俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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A面06で以下の部分を直しました。

×どちらかのグループの最後の1人が生き残ったときがゲームの終わりです。

〇どちらかのグループが全滅したときがゲームの終わりです。









B面06

 

 カギをもらうために職員室へ向かう廊下を歩いた。そのとき、校内の照明が点灯した。どこかで応急措置でもしたのだろうか。

 部室に入ると、人にかき回されていない凍った空気が鼻についた。しばらくすると、廊下から聞こえてくる話し声が大きくなる。そして、部室のドアが開かれた。入ってきたのは葉山、戸部、三浦、海老名だった。

 先頭の葉山が俺を見て「君たち、また何かたくらんでいるんじゃないかと思って。お邪魔だったかな」という。

 

「別に邪魔ってことはないけど、ここにいてもロクなことないと思うぞ」

 

「どうしてだい? もう当分帰れないみたいだし、ヒマなもんだから。こんなとき、君たちと一緒にいると心強いからね。あはは」

 

 俺は迷った。こいつらにふうせんかずらのことを言ってもいいのかどうか。雪ノ下は指を眉間に当てて、しばらく考え込んでいた。

 

「比企谷君、おそらくふうせんかずらは自分の思い通りに私たちを動かす。彼らが必要ならそうするはず。どこにいても同じだと思う」

 

「その通りだな」

 

 俺はついさっき戸塚にかかわるなと警告したが、ふうせんが必要としているなら、いずれここに入ってくるはずだ。それは葉山たちも同じに違いない。それに、ふうせんのことを喋っても、葉山たちが不必要なら排除するはず。

 問題は、本当にバトルが始るのかということだ。俺たちはまだ一回も直接ふうせんと会話していない。だが、その登場も時間の問題だろう。

 

「優美子~、私たち、とんでもないものに憑かれてるんだよ」

 

 由比ヶ浜が泣きそうな顔で三浦に近づく。

 

「はぁ~? いったい何だし?」

 

「ヒッキー、あれ見せてあげてよ」

 

 俺は、材木座のノートPCをカバンから出し、机の上で開いた。相変わらず執筆作業が続いていた。

 

 三浦と葉山がその画面を覗き込む。

 

「これって、パソコンだよね。だったら文字を次々に表示させるプログラムだって可能じゃないの?」

 

 と葉山がいうので、俺は無言でPCのバッテリーパックを外し、再び画面を見せた。葉山の顔が険しくなる。その後ろで三浦、海老名、戸部も覗いている。 

 

「ありえないでしょ~」と大きな声を出したのは戸部だった。

 

「確かに、これは異常だ。なんだこれ」

 

 俺は葉山たちにふうせんかずらのこと、材木座の書いている小説が勝手に更新され、自動的に執筆が継続していること、その小説の内容から推測して、今日の大雪はふうせんかずらの仕業であること、そして、まもなくバトルロワイアルが始ることを説明した。 

 

「……信じられないな。そんなことがあるなんて。しかし、このPCを見れば、信じざるをえないな」

 

「でしょ? わたしとゆきのんが昨日、ふうせんかずらにとり憑かれてたのかもしれないんだよ」

 

 見ると、由比ヶ浜が三浦にしがみついていた。最近、由比ヶ浜のしがみつきクセが強くなっている。

 俺は、小説の昨日から増加している部分を読んでみた。すると、ここにいる9人と一色いろはを加えた10人が無人の校舎に閉じ込められ、バトルに備えて銃を撃ったり、食料をカバンに用意していた。

 読み終わると、PCを葉山たち新参者に渡した。事情を詳しく知るには原稿を読んでもらうのが一番だ。3人はイスを並べて座り、しばらく画面を食い入るように見つめていた。三浦が読み始めてしばらくすると、その顔が険しくなった。悔しそうに歯ぎしりして、一瞬、雪ノ下を睨んだ。

 

 そこへ、一色いろはが入ってきた。ああ、これもすでに書かれている。自動書記を続ける原稿の通りだ。こんな事態なのに、いつもと変わらないフワリとした雰囲気で葉山を探しにきたのだ。 

 

 俺は、一色が何か言う前に反射的に声をかけた。

 

「一色、葉山を探しに来たんだろ。こんな非常事態のとき、生徒会が何をやればいいのかアドバイスが欲しくて。そして、途中で職員室に寄ったら先生は誰もいなかった、そうだよな」

 

「ええ~、するどいですね、比企谷先輩。その通りですよ。なんでわかったんです? みなさん深刻な顔してどうしたんですか~」

 

 思わずため息がもれた。シナリオは予定通り進行中。これで10人が揃っった。

 

「悪いけど、俺、説明する気力がないわ。小町、一色に説明してやってくれ。頼むわ」

 

「わかったよ、お兄ちゃん。一色先輩、こっちに来て座ってください。全部説明します」

 

「なんかワクワクしますね~」

 

 アホか。小町の説明中に、一色は「本当~?」とか「ええ~?」とか声を上げる。最後に、「じゃあ、わたし、選ばれちゃったんですか~? そのふうせんなんとかに?」

 

「どうやらそのようですね」

 

 と小町がいうと、「でも、葉山先輩がいるから大丈夫ですよね~」と、イスをずらして葉山の近くに寄る。

 

 葉山が一色に自動書記画面を「ほら」と見せる。PCはバッテリーが外れていて、その部分が凹んでいる。

 

「じゃあ、本当なんですね。怖くなってきました。どうしよう」

 

 尋常ならざる現象を目の当たりにして、初めて一色が落ち着いた素の声を出した。

 突然、安っぽい電子オルゴールの音が響いた。俺はドキリとしたが、それはお湯が沸いたことを知らせる電気ポットの音だった。雪ノ下が紙コップを並べて紅茶を入れ始める。その香りが漂ってくると、焦りと不安でザワついていた心が和んだ。ふぅ~と深呼吸ができる程度には心が落ち着いた。

 

 俺は次に確実に起こることがわかっていたので、紅茶をゆっくりと啜った。不吉なこと、どうしても避けたいことがゆっくりと近づいてくるとき、その内容を知ってさえいれば、焦らずに冷静に事態を分析して明晰な意識を持てる。

 ふと、俺はふうせんかずらが何者か、その尻尾をつかんだような気がした。雪ノ下との会話では、ふうせんはこの宇宙に偏在しているという。しかし、それはこの宇宙に閉じ込められていることを意味する。無数に存在する他の宇宙を知ることも、他の宇宙に出ることもできないはずだ。今まで俺は、ふうせんを神のようにイメージしていたが、その神にも限界がある。この宇宙を包含する、さらに上位のレイヤーがある。ふうせんかずらも絶対的ではなく、相対的なのだ。ふうせんにも怖れるものが必ずあるはずだ。そう考えると恐怖心がなくなった。

 そして、平塚先生の姿をしたふうせんかずらが部室に入ってきたとき、俺の内部に沸々と抑えきれない怒りがわいた。

 

「おい、ふうせんかずら。お前いい加減にしろよ。つまんねぇ小説なんて書いているんじゃねぇ。とっとと消えろ。帰れ!」

 

「おや、比企谷さん、初対面の人にはもう少しおだやかに接するものですよ。つまらない小説なのはお詫びしますが」

 

「お前が人間だったら、いくらでも礼儀正しくしてやる。お前のくだらねぇ小説読まされたおかげで、説明を聞く必要はもうない。とっとと銃でも自動小銃でも戦車でも出せ。くそが」

 

「そうですか、それなら話は早い。あなたたちもゲームに参加してもらえるわけですね」

 

「なんで俺たちもこんなことやらないといけないんだ?」

 

 葉山がふうせんかずらに問いかける。

 

「それは葉山さん、あなたには救いたいと思う人がいるんじゃないですか。それも複数。だったらこのさい、助けてあげてくださいよ」

 

「もちろん、助けるのはかまわないさ。ただ、こんなことして何になる」

 

「雪ノ下さん、わたしの代わりに説明してあげてください。あなたはこの中で一番察しがいい」

 

 みんなの注目が雪ノ下に集まる。

 

「たぶん、ふうせんかずらは私たち人間が怖いのよ。この宇宙の中で自意識というものはアノマリーだから。異物だから。

 私たち人間の体も宇宙内の物質でできている。しかもエントロピーが増加する一方の宇宙内部で、ネガ・エントロピーを食べて、わずかな時間ではあるものの平衡状態を保っている。宇宙内の存在が恣意的な目的を持ったり感情で動いたり、オントロギッシュな認識を持ったりする。そして、一番の脅威は知性なのよね。知性を持たないふうせんかずらとしては。

 だから、私たちを調べている。こんな実験をして情報を集めている」

 

「だいたい合ってますが、ちょっと違います。おそらく人間には理解できないかもしれませんね。

 この宇宙はあと50億年ほどで相転移する可能性があります。現在のところ、0K、つまり摂氏-273・15℃が絶対零度とされていますが、この温度がもっと下がる可能性があるのです。あなたたちには50億年という時間は無意味ですが、時間が存在しないわたしにとっては、すでに起こっていることです」

 

「何の話だ。さっぱりわからん」

 

 俺がそういうと、雪ノ下が俺の肩に手を置いて「続けて」という。

 

「3次元空間を1次元減らして平面と考えてください。そこに垂直方向へ時間次元を加えると、立方体になります。時間のないわたしの世界を説明するなら、こういうイメージを提示するのが一番いいでしょう。この立方体のどこにでもわたしは偏在している。そして、すでに相転移の起こっている部分がこの立方体の内部にあるのですよ。ジワジワと光速で広がってきてます。わたしの一部はすでに相転移に蝕まれているのです。全空間が相転移すればわたしもどうなるかわかりません。その前に……」

 

「わかった。あなたは人間の知性や意志、創意工夫を研究しているのね。そして、相転移の危機から脱しようとしている。ふうせんかずらさん、そういうのを意思というのよ。それを、目的というのよ。リソースばかり大きくて、やはり知性を欠いているようね。すこしは成長しなさい。相転移したらあなたも滅びる。それが怖くて人間を頼っているのよ」

 

 ふうせんかずらは混乱しているようだった。

 

「もうすでに意味のある情報は集まっているんだろ。いい加減に消えてくれ、神を気取ったペテン師が」

 

「神ですか。神もまた特異な概念ですね。そうした超越項を析出せざるをえない人間の………いや、あなたのおっしゃるとおり、わたしは神ではありませんし、そんなことを言ったこともありません。まあ、そんなことはどうでもいいんですが。そろそろゲームを開始してもいいでしょうかね。わたしが初めて意識した目的を達成するために」

 

「勝手にさらせ!」

 

「わかりました。ゲームはどちらかが全滅した時点で終了です。すでに知っていると思いますが。負けたほうは無に帰し、勝ったほうはこの世界からの解放。お好きなほうを選んでください。

 わたしとしては勝つことをおすすめします。わたしも無という状態は知りませんから。なぜなら、この宇宙空間にあるかぎり、無は存在しません。絶対零度の真空中でさえ、まだマイナス273℃のエネルギーが残っているわけですから。そこでは量子的ゆらぎ、つまり対生成と対消滅が起こっている。人間にだけ訪れる死とはどんな状態なのか。想像もできません」

 

「わかったよ。お望み通り勝ってみせるさ」

 

 そう葉山が言うと、ふうせんが空中に光る四角形を書いた。そこからガラガラと拳銃10丁と紙箱に入った大量の弾薬が落ちてきた。

 

「とっとと帰りやがれ、くそが」

 

 俺がそういうと、ふうせんかずらは部室を出て行こうと背中を見せた。しかし、すぐに振り返る。

 

「比企谷さん、もう小説は自動的に書かれていません。確認してください。これから先はあなたたちの自由意志で行動してください。それでは幸運を祈ります」

 

 部室の扉が閉まった。その向こうにはすでに平塚先生も、他の職員も、生徒たちもいない。校内には俺たち10人しかいないはずだ。

 俺はパソコンを開いてみた。電源が落ちていた。スイッチを入れてみるが、ウンともスンともいわない。

 部室に残された俺たちは、おそるおそる銃を手に取る。銃の中では軽いほうとはいえ、700グラムほどあれば、やはりずっしりとした質感がある。俺は基本的な操作を説明して、全員に覚えさせた。

 次は、やっぱり食料の確保だ。俺たちもカバンから教科書を出し、銃や弾薬を詰め込んで売店に行った。

 その帰りに、校庭に向かって射撃練習をした。みんなに見えるように、実弾入りのマガジンを差し込み、スライドを動かして装填をする。そして引き金を引く。

 

 両手でかまえてパン、パンと二発撃った。空薬莢が飛び出して雪の中に消える。火薬の匂いが周囲に広がる。

 男だったら子供のことにモデルガンをいじったりするものだ。俺以外の男3人は問題なかった。何発か撃つと、片手で撃ち、反動にも慣れてきた。

 ハンマーの衝撃を弾に伝えて発射されるという構造を瞬間的に理解したらしい雪ノ下は、最初からうまく撃てていた。片手で狙いをつけて撃つと、制服の袖口から見える手首が曲がり、腕が上方向へ跳ね上がるが、反動を予測してうまく対処している。

 それに対抗するように三浦も撃ち始める。やはり理解してしまえばそんなに難しいことはない。パンパンと撃ってすぐにマガジンを空にした。

 三浦の銃のスライドが後ろに下がったまま止まる。

 

「それはロックを外すか、マガジンに弾を入れて差し込まないと直らないのよ」と雪ノ下がアドバイスするが、三浦は「フン」と顔をそむける。

 一番危なっかしいのは由比ヶ浜だった。雪ノ下が後から手を添えて、一緒に撃つ。それでも音と反動に驚いて目を瞑ってしまう。一人で撃つと「キャア」と言って銃を落としてしまった。由比ヶ浜は後方支援に回したほうがいいのではないか。後ろで弾をマガジンに詰めるとか。

 小町は俺が教えてやった。こいつも要領が良いほうなので、すぐに扱いに慣れた。海老名さんは、まったく銃に触れたがらなかった。三浦が銃を持たせようとするが「私はいいよ」と拒む。戦意のまったくない海老名さんも後方支援が適しているかもしれない。

 

 練習を終えた俺たち10人は、雪混じりの冷たい風が吹き込む無人の廊下を歩いて、部室に向かった。

 

 

 

 

 


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