魔法科高校の詠使い   作:オールフリー

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遅くなりました。


襲撃

 最初は、意味が分からなかった。

 瞬きしても変わらない光景に、夢だと思った。

 後に、バスの前方に座っていた三年生の渡辺摩利は警察からの事情聴取にそう答えた。突如として起こった事態、鈍く光る数台の重機関銃の銃口がこちらに対して真正面を向いているあの光景は、そう簡単に忘れられそうもない。

 

「全員頭を伏せろォォォ!!!」

 

 前方に回りこんだトラックの荷台部分。そこに設置されていたM2重機関銃の存在を認め摩利が叫ぶや否や、一校選手陣に対して一直線に、何十発もの銃弾の雨が一斉に降り注いだ。真横に降り出す雨というのは珍しいものだが、その勢いはスコールに匹敵するほど激しい。バケツをひっくり返したような雨の音と火薬を打ち出し空になった薬莢がカランカランと落ちていく音がミックスして周囲に響く。

 バスのフロント部分には当然強化ガラスが設置されているが、そんなもの飛来する何十発もの小さな鉄の塊には紙切れに等しい。一応バスの貸出の際IMAが一枚噛んでいたお陰でこのバスの強化ガラスには防弾ガラスに変えられていたが、刻印魔法によって貫通力を高められた銃弾の豪雨の前には完全に防ぎ切ることは出来ず、少しずつガラスはひび割れ、穴が空いていった。

 

「「「きゃあああああ!!!」」」」

「「「うぉおおおおおお」!?」」」

 

 バスの後方に座っていた生徒たちも、何が起こったのかを正確に理解する前に自身の命の危険が迫っていることだけは感じ取り、両手を頭の後ろに回し、体を丸めて座席を楯にするように体勢を変える。

 平穏だったバスの中に何発もの弾丸が飛び、跳弾し、窓ガラスを割り、生徒たちの肌を掠める。

 身を屈めて目を瞑り、銃雨が降り止むのを彼らは黙って待つ。魔法を使えばたかだか通常の機関銃の銃弾如き、魔法師にとっては恐れる必要のないものだ。その事をこのバスに乗っている生徒全員が知っている。が、情報としてその事実(ソレ)を知っている事と、その事実に基づいて実際に行動出来るかどうかは別問題。魔法の才能はあっても魔法師としてはまだ未熟な大半の一高生たちは何も出来ずにいた。

 けれども、この場合においては『何も出来なかった』ことが逆に功を奏したのだろう。突如として降ってきた鋼鉄の暴風雨は、降ってきた時と同様に突然止んだ。

 理由は単純明快。この緊急事態に即座に対応した者がいたからだ。──四葉冬夜と十文字克人である。

 彼らはバスの座席に身を隠した後、それぞれが独自の判断で魔法を放っていた。障壁魔法に優れている克人は、銃弾から全員の命を守るためにフロントガラスを目安に壁となる障壁魔法を展開。同じように魔法の発動速度、正確性に優れている冬夜は手首につけていた汎用型CADを操作し、分解魔法を行使。唸りを開けるM2機関銃その全てを、一瞬にして単なるの鉄の部品へと変化させた。

 ……魔法師としては未熟だったからこそ、銃撃を防ごうとパニック状態で魔法が不規則に投影される事態が避けられたのは不幸中の幸いだろう。冬夜と克人。二人の活躍により、怪我をした者はいたものの、大きなダメージもなく真横に降るゲリラ豪雨は去っていった。

 ……だがしかし。

 

「うぁああああ!!」

 

 運が悪かったのか、フロントガラスを貫通したいくつかの弾丸が、運転席に設置されていたコンピューターの基盤の一部を破壊。これによりバスの自動操縦が無効化され、バス自体が暴走を開始した。

 手動操作に切り替えようにも、運転席に座っているロボットも銃撃によって大破している。これまでの事件を考慮してIMAが手配したAIは、見るも無残なガラクタと化してハンドルに倒れ込んでしまった。運転手を欠いたバスは安定を失い、本車線から路側帯に出て、左側の壁面にぶつかりながら前に進んでいく。さらに最悪なことに破壊されたコンピューターがショートして発火。心休まる間もなく、ボンッ!という爆発音と共に自動操縦付近が爆発し、運転席付近に火の手が上がる。

 

「ううううう」

「…………ッ」

 

 ほのかも雫も恐怖を押し殺して事態が収まるのを待つ。その間にもバスはガリガリと嫌な音をたてながら前に進んでいく。

 このままだとマズイ。どうあっても自分たちは死ぬ。冷静な判断力を欠片でも残していた者がそう認識し、互いに声を掛け合おうと口を開いたその時だった。

 前方、機関銃を載せ自分たちを襲ってきたトラックが、自分達を追うように路側帯に侵入し、猛スピードでこちらに後退してくる景色が見えたのは。

 

「「「ッ─────!!!?」」」

 

 なぜそうなる。どうして()()()()?高速道路、真っ当に考えれば(機関銃で銃撃してきた時点で真っ当ではないのだが)この道路を通行している車は、真っ直ぐ前に進むか、サービスエリアなどに侵入するために左に曲がるかの二択しかない。路側帯とは言え高速道路上で後退することなど()()()()()()()()()()。なぜなら、高速道路でそんなことをすればどうなるのか子供にだって理解できる。

 あまりにも気狂(きちが)いな運転に周囲を運転していた自走車も一斉に乗り手に警告(アラート)を発して急ブレーキを掛ける。交通制御システムのお陰で追突事故という二次被害は防がれたものの、危険運転による混乱は避けられないだろう。第一、まだ一高側への脅威は過ぎ去っていない。

 さぁどうするか。あまりに不可解な運転の後、一瞬訪れた空白を過ぎた彼らは考える。けれど、言葉を交わす時間はもうない。万事休すか。

 

「会頭、反射魔法(リフレクター)の準備をお願いします!運転は俺が!!」

 

 否。こんな危険(ピンチ)を幾度も経験した冬夜がまだいる。今自身がやるべきことを想定し即決した彼の行動は早かった。席から飛び出してきた冬夜の言葉に応えて、克人も反射魔法の発動を準備する。この魔法を使えば、最低限生徒の安全は守れる。

 一方、矢継ぎ早に変わる状況下で席から飛び出した冬夜は手首の汎用型CADと腰に取り付けたホルスターから取り出した拳銃型CADと合わせて三つの魔法を同時に発動した。

 まず一つ。拳銃型CADで運転席の消火。火の手がなくなった運転席に佇む残骸を空間移動で退かしてから飛び込むように冬夜は座り、ハンドルを握って自動操縦から手動操作へ切り替える。

 二つ。右腕にある汎用型CADでショートしている基盤の制御。これは放出系魔法を使い、基盤に流れる電気を掌握。自身や新たな火災の火種にならないようにしつつ、三つ目の魔法に意識を集中させる。

 三つ。手早くCADを操作しこちらに向かって後退してくるトラックを移動魔法で制御する。本当は分解魔法で分子レベルにまで壊してしまうほうが確実で安全なのだが、なるべく証拠は残しておきたいしこのレベルの魔法制御は(冬夜にとっては)出来て当然なので、授業で使われた台車のときと同じようにトラックの暴走を抑える。

 

(後は少しずつ減速すれば……)

 

 幸い、バスのブレーキもハンドルも効きは十分だ。前のトラックもバスが停止したら司波にでも頼んで動かせなくさせればいい。

 助かった──冬夜がホッと一息吐くと同時、まるで見計らったように”次”がやって来た。

 

「危ない!」

 

 運転席に座る冬夜は、その叫びが誰が発したのか分からなかった。ただし視界の端。反対車線から何か大きなものが飛んできたのは確認できた。

 冬夜以外、スコールを避けるために座席で蹲っていた一高生は、皆反対車線側へ視線を向けていた。銃撃が止んで安心したのだろう。恐る恐る席から顔を出して一安心した彼らが、反対車線側に異変に気がついたのは偶然だった。

 何があったのは分からない。このバスよりも小さい、レジャー向けのオフロード車が傾いた状態で路面に火花を散らしているのが、命の危機から脱した安堵感を覚えた幾人かの目に映った。

 パンクか、脱輪か。どちらにしろ危険はないだろうと彼らは考えていた。高速道路(ハイウェイ)の対向車線は道路として別々に作られており、堅固なガード壁で仕切られている。対向車戦場の事故の影響を受けることは()()()()()()()。 

 

 そう、ありえないはずなのだ。常識的に考えて。

 突然銃火器によって攻撃を受けることも、まるでトラックが殺意を持ったかのようにこちらへ突撃してくるわけがない。普通に生活していて、そんな状況が起こるはずがない。いかについ先ほどまでそんな非日常的な経験をしたとしても、それは夢物語のようなはずで、もう終わったはずなのだ。

 だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんてこと──想像できるはずがない!

 

「四葉、止めろ!」

「くっ……!」

 

 冬夜はブレーキを最大まで踏んで無理やりバスとトラックを静止させようとする。謎のオフロード車は狙い済ましたかのようにトラックとバスの間に入ってくる。炎を上げながらこちらへ迫ってくるオフロード車。今から急ブレーキを掛けたところで間に合うか。

 

「吹っ飛べ!」

「消えろ!」

「止まって!」

「バカッ!止めろ!」

 

 それは悲鳴に近い静止だった。

 事故に次ぐ事故でパニックを起こさなかったのは褒められるべきなのかもしれない。けれど、この場においてその行動は悪手だった。恐怖心が正常な判断を鈍らせたのだろうか。三人の生徒が、それぞれ独自の判断で同じ情報体(エイドス)(ワゴン車)へ魔法を投影した。

 その結果どうなったか。

 三人の魔法が、それぞれ互いの魔法の効果を阻害し合いキャスト・ジャミングと同じようになってしまった。

 もはや、並大抵の魔法師がワゴン車に魔法式を投影しても正常な魔法効果を得られることは難しいだろう。それを可能にするには、投影された魔法式を圧倒する干渉力の持ち主でなければならない。

   今この場で、それを可能とする魔法師と言えば。

 

「十文字、やれるか!?」

「防御だけなら可能だが、消火までは無理だ」

 

 摩利は一瞬、絶望に囚われそうになった。

 干渉力、という点で十文字は三年生の中で随一の才能を持っている。その克人の言うことだ。恐らく間違いないだろう。

 しかしだからこそ、彼女は絶望しかけた。衝突と炎、その両方を防がなければ、自分たちだけではなくこの付近にいる他人にも危険が及ぶ。

 何か手はないのかと、摩利が考える前に運転席でハンドルを握っている冬夜が、大声を出して摩利たちの会話に加わった。

 

「オレが分解魔法で術式を破壊します!三人とも、今使った術式を──」

「待て四葉!いくらお前でも、この状況でさらに魔法を使うのは無茶だ!お前は運転に──」

「無茶でも『やる』しかないでしょう!」

 

 冬夜の無茶振りに摩利が声を荒らげる。ただでさえ冬夜はバスの運転やトラックの操作に意識や集中力を割いているのだ。ここに来てさらに『分解魔法』などという高等魔法を使えばどうなるか。いかに冬夜が四葉といえども厳しいだろう。そんなこと、冬夜自身も理解している。

 お互い、手がないのは分かっている。二人共、この状況での分解魔法の行使が難しいことも理解していた。しかしそれでも、全員を助けるにはこれしかないと分かっていた。

 しかしそこで、彼らの会話に加わる声があった。

 

「私が火を。冬夜さんは、運転に集中してください!」

 

 その時、凛とした声で立ち上がったのは、たよやかな美少女。消火を含む減速魔法を得意としている彼女は、既に魔法式の構築を終えている。

 摩利が頷き、冬夜がルームミラー越しにアイコンタクト。それで互いの意思を確認した若き魔法師の二人はそれぞれの役目を果たすために行動を開始する。

 

「全員何かに捕まってろ!」

 

 冬夜が急ブレーキと併用してトラックとバスの両方のタイヤ全てにに魔法を投影する。摩擦力が引き上げられてタイヤが耳障りな悲鳴をあげる。さらに冬夜はバスが横転しないようハンドルを握り操作する。

 強烈なGに晒されながらも克人や深雪は自身が止めるべき相手から目を逸らさない。バス中の大多数が急な転回に悲鳴をあげる中、魔法を行使して、意雪たちが転倒するのを抑えていた摩利は、一つだけ不安を抱えていた。

 確かに深雪はここにいるメンバーの中でも類稀なる干渉力を持つ。しかしこのサイオンの嵐の中、魔法を有効に使えるのか、と。

 しかし、その心配は結果的に無為に終わることになる。

 深雪が魔法を発動するその直前、迫り来る炎を纏った鋼の塊に対して、無秩序に発動していた魔法式が突如、一瞬で全てかき消された。

 

(なにっ!?)

 

 そして、まるでそれが起こると予期していたかのようなタイミングで深雪の魔法が発動。炎上した自動車を凍らせることもなく、常温へ冷却させることによって瞬時に消火を果たした。一切の無駄のない鮮やかな魔法。

 空中を回転していたワゴン車の火が収まる。その手際に摩利は思わず感嘆を漏らした。

 そして深雪の魔法に続いて反射魔法が展開される。 

 

「はぁっ!!!」

 

 十文字克人の障壁魔法が押し潰す。メキメキと、残骸になっている車が潰れる音を聞きながら摩利は猛スピードで飛来してきた眼前のオフロード車という脅威から意識を離す。

 けれど、まだ安心するのは早い。オフロード車との正面衝突は、深雪と克人の魔法によって一高(こちら)への被害のない形で去った。だがまだこのバスとトラックがまだ止まっていない。

 バスの運転席にはハンドルを握り、決死の表情で魔法の行使をしている冬夜の姿があった。

 

(ここで………っ!)

 

 ハンドルを握りながら、冬夜は魔法によって無理矢理前進させているトラックにも意識を向ける。実のところ、時速百キロのトラックを安全に、確実に停車させること自体はそう難しいことではない(冬夜にとってはだが)。要は学校の授業で出てきた台車と同じことをすればいいだけの話なのだから。

 けれど現実は学校の授業とは違う。冬夜に感覚から言えばバスの方は何とか止まるが、トラックの停止にはまだ距離が必要になる。必然的に、バスを止めてからトラックを止めるという形になっている。

 冬夜はブレーキを限界まで押してバスが一秒でも早く止まるように祈る。すると、祈りが天に通じたのか、バスの滑りが悪くなった。

 おそらく、誰かが魔法を行使してバスの停止に力を貸しているのだろう。おかげで本車線上を遮るように右にスピンしたものの、バスはすぐに止まった。冬夜はその誰かに心の中で感謝しつつ、トラックへ割く意識を多くする。

 トラックはまだ、冬夜の加速魔法によって前進している。ここから徐々にスピードを落とし、硬化魔法などでトラックそのものを動けなくしてしまえば良い。オフロード車は潰れ、バスが止まった今、冬夜はなんなくその作業をやり切り、一連の襲撃を終わらせる。

 

「ハッ、ハッ、はぁ……」

 

 運転席のイスにもたれ掛かって、冬夜は止まっていた呼吸を意識的に行う。どうやら無意識のうちに呼吸するすら忘れるほどに集中していたらしい。存在探知を使い、更なる追撃がないことを確かめてから、運転席から振り返って座席の方に顔を向けた。

 

「全員、無事か?」

「えぇ。なんとかね」

 

 緊張と恐怖から開放された他の生徒たちも冬夜と同じ表情をしている。その中で真由美が冬夜を顔を向けて回答する。

 

「ありがとうね冬夜君。あなたがいたおかげで誰も死なずに済んだわ」

「それは大げさですよ七草会長。十文字先輩がいなかったらこうは上手くいきませんでした。何とか二台とも上手く停止することが出来ましたが、失敗してたらズドン!でしたし」

「でも、見事なドライビングテクニックだったじゃない」

「いや、それもオレの魔法だけでは無理でした。あの時、バスに向けて、いや道路の摩擦力を上げる魔法を掛けたのは───市原先輩ですね?ありがとうございます。おかげで助かりました」

 

 頭を下げた冬夜に鈴音はニコッと微笑んで会釈で返す。車にしろバスにしろ、運動している物体が停止する際には摩擦力という力が大きな役目を果たしている。冬夜はバスのタイヤに対して減速魔法を行使し、停止させようとしていたが鈴音はバスの道のり上のコンクリートの摩擦力を上げることでバスが止まりやすくした。あの、誰しもが飛来してくるワゴン車に気を取られている時に足元を見据えて的確に講ずるべき手を講ずる。

 精度においては摩利たちを上回る鈴音の面目躍如たる活動で、冬夜たちは助かったのだ。

 

「うっそぉ………」

 

 オフロード車やトラックをを止めるのに夢中で、このバスを止める行動に気が付かなかった二年生の千代田花音は驚愕を隠そうともしなかった。生徒たちの中には、ほとんど誰も気が付かなかった鈴音の行動に目を見開いている者もいる。中にはあの運転中に鈴音の魔法行使に気が付く冬夜の才能にも末恐ろしいものを感じた者もいた。

 

「それに比べてお前は……」

「いたっ!摩利さん、いきなり何するんですかっ?」

 

 突然頭を叩かれて、花音が涙目で抗議の声を上げた。

 

「うるさいっ。文句を言える立場か、花音。森崎や北山が慌てて魔法を放って事態を悪化させたのは、まぁ、仕方ない。だが二年生のオマエが真っ先に引っ掻き回すとはどういう了見だ!」

「うぅ。でもあたしが一番早かったんです。まさか、他の人が重ね掛けしてくるなんて思わなかったんですよぉ」

 

 花音の言い訳に森崎と雫が恥ずかしそうに俯く。他にも居た堪らなげな顔を者も何人かいた。

 まぁ彼女の言い分も理解できなくもない。事実、銃火器を黙らせる際には冬夜と克人は勝手に動いていた。結果的に上手くいったので問題はないが、本当であればあの場合でも声を掛け合うことは大切なのである。

 

「なんでも早けりゃ良いってもんじゃない!もう少し状況をよく見ろ。ああいうときはまず、四葉みたいに声を掛け合って相克が起こらないようにするのが基本じゃないか。それに、相克が起きた時点で魔法を解除しなかったのは、冷静な判断力を失っていた証拠だ」

「………すみませんでした」

 

 シュンとしてしまった花音を見て、摩利はそれ以上責めようとはしなかった。

 ああは言ったが、あのような場面で冷静な判断力を保つことは場数を踏まなければ出来ない。冬夜や十師族に名を連ねている者は置いておいて、百家とはいえ一般人に近い花音にそこまで期待するのは酷だろう。

 

「まぁ、一先ず命が助かったんですしそれで良しとしましょうよ。とりあえず、全員荷物持って外に出ませんか?」

 

 運転席に座ったまま、冬夜は控えめに進言する。重大事故にならずホッとしている選手たちは頭上で「?」を浮かべている。おいおい、とトラックを固定している冬夜は内心で心配になってしまう。すっかり気が緩んでしまっている彼らを代表して真由美が冬夜に疑問をぶつけた。

 

「え、なんで?」

「いや、なんでって」

 

 真由美の疑問に、冬夜は中の基盤が見えている運転席のフロント部分を指差して

 

「今はオレが抑えてますけど、さっきの銃撃でこのバスの基盤ショートしちゃってるんで………。このバス、もう安全に運転出来ませんよ?」

『…………』

 

 選手陣は全員、無言で荷物をまとめ始めた。

 

 

 

 


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