魔法科高校の詠使い   作:オールフリー

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うぅ、調子悪い。スランプで何も書けない

早く次の章に行きたいぜ。

前回のあとがきでも言いましたが、ゴールデンウィーク中は執筆できないので少し間が空くかも知れません。楽しみにしている方には申し訳ありませんm(__)m

それでは、本編へどうぞ!


冬夜の企み

 翌日の昼休み。

 昨日由紀から聞いた話を真由美に伝えるためにも、冬夜は達也と一緒に生徒会室に来ていた。昨日のうちに伝えなかったのは、事が事なだけに自分でもきちんと調べた上で言うべきだと思ったからである。

 何時ぞやの昼食会とは違い、今回は自分だけが配膳機(ダイニングサーバー)の弁当を食べることになり(お弁当のおかずを交換するまで進展していたことに驚いた)周囲の状況を見てなんだか悲しくなってきたのを感じながら昼食会が始まった。

 しかし達也と冬夜が揃ってご飯を食べ終えた頃。冬夜と達也の二人はお互い稀に見る危機的状況に陥った。

 

「さて達也くん冬夜くん。君たちは昨日、女子の先輩をそれぞれ口説いていたという報告があるが、これは事実かな?」

「「まったくのデマであります。委員長」」

 

 摩利の言葉に一言一句全て同じ台詞を全く同時に言う従兄弟たち。片や非公式の戦略級魔法師、片や国際的に有名な夜色名詠士。こと戦闘においては絶対の能力を有する二人でも女性問題(スキャンダル)だけはどうしようもなかった。お弁当を食べ終えて良かった、と二人は思う。

 二人とも誤解を受けている理由に心当たりはあるのだが、二人とも同盟の勧誘を受けていただけで口説いていた訳ではない。誰が通報したのか知らないが、いい迷惑だ。

 

「ほお。デマというか二人とも。昨日達也くんは二年の壬生を、冬夜くんは柊をカフェテリアで顔を真っ赤に染め上げていたらしいが?」

「まったくの誤解ですよ委員長。オレは女を辱しめるような趣味は持ってません」

「そうですよ委員長。妹が真面目に仕事している最中に、兄であるオレがそんなふしだらな事をするわけがないでしょう」

 

 ここで曖昧に答えたらダメだと男としての危機を感じ取った二人はきっぱりと「NO!」と言い切る。しかし摩利は、それでもニヤニヤとした表情を止めることはなかった。

 なぜなら、報告という名の爆弾(ネタ)はまだまだ残っているのだから。

 そして摩利は、さらなる爆弾(ネタ)を冬夜に投下する。

 

「ふむ。もっともらしく二人とも言っているが……冬夜くん、聞けば君は勧誘期間中に幼馴染である北山雫さんと腕を組んでそれはもうバカップルよろしく仲良く歩いていたそうだが、なにか弁解の余地はあるか?」

「…………………………」

 

 返す言葉がないというのはこういう事を言うのだろう。確かに勧誘期間初日、雫と腕を組んで歩いていたのは事実だ。後にほのかから「バカップルみたいだったよ」とからかわれたこともある。こういう話は何をどう言っても泥沼にハマりそうで恐ろしい。冬夜は咄嗟にどう返せば良かったのか分からなかった。

 そして、言葉を返さなかった時点で冬夜の弁解はないと踏んだのかーー

 

「まぁ恐ろしい。きっと外国でも同じように女の子をオトしてきたんでしょうね。油断しているとこっちが喰われるわ(ヒソヒソ)」

「男は皆、狼と言いますしね。十分気を付けましょう(ヒソヒソ)」

「会長、市原先輩。そのわざとらしく話が聞こえるようにするのは止めてくれませんか?」

「これは雫とほのかに報告しないといけませんね」

「止めるんだ司波さん!今君がしようとしていることは、一人の人間の尊い命を奪うようなものだぞ!」

「二股をするような腐った男の命など、私の知ったことではありません」

「笑顔で死刑宣告したぞ・・・?」

「ふ、不純異性交遊はダメですよ?」

「中条先輩、そんな小動物みたいにオレを見て怖がらないでください。これでも結構傷ついているんですから!」

 

 一斉にそれぞれのやり方で冬夜をイジリ始めた(あずさだけはガチだが)。全員、「きゃー怖ーい」とわざとらしい態度をとって冬夜をいじめる。冬夜もなんとか弁解をしようと躍起になるが、その反応はむしろ悪手で先輩方の(主に真由美と摩利)嗜虐心を更にくすぐるだけだった。イジリはとどまることを知らず加速していく。

 

「アレに近づいちゃダメよあーちゃん。近づいて隙を見せたら最後、食べられちゃうわよ?」

「そのセリフ、純情な男の恋心をいじくっている会長だけには言われたくないです」

「ちょっと、それはどういう意味かしら冬夜くん!?」

 

 具体的に言うと、生徒会で時々見る服部副会長の恋心を弄んでいるように見えるイジリである。ここの部分だけは、素直に冬夜は服部に同情していた。あぁ、こういうのが悪い女なんだなぁ……と。

 

 というか、冷静に指摘すると狼の毛皮を被っていようが猫の皮を被っていようが、中身は化け子狐と化け子狸なのだから実際中身に大して違いはなかったりする。まぁ、そんなことを指摘できる人間はこの場にはいないのだが。

 

 子狐と子狸による醜い争いが始まったところで、誰も得する人間はいない。しかし、ここには血を同じく達也(子狐)がもう一匹いた。彼は腹黒く考える。

 

 ──このまま冬夜の話題で引っ張れば、自分の話題はスルーされるんじゃないだろうか?

 

 自分のことは棚にあげて、達也は身を守るために話題に便乗した。

 

「冬夜、男として二股はいかんだろう。『二兎追うものは一頭も得ず』って言葉知っているか?」

「だから誤解なんだって!つーか達也?それを言うならお前が風紀委員の見回りにかこつけてエリカとデートしてたの知ってるんだからな?途中で人気のない林の中にエリカを連れ込むのを見てるんだからな!」

「おい、誤解を招く発言をするな」

 

 身を守るどころか冷静な判断を失っていた冬夜から手痛いカウンターをくらってしまった。爆弾は爆弾でも核爆弾並みのスキャンダルを暴露された達也は、彼にしては珍しく動揺している。このままでは冬夜以上に厄介なことになるのを直感した彼はすぐさま弁解をしようと試みる。

 

 だが、それよりも早く。

 

「……寒ッ!」

 

 生徒会室が氷間地獄へと早変わりした。見間違いだろうか、太陽の光を室内へ取り込んでいた窓には結露が生じ、飲み物には氷が張っている。息をすると白い吐息になってしまうし、何よりさっきから寒気が止まらない。

 春から冬へ。局所的とは言え季節が逆戻りしてしまったようだ。

 

「…………深雪?」

「はい、なんでしょうかお兄様?」

 

 潤滑油(オイル)が切れたロボットのようにぎこちなく達也が後ろを振り替えると、そこには見た目は聖母。中身は魔王な妹がいた。その見とれてしまうほど可憐な仏像のような笑顔(アルカティックスマイル)は、達也が見たなかでも最高頂に分類されるものだろう。……そのハイライトを失った瞳と、笑顔でも隠しきれない青筋さえなければ、良かったのに。

 あまりの恐怖に、達也だけでなく冬夜も顔が引きつってしまう。この表情、つい先日目撃したお怒り状態の四葉真夜そっくりだ。達也ほどではないが、冬夜も身をすくませていた。

 

「──待ってくれ深雪、お前は誤解している。オレは決して、お前の思っているようなことは、していない」

「ええ。分かっておりますお兄様。深雪の敬愛するお兄様は、友人と構内で破廉恥な行為をなさるような変態ではないと」

 

 浮気がばれた亭主(?)みたいに弁解を試みる達也。もうこの流れはバッドエンド直行なのは分かりきったことだが、それでも誤解を解こうと必死になるのを止められない。一刻も早く妹の機嫌を直さなければ精神的に死ぬことになる。

 しかし、『頬を赤らめた』程度だったら弁解が出来るものの、冬夜がうっかり口にした言葉はちょっとやそっとでは治らないほどに深雪の機嫌を損ねさせた。

 満面の笑顔のまま、表面上は楽しげな口調で、深雪はこう付け加える。

 

「ですので、勧誘期間初日に私が一生懸命働いている中、お兄様がエリカとどこでどんなことをしていたのか、事細かく深雪に教えて下さりますよね?」

 

 ◆◆◆◆◆

 

「……という事があったんです」

「なるほどね。生徒会がそこまで反感を持たれているとは思わなかったわ」

 

 冬から春へと生徒会室の気温が戻ったあたりで、冬夜は昨日の由紀から聞いた話をすべて摩利と真由美に聞かせることが出来た。二人とも同じように顔を曇らせている。同じ生徒会役員として鈴音やあずさまでもが困った表情をしていた。

 ちなみに、今現在この部屋に達也と深雪の姿はない。二人は今、風紀委員会本部にて取り調べの真っ最中だ。

 誰を取り調べているか?それをいう必要はないだろう。ただ一言言うならば、達也は犠牲になったのだ。

 

(すまん達也。お前の犠牲は無駄にしない)

 

 心の中で友人の冥福を祈りながら(本当に死んでいるわけではないが)冬夜は意識を真由美の方に戻した。

 

「実際、どうなんですかね。前も聞きましたが生徒会の選任基準は変えられないんですか?」

「出来なくはないでしょう。ですが、難しいと言わざるを得ません」

 

 鈴音がそう言う。生徒会の一科生限定の選任基準を変える方法は、年一回開かれる生徒総会で過半数以上の生徒の承認を得るしかない。しかし、一科生と二科生の比率がほぼ等しい現状では、承認を得るのは厳しいのだ。

 二科生の賛成はともかく、選民思想のある一科生は必ず反対するだろう。勧誘期間中に一科生を三十人ほどーーすなわち一科生の上限三百人の内一割に上るーー逮捕、拘束した一高では難しいとしか言えない。

 

「七草先輩、一高の生徒会長としてお聞きします。あなたはこの事態をどう対処するおつもりですか?」

「どうって、どうも出来ないわよ。生徒たちが徒党を組んでいても逮捕できる訳じゃないし」

「『魔法が全てじゃない』。その言葉はまさしくその通りなんだが……ここでは魔法実技が大きな割合を占めるのは事実。二科生が不当に差別されているように見られることもある。

 よくよく調べてみればそんなことはないと分かるんだが、どうにもそう印象操作している人物がいるようだな……」

 

 摩利のその呟きを冬夜は聞き逃さなかった。

 間違いない。この人たちは反国際魔法政治団体(ブランシュ)のことに気付いている。

 だが、まだこのタイミングで追求はしない。

 真綿で首を絞めるように、じわりじわりと退路を絶たせる方が先だ。

 

「印象操作するまでもなく、この学校にはそういう意識がありますよね?生徒会の服部副会長の発言、彼の発言は常識に照らし合わせたものですが、如何せん態度と口調が悪い。特にオレに向けられた発言は、マスコミに漏れれば大問題に発展できるほどの発言です。政府が運営している学校で名詠士を見下すことを言ったんですから、マスコミはこぞって批判するでしょう。

 そうなれば、あなたの家にとっても厄介なんではありませんか。十師族『七草』家のご息女様?」

「痛いところを突いてくるわね……。はんぞーくんも悪い子じゃあないんだけど。意識改革はしたいと思っていても、どうすれば良いんだか……」

 

 泣き出してしまいそうな表情になる真由美。そう、彼女も今の一高の状況を快くは思っていない。本心では変えたいと彼女も思っている。しかし、『人の意識』ほど変え難いものはないのだ。かつて、黒人と白人の差別意識を変えるのに何十年と掛かったのと同じように、一朝一夕で変えられるようなものではない。

 真由美のもどかしさを冬夜は理解できる。『人の意識』を変えるには、個個人の考え方を変えなければならないからだ。それには『具体的にこうすれば変えられる』という答えがない。答えがない以上、どうすることも出来ない。

 真由美のもどかしさを理解した上で冬夜は

 

「しかし今まであなたが何かしてきましたか?所詮、あなたも口先だけの人間だということですよ」

 

 責める。心を鬼にして、最悪真由美が泣き出すまで責めてやろうと冬夜は考えていた。

 冬夜は今の状況を、この差別意識を変える絶好のチャンスだと考えていたからだ。

 

「黒崎くん、さすがにそれは言い過ぎです。会長だって今までどれだけ苦心してきたことか……」

「そんな言い訳はいりません。世の中結果が全てです。現実を見てください。一科生が二科生を見下す風潮から同盟が生まれ、さらにその同盟が反魔法国際政治団体(ブランシュ)を引き寄せ、さらには侵攻されて校内でシンパを増やされている。これが今の一高です。

 そして、この状況を知っているにも関わらずなにも手を打とうとしないのがあなたたちです。

 この状況を生み出したのは紛れもなく歴代の生徒会だ。ならばその末路も受けとるべきでしょう?

 因果応報とは、よく言ったものですよね」

 

 真由美の苦悩を一言で切り捨てて鈴音を黙らせる。生徒会の面々は皆俯いてなにも言えなくなっていたが、唯一ここにいた風紀委員長の摩利だけは、冬夜の言葉の中に本来公には知られていないはずの組織の名があることに気付いた。

 

「なぜ、ブランシュの名前を……」

「オレは今年になるまでずっと海外にいましたから。この国では報道規制がかけられているようですが、そんなことは関係ありません。魔法師の闇に通じる部分だっていくつか触れていますしね」

 

 さらりと、自分に嘘は通じないとアピールする冬夜。ついさっきまで弄られていた夜色の少年の眼光は、鋭く摩利を射貫いた。

 睨み付けているようにも見えるその表情は、これ以上隠し事をするのは許さないと明確に二人に伝えていた。

 

 反国際魔法政治団体【ブランシュ】

 彼らは魔法師が政治的・金銭的に優遇されている現代の状況に反対し、魔法能力により差別撤廃を目指している組織だ。この手の政治団体は世界中でいくつも存在しているが、なかでもブランシュは日本の公安当局によってマークされている危険な組織だった。

 

 彼らの掲げる差別。差別を撤廃するという行動理念は間違いなく正しいものだが、そもそもの話、前提となる魔法師が一般人より優遇されているという事実は存在しない。

 確かに魔法師の軍人や行政官が一般の人より高い給与をもらっていることも事実だ。また、統計上魔法師の収入は平均的な一般人のサラリーマンの平均所得を上回っている。しかし、魔法師の軍人や行政官が高い給与を貰っているのは命をすり減らす過重労働の対価でしかないし、魔法が使えても魔法とは全く関係のない仕事にしか就けず、低賃金に甘んじている魔法師の存在を全く考慮していない偏った考えだ。

 偽りで構成された虚構(でっち上げ)の差別。

 魔法もまた、人の持つ数多の才能の一つでしかないという事実から目を逸らし、自分たちの都合のいい部分だけ吹聴して、『平等』という言葉で仲間に引き込む。これが往々に存在してるこの手の政治団体の手口だ。

 

 その組織の工作員と思わしき人物を冬夜は目撃していた。

 

「一般には知られていませんがブランシュにはいくつか下部組織が存在しています。なかでも【エガリテ】という若年層をターゲットにした組織は、赤と青のラインで縁取られた白い帯をシンボルマークに掲げている組織です。

 オレと達也は勧誘期間中にそのシンボルマークが使われたリストバンド手首に嵌めた生徒に襲われています。残念ながら捕まえることは出来ませんでしたが……。どれくらいの仲間がいるのか、正確な人数はオレには分かりません。しかし、少なくとも手先となるような工作員を紛れ込ませることが出来るほど、いえ、クーデターが引き起こせるようになるほどにまでにブランシュの侵攻をすでに受けてしまっている。違いませんか?」

 

 冬夜の指摘に無言で何も返さない摩利。

 その反応は冬夜の言ったことが事実であると認めているようなものだった。

 

「自分たちにとって都合の悪いものは隠蔽し、その存在を隠す政府のやり方は、拙劣としか言いようがありません。こうした連中と闘うことを放棄しておけば、後で自分たちが痛い目を見ます」

「………そうね。黒崎くんの言う通りよ。

 魔法師を目の敵にする集団がいるのは事実なんだから、彼らが如何に理不尽な存在であるのか、そこまで含めて正しい情報を行き渡らせることに努める方が、その存在をまるごと隠してしまうのより効果的な対策がとれるのに……。

 私たちは彼らと正面から対決することを避けてーーいえ、逃げてしまっている」

「そうですね。ですがまだ、ギリギリではありますが手遅れでありません。オレもブランシュの連中にこの学校を支配されることは望みませんしね。

 それに、見ようによってはこれは好機だとおもいませんか?」

 

 冬夜のその言葉に全員が戸惑った。好機とはいったいどういう意味か、分からなかったからだ。その場にいる全員の視線を集めた冬夜は、もったいぶりながら話し続ける。

 

「ブランシュをバックボーンにして活動している同盟の存在は、今の一高を変えるいい起爆剤になります」

「何が言いたい?」

「つまりオレが言いたいのはですね」

 

 冬夜はイスに座り直し、ニヤリと笑って自分の考えを言った。

 

「彼ら同盟の活動が活発になれば、不可能と思われる生徒会の選任基準を変えることができるかもしれない、ということです。ブランシュの連中は、攻めてきたところを返り討ちにしてやればいい」

 

 この考えに真っ先に反応したのは、トラブル対処を専門にしている風紀委員長の摩利だった。

 

「それはダメだ冬夜くん!生徒たちを危険に晒すことになる!」

「では、同盟の活動が活発になる前にブランシュを叩きますか?確かにその方が安全でいい。誰もが望む展開だ。ですが、それでは一高の風潮を変えることは出来なくなります。

 例えここで同盟を崩壊させても禍根が残りますし、彼らのような存在は放っておけば必ずこの先また現れます。しかも何を起こすか分かりませんーーもしかしたら本当に暴動が起こるかもしれません。

 ブランシュが侵攻してきている事を知っていたのに、戦うことを恐れ、放置してきた結果が今のこの状況です。今ここで戦わなくてどうするんですか?

 それに風紀委員長、すでにブランシュ(奴ら)のシンパになっている二科生も紛れもなくこの学校の生徒なんですが、彼らの身はすでに危険に晒されていますよ?」

 

 冬夜が並べあげた反論に摩利は黙ってしまう。摩利の言っている事はもっともな事なのだが、冬夜のあげた反論も正しい。ブランシュは放っておけないが、一高の風潮を変えようとしている同盟は、真由美の理想に近付くのに大いに役に立つ。

 いやむしろ、いずれぶち当たる壁だとわかっているのだから、後世のためを思えば今ここで取り除いてしまった方がいい。

 

「オレだって、ただ単に他の生徒を危険に巻き込む気はないですよ。取り除ける障害はなるべく取り除いていくつもりです」

「取り除くと言いますと、どうやって?」

「たとえばーー誰かがわざと同盟の仲間になってブランシュが何をしようか探ってくる、とかですかね。ブランシュがどこから攻めてくるのか、目的がなんなのか分かっているなら対処もしやすいでしょう?」

「まさか……スパイでも送り込もうっていうの?」

「送り込むと言うよりオレがスパイになるって言った方が正しいですね」

 

 冬夜は真由美の疑問に当然のように、危険度をさらに上乗せして返した。そう言う冬夜に、真由美と摩利がすかさず反対する。

 

「ダメだ!それではあまりにも君が危険だ!!」

「そうよ!あなたがわざわざ危険な目に遭う必要はないわ!」

「これが最善の策なんですよ。みんなが幸せになれる最良の策なんです。

 ダメとは言わせませんよ会長。今まで手をこまねいてなにもしてこなかったような人が、オレを止める権利はありません」

 

 真由美と摩利が止めようとするが、冬夜のその目は本気だった。おそらくここで二人が止めても冬夜は探ってくるだろう。

 そして悔しいことに、彼女たちはそれ以上に良い方法が思い浮かばなかった。十師族の一人である真由美がいるためブランシュの行動は逐一監視出来ているが、正確な情報があった方が良いのは事実。考えてみれば今このときにもブランシュの連中が襲ってくるかも知れないのだから。

 

「あなたは……何でそこまでするの?因果応報と言うのならーー」

「なぜって、そんなの一つに決まっているでしょう、七草会長。

 オレがそうしたいから、ですよ」

 

 そうしたいから。

 これが偽善でも建前でもない、冬夜の本心。この学校を良くしたいという思いは、冬夜も真由美も変わらない。ただ、そのための役割が異なるだけ。

 自分たちがなにもしなかったが故に、目の前の少年に大きな負担を強いることになってしまった事実を噛み締めながら、真由美は冬夜の案に乗ることにした。

 




ラッキースケベをバラされた達也に、黙祷。

…………達也がネタキャラ化しているなぁ。

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