【凍結中】亡霊の軌跡   作:機甲の拳を突き上げる

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9話 魔獣事件

黒服の捕縛後、黒服達がルバーチェを敵に回すと後悔するぞ等と、ほざいているが全て無視し、ミッチェルが黒服4人に手錠をかける

 

その姿をグレイスが写真を取り、A級遊撃士であるアリオスが今回の出来事に介入すると言うと黒服達は震え上がる。グレイスがこの場から去る様に言うが、それをミッチェルが許さなかった

 

目の前の4人組が上と繋がりの深い組織の構成員であるのは知っている。だが、それ故にこの場で現行犯を見逃す理由にはならない。黒服達が捕まっても直ぐに保釈されるから無駄だと言うが

 

「なら、その度にブタ箱にぶち込んでやる。保釈するにも多額の金がかかる、それだけの価値がお前達にあるのか?」

 

そう言われると黒服達が冷や汗を流し身震いする。今回の事件は独断先行で行い、腰抜けと言われ、更に出来立ての部署と新人に捕えられたのだ。これはルバーチェの看板に傷をつけることになるのは黒服達にも理解でき、そんな自分達に保釈金を払ってくれるか不明であったのだ

 

怯える黒服達を無視し、警察本部まで連行しようとするが、グレイスがミッチェルに話しかける

 

「あなた、それがどういう意味か分かってるの?ルバーチェに喧嘩を売ることになるわよ?」

 

そういうが、ミッチェルが涼しい顔をしながら

 

「それがなんだ、私達は警察だ。現行犯が目の前で逃げるのを傍観して何が警察だ。それに、相手も大きく出れないのはお前も分かるはずだろ?」

 

そう言うと、グレイスも言葉に詰まる。この場でルバーチェの構成員が逮捕された姿を多くの目撃者がおり、それにルバーチェが喧嘩を売るとなると『腰抜けの警察に捕まえられた間抜けな組織』と汚名を着ることになる。それは、なりよりも面子が大事なマフィアが、しかも対抗戦力が現れた現状で警察の新人相手に汚名を被る覚悟でくるとは到底思えなかった

 

何も言えないグレイスを見た後に、ロイドとランディと共に黒服達を連行し、エリィとティオも同じく警察本部まで護衛と言う役割でついてきた。その時のロイドの表情は晴れ晴れしかった

 

本部まで連行し、詳細をセルゲイに報告すると驚いた顔をして覚悟があるのかと尋ねられる。それは、ルバーチェを敵に回す覚悟を……それにロイド達は頷く。ミッチェルが言った警察としての信念を聞いて、見て、あるべき姿を見出したのだ。そう言うとセルゲイは笑みを浮かべ

 

「よくやった、初めてにしては上出来だ」

 

と褒めたのだ。その翌日、特別任務があると本部の副局長室へと赴いていた。部屋の中に入ると、正面の椅子に狐顔の副局長がいたが、そこに2人の女性がいた

 

「げげっ!」

 

その姿を見たランディが声を上げて驚きながら

 

「あら、ご挨拶ねランディ・オルランド。なにが『げげっ』なのかしら?」

 

眼鏡をかけた女性がランディの方を見ながら言う。制服から彼女達が警備隊の人間であるとわかる

 

「い、いや~……少し意表を突かれたっていうか」

 

バツの悪そうな顔をしながら言い訳をするランディ。その姿にティオがジト目しながらやましい事がありそうだと言う。すると、副局長が咳払いし眼鏡の女性は警備隊の副指令であるソーニャ二佐だという

 

「(二佐……中佐クラスか。呼び方は日本の自衛隊と同じとは奇妙なこともあるものだ)」

 

階級の呼び方が元の世界での同盟国と同じことに奇妙な縁があるなとミッチェルが思っていると、副局長が今回の特別任務はソーニャ副指令からの依頼であると言うのだ

 

「改めて、クロスベル警備隊の副指令を務めているソーニャ・ベルツよ。今日は貴方たち『特務支援課』の力を借りに参上したわ」

 

自己紹介を終え、任務の概要を説明し始める。その内容は魔獣の被害調査であった。なんでも一月の間に自治州各地で特定の魔獣による被害がでていると言うのだ。その調査の手伝いを依頼してきたのだ

 

「既に其方で調査をされているはずでは?一月もあれば捜査も進展しており、我々の協力は不要だと思うのですが?」

 

ミッチェルが依頼をしてきた理由を尋ねる。少なくとも相手はクロスベル市外の守りを担当している組織であり、こういう調査は既に進んでいるはずだと聞くと

 

「それが大アリなのよ。普通の魔獣被害というには、どうも不可解なことが多すぎてね。ウチの調査だけでは手詰まりになってきているのよ」

 

副指令程の人物が言うのだから、よほどの想定外な事態であるとミッチェル達は思っていた。ロイドが調査の詳しい内容を尋ねると副指令が隣にいた副官らしき女性隊員に指示を出し、調査報告書を受け取った。副指令が言うには報告書だけを見て調査に入って欲しいと言うのだ、変な先入観を無しに調べて欲しいとのことで。そしてその場から去ろうとしたが

 

「少し、質問をよろしいですか?」

 

手を挙げてミッチェルが副指令に質問をする。それに副指令が頷くと

 

「特に規定を言わない所を見ると、こちらの自由にやらせて頂いても構わないということですね?」

 

ミッチェルが言うには好きなように動いてもいいのかと尋ねると

 

「もちろん、そちらの好きなように調査してちょうだい」

 

二つ返事で許可を言い、ミッチェルも縛りがない分やりやすくなると考えた。そして部屋から去る時に副官のノエルがロイド達に敬礼をした時にミッチェルが反射的に敬礼を返した。これは長年の軍人生活での反応であった

 

ビルに戻り、調査報告書を見ると、魔獣は狼型の魔獣で被害箇所は三ヶ所であった。一つは自治州北東にあるアルモリカ村で発生日時は3週間前の深夜であり、被害は農作物および家畜にとのこと。二つ目は南部にある聖ウルスラ医科大学で発生日時は1週間前の深夜、被害は研修員が負傷したとのこと。最後は北西にある鉱山町マインツで発生日時は2日前の夜10時頃、被害は鉱員の負傷と採掘機械の破損とのことであった

 

場所もバラバラの所で被害が起きているが、魔獣は狼型と特定されており、同一の魔獣の可能性もあった。しかし、付近の調査をおこなっていた警備隊は魔獣の姿を確認していなかった。警察よりも狩人の仕事ではと思っていると

 

「……『捜査』という観点から、この魔獣被害を調べるんだったら何かポイントになるんじゃないかな?例えば事件で考えると『犯人』は誰だろうか?」

 

魔獣被害を捜査として見ていき、犯人がだれかと尋ねると

 

「そりゃ狼型の魔獣だろ」

 

ランディが当たり前のように言うと

 

「じゃあ、その『犯人』の『プロフィール』と『動機』はついてはどうだろう?」

 

そう聞かれる、報告書にそれを記載した所が見当たらないと気付く

 

「知能が高い魔獣なら、普通は人里には近づかないはず。飢えている動機だとすると病院の被害報告が不可解すぎる。だったら、それを説明できる何らかの『真実』があるんじゃないか?」

 

そのロイドの説明にランディ達が関心の声を出す。流石は捜査官の資格を持っているだけあって、鋭い洞察力で事件の観点を捉えていく姿に、本来自分よりも一回り以上歳下のロイドに内心で称賛するミッチェル

 

「とにかく被害にあった場所で被害者の人達に話を聞いてみよう。少なくとも俺たちのやり方で、この調書を補完する事くらいは最低限できるはずだ」

 

捜査方針も決まり、最初はアルモリア村へと向かうことを決めた。その為の準備の為、ロイド達は武器屋へと足を運んだ。前回の事件解決や支援要請をこなしたことで報酬と臨時ボーナスを貰い、装備強化をすることにしたのだ

 

「スコットさんは何を買うのですか?」

 

既に買うものを終えたティオがミッチェルを見上げながら聞く。ロイド達はどの武器にするか迷っている様子であった

 

「今回はアーマーと各種グレネードを買う」

 

そういうと、店の奥から店長がお目当ての品をカウンターに置く

 

「ソフトアーマーに、グレネードにスタン、スモークを各3つずつだ。あと、これはおまけだ」

 

ジロンドはグレネードを一つおまけしてくれた。各種グレネードをポーチに仕舞い込み、ソフトアーマーを着て動きを確かめる。軽くて丈夫で防弾できるソフトアーマーは動きまわるミッチェルにとってはありがたい代物だった

 

「問題ないな……代金だ」

 

提示された分の金を払うと

 

「いま、ある銃を仕入れているところなんだが、お前もきっと気に入ると思うぞ」

 

そうジロンドが言い、ミッチェルもどんな銃なのかと少し期待した。今朝にセルゲイから戦術オーブメントであるエニグマを受け取っており、試すのも楽しみであった

 

市民からの支援要請を片付けて、いざアルモリカ村へと向かう。村まではバスが出ており、それに乗ろうとしたのだが、寸前のところでバスが行ってしまった

 

「次のバスは2時間後ですね」

 

ティオが時刻表を見て言うと、そんなに待たなくてはならないのかとランディが項垂れる。するとティオが歩けばと提案する。村までは徒歩で1時間半の距離なのでバスを待つよりも早く着くというのだが

 

「……本当にいいのか?」

 

ミッチェルが珍しく不安そうに聞く。ティオもエリィも散歩かハイキング気分でいけると思っており、それに気づいたロイドもランディも不安な様子であった

 

「ふふ、ちょっとだけ楽しみね。こんなことならお弁当でも作ってきたらよかったかしら」

 

「……いいですね。まぁ、お昼前には村に到着できるとはずですから、ランチは向こうで頂けばいいかと」

 

などと楽しそうに会話している様子を見ていると、不安に思えてきてもしかたなかった。戦闘をこなしながら1時間半も歩くとなると並の体力では厳しいのだ。ランディやロイドは訓練で慣れており、ミッチェルも実践と鍛錬で問題なかったが女性の二人は明らかに慣れてはいない様子なのだ

 

「……なるべく私達で彼女等をカバーするぞ」

 

ため息を付きながらミッチェルが言うと、同じ表情なランディとロイドもそれに同意した。道を進み始めると、野良の魔獣が徘徊しており戦闘になり

 

「エニグマ、起動」

 

ミッチェルがエニグマを使用する初の実戦を行う。使うのは火の魔法で赤いクオーツに触れると、足元に魔法陣が現れる。前衛でロイドとランディが時間稼ぎしている間にアーツの発動準備を終わらせると

 

「はっ!」

 

掛け声と共に手を突き出す、すると掌に炎が集まり球体となって敵に自動で飛んでいく。目覚めた時に戦った卵の殻に入った蛇へと飛んでいき、一撃で葬った

 

「ふむ……」

 

その威力は申し分ないのだが、発動までに時間がかかりすぎるのと思った以上にゲージを持っていかれたのを考えるにサポート程度に使用するのが一番であると判断する。そもそもミッチェルのポジションは遊撃であり、前衛でも後衛でも務められる彼が時間のかかる攻撃はよろしくないとも考えていたのだ

 

「初めての使用でこれは十分だと思います」

 

エニグマのレクチャーをしていたティオが褒めるが、これから先はエニグマを補助に回すと決めていた。身体能力の上昇ができる、これはアーツを使わなくても強力な武器であるのだ

 

歩き始めて45分程経ち、丁度中間地点に差し掛かった時にミッチェル達が振り替えると

 

「……これは……思った以上に……大変だったわね」

 

戦闘をこなしながらの進軍で相当体力が消費されているのか、心底疲れた表情をエリィがしており

 

「……えぇ……少々計算外でした」

 

ティオも同様にバテており、歩くペースが落ちていた。ここで一旦休憩にするかとロイドが提案するが、二人は頑張って歩くといい

 

「苦しいなら背負おうか?」

 

殆ど汗らしい物をかかずに前方で警戒しながら歩いていたミッチェルがティオに提案するも

 

「遠慮しておきます……そこまで子供ではありません」

 

荒い息をしながらも、これを拒否する。そこまでのガッツがあれば、まだ大丈夫だと判断し、前方の警戒をロイドにお願いして後方の警戒をつきながらエリィ達の補助を担当した

 

襲い掛かってくる魔獣を蹴散らしながら古道を進んでいく。既にヘロヘロな二人が戦力にならないのは承知な三人が連携して進んでいると、目の前に休憩所があった。既に喋るのすら辛そうな二人に苦笑いしながらも休憩をすることになった

 

「ふぅ……ひと心地ついた気分ね」

 

出発する前に老夫婦に貰ったレモネードを飲みながら心地よく吹く風に心と体を休ませていた。すぐ傍に自動販売機があったが、その使い方を知らないロイド達にティオが使い方を説明している姿を見ながら自動販売機が普及し始めてるとのことに元の世界の祖国をミッチェルは思い浮かべていた

 

休憩が終わり、アルモリカ村に到着したロイド達は早速村長のいる家へと向かう。中にお邪魔させてもらうと、恐らく商人であろう紫髪の男性が特産品の蜂蜜について話していた

 

「(ん?)」

 

話し終え、ロイド達の横を通り過ぎる男性をミッチェルはある人物を思い浮かべた

 

「(レン?彼女も髪が紫色だったな)」

 

あの研究所でティオと共に救出したもう一人の少女レン。外に連れ出した直ぐに正体不明の連中に攫われ、どこで何をしているのか心配であるが、今は目の前の任務に集中する

 

トルタ村長から事件の内容を事情聴収した所、3週間前の新月の夜に魔獣の群れが農作物を荒らしていったと言う。目撃者も村人全員が寝てったことで一人もおらず、手掛かりが地面にあった獣の足跡であると言うのだ

 

だが、その被害を被った割に村は平和そのものであった。その理由は、魔獣の群れに襲われたのだが被害が少なく、被害総額も予想以上に少なかったのだ。そこに先ほどの貿易商が高値で取引してくれたのもあり、被害は帳消しと言える程だった

 

「それに……今のクロスベルの状況を考えれば、この程度の被害はむしろ軽いかもしれん」

 

村長の言葉にロイド達が不思議に思うと

 

「おっと……これは余計な事を言ったかの、スマンスマン忘れてくれ」

 

詳細を言わずにはぐらかすが、そこまで意味深な事を言われたら聞かずには居られなかった。村長が言いかけたのは神話の話で、『神狼』と言う白い毛並を持った狼の話であった。昔クロスベルに住んでいたとされ、只の魔獣ではなく女神が遣わした聖獣だと言うのだ。昔から血で血を洗う戦に巻き込まれていたクロスベルで無力な人たちを気紛れで助けてきたと言われ、今回の事件はその神狼が何かの警鐘を鳴らしに現れたのかもしれないと言う

 

そんな話を聞かせてくれた村長に礼を言い、家を後にした。他の家や宿に泊まってる人達に話を聞きながらロイドは先ほどの神話にヒントがあるのかもしれないと考えていた

 

「次の時刻は……30分後か」

 

バスの時刻表を見ながらロイドが言う。村の聞き込みをするも、手掛かりは狼型魔獣の足跡と、その魔獣がこの近辺では見られない種類であるというぐらいであった。帰りは歩きでない事にエリィとティオが一安心した時

 

「え?」

 

突然ティオが振り向き、辺りを見回した

 

「どうした?」

 

ミッチェルがM14の安全装置を外し、辺りを警戒しながらティオに尋ねる

 

「いえ……何か遠くで聞こえた気がして」

 

不審な表情をしながらティオが言うと、ミッチェルがポーチから双眼鏡を取り出して見回す

 

「センサーを最大にしてみます、静かにしてください……アクセス」

 

ティオが杖を掲げると、足元に魔法陣が現れ、杖の先端と頭のカチューシャが赤く光る。それから数秒後、索敵を終えたティオが杖を下した

 

「……すみません。気のせいだったみたいです。」

 

謝るように言うティオに

 

「聞こえたのは何だったんだ?あと、索敵した範囲の詳細を頼む」

 

気にする様子もなく、聞こえたモノ等の詳細を尋ねるミッチェル

 

「それが……何かの遠吠えだった気がします。索敵した範囲は50セルジュです」

 

50セルジュ……メートル単位に戻すと5㎞である。その範囲でいないと言うことは探しに行っても効果を得られないとミッチェルは思った。例の狼型魔獣かとロイド達と共に考えていると

 

「……あの、わたしが聞き間違ったって思わないのですか?」

 

突然ティオがそんな事を聞いてきて、エリィが何故かと聞くと、人に聞こえない音が聞こえて嘘だと思わないのかと言うのだ

 

「人に耳にも精度の違いがある、この状況では何かが遠吠えをした可能性があると考えておくべきだ。それに……ティオのことは信頼している、嘘をつくとは思えない」

 

さも当たり前のようにミッチェルが言う。この状況では例え聞き間違いであろうとも、本当は遠吠えをしていた可能性があるのだ。だが、ティオはそれではなく

 

「ッ!」

 

ミッチェル達に背を向け、手で顔を覆っていた。ミッチェルが言った信頼しているという言葉が思いのほか嬉しかったのか口元がニヤけていた

 

「(反則です……真顔であんなこと言うなんて)」

 

真剣な表情が後押ししたのもあり、ティオの顔と頭は茹っていた。そんなこと露知らずのミッチェルやロイドにランディと言った男性陣は首を傾げたが、エリィは何となく察しがついていた

 

「おや?皆さんどうされましたか?」

 

すると、後ろから紫髪の貿易商……ハロルド・ヘイワースであった。息子と妻に土産を買ってクロスベルに戻る所だと言うのだ

 

「(息子のみ……となると、レンとは関係がないのか……)」

 

レンとの面影が見えるハロルドに聞こうかと思ったのだが、彼の口から娘の存在が出なかった所で他人の空似であるとミッチェルは判断した

 

「人数は5人か……ならギリギリ大丈夫かな」

 

ロイドからバスを待っているのを聞いて、ハロルドは自家用車があるから送っていくと言うのだ。まさに渡りに船、ハロルドのご厚意にロイド達は甘えることにした

 

「すいません、わざわざ送ってもらって」

 

車内でロイドが再び礼を口にする。自動車と言えば庶民の憧れの的であり、今乗ってる車の手に入りやすい車種とはいえ、値段は80万ミラもするほどであった

 

「一応、貿易商としての仕事の道具でもありますから。バスだと時間の都合的にどうしてもとなりまして」

 

笑いながら話すが、エリィの家族に早く会いたいという指摘に図星をつかれ、苦笑いする。

 

「いわゆるマイホームパパですね」

 

家族への愛情が深い、いいお父さんであるとティオが言うが

 

「いやぁ……とんでもない。仕事の都合上、どうしても家族に寂しい思いをさせてしまってまして。それに……私たちは幸せでなくてはなりません」

 

ふと先ほどの笑顔から辛い表情をしたのをミッチェルは見逃さなかった。街道を車が通り過ぎると、森の中から白い毛並の狼が現れ、車の方を見ると、この場を去った

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

車で送ってもらったのに例を言い、次の医科大学に向かうべくバス亭に移動しようとした。だが、戦闘で消費したエネルギーやグレネードの補充をミッチェルが提案し、先に武器屋に向かう

 

「お、お前達か。いいタイミングだ」

 

ミッチェル達の姿をみたジロンドが口に笑みを浮かべて、カウンターの下からあるものを取り出した

 

「発注していた品が今とどいてな。お前さんなら気に入るはずだ」

 

カウンターに置いた銃を見てミッチェルが驚く

 

「これは……ショットガンか?」

 

ランディがその銃の形状から、この銃がショットガンであると気づく

 

「そうだ、こいつの名はイサカ社のフェザーライトだ。ラインフォルト社を差し置いて帝国軍に採用された名銃だ」

 

そう、目の前の銃はイサカ・M37であった。名前も同じであり、ミッチェルは驚きながらもその銃を手に取る。羽のように軽いのに、その見た目から頑丈さが分かる

 

「大型の魔獣を相手にするならコイツが必要さ。そのライフルも威力は高いが、大型の魔獣を吹き飛ばすことはできない。だが、そいつでスラッグにすれば動きを止めるどころか一撃でノックバックできるぜ」

 

ジロンドの説明ではセレクターで散弾と単発弾(スラッグ)の二つに切り替えができると言うのだ。試射をしてみても性能と威力共に申し分ないが、本音ではフルオートで撃てる物が欲しい所であった

 

「どうだ?」

 

自信満々の表情であるジロンドに銃を買うというと嬉しそうにカートリッジを用意し始める。ついでにカートリッジ搭載可能なスリングも購入して店を後にした

 

バス停へと到着し、10分後に到着であると時刻表に書いてあり、ロイドの知り合いの美人なナースが務めているとのことでランディが楽しみにし、それをエリィがジト目で辛辣な事を言い、巻き込まれたロイドも焦る

 

「ティオ、どうかしたのか?」

 

明らかに暗い表情をしていたティオにミッチェルが尋ねると

 

「いえ……少し病院とかが苦手で。消毒液の匂いとか注射がちょっと……」

 

それに気づいたエリィが心配そうに残るかと聞くが、ティオはそれを断り、共に行くという。それでバスがくるまで待っているのだが

 

「……遅いです」

 

ティオが不満を口にするほど到着が遅れているのだ、列は長蛇となり、他の利用者も不満を口にする者もいた

 

「30分も経過しているのに来ないのは少しおかしいわね」

 

エリィも時刻から大幅に遅れているバスにおかしいと思っていると、市の職員がやってきた。職員から話を聞くと、どうも道の途中でバスとの通信が途絶えてしまったのだと言うのだ。それにロイド達は自分達が警察の人間であると言い、バスの状況を確かめに行くと言うのだ

 

大学病院への街道を突き進んでいくロイド達。無論、街道には魔獣が徘徊して襲ってくるのだが、先頭にはミッチェルがフェザーライトを構えて吹き飛ばしていく。散弾であるが、自分から近づいてくる魔獣に至近距離で散弾を叩き込み、一撃で排除していく。急いでバスのいる場所まで行くと最悪の展開であった

 

「な、なんでこんな時に魔獣が!」

 

バスの運転手であろう人物がバスの目の前で中型ほどの魔獣二体に囲まれていた。 運転手は女神に祈った所で

 

「バスの中に入れ!」

 

天の助けか、武装した集団が表れ、魔獣の関心もそちらに向く

 

「警察の者です!撃退しますのでバスの中に!」

 

ロイドが簡素に説明し、運転手もバスの中に逃げて戦闘が開始される

 

「ロイドとランディは片方を足止めしろ、エリィは二人の援護、ティオはアーツの準備をして私の援護だ」

 

目の前の魔獣は人の倍以上の身長がある猿型の魔獣で、見た目からタフさが分かる。ミッチェルが即座に指示を出すと全員が迷わず指示に従う。ランディがハルバードを生かした攻撃とロイドのトンファーを使用した防御で魔獣を追い詰め、エリィの的確な射撃で魔獣に反撃の余裕を与えない

 

一方ミッチェルの方では

 

「グギャァァァ!」

 

悲鳴と共に数歩後退する魔獣。ミッチェルはフェザーライトをスラッグにセレクターを変えて、顔に一発撃ち込む。弾が大きく、威力も大口径ライフル並みの威力を発揮するが、弾速は遅くて距離が開くと威力が大幅に落ちてしまい、近距離で叩き込む必要があった。だが、ミッチェルは元の世界から至近距離で銃弾を叩き込む訓練と実践をこなしている

 

「ティオ、補助が終わり次第、攻撃に移り足止めしろ」

 

怯んでいる内にティオに指示を出すと

 

「分かりました、攻撃にシフトします」

 

ティオは魔獣への攻撃をミッチェルに一任し、発動できる補助アーツを全部ミッチェルに付与していた。そのミッチェルが攻撃に移れと言い、その指示通り攻撃アーツの準備に入る

 

「ガアアァァァァ!」

 

咆哮と共にミッチェルへと突撃をしてくる魔獣だが、一発、二発、三発とスラッグ弾を容赦なく顔に撃ち込んでいく。最初に一発で顔が弱点であると気づいたミッチェルは

 

「狙いは顔に集中しろ、そこが弱点だ」

 

直ぐに隣でもう一体と戦っているロイド達に弱点の情報を言うと

 

「オーケー!顔が弱点だな!」

 

ランディがスタンハルバートを握り締め、魔獣へと突撃する。魔獣は振りかぶって拳をランディ目掛けて振り下ろすが、それをロイドがトンファーで凌ぐ。その隙にランディが飛び上がり

 

「おらっ!」

 

魔獣の顔にパワースマッシュを叩き込んだ。その一撃に魔獣を怯み

 

「そこっ!」

 

追撃と言わんばかりにエリィが3点バーストで魔獣の顔に三発撃ち込み、たまらず魔獣は仰向けに転倒してしまった。その状況は明らかにロイド達の方が優勢であり

 

「ティオ、タイミングを合わせろ」

 

ミッチェルは攻撃する寸前である魔獣の動きを捉えながら言い、拳を振り下ろすと同時に転がって回避する。力任せの攻撃をする魔獣は隙が大きく、特に攻撃後は完全に無防備であり

 

「そこですっ!」

 

ティオが攻撃アーツ・アイスハンマーを魔獣に食らわせる。無防備な所に中級アーツを食らった魔獣が片膝を付くと、追撃にミッチェルがゼロダークを抜き、魔獣に突き立て電流を最大で流す

 

「グギャギャギャギャ!」

 

その電流で悲鳴も痺れながら上げて、仰向けに倒れた。ミッチェルはフェザーライトのカートリッジを交換し、コッキングする。痺れて動けない魔獣を踏みつけ、至近距離で顔に狙いをつけて全段発砲。カートリッジ全部のエネルギーを使って撃ち込み、エネルギーが無くなると魔獣も死に絶え、体が消え去った

 

「そっちも終わったか、お疲れさん」

 

再びカートリッジを再装填していると、もう一体の魔獣を倒したランディが肩にハルバードを担いでいた。ロイドとエリィの方を見るが、怪我をした様子ではなかった。それに一安心すると、ランディが拳を突き出していた。それにミッチェルは口元に笑みを浮かべ、拳を突き合わせる

 

「怪我はないな?」

 

ロイド達の方へ行き改めて怪我が無いか聞くと

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

力強く答えるロイドにミッチェルが拳を突出し、ロイドは少し驚きながらも笑みを浮かべて突き合わせる。そこへランディが二人の肩に手を回し、魔獣撃破に喜んでいた

 

「あんたら、よくやってくれたよ!いや~助かったよ、一時はどうなることかと……」

 

バスの運転手が降りてきて、感謝の言葉を言う。ロイドがバスの停止状態が魔獣の仕業かと聞くと、どうやらエンジントラブルのようであった。運転手がボンネットを開きエンジンの様子を確かめはじめ、時間がかかると溜息を吐くエリィであったが

 

「……全員構えろ」

 

ミッチェルがポンプアクションをして、フェザーライトを戦闘状態にする。何事かと思うと、目の前から先ほどの魔獣が三体現れたのだ

 

「ひいぃぃぃっ!」

 

運転手が悲鳴を上げ、ロイド達も武器を構える。怪我がないから楽勝であったのではなく、一体ずつ集中してアーツや道具を惜しみなく使ったからこそ無事に倒せたのだ。しかも次は三体であり拙い状況であった

 

「全員、目を塞げ!」

 

するとポーチからスタングレネードを取り出したミッチェルが魔獣達の方に投げる。それを見たロイド達や運転手は急いで目を塞いだ。閃光と爆音が魔獣を襲い、行動不能にさせる

 

「ランディ、ロイドと私で一体ずつ抑えるぞ!なるべく攻撃ではなく防御に専念して注意をそらせ!エリィとティオは援護に集中、対象は自分の判断でしろ!」

 

魔獣が動けないうちに素早く指示を出す。今持ってる全ての武器とロイド達の戦力で撃退する方法に思考を巡らしながら目の前の魔獣の挙動に注意するが

 

「うりゃあああっ!」

 

女性の掛け声と共に頭上から棒を持った女性が、魔獣の目の前に叩き付ける。すると、もう一人男性が表れて武器を構える

 

「いくわよヨシュア!」

 

「ああ!」

 

二人組が絶妙なコンビネーションで三体の魔獣に応戦していく。いや、応戦というよりは一方的な戦いであった。黒髪の男性はまるでニンジャのように分身して三体同時に攻撃し、女性もその体から考えられないほどの力で魔獣を叩きのめしていく。あっという間に魔獣を倒してしまい、ワンサイドゲームだった

 

「ふぅ、あなた達、だいじょ……」

 

スインテールの女性が振り向くと、そこにはフェザーライトを何時でも撃てる状態のミッチェルがいた。それに女性が不思議に思ったが、男性が双剣を構えて女性の前に立つ

 

「……ッ!貴方は!」

 

黒髪の男性がミッチェルを見て驚いた声と表情をした

 

「……いったい何者だ?」

 

目の前の2人の強さを見て、只者では無いのは分かるが、どこの者かわからない以上、警戒を怠る訳にはいかなかった

 

「初めまして!あたしはエステル、エステル・ブライトよ!遊撃士をやってるわ!」

 

明らかに警戒しているミッチェルに対して元気よく笑顔で答えるエステルの姿に、ミッチェルは呆気にとられた。それに男性も苦笑いしながら

 

「僕はヨシュアといいます。遊撃士協会・クロスベル支部に正式配属になったばかりです」

 

二人が遊撃士だと分かり、ミッチェルも銃を下げる

 

「すまない、何者か分からなくてな。私はミッチェル、クロスベル警察の者だ」

 

その後にロイド達が自己紹介と特務支援課の者であると言っていると、ヨシュアがミッチェルの方を向いており

 

「……どこかであったことがあるか?」

 

その視線に気づいたミッチェルもヨシュアに見覚えがあったが、思い出せなかったのだ

 

「いえ、恐らく初対面だと思います」

 

そう笑顔で答えるが、ミッチェルもヨシュアと言う名に聞き覚えあったが、当の本人はバスのエンジンの修理をすると言っていた。車の修理や飛行艇の操縦ができるスペックの高さにランディやティオは手も足もでない様子であった。一応ミッチェルもエンジンの回路などの車について独学で学んではいるが、この場で発揮できる程ではなかった

 

「そういえば……あなた達はどうしてここに?」

 

エステルはロイド達がここにいる理由を聞くと、先にある医科大学に用があるのだと言う。すると

 

「あ、それじゃあこの場は、あたし達が引き受けるわよ。用事があるなら先に行った方がいいんじゃない?」

 

そう提案するが、エリィやランディは先に来た手前、ここを後にするのは気の引ける様子であったが

 

「……折角だからお願いしよう。バスのことお願いするよ」

 

ロイドはエステルとヨシュアにバスの事を頼んだ。これはミッチェルも同じ考えで、自分たちがここにいても役にたたないなら先に病院に向かうべきだと考えていた

 

「うん!」

 

まるで太陽のような明るい笑みで返事をするエステル。ロイド達は先にある病院へと足を進めた

 




さて今回はポンプアクションの銃を出しましたが……これから先にポンプアクションのショットガンだせるかな……オートに代わってしまうしか思えないっす

次に出すのはアレだしな……とにかくマイペースに書いていきます

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