【凍結中】亡霊の軌跡   作:機甲の拳を突き上げる

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11話 脅迫状

翌朝、警備隊のソーニャ副指令とノエル曹長率いる搬送部隊が鉱山町に来て、マフィアを引き渡したのだが

 

「できれば大回りする前に、私たちを呼んで欲しかったのだけど……」

 

ロイド達の無茶を当然の如く叱られ、特に軍用犬に囲まれた話をした時には無謀であると雷が落ちたかのように叱られる。まぁ、あの場合は殲滅する気だったミッチェルだったが、ここでそれを言ったらどうなるかは火を見るより明らかだったので黙ってお叱りを受けていた

 

更に驚いたのは特務支援課のビルに帰ってくると、あの白い狼がいたことだ。ティオを仲介して理由を聞くと『濡れ衣を晴らしてくれたこと、よくやった』『だが、お前たちは若くて頼りない、だから自分が力をかしてやろう』とのことだった。名前はツァイトと言うらしいが

 

「ふてぶてしい野郎だな」

 

ランディがゲンナリしながら言うと、セルゲイがツァイトを警察犬として登録するといいだした。なんとも奇妙な日から2週間が経過し、支援要請はくるものの大きな事件はきなかった

 

「ただいま」

 

支援要請を片付けてきたロイドとランディにミッチェルが帰ってきた。今日の任務は車の撤去であったが、素直に従ってくれる人はそう多くなく、そういう相手にはミッチェルが誠心誠意をこめたお願い(物理)をして対処していた

 

「お帰りなさい、ちょうど昼食が出来上がった所よ」

 

ビルにいたエリィとティオが昼食の用意をしていて、ありがたくありつくことにした。今回の任務も例の劇団『アルカンシェル』の新作の公演があり、それが影響していたのだ。トップスターであるイリア・プラティエは世界にも有名なスターなのだ

 

「それと、食事を終ったら支援要請であったアルモリカ村まで向うから、準備を終わらせておこう」

 

今朝の支援要請であったアルモリカ村の私有地に発生した魔獣退治を残しており、それの準備のため武器屋にミッチェルが寄りたいと言うのだ。どうも今の武器を変更したいとのことで、どの武器に変えるかはきめていた

 

「そうね、消費している回復薬も買っておく必要もあるし」

 

エリィもそれに同意してくれ、他も構わないと言ってくれた。食事が終わり、後片付けをした後に一同は武器屋へと赴いた

 

「お、きたか。準備はできているぞ」

 

ジロンドがミッチェル達の姿を見ると、店の奥にえと商品を取りに行く。持ってきたのは大型の銃に小型の銃、それとプレートキャリアだった

 

「こいつはサコー社のモデル.60だ。威力と装弾数が自慢で、改良型のこいつにはバイポットに加えてグリップが付けられている。だが、その威力のおかげで扱い難いのと、今まで使用してきた銃に比べたら重いのが難点だな」

 

目の前のカウンターに置かれたM60は、元の世界にあるM60E4の型であった。銃身が短くグリップが取り付けられて、取り回しが改良している。更に重いと言ったが、機関銃の中では軽い分類である

 

「ほんでコイツはヴェルヌ社製のMP5だ。威力は拳銃程度だが、室内戦闘での弾幕は勿論、その命中精度も群を抜いた性能だ」

 

次に置かれたのは短機関銃であるMP5である。これも元の世界ではメジャーな銃器であり、多くの軍と警察が採用している名銃である

 

「後は、お前が注文していたプレートキャリアだ。まさか最新型のを要求されるとは思ってなかったからな……手配に手間取っちまった」

 

今回ミッチェルが注文したプレートキャリアにはMOLLEシステムが採用されている物で、市場に出回っていないタイプだが、その拡張性と使いやすさは大手メーカーでも一押しの性能と言えた

 

「助かる、代金はおいて置くぞ」

 

既に手筈通りのポーチ類が取り付けられているプレートキャリを装備し、M60を持ち、MP5を背負う。ミッチェルの財布は素寒貧になってしまったが、金と命なら命が優先であるので必要経費と割り切っていた。その後に百貨店へ行き、クロスベルタイムズと消費品を購入してアルモリカ村へと向かう

 

「特務支援課の……!よくぞ来て下さった」

 

今回の依頼主であるトルタ村長の自宅に話の聞きに行った所、アルモリカ古道には、資材置き場として使っている村の私有地に魔獣の群れが現れたとのこと。幸い負傷者が出ていないが、農作業の道具も置かれていて、放っておくわけにもいかなかったのだ

 

「そこで、先の事件解決の腕を見込んで、遊撃士ではなく諸君らに支援要請を出したというわけなのだ」

 

魔獣被害の事件を解決したことは村にも伝わっていて、その腕を信用しての支援要請であった。無論、ロイドは頷いて仕事に当たると言い、村長から私有地の鍵を受け取り、私有地へと向かう

 

「これは……確かにいるが……」

 

私有地の門の前まで来て、魔獣の群れの姿は確認できた。だが、その魔獣は逆立ちしたアリクイのような姿をしており、その珍妙な姿にミッチェルを唖然とさせた

 

「本当だな。そんじゃ、ちゃっちゃと追い払いますか」

 

ランディがスタンハルバートを肩に担いで言う。どうもこう言う魔獣は珍しくもない様子であった。気を取り直して、M60のボルトハンドルを引いて戦闘態勢を取る。武器屋に渡しておいたピカニティーレイルも装備され、その上には光学照準器であるドットサイトが装着されてあった。これで命中精度が格段に向上する

 

「よし、それじゃ魔獣を追っ払っていこう」

 

ロイドがそう言い門の鍵を開ける。二手に分かれてとミッチェルが提案するが、魔獣の能力が古道にいるのより厄介であることから堅実な方法で行くとロイドが言い、それにミッチェルは従った

 

「スコット、魔獣を引き付けてくれ」

 

目の前にいる魔獣の群れへと下手に手を出せば囲まれるのは明らかであった。そこで、魔獣を少しずつ引き付けて各個撃破に持ち込む作戦をロイドはとった。ミッチェルはその場に膝を付き、魔獣の一体に照準を合わせる。ドットサイトの赤い点を魔獣に合わせると……発砲。銃弾が吸い込まれるように魔獣へと着弾して魔獣が消えた

 

それに気付いた他の魔獣がロイド達の方へと押し寄せてくる。だが、ミッチェルが素早く確実に魔獣に銃弾を叩き込む。威力が高く装弾数の多いM60で指切り点射して近づいてくる魔獣を一掃した

 

「……すまない、今度は俺達から仕掛けよう」

 

まさか近づいてきた魔獣を一人で一掃するとは考えも……していたが、まさか実現するとは思ってなかったロイドとエリィ。ティオとランディは、やってのけてしまうと最初から思っていたから然程驚いた様子では無かった

 

「作戦はいいが、味方の戦力を把握しておくのも指揮官として必要なことだ」

 

立ち上がりミッチェルがロイドにいうと、ロイドは頷いた。殆どの戦闘を指揮していたミッチェルの言葉の重さを理解しているロイドは頷くしかできなかった

 

「それで、今度はどんな作戦でいくつもりだ?」

 

何事も経験、実戦の場でいうのも可笑しいかもしれないが、本来はロイドが指揮をとる立場なのだ。荒療治でも経験を積ませるべきであるとミッチェルは考えていた

 

「そうだな……今度は奇襲を仕掛けて、先手をとって殲滅をしてみよう」

 

ロイドが考えた作戦は奇襲して体制が整う前に倒してしまおうと言うのだ。それにミッチェルは反対することなく頷く。呑気に食事をしている魔獣の群れに突如手榴弾が飛んできて爆発、魔獣が吹き飛び混乱している間にミッチェルがM60で弾幕を張ってある程度数を減らすと、ランディとロイドが突撃する。その援護にエリィとティオが担当し、無傷で殲滅していった

 

「殲滅完了……この辺りの魔獣の気配は完全に消えました」

 

危なげな事無く無事に魔獣の群れの殲滅を終えた。堅実な作戦を行ったロイドにミッチェルの評価は高かった。相手が動けない内に倒すのは立派な作戦である、こちらが無傷で勝てるのだから十分成功であると言えた

 

「それじゃ、トルタ村長に報告しに行きましょ」

 

魔獣掃討の報告をしに行こうとエリィが言い、アルモリカ村へと向かった

 

「そうか、魔獣の掃討はできましたか。うむ……これで安心して農作業に取り組むことが出来そうだ。感謝するぞ、特務支援課の」

 

報告を聞いた村長は満足げに頷いた

 

「ですが、街道に私有地がある以上、これからも警戒は必要そうです」

 

魔獣が徘徊する街道にあるのだから再び魔獣の群れが入り込む可能性は十分にあった。村長もそれには同意で何かしらの対策を考えるべきであると言った。任務も終わり、クロスベル市に戻るとロイドのエニグマのベルが鳴った

 

「はい、特務支援課のバニングスです……フラン?直接連絡なんて珍しいな……あぁ、大丈夫だと思うけど……わかった支援課の方に戻ればいいのかな?……遅れるようだったら先に中で待ってもらうよう伝えといてくれ」

 

通信を終えたロイドがエニグマを閉じると、どんな内容だったかをエリィが尋ねる

 

「ちょっと深刻な話のようだ。他の支援要請は切り上げて、いったん支援課の方に戻ろう」

 

どうやら支援課に客人が来るようであり、ビルに向かうことにした。ビルに到着すると、既に依頼人であろう紫髪の女性がいた

 

「す、すみません!勝手に上がりこんだりして……その……」

 

随分、恐縮している様子でミッチェルが落ち着くように言う。すると紫髪の女性も落ち着きを取り戻し

 

「初めまして。あの、リーシャ・マオといいます。本日は相談に乗っていただきありがとうございました!」

 

礼儀よくお辞儀するリーシャ。その姿にロイドやランディが見惚れる。なにせ美人でありながら小柄なのにグラマーな姿に男性として見惚れていた

 

「(とらんじすたぐらまーです……)」

 

ティオやエリィもその美貌に目が奪われ、ティオに関しては、ある一部を交互に見て涙を呑んでいた。ミッチェルもどんだけ美人が多いんだと思いながら見ていた

 

「とりあえず、そちらにかけてくれ」

 

見惚れているロイドをエリィが注意しているので、ミッチェルが対応することにした。話を一通り聞いたところ

 

「……脅迫状、ですか」

 

明らかに穏やかではない単語に支援課の面々の表情が真剣さを増す。それが届いたのは一週間前のことで、イリアという女性の元に差出人不明の手紙が届いたと言う

 

「あ、えっとイリアさんって言うのは……」

 

届いた女性について説明しようとするが

 

「『炎の舞姫』の異名を持つ劇団アルカンシェルの大スター、国際的な知名度を誇る看板女優にしてアーティスト。いや~、まさかイリア・プラティエ絡みの相談事が回ってくるとはねぇ」

 

ランディは喜んでいたが無理もなかった。先ほど話題に出ていたイリア・プラティエ絡みの事件なのだ、運が良ければ彼女を目の前で見ることができるのだから

 

「本人はイタズラだと言っていましたが……ちょっと不気味な文面で、ただのイタズラには見えなくって。それで劇団長とも話し合って、とにかく警察に相談してみようって」

 

それで、脅迫状の内容を見てみよとしたが、それはイリアが持っているとのことだった。そこで脅迫状の内容を見るべくイリアの元に伺おうとしたが

 

「て、あぁっ!」

 

いきなりランディが大声を上げた

 

「……ランディ、静かにしてろ。ちゃんと連れてってやる」

 

イリア絡みで何か思いついたのだろうとミッチェルが面倒くさそうに言うが

 

「そっちじゃなくて。君の顔、新作の特集ページで見かけたことがあるぜ!イリア演じる『太陽の姫』と対になる『月の姫』を演じる準主役……イリア・プラティエが大抜擢した彗星のごとく現れた大型新人って!」

 

どうも雑誌でリーシャのことを見たらしくランディがはしゃいでいたのだ

 

「と、とんでもない。私なんて、まだまだ実力不足で。本当はデビューなんて早いと思っているんですけど……」

 

リーシャは謙遜するが、イリアの実力をしっているエリィはそんなことはないと言う

 

「だが、イリア本人は、この件について乗り気ではないみたいだが」

 

リーシャから聞いた話では、イリアは舞台の完成度を高めたいから外部の人間はお断りらしく、更に警察なんか言語道断であると言っている。そこで普通の警察より親しみやすい特務支援課へと相談にきたのだ

 

「こう言ってはなんですが……遊撃士協会の方に相談は?イリアさんは民間人ですし……彼らの護衛対象になると思いますが?」

 

エリィの言う通り、遊撃士に護衛を頼むのも一手であると言う。だが、クロスベルで遊撃士は人気が高く、公演前に出入りしていたら変な噂になってしまうとリーシャは言う

 

「……概ね把握した、この件は引き受けよう。だが、イリア本人に話を伺い、彼女がどうしても断るなら、彼女の意思を尊重する。それで構わないかな?」

 

この件を引き受けるのはロイド達も賛成であり、異議の声はなかった

 

「ありがとうございます。私もイリアさんの意見を尊重するつもりです。それでは、私は一先ず劇団の方に帰ります、劇団長とイリアさんには私の方から報告しておきますので、いつ来ていただいても大丈夫です」

 

リーシャは笑顔で礼を言い、ビルから去って行った。とりあえず劇団へ赴くことになり、ミッチェルはM60と言う長物を部屋に置き、代わりにフェザーライトを担いで、MP5を持つ。そのMP5にもドットサイトを装備してある

 

「しかし、生イリアだぜ、生イリア!楽しみでしかたないぜ!」

 

部屋で装備を整えたミッチェルが戻ってくると、ランディがウキウキしており、エリィも大スターに会うからか緊張している表情であった。劇団に向かうべく歓楽街に来て、中央にある劇場へと入る

 

「音楽が流れてる……っていうことは稽古中かな?」

 

中に入ると豪華な装飾がされた玄関が出迎えてくれ、奥から音楽が流れてきていた

 

「お客様、大変申し訳ありません。ただいま当劇場は、関係者以外の立入りをご遠慮願っておりまして……」

 

おそらく支配人であろう初老の人がロイド達に退去を願うが、ロイドが警察手帳を取り出して特務支援課の者だと言う

 

「特務支援課の方々でしたか。ようこそ『アルカンシェル』へ、リーシャさんから話は伺っております。何でも劇団長とイリアさんにお話しを伺いにいらっしゃったとか?」

 

話は通してるみたいで、要件もしっているようであった。それに頷くと、正面の扉からホール内に入ってもらうと劇団長とイリアが稽古していると言うので、奥へと進んでいく

 

ホールの中央にある舞台では衣装を着たイリアが稽古をしていた。その演技にロイド達全員が目を奪われていた。ワイヤーを使っているのだろうか、常人では考えられない跳躍をしながら舞っているが、その演技は自然に注目を集められるかのように惹かれていく。そして最後にポーズを決めると、ロイド達は自然に拍手をして、舞台の方へと進む

 

「あ、みなさん」

 

リーシャも拍手の音に振り返り、ロイド達の姿を見て、笑みを浮かべる

 

「す、すみません。お邪魔してしまって……その……な、何て言ったらいいか……」

 

その演技に言葉がでないロイドであり

 

「そ、その……す、すごかったです……!」

 

その演技に魅了されたティオが率直な感想を言う。それはランディとエリィも一緒で褒める言葉が見つからないほど凄かったのだ

 

「まさか。これ程とは……」

 

ミッチェルもその演技に魅了され、文字通り言葉が出なかった。その感想に笑顔で答え、舞台から飛び降りると

 

「ま、完成というには、まだ程遠い状態なんだけど」

 

それを聞いたロイド達は驚愕の声を上げる。つい先ほどまで魅了された演技が完成にほど遠いと言うのだから完成したどれほど……と思っていた

 

「あたりまえじゃない、このシーンはあくまで冒頭の『太陽の姫』だけのシーン。これに『月の姫』が加わることで何倍にも相乗効果が生まれる……最後のクライマックスシーンは今の数十倍は凄いと思うわよ~?」

 

これの数十倍とロイド達は生唾を飲み込む。彼女の演技を見るために大枚を(はた)く人の気持ちが分からんでもないとミッチェルは思った。そこでリーシャはロイド達が特務支援課の面々であると言うと

 

「ふーん、確かに全然、警察っぽくは見えないけど」

 

それにロイドは苦笑いを浮かべる。イリアはイタズラなんかで事情聴取されたくないと言うが、劇団長のアバンが念のためと説得するも中々首を縦に振らない

 

「まったく……どうするロイド?」

 

この女傑をどう説得するものかとミッチェルがロイドに聞くと、突然イリアがロイドの目の前までくる

 

「ロイドって……今、そういったわね。ひょっとして貴方のこと?」

 

突然目の前まで来られて、ロイドがたじたじしながら頷く

 

「フルネームは?」

 

名前まで問われて、フルネームを答えると……嬉しそうに手を叩き、ロイドを抱きしめた。その出来事は、その場にいる全員を驚愕させた

 

「いや~、世間は狭いわねぇ!まさか噂の弟君と、こうして会えるなんて!そういえば警察に入ったって聞いてたけど……ふふ、聞いていたイメージとホントそっくりじゃないの!?」

 

イリア一人が納得している所に事情を尋ねると、セシルと親友であると言う。どうもセシル経由でロイドのことを聞いていたらしい

 

「改めて自己紹介するわ。イリア・プラティエ……劇団アルカンシェルの看板を背負(しょ)って立たせてもらってるわ。よろしくね、弟君たち!」

 

イリアが自己紹介して、場所を楽屋へと移る。イリアに抱き着かれた感想を聞かれたロイドが乾いた笑みを浮かべて誤魔化すが、エリィとティオにはジト目で睨まれ

 

「(これがヒエラルキー……弟至上主義というやつか!この弟貴族っ!弟ブルジョアジーがっ!)」

 

実に呪い殺さんとばかり睨むランディにため息を零すミッチェル

 

「とりあえず、脅迫状の件についてお話を聞かせ願いたい」

 

このままじゃ話が進まないので、ミッチェルがイリアに聞くと

 

「弟君の頼みなら仕方ない。ちゃんと手紙は持ってきたわ」

 

例の脅迫状を受け取ったロイドが中身を見ると

 

『新作ノ公演ヲ中止セヨ。サモナクバ炎ノ舞姫ニ悲劇ガ訪レルダロウ……《(イン)》』

 

いかにもありがちな脅迫状の内容であった。イリアもこの手の脅し文句は数知れず貰ってきたので珍しくも無いと言うが

 

「その考えが事件に繋がるぞ。今回も同じように何も起きない……それで貴女の身に何かあってからは遅いんだ」

 

脅迫状を貰い過ぎて感覚がマヒしているイリアに忠告するミッチェル。それにアバンも同意し、注意するように言う。今回は奇妙な事があると言い

 

「いつもは差出人の名前がないのですが……今回は《銀》という思わせぶりな名前が書かれていて……ただのイタズラとは思えない感じがするんです」

 

確かに身元を特定させるかもしれない名を書いているのは妙であり、相手が本気であると捉えることもできた。差出人である『銀』に心当たりがないかとロイドが尋ねるも、どうやら心当たりはないようであった。

 

「それじゃ、誰かに恨みを買ったような出来事は?」

 

そのロイドの尋ねには、アバンとリーシャは心当たりがあるようであった

 

「あら?あなたたち、誰かに恨まれる心当たりなんてあるの?」

 

当の本人であるイリアは、まったく知らない様子に、アバンとリーシャが溜め息をつく。その相手というのが、イリア曰くハゲオヤジことマルコーニ……『ルバーチェ商会』の会長であった。それにはロイド達も驚かされる

 

「……どこでも聞くな、あいつ等の名は」

 

溜め息をついて、心底めんどくさそうにミッチェルが言う。関わった事件全部にルバーチェの名を聞けば嫌になってくるというものであった。そのマルコーニは接待などで劇場に来るものの、劇には興味がなく、イリアの身体をイヤらしい目で見ていると言う。で、そいつがイリアに言い寄ってきたものの、ビンタかまして二度と来るなと言ったそうだ

 

「それは……また……」

 

怖いもの知らずだとランディが言う。その時の屈辱を忘れてない可能性があり、今回の脅迫状としてきた……動機としては筋が通る内容ではあった

 

「……事情は大体分かりました。まずは幾つか手がかりを当たってみようかと思います。イリアさん、この脅迫状はお預かりしてもいいですか?」

 

ロイドの問いにイリアは頷く。ロイドの目つきが変わったことに好印象を感じたイリアはリーシャの不安を取り除く為にも全て任せると言う

 

「ところで、イリアくん。護衛などは本当にいらないのかね?」

 

アバンが不安そうに聞く。ロイド達の調査中に襲われる可能性は十分ありえてることであり、アバンが不安になるのは仕方なかった

 

「護衛ですか?なら、一人オススメなのがいますが……」

 

ランディがミッチェルの方を見ると、ロイド達もミッチェルの方を見ていた。無論、ミッチェルも護衛対象の警備と防衛の仕方は訓練時代に嫌というほど学んではいたが

 

「いらないわよ、もし来たらビンタをかましてやるわ」

 

笑いながらいうイリアに全員が苦笑いする。彼女なら本当にやりかねないと。ロイド達は劇場の玄関まできていた

 

「今日は本当にありがとうございます。イリアさんも納得してくれたし、相談して本当に良かったです!」

 

リーシャが頭を下げて礼を言うが、気にするなとミッチェルが言う

 

「そういえば……あの、どうかそんな丁寧に話さないで頂けませんか?その、私はまだ新米ですし……スコットさんやロイドさんよりもちょっと年下だと思いますし……そんな丁寧に話かけられると何だか申し訳なくって」

 

困ったように笑みを浮かべていうリーシャ。どうも丁寧に話されるのは苦手のようだった

 

「了解した。これから宜しく頼む、リーシャ」

 

ミッチェルは砕けた言い方で言い、手を差し出すと

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

リーシャも喜んだ表情をしてミッチェルと握手をする。すると、ホールの方からイリアに呼ばれる声がして、リーシャは一礼した後にホールへと向かう。劇場から出て、これからどうするかと悩んでいると

 

「……なぁ、皆。『ルバーチェ商会』を一度、訪れてみないか?」

 

ロイドの当然の発言に全員が耳を疑った表情をした

 

「……正気か?」

 

ミッチェルが真剣な表情でロイドに尋ねる。これまで何人もの構成員をブタ箱に押し入れた自分達が、その本拠地に向かうなど鴨が葱どころか薬味と鍋しょって行くみたいなものであった

 

「別に、警察の捜査として普通に事情徴収をするだけさ。脅迫状を出したのが、ルバーチェの会長かどうかはまだ分からないけど……面倒を避けてるだけじゃ真実にはたどり着けないと思う」

 

その発言には一理あり、どの道避けて通れないものであった

 

「それに、いい機会だと思うんだ。あれだけの事をしても捕まらず大手を振って歩いている連中……どんな実態なのかを掴めるきっかけになるかもしれない」

 

確かにその通りである、ならいっそのこと踏み込むのもありかと思っていると……エリィが悩んでいる表情をしている

 

「えっと、やっぱり心配か?何だったら俺とランディとスコットだけでも……」

 

そう言うとティオがジト目でロイドを睨む。置いてけぼりは反対だと言わんばかりに。それにロイドが言い訳をしようとしていると

 

「ううん……別に心配はしていないわ。そうね、訪ねるだけであれば、それほど危険ではないと思う。この街のマフィアというのが本当はどういう存在なのか……知るにはいい機会でしょうね」

 

随分と思わせぶりな言い方に疑問を持つロイド達にエリィは何でもないと首を横に振る。だが、ミッチェルはその表情は何か思いつめていると感覚的に見て取れた。これは長年部隊の隊長として部下を率いてきた経験からの判断であった

 

「……行くなら気を一瞬たりとも抜くな。私達は虎穴に飛び込むのだからな」

 

エリィのことは一先ず置き、先に目の前のルバーチェであった。足の拳銃のスライドを引き、持っていたMP5のボルトハンドを引いて、ファザーライトのフォアエンドを前後にアクションをおこし、戦闘準備を整える。それを見たロイド達も気を引き締める

 

「なんだてめぇら、ここはガキどもがよっていい場所じゃ……なっ!?」

 

路地裏に入り、奥へと進んでいき、その奥にある建物は古く見えるが、豪華な装飾も見える建物であった。その玄関で見張りをしていた黒服がロイド達に気付き、警告を言うが

 

「お、お前ら、あの時の!?」

 

その一人が捕まった一人のようで、ミッチェルの顔を見て動揺している。それにもう一人が何事かと思っていると、例の警察のガキ共であると聞き、驚く

 

「この様子なら自己紹介は不要のようですね。捜査任務でお伺いさせて頂きました、会長にお取次ぎ願いますか?」

 

余裕な表情でロイドが言うと、マフィアの二人は素直に取り次いでくれる様子もなく、一時退散するかと思っていると

 

「通してやれ」

 

玄関が開き、豪胆な声が聞こえてきて、黒服達があいさつする。そこから出てきたのはスーツ姿の巨漢で、その見た目から黒服のマフィアと格が違うのが見て分かった

 

「おう、ご苦労。クク……お前らが警察のガキどもか。話に聞いてたが思った以上に若いじゃねぇか」

 

巨漢はロイド達一人一人を見定めていく

 

「……特務支援課のロイド・バニングスです」

 

ロイドが自己紹介し、訪れた理由を説明しているが

 

「(こいつ……間違いなく戦場帰りだ)」

 

ミッチェルは目の前の巨漢から感じる雰囲気……というようなものを感じていた。それは、兵士が戦場で人を殺して帰ってきたばかりの猟奇的な雰囲気によく似ていたのだ

 

「ガルシア・ロッシ、『ルバーチェ商会』の営業本部長を務めている。まぁ、『若頭』と呼ばれることの方が多いがなぁ」

 

どうも巨漢が自己紹介している所でミッチェルも話に集中する

 

「入れ、俺が話を聞いてやる」

 

そう言うとガルシアは建物の中へと戻っていく。黒服達も気に食わない様子であるが、中に入るように言う。通された部屋はビルの何倍もの広さの部屋で、おそらく応接間である感じであった

 

「何かと思えば……ウチの会長が、イリア・プラティエに脅迫状で嫌がらせだと……?ククク……とんだヨタ話もあったもんだぜ」

 

組織のトップを貶しかねない発言なのに対し、ガルシアは余裕の態度を崩さなかった

 

「……無論、こちらもそうだと決め付けているわけではありません。ですが、殆んど手がかりがない状況で先日もめ事があったと聞きまして……」

 

ロイドがガルシアと話し合っている間にミッチェルは逃走経路と作戦を考えていた。余裕の表れなのか、武器等は取り上げられてなく、ここで戦闘になった場合にありったけのスタン、スモークを使って時間稼ぎをし、背中にあるC4で壁を破壊して逃げる。来た道の経路はちゃんと覚えており、その時の部屋の数と、出てくる構成員の予想数を照らし合わせて退却時の作戦を練る

 

「ま、少なくともウチの会長が書いたんじゃねえのは断言できる。クク……とんだ無駄足だったな」

 

どうやら話は進んでいる様子で、ガルシアが犯人はマルコーニでないと断言していた。ランディやエリィは何か知っていると疑っている様子であったが

 

「ところで、今の話を会長さんから直接お聞きできないでしょうか?」

 

そのロイドの要求にガルシアの余裕な表情が崩れる。お前じゃなくて会長を出せと言っているともとれる発言であった。ランディも会長から話を聞きたいと言うが、ミッチェルは相手に気づかれないよう僅かに腰を上げる

 

「ふふふ……はははははっ!」

 

すると突然ガルシアは笑い出し、目の前のテーブルを前蹴りする。その行為と蹴った時の音にロイド達は驚き、ティオは咄嗟にミッチェルの服を掴む。ミッチェルはこの行動を予測しており、戦闘中のような真剣な表情をしている

 

「……調子にのるなよ小僧ども。てめぇらみたいなガキ共に会長が会うわけねぇだろうが……いつでもヒネリ潰すことのできる無知で哀れな仔犬ごときによ?」

 

ガルシアの表情は獰猛な笑みを浮かべ、ヒネリ潰せる仔犬と言われロイドも声を上げかける

 

「本来なら俺も、てめぇらごときに、わざわざ会うつもりは無かったが……せっかくの機会だから親切に忠告してやろうと思ったわけだ……てめぇらが何をしようがこの街(クロスベル)の現実はかわらねぇ……ましてや俺たちをどうこうする事など不可能ってことをな」

 

警察上層部に警備隊上層部、はては帝国側や共和国側の議員と深い繋がりがあるマフィア。これを出来立ての部署、しかも新人共が潰そうなど不可能であると言うのだ

 

「分かったら、失せろ。てめぇらみてぇなガキ共を相手にしてるほど暇じゃねぇんだ。だが、これ以上歯向かえば……ガキだろうと容赦なく叩き潰す」

 

脅しを含めた忠告を言い、去るように言う。何もしてこない所を見るに、ガルシアなりの温情でもあった

 

「……忠告、ありがたく受け取っておきますよ。行こう、聞き込みはこれで十分だ」

 

聞き込みに対してロイドは礼を言い、部屋から去ろうとしたが

 

「まて、そこの二人」

 

すると、突然ガルシアがランディとミッチェルを呼び止めた。ランディは嫌そうに振り返り、ミッチェルは無表情であった

 

「そっちの無愛想なの……お前、帰り(・・)だな?」

 

帰り……それが戦場から生きて帰ってきたと言う意味であるのは理解でき、ミッチェルは肯定も否定もせず、ポーカーフェイスのままであった

 

「みりゃわかる。俺が蹴りいれた時も一人無表情で腰浮かしてんだ、ありゃ修羅場潜ってなきゃできねぇことだ」

 

ミッチェルがすぐに動き出せるよう腰を浮かしたのに気付いており、ガルシアの威圧を平然として受け止めたミッチェルが普通の警察官でないと見抜いたのだ

 

「なんで、てめぇみてぇな奴が警察にいるかしらねぇが……家にこねぇか?今なら給金はずんで雇ってやる」

 

ガルシアはミッチェルにルバーチェに入るよう誘う。ミッチェルの実力を見抜いたガルシアは黒月との抗争での戦力として欲しかったのだろう……だが

 

「……断る」

 

首を縦に振るはずがなかった。ミッチェルは祖国に忠誠を誓う軍人であり、ロイド達の仲間であると既に選んでいた。人を食い物にする外道の下につくなんてのは選択肢にすら存在していなかった

 

「だろうな……そっちの赤毛……どこかで見たような……いや……そんな筈は……」

 

ミッチェルの返答を予想していたガルシアは笑いながら答え、ランディの方を見ると、何かを思い出しそうに頭を捻っていた

 

「おいおい、勘弁してくれよ。グラマーな姉ちゃんならともかく、オッサンに言い寄られる趣味はねぇぞ?」

 

相変わらずの軽口を溜息つきながら言うと

 

「……フン、まぁいいだろ。目障りだ、とっとと失せろ」

 

興味が失せたのか、目の前から消えるようガルシアが言う。ランディが一言いってから去り、それにミッチェルも続く。ルバーチェ商会を出て、そのまま振り返らずに進んでいく

 

「……参ったな」

 

重要な証言が聞けなかったのか、ロイドが困った表情をしていた

 

「完全に子供扱いでしたね」

 

ティオも溜め息をつきながら言うが、その手はミッチェルの服を掴んでいた。だが、ガルシアの言うことはハッタリじゃなく、まともにやり合ったら歯が立たないとランディが言う

 

「……」

 

だがエリィはルバーチェ商会の方をじっと見ており、ロイドがどうしたのかと聞くと

 

「いえ、何でもないわ。それより、これからどうするの?どうやらルバーチェには何か心当たりがあるみたいだけど」

 

心当たりとは『銀』と言う名を出した時にガルシアが反応したのだと言う。それは確かに心当たりがあると言えた。だが、ロイドは今回の事件にルバーチェは関わっていないと言う。その説明を求めると

 

「確かに気づいたんだと思う。恐らく、その気づいたのは……差出人の名前、これに反応したんだと思う」

 

脅迫状を取出し、そこに書かれた差出人の名前『銀』を指す

 

「この人物が、ルバーチェの関係者という可能性は無いのかしら?」

 

確かに『銀』がルバーチェの構成員かヒットマンの可能性は十分あった、だが

 

「いや、関係があるなとしたら、あの若頭の態度はおかしい。まるで関係が無いことを最初から確信しているような……」

 

なにせ声を出してその部分を注目してたからな、とランディが言う。ガルシアの態度も無関係である感じであった。ならルバーチェと無関係であり、彼らが強く意識している存在……があると言うことになる

 

「ならイアン先生に相談してみるはどうかしら?」

 

この手の話しに詳しいイアンに相談してみようとエリィは言う。グレイスにも相談してみたい所であったが、彼女に話すと大々的に報道するので却下であった

 

「他にも心当たりがあるなら当たってみよう……もしかしたら、思いがけない情報が手に入るかもしれない」

 

次に向かう場所も決めて、早速行動に移そうとする

 

「そうね……ふふ……」

 

するとエリィが笑みを浮かべていた。それに気づいたロイドが

 

「どうかしたのか?」

 

不思議そうに尋ねるが

 

「ううん、何でもないわ。それでは早速、聞き込みを始めましょう」

 

そういい、エリィは路地を進んでいく、ロイド達が不思議に思いながらも追いかけて行った

 


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