【凍結中】亡霊の軌跡   作:機甲の拳を突き上げる

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14話 記念祭

脅迫状の事件が解決し、エリィは休養している市長の為に休暇を取っており、アーネストは(ヤク)をした後の用に錯乱して、とても事情聴取できる状態ではなかった

 

「ふぅ、彼らの働きのお蔭で助かりましたね。まさか秘書を使って市長を暗殺しようとは」

 

場所は黒月貿易公司へと移り、中にはツァオと銀の姿があった。アーネストは帝国側の大物議員と繋がっており、その議員はルバーチェと繋がっていた。銀の名前はルバーチェ経由だとツァオは考えていた

 

「……そろそろ時間だ、いくぞ」

 

そういい銀はツァオの目の前から消えた。それにツァオは立ち上がり、窓から湖をみると

 

「さて時間ですか……はたして、何の『時間』なのですかね」

 

そう薄笑いを浮かべながら言った。銀は屋上に現れると、そのまま屋上から屋上へと飛んで、湾港区から歓楽街のホテルの上にたどりついた。アルカンシェルの方を向きながら、ある人物がいないのを確認して黒衣を脱ぐと……そこにはリーシャの姿があった

 

「ふぅ……まにあった」

 

リーシャはホテルの屋上から飛び降りて、何事も無かったかのようにアルカンシェルの入り口に向かうと

 

「相変わらず早いわね」

 

その後ろにはイリアの姿があり、朝練を共にしようとなってアルカンシェルの中へと入っていった

 

それから一か月後、市長が第70周年記念祭の宣言をおこない、クロスベルはこれまでに見たこともないぐらいの賑わいで満ち溢れていた。カジノではランディがナース達と豪遊しており、ティオは自室のノートパソコンらしき端末にてヨナとゲームに勤しんで、セルゲイはソーニャ副指令とバーでお楽しみしており、エリィは市長と共に公式行事に参加、ロイドはセシルと共にアルカンシェルの劇を見ていた。ミッチェルはと言うと

 

「お土産、持ってきたぞ」

 

ウルスラ医科大学の病室にきており

 

「わぁ!ありがと、ございます」

 

シズクのお見舞いに来ていた。来る前も警察本部の地下にて射撃訓練をしており、スコアを総なめしてきたばかりである

 

「でも、いいのですか?折角の記念祭に私の所にきて?」

 

シズクが申し訳なさそうに言うと、ミッチェルは微笑みを浮かべながら頭を撫でた

 

「気にするな。静かな場所に来たかったのもあるが、君の所に遊びに行くと約束したのだ」

 

セシルがロイドと共にアルカンシェルに行ってシズクが病院で一人なら、記念祭なのだから、せめ何か土産でも持って行ってやろうと考えていたのだ

 

「はい。遊びに来てくれて、うれしいです」

 

シズクが嬉しそうに言う。弱音も言わなければ、自分より他人を気遣う優しい心、こんな健気な子が嬉しそう表情をするのなら来たかいがあったとミッチェルは思っていた。土産を渡した後に一時間ほど話した後に、看護師長から昼食の時間だと言われ、ミッチェルはシズクに別れを言いクロスベルへと戻る

 

「スコットさん、こんにちは~!」

 

クロスベル市に戻るとフランとノエルと出会った。どうやら姉妹で記念祭を楽しんでいるようであった

 

「どうもお疲れ様です」

 

二人とも私服姿で雰囲気も随分と違っていた

 

「お疲れ様、どうやらリフレッシュはできているようだな」

 

貴重な休暇を記念祭で使えて、二人ともご満悦のようであった

 

「スコットさんはいつもと変わりませんね~」

 

ミッチェルは何時もの服装にサングラス、足にはハイパワーが装備されたホルスターを付けていた。常に戦闘準備を整えているが今日はプレートキャリアを置いて、長物の銃も置いてきていた

 

「二人はデートと言った所か」

 

からかうように言うが、フランは本当にそんな様子で嬉しそうに言い、ノエルは彼氏が欲しいが作る暇がないと言う。ミッチェルはノエルにこの後の予定を聞かれるが、特に無と答えると、フランに共にミニライブへと行かないかと言われるが、誰かがズボンを引っ張った。その方を見ると

 

「は~い、スコット」

 

笑顔を浮かべたレンがいた。それにはミッチェルも少し驚き、フランとノエルも驚いていたが、フランはお人形さんみたいと目を輝かせていた

 

「ねぇ、一緒に周りましょ?」

 

突然のお誘いだが、前に共にお茶をする約束をしていたので、ノエル達の誘いを断り、レンと記念祭を周ることにした。その後ろでノエルが悲しそうにする声が聞こえたと聞こえなかったとか

 

「ねぇ、スコット!あっちに行きましょ!」

 

レンはミッチェルの手を引っ張ってクロスベルの中央広場に来たが

 

「レン、君は食事を済ませたのか?」

 

ミッチェルが聞くと、レンは首を横に振る。丁度昼時でお互いに食事を済ませていないので、傍にあったレストランへと入る。レンと共に昼食を済ませて、食後のお茶を楽しんでいた

 

「ここの料理は美味しかったわ。スコットの方はどうだったかしら?」

 

「あぁ、美味しかった。値段以上の味だった」

 

紅茶の香りと味を楽しみながら雑談をする。あの時の約束を果たせたようでなによりだと思っていた

 

「しかし、レンの元気な姿を見られてよかった。あの後のことが、まったく分からず、あの工房で出会うまで本当に心配していた」

 

クロスベル郊外の森で目覚めたミッチェルは工房で出会う前、なんとかレンの手掛かりを探そうと情報を集めていたのだ

 

「それはレンもよ。いろんな所を探したのに名前も聞かなかったんだから。でも……」

 

ティーカップをソーサーの上に置いてレンはミッチェルの顔を見ると

 

「今は目の前にいる……これほど嬉しいことはないわ」

 

花が咲いたような笑顔……これを見れるだけでも、あの場所から救い出した価値があると言うものであるとミッチェルは思った。レストランから出て、レンがどこに行こうか迷っていると

 

「お手を、フロイライン」

 

女性をエスコートするかのように言うミッチェル。実はこの手の訓練を士官学校で受けている、士官は戦闘だけじゃなく女性のエスコートをできなくてはならないとのことで、エスコートの仕方から、乗馬、スキー、ヴァイオリンなどの楽器の演奏などが求められるのだ。故にミッチェルはパーティーなどでのエスコートの仕方をマスターしている

 

「あら、レンはもうレディよ」

 

頬を可愛らしく膨らませるが、ミッチェルの手を取る。二人は夜まで共に記念祭を楽しんだ

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

記念祭二日目、残り四日間は全て仕事であった。支援要請の数も今までの倍近く来ており、それも記念祭による観光客の増加によるものであった

 

「まったく……本当ならナースの子達と『ミシュラム』に行きたかったぜ」

 

ミシュラムとは湾港区から遊覧船で行けるテーマパークで、ティオはマスコットキャラクターである『みっしぃ』が気になって仕方なかった

 

「『みっしぃ』といえば、あのマスコットの……あのキャラは前から知っているけど、テーマパークってのは3年前には無かったはずだよね?」

 

ミシュラムそのものは保養地として知られ、テーマパークが出来たのは2年前だと言う。それにセルゲイが、何か思い悩むような表情をするが、支援要請を片付けてこいと話を逸らされた

 

その支援要請も多種多様を極め、手配魔獣を倒したり、違法駐車にステッカーを張ったり、落とし物から喧嘩の仲裁まであった。クロスベル市を一周するかのように走り回り、ロイド達は聖ウルスラ医科大学へときていた。なんでも医者の捜索の支援要請が入っていたのだ

 

「問題の准教授はヨムヒア・ギュンターという方なんですが……ヨアヒム先生が、その……優秀なんですが、たまにふらりと姿を消してしまうんです」

 

受付嬢のセラが呆れながら言うには、こういうことはよくあり、ロイド達が思っている行方不明事件とは大きくかけ離れていた。サボっているヨアヒムを見つけ出して、病院に連れ帰ってきて欲しいという支援要請だったのだ

 

「せ、セラさん!ヨアヒム先生は!」

 

後回しにしようかと思っていた矢先に研修医であるリットンが現れ、なんでも山積みの仕事をヨアヒムに押し付けられて一人でこなしているというのだ。流石に不憫に思えたロイド達はヨアヒム捜索を優先することにした。情報では記念祭中に釣りの大会に出るとの事で、どこかで釣りをしているのだと言う。情報求めてクロスベルの釣公師団へと来たのだが、誰もいなかった

 

「まいったな……ヨアヒム先生の手がかり、ここなら見つけられそうな気がしたんだけど……」

 

釣りに詳しい人達が集まるここならと思っていたが、誰もいなかった。だが、二階から男の声と共に駆け降りる音が聞こえてきた

 

「……ち、ちこくっす~!」

 

それはロイドに釣竿を無料でくれたコバンであった。なんでも『フィッシャー杯』というのがウルスラ間道の中州で開かれており、そこに向かう途中であると言うのだ

 

「釣り大会に向かった人に、青い髪で眼鏡をかけた白衣の男性はいませんでしたか?」

 

ロイドが尋ねると、コバンはそれがヨアヒムであると言い、既に釣り大会に参加していると説明してくれた。その説明が終わると同時に駆け出していき、ロイド達も向かう場所が決まった

 

「早速急ぐとするっす」

 

ティオがコバンの口癖が移ったかのように言い、ミッチェルが顔を背けて笑っていると、ティオの顔が茹で蛸のように真っ赤になった。そして、ロイド達が中洲へと来ると、既に多くの人が釣りに勤しんでいた

 

「街道には魔獣も出るでしょうに、たくましい人達ね」

 

エリィが呆れながらいう。魔獣を物ともせずに釣りにたいする情熱はある意味、敬意の念をミッチェルは感じさせられた。そんな事はともかく、目的であるヨアヒムを探していると、奥の方で白衣を着た男性が釣りをしているのが見えた

 

「いやぁ、やっぱり釣りはいいね。糸を垂らしているだけで心が洗われるというか……病院勤めで疲れた体もリフレッシュするというものだよ」

 

独り言を言いながら釣りをしている男性が、受付嬢に言われた外見と一致しており、ロイドが名前を尋ねるとヨアヒムと名乗った。依頼で病院に戻るよう頼まれたと説明するも、聞いている様子もなく釣りに没頭している。それにロイドは溜め息をつきながらもう一度説明しようとしたが

 

「いや、それには及ばないよ。ウルスラ病院で皆が僕の帰りを待っている……そういう話だろう?」

 

釣った魚を篭にいれ、振り返るとヨアヒムが自己紹介をする。病院に素直に戻ってくれるのかなと思ったが、ヨアヒムは先々月から楽しみにしていたのもあって、中々戻ろうとはしなかった

 

「そうだ、折角のフィッシャー祭なんだから……よければ、コイツで勝負しないか?」

 

ヨアヒムは釣った魚の大きさで勝負し、負けたら病院に戻ると言う。それにロイドは渋々と頷く、釣り対決になったロイドをエリィとランディは応援しているが、ミッチェルとティオは岩に腰掛けて休憩していた

 

「……いい天気ですね」

 

そよ風も吹き、こんな天気なら釣りに勤しむのも分かるとティオが言う。それにミッチェルも頷き、これほどゆったりした時間を過ごすのも悪くないと思っていた

 

「お弁当持ってきて、ここで広げるのもよさそうなのですが……本来ここは魔獣が出没するんですよね」

 

ため息をつきながらティオが言う。今は何故か魔獣の姿が一体も見当たらないが、本来ここには魚型の魔獣が出没する場所である。だが、今はゆっくりしようとミッチェルは思ったが

 

「よっしゃあ!大物じゃねぇか!」

 

ランディの喜ぶ声が聞こえる、どうやらロイドが大物を釣り上げたようで、糸の先にナマズのような魚がいた。休憩は終わりであり、審判であるセルダンに見せた所……ロイドが釣り上げた『タイタン』はヨアヒムが釣り上げた『バイパーヘッド』より大きかった。その結果にヨアヒムも驚くものの、勝負を言い出した身として、潔く病院へと戻っていった

 

「まったく……先生がいないせいで、どれだけ他の人に迷惑がかかったか……」

 

病院に戻ると、受付嬢のセラがヨアヒムを怒るが、怒られている本人は反省する様子が見えなかった。それに堪忍袋の緒が切れたセラが本気で仕事に戻れと言うと、ヨアヒムも冷や汗を流して素直に仕事へと戻った

 

支援要請も無事解決し、クロスベル市に戻り一休みしようとした矢先、ロイドのエニグマに通信が入った

 

「はい、ロイドです……あぁ、フランか。もしかして、緊急要請か?……本当か?あいつら、性懲りもなく……観光客だって大勢いるだろうに……分かった、湾港区だな。すぐに急行するよ」

 

ロイドは通信を切り、ミッチェル達に説明をする。湾港区にて旧市街の不良達が喧嘩騒ぎをしており、それを止めに行くという。ティオは面倒臭そうに溜め息を吐き、ランディも祭りの熱気にあてられたのかと呆れていた。現場に到着すると、両チームが一騎打ちしており、そこまで険悪な雰囲気でもなかった。どちらかと言えば総合格闘技でもしている感じであった

 

「ちょっとちょっと!あなたたち、何してるのよ!?」

 

事情を聞きに行こうとした時、女性の声が聞こえ、ヴァルド達やロイド達の視線が声のした方に向けられる。そこにはエステルとヨシュアの姿があった

 

「まったく、連絡を受けて見に来てみればゾロゾロと……あなたたち、旧市街のテスタメンツとサーベルバイパーね?喧嘩は終わり!とっとと解散しなさいよね!」

 

どうやら市民からの要請で遊撃士であるエステル達も駆け付けたらしい。この喧噪の理由をワジが説明するに、勝ち抜きタイマンバトルという催しをしており、両チームから5人ずつ出して1対1の勝負で勝ち抜き戦をするというルールのあるものであった。負けた方が勝った方の飲食代を奢るという褒賞つきで

 

「なるほど、試合みたいなもんね。それなら別に構わないか……って、違う違う!試合をするのはともかく、こんな所でしちゃダメでしょ!?ここは人通りも多いんだし、別の場所でやればいいじゃない!」

 

納得しかけたエステルだが、頭を振り、ここでは人の迷惑になると言う。だが、ヴァルドが知ったことではないと言うが、エステルも反論を言う。それが癇に障ったのか、ヴァルドがエステルに喧嘩を売ろうとするが

 

「……やめときなよ、ヴァルド。そのお姉さん、武術込だったら、たぶん君より強いよ?」

 

だが、それをワジが止める。その説明にヴァルドは驚きながら聞き返した。更にヨシュアの方が実力は上だといい、ヨシュアは修行中の身だと謙遜した。だが、納得のいかないヴァルドがエステルの胸倉を掴もうとしたが、そのまま宙を舞い背中から地面に叩き付けられた

 

「あ゛……?」

 

その出来事に理解できなかったヴァルドだが、ワジの溜め息で何をされたかを理解し、笑い声を上げると得物を抜く。相手を舐めていたことにヴァルドが謝ると同時に武器を叩き付ける、それをバックステップでエステルは回避し、ヨシュアが前にでる

 

「やれやれ……君たちもちょっと調子に乗りすぎじゃない?」

 

先ほどの行動と態度にはワジの面子を潰すかのようなことであり、引くに引けない状況へとなってきたが

 

「そこまでだ」

 

その声に、その場の全員が注目する。それはミッチェルであり、その手にはSIG550が握られている

 

「双方落ち着け。民間人を守る遊撃士が喧嘩を買おうとするな……理由は分からんでもないが」

 

ヨシュアが険悪な雰囲気になったのも、恐らく恋人であろうエステルが怪我を負わせられかけたのだから仕方ない。だが、遊撃士なのだから冷静に判断して欲しかった所でもあった

 

「だから、落ち着いて。そもそも、ここは公共の場所だ。タイマン勝負にしても、スジを通すにしても、他の場所でやってくれ」

 

ロイドが落ち着くように言い、公共の場でするようなことではないと注意する。だが、お互いにヤル気である今、止めるのはちょっとやそっとでは無理そうであった。ミッチェルも安全装置を解除して双方の頭を冷やしてやろうかと悩んでいると

 

「あのよぉ……そんなにやり合いたいんなら、別の方法でやればいいんじゃね?」

 

突然ランディが言い、それに全員が耳を傾けた

 

「せっかくの祭りだ、遺恨を残してもつまらねぇだろ。だったらスカッとする方法で決着を付けるっつーのはどうだよ?」

 

それには一理あり、祭りで不快な思いをしても意味はない。そこで、戦いでなく別の方法で決着をつけるのはどうだと言うのだ。そして、場所は旧市街と移り……

 

「フフ……なるほどね。旧市街の地形を利用した追いかけっこ(チェイスバトル)か……なかなか楽しめそうじゃない?」

 

それは迷路じみた旧市街を使用したレース。3つのポイントを用意し、それを全部押してスタート地点に戻れば一周。合計で三周して一番早くゴールしたチームが勝利であるが、妨害アリで何でもアリのケンカレースであった。これはワジとヴァルドも乗り気で、エステル達も戦闘より健全的であるとして参加を表明。それでロイド達もなし崩し的に参加することになったが

 

「なんで俺達まで……」

 

参加メンバーであるロイドが溜め息をつきながら言う。言いだしっぺのランディは強制参加だがミッチェルが行くかもとなった所、一人だけ飛び道具なのは不公平になるとミッチェルが主張し、近接武器の二人が選ばれたのである

 

「その代わり、完全に試合形式にしてルールから外れた事はしないこと!決着が付いたら遺恨は残さず、それ以上は争わないこと!」

 

ロイドが半ば自棄になりながら言う。それにヴァルドやエステル達も同意し、ランディとロイドが打合せをしている

 

「まったく……怪我しなければいいのだけど」

 

エリィが溜め息をついて、なぜこうなったのかと思いながら言い、騒ぎを止めるという任務を忘れているのではと思っていると

 

「これも、いい訓練になるだろ。追いかけ(チェイス)なんて警察官なら遭遇するケースも多いはずだ。今回でランディとのコンビネーションの訓練もできるだろ」

 

ミッチェルは然程この事態に否定的ではなかった。むしろ訓練になるといい、最下位ならなにか奢らせようかと考えていた。そして全員がスタート位置につくと

 

「実況にカメランマンも用意したから、存分に盛り上げるわよ!」

 

なぜかグレイスと部下であろうカメラマンが実況をするといい、建物の上でスタンバイしている。完全なお祭り騒ぎであるが、喧嘩より何倍もいいとエステルが笑いながら言う

 

「それでは……3、2、1、GO!」

 

ミッチェルの銃声と共に一番手であるヴァルド組がスタートを切る、時間を置いてロイド組にエステル組の順でスタートしていく。ロイド達が一つ目のポイントを押して二つ目へと向かうと、ポイントの目の前でヴァルドがドラム缶を持ち上げて、待ち構えていた。明らかにそれが、妨害行為であることが分かる

 

「そのまま突っ込む!」

 

ロイドがランディに言い、目の前から飛んでくるドラム缶の掻い潜るように突っ込み、ワジの攻撃も避けて第2ポイントのスイッチを押す。緊迫した状況が続くもワジ達が第3ポイントのスイッチを押したときにはロイド達が目の前に迫っていた

 

「(仕掛けるぞ!)」

 

小声でランディに言い、コンビクラフトを仕掛ける。前後から挟み込み、怒涛のラッシュを叩き込み、最後の一撃と言わんばかりの挟撃を食らわせる。それに膝をつかされるヴァルド組を後目にポイントを押し、ロイド達がトップに躍り出る

 

「さぁ、2週目です!ロイド&ランディ選手、順位を繰り上げて……おおっと!ここでエステル&ヨシュア選手がとんでもないスピードで追い上げてきた!」

 

第1ポイントを通過したロイド達のすぐ傍をエステル組が通過する。このペースだとエステ組に追い抜かれるのも時間の問題であった。ロイドが第2ポイントのスイッチを押したとき

 

「おい、ロイド!」

 

ランディが気づいた時には遅かった。傍にあったゴミ箱から白い煙が噴き出して、ロイド達の視界を奪う

 

「ごめんね~」

 

エステル組がロイド組を追い抜くこの煙はヨシュアが用意したトラップで、それにまんまと引っかかったのだ。ロイド達が追いかけると、エステル組が待ち構えて攻撃を仕掛けてくる、それを各個に別れて防ぐが大きく時間を稼がれ先に行かれる

 

「くそ、俺たちも追いかけるぞ」

 

ロイドがスイッチを押そうとするが

 

「よそ見は厳禁だよ」

 

後ろからワジの声が聞こえ振り向くと、ヴァルドの奇襲を受ける。ロイド達は吹き飛ばされた

 

「まずいな……」

 

エステル達に大きく差をつけられ、ワジ達にも順位を抜かれる。ロイド達が勝つ可能性が限りなく低くなったとミッチェルが思っていたら

 

「……ハハハハハハハハッ!いいねぇ!熱くなってきたぜ!こうなりゃとことん、楽しませてもらおうじゃねえか!」

 

ランディがブチ切れて、本気をだした。性格が豹変したかのような笑い声にエリィやティオは呆気にとられていたが、ランディはそんなことお構いなく駆け抜ける

 

「3週目に突入し、このまま独走を許せば彼女たちの勝利となりますが……おっと~、やはりそうは問屋が卸さないようです!」

 

第1ポイントでエステル達と追いついたヴァルド達が激しい攻防戦を繰り広げ、エステル組が先に急ぎ、ヴァルド組は追撃をおこなう

 

「激しいデッドヒートを始めた両チーム!もうこれで、この2チームに勝利は絞れらてしまうのでしょうか……」

 

グレイスが実況していると、叫びながら突っ込むランディが第1ポイントを叩き潰す。装置から黒い煙がでて、ロイドも追いつくのに必死な様子であった。エステル達とワジ達が第2ポイントを通過し第3ポイントに向かう途中、何もない所で突然転倒した

 

「ワイヤートラップか」

 

恐らく、その場にワイヤーを張っていたのだとミッチェルが推測する。全力疾走していた人間が突然転倒したのなら、倒れた時の衝撃も大きくなるのだ

 

「引っかかった!」

 

屋根の上からロイドの声が聞こえ、その屋根を伝って第3ポイントの前にたどり着く。起き上がったエステル達が振り向いて迎撃の体制をとるが、ワジとヨシュアはランディがいないことに気付いた

 

「ひゃっほぉー!油断大敵だぜ!」

 

傍にある廃アパートの階段を駆け上がり、そこから飛び降りながら地面にスタンハルバートを叩き付ける。その衝撃波がエステル達を襲い、膝をつかせた。その間にロイドとランディが駆け抜けて

 

「ゴール!激しいレースを最後に制したのはロイド&ランディチームでした!」

 

レース後、余りにも疲れすぎたのかシートの上で倒れ伏したロイドとランディが荒い息をしていた

 

「優勝おめでとう。よくやったじゃないか」

 

その勝利にミッチェルだけでなくエリィやティオも嬉しそうに声をかけた。ロイドとランディがお互いに褒めあっていたが、頑張りすぎたのか動けずにいた

 

「何か飲み物で買ってきてやる」

 

ミッチェルがそう言い、エリィとティオと共に東通りへと向かう。東通りへと来たミッチェル達は多くの露店の中から飲み物を売っている所を探す

 

「でも、なんであんなことになったのかしらね」

 

エリィが倒れている2人を思い出しながら苦笑いする。それにティオも同意しながら呆れていると

 

「偶にはいいだろう。あれも仕事の内だ、特に今回のはいい実地訓練にもなっただろう」

 

その場、その場で要求される咄嗟の判断、それを培うのにいい練習になったとミッチェルは思っていた。さらにトラップの危険性と有用性も学べているのなら上々である、すると飲み物を売っている屋台を見つける

 

「まぁ、肉体労働派のロイドさんとランディさんには問題ないでしょう」

 

自分は頭脳労働派だと言うティオにミッチェルが戦闘訓練を増やすぞと言っている間に

 

「すみません、2本ください」

 

エリィがラムネの屋台で買い物をして、ティオが戦闘訓練を増やすのを止めるようミッチェルに要請していた

 

「ティオは体力が低い。捜索や戦闘では、体力が必要となってくる」

 

かれこれ20年近くを戦場で過ごしたからこそ体力がいかに大事かを知っているミッチェルだからこその言葉であった。逃げる時、追いかける時、守る時、攻める時、全ての場合で体力が必要となってくる。体力が切れて逃げ遅れたり、捕らえ損なったりなど論外であった戦闘訓練でなくとも体力鍛錬はさせるかと悩んでいると

 

「はぁ……何やってんだか」

 

エリィの呆れた声が聞こえ、前を向くとランディがロイドの頭を撫でていた。いったいどう言う状況なのか不明であるが、打ち解けたような雰囲気であった

 

「はい、冷たい飲み物」

 

二人にラムネを渡す。実に美味そうに飲み、ハモりながら息を吐く。その姿が余りにも仲がよい兄弟のように見えて、エリィがそれをジト目で見ていると

 

「エリィさん、妬いています?」

 

ティオが至極真面目そうに言うと、エリィが顔を赤くして慌てて言い訳をする。ティオが特殊な趣向やら男同士のフラグだの危険そうな言葉を並べていると

 

「えへへ、お疲れ様」

 

エステルとヨシュアが近寄ってきた、どうやら体力は既に回復している様子であった。元々仕事で来ていて、すぐに戻るとヨシュアが言うと

 

「私たちも仕事できていたのですがね」

 

ティオが溜め息を吐きながら言う。既に日が傾き、夕方となっており大分時間が取られていた

 

「あはは、楽しかったからいいじゃない。せっかくのお祭りなんだし、ちょっとくらいは楽しまないとね!」

 

笑いながら言うエステルは今回のレースにご満悦であるようだった。すると突然ヨシュアがランディの身体を心配する声をかけた

 

「へぇ、アレ(・・)を知っているのか……同じ匂いはしなかったが、お前もそっち絡みなのか?」

 

ランディとヨシュアは普通に会話しているが、ロイド達は何を言っているのかサッパリ分からなかった。ミッチェルは、この世界が個人の能力に大きく依存していることに気づいているが、さっきの豹変の話なのかと思っていると

 

「まぁ、ガキの頃から慣れっこにはなってるからな。後に残るダメージはねぇさ」

 

それに納得したように頷くヨシュア、それにエステルが何の話をしているのかと尋ねるがヨシュアはそれをはぐらかす。すると、エステルが何かを思い出したかのロイド達に尋ねる

 

「ねぇ、あなたたち『黒の競売会(シュバルツオークション)』って知ってる?」

 

始めて聞く単語にロイド達は首を傾げて知らないと言う。エステルの説明ではクロスベルのどこかで開かれる競売会で、毎年の記念祭の期間中に開かれるという。そのオークションの商品が盗品や表に出せない由来の品ばかりだと言う

 

「……人身売買の可能性は?」

 

ミッチェルが真面目な表情でヨシュアに尋ねる。その言葉にはロイド達が目を見開いてミッチェルの方を向いた

 

「そこまでは分からない。でも、ここの裏のことを考えると……」

 

言葉にこそださなかったが、可能性があると言っているものであった。生憎ロイド達は知らないことに、エステルが少し残念そうにして、只の噂ではないか言う。お互いに別れて目的の場所に向かうが、その間ロイド達は黒の競売会(シュバルツオークション)について考えていた

 

支援課に戻えい報告書を書いて、夕食を取るなどで記念祭の2日目が過ぎていった。朝食に全員が集まっていると、ランディが体が痛いだの歳を取っただの言って笑っていると

 

「……」

 

ロイドは浮かない表情をしていた

 

「どうしたの?」

 

エリィが尋ねると、昨日の『黒の競売会(シュバルツオークション)』について気になっているという。噂の可能性も高いとティがいうが、ルバーチェや黒月が存在し、黒い部分が多いクロスベルでは外れた内容ではないかもしれんとミッチェルが言う

 

「……実は、前に気になる噂を聞いたことがあるわ」

 

エリィが何かを知っている様子で話を聞くと、留学していた時に知り合った貴族の娘から聞いた話であるという。内容が毎年、クロスベルのある場所で秘密の社交会(パーティー)が開かれており、各国の貴族や実業家が秘密裏に集まるパーティーであると言う

 

「……現実味を帯びてきたな」

 

ミッチェルが口に手を当てながら言う。黒の競売会(シュバルツオークション)がエリィの言う社交会(パーティー)のことを指している可能性がでてきたのだ

 

「しかし、本当にあったとしても俺たちにはどうしようもなくねぇか?どう考えても議員共の指示で警察本部に黙認されてそうだしよ」

 

ランディの言う通り、上層部が議員と繋がっている状況に警察が競売会に乗り込める可能性など、ありえないと言えるほど低かったのだ

 

「それにこの話が本当なら捜査一課が既に動き始めているはずだ。恐らく捜査一課も上から足止めを食らっている」

 

遊撃士が知っている情報を捜査一課が見逃しているとは思えず、タドリーみたいな人間がいるのなら既に探し回っているはずだとミッチェルが言う。初日に警察本部にいったミッチェルは、そんな慌ただしい雰囲気はまったく感じなかったのだ

 

「……そうだな。とにかく、この件も気にかけておこう。とっとと食べて今日の支援要請を片付けるか」

 

まだ可能性に過ぎない情報に悩み続けるのは不毛だとなり、食事を終わらせて支援要請に向かうことにした

 




いやぁ英雄*戦姫やってたら遅れましたwあれメッチャ面白いですわ、絵師さんの絵も凄く好みですし、システムもいいと思えましたね。あ、一応18歳以上のゲームですので18以下の人は手を出すのを控えてください(これ言わなきゃ結構うるさいんですよね)

全年齢版のもあるのでそちらでお願いします(ステマじゃないよw)

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