に期待した僕がバカでした」
「わかってるんじゃん。そうやって開き直ろう! なんでもできるような気になれるから!」
「そうできるように努力します!」
言うと、太田は全員に清々しい表情を向けると―――もう一度だけ頭を下げてから、出国のために自分が乗る飛行機へと向かって歩き出す。
「正義の味方にならなくてもいいからさ」
不意に、後ろからドラが呼びかけると―――振り返った太田に向けて、魔猫が言い放った言葉は。
「一度
「っ!!」
最後の最後で、ドラは彼らしからぬ言葉を吐いた。人間味あふれる言葉の中に含まれていた“家族”という単語が、太田の脳裏に深く焼きついた。
「それから、これはオイラからのアドバイスだ。旅人のコートを脱がせたくらいで勝てると思うな。太陽やるなら灼熱地獄でパンツ一枚残さず剥ぎ取れ、それぐらいでなければ理想で現実を変えることなどできやしない。もっともっと強く賢くなれ!」
比喩を用いながら、ドラは太田への期待を込めてそのような助言をする。
破天荒で無秩序、型破りなサムライ・ドラが時折垣間見せる厳しくも温かな愛情―――太田はずっと昔に味わった父からの愛情を取り戻した感覚となった。
「・・・・・・・・・―――はい!!!」
薄ら涙を浮かべ、太田はドラにこれまでで一番の笑顔で返事をした。
太田基明を乗せた飛行機は、定刻通りアメリカに向けて飛び立った。
ごく短い期間だけ在籍をした“家族”の新天地における今後の活躍を期待しつつ、
プルルル・・・。プルルルッ・・・。
そのとき、ドラの携帯に着信が入る。
「オイラだ。うん・・・うん・・・わかった」
携帯を切ると、ドラはこの場に居合わせた全員に報告する。
「秘密工場から合成動物が大量に出荷されそうになっているみたいだよ。時間軸は1830年、イギリス・マンチェスター! 全員、オイラに付いて来い!!」
「「「「「はい(おう)(心得た)!!」」」」」
新たなる事件に向かって、ドラ達は走り出す。
絆とか、信頼とか、そうした諸々の縁によって特別に強い結びつきのもと集められた彼らの行く末―――それは光か闇か、あるいは・・・・・・混沌か。
だが、混沌と化す時代の荒波を乗り越え、彼らは自らの信じる道へとひたすらに突き進んでいくに違いない。
新人捜査官配属編
完
ドラさん語録~サムライ・ドラが残した語録集~
その11:気を付けなきゃいけないのは、悪に討ち滅ぼされることよりも、正義の中から悪を生み出さないようにすることだ
悪はどんな時代、どんな世界にもはびこるが、その悪に立ち向かう正義が些細なことから悪になり得る可能性があることを決して忘れてはいけない。人間はふとした切っ掛けで、どうにでも寝返る―――そう言う生きものだから。(第9話)
その12:自分が何を信じたいのか、それすら形にない奴が世の中の『正義』を信じることなんてできないだろう?
「自信」とは読んで字のごとく「自らを信じる」ことだが、そこには2つの信じるものがある。1つは自らの能力・成果を信じること。そしてもう1つは、自らやっていることの価値・意味を信じること。ドラ達の場合、後者の意味合いが強いようだが・・・そもそも絶対的な正義などこの世にあるのだろうか?(第9話)
その13:開き直ろう! なんでもできるような気になれるから!
これぞ人間が到達した最高のスキルアップ法なのかもしれない。ただし、開き直ることと諦めることは少し違う気がする。諦めからは、何も学べないし、気づけないが、開き直りからは、すべて起きることが学べるし、気づけるのではないか・・・。(第9話)
次回予告
ド「よく人に言われることがある。オイラのやってる事は愛の欠片も無いって。実際愛とは何なんだろうな。魔猫の頭ではいくら考えてもよくわからん」
「太田がアメリカに旅立って間もなく、一人の女子中学生が世間の注目を集めるようになった。少女は困っている人を見つければ全力で無償の愛を振りまくけど・・・それって単なる自己満足じゃないの?」
「次回、『博愛の幸福王子』。今度のテーマは愛! うわぁ~~~なんかめんどくさそう」
登場人物
太田 基明(おおた もとあき)
声:比上孝浩
20歳。小さい頃から正義の味方に憧れ、TBTの捜査官となった初めての任務でミスを犯し、TBT第一分隊組織犯罪対策課から特殊先行部隊に異動となる。ドラと茜からは「太田(さん)」、他の鋼鉄の絆の面々からは「ルーキー」、時野谷からは「ルーキー君」と呼ばれる。
まっすぐで熱い性格で、融通の利かない正義感から、ドラの主張と対立することが多い。強行的なドラ達とは正反対に武力行使を好まず平和的に物事を解決しようとするが、メンバーの突拍子もない行動に終始肝を冷やしている。
経験が浅い所為かドジを踏むことがあり、ハイチ系のタイムストリートギャング集団「ゾーヤ・ポンド」とのカーチェイスの際、乗っていた借り物のフェラーリのダッシュボードをドラの持っていたマシンガンで誤射させてしまう。
銃の腕前はドラや昇流よりも劣るが、本編ラストで幸吉郎の顔すれすれを通り越し、タピアの眉間を撃ち抜く荒業を見せた。
趣味はコンピューターを使ったRPGの作成(作中の茜の推測によって露呈する)。ネズミが大の苦手であり、怖さに気が変になることも多い。酒は強くなく、平常時は生真面目な人間だが一度酔うと永遠と歌い出し、周りを辟易させる。
杯彦斎がタピアの捜査を強制的に打ち切った時、ドラ達と違って突出した能力も肝っ玉も無い自分は足手まといにしかならないと考え、ドラに退職届を提出するも、直後にドラからの叱咤を受け退職届をライターで燃やされる。
ドラの打診もあって、事件解決後にアメリカ支部の麻薬局へ研修のために旅立つ。出発の際、ドラから鋼鉄の絆の一員であることを認められ、そのことに涙する。
携帯電話の着信メロディは「TOKIO 宙船」。大型特殊免許所持。
シド・レーガン
声:本田貴子
TBTアメリカ支麻薬局の囮捜査官で、タピアのエクスタシー売買の仲介人として潜伏し、タピアの密輸ルートの捜査をしていた。合同本部の立ち上げの時にドラと出会ったらしく、元ネタの事でからかった際に顔面を殴られ、往復ビンタを食らったという過去がある。
アレクセイからのエクスタシー売買金をタピアの仲間に受け渡そうとした際、ハイチ系のタイムストリートギャング集団「ゾーヤ・ポンド」の襲撃に遭う。
銃撃は初めてであったが、携帯していたハンドガンと車に備えられていたショットガンで応戦するシーンがある。
鋼鉄の絆のタピア逮捕に向けた捜査が仇となり、タピアに麻薬捜査官であることが露呈してしまい、拉致されそうになったが茜によって救われる。
ジョニー・タピア
声:鈴置洋孝
キューバ人とアメリカ人のハーフで、時間軸2004年のフロリダを拠点としてエクスタシーの売買を行っている時間犯罪者で麻薬王。本名ヘクトール・ファン・カルロス・タピア。
エクスタシーの売買で得た金で大富豪となっており、キューバには軍隊を警備させた豪邸を持っている。
過去に12回の逮捕経験を持つが、その都度不法逮捕だという理由で警察やTBTを告訴し、そのすべてにおいて勝訴している。多額の賠償金を得ており、作中の事件の前年には900万ドルの損害賠償を得たという。
ナルシストで金や家族に危険が及ぶことを最も嫌がり、その原因の始末はたとえ部下であっても情け容赦ない冷酷さを持っている。最後は太田に眉間を撃ち抜かれ、地雷原の上に倒れこんだ際に爆発で上半身が吹き飛び死亡した。
当初、彼が事件の黒幕であるキングだと思われていたが、後述の立花が真のキングであることが作中で明らかとなり、タピアは立花にとって単なるビジネス相手の一人で影武者であった。
カルロス
声:辻新八
タピア一味のナンバー2で現場指揮担当。タピアに忠誠を誓っている。
ドラ達の事を当初は東洋人ギャングとして見ていたが、彼らがTBTの捜査官であることを突きとめ、更にシドが彼らと繋がりのある人物であることも突き止める。
最期はタピアと共にドラ達をグァンタナモ基地まで追跡するも、茜が投げ捨てたハンドガンのショックで作動した地雷の爆発に巻き込まれて死亡する。
ロベルト
声:石川界人
タピア一味のナンバー3。カルロスとは違い、タピアに対する忠誠心が薄い。母親がタピアの母と従姉妹同士の親戚関係にある。
タピアが娘に似合うドレスの色はピンクがいいと言った際には「ゲロマブだ」と発言するなど、不用意な言動でタピアの怒りを買う。
害獣駆除業者の作業員に化けた駱太郎と写ノ神と太田が、タピアの屋敷に盗聴器を仕掛けにきた際は、3人を取り逃がしてしまう。これがタピアの逆鱗に触れて責任を取らされ、タピアに至近距離から頭を撃ち抜かれて死亡する。
アレクセイ
声:稲葉実
56世紀を拠点とする時間犯罪者。ロシアンマフィアのナンバー1で、ソチやバルセロナ、フロリダに多くのクラブを持っている。
数字が苦手で部下のジョセフがいないと計算できない。エクスタシー購入価格の再交渉の為にタピアの元を訪れるも、逆にタピアの報復でジョセフは殺され、自らの経営しているクラブすべてをタピアの所有物にされてしまう。これが原因でアレクセイの組織が崩壊してしまい、酒びたりの日々を送る。
最期はジョセフの仇を討とうと武装してタピアの屋敷に押し込むも、同時刻にタピアの屋敷に突入していたTBT部隊に一斉射撃を受け死亡してしまう。
ジョセフ・クニンスカビッチ
声:矢崎文也
ロシアンマフィアのナンバー2でアレクセイの部下。小太りした男性でワイン通。
フロリダ一体で経営するクラブで、タピアから購入したエクスタシーを客に売りさばいている。
囮捜査中のシドがエクスタシーの代金を両替するためにアレクセイの元に訪れた時、両替金の5000ドルを4900ドルでケチろうとした。
タピアの組織を「麻薬の運び屋」程度に考えており、支払い手続きが終わった後から、代金が高いことをアレクセイに話し、タピアとの再交渉を提案する。
その後、アレクセイとともにタピアの屋敷へと再交渉に訪れるが、全身をバラバラに切断されて死亡、死体はキューバ製の樽に押し込められた状態でアレクセイに突きつけられてしまう。
フロイト・ポティート
声:小松史法
本編冒頭に登場するKKKのメンバーで、運び屋としてタピアの部下からエクスタシーを受け取る役割を持っていた。タピアから支給された中型モーターボート「デキシー7」の所有者でもある。
ドラが捜査に協力させるため保釈金を支払い、拘置所から出所。龍樹に抱きつかれる写真を撮られ、KKKの仲間に公表すると脅されて協力する羽目になる。移動中は終始車のトランクの中に押し込められ、そのままカーチェイスになってしまう災難に見舞われる。
作中ポティート兄弟と呼ばれる場面があり、彼の兄または弟がいる。その人物は本編冒頭で昇流を人質にとったKKKのメンバーで、銃撃戦直後にドラに頭を撃ち抜かれて死亡。彼自身はドラの撃った銃弾で左耳を吹き飛ばされた。
白人以外に対して傲慢な態度をとるが、何かと人権を主張する小心者。
ブロンディ・ドレッド
声:江川央生
ハイチ系のタイムストリートギャング集団「ゾーヤ・ポンド」のリーダー格。
金色のドレッドヘアーの男で、シドがタピアの部下に金を受け渡そうとするところを、仲間を使って襲撃する。
交差点での銃撃戦ではマシンガンを、アジトでの銃撃戦ではショットガンを使っている。
アジトでの銃撃戦の結果、仲間は全員殺され、自身はドラの放った催涙ガスで目をやられたところを逮捕される。
彼が自宅だと言っていた「ゾーヤ・ポンド」のアジトは“時間軸2012年 ジョージア州にあるピンク色の家”で、時野谷の密告でドラ達に知られてしまう。
立花 宗彦(たちばな むねひこ)
声:平川大輔
32歳。TBT本部第一分隊組織犯罪対策課所属。密輸グループ麻薬密売対策本部の責任者。多くの部下に慕われている理想の捜査官。エリート意識が強い典型的なキャリア組でプライドの高い男。
実は彼こそが密輸グループの黒幕である「キング」その人であり、TBT捜査官として周りから信頼を得る裏で、内通者としてタピア達時間犯罪者に情報を流し手数料を得ていた。タピアの組織が壊滅した後、ドラ達に正体を見ぬかれ自殺を図ったが太田に阻まれ、ドラの「自分が何を信じたいのか、それすら形にない奴が世の中の『正義』を信じることなんてできない」という説教を受け、彼の手によって手錠をかけられる。