サムライ・ドラ   作:重要大事

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ド「こんちわー! オイラは、TBT特殊先行部隊“鋼鉄の絆(アイアンハーツ)”隊長、サムライ・ドラ! 人はオイラの事を、ドラえもんって言うんだけど・・・・・・誰がドラえもんじゃバッキャロー! ぶッ飛ばすぞチクショーめ!!」
「なんて、わけわかんないうちから啖呵切ってても話がはじまんないから簡潔に言うよ。オイラは時間犯罪を取り締まるタイムパトロールみたいな仕事をしていて、窓際部署の代表者って感じだ。で、今日から始まるこの物語・・・オイラが所属するチームにド新人の捜査官が左遷されてきた。一体どんな奴かって? それは、見てからのお楽しみ。じゃ、早速本編はじめるとしよう。ハチャメチャ満載の物語『サムライ・ドラ』―――始まるよ!!」



新人捜査官配属編
第1話「新人捜査官と鋼鉄の絆(アイアンハーツ)」


 子どもの頃、僕の憧れは・・・―――テレビの中の正義の味方だった。

 強くて、カッコよくて、巨大な悪をやっつける。いつか僕も、そんな正義の味方になりたいってずっとそう願ってた。

 そして今、僕はその願いを叶えたんだ――――――・・・!

 

           ≡

 

時間軸2014年 4月13日

某国某所 列車格納庫付近

 

 深夜、黒を基調とする乗用車が数多く集まり出した。

 今日この時間、この場所で巨大密輸グループによる比較的規模の大きな麻薬取引が行われるという情報がTBT本部へと入ってきた。

 

『TBT』

 

 Time Balancers Teamの頭文字から取った、あらゆる時間犯罪に対応する国際機関にして、その独立性を尊重するため半官半民の組織として認知されている。和名を“時空調整者団体(じくうちょうせいしゃだんたい)”。

 警察機構さながらの縦割り組織を持ち、時空間で起きた犯罪・密輸などに対応する【一分隊】。

 収賄を始めとする知能犯罪を専門に取り扱う【二分隊】。

 過去での窃盗事件を担当する【三分隊】。

 時間犯罪に対応するための特殊兵器開発や時空間の修正を担う【四分隊】。

 時間犯罪という人類史に新しく刻まれる凶悪犯罪に、日夜戦い続けているのだ。

 

「了解」

 午前0時20分―――。

 国際的な時間密輸グループの壊滅の為、2014年に時間移動(以後タイムムーブと呼称)をしてきた一分隊組織犯罪対策課の捜査官で現場指揮―――立花宗彦(たちばなむねひこ)は捜査官達に報告をする。

「密告の電話通り、密輸グループとロシアンマフィアとの取引が行われているそうだ。相手は銃器を持っている可能性が高い。くれぐれも油断するな」

 捜査官達が一様に気を引き締める中、今回初めての現場任務に参加する新人捜査官・太田基明(おおたもとあき)の表情は強張り、脂汗が吹き出す。

「どうした新人? 初めての現場で緊張してるのか?」

「あ、はい・・・いえ! あえ・・・あの・・・」

 見かねた立花は、太田へと歩み寄る。

「太田。深呼吸してみろ。少し落ち着くぞ」

 言われた通り、太田は深呼吸をして緊張を和らげる。

「それで大丈夫だ。初めての現場だからと言って、無理をするなよ」

「はいっ!」

 信頼する上司からの激励を受け、太田は自分に気合いを入れ直す。

「よし・・・・・・行くぞ」

「「「「はい!」」」」

 この場に集合した捜査官20名は現場へ踏込む準備を始める。それぞれが配置へと付き、密輸グループ壊滅に強い意志を持つ。

 倉庫には数台の車が止められており、既にロシアンマフィア関係者数名と国際手配中の密輸グループが集まっていた。

 立花や太田は同じグループとなり、倉庫の二階から取引の様子を確認する。

「キングは・・・・・・あの車の中でしょうか?」

「おそらくな」

 固唾を飲んで見守る中―――密輸グループの黒幕が乗車していると思われる黒い外車のかたわらに立つ恰幅の良い男が、後部座席に向かって何かを話をしている。

 やがて、車のトランクから出された合計5つのアタッシュケース。その中身を確認すると、立花達の目にはここ最近非常に流通している合成麻薬「エクスタシー」がどっしりと収められているのが確認できた。

「間違いありません。エクスタシーです・・・!」

「ああ」

 視認する限り、エクスタシーは綺麗に袋詰めされており、アタッシュケース5箱にびっしりと納められている。重さに換算すると50キロ相当に達する。

「背後に回ります」

 部下の一人が小声で言って、足音を立てない様に橋の上を渡り出す。立花は捜査官全員に無線で連絡。

『包囲するぞ。大量の銃器が確認されてる。気をつけろ』

 太田の顔からは再び汗が流れ落ち、拳銃を持ったその手には水滴が溜まる。

 捜査官が所定の配置につき、突入の準備を進める一方、ロシアンマフィアと密輸グループの取引は滞りなく進む。約束の麻薬を手にしたロシアンマフィアは、現金1億円が入ったトランクを相手に渡す。

「I confirm money.(金を確認します)」

「Year.(ああ)」

 

「は、は、は。落ち着け・・・落ち着け・・・!!」

 極度の緊張で太田の心臓の鼓動は急速に激しく高鳴る。

「The money seems to be genuine.(金は本物の様です)」

「OK.(よし)」

 確認を終えた密輸グループ。その間に下へと降りて行った捜査官が木箱の陰に隠れ、無線で連絡を取り合う。

『小松田。配置につきました』

『こちら工藤。配置につきました』

「よし・・・・・・―――突入っ!」

 立花の合図を皮切りに、配置に着いた捜査官が一斉に銃を構え、犯罪の現場へと踏み込もうとした―――次の瞬間。

 

 ドッド~! ドッド~!

 

「太田! 太田!」

 太田基明の携帯の着信音が盛大に倉庫一帯に鳴り響く。

 密輸グループは勿論、捜査官達も一斉にその音に耳を傾ける。太田は慌てて自分の携帯を確認した。

「It's the TBT! Run away!(TBTだ! 逃げろ!)」密輸グループの一人が声高に叫びあげた、次の瞬間。

 パンッ―――と、ロシアンマフィアの男が発砲をしたのを皮切りに状況は一変。この場に居合わせた全員が銃を放ち、激しい銃撃戦に突入した。

 バン! バン! バン!

 銃弾が倉庫内で飛び交う一方、密輸グループの車が隙を見て倉庫からの脱出を図る。

「逃がすな!」

 逃げ道を封鎖する別動隊。

 しかし、そんな彼らの考えを読んでいた密輸グループはUターンをすると見せかけて壁に向かって突進。カモフラージュしていた抜け道を使って外へと逃走。

「追え! 追うんだ!」

 逃げた犯人を捕まえる為、捜査官は防弾チョッキを着用したまま車へと戻る。太田が全速力で車を走らせる中、犯人達を乗せた車は狭い道をジグザグに動く。

「こんなところに抜け道があるなんて!」

 と、思った次の瞬間―――太田が乗った車の車輪めがけて、銃弾が撃ち込まれた。

「うわあ!」

 突然の事に驚きを隠せなかった。咄嗟に急ブレーキを踏んだ太田の車は横に回転し、狭い抜け道を塞ぐ形となった。その隙に、密輸グループを乗せた車は遠ざかっていく。

「し、しまったぁあああ!!」

 自らのミスの為に見す見す犯人を逃してしまったことを激しく後悔する。

 駆けつけた捜査官達が車を降り、自らの足で追跡をする一方、先輩捜査官の一人が太田の車へと駆け寄る。そしていきなり殴られた。太田は勢いよく吹っ飛ぶ。気持ち的には100メートルくらい飛ばされた感じ。

「何やってんだ新人ッ!!」

 初仕事でいきなりの大失態。

 太田は、人生で初めて経験した最も責任の重いミスにただただ憤りと悔しさを抱き、嘆息を吐くばかりだった。太田はまだミスの重大さに真の意味で自覚がなく、次の仕事で挽回したら良いだろうと思っていた・・・

 

 

 

                    サムライ・ドラ

                                                                新人捜査官配属編

 

 

 TBTは世界192か国に支部を置き、本部は東アジアの小国―――日本の最北に位置する北海道小樽市に設けられている。

 その理由は、世界中のどこよりも時空の歪みの影響を受けない場所だからである。

 TBTは、あらゆる時間犯罪に対処するとともに、過去に起きたあらゆる時間的影響を受けないようにしなければならない。

 この世界において小樽は時間的に特異な場所であり、時空波のバランスが常に一定に保たれている為、外からの歴史干渉から守られているのである。

 

           ≡

 

西暦5538年 4月14日

北海道 小樽市 TBT本部

 

〈辞令 太田基明は本日0時づけで特殊先行部隊(とくしゅせんこうぶたい)へ異動とする〉

 

「“特殊先行部隊”ってどんなところなんだろう・・・」

 TBT一分隊捜査官だった太田基明は、先の密輸グループの捜査で重大なミスを犯してしまったことがきっかけで、人事異動が申し渡された。

 必要な物を段ボール箱に詰め、太田が向かっている先は―――TBTの窓際部署と言われる“特殊先行部隊”。

 同期で入庁した者は元より、先輩捜査官に至るまでが冷ややかな目線で太田を見る。その事を成る丈気にしない様にしたい太田であるが、内心はナイーブであり、今にも泣き出したかった。

 廊下を歩いていると、人事異動の噂を聞きつけた女性職員二人組が歩み寄ってきた。

「太田君! 特殊先行部隊に飛ばされたって本当なの!?」

「え・・・まぁ」

「かわいそう・・・元気なだけが取り柄なのに~!」

「え?」

 小太りの女性が何気なく言い放った言葉が、何となく太田の心に突き刺さる。

「せっかくTBTの花形部署に配属されたばかりだったのにね・・・まさに天国から地獄・・・!」

「元気だけが取り柄なのにね~!!」

 やはり、その言葉が妙に胸に突き刺さる。太田は苦笑しながら自分を取り繕う。

「そ、そんなオーバーな・・・それにほら! 飛ばされたって言っても“特殊先行部隊”なんて何かの刑事ドラマの部署みたいだし!」

 その台詞を聞いた途端、女性二人は非常に残念そうな顔を浮かべる。

 彼女達のリアクションに困惑する太田。やがて右側に立っていた細身の女性がおもむろに肩に手を乗せてきた。

「いいんだよ。知らない方が幸せってこともあるから」

「どんな残酷な現実に直面したって、太田君なら大丈夫! 元気だけが取り柄なんだから! 頑張ってね!」

「うん! がんばってね!」

「だ、だよね! あははははは・・・・・・・・・」

 いうだけ言うと、二人は足早に太田の元から立ち去って行った。

「残酷な・・・現実・・・? じょ、冗談だよ、ね?」

 太田はまるで訳が分からなかった。何故、彼女達は特殊先行部隊という言葉を聞いて、蛇蝎の如くその存在を忌避しているのか。

 自分の中で思い描く特殊先行部隊のイメージがぐらつきはじめる中、太田はエレベーターへと乗り込み、地上100階に在るオフィスを目指す。

 

           *

 

同本部内 地上100階

 

 静まり返った廊下を歩くこと数分。太田は今日から所属する特殊先行部隊のオフィスらしき部屋を発見。

 扉の前には―――『特殊先行部隊“鋼鉄の絆”』と表記されていた。

「ふうー」

 新たな職場へ到着した太田は、深呼吸をしてから意気込みを固め、おもむろに扉の向こうへと足を踏み入れる。

「失礼しまーす・・・・・・痛っ!!」

「あ! 悪りー悪りー! いきなりドア開けるからよ!」

 開けた瞬間に飛んでくるビービー弾。それを撃ったと思われるエアガンを手にしたブレザー姿の二枚目の男性は平謝り。

「いたた・・・何なんだいったい・・・?」

 怪訝していた折―――部屋の奥から一人の少女が歩み寄ってきた。

「太田基明さん、ですよね?」

「あ、はい」

 茜の花模様が施された和服に蘇芳(すおう)色の袴、藍色の帯、セミロングほどの桜色の髪を緑の紐で結っている美少女は太田に屈託ない笑顔を振りまく。

「初めまして。特殊先行部隊“鋼鉄の絆(アイアンハーツ)”第六席の朱雀王子茜(すざくおうじあかね)です。分からないことがあったら、何でも聞いてくださいね」

「じゃあ・・・あの人は一体・・・」

 ビービー弾を受けた箇所を押えながら、太田は先ほどから忙しなく部屋中に用意された的に向かってエアガンを撃ちまくる男性の事を尋ねる。

「長官さんの事ですか?」

「長官って、まさか杯昇流TBT長官・・・じゃないですよね!?」

「いいえ。紛うことなき本人ですよ」

 太田は目を疑った。このTBT本部における重役である長官職にして、大長官に次いで全指揮権を行使出来る存在―――杯昇流(さかずきのぼる)が自分の目の前でエアガン遊びに興じているとは思いもよらなかった。

 唖然とする太田をよそに、昇流は正確無比な射撃テクニックであらゆる的を次々と射抜いていた。

「ああ・・・なるほど! 訓練の一環と言うことですか! たしかに、実弾訓練は回数にも制限がありますしね・・・」

 咄嗟に思い付いた事を口にする太田。

 だがよく見ると、昇流は的と一緒に日頃からストレスの原因となっているものの写真も一緒に射抜いていた。

「チクショー・・・あのヤロー、今日という今日こそは俺がぶっ殺してやるぅぅぅ・・・!」

「ただのストレス解消!?」

「おほほ。長官さんの取柄は死んでも死にきれない無駄に高い生命力と底ぬけたバカさ加減、それに射撃の腕前だけですから♪ では、こちらへどうぞ」

(何か笑顔でさらっととんでもない悪口言ったなこの子・・・)

 滅多にいないの美少女が口にするとは思えない毒舌に内心驚きながら、太田は彼女の後について行く。

「えっと・・・じゃあ、一体ここはどんな事件を扱って・・・「特殊先行部隊とは、年々増加する犯罪・組織暴力・密輸その他元来の縦割り組織が対応に苦慮していた全ての時間犯罪に対応するため、部署を温存して捜査権を与えられた唯一の捜査機関である」

 話に割って入って来たのは、萌黄(もえぎ)色の袈裟を身につけ、茶人帽に似た抹茶色の頭巾を被った老人だった。

「そうなんですか?」おもむろに太田が訪ねると、老人は更に言葉を紡ぐ。

「要するにじゃ、現場検証の後始末から捜査本部の弁当手配、果てはTBTのイメージマスコット・ティービー君の貸し出し管理までの全ての部署のアフターフォローを任されている部署なんだ、そうじゃ」

「つまり・・・全ての部署の雑用係・・・ってことですか?」

 特殊先行部隊の存在意義を理解し、簡潔な言葉で聞き返す太田に老人はウィンクをし―――自席へと戻っていった。

「あの人は、第四席で僧侶の龍樹常法(たつきつねのり)さん」

 見かねた茜が老人の名前を教えくれた。

「どぅはははははははっ!! 笑う門には100万ボルト!! だははははははぁ!!」

 席へ戻るや、龍樹は健康維持のためと銘打って落語のDVDを見て大笑い。けたたましい笑い声がオフィス全体に響き渡る中、茜は小声で太田に言う。

「ああやって大笑いして耳障りなことがありますけど、別段気にしないでくださいね」

「はぁ・・・」

 龍樹の紹介まで終わると、今度は自分のデスクへ案内し、その隣に座る明治時代の警視隊をオマージュした紺色の制服に身を包む少年を紹介する。

「で、こちらが第五席の八百万写ノ神(やおよろずうつのかみ)君です!」

「太田基明です。よろしくお願いします!」

 挨拶をしたにもかかわらず、その少年―――写ノ神からの返事は無かった。

「あ、あの・・・訊いてますか?」

 今一度聞き返す太田だが、やはり返事は無い。不審に思って茜が顔を覗かせると、写ノ神は座ったまま目を瞑り寝息を立てていた。

「あ、すいません。写ノ神君今お昼寝中ですね」

「昼寝!? まだ9時過ぎてから30分も経ってませんよね?!」

 壁に掛かっている時計を指さす太田。彼の言う通り、時刻は始業時間である午前9時から24分しか経っていなかった。

「でも写ノ神君、昨日は色々と大変だったんですよ。長官さんのくだらないオンラインゲームに無理矢理付き合わされて、それで寝不足になってしまったんですから」

「は、はい?!」

「茜~~~・・・」

 そんな折、寝言で写ノ神は茜の名を口にする。

「きゃっは! もう写ノ神君ったら、夢の中でも私のことを思ってくれているんですね♡♡」

 写ノ神と茜はこの部署をまとめ上げる隊長公認のカップルであり、来年には結婚適齢を満たし、晴れて法律婚となる。そのため現在はいわゆる事実婚状態だった。

「あ、頭がついていかないよ・・・」

 特殊先行部隊の得意な人間模様に、脳をフル回転させて理解しようとするがダメだった。

 そのとき―――後ろから長身で細身の体格で白を基調とする胴着のような服装に身を包み、頭には鉢巻を巻いた逆毛だった髪の男が現れ太田の肩に手を回した。

三遊亭駱太郎(さんゆうていらくたろう)だ。よろしくッ」

「あ、はい! よろしくお願いします!」

 凄い力で引っ張られ、太田は段ボールを抱えた状態で後ろに下がる。

「いやー、しかしおめぇも大変だったなおい。これオメーだろ?」

 言うや駱太郎は、机の上に置いていた新聞を手に取る。

『TBT大失態! 密輸集団取り逃がす」と書かれた見出しのそれは、先日の密輸事件について書かれた記事だった。太田は思わず顔を紅潮させる。

「・・・悔しいです。せっかく前々からマークしていた密売組織を壊滅させて、キングの正体を暴くチャンスだったのに!」

「“キング”? それって確か・・・」怪訝そうな表情で茜が復唱するや、横で聞いていた龍樹が概要を話す。

「・・・国籍経歴全てが不明。分かっているのは『キング』と言う通称だけ。税関やTBTを嘲笑うかのように武器や麻薬の密売を行っているその時間密輸グループの黒幕、だそうじゃ・・・どぅはははははは!!」

 話が終わると再びDVDを鑑賞し大笑い。

 太田は悲壮感に満ち溢れた様子で顔を下に向ける。彼の中ではまだ気持ちの整理がきちんと出来ていなかった。

「・・・はっ。そんなしょげた顔すんなよ! ミスなんてさ、また取り返せばいいじゃねぇか、なぁ!」

 駱太郎はそんな風に言葉を投げかけ、落ち込む太田を励ました。

「駱太郎さん・・・」

 気さくに接して来たと思えば、意気消沈としていた自分を元気づけてくれた駱太郎に太田は感謝の気持ちでいっぱいとなる。

「あ。髪に・・・」

 と、駱太郎の逆立った髪についていたゴミを摂ろうと安易に手を振れた瞬間―――駱太郎の態度が豹変。凶暴な瞳で太田を睨みつけ胸ぐらを片手で掴む。

「てめぇ俺の髪に触っただろ! おい!!」

「いや! 僕は・・・! うっ。ゴミを取ろうとしただけで・・・!!」

 言い訳も虚しく、太田は凄まじい腕力で持ち上げられ、駱太郎の逆鱗に触れる。

「俺の髪は誰よりもデリケートなんだよ!! 間違って抜けたらどうすんだよ、ああァ!! 殺すぞっ!!」

「駱太郎さん! 駱太郎さん! その辺にしましょう! 太田さんと仲良くしてあげてください、ね♪」

 慌てて茜が仲裁に入る。駱太郎は我に返り、太田の胸ぐらから手を放す。

「おっといけねー。俺としたことが大人気ない事しちまったぜ! だいじょうぶか、おめぇ?」

 先ほどの怒りが嘘のように消えた駱太郎は太田の事を気遣った。

「げっほ! げっほ!」

 窒息しそうになった太田がむせ返る一方、駱太郎は自分の席へ戻り、大好物の団子を口にしながら新聞を読みふける。

 困惑する太田に茜は耳元で囁いた。

「普段はとっても気さくでお馬鹿な人なんですけど、髪の毛の事になると人格変わっちゃうんです駱太郎さん。この前もですね、取り調べ中に髪の毛を掴んできた容疑者を間違って病院送りにしちゃったんですよ」

 話を聞くや、太田は「は、ははは・・・」と苦笑する。

「みなさん、個性が・・・溢れ出ちゃってますよね!! 僕、ここで自分のミス取り返せるのかな?」

「まぁ無理だろうな」

 そう言って来たのは駱太郎でも龍樹でもなかった。

 振り返れば、首元にマフラーのような布を巻きつけ、後ろ髪を縛っている茜と同じ和服の男性が現れた。

「副隊長の幸吉郎さんです」

山中幸吉郎(やまなかこうきちろう)だ。おめぇか、バカやってうちに回されてきたっていうのは?」

「あはは・・・ぐうの音も出ないや。ていうか、どういうことですか幸吉郎さん?! なんでミスを取り返すことができないって決めつけてるんです?!」

「あのな、うちが周りからそんな期待の目を向けられると思ってるのか? それがそもそもの間違いなんだよ」

「言うたじゃろ。この部署は大きな事件を任されるための所ではなく温存部署。換言すれば、一分隊から四分隊すべての保険なのじゃよ」

「大体俺達だってここに来た日も浅いんだ。小さな事件も任せられたことないし、密輸グループの事件も所詮俺達には無関係ってことだ」

「そんな・・・・・・」

 周りから聞かされる諦観に満ちた言葉。自分のミスを取り返そうと躍起になる太田にとって、そのショックは大きく、非常に遺憾に満ちた表情を作り出す。

 すると―――部屋の扉が開かれ、この部署をひとつに纏め上げるリーダーが満を持して入ってきた。

 

「あ、兄貴! おはようございます!」

「おはよう」

 幸吉郎に挨拶を返すと、漆黒の着物に身を包み、袖なしの白い羽織を上から来たドラえもんの姿に酷似したネコ型ロボットはエアガン遊びに興じる昇流に蹴手繰りを仕掛ける。

()って!」

 蹴手繰りを受け、昇流は勢い余って床にひっくり返り頭を強く打つ。ネコ型ロボットはそれに動じることなく涼しい顔でメンバーの元に集まる。

「うっす、ドラ!」

「はいおはよう」

「「おはよう(ございます)」」

「おはよう」

 そのネコ型ロボット―――サムライ・ドラはデスクで昼寝をしている写ノ神の肩をポンポンと叩き、彼を起こす。

「グッドモーニング、写ノ神。起きてるかーい?」

 ドラの声を聞き、写ノ神は微睡を終えた様子で大欠伸。

「ふぁ~~~・・・ああ、ドラか・・・おはようさん・・・」と、返事を返した。

 太田は小さい頃によく見ていたアニメから飛び出したかの如く、ドラえもんの姿によく似たそれをまじまじと見つめる。

「で、お前が新人か?」

 ドラはおもむろに太田に視線を合わる。

「あ、はい! おはようございます! 本日付で配置になりました太田―――「挨拶はあとでいい」

 言うと、ドラはこの場に集まった全員に号令を掛ける。

「緊急出動要請が来た」

「「「「「はい(おう)!」」」」」

 聞くや、幸吉郎達は手早く出動準備に取り掛かる。

「着任早々汗かいてもらうぞ」

「―――はい!」

 緊急出動要請! なんだ、仕事あるんじゃないか。太田は幸吉郎にミスを取り返せないと言われたショックから早くも立ち直る。このドラさんって人凄いかもしれないぞ!

 ドラから聞かされた言葉を良い意味で解釈した太田も自分のデスクに段ボール箱を置き、手短に準備を済ませ、ドラ達とともにオフィスを出て行った。

「お・・・・・・おれは・・・」

 一人オフィスに取り残された昇流は、しばらくのあいだ気を失った。

 

           *

 

札幌市 北海道放送(SVH)第一スタジオ

 

「きゃあああああああぁぁあ!」

 北海道のメディア媒体―――北海道放送こと、SVHスタジオに絹を裂くような女の悲鳴が轟く。

 女性に襲い掛かるのは、髑髏(どくろ)を模したスーツを着込んだ太田基明。複数のカメラが彼の悪人面を映し撮る。

「うはははははぁ!! 私の名前はドクロ仮面! 今日からおまえは俺のカキタレになるのだ~~~!」

「きゃ~~~!! 誰か助けて~~~!!」

 と、救いを求めて声をあげたそのとき―――

「待て―――い!!」

 女性の悲鳴を聞きつけた者が悪人に待ったをかける。

 ドクロ仮面に扮した太田が声のした方へ振り返った時、現れたのは五人と一匹で構成された正義のヒーロー。

「アカレンジャイ!」

 赤い戦闘衣装ではあるが、どういう訳かノースリーブ姿の山中幸吉郎。

「モモレンジャイ!」

 桃色の戦闘衣装だが、下がスカートではなく大工の職人の如くニッカポッカと言う名のだぼだぼズボンを履いた朱雀王子茜。

「アオレンジャイ!」

 青い戦闘衣装だが、異星人の如く手足が異常に長く伸びた八百万写ノ神。

「キレンジャイ!」

 黄色の戦闘衣装だが、全体的に貴婦人を彷彿とさせ、その手には日傘とオペラグラスを持つ三遊亭駱太郎。

「ミドレンジャイ!」

 緑色の戦闘衣装だが、両手に顔が二つあり、下半身にはタコの足の如く生えた左右で四本の足を持つ龍樹常法。

「なめ猫!」

 そして、ヒーローとは全く関係の無い、暴走族風の身なりで「なめんなよ」と書かれた旗を掲げるサムライ・ドラ。

 五人と一匹は太田と対峙し、自らをこの名乗る。

「「「「「「時間戦隊マキモドスンジャイ!!」」」」」」

 決めポーズを披露し、辺りが一瞬静まり返る。

「カーット! オッケイです!」

 ここで監督が合図を出して、このシーンの撮影は完了する。

「それじゃフィルムチェンジしたら次のシーンに入りまーす!」

 フィルムチェンジのため、5分ほどの休憩タイムに入る。その間にドクロ仮面に扮した太田はドラ達を見ながら恐る恐る尋ねる。

「出動要請って・・・・・・」

「今SVHでドキュメントドラマ作ってるんだけど、題材がTBTでさ~。これはそのワンシーンに入れるコント。だからその収録ね」

「なんで僕がこんな・・・あの、これがTBT職員の仕事ですか!?」

「じゃあ誰の仕事なのじゃ?」

「だからSVHの・・・」

「ですかから、そのSVHからの応援要請ですよ」

「そりゃ分かってますけど、どうして僕達が・・・! 大体、みなさん何ですかその格好は!?」

 太田はTBT捜査官とは全く畑違いな、それこそかつて子どもの頃に憧れた正義のヒーローを意識した幸吉郎達の身なりについて鋭く言及する。

「幸吉郎さん、なんですかそれ?」

「見りゃわかるだろ。アカレンジャイだ!」

「なんでノースリーブなんですか!? おしゃれっすか!?」

 赤は一番目立つ色であり、戦隊ヒーロー物では俗にリーダー色と言われる。だが、その両袖が何故か千切り取られている。太田はその事が気に食わなかった。

「茜さんは!?」

「メンバー紅一点、モモレンジャイ! ですよ♪」

 茜が履いているダボダボのズボンは、決してテレビのヒーローが着るとは思えないものだ。これでは色気など何ひとつ無いに等しい。

「色はともかくとして・・・下はちょっと」

「これ動きやすいんですよ?」

「ヒーローでしょう!? てかヒロイン! もっとプリッとしてないと」

「高いところいけますよ?」

「いいですよいかなくて!」

 一旦嘆息吐くと、太田は貴婦人姿の駱太郎に目を向ける。

「で、そこの貴婦人は!?」

「なんでございましょう?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべ、駱太郎はオペラグラスで覗き込む。

「あなたそれで戦えますか!? 動けないでしょう!!」

「いやですから・・・私貴婦人ですから。悪い人が居たら、お金を払ってやっつけてもらうのですわ」

「だからヒーローでしょ!! あなたが戦うの!!」

「申し訳ございません」

 普段の気さくな口調とは一変。身も心も貴婦人になり切っている駱太郎はお嬢様の如く丁寧口調で太田に謝る。

 その直後、太田はこの中では最も異様で不気味な龍樹の身なりを厳しく批判した。

「そこのジイさん、あんたいらんのつけすぎ!」

「あぁ・・・そうかのう~」

「本当の手はどれですか? これ何してるんですか?」

 龍樹の両手にはミドレンジャイ用のヘルメットがあり、このために龍樹は両手が完全に塞がっている状態だ。

「た、確かに自分でこうやっていたが・・・自分で冷めていたかのう」

「じゃあ何なんですかこれ!? なんで吸盤がついてるんですか!?」

 タコの様に下半身に付随した四本の足には吸盤がついており、それが何を意味するのかは一切不明だ。

 さらに、太田は龍樹の隣にいる写ノ神の頭をヘルメット越しに平手で叩く。

(いた)っ!」

「あなたは何がしたいの!? 戦う気なんかないでしょう!!」

 手足が通常の二倍の長さに達している写ノ神。これは最早闘う為の物ではない。はっきり言って邪魔である。

「いや、あの・・・俺だってこんな格好する気じゃなかったんだぜ。だからスタッフの希望でさ!!」

 取って付けた言い訳をする写ノ神だが、太田は決して納得などしなかった。

 そして、極めつけ―――なめ猫の格好をしたドラに対して、太田はこれまでにない怒りをぶつける。

「あなたが一番何を考えているのかがわからないんですけど!!」

「いやわかんなくていいよ、別に」

 ドラは目の前から飛んでくる怒りを平然と受け流し、乾いた声で返事を返す。

「何ですかそれ!? 何世代前の流行!?」

 ただでさえ、著作権に抵触するかもしれないギリギリの容姿をしているドラが、その上更に過去の流行を取り入れる。正にリアルなめ猫とは彼の事だろう。

 ドラは不敵な笑みを浮かべ、太田に言う。

「なめんなよ」

「ぶっとばすぞ、このヤロー!!」

 嘘偽りのない言葉がこのとき初めて太田の口から漏れ出た。

「フィルムチェンジ終わりましたー。それでは戦闘シーンの撮影に入りまーす」

「さ、仕事に戻るよ」

 休憩時間が終了し、ドラ達は与えられた仕事へと戻る。

「僕はあのミスを取り返したいのに・・・」

 切実な気持ちを抱えながら、太田も不承不承にこの仕事をこなす事にした。

「よーい、スタート!!」

 監督の合図とともに、カメラが一斉に太田を映す。

 次の瞬間―――ドクロ仮面に扮した太田は本気の演技を披露する。

「おのれマキモドスンジャイ! 返り討ちにしてやろう!」

 この台詞の後、幸吉郎は声色を少し変え―――熱血漢溢れるヒーローらしい台詞を口にする。

「過去を壊すことなど誰にも許されない! 時の運行は俺達が守る!!」

「「「「「リターン・ザ・タイム!」」」」」

 それが、彼らマキマドスンジャイの決め台詞だった。

 スタジオ内で始まる壮絶な戦い。最早何でもありのコントだった。

「はーい、もっと派手に戦って!!」

「どりゃあああああぁあ」

「ぐおおおおおおおおおぉぉ!!」

 

【挿絵表示】

 

 コントの常識を覆す本気のパンチがなめ猫から繰り出され、太田は顔面を強打。

 

「どうして僕がこんな目に・・・・・・しかも何でよりにもよって悪役をしなきゃならないんだ~~~!!」

 

           *

 

時間軸2014年―――

オランダ アムステルダム エクスタシー製造工場

 

 キングを筆頭とする巨大時間密輸グループの主な収入源は銃器を始め、MDMAを中心とする合成麻薬「メチレンジオキシメタンフェタミン」、いわゆるエクスタシーだ。

「ああ。すべて予定通りだ」

 そう言って、密輸グループの男は電話を切った。

TBTや税関を嘲笑うかの如く、闇社会でその名を轟かせる密輸グループの謎の元締め、通称“キング”は複数の場所で密輸を展開している。

 そして今日―――工場で作られた大量のMDMAが秘密のルートで全世界へ出荷されようとしていた。

 

           *

 

午後7時34分―――

北海道 小樽市 居酒屋ときのや

 

「「「「「「「乾杯ッ!!」」」」」」」

 特殊先行部隊に新しく配属となった太田を祝うため、ドラ発案のもと、正規メンバー全員と杯昇流は地元行きつけの居酒屋に集まった。

「新人の歓迎会&慰労会だ。みんな遠慮なく飲み食いしていいよ。何せぜんぶ長官のおごりだからね!」

「はぁ!? おまえふざけんなよ。なんで俺が金払わなきゃならねえんだよ!!」

 いつの間にか自分が勘定を払う流れになっていた事を危惧し、抗議する昇流。

 幸吉郎達は彼に視線を向けると挙って「ゴチになりまーす!」と珍しく感謝の意を示した。

「いや払わねーよ! 俺らぁ部下に奢るのが一番大っ嫌いなんだ!!」

「うわぁ~、なんて器が小さい男なんだ!!」

「そんなんだから誰からも敬われないんですよ」

「やかましいわ! ほっとけよ!」

「・・・・・・・・・・・・」

 昇流の器の小ささに皆から顰蹙を買っているかたわら、太田は不満気な表情を浮かべたまま、出された酒にすら手を付けず沈黙を保つ。

「いやー。今日はホントいい汗かいたなー」

「仕事の後の酒がまた格別だよね」

「日々の労働と、大地の恵みに感謝であるな」

「あぁ! 酒が美味い!」

 太田とは対照的に、ドラ達は好きなだけ飲み食いをし、それぞれが仕事の労をねぎらった。

 そんなおり、茜は太田の事を気にして声を掛ける。

「太田さん、どうかしたんですか?」

「暗い暗い。固てー固てー」

 場の雰囲気を壊すことも覚悟し、太田は思い切って皆に聞いてみた。

「あの・・・みなさんは・・・あんな仕事で満足なんですか?」

 話を聞くや一様に皆の手が止まり、太田の方に視線が向けられる。

「あんな仕事って・・・『時間戦隊マキモドスンジャイ』のことですか?」

「ええ・・・」

「・・・そりゃ、満足か満足じゃないかと聞かれれば・・・―――満足であるな!」

「「「「「うんうん」」」」」

 耳を疑うような言葉が返ってきた。龍樹が満足だと口にした直後、幸吉郎に駱太郎、写ノ神、茜、さらにはドラまでもが首肯する。

「ほらこうやって美味い酒飲めるわけだし♪」

「一分隊になんて居たら、忙しなく呼び出しかかるし酒どころか心休まる暇もないぞ」

「過去の世界に張り込み行ったきり、一週間は戻って来られないなんてこともざらにあるみたいだしな」

「でも、TBT職員ならそうあるべきじゃないんですか!? 24時間365日時間の安全を守るために働くことが・・・!」

「でもね太田・・・TBTが暇だってことは、世の中の時間が平和ってことじゃないのかな? 考えようによっちゃ、それはとっても素晴らしいことじゃないのかい?」

「それは・・・そうかも分からないですけど・・・」

「―――何てこと言ったら隊長っぽいか!!」

「「「「「「あははははははははははは!」」」」」」

 ドラの言う全うな意見に思わず考え込んでしまう太田だったが、直後にドラ自身が口にしたおどけた一言に思わず間が抜けた顔を浮かべる。たちまち「何ですかそれ!?」と、抗議する。

 皆で杯を交わし合った後、ドラは芋焼酎を一気に飲み干してから太田に言う。

「初日からそう堅苦しくなるなって。特に今日はさ、ここ数か月稀に見る仕事っぷりだったしね」

「「「「「はい(ああ)」」」」」

「あれが?! “即興コント”しただけですよね!? じゃあ、普段一体何やってるんですか?」

「そりゃ色々」

「色々じゃな」

「いろいろ、な」

「色々ですよ♪」

「いろいろって・・・色んな部署のどうせ下働きでしょ!? いいですか・・・TBTは時間犯罪を取り締まることが仕事なんです。時の流れを狂わせる悪しき存在を挫き、正義の鉄槌を持って処罰する・・・そうですよ。TBTは“時間の法を司る正義の味方”なんです!」

「成程ねぇ~、正義の味方ですか・・・」

 太田の熱弁に対し、唯一真面に反応をしてくれたのはドラ達ではなく、この居酒屋を切り盛りする男性店主だった。

「いやいやいや、どうも。いつも鋼鉄の絆(アイアンハーツ)のみなさんに御贔屓(ごひいき)いただいてる『居酒屋ときのや』オーナーシェフの時野谷久遠(ときのやくおん)です」

「オーナーシェフって、ただの居酒屋の大将だろ?」ドラは焼き鳥を口にしてからぼそっと呟く。

「いやいや。というよりドラさん。何この人ルーキー君?」

「ああ」時野谷からの問いにドラは真顔で答える。

「何だぁ今日はルーキー君の歓迎会!!」

「あのすみません。今、大事な話の最中なんですけど・・・」

 と、突然話に割り込んできた時野谷に困惑する太田だが、それを無視する程の勢いで時野谷は情熱に燃える太田を高く評価する。

「そうですか。うん、良かった・・・確かにねTBTは、正義の味方ですよ。あなたみたいな捜査官がいると心強い!! どうか、時間の平和の為に24時間不眠不休で頑張ってくださいね!!」

「あ、ありがとうございます・・・」

「みなさんも、ルーキー君を見習って少しは真面目に働いてみたらどうですか? いつも飲んで食ってぐうたらしてないでさー」

 不真面目なドラ達の態度を改めよと言わんばかり、時野谷が太田の肩を持って代わりに苦言を呈する。それを聞いた一同はおもむろに口を開く。

「じゃあ、働くか・・・」

「24時間・・・・・・不眠不休で・・・・・・」

「そうなったらもうこの店来れなくなるなぁ?」

「大変! このお店潰れちゃいます!」

「うん。間違いなく廃業だね。でーっははははははは!!」

「―――・・・あははは!! ヤダなー、ジョーダンですよ冗談! みなさんは今のまんまで明るく楽しくね! ほら、時間の平和なんてね他の部署の方々が頑張ってくれますから。ね、そうでしょう!」

「「「「「「「うんうん」」」」」」」

 自分の店の経営が危ぶまれることを露骨に聞かされ、時野谷は簡単に手のひらを返してしまった。こんないい加減な者達が一挙に集まったこの空間で太田はついに堪えていた感情を爆発させる。

「・・・もう嫌だぁぁ!! 何でこんなところに居なきゃいけないんだ!?」

「そりゃお前がガサ入れの時に携帯電話鳴らすミスしたからだろ?」

「あんな夜中に電話が鳴るとは、さては女子(おなご)か? 羨ましいのう~♪」

「ち、違いますよ!」

「じゃあ誰だよ?」

「それは・・・非通知だったから、誰からの電話だったかはさっぱり。確かに切ったはずなんだけどな~~~!」

「よーし太田! 今日は許す。飲んで忘れろ!」

 ドラは太田へ近づき、酒を進める。

「・・・はい」

 すると、ドラの行動を皮切りにメンバー全員が日本酒からワインまで、様々な酒を一遍に勧めて来た。

 これには太田も目を見張り、苦い顔を浮かべる。

「みなさん・・・適量で結構です・・・」

 しかしその後、酒の回った太田の行動にドラ達が振り回される事となった。

 

 午後10時54分―――。

 酩酊状態の太田はマイク片手に、得意の歌謡曲を熱唱。

「そ~のおけ~はだれのもの~♪ お~まえのものじゃないんだ~♪ おまえ~が捨ててかなしむ♪」

 ドラ達は太田が独演会を始めてから3時間が経とうとする中、ここにきて13曲目を歌い続ける彼にいい加減辟易していた。

「これで何曲目だよ・・・」

「そろそろお店終いたいんですけどね・・・」

「さっきまでナヨナヨしてたんじゃなかったの?」

 

 

 

 

 

 

ドラさん語録~サムライ・ドラが残した語録集~

 

その1:いやわかんなくていいよ、別に

 

SVHでの収録のとき、なめ猫に扮したドラに太田が激しく訪ねた際に言い放った言葉。周りがどう思われようと関係ない。サムライ・ドラは常に我が道、マイウェイを貫くことをこの台詞は暗に示しているように思える。他人がそれをわからなくても、自分さえ分かっていればそれでいい・・・良くも悪くも自己中心的。(第1話)




次回予告

太田「あ、みなさんどうも初めまして! 太田基明です! 好きな歌はTOKIOで、得意な歌は宙船!!」
ド「だぁ~~~!! そんなことどうでもいいんだよ!! こちとらお前なんぞに興味はないんだ!!」
太田「えー!? ひ、酷くないですか!? 僕しょっぱなから雑な扱いしかされてませんよ! 大体、いきなり左遷なんて不吉すぎますよ!」
ド「だから何だって言うんだよ。それより、お前はミスを取り返すチャンスが欲しいんなら、次回は気を引き締めて行けよ。次回、『サムライ・ドラはエクスタシー!!』」
太田「って、どういうサブタイですかドラさん!?」






登場用語
TBT
『Time Balancers Team』という英語の頭文字からきており、日本語名を『時空調整者団体』。あらゆる時間犯罪に対応する国連直属の国際機関で、その独立性を尊重するため半官半民の組織として認知されている。本部は北海道小樽市で、その他世界192カ国に支部を展開している。
警察機構さながらの縦割り組織を持ち、時空間で起きた犯罪・密輸などに対応する一分隊。収賄を始めとする知能犯罪を専門に取り扱う二分隊。過去での窃盗事件を担当する三分隊。時間犯罪に対応するための特殊兵器開発や時空間の修正を専門とする四分隊。そして、ドラ達が所属する特殊先行部隊が存在する。

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