【凍結中】亡霊の軌跡   作:機甲の拳を突き上げる

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2話 闇の中

部屋から出た一同は更に奥へと進んでいく。生存者がおり、先に脱出するべきかと考えたのだが、ミッチェルがまだ生存者がいる可能性があるといい、戦力を分散するのは得策ではないと話した

 

それに一理あるとガイは頷きアリオスも賛同する。少し渋ったセルゲイだったが、二人が賛同したことで渋々納得する

 

ガイを先頭に後ろにミッチェル、アリオス、セルゲイと隊列を組んだ。先へ進んでくると前の狼のよう獣モドキではなく猿のような獣モドキが出てきた。だが、それは猿とは似つかわしく牙が口の外まで伸びており、爪も鋭く伸びていた

 

先頭にいた猿モドキが雄叫びと共に襲い掛かってくる。ガイ達が各々の獲物を構えて迎撃の準備をすると、ミッチェルはガイの横に並びPx4を先頭の猿モドキに向ける。まずは2発、片目と僅か上に着弾し先頭の一匹がこける、その後ろから走ってきていた一匹が倒れた一匹にぶつかり、こけた

 

もう一匹はこけた一匹を踏み台に飛び掛かるが、ガイが既に待ち構えており、手に持ったトンファーが顔面にクリーンヒットする。ミッチェルに撃たれた最初の一匹の死体が消え、起き上がった猿モドキの額に2発、起き上がったと思ったら仰向けに倒れて消えた。最後の一匹の方を見るとガイが既に仕留めていた

 

「……それは火薬式の銃か?」

 

隊列に戻ってきたミッチェルの持っているPx4を指さしアリオスが尋ねる。撃った後の空薬莢が地面に転がっており、辺りに火薬の臭いも漂っているのだ

 

「当たり前だ、火薬式以外に何があるんだ」

 

さも当たり前の用に答える。火薬式以外では圧縮ガスを含む空気銃ぐらいしかミッチェルは思いつかなかった。するとセルゲイが溜息をつくと

 

「その調子だと導力器(オーブメント)も知らなそうだな」

 

そう言うと、ミッチェルはまた知らない単語が出てきたと思った。知らない様子だとセルゲイが思うと

 

「話は後だ、先に進むぞ」

 

話を切り上げた。ミッチェルも隊列に戻ると

 

「凄いな、その若さで大したもんじゃねぇか」

 

ガイが笑いながら言う。ティオを抱えたまま拳銃のみで獣モドキ2匹を相手にしたのは凄いとガイはいったが、ミッチェルは別のことが気になった

 

若いと言われたがミッチェルの年齢は37歳であり、ガイはどう見ても20代前半の若さだったのだ

 

「何を言っている。私は37だぞ」

 

ミッチェルが自分の年齢を言うと、ガイはおろかレンまで驚いた表情をした

 

「そんなバカな、どう見たって20に達していないだろ」

 

ガイの返答にミチッチェルは話が噛み合っていないと判断し、ポーチから手鏡を取り出す。本来は角や扉の隙間から中を観察する用のだが、それで自分の顔を見る。すると、ミッチェルには珍しく心底驚いた顔をしていた

 

そこにいたのは、士官学校に入った18歳の頃の顔であった。フォート・ドラムで基礎訓練をしていた頃の自分が目の前にいて冷静なミッチェルもこれは焦る

 

「そんな、バカな……」

 

若返りなどと非現実的な事態を受け入れるには少々時間が必要かと思われたが、不意に服を引っ張られる。視線を下に向けると服を掴むティオの姿があり、未だ朦朧とした様子であったがそれを見てミッチェルは思考を切り替える。先ほどの戦闘でも不調はなく、この問題は後回しにして先に研究施設の最深部到着及び脱出を優先する

 

「年齢の話は後だ、先へ進むぞ」

 

ガイに話を切り上げるように言う。ガイはどこか不思議そうにしながらも任務に集中する。襲い掛かってくる獣モドキや構成員を排除し、一部屋ずつ生存者捜索や資料の回収をしながら進んで行くと、大広間に出た。右、左、上と敵がいないかクリアリングしながら慎重に進んでいくと

 

「来たか!愚か者共め!」

 

声のした方向に武器を構える。そこにいたのは白衣を着た痩せこけた男だった

 

「自分達のしたことが、どれほど愚かな行為か分かっているのか!なぜ真実に目を向けようとしない!女神(エイドス)などという幻影に騙されおって!」

 

血走った眼を見開きながら叫ぶ

 

「うるせぇ!そんなくだらねぇことで多くの人達を犠牲にしやがって!」

 

ガイが叫ぶ。多くの人達が『儀式』でその尊い命を犠牲にされていることは明らかにされており、ガイを含めたクロスベル警察組はそれを知っていた

 

「なんと愚かな……そこまでエイドスの毒に蝕まれているとは。その毒を払い、人をより高みへと導く崇高な行為がなぜ理解できない」

 

額に手を当て、役者の用に振る舞い嘆くように白衣の男が言う

 

「だからって子供の命を犠牲にしていいはずがないだろうが!」

 

『儀式』によって犠牲にされた子供は数知れず、その子供の誘拐は大陸全土で大問題となっていた

 

「高みへと導く尊い犠牲だ、私も子供が死んでいく姿は悲しいものだった。だが、子供達はエイドスの毒を払う礎となれた。その死は決して無駄ではない」

 

男の言葉にガイ達が怒りを露わにし、レンもミッチェルのズボンを掴む

 

「エイドスも真実も知らん、だが貴様等のおこなった行為は許されるものではない」

 

ミッチェルがPx4の銃口を白衣の男に向ける。例え、どんなに偉い人間であろうとも人を犠牲にして許される訳がない。すると白衣の男は驚いた表情をした後に歓喜の表情に変わる

 

「まさか……エイドスに毒されていない者がいるとは!私達は間違っていなかった!」

 

白衣の男が両腕を天に伸ばし涙を流す。どうもミッチェルがエイドスを知らないと言ったことが原因のようだった

 

「さぁ!私達と一緒に来るんだ!エイドスの幻影を晴らすには君のような真実を見る人物が必要だ!」

 

実に嬉しそうにミッチェルに手を伸ばす、必ずこの手を取ってくれると信じて疑わない表情をしながら。だが、その返答は一発の鉛玉が白衣の男の頬を掠めることだった。銃声は響かない、レンやティオが銃声で怯えないようサプレッサー装備だ

 

「今のは警告だ、手を頭の後ろで組み跪け。貴様らのような盲信者に付き合う暇などない」

 

だが、白衣の男は余裕の笑みを崩さずに

 

「なるほど……周りがエイドスの毒に侵された者ばかりだから正気ではないのだな……安心しなさい」

 

白衣の男が手を挙げると、後ろの壁を突き破って馬鹿でかい車両が出てきた

 

「あれは戦車か!」

 

アリオスが刀を抜き、構える。その大きさは全長が10mを超えるような大きさであり、車体に副砲二門、砲塔に主砲一門を積んでいた

 

「この『ラーテ』で目を覚ましてやろう!正面装甲は200mm!側面。後面装甲共に100㎜の厚さを誇り!主砲は……」

 

絶対の自信があるのか、戦車の説明をしだした白衣の男。この間にティオをガイに預け、ミッチェルがZeus T2を構える。スコープとHUDをリンクさせ敵戦車をロックオンする、トリガーを引くと発射口からミサイルが戦車めがけて飛翔していく。発射音で異変に気付いた白衣の男だが、もう遅かった。ミサイルが戦車と衝突すると、戦車から爆音と共に火柱があがり、白衣の男も爆風で吹き飛ばされる

 

「……」

 

目の前の戦車がたった一発のミサイルで破壊されたことに驚くガイ達。そんなことを気にすることもなく次弾装填し背負うと、SCARを手にもつ

 

「貴様の切り札はそれで終わりか」

 

目の前で燃え盛る切り札の大型戦車を呆然としている白衣の男に銃口を向けながら近づくミッチェル。逃げ場をなくそうと別の方向からつめよるアリオス

 

「……ひ、ヒヒヒヒフフフフヒヘヘヘヘヘ」

 

いきなり狂ったように笑い出す白衣の男、涙や鼻水に涎を垂らしながら笑うその姿にミッチェルは更に警戒する。狂った人間は何をしでかすか分からない、だからこそ細心の注意を払う必要があった

 

すると、突然口から血を吐きだした。その光景にアリオスは驚き、ミッチェルが急いで近づく

 

「ゴホッゴホッ!……フヒヒhゲホ!……『D』の御心の導きが……あらんことを……」

 

白衣の男の傍に到着したミッチェルは男の呟きを聞き、琴が切れたように動かないのを見て、首筋に手を当てた。脈が無く男か死んだのだと確認する

 

「……死んだのか?」

 

傍にきたアリオスが聞くと

 

「あぁ、恐らく歯に毒を仕込んでいたのだろう。最後に『D』の御心といったが、心当たりは?」

 

最後の言葉をアリオスに聞くが首を横に振る

 

「いや、聞いたことがない」

 

真相は闇の中かと思いながらミッチェルはガイ達と共に研究所を後にした

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

研究所の入り口である小屋から出ると、外の新鮮な空気と共に月明かりがその場を照らしていた

 

殺さずに気絶させた歩哨は縄で縛られて小屋の中に転がっていた

 

「さて、これから合流地点に向かうが……お前も来てもらうぞ」

 

セルゲイがミッチェルに言うと、それに頷いた。ミッチェルも少しでも情報が欲しい所であり、少なくともセルゲイ達は信用できると考えていた

 

「な~に、悪いようにはならないさ。俺達と共にここの制圧を手伝ったんだ、俺達が証言してやるし心配するなって」

 

ガイがミッチェルの方に手を回し、笑いながら言う

 

「そうか、期待しないでおくよ」

 

と、口元に薄い笑みを浮かべながら言う。ミッチェルもガイのような性格の奴は嫌いではなく裏表なくガンガンくるタイプなので信用に値する人物であると思っていた

 

「さて、いくぞ。ここではこの子達の体が冷える」

 

アリオスがミッチェルの抱えているティオとセルゲイの傍にいるレンの体が冷えるのはよくないと言い、急ぐように言うと……突然ミッチェルの勘が疼く。ホルスターからPx4を何も無い空間に抜き撃ちをする。すると、二発撃った弾が金属どうし弾かれる音が響く。その音に警戒するガイ達だが

 

「……ッ!あの子がいない!」

 

セルゲイが自分の傍にいた筈のレンがいないのに気づき、全員がその方を向いたすると

 

「おい!いるのは分かってるんだ!でてこい!」

 

ガイが振り返りトンファーを構え、何もない所に叫ぶ。それはアリオスも同じで、同じ空間の所を睨み刀を抜いていた

 

「……まさか、バレるとはな」

 

そこから現れたのは銀髪の青少年と黒髪の少年だった。その銀髪の青少年が気を失っているレンを抱えていた

 

「……レンを返してもらおうか」

 

ミッチェルがPx4の銃口を銀髪の青少年に向ける。だが、ミッチェルは額に汗が流れる。まだ高校生ぐらいの歳なのに隙が見当たらなく、アリオスもガイも口を紡ぎ目の前に集中する

 

「まさか、ヨシュアの隠密に気付くとな……其方の方々はクロスベル警察の者だとしっているが、お前は何者だ」

 

銀髪の青少年はミッチェルの方を向き何者か尋ねてくると

 

「名を聞きたいのなら、先に名乗るのが流儀ではないか?」

 

少しでも相手の情報を得ようと先に名乗るように言う……すると

 

「……レオンハルト、親しい者からはレーヴェと言われている」

 

まさかすんなりと答えるとミッチェルは思っていなかった。それほど相手には余裕があるのかと考えながら

 

「……ゴーストだ」

 

本名は言わず、部隊名を言う

 

「フッ、亡霊(ゴースト)か。(うつつ)にいる筈のない亡霊なら人を捉えるのは難しくないというわけか」

 

そう薄く笑いながら言うと、ヨシュアと呼ばれた少年が不貞腐れる

 

「そんな顔をするな。相手の実力が上だった、それだけだ。さて、俺達は目的も達した、このまま帰らせてもらう」

 

その目的が抱えているレンなのだとは簡単に予想でき

 

「……行かせると思っているのか?」

 

銃口はレーヴェの眉間を捉えており、ガイ達もいつでも飛びかかれる準備はできていた。沈黙がここら一帯を支配する……だが

 

「ぐっ!」

 

突然ミッチェルに激しい頭痛が襲う。その痛みは尋常でなく、銃を構えていた手で頭を押さえる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                    チガウ……コッチ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は少女の幻聴まで聞こえ始めた。ミッチェルの様子にガイ達がレーヴェから注意を逸らした。その隙にレーヴェ達がこの場から去ろうとしたが、レーヴェが咄嗟に剣を盾にすると金属どうしが弾く音が聞こえた

 

ミッチェルが撃ったのだ。銃口から硝煙が上がり、地面に空薬莢が落ちる。激しい頭痛に歯を食いしばって耐え、レーヴェを撃った。その銃弾はレーヴェの頭を狙っていた。レーヴェが剣を下げると

 

「まさか、その状態で正確な射撃ができるとは、もし次に会うときは全力でやり合いたいものだ」

 

その言葉を残してレーヴェは去って行った

 

「おい!大丈夫か!しっかりしろ!」

 

レーヴェが去ったのを確認してから再び頭を押さえ、それにガイが近寄り体を支える。余りにもの激痛にミッチェルの意識はだんだんと朦朧となっていき、周りのが何を言っているのかすら分からなくなっていた。それでもミッチェルは必死に食いしばり、意識を保とうとした

 

すると、弱弱しくだが服を引っ張られた。それを感じるとピタッと痛みが消えた、余りにも突然消えたのに混乱しながら引っ張られた方を向くと

 

「……名前……教えて」

 

僅かに目に光を取り戻したティオが尋ねる。すると、ミッチェルは何も考えず

 

「スコット・ミッチェルだ」

 

自分の名前を言うと、そこで意識が途切れた

 




え~、今回ミッチェル大尉には若返ってもらいましたが……そういうのが嫌いな人はごめんなさい。このまま突っ走っていくので嫌なら回れ右をお願いします

だってヒロインみんな若いのに一人37歳のオッサンじゃダメでしょ……お巡りのお世話になっちゃいますんで……

今回出てきた大型戦車ラーテは第2次世界大戦時のドイツ軍重戦車マウスと酷似した形だと思ってください

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