雷帝の魔本   作:神凪響姫

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おそらく最初で最後の原作どおりの戦闘。



※今回は主人公の暴走というか俺TUEEEE感がひどいです。苦手という方はお気をつけください。


第六話 ロップス

 

 

「―――悪いが、逃がしはしない。おまえらのように甘いヤツを見てると、とことんまでぶっ潰したくなる」

 

 某日。ふらりと立ち寄った、オランダの街にて。

 

 ゼオンと共に諸国を巡っていた俺は、新たな魔物と遭遇した。

 

 発見したのは、見覚えのある二人。非常に小柄な魔物と、外套を羽織った青年が、ゼオンと相対している。

 

 片や金髪の青年、片やてんとう虫を彷彿とさせる外見の魔物。

 

 アポロとロップス。

 

 序盤でガッシュ達と戦い、互角の勝負を演じた相手。

 

 

 うん、まぁなんとなく予想はついてたんだけどね。誰かと遭遇するんじゃないかなーって。

 

 

 事の経緯は、もう予想はついてるし『答え』が出ている。街中をフラフラしていた二人とゼオンがばったりニアミス。魔物の位置を探知できるゼオンがわざわざ出向いたわけではなく、原作同様、道を歩いていた時声をかけられ、その後立ち去ろうとしたアポロを甘いと評したゼオンが喧嘩をふっかけた、なんて流れ。

 

 ただ俺の知っているものと異なり、彼らはガッシュとは交戦していないらしい。ただ偶然、旅の途中でふらりと立ち寄ったこの街で自由を満喫していただけ。その最中、魔物の力を感じ取り、退散を決め込んだアポロだったが、運悪くゼオンとかち合ってしまい……

 

 なんつーか、もうご愁傷様としか言えん。

 

 ゼオンのやつめ、すれ違う魔物にやたら喧嘩売ってんじゃねぇよ。俺がのんびりホットドッグ食いながら現地の人と談笑していたってのに。訴訟も辞さないでゲスよ。あと指パッチンで俺を呼ぶな。俺はギャルソンじゃねぇ。

 

(しかしアポロか。随分早い登場だなぁ)

 

 俺の知っている原作とかなり時系列にズレがないか? アポロとゼオンが遭遇するのは、少なくともガッシュが清麿の父がいるイギリスへ赴き、帰国した後のことだ。

 まだゼオンはガッシュの記憶を奪っていないし、バルトロをけしかけてもいないし、そもそも時期的にガッシュと清麿はまだ出会ってないハズ。全て前倒しになってきる感がするが、気のせいだろうか。

 

 ……ふむ。どうやら俺の出現で少々流れに変化が出ているものの、概ね原作通りらしい。どうやら『原作』という根幹を揺らがさない程度の誤差は許されるようだ。

 

 ちゃんと答えてくれてありがとう「答えを出す者」。頼むから毎回仕事してください。

 

「…………ッ!」

「…………………」

 

 見てください、あのアポロ君の表情を。まるで得体の知れない人間と戦わざるを得ないと確信しているかのような顔です。いやもう我が事ながらバッチリそうなんだけどね。実質初対面の相手にこうも睨みつけられると気圧されてしまう。どうにも相手方もやる気が漲っている感が漂っているのが分かる。そんな顔で俺を見るな。

 

 ちょっと忘れてきてるけど、清麿と出会った当初のアポロは、確かに良きライバルになりそうな雰囲気だったし、どこか得体の知れない強さを感じられた。次に出会った時にはロップス消えちゃってたのは色々と衝撃。初登場時の強キャラっぽさはどこいっちゃったんでしょうね。

 

 この世界に来て結構経つが、未だに原作キャラとどう接すればいいのか分からないんだよなぁ。キースは運が良いのか悪いのか取り逃がした、しかし今回はそうもいかない。ゼオンだけやる気その気大好きだったら良かった。それに応じてしまったのか、アポロもロップスも臨戦態勢に入ってしまっている。売られた喧嘩は買ってやるぜ! みたいなお顔。頼むから遠慮してくれ。

 

 

 ひとまず街中で戦うのは避けたいと述べるアポロの提案を、機嫌よく承諾するゼオン。ようやっと見つけた新しい獲物を逃さないという思惑と、とにかく戦えるのならどこであろうと構わないという私情があるから。道を行き交う人間なんて路傍の石も同然であるゼオンは、すぐにでも襲いかかりそうなくらい疼いている身体を押しとどめているのが後ろから見ていて伝わった。英語で言うと『ステイ』状態。尻尾があれば振っていたことだろう。

 

 うむ。

 さぁ、困ったことになったぞ。

 

 前回のように、途中で見逃すなんて荒業は使えない。アポロもロップスも戦う意志を変えやしない。こちらから戦う姿勢を見せたのに、今更やっぱナシで、なんて通じるものか。そんなことしたらゼオンに何されるか分からんし。

 

 ん? 待てよ。

 

 ひょっとして、アポロとロップスは倒してしまっても問題ないんじゃなかろうか。

 

 どの道、ロップスは脱落組だ。邂逅編にてゼオンと戦い、敗北する。その流れを再現するのであれば、別段俺が避けて通る必要もない。物語における重要なキーパーソンという雰囲気ではないし。少なくともロップスはな。アポロは資金面での援助が……あれ? これってただの金づrいやなんでもない。これは彼の名誉を傷つけることになってしまう。

 

 史実通りの流れに添えるか微妙だけど、もう戦いは避けられない以上、俺は身を委ねる他ない。

 

 うん。

 やろう。

 

 アポロには悪いが、修行の成果を試せる良い機会である。いかんせん実戦経験が俺もゼオンも足りない。負ける気なんてサラサラ無いけどな。前回のような不甲斐ない結果に終わっては術の力を試せないし、経験も得られない。少なくとも、これでようやく魔物の術を使った戦いってやつができそうだ。

 

 全ては筋書き通り。あとは戦って勝つだけである。

 

 負けるつもりは無いけどな。

 

 

 

 

 

 

   第六話 ロップス

 

 

 

 

 

 

 町外れに資材置き場がある。老朽化していた風車の工事用に用意された木材がいくらか点在していて、古びた風車が風を受けて軋みを上げながら回転している。ここはアレか、ゼオンとアポロが対戦した場所か。キースん時は違ったけど、

 

 広いフィールドだ。戦うには絶好の場所だろう。街へ入る前に調べておいたのか。さすがはアポロ、抜け目がない。

 

「まずは力を見せてもらうぞ! 『リグロン』!」

 

 まずは様子見とばかりに、アポロが呪文を唱えた。

 

 ロップスの手からロープが伸びると、近くに放置されていた建築用の木材に絡みつく。まるで重さを感じないかのように軽々と持ち上げると、まとめて一気にブン投げた。

 

 ……これは、当たらないな。史実通りの展開だ。様子見の先制打なら、避ける必要はない。

 

 ゼオンも確信があるらしく、微動だにしない。俺とゼオンが動かないことに動揺を示したのはむしろアポロの方だった。てっきり回避すると思っていたのか。

 

 数秒後、木材が周囲に着弾する。真横数センチという場所に幾つも木材が突き刺さる。衝撃が全身に襲うが、目立つ傷もなくかすりもしない。

 

「フン……やる気があるのか、貴様ら?」

 

 本当に当てる気が無いと直感していたゼオンは、涼しい顔で佇んでいる。俺と違って「答えを出す者」がなくても、長い戦闘訓練によって研ぎ澄まされた勘は並大抵のものじゃない。

 

 俺は内心心臓バックバクだけどね。冷や汗出さないようにするので精一杯だけど。何が顔色一つ変えずにだ、単純にビックリして驚く暇がねぇだけだっつの。

 

 

 前々から思ってたけど、『リグロン』ってファウード体内とか空中だと無力だよね。投げる物体ない場所とか、掴むモノが無い場所とかは特に。相手にロープ投げる以外選択肢がほとんど無いじゃないか。

 

 そもそも、投げるモノによって威力が変動するなんて特徴、誰がどう見ても致命的欠陥だろう。運要素の高い術で投擲する物体に攻撃力は依存する……うん、扱いづらいことこの上ない。

 

 だが考えてみて欲しい。物体に依存するということは、投げ放った物体は魔力の供給が途絶えても、半永久的にその場に留まり続ける、ということ。

 例えば今のように木材を投げれば、突き刺さった状態のまま放置しておくと厄介な障害物になる。例えば自動車をブン投げた場合、その場に衝撃と破片による殺傷、おまけに爆発のおまけ付きと、複数の追加効果を狙える。

 

 ロープは攻撃以外にも移動や回避、相手の束縛など、その用途は多岐にわたる。ただ相手を闇雲に攻撃するだけなら他の術の下位互換でしかない。それは使い手が一番理解しているはず。

 

 物事は思い描いた理想ほど上手く運ばない。

 しかし全ては使いようだ。使い手の発想力次第で無限の可能性を発揮する。そしてそれを可能にするのが、このアポロという男だ。並大抵の魔物なら歯が立たず軽くあしらわれることだろう。扱いの難しい術を持ちながら、ここまで生き延びただけのことはある。

 

 ただ、今回ばかりは相手が悪かった。

 

「やる気がないなら……すぐにでも本を燃やさせてもらうぜ!」

 

 さぁ、思い知るがいい。

 

 下手に積み上げた小細工など、結局は激流の前に塵と等しく消し流されるのが運命なのだと。なんつって。

 

「『ザケル』!」

 

 電撃。

 

 度重なるツボ押し、そして肉体的・精神的トレーニングにより、呪文の威力は更に上昇している。すべての文章を読めるまでは至らなかったものの、使い始めの頃より速度が上がっている。

 何より、俺自身が心の力の使い勝手を、少しずつ把握できていることも大きく作用している。適当な量の力を、適度な感情をもって行使する。ただそれだけ、それだけだというのに、この差である。

 

 迸る稲妻。初期の呪文にしては、かなりの威力を孕む電撃は、予期していた通り(・・・・・・・・)に見事回避される。ザケルの電撃を放つと同時にはアポロはロップスを抱えて横に跳んでいる。物怖じせずに回避に移れる度胸は見上げたものだ。

 

 しかし虚空へ突き抜けた電撃はそのまま直進、アポロの背後に建っている風車へぶち当たった。

 

 破砕する。木造建築の風車は見事粉砕され、破片となって落下する。何十何百という木々の欠片が、アポロの頭上へ殺到する。

 

 驚きは一瞬。しかしそれは驚愕というより感嘆の類であり、下手をすれば死につながる状況に身を置きながらも、冷静に動いていた。

 

 がらがらと音を立てて崩れ落ちる風車の破片。その落下軌道を読み、着弾地点を推測。まるでさながら未来予知の如く、アポロは降り注ぐ破片を軽いステップが回避していく。時に大きな挙動で、時に紙一重の位置で。目立った外傷もなく、この危険を突破した。

 

「僕には通用しないよ」

 

 不敵に笑むアポロ。その顔に焦りはなく、どこか余裕が感じられた。

 

 やはりザケル程度じゃ避けられてしまうか。動きを予測して避けられる才能も凄いけど、電撃を見てから避けるアポロの反射神経も大概だなこれ。

 

「『リグロン』!」

 

 と、俺が惚けている間に、狙いを俺へ定めたアポロが呪文を放つ。ロープが蛇のようにうねり、本を奪おうと身を伸ばしてくる。

 

 ……ああ、これは避けきれないか。さすがに柔軟な動きができるロープを避けることは俺にはできないらしい。初級呪文なだけに操作性は高く、スピードもなかなかだ。ゼオンから少し離れた場所にいた俺は格好の的と言える。

 

 ただ、ゼオンを無視するのはいただけない。

 

「フン、このオレを無視して、直接本を狙うか」

 

 オレもなめられたもんだな、と。

 

 ゼオンはその場から一歩も動くことなく、ロープをすべて弾き飛ばした。

 

 やったことは簡単だ。ローブの裾を掴んで、横手に向かって放り投げる。魔力の操作によって自在に伸縮するローブは変幻自在の盾となり、襲いかかるロープから俺を守った。

 前回よりも「伸び」が良い。どうやら修行の成果がきちんと現れているようだ。ちょっと一安心。実戦でなんも変化ないじゃんと思われたら怒られるからね。

 

 防戦から一転、そろそろ攻勢へと転じたゼオンが一気に距離を詰める。俺の目では追いきれないほど速く前進し、手さばき一つでアポロの行動を封殺する。あの手の動きって漫画だと若干意味不明だったけど、反射的に避けようとする行動を制する役目があるようだ。

 

 アポロは逃げられない。機を見て俺は呪文を詠唱した。

 

「『ザケル』!」

「『リグロン』!」

 

 が。

 

 同時に、アポロも呪文を発動していた。ロップスにロープを伸ばさせ、身体を上空へ引き上げる。かろうじて回避に成功したアポロだったが、ゼオンはその間にも動いていた。

 

 ロップスとを繋ぐロープに狙いを変更、素手で掴んで思いっきり引っ張り寄せる。アポロを助けるために両手を伸ばして縄を投げていたロップスはバランスを崩し、前のめりになりつつゼオンの方へと引っ張り込まれる。

 眼下の状況に気づいたアポロは慌ててロープを消すが、既に慣性に任せて吸い寄せられるロップスを止める手段はない。それでもなんとか短い足を伸ばして踏み止まろうとする。懸命に足掻いた甲斐もあってゼオンの元へ辿り着く前に降りれたものの、既にゼオンは目と鼻の先にまで迫っていた。

 

「に、逃げろロップス!」

 

 言われるまでもなく、ロップスは背中を向けて逃げ出した。勿論ゼオンが黙って見過ごすハズもない。瞬き一つほどの間に逃走先へと回り込む。目を疑る速度で出現した敵の顔が、驚愕に歪むロップスとは対照的に、ニヤリと歪な弧を描く。

 

「『ザケル』!」

 

 直撃を期待して、術を撃つ。

 

 電撃はロップスに当たることはなかった。全力で疾走していたアポロが身体ごとタックルを仕掛けることで、無理矢理ザケルの発射方向を変えたのだ。

 

 彼の身を呈した行為は見事実を結び、上空へと吸い込まれている稲妻。吹き飛ばされたゼオンは不安定な体勢を空中で無理やり整え、離れた場所で着地。

 

 相方をかばうためとはいえ、肩をかすめた電撃は生半可なものじゃなく、アポロの表情を苦痛で歪ませる。もっともダメージはそこまででないらしい、ロップスが心配そうに駆け寄ってくるも、気にするなとばかりに小さく笑う。

 

 ふむ。

 概ね俺の知る通りの展開だ。

 

 アポロは先読みして行動し、攻撃を放っている。しかし人間の想像を超えるゼオンの動き、そして強力な電撃。向こうはゼオンのスピードと術の威力に翻弄されており、アポロとロップスは徐々にだが旗色が悪くなっている。

 

 これまで戦ってきた魔物より数段格上の魔物との交戦。自分の力で道を切り開いてきた天才的センスを持つ青年にとって、立ちはだかる壁。それは間違いなく、今後の運命を左右する分岐テントなる。

 

(しかしまぁ……)

 

 前回のキース戦は、お互いが呪文を唱える交戦ではなかったから、実際戦闘と呼べるものはこれが初となる。お互いがお互いの力をぶつけ合い、魔物は王の座をかけた真剣勝負。アポロがロップスを王にさせる気があるかどうかはともかく、力を出して全力で食らいついているのは伝わってくる。

 

 これが俺にとっての最初の「戦闘」。

 

 王を決める戦いを実感するに相応しい、最初の関門。

 

 

 

 

 

 

 なんだ。こんなものなのか。

 

 

 

 

 

 

 ただ呪文を唱え、導かれた答えを忠実に再現する。淡々と作業をこなしている感。

 

 目の前に提示された問題を解きなさいと指示され、何のひねりも無い問いに黙々と目を通し、考える間もなく頭の中に浮かんだモノを実行に移す。忠実に、愚直に、ただただ描かれた筋書きをなぞる機械のように動くだけ。

 

 相手の術を的確に防ぎ、出鼻を抉る牽制の術を放ち、下級呪文だけで相手を追い詰めていく。さながら詰将棋の如く、一つ一つが勝利への一歩である。

 

 だが、そこには期待していた高揚も喜びもなく、単純作業を延々と繰り返す虚無感じみた思いが、俺の胸の中で渦を巻いていた。

 

 改めて実感した。

 

 温い。

 温すぎる。

 面白くもなんともない。

 

 よくデュフォーは退屈にならなかったもんだ。ゼオンに任せきりになって呪文唱えるだけだった頃を思い出す。初期から人形のような顔で術を唱えるマシーンと化していたが、確かに秀逸なスキルを持つ彼では「退屈」だと切り捨てるのもわからなくも無い。

 

 物足りない。感想を簡潔に述べるなら、まさにそれだ。

 

 アポロに期待していたからか、それともゼオンが強すぎるからか。それとも俺が運で最高の力と肉体を手に入れたせいか。

 

 油断はない。慢心もしない。けれどもあまりに一方的で、どれだけ頭で否定しても、やはりこみ上げてくるのは、退屈、空しさ、不満……。

 

 結末を知っているだけに、どうしてもそういった不要な感情が拭えない。無礼だと分かりつつも、落胆の念を抱いてしまう。

 

「オイ、デュフォー。お前も動け。久々に面白い相手だ」

 

 興が乗ったのか、ゼオンは楽しげに口を歪ませている。俺とは対照的に、戦いを楽しんでいる様子である。戦闘を楽しむのは珍しいって言われてなかったっけお前。結構ノリノリじゃないか。

 

 まぁ、いいや。

 

 とっとと終わらしてしまおう。一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやろうか、なんて俺のキャラじゃないしね。ゼオンが楽しんでいるうちに終わらそう。

 

「ロップス、行くぞ! 二人から決して目を離すな!」

 

 今まで傍観していた俺から得体の知れない怖さを察知したのか、アポロとロップスが身構える。

 

 ただでさえ敗色濃い状況だ、アポロもなりふり構ってられなくなったのか、狙いを俺へと定める。ゼオン越しにアポロの不安を振り払おうとする顔が見えた。

 

 ほら、そんな怖がっていてどうするんだよ。

 俺みたいな素人を露骨に警戒しているんじゃないよ。

 アンタ、これまで色んな魔物に勝ってきたんだろうが。

 

 ――そんなんだから、唱える術が俺の予測通りのものになって、

 

「『リグロセン』!」

 

 ロップスの手から新たなロープが放たれた。しかしそれは『リグロン』の比ではない。幾十もの細い縄が蛇蝎の如くうねりながら虚空へ飛び、ゼオンから離れた位置に佇む俺へと襲いかかった。

 通常の『リグロン』の縄と異なり、目標を捕えるだけのものではない。先端部には鋭利な矛のような物体が取り付けられている。相手を切り刻む殺傷性の高い刃だ。ギラリと輝く矛は、魔物には小さなダメージしか与えられずとも、人間には死に直結する脅威。

 

 ……ああ、これは当てるつもりなんだな。そろそろ本格的にヤバいと察したんだろう。

 

 切り替えが早いのは流石の一言だが、もうちょっと早いうちに本気を出すべきだったろうに。

 

 遠く離れた位置にいるパートナーを助けに入るには、斜線上に割り込み相殺するか、防御呪文で防ぐほかない。

 

 しかし、ゼオンは傍らを通過する縄を、愉しげに見送った。てっきり魔物が助けに入ると思っていたアポロは一瞬怪訝になる。

 

 おいおい、さすがにこんなの直撃したらお陀仏だぞ。ゼオンの奴、助ける気がねぇな?

 

 それとも、見せてみろ、とでも言うんか。俺の実力とやらを。実戦でどれほど動けるのか、見定めてやると。

 

 

 いいさ、やってやるよ。

 ちょっと怖いけれどな。

 

 

 迫り来る矛の雨。その隙間はほんのわずか、子供一人が抜けられるかどうかといった程度。真正面から突き進めば瞬く間に細切れにされてしまうだろう。

 

 けど、全部が同時に襲い掛かるわけじゃない。一つ一つの攻撃は時間差で着弾する。相手に避けられることをある程度想定し、防がれたならば後続を操作することで隙間から当てる算段なのだろう。

 

 とはいえ

 

 攻撃の軌道を教えてくれるなら、あとは実行するだけ。

 

 ――そんなんだから、攻撃パターンが短調になって、

 

「な……っ!?」

 

 明らかに動揺した気配。最初の『リグロン』とは違って、人間相手でも容赦なく殺す一撃だった。

 それを容易くくぐり抜ける俺に驚愕したのか、それとも顔色ひとつ変えずに直進する姿に絶句したのか。

 

 それとも、俺が無傷(・・)で槍の雨を突破したのがそんなに驚きか。

 

 何も難しいことじゃない。彼我の距離、術の速度、視界から捉えた術の到達予定地点。全ての情報を頭に叩き込み、どうすれば回避できる? と考える。一刹那の後に浮かんだ最善の回避行動を何一つミスをせずに行えば、そら、無傷で避けきるのだって夢じゃないだろ?

 

 本来なら、俺にかすり傷の一つや二つ、負わせるくらいには成果を残すはずだった。

 

 アポロが動揺さえしていなければな。

 

 「答えを知る者」を使いこなしていた、俺の知るデュフォー。同じ力を持つとはいえ、その調子は完全とは言い難い俺。同じ力の使い手、同じ外見でも、その差は少なからず開いているハズ。

 

 しかし、知識は力である。敵の性格を知り尽くし、相手の術を覚え、どのタイミングで進み、避け、唱えればよいかを、「答えを出す物」が提示する。不完全な「答え尾を出す者」の「力」を、俺自身の「力」で補佐する。

 

 地上でただ一人、転生を果たした俺にしかできないことだ。

 

 ――そんなんだから、次の行動も予測しやすくなり、

 

「リッ、『リグロオン』!」

 

 細い鎖が数本伸び、その先端に槍を輝かせている。断ち切られるロープと異なり、

 

 アポロも焦りの中で少しは考えたらしく、全面から押し寄せた『リグロセン』とは軌道を変えた。鎖は自由自在に虚空を飛翔し、俺目掛けて突進する。上、斜め下、右、左真横から二つ。しかし焦燥しているのは事実であり、ゼオンではなく直進する俺めがけて鎖を放っていた。

 

 これは、見たことのない呪文だった。アポロは『リグロン』『リグロセン』『ディノ・リグノオン』の三つしか呪文を取得できてなかった。

 

 これも原作とは異なる流れに沿った影響か。

 

 ちょっと驚きだが、結局それも歩みを止めるにはほど遠い。

 

 術の仕様や効果の一切まで分からなくても、どのように対処すれば良いのかが瞬時に浮かぶ。初見の術と、未知の術と既知の術。いずれにも対策を練れる二つの力が備わっている以上、安易に足を止める必要は無い。

 

 ……ああ、成程。そうやって避ければいいのね。

 

 迅速な「答え」に満足しながら、俺は歩を進める。上からの一本を首のひねり一つでかわし、斜め下から迫る一本をサイドステップで避ける。続いて右からの一本を大きく踏み込むことで難なくクリアし、最後の左からの一本はその場で立ち止まって見送った。

 

 ―――そんなんだから、攻撃があたらなくなって、

 

「こ、これも避けただと……!?」

 

 普段は冷静沈着であろうアポロからすっかり余裕を奪い取り、着実に距離を詰める。最初は開いていた彼我の距離が、徐々に狭められていく。

 

 なまじ、常人より優れた頭脳と直感を持つからこそ、予想外のモノと相対した時、手に負えないモノと対面した時、動揺は強く浮かび上がる。

 

 後退を余儀なくされるアポロは、少しずつ進んでくる俺とゼオンに意識を集中している。だから己の立ち位置を把握する余裕は、ない。

 

 焦燥が失敗を生む。不安が停滞を生む。恐怖が心を蝕む。

 

 たとえ完璧な『答え』が分からずとも、原作という知識の補助さえあれば、この程度、造作もない。

 

 ―――そんなんだから、心の余裕が無くなってしまって、

 

「ロップス、最大呪文だ! 『ディノ・リグノオン』!」

 

 追い詰められたアポロは、とうとう最強呪文を放った。

 

 詠唱完了と同時に、ロップスの手のひらから『リグロオン』とは比べ物にならないほど太く長い多くの銀鎖が、ジャラジャラと金属音を奏でながら放射状に展開される。

 

 その光景は、まさに圧巻の一言に尽きる。

 

 幾条もの鎖を前方の地面へ突き刺し、大地を丸ごと引っ張り抜く。家屋さえ容易く押し潰す質量を持つであろう土の塊。巨大な質量を誇る大地の欠片を鎖は次々に採掘し、数が五つと超えたところで敵めがけて解き放つ。

 

 前方全てを覆い尽くした、圧迫感を与える土の壁が、唸りを上げて突き進んでくる。回避も防御も、生半可なものならば容易く飲み込み押しつぶすだろう。

 いくら比類なき力を持つゼオンとて、あれだけの物体に上から押し掛かられてはひとたまりもなく、迂闊な反撃も受け付けない。前進する岩塊を呪文で砕けば、その破片がまんべんなく辺りに飛び散る。頑丈な魔物はともかく、弱い人間なら、いとも簡単に行動不能に追い込める。

 

 ゆえに、俺たちは回避する術はなく、力には力で対抗するほかない。

 

 

 

 だが、

 

 見えているぞ、アポロ。

 

 

 

「ゼオン」

 

 指示は単純。大した動作も必要ない。

 

 腕を軽く上げ、指先一つで方向を示す。それだけで、ゼオンはすべての意図を察し、慌てることなく用意を整えた。

 

「ああ。あそこだな?」

 

 手のひらを向ける。その先には迫り来る土の壁。静かに見据えるゼオンと俺の視界に、それは映っていなかった。

 

 捉えているのは、その向こう側。強大な力であるがゆえに、精密なコントロールを行っている―――鎖のひとつ。

 

「『ザケル』!」

 

 放った電撃は、岩山に比べればあまりに小さく細い。その外見とは裏腹に込められた心の力は強く太い。

 

 電撃が岩にぶつかった。相殺することもかなわず散ると思われた稲妻は、岩を食い破って反対側へと突き抜ける。敵の術と激突したことで威力が大分落ちたであろうザケルの雷だったが、しかしその責務をきちんと果たした。

 

 岩を操作していた鎖を、雷が弾いた。

 

 たったそれだけ。

 

 それだけで、――攻撃の軌道がわずかに逸れる。

 

 ガッシュとの戦いで使用したように、ひとつの岩の塊を投げつけるのであれば、俺も中級呪文を唱えざるを得なかった。

 

 しかし複数の岩を投げつけるのであれば、話は別。

 

 操作する鎖が動いたため、岩が本来の軌道を外れ、横へと動く。俺とゼオンをまとめて押し潰そうとしていた岩は、ひとつじゃない。すぐ横手には同じサイズの岩が飛んでいる。

 ゴン、と重い鐘を打つような音が響く。岩同士が激突し、反発し合った岩がさらにほかの岩へとぶち当たる。それでも勢いは失うことはなかったものの、小さな目標へ直撃するコースからは明らかに外れてしまっている。

 

 着弾する。派手な音を立てて地面にめり込んだ岩の数々。ほんの一歩、横へと動いていたら、飛び散る破片と瓦礫によって傷を負わされていた。

 

 だが、無傷だった。

 

 小さな敵に大きな攻撃をぶつける。彼の選択は間違いじゃない。

 

 それが裏目に出るとは、さしものアポロにだって予想できなかっただろう。

 

 きちんと鍛錬を積んで魔物と戦っていけば、自然と扱えただろうに。精密なコントロールができない今では、これがやっと。

 

 結局。

 アポロとロップスは、俺たちに傷ひとつ負わすことができなかった。

 

「に、逃げるぞロップス! 僕たちじゃ彼らには勝てな――」

 

 最大術がいとも簡単に破られ、敵わないことを遅ればせながら悟ったアポロ。

 

 しかし、

 

「……どこへ逃げるんだ?」

 

 

 

 ―――そんなんだから、自分の窮地に気がつかないのさ。

 

 

 

「なっ……いつの間に!?」

 

 すぐ背後には、先ほど倒壊した風車小屋と同じもの。俺たちを遠ざけることしか考えられなかったせいで、周囲の状況確認が疎かになっていた。

 

 抵抗されては面倒だ。後ろに注意がいっている隙にアポロの手から空色の魔本を叩き落とし、襟首を掴んで壁に叩きつける。ロップスが本を拾おうとするも、ゼオンに蹴り飛ばされて失敗した。

 

 終わりだな。

 

 結構苦戦するんじゃないかと思ってたけど、割と呆気なかったな。これならキースにも勝てたんじゃね? あん時追いかけてれば良かったかもな。いまさらになってちょっと後悔。

 

「そうか……そういうことか」

 

 と。

 アポロが唐突に語りだした。

 

 ああ、そういえばデュフォーの怒りを買うシーンがあったな。その心にどれだけの憎しみを隠しているんだ? とかなんとか。

 

 だが残念だったな。俺に怒りも憎しみもまったくないし、心を読まれたって別にどってことはない。転生者ということがバレたところで、それがなんだというのだ。自分が漫画の世界の住人だと信じるわけないし。指摘されたところでどうってこたぁないのだ。

 

「デュフォー、と言ったかな。君はそれほど強大な力を持ちながら――」

 

 冷や汗を流しながらもアポロは続ける。ハイハイ、分かったから、少しの間だけでも大人しくしててくれな

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――何故、正気を保っていられるんだい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉が頭の芯まで染み入った瞬間、俺の中で、何かが音を立てた。

 

 

 

     ●   ●   ●

 

 

 

 無音が続いた。

 

 アポロは笑みを浮かべつつも、内心冷や汗を流していた。魔本は叩き落とされ、襟首を掴まれ壁に叩きつけられている状態。自由を奪われた状態にまで追い込まれ、敗北の文字が脳裏をよぎった時、頭の中に何かが浮かんだ。

 

 元々、アポロには相手の力を感じ取るがある。オカルトみじた超能力ではなく、目線や顔つきから相手の心情を逆手に思考を読み取り、研ぎ澄まされた感覚が危険を察知し即座の回避行動をとらせる。距離が近ければ、心の奥底に眠る感情さえも汲み取ることもできる。そういう生まれ持った力だった。

 

 端的に述べると、アポロは「なんとなく」相手の心を読める。別段計算づくでもなければ超能力でもなく、言ってしまえば、ただの勘。見ようによっては十分超能力じみた異能であるが、彼はその持ち前の感性と直感だけで魔物との戦いを有利に進めてきた。

 

 と言っても、彼自身戦いを好まず、これまでそれほど多くの魔物と交戦してきたわけでもない。アメリカのとある財閥御曹司という立場から、彼は自由に生きる時間を大切にしている。そういった経緯から、騒動に自分から首を突っ込むことを控えていた。

 

 勿論、敵は彼の事情など知ったことではないとばかりに攻めてくるため、降りかかる火の粉を振り払う手段くらいは持ち合わせている。使える術は4つと少ないものの、アポロの天才的な勘と臨機応変な対応により、敵を退けてきた。

 

 ただ、今回は相手が悪かった。魔物と遭遇しながらも戦おうとしない――見ようによっては平和ボケした呑気なスタイルを貫くアポロに苛立ったのか、偶然出会った魔物から宣戦布告を受け取った。

 争いを好まないとはいえ、完全に拒絶しているわけではない。アポロはやむを得ないと早々に判断を下し、人気のない場所で戦闘を開始した。

 

 結果は、このザマだ。

 

 終始全力、とは言わない。手加減は最初していた。極力他者を傷つけたくないというアポロの心優しい配慮。しかし途中から、デュフォーとかいう少年が動き出してからは違う。焦燥の後押しを受け、倒すつもりでかかった。負ける、という不安を押し隠すよう術を連発した。最強の呪文も出し、持てる力全てを使いこなし、全身全霊をもって挑んだ勝負は、相手の全力を引き出させることさえできず、呆気なく終わった。

 

 だが、とアポロは己の奮い立たせる。

 

 まだ魔本は燃やされていない。せめて、せめて時間を稼げれば、落ちた魔本を拾えるかもしれない――僅かな希望を見出そうと、アポロは口を開いたのだ。距離が近づき、目と目の距離が縮まったことで、相手の思考が読み取れるようになったからこそ、最後の手段とばかりに。

 

 そして、アポロは相手の心に目を向ける。

 

 途端、流れ込んでくるデュフォーの感情。

 

 それは、アポロが未だ経験したことのない、漠然とした―――不安。

 

 心全体を覆い尽くしかねない、薄暗闇の世界。目を凝らしても決して晴れ渡ることのない心象風景。

 

 なんだ、これは。

 これが人の心なのか。

 

 奈落でも覗いたかと疑るほど、それは暗く深い。希望も愉悦も恐怖も悲観も、そこには何一つない。あったとしても、闇とも言うべき不安の感情が全てを覆い隠している。生きるのに必要な感情が、何も窺えない。

 

 これではまるで、――ただの人形ではないか。

 

 だが、不安の闇の中まで目を向けて、ようやく垣間見えた、心の奥底。そこに隠された秘密とも言うべき事実を目ざとく見つけたアポロは、デュフォーへ真っ向叩きつける。

 

 彼にしてみれば、時間稼ぎになればという足掻きでしかない。それでも、少しでも動揺を見せてくれればと思い、僅かな罪悪感を抱きながらも、目の前の少年にぶつけた。

 

 すると、

 

 

「――――――――――――」

 

 

 一瞬、ほんの一瞬だが、デュフォーの手から力が抜けた。

 

 アポロには何のことかさっぱり分からない。ただ拾ったモノを見せつけただけで、それが何の意味を示すのかまでは察することはできない。ともあれ拘束の手が緩んだ今こそ好機。振りほどいて魔本に手を伸ばせば届く。そう思った。

 

 だから、

 

 視界が揺らぎ、全身を衝撃が襲った時、アポロは何が起きたのか分からなかった。

 

(ぐ……っ!?)

 

 鈍い痛みに目を反射的に閉じる。すぐ傍でパートナーのうめき声が聞こえ、遅ればせながらも、ロップスごと地面に地面に叩きつけられたと知ったアポロは、急いで閉じていた目を開いた。

 

 途端、

 視界全てを塗りつぶさんばかりの光が、飛び込んできた。

 

(な――っ!?)

 

 強い……否、それは、強すぎる光だった。

 

 かつてアポロが最初の術を唱えた時よりも遥かに大きなそれは、強大すぎる心の力を、目の前の少年が持っていることに他ならない。

 

(な、なんという……強い光だ……!)

 

 思わずその光景に目を奪われてしまう。空へと向かって伸びる光の柱、それはデュフォーが持つ魔本から放たれている。

 未だかつて見たことのない強大な光、そしてそこから感じる注ぎ込まれた力の波動に、アポロの顔から血の気が引いた。

 

 あれは、マズい。

 

 勘が働かずとも、本能で感じ取った。これから放たれようとしている力は、自分にとって未知のものだ。己の持つ最大級呪文など足元にも及ばぬ、敵を跡形もなく抹消するに足る膨大な力。

 

 手元の光に照らされたデュフォーの顔。そこには隠そうとしても隠しきれない、膨大な怒りを、アポロは垣間見た。戦いの最中、人形のように無表情を貫いていた男とは思えない、修羅のような形相。

 

 見てはならないものを垣間見て、触れてはならないモノを踏み抜いた。抗う術さえ失ったアポロは、ただその事実をなんとなく、理解した。

 

「ジガ―――」

 

 デュフォーの口が開く。

 

 死ぬ、とさえアポロは思った。あんなモノを喰らったら死んでしまう。アポロも、ロップスだって。彼らの前に存在するものすべてが、消し飛ぶ。アポロの迂闊な発言のせいで。彼の怒りを買ったせいで。

 

 ごめんよロップス、君を王にすることはできなかった……爆発寸前の力を目の当たりにして、アポロは自分の迂闊さを後悔した。

 

 だが、

 

「おい!」

「―――ッ!」

 

 意外なことに、ゼオンという魔物が待ったをかけた。

 

「こんな雑魚相手に何をするつもりだ。無駄な力を使うんじゃない」

 

 しばしの間逡巡する間が訪れる。

 

 すると、憎悪で彩られたデュフォーの瞳から正気の色が戻っていく。逆立っていた柳眉は下がり、歯を剥かんばかりに強張っていた表情は、再び無のそれへと回帰した。いや、少しばかり動揺しているようにも見える。無感動を貫いていたデュフォーが唯一見せた感情の変化は、本人にとっても予想外だったらしい。

 

 動揺、あるいは驚愕。

 

 いずれにせよ、その隙こそが最後の好機だと、アポロは判断した。

 

(今なら……!)

 

 取りに行ける、と判断したアポロが走り出す。しかしその直前、何か硬い物体がアポロの顔面に直撃する。

 一体何が起きたのか。痛みを覚えつつ仰け反ったアポロが見上げた時、それがデュフォーによって己の本が蹴り飛ばされ、顔にぶち当たったのだと分かった。

 

 派手に尻餅をつく。抱き起こそうとするロップスに何か言ってやる時間も、魔本を拾い上げる時間も、残念ながら与えられなかった。

 

「『ラージア・ザケル』!」

 

 轟、と押し寄せる膨大な雷の壁。

 

 放射状に展開された電撃から逃れる術はなく、アポロとロップスは光の中へと消えていく。

 

「ロップス―――」

 

 悲痛な声。後悔と悲観が混ざった青年の叫びは、やがて爆雷と破砕の音へと飲み込まれ、消えた。

 

 

 




今回すこぶる長かったなぁ……。

○主人公がいい加減調子乗りすぎてツラい
今が最盛期なんです、もうすぐ潮時なので多目に見てあげてください。


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