サムライ・ドラ   作:重要大事

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ド「恐竜って響きを聞くと、大人も子供もちょっとしたドキドキ感を覚えるよね?というわけで今回のテーマは『恐竜』だ!!ドラえもんじゃ恐竜なんて見慣れた企画だけど、この作品で恐竜を扱うのは実を言うと初めてとなるかな」
「世界的に有名な『ジュラシック・パーク』シリーズを見ると、結構うそ八百なことが描かれているけど・・・それでもやっぱり傑作である事に変わりはない。あ、ちなみにオイラが一番好きな恐竜映画は『ゴジラ』かな?」
昇「アホ。『ゴジラ』は特撮怪獣映画だろうがよ・・・早々に間違えんな」



日常編3
白亜紀からこんにちは


西暦5539年 5月3日

北海道 倶知安町 富士見キャンプ場

 

5月に入って、ようやく大気も落ち着きを見せはじめ過ごし安くなった。

この季節は俗にゴールデンウィークと呼ばれる時期。大勢の人々が長期休暇を利用して家族や恋人とともに行楽地へと駆り出す。

かくいう鋼鉄の絆(アイアンハーツ)一行も仕事を忘れキャンプ場へ遊びに来ていた。

「はぁ~・・・。」

来て早々に元・鋼鉄の絆(アイアンハーツ)第八席、現在はTBT第一分隊の麻薬取締部に籍を置く太田基明は溜息を突く。それを他のメンバーが気に掛ける。

「どうしたルーキー。せっかくのキャンプだってのに溜息つきやがって」

「溜息もつきたくなりますよ・・・。キャンプする分にはいいですけどね、やっぱり人が多い気がして」

 周知の通り季節は5月のゴールデンウィーク真っただ中。人がいない行楽地を想像する事の方が難しい。

「ルーキーの言う通りかもな。いくらキャンプつったって、こんな一番混む時期に予約しなくても良かったんじゃねぇのか?」

 太田に共感した写ノ神も一緒に愚痴をこぼす。周りから聞こえてくる不平不満の声を拾うかたわら、幸吉郎は声を荒らげる。

「文句があるならとっとと車に乗って帰ればいい!せっかく兄貴のご厚意でこうしてキャンプが出来るって言うのに・・・どいつもこいつも人が多いだ、ダルいだとグチグチ文句ばかり言いやがって。それでもてめぇらサムライか!!」

「いいえ、自分は一麻薬Gメンですけど」

「拙僧に至っては真言宗の伝法阿闍梨(でんぽうあじゃり)じゃぞ」

「というかダルいだなんて一言もいってないじゃないですか」

 人間忙しいと気が短くなる。幸吉郎の場合はそれが顕著である。周りはそれを知ってか知らずか彼の神経を逆撫でるように言葉を紡ぐ。

 何となく場の雰囲気が悪くなっている事に危機感を募らせたTBT本部精神開発センター所員・栄井優奈は、少し躊躇したものの勇気を持って間に割って入り仲裁を取り計らう。

「まぁまぁみなさん、普段の仕事を忘れてこうして大自然の空気を満喫できるわけですから。このキャンプ楽しまなきゃ損ですよ♪」

「ま、確かに優奈の言う通りかもしれねぇな」

「それもそうですね。じゃあ・・・!」

「おーし!そうと決まったら、さっさとテント組み立てて飯の用意だぁー!」

「「「「「「「「おー!」」」」」」」」

 こうして一行は改めてキャンプを全力で楽しむ事を宣言。一致団結して作業に取り掛かり始めた・・・かと思いきや。

「ずいぶんと気合いが入ってるね。でもオイラ、キャンプに来てまで働きたくないからみんなでがんばるんだよー」

 ここに極めて非協力的にして我が道をゆく者がひとり。鋼鉄の絆(アイアンハーツ)のリーダーでありながら魔猫、サムライ・ドラだった。彼は車の近くに置いたアウトドアチェアに腰かけダラダラと漫画雑誌を読んでいた。

 これに腹を立てた昇流と太田が近づき大声で叱咤する。

「おめぇはつくづく何様のつもりだよ!!」

「ちょっとドラさん、何ひとりでマンガ読んで寛いでるんですか!!」

「ギャーギャー喚かない。自分勝手こその魔猫だろうが。オイラからエゴイズムと私利私欲と言う言葉を盗ってみろ。それこそ親切なドラえもんになっちゃうじゃないか」

「世界平和の為にはむしろ大歓迎なんですけどね」

 茜がそう言うと皆自然と苦笑する。

「とにかくてめぇーも仕事してもらうからな!!ジャンケンで負けたとは言え、行きの車運転してきた俺の身にもなってみろ!!」

「や~だ~!休みのくせに働くなんてバカの極みだよ~~~!もっとぐうたらさせろ~~~!酒飲んで昼寝させてくれ~~~!」

「なにオッサンなみたいなこと言ってやがる!!」

「オッサン舐めるなよ!!オッサンの80パーセントは文句も言わず会社に通って命懸けで仕事してんだよ!!」

 などと互いに怒号を放ちながら駱太郎は働くことを放棄しサボタージュを決め込む魔猫をかなり強引な方法で連れ出し、ドラは体を引きずられながらも必死に抵抗した。

でも結局その抵抗も虚しく、この後ドラは渋々仕事をさせられる事となった。

 

それぞれがキャンプ場での自分の仕事を始めた。

昇流の交際相手である優奈は現在火おこしを任され作業をしているのだが・・・

「フーフー」

いくらやっても火が付かない。出るのは黒い煙ばかり。

「おかしいな・・・」

 正直いうと本格的なアウトドアは今回が初めてだった。普段便利な生活に慣れた彼女には少々ハードルの高い作業だったのかもしれない。

「よーし・・・」

意地でも火を起こしてやろうと意気込むと、あろうことか市販の着火剤を取り出し火の中へ直接流し込む。そうすると・・・

ボワッ!!!

「うわあああっち!!」

案の定、猛烈に勢いを増した炎が塔の如く高く燃え上がった。

「あんた何やってんだ!!ダメだろ、着火剤を火に入れたりしちゃ!」

「す、すみません・・・」

危うく火傷し欠けたうえに、近くにいた別のキャンプ客にまで叱責される始末。彼女のドジっぷりは職場の外でも健在だった。

与えられた役目すら満足に果たせない不甲斐なさを嘆き酷く落胆する優奈。

少しでも慰めてもらおうと大好きな昇流の元へ行くことに。ちょうどそのとき彼は得意の工作で、ある物を作りそれで調理をしていた。

パッと見それはただの段ボール箱。一体これで何をしようとしているのか、皆目見当がつかない。

「それはなに?」

「これか。段ボールでつくったオーブンだよ」

「ええ~~~!!段ボールなのに燃えないの?」

「内側全面にアルミホイルを貼って、針金で棚をつくって、下に置いた受け皿に炭をのせたら完成だ!!」

 

ダンボールオーブンのつくり方

 

①ダンボールをふたつに重ね、すき間のないよう布テープを貼り底をつくる。

②両面テープを内側に貼り、半分に折ったアルミホイルを全面に貼っていく。

③50~60cmの長さの針金を10本程度箱の外から刺す。

④最後に受け皿に炭を置き完成。

 

「そんなのでほんとに料理ができるの?」

「もちろんだ!まぁできあがるのを楽しみにしててくれ」

 自分と違ってアウトドア経験も豊富なうえに雑学的知識に長ける昇流に、優奈は強く魅了される。

そんなときだった。幸吉郎が戻って来るのが見えた。その手にはなぜか竹筒が握られていた。

「竹筒なんてどうしたんですか?」

「近くの竹林からちょっくら刈り取って来たんだ」

「でも、勝手にそんなことしちゃ怒られるんじゃ・・・」

「心配はいらねぇ。このキャンプ場は元々真夜さんの実家の佐村河内財閥が保有しているものなんだ。だから許可をもらってやってる」

何を隠そうこのキャンプ場は杯昇流の実母、真夜の実家が営んでおり、ドラたちも真夜のお陰でただ同然でやって来れたのだ。

幸吉郎は早速切り取って来た竹筒で準備を始める。その間に近くにいた龍樹はテーブルの上で小麦粉を一生懸命こねていた。

「ふんしょ!よいしょ!」

「そっちはどうですか龍樹さん?」

「おおぁ!ちょうど耳たぶの固さになったぞ!」

生地が出来上がった頃合い、ギコギコと竹筒をのこぎりで切っていた幸吉郎もまた準備が整った。

「ふたつに割った竹の内側にバターを塗って・・・拙僧が丹念に捏ねた生地を丸め・・・それを竹筒の中に並べる、と」

どうやらパンを作ろうとしているようだった。少しでも役に立ちたいと思った優奈は進んで手伝いを申し出る。

「お手伝いしますね」

「すまんのう」

協力して二人は作業に当たり手短に下準備を終わらせる。筒の中にすき間なく生地が詰められると、幸吉郎は切り分けたもう片方の竹筒を上からかぶせる。

「並べたらこいつにフタをして・・・針金をキツく巻く、と!」

仕上げは頑丈に蓋をした竹筒を火にかけること。

「あとは回しながら15分火にかけて、焼けるのを待つだけだ。よしっ、竹オーブンの完成だ!!」

 パチッ、パチッ、という音が静かに鳴る。

 炎は徐々に勢いを増していき竹筒で出来たオーブンの表面を猛烈な熱で焼き焦がす。

「あの、焦げてますよ!!」

 心配になった優奈がそのことを指摘する。

「どぅははは、慌てるでない。うむ、そろそろ焼き上がったころかのう?どれ・・・・・・」

頃合いと見た龍樹がおもむろに蓋を開けると、中からふっくらとして香ばしい匂いを放つホカホカのパンが飛び出した。

「わぁ~ふっくらとしたパンができてる!!」

「どれ、ひと口食ってみるかのう」

味見がてら龍樹と幸吉郎、優奈の三人でパンを実食する。その味は・・・

「おいしい!!」

「うまいっ!」

 できたてのパンは想像以上の旨味を秘めていた。

「そのパンをより美味しくする方法がありますよ」

すると、木の実摘みを終えて戻ってきた写ノ神と茜がおもむろに歩み寄ってきた。

「さっき二人で野イチゴを摘みに行ってたんだ。ナワシロイチゴにクサイチゴ、たくさん採れたぜ!」

「で、その野イチゴの果実を、同量の砂糖と一緒に、中火で煮詰めたのがこのジャムです」

茜が手に持っていたのは採取した野イチゴから作った特性のジャム。早速このジャムをパンに塗って再び食べてみると・・・

「これもおいしい!!」

「ありがとうございます」

「おーい、こっちも出来たぞー!」

パンが出来あがってほどなく、昇流も調理を終え皆に呼びかける。

例の段ボールオーブンで何を作っていたのか。オーブンのフタを開け中から出て来たのはジュジュジュ・・・と音を立てるピザだった。

「わぁ、ピザだ~~~!!」

「スッゲ—――マジで焼けてるぜ長官!!」

「アウトドア料理=カレーとか、バーベキューなんて月並みすぎるからな。どうせなら周りとちょっと違うことしたいと思ったんだ」

妙に凝り性なところがある昇流だが、だからこそ周りとは違う想像力を発揮する。モッツァレラチーズたっぷりの特性ピザを全員で試食する。

「おいし~~~!!超おいし~~~!!」

「そーだろそーだろ!」

 無論味は保障物だ。不味いとは言わせない。

「長官、この仕事やめてピザ屋になったらどうですか?」

「その方が私たちとしては非常に都合がよろしいです♪清々します」

「このアバズレが・・・・・・その口で二度と俺のピザを食うんじゃねぇ!!」

「さてと、残るは魚釣りに行ったドラたちだが・・・釣れてるのかな~」

 

写ノ神が懸念していたドラたちの釣果は、芳しくないものだった。

湖のほとりで魚釣りをしていたドラと駱太郎、太田の三人はいっこうに釣れる気配すらない状況に暇を持て余し眠気を催しはじめていた。

「ふぁ~~~・・・///」

「ぜんぜん釣れませんね・・・」

「釣れないね」

「おいホントにここ魚いるのか?」

「ついこの間まだは結構いたんだけどな・・・」

「ついこの間だって、前にここに来たのいつなんですか?」

「だいたい2、3年くらい前かな」

これを聞いた駱太郎と太田は挙って深く溜息を突く。

補足すると、このポイントはドラだけが知る数少ない穴場ポイントで、当時は1メートルを超える巨大魚も釣れた事がある。

しかし、それも今となっては昔の話。いたずらに閑古鳥が鳴く始末だった。

ポチャン・・・。

だがそのとき、太田の竿のブイが沈んだ。

「あ、来たー!!」

「「え!」」

ここにきてようやく当たりに巡り合えたらしい。ドラと駱太郎が注視するかたわら、ブイは急速に深く沈み強く引っ張っている。

「おおこれは大物ですよ!!」

「よし太田、絶対逃がすなよ!!何としても釣り上げるぞ!!」

「はいっ!!」

凄まじい力で引っ張られる。太田ひとりでは無理だと即座に判断したドラと駱太郎も協力して畳み掛ける。

しかし三人の力を持ってしても強力な力が加わる。一体どんな相手なのだとドラたちが想像する余地さえ与えない。

「「「うおおおおおおおおお」」」

長丁場の戦いを制し大物を釣り上げようと意気込む三人。だが運悪くここで重みに耐えられずに糸が切れてしまった。

しかしその直後・・・・・・湖の表面に大きな波紋が現れ事態は一変する。

「ん?」

「なんだ?」

「イヤな予感がする」

ドラたちが異変に気付き警戒をしていると、水面が突如勢いよく噴き上がった。そして湖の底から現れたのは想像を絶するものだった。

「「「え・・・・・・・・・・・・・・・だぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」」

頭上の太陽さえも遮り巨大な影を生み出す存在。ドラたちはこの世に居ていいはずがない生物と直に出くわし驚愕した。

声を上げずにはいられないほどの巨躯にして、魚とは言い難いサメのような三日月型の大きなひれを尾の先端に持った怪物が目の前に現れたのだ。

「かかかかかかか、カイジュウがでたぁあああああああ!!!」

「海の獣の方!?それとも怪しい獣!?」

「どっちも違うわ!!どう見たってこれ・・・・・・恐竜だろうがぁ!!!」

 

 

現代に突如として現れた白亜紀の恐竜。北海道に端を発したこの衝撃的なニュースはたちまちネットを介して世界中へ波紋を広げた。

連日のようにテレビでは恐竜の話題で持ちきりだった。この異常事態にTBTは調査チームを結成し原因の究明に当たった。

そして恐竜の出現から数日が経過した・・・・・・。

 

 

5月8日

TBT本部 特殊先行部隊“鋼鉄の絆”オフィス

 

「あんときはマジでビビったぜ!!大物どころか、恐竜がまるまる一匹釣れちまうんだからよ!」

「恐竜を釣り上げてしまう方もどうかと思うがのう」

「それにしても、どうして絶滅したはずの恐竜が湖なんかにいたんでしょうか?」

「つーか、恐竜って淡水で生きられたっけ?」

 この疑問はもっともだ。現存確認されている水棲恐竜の多くが海の中で生活をしていた。淡水で生活ができる恐竜はほとんど聞いたことが無い。

 しかし今回の恐竜は淡水の湖で発見された。なぜ淡水で生きられたのか。その理由をドラは明確に伝える。

「あれはパンノニアサウルスって言って、モササウルスの仲間だよ。モササウルス自体は生息域は海だけど、あれは淡水種なんだ。白亜紀の後期・・・今のハンガリー辺りで生息してたらしい」

「へぇ~。世の中には色んな恐竜がいるんだな」

「お前ら論点いつの間にかズレてるぞ」

と、昇流がボトルシップを作るかたわら水を差してきた。

「淡水か海水かで生きられるどうかなんてこの際どうでもいい。問題はだな、6500万年も前に滅んだ恐竜がなぜ現代で生きていたことじゃなかったかな?」

「そりゃそうだけどよ・・・」

「ひょっとしたら、誰かがペットにしていたのかもしれんな」

「恐竜をか!?どっかのアバズレじゃあるまいし・・・」

 グニュっ―――。

「いって~~~!!!」

 あからさまに茜を馬鹿にする発言をしたがために、駱太郎は当人と写ノ神から全体重をかけた踏み付けを食らった。

と、そのとき。バタンと扉が開き肩で息をした幸吉郎がオフィスへと戻って来た。

「兄貴!ついさっき、例の恐竜を捨てたっつう男が出頭してきました!!」

「なんだって?!」

 

 

同本部 第一分隊・取調室

 

「お前があれを捨てた事に間違いはないか?」

「はい・・・間違いありません」

「どうして捨てたんだ?」

「お恥ずかしいながら・・・ちょっと育ちすぎましたね。かわいくなくなったものですから」

マジックミラー越しにパンノニアサウルスを捨てたと自白する男の話を聞くドラたち。捨てたのはとある資産家で、茜の言うことはあながち間違いではなかった。しかし同時に無責任な話を聞かされた彼らは辟易する。

「呆れたヤロウだ。かわいくなくなったら捨てるとか、マジでゴミだな!」

「外来種の不法投棄が後を絶たず、その所為で在来種が生存圏を脅かされ絶滅の危機に瀕し生態系に著しい影響を与えているんだ。ましてあんなデカブツを捨てたりなんかしたら、どうなるかぐらいわからなかったのかよ」

「本当に無責任な方が多いですね。というか、そもそも恐竜をペットにしようなどという発想自体理解に苦しみます。どうかしてますよ」

「おめぇだって似たようなもんたくさん飼ってるじゃねぇか」

「失礼ですね駱太郎さん、私の畜生たちは人畜無害の良い子たちなんです。私は一度だってあの子たちをペットだなんて思った事もありません。恐竜は良い人だろうと悪い人だろうとパクって食べるんですよ!ジュラシック・パーク見たことないんですか?」

「静かに。今核心に迫ろうとしてるんだから」

ドラに注意された後、一同は核心に迫ろうとする取調官の話に耳を傾ける。

ここで言う確信・・・・・・男はどのようなルートで時間犯罪者からあの恐竜を不正に入手したかだ。

「お前はどこの誰からあの恐竜を買ったんだ?」

「それが・・・相手の顔は非公開だったので詳しくはわかりません。取引自体は現物交換でしたから。ただ向こうは『ナーガ』と名乗っていました」

「ナーガ・・・?」

 聞いたこともない単語だった。疑問符を浮かべる駱太郎や周りを見た龍樹が知識の中にある単語の意味を掘り下げる。

「インド神話に起源を持つ、蛇神じゃよ。仏陀が悟りを開く時に守護したとされ、のちに竜王として仏教に取り入れられておる」

「売人にしちゃずいぶんと仰々しい名前だな」

「今回の一件はおそらく氷山の一角だろう。きっとそのうち似たような事件が起きるに決まってる」

 

 

ドラの予想は見事に的中した。

その後世界中で『ナーガ』と名乗る謎の売人から恐竜を高値で買った者が次々とTBTに逮捕されるという報告が上がるようになった

事態を重く見たTBT本部は恐竜の密売人、あるいは組織単位と考えられるナーガの実態調査およびその捜査を開始した。

綿密な調査の結果、商品リストからナーガが活動の拠点としているのが、白亜紀である事が判明。本部並びアメリカ支部は捜査員を動員してその逮捕に乗り出した。

だが、その後事態は思わぬ方向へと向かっていった・・・

 

 

5月11日

TBT本部 大長官室

 

「調査隊が消息を絶った!?」

「ああ」

渋い顔で報告を聞くドラたち。彦斎は窓の外を眺めながら背中で腕を組み、事の次第のすべてを具(つぶさ)に報告する。

「14時間前の定時連絡を最後に、足取りが掴めなくなった。明らかに異常事態だ」

「まさか、恐竜に食べられてしまったんじゃ!?」

「だとしたら気の毒だよな」

 当初から今回の任務はかなりの危険が伴われていた。相手は意志疎通の通じない太古の生物。その生息地に無暗に足を踏み入れれば最後、命の保証はない。

ドラたちはこうなる事を概ね想像していた。そしてその想像が現実のものとなり、今度はそのシワ寄せが自分たちへと向けられた。ドラは深い溜息を突かずにはいられなかった。

「それと・・・関係あるかどうかわからないが。数時間前、カナダにある恐竜の発掘と調査を目的とする機関『ロイヤル・ダイナソア・バレー』で、全身氷漬けとなった恐竜の化石が発掘されたという連絡がTBT本部に入った」

「冷凍恐竜っすか?」

 一旦ブラインドで部屋を暗くすると、彦斎はプロジェクターに映像を照射。スクリーンには研究機関『ロイヤル・ダイナソア・バレー』の外観が映し出される。

「見つかったのは、今からおよそ1億3500万年前から6500万年前の白亜紀に生きていたタルボサウルスによく似た恐竜なんだが・・・ちょっと変なんだ」

「変?」

何が変だというだろう。怪訝しながら映像が切り替わるを待つと、一同はあまりの衝撃に我が目を疑った。

スクリーンには氷漬けとなったとりわけ巨大な恐竜が映し出された。大きさは普通の恐竜の何十倍もある。

「これは・・・!」

「デカイな!」

「デカすぎるぜ!!60メートルはあるぞ!!」

「それに・・・信じられません!」

全員が驚いた理由は単なる大きさではなかった。恐竜とは思えない巨大さに相まって、恐竜の体内に埋め込まれていたのは機械物質。

「信じらない話だが・・・この恐竜はサイボーグ手術を受けている」

「そんな!何千万年も前に、誰がどうやって恐竜にサイボーグ手術を!?」

 

 ブーッ!ブーッ!ブーッ!

そのとき、突然の警報が鳴り響いた。何事かと動揺するドラたち。ほどなく、彦斎宛てに連絡が入った。

「どうした?」

『大変です!TBT本部が強力な電波に包まれて異常現象が!』

「なに!?」

報告を受けた途端、空には巨大な暗雲が立ち込める。本部上空を覆う巨大な暗雲は、太陽の光を完全に遮断する。そればかりか本部全体のエネルギー供給に異常を来たす。

四分隊スタッフも原因の究明に努めるが、システムが言うことを利かない。次第にコントロールを奪われていった。

「ダメだ!システムダウンするぞ!!」

5分も経たない間に本部のシステムは完全にショート。束の間建物中が暗黒に支配される。

予想だにしなかった事態に途方に暮れる職員。すると唐突に映像システムだけが切り替わり、ドラたちの前にフードを被った謎の一団が映し出された。

『人類ニ警告スル』

「こいつら・・・!」

『地球ハ、我々“ナーガ”ガ支配スル』

TBT本部に対し送り付けられた犯行声明。送り主はあのナーガだった。

「逆探知できるか?」

「無理です。システムが動きません!」

 敵の発信源を突きとめようとしたが無駄だった。ナーガは用意周到に準備を行っていたたらしく、敵に一切の隙を与えない。

 ドラたちはTBT・・・ひいては地球人類すべてへと発信されるナーガの宣戦布告を沈黙をもって聞いていた。

『我ラ、“ナーガ”ハ宇宙ノ神ダ。脆弱ナ地上人類ハ、我ラ“ナーガ”ニヨッテ滅ビル。無駄ナ抵抗ハスルナ』

「ナーガって、ただの恐竜密売人の事じゃなかったのかよ・・・!」

『我ラ、“ナーガ”ニ逆ラエバドウナルカ、思イ知ル事トナル』

「くそおお!!ふざけやがって!」

敵の犯行声明に強烈な憤りを抱くメンバー。

ナーガは自らを新世界の神と崇めろと強要し、この地球を自分たちの都合のいいように作り変えるのだと言って来たのだ。

決して承服し難い内容だ。ドラたちはそれを決して認めるわけにはいかなかった。

『見ルガヨイ。コレガ“ナーガ”ノ力ダ』

ナーガの干渉によって映像が切り替わる。

映されたのは彦斎が言っていた例のサイボーグ恐竜が眠る場所。

何が始まるのかと固唾を飲んでいた正にそのとき、氷漬けにされていた恐竜の目が赤く光った。

直後、全身の氷は見る見る氷解し体長およそ60メートルに達する巨大なサイボーグ恐竜が復活。その雄叫びは天地を轟かせる。

「なんだありゃ!?」

「生物なのか?ロボットなのか?」

『我ラハ“ナーガ”。我ラハコノ星ノ恐竜タチヲ支配シタ。“ウォポナイザー”ハソノ証拠ダ』

 彼ら曰くウェポナイザーと称するサイボーグ恐竜は、蘇った直後から大地を蹂躙する。軍用機からの攻撃を軽く薙ぎ払い、全身に装備された重武装で眼下に映るものすべてを火の海へと変えていく。

「あれが・・・奴らが改造したサイボーグ恐竜の力?」

「まさか!」

困惑するドラたち。と、ようやく本部のシステムがすべて回復した。

システムの復旧に伴い電気が点く。彦斎は最悪の事態へと進展してしまった事を深く嘆くとともに対策を講じる。

その対策とはズバリ、鋼鉄の絆(アイアンハーツ)を現地へと派遣し事態の収拾に当たらせることだ。

「地球侵略、もとい時間侵略に対するTBTの対応は決まっている。どんな脅かしにも屈するわけにはいかない。何としても、ナーガの野望を阻止するんだ」

 やはりこうなってしまうのかと心の中でぼやくドラはまたも大きな溜息をもらす。

「まったく・・・。面倒事は直ぐにオイラたちに擦り付けるんですから」

「頼みの綱はお前たちだけなんだ。頼んだぞ、鋼鉄の絆(アイアンハーツ)諸君」

「「「「「はい!」」」」」

 ドラと昇流を除く5人が潔い返事を返す。

 こうなったからには覚悟を決めるしかなかった。仕事だと割り切ろうとドラは何とか自分を慰める。しかし彼としてもタダで行くつもりは毛頭ない。

 ゆえに、ドラはひとつの脅しを仕掛けてみる事に。

「大長官。もしも無事に任務を終えて帰って来れたら・・・それなりの報酬を得られるんでしょうね?」

「任務が任務だからな。今回は危険手当もうんと弾もう」

「言い値で?」

「・・・・・・いいだろう。いくらあればいいんだ?」

「そうですね・・・・・・オイラたち全員のぶん合わせて1000万もらえますか?」

「1000万か。そうか・・・・・・・・・1000万だと――――――!!!!」

 度を越した金額の高さに、彦斎は耳を疑い絶叫した。

 

こうしてドラたちは、杯彦斎直々の命を受けてナーガの潜伏先である白亜紀後期の北アメリカへと向かう事となった。

ドラは今回の任務にも昇流を同伴させた。無論、彼の意思は考慮していない。

「あんなバケモノまで用意してるたぁー・・・敵ながらやるじぇねぇか」

「感心してる場合か。ナーガをとっ捕まえて、計画を中止させねぇ限り地球の危機は回避できねぇんだぞ」

「ウォポナイザーとかの情報は随時送られてくる。こっちはこっちの仕事に専念しよう」

「どうでもいいけど無事に帰って来れるんだよな俺ら・・・」

「さぁ、それはどうでしょう。とりあえず長官の行い次第ですね」

 何とも冷淡な態度だろう。毎度のことながら昇流は望んでもない仕事を部下に強要される自分の待遇を心底呪いたかった。

ドラたちを乗せたタイムエレベーターは、調査隊が最後に消息を絶った時間・・・1億4500万年前までさかのぼる。

 

 

白亜紀―――地球の地質時代の一つで、約1億4500万年前から6600万年前を指す。この時代は、ジュラ紀に続く時代であり中生代の終わりの時代でもある。

長期にわたり温暖で湿潤な気候が続き、同時期の表層海水温に関する研究では、低緯度地域で32 ℃、中緯度地域で26 ℃と現在より高い海水温で安定していたことがわかっている。

 

 

時間軸1億4500万年前

白亜紀 北アメリカ大陸

 

タイムエレベーターは無事に現地に到着した。ドラたちがエレベーターから降りたとき、そこは正に白亜紀の森だった。

通常では考えられないほど巨大で真っ直ぐ育った木々が軒を連ねている。今、この瞬間に彼らは恐竜時代にいるのだと実感させられる。

「すっげー景色だぜ」

「シダやソテツがいっぱいです。この自然が樹木をこんなに大きく育てたんですね」

「おい、こっちの奥になんかいるぞ!!」

到着して早々に駱太郎が何かを発見した。

急いで森の奥に行ってみると、そこに居たのは待望の恐竜だった。

頭部に生えた1本の鼻角と、目の上にある2本の上眼窩角(じょうがんかかく)。発達した首の筋肉はそれらの角を支える為だと考えられている。3本の角が名の由来でもある白亜紀を代表する恐竜・トリケラトプスだ。

「本物のトリケラトプスだ!!」

「こんなところで本物に会えるとは夢にも思わなかったわい!!」

 映画などで見て一度は憧れた恐竜との対面が現実となった事に興奮を抱かずにはいられない写ノ神と龍樹。しかしよく見ればトリケラトプスの様子がおかしい。全体的に元気が無く地に伏して動こうとしない。

パッと見では死んではいないようだった。ドラは状態を確かめようと直に呼吸音を聞き、さらに顔の方を見る。

「どうですか兄貴?」

「呼吸はしてるが、瞳孔が開いている。こりゃ毒物反応だな」

つまりこのトリケラトプスは体に毒性を持つ植物を誤って摂取した可能性があるということだ。

さらに詳しく調べてみると、トリケラとプスの舌先に明らかな異常を発見した。ぶくっと膨れ上がった皮疹(ひしん)を、ドラは軽く抓んで確かめる。

「小水疱が見られる・・・・・痛そう」

「じゃあこいつ、病気なのか?」

「恐竜のくせに病気なんてするんだな」

「あのね、生き物なんだから病気ぐらいするよ。クマだって突然心臓麻痺で死ぬことがあるんだよ」

 恐竜も人間と同じ生き物だ。生きている限り病気をすることだってある。現に目の前のトリケラトプスは体に有害な毒を摂取したがために呼吸が衰弱している。いつ肉食恐竜に襲われてもおかしくない状況だ。

 ハァ・・・ハァ・・・という吐息がなんともかわいそうだ。

「苦しんでおるようじゃのう」

「なんの毒なんだろうな?」

「まさか、西インドライラックを誤って食べてしまったんじゃ・・・!」

「ここはアメリカだぞ。映画じゃあるまいしそりゃねぇだろう」

「どうして絶対にそうだと言い切れるんですか?かわいそうじゃないですか、こんなに衰弱して・・・」

「そりゃそうだけど・・・」

 ピピピ・・・。ピピピ・・・。

ちょうどそのときだった。TBT本部よりナーガとウォポナイザーに関する新たな情報が送られてきた。

ドラは端末画面を開き、送られてきたデータを吟味しその内容に思わず・・・。

「なんだって!?」

という声を出してしまった。

「どうした?」

「ナーガが新たな犯行声明を出してきたんだよ」

早速その音声を再生する。変声機を使ったような奇妙な声の持ち主こと、ナーガは次のように声明を発表した。

『一度ダケ、チャンスヲ与エヨウ。24時間以内ニ降伏セネバ、我ガ“ウェポナイザー”ガ次ニ目覚メル時ハ、人類ガ滅ビルマデ攻撃ヲ続ケルダロウ』

これを見せた後、ドラはさらに言葉を紡ぐ。

「ついさっき、ウェポナイザーの内部をスーパーウェーブを用いて透視調査をしたんだけど、ヤバい事実が判明したよ」

端末を操作し液晶画面に詳しいデータを表示する。スキャンされたのは完璧にサイボーグ化されたウォポナイザーの外骨格。その中央には奇妙なものが埋め込まれていた。

「この胸の部分にあるのは?」

「ちょっと待ってくれよ・・・俺、どっかで見た事あるぞ」

見覚えがあるという昇流は必死に記憶の糸を辿って行くが、彼が深淵の記憶を呼び起こす前にドラが答えを言った。

「タチの悪い話ですよ。あれは超巨大な『中性子爆弾』です」

「え・・・!」

「中性子爆弾だぁ?」

 自然界に存在する物質はすべて原子というもので構成されている。その原子を細かく見ると、正の電荷を帯びた「原子核」と負の電荷を帯びた「電子」からなり、この原子核にはさらに正の電荷を帯びた「陽子」と無電荷の「中性子」から構成されている。

 中性子爆弾は中性子の粒子線である中性子線の割合を高め、生物の殺傷能力を高めた核兵器のひとつである。通常の核爆発の効果と比較して、爆風や熱線などへのエネルギー放出割合が低い反面、中性子線の放射割合が高い。中性子線は透過力が強く、薄い鉛などの金属板も透過する。このため都市圏でこの爆弾が使われた場合人間を初めとする生物は放射線障害による死傷する。すなわち、助かる可能性はほとんどないと言っても過言ではない。

「これだけの大きさです。おそらく地球上の半分の生物は死に絶えるでしょうね」

「そんな!」

「くっそ!!ナーガの野郎・・・とことん腐ってやがるぜ!!」

「一刻も早くナーガを見つけださなければならんぞ!」

「消息を絶った一分隊の連中も十中八九ナーガに捕まってると見て間違いないでしょう」

「しかし、こんなに広い森を悠長に捜している時間は・・・」

 白亜紀と言っても見渡す限りの森。どこまで木々が広がっているのかも検討が付かない。闇雲に探すのでは絶対にダメだ。

「大丈夫だよ。オイラたちが何のための時間犯罪捜査のプロかを忘れてもらっちゃ困る」

そう言うとドラは、銀色の小箱からある特殊道具を取り出した。

「“ディテクティブロボット”!!」

インバネスコートと鹿撃ち帽を着込んだ目玉おやじのような見た目の、頭が大きな目玉になった小型ロボットが複数と、テントがひとつ。これがドラの言う秘策なのだろうか。

「こいつは何でも変わったものを発見してくれる」

 スイッチを入れ起動させるや、待機用テントから複数の探査ロボットたちが出て来て一斉に空へと飛び立った。

ロボットたちはあちこちを飛び回り、変わった物を発見次第受信機に警告ブザーを鳴らせる報せる仕組みとなっている。

「これだけ大勢で探せば何とかなるだろ。あとは報告待ちさ」

「本当にだいじょうぶなのか?」

些かの不安を抱えるメンバーだが、今は信じるしかなかった。

そして待つこと僅か1分足らず。ドラが所持する受信機がビビビビビビ・・・!!!と、激しく振動しセンサーが反応をキャッチした。

「もう反応があった!!」

「こっちだ!!」

ロボットが捕えた反応の足跡を辿る。

慌てて移動すること数分。頭上で待機したロボットがしきりに「LOOK!LOOK!」と言っているのが視えた。

「なんだ、何を見つけた・・・・・・だああああ!!!」

それは見つけたくはないものだった。ドラたちの前に現れたのは、白亜紀を支配した大型肉食恐竜の王―――その名は。

「ティラノサウルだ!!!」

「逃げろ―――!!」

間近で見たTレックスの迫力は絶大だった。

恐怖に声を上げるとドラたちは一目散に逃げる。対するティラノは腹を空かせた様子で眼前を動くドラたちをその巨体からは想像もつかない速さで追いかける。

「ったく余計なもの見付けやがって!!」

「いいから黙って走りなさい!!」

恐竜に追いかけられる間際の俳優・女優の気持ちがこのときようやく分かった。ただしこれは映画の中の話ではない。実際に現実として起こっている事なのだ。

ティラノに追いかけ回されたドラたちは辛くも生き延びた。このとき相当な体力を消耗するとともに寿命が10年ほど縮まった気がした。

「は、は、は、は、は」

「死ぬかと思いました・・・」

「いやぁ~さすがにティラノサウルスは迫力が違うぜ」

「ジュラシック・パークって、思った以上に心臓に悪いな!」

ビビビビビビ・・・!!!

すると、またしてもセンサーに反応が見受けられた。

「また反応だ」

「今度はちゃんとした報告だろうな?」

「わからないよ。ひょっとしたらひょっとするかも・・・」

「それが道具を使う奴の態度か!?」

「しょうがないでしょう。これ作ったのハリーなんだから」

「ああ、通りでいい加減なはずだ!」

「でもこの際背に腹は変えられません」

「ひとまず行ってみるか」

制作者が製作者だけに不安が尽きないドラたちだが、今はこの道具の信憑性に賭けるしかなかった。ひとまず反応があった場所へ行ってみる事にした。

森を抜けた先にはディテクティブロボットが控えており、「LOOK!LOOK!」と彼方を指差している。

ロボットが示す方を注視すると、数十キロ離れた先に巨大な岩山が聳えたっていた。もっとも、自然の岩山とは思えない人工的な形をしていた。

「ありゃただの岩山じゃねぇぞ」

「まるでお城か砦みたいです」

「何にしてもあれは誰かが作ったものだ」

「誰かって・・・誰だよ?」

「話の流れをくみ取れよ!ナーガしかいねぇだろ!」

「あれがナーガの拠点なのか」

「とにかく行ってみよう。さぁ皆、楽しい遠足に出発だ!」

果たしてこれが楽しい遠足と言えるのだろうか。だがこうでもしないと部隊の士気が上がらないのであれば、ドラは何だってする。

一行はナーガの拠点と思われる岩山を目指し移動を開始した。

森を抜けるとまたすぐ別の森が現れ、ドラたちを深い深い樹海へと誘う。

どこまで行っても森、森、森。見渡す限りの木々の連綿は目の疲れを癒す反面、次第に幸吉郎たちのストレスとなっていく。

舗装された訳でもない足場が非常に悪く高低差もある道を歩く事に段々と疲労を見せ始めるメンバー。そんな中、写ノ神がふと呟いた。

「元の世界(むこう)は大丈夫かな?」

「残り時間は19時間と34分か・・・」

「俺たちの手に地球の命運が握られているのか・・・・・・荷が重いぜ」

「寝ぼけたことヌカしてんじゃねぇ。そんな危機、俺たちはいくつも乗り越えてきたはずだ」

「ま、今回も無事に帰れるなんて保障はどこにもねぇけどな」

「大丈夫だよ。ちゃんと帰れるって・・・・・・土にね」

「やかましいわドラ猫!!」

「不吉なこと言わないでくださいよ」

「部隊を引っ張る奴が部隊の士気下げてどうすんだよ!?」

と、周りから非難が殺到するとドラは逆に言い返してやった。

「おやおやそんなことぐらいで士気が下がっちゃうなんて甘いこと言ってるの?だとしたらとんだお笑いものだ。言っとくけどこの弱肉強食の世界で生き残りたければ、全員が強くないといけないんだ。弱者は強者の血となり肉となり、亡骸は土に還る。自然の摂理に打ち勝つためには、全員が強者たる気概を持ってもらわないと困るんだよ」

「簡単に言うなよ。誰もがみんな魔猫みたいになれれば苦労しねぇって!」

などと言いながら一行はひたすらに森の中を進み続ける。

 

拠点である岩山を目指し歩き続けること2時間余りが経過。

途中、ドラはメンバーの疲労具合を考慮し川の畔で休憩を挟むことを決めた。

「よし皆っ!5分休もう」

これまで歩きっぱなしだったメンバーの表情が若干緩む。束の間の休息を得るため近くの木の根や地面の上に腰を下ろす。

すると駱太郎が近くの龍樹に小声で言ってきた。

「爺さん。ちょいと用足してくるが、覗かれないようここで見張っててくれ」

「誰もお主のスカトロなど覗きはせん」

「スカトロってなんだよ!!どこで覚えたんだよそういう卑猥な表現・・・!!」

どこか気に食わなかったが、駱太郎はひとまず用を足すため森の奥へと向かった。

「早くしねぇと・・・漏れちまうぜ!」

手短に用を済まそうと大股を開きかけたときだった。

「お?」

偶然にも駱太郎は、ある重大な痕跡を発見した。

 

「休憩は終わり!出発するよー」

5分きっかりにドラは休憩を終わらせ皆に再び出発を促した。

「おーい!!みんなー!!」

すると、用を足しに行っていたはずの駱太郎が大慌て戻ってきた。幸吉郎は遅れて来た駱太郎を厳しく糾弾する。

「おい駱太郎、団体行動の基本はまず時間厳守だ!てめぇがクソするのに1分1秒遅れるごとにだな・・・」

「説教なら後にしてくれ!それより向こうですげーもの見つけたぞ!」

「すごいもの?」

そこまで言うということはかなりのものなのだろう。駱太郎の言葉を信じたドラは幸吉郎たちを引き連れ駱太郎の案内のもと森の奥へと走る。

しばらくして、ドラたちは問題の場所へ到着。そこで彼らが見つけたものは・・・・・・

「これは・・・・・・!」

思わず言葉を失い呆然と立ち尽くす。

眼前に広がるのは消息を絶ったTBT調査部隊が現地で使っていたと思われるベースキャンプ。もっとも、今は無残にも荒らされており当時の面影は一切ない。

「これって、先発隊のベースキャンプですよね」

「ひどく荒らされてるけど・・・」

「手分けして生存者と使えそうなものはないか探そう」

 とにかく今は少しでも自分たちの役に立てるものを探す方が先決だった。一分一秒でも長く生きられるようあらゆる手段を講じて荒らされたキャンプから使える物と、必死で調達しようとする。同時に望みは薄いが誰かがいないかどうかという淡い期待を抱く。

すっかり破れてしまったテントの中を調べるが、やはり人の気配はない。が、代わりに茜はあるものを見つけ思わず目を疑った。

「ひゃああああ!」

「どうした!?」

悲鳴を上げた彼女を心配し幸吉郎が様子を窺うと、茜は口元を押さえながらテントの中を指差す。

おもむろに幸吉郎が中に転がっていた物を拾い上げる。よく見るとそれはもげた人間の腕と見られる部位。幸吉郎も思わず渋い顔となる。

「見事に食い千切られてやがるな」

「とても生存の可能性は期待できそうにないですね・・・」

同じ頃、ドラは現場で発見したある痕跡から最悪の事態を想定していた。

深く眉間に皺を寄せながら呆然と立ち尽くすドラ。その様子を不思議がった昇流が駆け寄り問いかける。

「どうした?何じっと立ち尽くしてやがる?」

「長官・・・状況は極めて悪いですよ」

「え?」

「これ・・・」

おもむろにドラが拾い上げたものを見た途端、昇流は目を大きく見開いた。

それは恐竜の卵の殻と思われるものだった。しかもそれが単なる卵でないと認識した瞬間に、どう反応をしたら良いかが分からなかった。

だがしばらくして冷静に状況を分析する事が出来た。固唾を飲み、ドラが手に抱えた卵を凝視し確信を持って判断する。

「驚いたな・・・・・・こりゃディノニクスの卵だぜ」

「初見で良く分かりますね。オイラもそう思います」

「なんだなんだ!?何か見つけたのか?」

他のメンバーが二人の異変に気付いて歩み寄ってきた。ドラは彼らへと振り返り例の卵を見せながらひとつの推察を述べた。

「どうやらここはディノニクスの巣だった場所だよ。先発隊はそいつらに襲われて、奴らの餌食になった」

「え、ちょっと待った!な、何なんだその・・・ディノ・・・なんとかって」

「ディノニクス。肉食でグループ行動。体長は2メートルほどで、長い鼻、両目で物を見て、前脚は器用で強く後脚に鋭い爪がある」

「脅威はそれだけじゃない。自分たちのテリトリーを脅かされたティラノサウルスも、オイラたちを追いかけてきますよ長官」

「いやー、奴らの縄張りを出ちまえばどうにでもなるだろう」

「ティラノサウルスは、化石動物の中では2番目に鋭い嗅覚を持っているというから、臭いに敏感なはずですが」

「あ~~~そうだった!1番はヒメコンドルで、16キロ先の臭いをかぎ分ける!」

「どっちにしても有り難くない話じゃな」

「と言うより、お二方ともどうしてそんなに詳しいんですか?」

 妙に恐竜の知識に造詣があるドラと昇流に茜は凄いというよりもただ純粋に不思議だと感じてしまった。

「どうでもいいけどあんまりぼやぼやしてると、凶暴な肉食恐竜どもにあっという間に見つかっちまう。使えそうな物だけもらっていこう!」

写ノ神の言うことももっともだった。危機が迫りつつある中、一同はベースキャンプから使えそうなものだけを失敬し再出発した。

再び進路を岩山へと取り果てない樹海を歩き続ける。

部隊指揮を執って先頭を歩いていたドラは、場の雰囲気を少しでも和まそうとベースキャンプから失敬した先発隊の誰かが残したお菓子袋を取り出し、自らひと口食べてからメンバー全員に分け与えようとする。

「ポッキーあるけど食べる人?」

「は~い!!・・・って言うと思ったのか!?よく無神経に死んだ奴のお菓子食えるよな!?」

「「「「「・・・・・・・・・」」」」」

怒号する昇流とは裏腹に、疲労気味な幸吉郎たちは挙って口籠っている。ドラはやれやれと思いながらポッキーを頬張り言う。

「だってまだ食べられるんだし、下手に未来のもの残して過去に影響を与えるわけにはいかないでしょう?」

「変なところ調整者らしいよなお前って・・・」

「それより、さっき言っていたディノニクスってそんなに危険な恐竜なんですか?」

「ジュラシック・パーク曰く・・・奴らは頭が良くて、社会生活を営む知能を持っていたらしい。狩りをするにも作戦を立てて、組織的に攻撃する。非常にお利口さんで可愛げのない恐竜だよ」

「奴らに捕食されるのだけは死んでも避けてぇよ」

「その前に生きて帰れるのかよ、この弱肉強食の世界から」

 

 

 

 恐竜を支配し未来をも支配しようと目論む謎の存在・ナーガ。

 白亜紀の恐竜時代へと送り込まれた鋼鉄の絆(アイアンハーツ)に残された時間は残り18時間29分。

 果たして、彼らは最強の生物が闊歩するこの世界で生き延びられるのか!?

 

 

参照・参考文献

脚本:北原雅紀 魚戸おさむ『玄米せんせいの弁当箱 6巻』(小学館・2010)

編集制作:出口富士子(ビーンズワークス) 執筆協力:水野寛之・板垣朝子『元素の秘密がわかる本』 (学研パブリッシング・2015)

 

 

 

 

 

 

ドラさん語録~サムライ・ドラが残した語録集~

 

その54:言っとくけどこの弱肉強食の世界で生き残りたければ、全員が強くないといけないんだ。弱者は強者の血となり肉となり、亡骸は土に還る。自然の摂理に打ち勝つためには、全員が強者たる気概を持ってもらわないと困るんだよ

 

誰もがドラのように強くはない。が、世の中まだまだ弱肉強食なのは確かだ。たとえ弱くても気持ちだけは強く持たないといざって時に立ち向かえないのかも。(第63話)

 

 

 

 

 

 

登場した特殊道具

ディテクティブロボット(Detective Robots)

TBT四分隊研究スタッフであるハリー・ブロックの手により開発された、特殊道具。

インバネスコートと鹿撃ち帽を着込んだ目玉おやじのような、頭が大きな目玉になった小型ロボットが、テントの中に多数入っている。このロボットがあちこちを飛び回り、変わった物を発見して報告する。発見があった場合は、使用者が持っている受信機らしき道具のブザーが鳴る。

探す物の指定はできないらしく、また何を見つけたかはロボットの所へ行かないと確認できないという欠点を抱える。




次回予告

ド「恐竜を支配し、中性子爆弾によって人類を滅ぼうそうとするナーガ」
写「白亜紀を舞台に繰り広げられる大スペクタブル。おっかねー肉食恐竜に追われる俺たちは無事にナーガの砦まで辿り着けるのか?!」
茜「次回、『生存率ほぼ0%』。ちょっと何ですかこの副題!?まるで私たちが次のお話で死んじゃうみたいなフラグ立てるのやめてもらえませんか!!」

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