「大長官からの許しも出て屋敷に踏み込んだオイラ達だけど、運悪くシドを助けようとした茜ちゃんがタピアに捕まって、人質にされてしまうなんて・・・・・・。だけどこのままで終わらせない。オイラ達の意地に懸けて、茜ちゃんは絶対に取り返す!」
西暦5538年 4月26日
TBT本部 大長官室
麻薬王ジョニー・タピアの逮捕に乗り出したTBT。
三か所同時突入作戦の末、タピアが未来へ持ち出そうとした金と麻薬を押収することに成功。だが、その代償として
この非常事態―――本部へと戻ったドラ達は深刻な表情で大長官室のソファーで待機。
しばらくして、彦斎が入室しデスクの空間ディスプレイにスーツ姿の欧米人二名を映し出す。
「麻薬局のスネルに、FBIのイームズ捜査官だ。彼らからの報告なんだが、タピアのタイムマシンが2時間前にキューバの超空域(ちょうくういき)に入ったそうだ」
「キューバ?」
聞き違いかと思った。太田が目を見開くと同時に、話を聞いていたドラ達の表情が一段と険しくなる。
重い雰囲気が醸し出される。冷静な物言いでFBI捜査官のイームズが口を開く。
『アメリカは人質を取った犯人との交渉には応じない。特に、相手がキューバ人の場合は』
『非常に微妙な状況だ』
イームズの言葉に、スネルが補足として付け加える。
「状況がどうのなんて言ってられねぇ。俺の嫁だ」
愛する妻を奪われ、切羽詰った様子の写ノ神が焦燥を滲みだす。
『オフレコだが、現在政府がすべての裏ルートを通じて外交的な解決を図ってる』
しかし、そうした表面上の善処など―――写ノ神を慰めるには到底至らなかった。
「あんたらの外交とやらが済んだ頃には、茜は棺桶に入れられてる。バカ言ってんじゃねぇよ!」
啖呵を切った写ノ神はその言葉を最後に退室。
張りつめた空気が漂う。ドラ達は部屋から出て行った写ノ神を追って外に出る。
休憩室に入った写ノ神は、ひどく落胆した様子だった。
懐から茜と一緒に撮った写真を撮り出し、同じ時間の中で奇跡的な出遭いを果し、二人三脚で愛と絆を育んできた彼女を思えば思うほど胸が張り裂けそうになる。
「く・・・・・・っ」
血も涙も無い時間犯罪者の手に堕ちた―――その事実を受け入れられず、薄ら涙を浮かべる。
そんな彼の元に、ドラ達五人が入室。駱太郎は意気消沈となる写ノ神に近付き、おもむろに肩に手を当てる。
「こんな簡単に逃がしてたまるか」
写ノ神は沈黙を保ったままだった。ドラは、彼の心に火をつける一言を言い放つ。
「オイラ達は生きるも一緒。死ぬも一緒。一生『家族』だ」
「ドラ・・・・・・」
鼻を啜り、写ノ神は涙でいっぱいの顔で振り返る。
幸吉郎は兄の様に写ノ神を熱く抱き寄せ―――駱太郎と龍樹、太田はともに優しい言葉をかける。
「俺らだけでやってやろう」
「お主らのハレ姿・・・・・・老い先短い爺さんにしかと見せてくれ」
「茜さんを助けましょう、写ノ神さん!!」
「・・・・・・ああ!」
かぼそかった写ノ神の心の火に、仲間達からの心の火が分け与えられる。
愛する者を助ける。チームメイトを助ける。家族を助ける。
一連の決意を固めるドラ達は己の意地を矜持とし、麻薬王が待つキューバへと乗り込むための準備に掛かろうとする―――
ガチャン・・・
休憩室の中に昇流を始め、一連の話を聞いていたシドが所属するアメリカ支部の麻薬局捜査官の男達が続々と入室、ドラ達を凝視する。
「よく知らないが・・・どうやらバカをやる気らしいな。入るぞ」
「元・デルタフォースってのはクレイジーな性質でね」
意外な行動を取った麻薬局捜査官にドラ達は唖然とする。
「弟のチトがキューバに住んでてさ。ちょいキレてるが、地下に仲間がいる。武器・人材・隠れ家、何でもそろう」
「パスポートなんてもんはいらねぇよ。もしキューバで捕まったりした場合は、命はねぇ」
気の狂った奴らだ―――ドラは内心そう思いながら、此度の偶奇にして好機を存分に活用してやろうと思った。
不敵な笑みを浮かべ、彼らは駐車場へと移動する。
「そうか、いいぞ。完璧だ!」
タピアとの決戦に備え作戦を立案する最中―――麻薬捜査官の一人、レイズが集った戦士達へ朗報をもたらす。
「おい、みんな。弟の仲間がトンネルを掘ってくれる!」
「レイズ、電話を代わってくれ」
作戦を立てていたドラはレイズと電話を代わり、キューバのチトと対話を図る。
「チトか。大至急屋敷の見取り図を用意してくれ。明日の午後4時、タピアの元に棺桶が届く。そのとき中に入る・・・そうだ」
そのとき、駐車場に複数の車が到着。全員が注目すると、彦斎が恰幅のある男性を引き連れドラ達の前に現れる。
「親父・・・」
昇流が秘かに警戒する中、彦斎は全員を見ながら呟く。
「自衛隊にいる知り合いの男が部下をよこしてくれたぞ。どういう訳かな、ドラに協力したいそうだ」
そう言ったあとで、スーツ姿に身を包む恰幅の良い男性がドラを見ながら低い声を発する。
「陸上自衛隊中央即応集団特殊作戦群―――SFGpの入間だ。私も同行させてほしい」
*
太平洋 上空3000メートル
茜奪還と妥当タピアのために集まったクレイジーな同志を乗せたTBT専用機は、日本から10時間以上をかけ―――ラテンアメリカの共和制国家、キューバを目指す。
バン! バン! バン!
決戦に備え己を限界まで追い込む者達。
凄まじいまでの熱気を感じながら、様子を窺っていた太田は意を決して鍛錬中の駱太郎へと近づき、尋ねる。
「駱太郎さんは・・・丸腰で行くつもりですか?」
「お?」
「ひょっとして、今までずっと丸腰で出動してた訳じゃ?」
一抹の不安を抱え尋ねたところ、駱太郎は無言を決め込んだ。
「・・・僕が言うのもなんですが、死ぬつもりですか?」
太田基明は彼なりに人間の悪性と言うものを理解していた。ドラから毎日のように苦言を受けたことで以前の様な理想だけを追い求める無謀で子供じみたスタンスは改善された。
だが、同時に腑に落ちない事もあった。それは、
彼なりに駱太郎への最後通告をしたつもりだった。それに対する駱太郎の答えは―――
「“憎むな殺すな赦しましょう”―――」
「え!?」
「昔、月光仮面って正義のヒーローが言ってた言葉だ。ルーキーなら、聞いたことあると思ったんだがよ」
言うと、駱太郎は再びサンドバッグ相手にスパーリングを始める。
太田は頭の中が一瞬真っ白となる。
そして、失いかけていた『正義』への情熱・・・いや、自分で無理矢理捨て去ろうとしていた『正義』をもう一度だけ取り戻そうと思った。
(憎むな殺すな赦しましょう・・・・・・か。現実がそうあれば、こんなにも嬉しいことは無いんだけど。この人達となら、それも出来そうな気がするな)
踵を返し、太田は駱太郎の元から去っていく。
同じ頃―――幸吉郎は元いた時代から寝食を共にし、数々の危難を振り払って来た日本刀を携える。
(・・・・・・俺達の家族は、俺達の手で取り戻す)
鞘から少しだけ刀身を抜き、
「
難解な言葉を唱え始める龍樹。
それは、
(写ノ神よ。茜は拙僧にとって孫娘も同然の存在・・・・・・必ず助けよう。儂らは、そのための
言うと、不動明王の像を前に、龍樹は錫杖片手に舞を舞う様に動きだし、気合いを全身に混入させていく。
「
その隣の部屋で、写ノ神は常時携行している主力武器『
(ちょっとだけ、ちょっとだけの辛抱だからな。俺が、俺達が必ずお前を助けるからな―――茜!! お前は、俺とみんなの希望で家族だ!!)
額に汗を滲ませ、赤い無地のカードを何枚も重ね持ち、写ノ神は最終シミュレーションに撃ちこむ。
「あいつら、気合い入ってるな」
「ほどほどにして休まないと、いざ闘うってときに闘えないんだけどな・・・・・・」
懸念を抱くドラだが、メンバーひとりひとりが抱える思いは重々に理解していたし、自分もまた茜を助けたいという気持ちでいっぱいだった。
とはいえ、彼の場合は幸吉郎とは異なり決戦に備え「休める時に休もう」という隊長らしい合理的な判断に基づいて行動を取る。
「ふぁ~~~・・・じゃ、お休みなさい」
「ああ、やっぱ寝るんだ」
隣で銃の手入れに没頭する昇流を余所に、ドラはアイマスクを着用し、シートを落として深い眠りに入る。
◇
4月27日―――
午前5時30分 キューバ領域
TBT専用機がキューバの領空に入った。
日の出ギリギリの時間帯、一同は海上で待機しているチトの船体を発見。
「目標確認。船が見えた」
「了解。ターゲットは12時、距離270メートル」
「ロープを下ろす。スタンバイ!」
号令を受け、飛行機の上のドラ達
「行け! 行け! 行け!」
合図と同時に飛行機から目標の船目掛け落下傘が落ち―――キューバでのサポートを行ってくれるレイズの弟、チトとの合流に成功。
「チトか?」
「キューバにようこそ」
連絡を受けたチトとドラは初対面を遂げると、ともに協力し合うことを約束し、固い握手を交わした。
*
午前11時過ぎ―――
キューバ共和国 市街地中心部
約束の刻限が徐々に近づく中、キューバ市内へと移動したドラ達はチトが用意してくれた隠れ家の中で突入の為の準備に追われる。
写ノ神は隠れ家から完成間近のタピアの屋敷が目と鼻の先であるという事実に、驚きを隠し切れなかった。
「おい、嘘だろ。隠れ家がタピアの屋敷のすぐ向かいかよ」
「ここならかえって怪しまれない。屋敷をずっと見張ってるが、警備員は毎日3時半にサッカーを始める。問題は、軍隊とドロイドがタピアの警備員をやってることだ」
「ドロイド?!」
チトが口にした単語に、太田は耳を疑う。
「これが敷地内の建物」
一方、元・デルタフォースだったと言う麻薬局捜査官の力を借り、ドラ達は衛星カメラから撮影したタピアの屋敷の構造を確認する。
「すげぇな。CIAの衛星カメラにハッキングしたのか?」
「ああ。LIDAR衛星写真、最新のテクノロジーで地下のトンネルまで見える」
「警報システムは軍隊に通じているため、行動を開始する前にこの警備室を爆破しないとまずいことになる」
パソコンに送られてくる映像を見ながら、ドラはその都度注意点を確認していく。
「今掘ってるトンネルは分岐し、一方は裏庭に出て、もう一つはタピアの避難トンネルに出る」
「急がんといかんな」
話を聞いた龍樹は、チトが結成した地下組織の仲間と協力して幸吉郎と駱太郎がトンネルを掘り進める様子を静かに見守る。
「キューバに来てまで穴掘りとか・・・ビックリだぜ!!」
「言ったろ。弟はイカれてるって」
「今の日本人はこういう汚れ仕事やんねぇからな、お前らは立派だよ!!」
隠れ家から掘られている地下トンネルは順調に掘り進められ、作戦時刻までに何とか間に合わせようと、全員は作業ペースを上げる。
*
同時刻―――
キューバ市内 ジョニー・タピアの屋敷
茜を人質に取り、完成間近の新居で悠々自適な時間を過ごしていたタピア。
娘を隣に立たせ、大広間に飾られる事となるイエス・キリストをかたどった「最後の晩餐」の画を誇らしげに見つめる。
「パピー。イエス様みたい」
小太り気味の娘・キャンディーが率直に思った事を口にする。
「ふふ。何故これを“最後の晩餐”と言うんだ?」
「イエス様が
「
由々しき事を聞かされた。救世主となったイエスは人間の原罪を一人で背負い、
「耳ふさいでろ」
娘の耳をふさぐと、タピアは仕上げに掛かろうとしている絵師全員を怒鳴りつけ、態度を一変させる。
「お前らよく聞け。こんな絵はクソだ!! わかったか!? 誰がこんなクソ描けと言った!! 描き直せ! 天使が俺を見下ろしてる絵を」
*
午後2時12分―――
キューバ市内 チトの隠れ家
「ここは海。タピアの屋敷から270メートルだ」
金を詰めた棺がタピアの家へ運ばれるまで残り1時間48分―――ドラ達は最後の打ち合わせと題した作戦会議を開いていた。
部屋の中央に忠実に再現されたタピアの屋敷の模型を置き、それを使ってドラは全員に突入作戦の指揮を執る。
「今いるのがこの隠れ家。第一トンネルの出口はここ。第一班がまず警備室を爆破する。第二トンネルは屋敷のど真ん中に通じている」
「チトの仲間からの情報では、茜が居るのは二階の一番奥のベッドルームらしい」
「給仕に扮した仲間のルペが屋敷に潜りこんでる。彼女からの情報だ。間違いない」
「3時きっかりに、ネコとイグアナを屋敷の中に放り込む。警報機がそれに反応して鳴り響いてくれれば警備員が警報機を切る」
「軍隊とドロイドが来ないかどうか仲間が外で見張る。もし来たら、おしまいだ」
危惧すべきことは多々ある。
タピアは地元の軍隊を警備員として雇い、将軍とは密接な関係にある。
そして、その軍隊は軍備拡張のために大量生産に持ちこんだドロイド兵を所有している。
一筋縄ではいかないことは間違いない。だがそれでも、彼らに迷いはない。
午後3時ちょうど―――タピアの屋敷に潜りこむための秘密作戦が決行される。
チトの仲間達は用意した複数匹のネコとイグアナを屋敷の庭へと放り込み、警報機が反応することを祈った。
「成功させるぞ」
そして、駱太郎と昇流を始め―――麻薬局捜査官が地下トンネルへと通じる穴に入る。
午後4時―――。
タピアが要求した1億ドルが納められた棺が赤い軽トラックに積まれ、敷地内へと侵入。
報告を受けたチトの仲間は、進路方向へ合わせて土管を転がし、事故を装ってトラックの進路をふさぐ。
「おいおいなんだよ!!」
「邪魔くせぇもん転がしやがって!!」
運転手が文句を言い始めると、チトの仲間の美女達が女性に飢えた運び屋を誘惑し、時間を稼ぐ。
「ねぇ、あたしたちと遊ばな~い♪」
「うふふ・・・遊んじゃおうかな!!」
「入るぞ」
ほぼ同じ頃、ドラと幸吉郎は棺の中へと入り―――別方向から全く同じトラックを装いタピアの屋敷へと向かう。
少しずつ動き始める歯車。
ウー! ウー! ウー! ウー! ウー! ウー!
屋敷中へと放たれたネコとイグアナは案の定屋敷の警報器を過敏に反応させる。
「どうなってる。今日5度目だぞ」
幾度にも鳴り響く警報機の音に、タピアはほとほとうんざりする。
「カルロス。故障が治るまでセンサーを切っておけ!」
すると、キャンディーが中庭で見つけた二匹の野良猫を持ってタピアの前にやってきた。
「パピー、これ見て。飼っていい」
「ダメだ」
「みんな聞け。センサーがオフになった」
彦斎の懇願を受け日本から派遣されてきた陸上自衛隊中央即応集団特殊作戦群、通称SFGp所属の捜査官・入間は隠れ家に残り、パソコン画面を見ながらタピアの屋敷の様子を確認。
『行動開始だ』
たった今、屋敷の警報器全てがオフとなり―――侵入するにはこれ以上ないチャンスとなった。
「準備が整った様だな」
「行こう」
龍樹、写ノ神の二人は麻薬局捜査官と一緒に第二トンネルを通じて麻薬王の屋敷内へ突入を開始する。
ドラと幸吉郎が潜んだ棺を積んだトラックが屋敷に入る様子を見守りながら、アイス売りを装ったチトが小型カメラ付きのラジコンカーを放す。
ラジコンカーはトラックの下へ潜りこみ、警備員の視界から隠れる。
「左、左。よし、そうだ」
入間は小型カメラから送られてくる映像をパソコン画面で見ながら、遠隔操作でラジコンカーを操る。
「思ったより難しいな」
精緻な操作に苦労しながら、ラジコンカーは順調に屋敷の中へと進んでいく。
また、第一トンネルを通じて屋敷を目指していた駱太郎と昇流達。狭い通路を
「分岐点だ。行け行け」
「幸運を祈る」
協力してくれた麻薬局捜査官と別れ、駱太郎と昇流は進路を右に変更し、
ドラと幸吉郎を乗せた棺は屋敷の中へ到着。トラックの荷台から降ろされ、台に乗せられる。
そして、トラックの下に隠れて屋敷内に入ったカメラ付きのラジコンカーは中庭を移動しながらチトが話していた軍隊のサッカー現場を捜索する。
「サッカーどこでやってる? 見つけだせベイビー。どこだ?」
進行方向には大きなプールが備え付けられており、何も知らないタピアが侍らす美女の一人がセクシーな水着姿を曝け出し、日向ぼっこをしている。
「おっと。左だ、左」
やがて、それらしき現場を発見―――警備担当の兵士達はチトが話していた通り、呑気にサッカーをして遊んでいる。
「こっち見るなよ、見ないでくれよな」
幸いなことに、屋敷の中にいる者はラジコンカーの存在に気付いていなかった。
「避難トンネルに到着した」
ここで、写ノ神からの連絡が入った。
「あそこだ。サッカーだ」
ラジコンカーを遠隔操作していた入間は、サッカー現場に潜りこんだ。
サッカーに夢中になっていた警備員は目の前から走って来たラジコンカーに興味を抱き、取り付けられた小型カメラを凝視。
その下で息を潜める者達。一度失敗すれば最後、もう後戻りはできない―――正に命懸けの作戦が始まろうとしていた。
「悪いな」
言うと、罪悪感を胸に抱きながら―――入間はラジコンカーに仕掛けられた爆破スイッチを作動させた。
ドカ―――ン!!!
「「「「「ぐああああああああぁあああ」」」」」
「ああああああああぁああ!!!」
軍隊が爆発のショックで吹き飛ばされる。美女も爆発に驚き、屋敷全体に轟音が響き渡る。
「庭で何か起きたぞ!」
「いけいけいけ!」
第一班として警備室の前の地下トンネルに潜んでいた駱太郎と昇流と、仲間の麻薬捜査官は外に出るや、警備員室目掛けてチトが用意してくれたロケット砲を撃ちこむ。
ドドド―――ン!!
「ぐおおおお!!!」
ドーン! ドドドド!
警備員室が爆破されると同時に、各所で爆発が起こる。
ドーン! ドドドド!
そして、警備員達の配置が全体的に手薄となっている隙を見計らい、ブロック塀を突き破ってホイールローダーを運転する太田が突っ込み―――屋敷内の人間の動揺を煽ぐ。
「何ぼさっとしてんだ! 撃て!! 撃て!!」
臆した部下達が拳銃片手にヘッピリ腰でホイールローダーを撃つ。
無論、ショベルを挙げた状態であり、元々の装甲が頑丈なため弾は次々と弾かれ―――太田に被弾することは無かった。
「「うらあああああああ!!!」」
隙を見て、棺の中からドラと幸吉郎が現れ、怯んだ敵を愛刀で斬り伏せる。
「ふらっ!」
丸い手で装備されたドラの刀は無慈悲に敵を斬り伏せ、斬られた相手は胸元から血を吹き出し、やがて動かぬ肉塊となって倒れ伏す。
また、幸吉郎は騒ぎを駆けつけ現れる敵に狙いを定めると―――手に持っている刀を垂直に構えてから、腰を下ろした比較的低い体勢から、剣を水平に倒していく。
「
刹那、勢いよく地面を蹴った幸吉郎は加速に乗せて前方の敵へ剣を突き出し、複数の敵を貫いた。
「
元来が持つ幸吉郎の特技は、常人離れした脚力を最大限に生かし、初速に乗せた
「こんな僕でも・・・役に立った!!」
ホイールローダーで屋敷に突っ込み、敵の注意を引くのに一役買った太田。何かの役に立つかもしれないと取得した、免許証に記された大型特殊免許がここで重宝した。
「つらあああああ」
意識が若干抜けていると、敵地のど真ん中であるゆえに敵が現れ襲い掛かってくる。
「
太田が殺されそうになるや、ドラは目にも止まらぬ速度で回り込み、持っていた刀で目の前の敵を斬り伏せる。
「
一瞬何が起こったのか分らなかった。
太田は、いつの間にかドラが現れ自分を殺そうとした男を形も残らぬほど切り刻んだ光景に目を疑った。
「ボケッとするなよ! 死ぬぞ!!」
「は、はいッ!」
自分がいる場所が血も涙も無い非情な場所―――戦場であることを再確認し、太田は背負っていたサブマシンガンを手に取り、手当たり次第に撃ちまくった。
「極東女連れて来い! サントス将軍に連絡してすぐ来るよう伝えろ!」
ドラ達の襲撃を受けたタピアはやや焦った様子で、自分の家族を守ろうと積極的に動き出す。
「怖いだろうな。すぐに片付ける」
一人娘のキャンディーにやさしく微笑みかけると、彼女は今にも泣きだしそうな顔で黙って首肯する。
「娘を安全なところへ連れてけ!」
小太りの部下に大切なキャンディーを任せ、タピアは侵入者の迎撃に備える。
ダダダダダダダダダダ!!!
麻薬局捜査官と屋敷内の軍隊による銃撃が本格的に始まった。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
そんな中―――突1として銃器を使うことを好まないばかりか、完全なる丸腰の駱太郎は、倒すべき敵に向かって突進しながら、両手を保護していたナックルグローブを捨て、人知を超えた力を解放する。
「俺の拳はすべてを砕く―――ゆえに、『
右拳を天に掲げると、駱太郎は前方の敵目掛けて拳を突き出す。
「“
ドーン!!! 目の前の遮蔽物を完膚なきまでに打ち砕く一撃必殺、否―――最早それは
玉砕を受けた兵士は絶大な威力を秘めた拳の力で飛ばされると同時に、屋敷の中へと吹っ飛び、設備と言う設備を破壊しながら意識を途絶えた。
ダダダダダダダダダダ!!!
「ったく。アメリカ流はどうにも好きになれねぇ。数だけバカスカ撃ちやがって・・・」
と、駱太郎と一緒に第二トンネルから突入を試みた昇流は物流戦を好まず、ガンマンとしての矜持から一撃必殺での勝負を好んだ。
「銃って言うのは―――こう使うんだよ!!」
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!
「「「「「「ぐあああああぁああ」」」」」」
昇流の放った凶弾が兵士達の心臓を貫く。普段でこそ自堕落な彼だが、銃撃戦においてその実力はTBT随一を誇っている。
「写ノ神! 参るぞ!」
「はい!!」
龍樹と写ノ神もまた屋敷内に潜入―――麻薬局捜査官と協力して、襲い掛かる軍隊に攻撃を開始する。
「
錫杖を軽く地面に叩くと、高められた龍樹の法力は、物理的にはあり得ない神秘的な現象を現実に引き起こす。
刹那、地面から巨大な包帯が出現し―――大人数の兵士が絡め取られる。
「“草木よ、大地の恵みを集わせ、一刀の
取り出された二枚の札。写ノ神の詠唱と共に光り出す。
やがて、二枚のカードの力は合わさり、写ノ神の手元に草木の力を内包した片刃の大剣が出現する。
「
彼が操る魂札(ソウルカード)は、四大属性である「火」、「水」、「土」、「風」を起点にその配下カードが13枚ずつ存在している。カードは組合せによって様々な力を生みだし、中でもカードとカードの力を一時融合させた「
「返してもらうぜ。俺の嫁を・・・・・・」
茜を連れ去ったタピアという悪党に加担する者に容赦はしない―――写ノ神は凄んだ声で言うと、持っていた剣の刀身を倍の長さに展開させ、光の刃を作り出す。
畏怖の念を抱く兵士達は逃げようにも龍樹の術で身動きが取れない。おもむろに天に掲げた神々しく輝く剣を、写ノ神は躊躇なく前方へと振り下ろす。
「『
ドドド―――ン!!!
劣勢に立たされるタピア勢。
茜という家族を取り戻すために組織された正気と狂気を併せ持つ少数兵営部隊が突入から10分という短時間で屋敷内の六割を掌握する。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
「カルロス! マズイぞ!」
「分かってます!」
完成間近の屋敷に容赦なく銃弾の雨が飛んでくる。キッチンで銃撃戦に参加していたタピアはカルロスに此度の状況の厳しさを伝える。
「将軍はどうした!? ドロイドはまだか!?」
「こっちに向かってます、ボス!」
外の敵を片付けた駱太郎と昇流は、屋敷の二階を目指して再び地下トンネルを移動。
茜が閉じ込められている寝室近くの排気口を出て、それらしい部屋に侵入する。
「この虫けらども!」
ドン!
目の前から飛んできた散弾銃。撃ってきたのはタピアの実母であるドナマリア。
「頭ふっ飛ばしてやる!」
ドン! ドン!
「あぶねー!」
「イカれてるぜ、このママ!?」
息子が息子なら、それを育てた親も親だった。ドナマリアは怒り心頭に駱太郎と昇流目掛けて銃を撃ちまくる。
「どうしたの!? うちの息子がお前等なんかチョリソにしてやる!」
いい年した老婆の過激な物言い。昇流は持っていた銃をドナマリアへと突き付けながら、ゆっくりと近づいて行く。
「ママ、すまないね」
「このドブネズミ! 穀潰し!」
ドンッ!
最後の言葉を聞いた瞬間、昇流は左手でドナマリアの顔面を殴りつけ、気絶させる。
「本当のこと言うなよ!! ちょっと悲しくなるじゃんか!!」
「だったら真面目に働いてみたらどうだよ・・・」
駱太郎に正論を浴びせられ、昇流は益々惨めな思いとなった。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
鳴りやむことのない銃声。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
外でも中でも戦いが繰り広げられ、屋敷のあちこちに銃痕が目立つようになる。
ドナマリアを昏倒させた昇流と駱太郎は引き続き、敵の注意を引き付けながら茜の捜索を急ぐ。
ドン! ドン!
「ぐあああああ!」
途中、タピアの娘のキャンディーを連れて逃げようとする小太りの部下を見つけ、その足を射抜いて身動きを奪う。
昇流に足を射抜かれた男は転倒し、連れていたキャンディーは駱太郎が保護する。
『駱太郎、長官どうじゃ?』
「ママと娘捕まえた!」
「これから家の中に入る。ゴー!」
龍樹と写ノ神もまた、外の敵を片付け茜の救出へと向かう。
「龍樹さん達が屋敷へ!」
その姿を確認したドラと幸吉郎、太田の三人もまた残りの敵を片付け―――屋敷の中へと向かった。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
麻薬局捜査官とタピアの部下が銃撃戦を繰り広げる。
ドラ達と合流を果たした龍樹と写ノ神は、タイミングを見計いながら、移動の瞬間を待つ。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
「行け! 行け! 行け!」
麻薬局捜査官の合図を聞き、五人は二階の寝室へと走っていく。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
敵は階段を上っていくドラ達を徹底的に撃ちまくる。それこそ、銃創の底が尽きるまで―――
「ぐああああああぁあああ」
そのとき、唐突に一人の男が血を吹き出したと思えば、続けざまに人という人が絶命する。
「なんだ?」
麻薬局捜査官が不思議に思う中、屋敷の中からゆっくりと歩いてくる人影を捉える。
「・・・楽しそうなことをやってるみたいだね。でも、生憎僕は群れで戦うのは趣味じゃないんだ」
異様な殺気を全身に身に纏い、淡々と語りかける男の声。
思わず息を飲む捜査官。歩いてきたのは―――軍服のような服に身を包んだ無表情の美男子。その瞳はどこまでも冷徹で、見る者すべてを竦ませる。
「う・・・うわああああああァアアアア」
迫りくる畏怖の対象に向けてマシンガンを放つタピアの部下。
男は不敵な笑みを浮かべると、右腕を横に振り払う同時に男が持っていたマシンガンを破壊する。
「ひいいいいいい!!」
「そんなオモチャじゃなくて、君個人の力を見せつけてくれないかな? でないと、あっという間に」
バシュン! 男を体は瞬時に斬り裂かれ、横方向に斬られた部分から止めどない血と内臓が吹き出す。
「蟲の息にするよ」
言うと、軍服を着た少年はカマキリの如く変化した腕を突き付け、目の前の敵を脅迫。鎌の先にはべっとりと血痕が付着している。
「こ、ここ殺せぇええ!!!」
「「「わあああああああァアアアア!!!!」」」
恐怖に支配されたタピアの部下達は手当たり次第に銃を撃ちまくるが、男は無表情に右手の鎌で銃弾を薙ぎ払い、体を捻らせ一回転をする。
「『
バシュン! バシュン! バシュン!
立ちはだかる者すべてを切り刻む無常なる攻撃。悲惨な末路を迎えた敵のバラバラ死体が無造作に転がる様を、麻薬局捜査官は呆然と見つめる。
「なんなんだよ・・・こいつ・・・」
「チックショー!」
男を敵だと勘違いした捜査官の一人が銃を突き付けると、無表情に男は懐に手を入れ―――TBTと書かれた手帳を見せる。
「何っ!?」
驚愕を露にする捜査員に男は不承不承な表情で呟く。
「こんなときだと、こんなものが大いに役に立つよ。僕の名は、
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
「外は片付けた。30秒以内に助け出せ」
仲間の捜査官から連絡を受け、ドラ達は茜の元へと急ぐ。
「バルコニーに二人いるが、こっからじゃ狙えない」
険しい道のりが続く。捜査官からの無線を聞きながら、死角に隠れる敵の攻撃に警戒する。
「どっち行った!? やりそこなった!」
日本刀を手に持ちながら、ドラは左右を見渡す。
直後、寝室近くの左の部屋から敵の姿が見えた為―――幸吉郎は閃光弾を取出し、放り投げる。
ピカーン!!
「茜っ!!」
「こっちです!!」
敵の目を眩ませると、茜の寝室目掛けて写ノ神は突進する。
ドカン!!
扉が叩き割られると、目立った外傷は負っていない健康体の茜が写ノ神の到着を待ちわびていた。
「写ノ神君ッ!!」
「助けに来たぜ!!」
と、感動の再会を果たそうとするや―――バルコニーの陰に隠れていた敵が銃を構える。
「伏せてください二人共!」
「伏せろ! 伏せろ! 伏せろ!」
太田はバルコニーの陰から狙い撃とうとする敵目掛けて銃を向ける。
二人の言葉を聞いた写ノ神は茜を床に伏せさせる。
ダダダダダダダダ!!!
「きゃああああぁああああ」
太田の判断が功を奏し、敵は二人を撃つ前に自らが凶弾に倒れた。
「逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!」
「みなさん!」
「急くぞ!」
「写ノ神、茜ちゃん放すなよ!!」
間一髪のところで茜の奪還を遂げたドラ達は寝室を飛び出し、屋敷の外へ向かう。
「逃げるぞ。奪還した」
『急げ。マズいことになって来た』
外で戦っていた捜査官は、タピアの要請を受け駆けつけたサントス将軍率いる増援部隊と、ドロイド兵を乗せたトラックを凝視する。
「R君、長官! 戻るから援護して!」
「よっしゃー!」
「援護するぞ!」
ドン! ドン! ドン!
脱出を図るため、昇流はできるだけ敵の数を減らそうと制圧に専念し、駱太郎もまた教団の中に向かって突進し、文字通り燃え盛る炎の拳を叩きつける。
「喰らえ!! 『炎砕(えんさい)』!!」
ドォ―――ン!!!
炎の拳が敵を屋敷の外へと突き飛ばす。白を基調とする壁に焼け痕がつく。
「ああああああああああああ!!!」
ドラ達の奇襲を受けた麻薬王ジョニー・タピアは、多額の建築費を懸けて完成を心待ちしていた屋敷を、無残にも破壊しようとする悪魔を―――決して許さなかった。
イエスをかたどった自らの画が飾られた大広間目掛けて銃弾を放つと、足場が崩れ落ち、豪快な音を立てて落下する。
「応答しろ! どうなってるんだあれ!?」
隠れ家で屋敷内の様子を監視していた捜査官は、屋敷の方へと走っていく兵士が積載されたジープと大型のトラックに吃驚する。
「ああ、軍隊が来た! ドロイドもいるぞ!」
恐れていた事態がやってきた。チトはこうなることを想定しつつも、予想よりも早い展開にかなり焦っている。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
「マズいぞ、行かなきゃ!」
状況が変わったため、チトはマシンガンを装備し、ドラ達の元へと急いだ。
『聞こえるか、軍隊が来た! 逃げ出すんだ! 急げ!』
「ああ!」
圧倒的不利な状況になる前に逃げ出そうとするドラ達。
ダダダダダダダダ!!!
「ああ、撃たれた!」
そのとき、運悪く昇流の左足に凶弾が命中―――足を負傷する。
「杯長官!」
「大丈夫ですか!?」
体裁と心の底から、ドラ達は撃たれた昇流の身を案じる。
「トンネルに迎え、ここを爆破する!」
「急げ! 逃げるぞ!」
隠し持っていたプラスティック爆弾をセットし、駱太郎と龍樹は負傷した昇流を担いでトンネルへと向かう。
屋敷を爆破する前に、増援部隊とドロイドが現れ―――タピアの敵であるTBT捜査官達に攻撃を開始する。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
「このまま好き放題にはさせませんよ!」
言うと、茜は右手の親指を齧って血を出すと、それを
「
直後、彼女の足元に現れた特殊な紋様・
「な・・・なにこれっええええええ――――――!!!!!!」
目の前の現実を現実のものだと信じられない太田は、茜が呼び出した怪物―――
「葵ちゃん! 若葉ちゃん! やっちゃってください!」
「誰っすかそれ!?」
召喚した自らの手となり足となる畜生に、茜は突飛な名前を付ける癖があった。
ちなみに、「葵ちゃん」とは牛頭のことで、「若葉ちゃん」とは馬頭のことを指している。
牛頭と馬頭は二体一対の畜生で、主(あるじ)である茜の忠実な下僕として敵を完膚なきまでに棍棒で粉砕。人間、ドロイド問わず徹底的に叩きつける。
「怯むな!! 数ではこちらが優勢「本当にそうかな?」
バシュン!
「ぐあああああああ!!」
軍隊の動きに異変が起きた。一人が斬り裂かれたことを切っ掛けに、瞬く間に次々と同じような目に遭って倒れていく。
「あいつは・・・!」
「なんだよなんだよ。お前も来てたのか―――壌」
警戒する幸吉郎と、意外そうな顔を浮かべるドラは戦地に立つ無表情の少年こと―――第七席の螻蛄壌を凝視する。
壌は、鼻で笑うと右手で持っていた軍隊の体を左手の鎌で斬り裂いた。
「あ・・・あの、彼は一体・・・!?」
事情を知らない太田が淡々と人を殺している壌に恐怖しながら、恐る恐る茜に尋ねると―――彼女は些か難しい顔を浮かべ、答える。
「あれは螻蛄壌さん。私達と同じ過去の世界からやってきた特異点の一人で、組織と言う群れる現場をとことん嫌い、誰かに迎合することなく戦いだけを求める・・・」
「ああやってふらっと現れては、なんだかんだ言って協力という個人プレーを披露したりするんだ」
「勘違いしないでくれるかい、サムライ・ドラ。僕は一度たりとも君やそこに立っている君の仲間とやらに協力した覚えはないよ」
「知ってるよ。お前みたいな面倒くさい奴の扱いは心得てるから安心しなって。とりあえずさ、憂さ晴らしのためにその辺にいる敵みんな斃したら?」
と、かなり恐ろしい提案をあっさりと口にするドラ。
壌は無言のまま背を向け、ドラの言った通りに立ち塞がる者すべてをたった一人で片付ける。
たった一人で軍隊ほどの力を持つ壌の力を大いに活用し、ドラ達は状況を有利に進めようとする。
「爆発の時刻まで残り少ないです!」
「そろそろ逃げませんと!」
時限爆弾が仕掛けられた以上、逃げなければ巻き沿いを喰らってしまうのは誰もが容易に想像がつく。
ドラ達は慌てて中庭へと走り、トンネルの方へと目指す。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
その後も次々と駆けつける軍隊とドロイド兵。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
ドラと幸吉郎が先陣を切って、銃弾を刀で弾きながら障害物という障害物を斬り伏せていくが、多勢に無勢―――状況は逼迫していた。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
「ドラ! ドラ! 急いでくれ、逃げるんだ!」
無線機から地下トンネルに潜った駱太郎の声が聞こえる。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
「R君! R君! 先に行ってくれ、トンネルからは無理だ! 作戦Bに変更! 作戦Bでいく!」
「「作戦B?!」」
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
「ちょっと、ドラさん作戦Bって何ですか!?」
「何も聞いてねぇのか!?」
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
「でも作戦Bなんて!」
逼迫した状況でドラから聞かされた作戦Bなる謎の作戦。幸吉郎以外の三人が聞き覚えの無い作戦に困惑し、動揺を抱く。
「前々から言おうと思ってたんですけど、ドラさんのそういうところが僕は!」
「いい加減にして行きましょうよ!」
「作戦BでもCでもいいから、とにかく逃げよう!!」
見切り発車とその場の乗りで何でも決めつけるドラの自己中心的なところに業を煮やした太田は、一言文句を言おうとするが、状況が状況だけにすぐに止められ―――止む無く予定調和には無かった作戦に従う。
「ついて来いよ! 付いて来い!」
「作戦B? 作戦Bって何?」
無線越しに地下トンネルで一連の話を聞いていた駱太郎達も困惑する。
トンネルからの脱出を諦めたドラ達は別ルートからの脱出を図り、一旦屋敷の中へと向かう。
銃撃戦の真っただ中、逃げ道を探していたドラ達の前に―――チトという救援が駆けつけた。
「チト! 何しに来たんだ!?」
「道案内だよ、バカ!」
「こっちだ!」
チトに連れられ、ドラ達は屋敷のある場所を目指す。
「ドラ達はこない!」
「急いで逃げるんだ!」
ドラ達が来ない事を聞かされた麻薬局捜査官は、地下トンネルを移動―――爆破の前に全身全霊の
「キーだ、キーだ、キーだ!」
逃げる手段として、ドラ達が考えたのはタピアが所有しているジープだった。車庫の側にかけられた鍵を見つけ出し、幸吉郎はエンジンを始動させる。
荷台にはドラとチトが乗り込み―――助手席に太田、後部座席に写ノ神と茜が乗車すると運転席の幸吉郎が力一杯アクセルを踏んだ。
ドカ―――ン!!!
「「「「「「ぐああああああああああ!!」」」」」」
ドドドド――――――ン!!!
無残に破壊されていくタピアの豪邸。屋敷中から爆炎が上がる様を見、麻薬王は現実の理不尽な光景に目を疑った。
「ああ、神よ! そんな!! 俺の屋敷が!!」
エクスタシーの密輸で儲けた金が結集された屋敷は、一日でお釈迦と化す。
ダダダダダダダダ!!! ダダダダダダダダ!!!
爆炎上がる屋敷内を爆走する一台のジープ。激しい揺れと四方からの銃撃を受けながら、幸吉郎は屋敷の外を目指してアクセルを踏み続けた。
「作戦Bは機銃掃射されるわけはねぇのに!」
「これが作戦Bですか!? 作戦BのBはね、バカのBですよ!」
「じゃあ、てめぇが運転すっかよ!?」
「代わるからマシンガンのわきに飛び込みやがれ!」
戦場と言う正気が一切存在しない場所で、狂気に支配された太田は清純派キャラを維持することができず、前回のカーチェイスの時と同じくキャラ崩壊を起こす。
「くっそー!」
激しい憎悪と悲壮感に苛まれるタピアの横を通り過ぎ、裏庭から爆破された屋敷の中を走行していく。
「わおおお! いやあああ!」
「幸吉郎さん、もっと安全に運転してくださいよ!!」
「無茶言うぜ! 幸吉郎だぞ、幸吉郎!」
一度運転すると、性格が豹変してしまう副隊長の二重人格的性質に、写ノ神と茜は心底辟易する。
「でーっははははははは!!! ざまーみろクソタピア、オイラに刃向うからだ!!!」
「この作戦も聞いてなかったよ! 車でダイニングルーム突っ切るなんて!」
「じゃあ表玄関から帰るよ!」
荷台のチトに言うと、幸吉郎は豪快に表玄関を突き破って屋敷からの脱出を成功させた。
用語解説
※1 超空域=時空間における領域のこと
※2 デルタフォース=第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊の通称であり、主に対テロ作戦を遂行するアメリカ陸軍の特殊部隊のこと
ドラさん語録~サムライ・ドラが残した語録集~
その10: オイラ達は生きるも一緒。死ぬも一緒。一生『家族』だ
それは鋼鉄の絆という名の下に結集した者達を指して言う。ドラにとって、鋼鉄の絆とは苦楽を共にする家族であり、そこには上司と部下と言う関係はない、対等な関係が築かれている。だから、何事にも本気でぶつかり合えるのだろう。(第8話)
次回予告
太「西暦5538年4月。初めての任務でミスをしてドラさん達のところに飛ばされた僕は、短い間に濃密な時間を過ごしたと思う。あの人達ときたら、やることなすことすべてメチャクチャ・・・! だけど、何故だか充実した日々を送った気がする」
ド「いよいよ次回は新人捜査官配属篇の最終回!! タピアとの決着は!? そして、この事件の真の黒幕の正体は・・・・・・!」
太「次回、『麻薬戦争の果てに』。うそ、黒幕って・・・・・・ええぇ!!!」