俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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(A⇔B)05 二種類の適応形態

 

 

 テニス部の部屋に戻ると、葉山がテーブル上に残りの弾薬を並べていた。200発くらいはあった。その脇には銃が3丁。俺が1丁持っているので、この場には合計4丁ある。ちょうど人数分。最初にあった10丁は死体と一緒にあったり、爆発で散逸したりしていた。

 

「比企谷君、腹が減ったからメシ食いに行きたいんだけど」

 

 空腹を忘れていた。食料は売店にしかないから、そこに取りに行くつもりだろう。

 

「売店? あそこは略奪の限りを尽くされて、まだ何かあるかな」

 

「いや、調理実習室に行く。あそこには冷蔵庫があったはずだ」

 

「それは思いつかなかったな」

 

「保存の効く食材が少しはストックされているはずだ。雪ノ下さんが料理してくれるって」

 

 ゴクリと喉が鳴った。ここ2日間、ろくなものを食っていない。俺たち4人は銃と弾薬をポケットに入れて、タコ部屋を出た。

 雪がまったく融けていない。足を踏み入れると沈んで抜けなくなる。腹ばいになって、手で雪を掻き分けて進む。体にまつわりついて動きを奪う雪と格闘しながら、俺はついさっき見た異常なものを思い出した。しかし、今は全天を雲が覆い、見ることができない。

 

「さっき、太陽が二つあった」

 

「太陽は一つだろ」

 

 葉山が顔を上に向けて、空を仰いでいる。

 

「さっき、雲の切れ目から太陽が二つ見えた」

 

「そんなことがあってもおかしくないわね。ここは地球じゃないのよ。どこかの連星系のつもりなんでしょ」

 

 動きを止めた雪ノ下も、空を見上げている。

 

「だいたい、この世界が地球上にあるわけがないもの」

 

「俺たちはふうせんかずらの内部にいるというわけか」

 

「そうなんでしょうね。どこかにいるようで、どこにいるわけでもない」

 

「たまんねえな」

 

 瓦礫と化した講堂に裏口から入った。ガラクタの上のほうが、雪山を歩くよりもまだましだった。そして校舎へ続くV字の道を歩くと、校舎の壁が黒こげになっていた。講堂側の窓ガラスが全部割れている。

 一階にある調理実習室になんとかたどり着くと、転がっている鉄の棒でカギを壊した。中は荒らされていない。敵の連中はここに来ていないはずだ。

 奥にある小部屋の扉には、「調理準備室」とプレートが嵌っていた。中には大きなフリーザーが一個あって、その隣りには調味料を格納する棚があった。塩コショウなどと書かれた缶が並んでいる。

 

「卵、冷凍のごはん、ハムくらいしかないわね。チャーハンかスクランブルエッグか……」

 

 フリーザーを覗き込む雪ノ下がそれらを取り出す。

 

「おお、なんでもいい。食わしてくれ」

 

 俺はホカホカのチャーハンを思い浮かべると唾液が出てきた。葉山も表情がゆるんでいる。

 

「わたしも手伝う。4人のスクランブルエッグだと、卵は8個くらい?」

 

「だいたいそのくらいね」

 

 三浦が卵を取り出して、実習室のコンロの前に置く、棚からフライパンを取り出して、サラダ油も用意する。

 だが、料理をするのは雪ノ下に譲った。

 

 皿に盛り付けられたのは、ハムとタマネギとグリーンピース入りのチャーハンと、スクランブルエッグだった。たいした調味料もないのに、美味だった。というより、飢えていたので、温かいものなら何でも美味かった。

 

 俺も葉山も大皿に盛られたチャーハンにスクランブルエッグを載せて、ガツガツとかきこんだ。こんな美味いメシは食ったことがないかもしれない。

 こんなささやかな宴も残り少ない貴重な時間の一こまだった。最後のブランチ。これが最後のまともなメシのような気がする。

 

 テーブルの対面では、雪ノ下と三浦が並んで、スプーンでチャーハンを掬っている。

 ガツガツ食いそうな三浦が、上品に少しずつスプーンに乗せて口に運んでいる。

 食欲を満たしながら、俺はその様子を見ていた。

 

 顔立ちとスタイルだけなら、三浦は相当な美形だ。しかしその性格は……。このことはかつての雪ノ下にも言えた。この2人はどこか似ている。

 どちらも、美形ゆえに男子生徒の注目を常に浴び、女子からは嫉妬されてきたことだろう。それがウザくてたまらず、雪ノ下は話しかけるなオーラ、三浦は見てんじゃねぇぞコラみたいな雰囲気を身につけた。三浦のコワモテは、ウザい視線を撃退して楽に振る舞えるように適応した結果なのではないか。

 そういえば、その昔に女子高生のガングロとかヤマンバみたいな下品な流行があった。茶髪や白髪に黒い顔、目の淵や唇は白く塗る。

 そんな奇抜で気持ち悪い化粧法が流行したのは、ある学者の分析によると、男のウザい視線を遮断して、仲間とつるむためだという。そのころから女子高生というと一種の性的なブランドになっていた。そういった視線を拒否する気持ちはよく理解できた。俺だってレッテルを貼られればむかつく。

 こうしてみると、三浦も雪ノ下も中学から高校にかけての他人からの視線が、性格形成に大きな影響を与えていることがわかる。似ていると思った理由はこれだった。

 

「ヒキオ、なにジロジロ見てんの?」

 

 無意識に眺めていた三浦に指摘されて我に帰る。やはり他人の視線には敏感だ。その隣りで雪ノ下がクスクス笑う。

 

「どうせ、くだらないこと考えていたんでしょ」

 

「そうだな、確かにくだらんこと考えていた。三浦といったら、グラサンかけて誰かをオラオラって脅かしているイメージを持っていたんだが。誰かさんみたいにツンツンしているんじゃなくて、オラオラだな。でも、こうして不可抗力で近くにいると、違うんだな。なんか可愛く見えてきた」

 

「なにを言い出すわけ? ヒキオに可愛いとか言われたし。わたしに可愛いとか言っても無駄だし」

 

 三浦が意外そうな顔をする。言われたことに抵抗したいような表情も混じっている。

 

「すごく面白そうなこと言い始めるのね。私も興味があるわ。続けて」

 

 雪ノ下が一瞬、三浦を見たあと、俺に視線を合わせる。

 

「それで、三浦も昔、男子生徒に注目されて、女子からは嫉妬されていた口なんだろ?」

 

「まあ、周囲の奴らがウザかったのは確かだけど。中学に入ったころには特別扱いされてたし」

 

「そういう状況にお前なりに適応した結果が、オラオラ系なんだろ。確かに男子は興味なくすし、女子は怖がるし。友達に選ばれた女子は怖くて友達やるしかないし。由比ヶ浜とか。

 ぶっちゃけ、適応という点では雪ノ下と似ているよな。雪ノ下の場合は話しかけるなオーラで武装した。違いはそこだな」

 

「ふーん。で?」

 

 三浦が興味なさそうに鼻を鳴らす。本当は図星を突かれて恥ずかしがっているのかもしれない。

 

「なんだ。優美子のそんなこと、俺はわかってたけどな」

 

 葉山がにこやかな顔をする。

 

「お前はずっと三浦に接触していたからそうだろ。俺なんて、教室では三浦が怖くてたまらなかったんだからな」

 

「そこへ堂々と優美子にからんで、喧嘩売ってきたのが雪ノ下さんだったな。あはははは」

 

「そんなこともあったわね。今となっては懐かしい話ね」

 

「あのさ、オラオラ系ってのはやめてくれない?」

 

「じゃあ、ヒキオってのやめてくれ」

 

「要するに、わたしがオラオラ系に適応したのは間違いだったって言いたいんか?」

 

「そうかもしれん。その押し出しの強さ、圧力感は引く」

 

「俺は優美子からそんな圧力感じたことないけどな」

 

 葉山のフォローも虚しく、三浦の表情が曇っていく。

 

「ヒキオ、そんなことわかってるし。ほとんどの男子の心が雪ノ下さんのほうに行っちゃうのも知ってるし……」

 

 三浦が下を向く。金髪がサラサラと顔の前を覆っていく。普段ならこんな会話で心が塞いでいくようなタマじゃないが、さすがにこの絶望的な状況だと勝手が違うようだ。

 

「今の優美子は全然オラオラ系じゃないよ。俺はわかってるつもりだよ」

 

「隼人はやさしいね。でも無理しなくていいから……」

 

 しばらく沈黙が覆った。俺は、次の言葉を言おうかどうか迷った。自分がされるのは絶対に御免こうむりたいお節介に過ぎなかったからだ。でも言ってみることにした。

 

「なあ、葉山、俺と雪ノ下、お前と三浦に別れて別行動しないか?」

 

「え?」と葉山と三浦が顔を上げる。

 

「あ、ああ、俺は別にいいが」

 

 葉山が一瞬困ったような表情をした。

 

「ヒキオ、何か余計な気を使ってない? そういうのやめてくれる?」

 

「雪ノ下はどう思う?」

 

「私は三人のしたいようにしてもらって構わないけれど。確かに残り時間は少ないわけだし」

 

 そのとき、調理実習室のほうから物音がした。扉の開く音だ。全員がそれに気がついて立ち上がった。調理準備室の扉は閉まっている。窓は雪で塞がれている。

 葉山が廊下側の扉に近づき、音を立てないように鍵をゆっくりと回す。少し開いて廊下に顔を出す。こちらに背を向けたまま右手を上げてOKサインを示した。廊下には誰もいないということだろう。

 

 俺たちはゆっくりと葉山の後から廊下に出た。俺も葉山も銃を抜き、ハンマーを後ろへ倒している。そこへ、コピーの俺が調理実習室から出てきた。鉢合わせの状態だった。コピーの俺は銃を抜こうと肩を動かす。

 

「動くな! 手を上にあげろ!」

 

 葉山がコピーの俺に銃を向ける。コピーはゆっくりと手を上げた。

 

「ここでお前らに会うとはな。同じ事を思いついたんだな」

 

 そう言う俺のコピーに、俺も銃口を向けて構えた。

 

「いっそのこと、俺がそこの俺に抱きついて、一瞬でこのゲームを終わらせるってのはどうだ? 早くて楽だろ」

 

 さすが俺のコピーだった。俺とまったく同じ発想をしている。

 

「それでいいの? あなたは何かやり残していることがないのかしら」

 

 雪ノ下が俺のコピーに問いかける。俺も俺のコピーもやり残したことが何なのかわからなかった。

 

「そっちの雪ノ下もこっちの雪ノ下も、見た目がまったく同じだな。信じられん。

 ところで、俺と俺が接触すると爆発するが、俺と、そっちの俺以外のやつと接触しても爆発するのか?」

 

 同じ疑問を俺のコピーも持っていたようだ。

 

「どうかな」

 

「やってみるか?」

 

 コピーの俺が近づいてきた。

 

「動くな、マジで撃つぞ!」

 

 葉山が叫ぶ。

 

 俺たち4人の後ろから銃声がした。壁の跳弾がキーンと響く。

 敵の葉山が廊下の遠くから走ってきた。そして、俺たちが振り返った隙をつき、俺のコピーが反対側に走り出した。

俺は走る俺を撃とうとして構えた。しかし、葉山に止められた。

 

「よせ! 敵の君を撃てば、君も動かなくなるだろ。それは困る」

 

 そう言って、葉山は走ってくるコピーの葉山に発砲し始めた。こいつは自分は動かなくなってもいいというのか。向こうもしばらく柱に隠れて撃っていたが、やがて姿を消した。

 

 やはり、タコ部屋に戻ったほうがいいようだ。校舎にいると遭遇する機会が増える。 葉山が進む方向に銃を向けて先頭を歩く。次に三浦、雪ノ下。しんがりは俺。時々後ろに注意を向ける。

 俺は、前を歩く雪ノ下の方をつついた。

 

「銃を出しとけ。なんか危険な匂いがする」

 

「わかったわよ」

 

「お前の運動神経と反射神経と判断力は俺よりも上なんだからな。それに肝の据わり方も」

 

「わかったから」

 

 ジャージ下の制服のポケットから銃を取り出すと、雪ノ下はスライドをガシャとずらした。それを両手で握って、体の左側にキープしている。

 

 左側の壁が、階段のために切れている。そこを通りかかったとき、階段の上に何かの動きが見えた。ガシャンと音がして足元に火が燃え上がった。また火炎瓶だ。同時に階段の上から連続的な発砲。敵の葉山なのか俺なのか。

 直撃は免れたが、葉山と三浦、俺と雪ノ下の間に瓶が落ちたため、図らずも二手に分かれて逃げることになってしまった。これが吉と出るか凶と出るか。

 

 雪ノ下と一緒に調理実習室の方へ走る。後ろから発砲音。その音に向かって雪ノ下が何発か撃った。

 突き当たりを右折すると、奉仕部の部室がある校舎に入る。敵の本拠がある可能性が高く、遭遇率も上がるはずだ。

 俺たちは、とりあえず正面玄関の脇にある警備員室に入った。ここには監視カメラがあるはずだ。

 だが、監視カメラの画像はパソコンに4分割されているだけで、正面入り口、裏門、校庭が映っているだけだった。思い出してみれば教室に監視カメラはなかった。画面の中で映っていない区画は、講堂の爆発で壊れたのかもしれない。

 肩で息をしながらデスクの前のイスに座る。

 

「こっちに来て大丈夫かしらね。それに、あの2人も心配ね」

 

「葉山がなんとかしてくれるだろ。落ち着いたらタコ部屋に行ってみるか。タコ部屋は雪に塞がれているから安全だと思う。あいつらがそこにたどり着いていればいいんだが」

 

 俺はさっきの雪ノ下の発言で引っかかっていることがあった。

 

「俺のコピーにやり残していることがないかと聞いていたが、何のこと?」

 

「たぶん、意味のありそうないい加減なこと言って惑わそうと思ったのだと思う」

 

 警備員室の奥は、泊まれるように和室になっていた。鍵がかかる。そこに入って畳に転がった。ふぅと息を吐いて目を閉じた。頭がジーと鳴っている。

 

「少し休めるかしらね」

 

「なんか、もう、どうなってもいい気もする」

 

「いつ死んでもいいように覚悟はできているでしょ。そうだ、お願いがあるのだけれど」

 

「なに?」

 

「シャワーを浴びて髪の毛を乾かしたら、ロクに手入れをしていないものだから、枝毛がひどくて。櫛が通らないのよ。それに、生徒会室で火炎瓶攻撃を受けたとき、焼けた部分があって、気になるの。見てくれない? その部分を取って欲しいのよ」

 

 いつ死んでもいいみたいなこと言っているのに、身だしなみは気になるのな。俺はニヤニヤしながら身を起こした。

 彼女の後ろへ回って、背中の下まである長い髪を指ですいてみた。確かにひっかかる部分がある。よく見ると、一本の髪が二つに分かれているのもある。

 まず、焦げて縮れている部分をちぎってやった。傷んでいる部分以外は、艶やかでしなやかな髪の毛だった。

 

「手入れが大変なんだな。俺なんてシャンプーして乾かしてそのままだわ。ショートにしようと思ったことはないのか」

 

「小学生のころは姉さんみたいな髪型だったのよ。ロクに手入れしていないのね。あなたのそのアホ毛はわざとやっているのかと思っていたけれど」

 

 雪ノ下が顔の前に髪を引っ張って点検しつつ、クスクス笑っている。2人でこんなふうに過ごす時間も残り少ない。

 急に切なくなった。世界が終るとわかってから、俺の彼女に対する思いは異様に強くなっていた。気がつくと、鬱勃とした欲動がわき起こっていた。

 

 やり残したこと? それに、俺は気がついた。彼女は曖昧に答えていたが……。彼女もそれに気がついていた。

 

 俺は後ろから彼女に抱きついた。そして、その体を反転させて向き合った。無言のまま目と目が合う。2人ともしばらく目をそらさなかった。感情があるような、ないような、寝顔のような清らかな顔があった。

 

 毛をいじっていた手が下がり、俺の胸に触る。上半身を抱き寄せると、頭が俺の顎の下に凭れかかってきた。右手でその頭を抱いて、顔を近づける。

 

 そして……。彼女の目が閉じたとき、銃声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 




 こんにちは!小町で~す!

 今回から私が後書きを担当することになりました!またみなさんにお目にかかれて嬉しいで~す。
 もう一人の小町は兄に撃たれて死んじゃいましたが、凍結してスヤスヤ寝ている小町もいるのです。夢の中にいても、心配な心配な兄の様子がわかってしまうなんて、ポイント稼ぎすぎですかね~。
 それにしても小町の生きていた世界がニセモノだったなんてショックです。このまま消えちゃうんでしょうか。それはないですよ、ふうせんかずらさん。
 小町の場合は、まだ別れたら悲しい人がいなかったのが幸いかも。少しは気が楽です。
 それに、結構楽しかったな~、ゆっきーと一緒に泊まったり、ガールズトークしたりして。怖かった三浦先輩にも親近感湧いたりして。
 まあ、それはともかく、今回はとうとう兄が童貞捨てる? 本当に捨てちゃうの? 小町の手の届かない大人になっちゃうの? それもゆっきー相手に? って思って祝福の用意をしていたんだけど、やっぱり邪魔が入るところなんて兄らしいですね。笑。
 これから先、どうなるんでしょうかね。小町と一緒に、せっかく育った2人の想いも消えてしまうんでしょうか。それは虚しいです。
 さ~て、お時間が近づいてきました。それでは、みなさんごきげんよう!次回の後書きもサービスサービスぅ~!


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