俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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(A⇔B)06 隠された恋の終焉

 

 

 

 銃声は散発的に聞こえた。遠いために音がカン、カンと乾いたトーンになっている。

 銃撃戦の結果は絶対に把握しておかなくてはならない。その結果によって俺たちの行動も左右されるからだ。

 小部屋から出て、警備員室の窓の外を見た。人影がない。窓から四方八方をうかがうが、やはり誰もいない。

 俺たちは正面玄関のホールに出た。そして、左右の廊下につながる壁から顔を出した。

 長い廊下には誰もいない。足音も聞こえない。さきほどの銃声も今は止んでいる。俺も雪ノ下も凍結していないということは、相手方の2人も無傷ということだ。

 

 右方向は、調理実習室のある校舎へつながっている。やはりそちらへ向かうべきか。

 進行方向へ銃を向けて進む。後ろは相棒に任せた。雪ノ下と、背中合わせに銃を構えるような相棒になるとは思わなかった。

 廊下にはガソリンか灯油の揮発性の匂いが漂い、プラスティック樹脂の焦げる異臭も混じっていた。

 人影もなく物音も聞こえないまま、調理実習室の前まで来た。廊下や壁は真っ黒に焦げ、まだ煙を立てていた。息ができないくらい、嫌な空気が充満している。

  

 左側の階段の踊り場に倒れている人間がいた。下からだと手しか見えない。あの細さは女のものだ。

 階段を駆け上がって確認した。やはり三浦だ。腹部から胸にかけて血に染まっている。

 ここから火炎瓶の攻撃を受けて、葉山と一緒に逃げたはずだ。それが、再びここで撃たれている。いったいどのような経緯なのだろうか。2人で逃げたり反撃しているうちに、めぐり巡ってここで撃たれたのか。

 

 雪ノ下が三浦に触ろうとした。

 

「よせ。爆発するかもしれないぞ。味方なのか敵なのか判別できない」

 

「赤いジャージ着ているでしょ。大丈夫よ」

 

 雪ノ下は三浦の腕をつかんで手首の脈を確かめた。こちらを見て首を振る。そして、半開きの目を閉じた。

 

 俺は隣りの教室から、またカーテンを引きちぎってきた。三浦の身長に合わせて折りたたんだ。死体を壁際に寄せ、手と足をまっすぐにして、カーテンをかけてやった。できることはそれだけだった。

 葉山はどこにいる? 無事なのかどうかわからない。タコ部屋にいるのだろうか。

 

 また背中合わせの移動を開始した。いつ火炎瓶の襲撃を受けるかわからない。しかし、俺たちを撃てば、自分たちも凍結する。撃つだろうか。少なくとも俺は敵の自分や雪ノ下を撃ちたいと思わない。そのことに雪ノ下も気がついたのか、背中に感じる緊張がゆるんできた。

 

 講堂の瓦礫の中を進み、雪道にまた苦労してタコ部屋に到着した。雪の上には新しい足跡はない。タコ部屋の建物にも異常はない。

 一応、銃を構えて入る。

 

「葉山いるか?」

 

 小さな声で呼びかけてみるが、返事はない。色々な部室の扉を開くが誰もいない。二階に行って全部室も確かめるが人の気配がない。

 

「校舎のどこかに隠れているようね。あるいはもう撃たれたのかも」

 

「となると、残るは俺たちとコピーの俺たちだけか」

 

「決めつけるのはよくないわ。信じられるのは確実な情報だけよ。ところで、少し落ち着きましょう。さっきの続きをしてくれない?」

 

「え? ちょっ……」

 

 こいつも大胆なことを言い出すようになったと驚きながら焦った。

 

「なにか勘違いしているようね。髪の毛の手入れをして欲しいのよ」

 

「そうか。わかった」

 

 テニス部の部室の棚にある小さな引き出しには、カッターやはさみ、ガムテなどが入っていることを知っていた。その引き出しからはさみを二つ取り出して、一つを雪ノ下に渡した。

 

「引きちぎると髪が傷むんじゃないか。はさみのほうがマシだろ」

 

「ありがとう」

 

 イスに座った雪ノ下の後ろにイスを置き、そこに座った。

 

「なんかサルってこういうことよくしてるよな?」

 

「サル同士で毛づくろいしているやつね。毛づくろいじゃなくてノミ取りだったかしら」

 

 何本かの毛を指で滑らせて、手ごたえを感じると、そこを見て、異常があったら切った。そんな作業をしばらく続けた。

 

「こんな面倒なこと家でやってたのか」

 

「枝毛切りハサミというのがあるのよ。刃の部分が小さくなっているハサミ。でも普通のハサミでも変わらないわね」

 

「毛づくろいは鳥がやるものだったな。羽根をくちばしでスススって舐めてるもんな」

 

「よく知ってるわね。それなのに生物の成績悪いのが不思議ね」

 

「観察するのだけは得意だからな」

 

「観察するのは科学の基本なのだけれど」

 

「やっぱり観察は得意じゃない」

 

「相変わらずひねくれているのね」

 

 そんな会話をしていると、足音が聞こえてきた。雪ノ下の動きがピタリと止まる。

 

 葉山だろうか。だったら俺たちに呼びかけてもいいものだが、無言で移動している。それに、各部屋の扉を開けて確認している。

 

 これは……。

 

 しかし、味方の葉山だとしても、俺たちがここにいるという情報はないし、敵が潜んでいる可能性を考えていれば、むやみに呼びかけることはできない。部屋を全部確認する必要もある。

 その行動パターンは、敵の行動パターンと同じだ。敵か味方かを今、判断することはできない。

 俺は銃を腰から引き抜いた。用心するに越したことはない。待っていればやがてこの部屋の扉を開けるだろう。それまで待つことにした。

 

 扉が開いて葉山が姿を見せた。緑色のジャージを着ている。だが、調理実習室の前で見た敵の葉山も緑色だったような記憶がある。

 

「ここにいたのか、君たち」

 

 葉山も銃をこちらに向けている。

 

「無事だったんだな。何があった?」

 

「優美子がやられた。かばってやれなかった」

 

「俺たちも三浦を見た。階段のところで。カーテンをかけておいた」

 

「そうか」

 

「ところで、太陽の様子はどうだった? 俺は太陽がいくつあると言ったっけ?」

 

「太陽? 何のことだ?」

 

「太陽が二つあったんだ」

 

「何だって? 太陽は一つだろ」

 

 俺は銃を葉山に向けた。葉山も銃を俺に向ける。イスに座ったままの雪ノ下も銃をニセ葉山に向けて、ハンマーをカチリと倒す。

 

「お前は敵の葉山だろ」

 

「そうだよ。もうこれで終わりにしようと思って、あとをつけてきたんだ」

 

「俺たちを撃つつもりか?」

 

「そうだ」

 

 葉山が近づいてきたとき、後ろから味方の葉山が現れた。銃を敵の葉山の背中に向ける。

 

「銃を下ろせ。後ろを見てみろ」

 

 敵の葉山が振り向く。しかし銃は俺に向けたままだった。

 

「下ろすわけないだろ」

 

 敵の葉山は、俺、雪ノ下、味方の葉山の三つの銃に狙われていた。

 

「敵の葉山。お前は俺は撃てても雪ノ下は撃てないだろ」

 

「どうしてだ」

 

 

 敵の葉山が雪ノ下に銃口を一瞬向け、また俺に狙いを戻した。

 

「お前は雪ノ下に何か負い目があったよな。それに、自分の好きな女を撃てるのか。小学生のころからずっと好きだった幼馴染の女を」

 

「それは……」

 

 味方の葉山が固唾を飲んでいる。やはりコピー同士、心の中がわかるようだ。

 

「撃てないだろ。ここから去れ。そうすれば俺たちも手を出さないで見逃してやる。俺ももう人を撃ちたくない」

 

「じゃあ、比企谷君、君を撃つ」

 

 ニセ葉山と俺の間に雪ノ下が立ち塞がった。俺に背中を押しつけて、後ろへジリジリと下がる。ニセ葉山から少しでも距離を取りたいようだ。

 雪ノ下の頭の上から、俺の目が覗いているのだろう。ニセ葉山は銃口を少し上に向けなおし、俺の目に狙いをつけた。

 

「その瞬間にお前も死ぬぞ。俺たちの味方の葉山もお前を躊躇なく撃つだろう。それでいいのか。それで終わりだぞ」

 

「………」

 

 腕を伸ばして銃口をニセ葉山に向けたまま、雪ノ下が毅然とした態度で言う。

 

「葉山君、私があなたを撃ってあげる。今ここで復讐してあげる。そうすれば、あなたは私に対する負い目を無くして死ねる。あなたの理不尽な感情も消える。私が引導を渡してあげる」

 

「………」

 

 ニセ葉山の目が少し泳ぐ。

 俺は、何か言うことを探したが、見つからなかった。これは葉山にとって残酷すぎる。

 

「味方の葉山君もそれでいいわね」

 

「わかった。そうしてくれ。もう覚悟は決めている」

 

「お前、そこまでしなくてもいいんじゃないか。今度はお前が苦しむかもしれない」

 

「少なくとも半分の承諾は得たわね。さあ、敵の葉山君、撃つわよ。あなたが私を撃つのも自由。私だって覚悟を決めているのよ。どうするの? 撃つ? それとも素直に撃たれる?」

 

 敵の葉山は依然として銃口を俺に向けていたが、さっきよりもずいぶんと落ち着いた目をしていた。

 

「これで心置きなく死ねる………か。思えば長かった……」

 

 数分の沈黙が流れた。スチール写真の映像のように誰も動かなかった。

 やがて、何かを諦め悟ったように、銃を握っている敵の葉山の腕がゆっくりと下がる。その顔は平和な表情だった。山の頂上でご来光を仰ぎ見るような、どこかに希望を感じさせる顔をしていた。

 

 そして……。次の瞬間、葉山の頭の中には、太陽が赫奕(かくやく)として昇ったはずだ。

 

 雪ノ下の手首が上に跳ね上がる。その反動が肩越しに俺にも伝わった。

 ほぼ同時に敵の葉山の眉間に穴があき、後頭部から金髪と血しぶきが飛ぶ。テニス部のドアにいた味方の葉山も、その場に崩れ落ちた。

 

「マジかよ……。お前、本当に撃ったのか……」

 

 雪ノ下が固まっている。腕を伸ばしたまま、しばらく動かなかった。

 我にかえるまで数分かかった。銃を床にゴトリと落とし、仰向けに倒れる葉山に近づく。

 動かない葉山に向けてかがみこみ、雪ノ下が呟いた。

 

「ごめんなさい。でも、これで良かったと信じたい……。私たちもすぐにそっち行くから許して欲しい……」

 

 俺はまた、カーテンを引きちぎった。何回引きちぎるのか。しかし、これ以上引きちぎることはないような気がする。俺たちが死ねば、もうカーテンを引きちぎる人間はいない。

 ニセ葉山にカーテンをかけた。そして、入り口近くでうつ伏せに倒れている葉山を室内に入れ、壁に凭れかけさせた。こっちにも、その肩から足先までカーテンをかけてやった。

 

「なんか嫌な感じね。人を撃つのって。あなたがおかしくなったのが理解できる」

 

 雪ノ下の顔色が心なしか悪い。立っているので、ショックが俺ほどじゃないことがわかる。が、心も体もネガティブになっている。問題を一人で抱え込むクセはまだ治っていない。なんとかしてやりたい。

 

「この部屋を出よう。二階に行ってみよう」

 

 雪ノ下の手を引いて、部屋を出た。

 二階の機械体操部の部屋にはマットがあった。それに、廊下には持ち運び用の畳が数枚置いてあった。

 俺は畳とマットを体操部の床に敷き、雪ノ下を寝かせた。

 少し休んだほうがいい。ロッカーからバスタオルを数枚出して、かけてやった。俺はその傍らに座り、壁に凭れた。

 雪ノ下は目を閉じていた。だが、その手が救いを求めるように伸びてきた。俺はその手を握った。

 

「これで二人きりになったけど、なんか、さっきの続きをする気分じゃないわね」

 

 冗談のようなことを言った雪ノ下の顔は笑っていなかった。

 

 

 

 

 






毎度どうも、小町です!

 そういうことだったんですね。葉山先輩って。でも葉山さんはどこかで「本当に人を好きになったことがない」って言ってたように記憶していますが。きっと、小学生時代の負い目があるから、本人にはそう感じられていたのかもしれませんね。
 暗い雰囲気になってしまった本編ですが、私だけは健気に明るく行きたいと思います。
 このままこの世界が終わるのは反対です! 誰か、量子コンピュータを自在に操れるスーパープログラマはいませんか? 設定を書き換えて、小町が校内一に美少女になって、成績もトップで、運動も抜群にできて……イケメンにモテモテの世界を……。なんつって。
 でも、ゆっきーには「そんな偽りの世界で生きることにどんな価値があるというの?」と叱られそう。そんなゆっきーも、今回は少しばかり心の傷を負ったようですね。小町が貯めたポイント全部使っても治してあげたい。でも女はこういうとき強いよ! すぐに復活するでしょう。
 ではみなさん。この世界が消滅するまで、毎回お会いしましょう! ごきげんよう。


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