俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き 作:taka2992
学校が終わると、俺は陽乃さんに電話したが、つながらない。メールに「連絡ください」と記して送信した。すると、家に着く直前に電話がかかってきた。
「比企谷君? 珍しいね。でもだいたい何の用だかわかるよ。情報が欲しいんでしょ?」
「そうです。ちょっと危険な状況も起こっていまして・・・」
「ふ~ん。佐川とかいうやつは詐欺グループに属しているからね」
「そうです。そのことで」
「わかった。いま車の運転中だから。どっかで待ち合わせできる?」
「では駅前はどうでしょう」
「了解。あと30分くらいでつくと思うよ」
私服に着替えて30分後に駅前につくと、ロータリーの脇に止まった赤いスポーツセダンが目についた。よく見ると陽乃さんがおいでおいでと手を振っている。俺は助手席に乗り込んだ。
「大人はいいですね」と俺がいうと、陽乃さんは無言で微笑んだ。「ファミレスに入るよ」というので「はい」と答える。
近くのファミレスの席につくと、陽乃さんは「いや~、君たち、変な連中にかかわっちゃったね~」と笑う。
「それがですね、今日、妹さんの部屋の扉に「死」とか落書きされていたり、堂々と尾行されたりしているんですよ。これっていわゆる示威行為ですよね」
「そんなことがあったんだ?雪乃ちゃんだけがそうされたの?」
「そうです」
「比企谷君は無事だったの? それって不思議だね~」
「妹さんを佐川に会わせました。スポーツクラブで。名刺とか携帯番号の交換をしてもらいました」
「ふ~ん。雪乃ちゃんをそんな危険な目にあわせる人だったんだ」
「すみません・・・そこまで頭が回りませんでした。後悔してます」
「でも、そういう脅迫行為をこれからも続けるメリットってないはずだよね」
「俺もそう思います。そいつらが振り込め詐欺やっているってことは、やはり陽乃さんが探偵とか興信所を使ってわかったんでしょ?」
「あったり~!」
「費用がかかったんじゃないんですか?」
「もちろんそうだけど、静ちゃんのピンチだもん。それくらいどうってことないよ。でも今回ばっかりはさすがに比企谷君でも無理でしょ。あんまり活躍してないみたいだね」
「はっきり言ってギブアップです。佐川が詐欺師であることの証拠はいくつかつかんでありますけど。チンピラグループ相手じゃ、こっちはただの高校生で、男手も少ない。今回は足かせもあったし」
「足かせ? ふ~ん、なるほど。ところで旅行は楽しかった~?」
陽乃さんはニコニコしてそう言う。やはり何もかもお見通しのようだ。小町~陽乃ラインはどんだけ極太なんだよ。電動カッター使っても切れないだろ。しかし、俺はこんな事態になっていたのに気がつかず、浮かれ気分で雪ノ下と出かけていたことが恥ずかしくなった。
「まあ、楽しかったですけど・・・それよりも、連中の情報を詳しく教えてください」
「あいつらのアジトは割れてるよ。そこに出入りしているのは6人までは確認してる。これね」
陽乃さんはバッグから封筒を出して写真を6枚出した。並べると一人だけ見覚えがあった。佐川だ。
「これが佐川明彦ですね」
陽乃さんはペンを取り出して佐川明彦と書き入れた。
「ふ~ん。でもこいつら、偽名使いまくっているから佐川って本名じゃないと思うな」
「こいつの勤めていると称する会社に電話したら、別人の佐川明彦が実在していましたんで。結婚詐欺以外にも振り込め詐欺までやっているとは・・・」
「そうそう。探偵さんはそれ以外考えられないって言ってた。あいつらマンションの一室に閉じこもって、みんなで電話かけまくっているんだって。向かいの建物から室内を撮った写真がこれね。笑っちゃうね。アジトの所在地とか、6人の写真をたくさん揃えて、一切合財のネタは警察に渡してあるよ」
アジトの室内写真を見ると、ちゃんと机があり、その前に電話があり、壁にはどこかの営業部みたいに棒グラフの表が張り付いている。詐欺師の世界にもノルマというわけか。
「警察に通報済みとは、さすがですね」
「それから、結婚詐欺についてだけど、NPOで結婚詐欺の相談に乗っているところがあって、そこに写真を照会したら、君の言う佐川と同じ顔した写真があったみたいだよ。その情報も警察に持ってった。警察にも被害届けが出ているみたい」
「それはすごい。じゃあ、時間の問題ですかね。あ、佐川の乗っている車の写真とかありますか?」
「あったと思うな。ちょっと待って」
陽乃さんは違う封筒を引っ張り出して、ぶ厚い写真の束をあさり始めた。その写真は犯人グループが歩道を歩いていたり、車に乗り込もうとしていたり、アジトのマンションから出てくる場面だったり、よくもまあこれだけ集めたものだ。プロの仕事はすごい。
「こんな写真とかほんの2~3日で揃えちゃうんだよ。さすがプロだよね~。あ、これこれ」
その写真には、紺色のBMWが写っていた。ナンバーもばっちり判読できる。
「くっ、詐欺で儲けてBMWなんて乗っていやがる。この写真もらっていいですか。それから、アジトの部屋の中で佐川の顔が映っているこの写真も」
「うん、いいよ。コピーあるし」
「ありがとうございます。あ、それから、片岡淳平さんの件もありがとうございました。感謝します」
「その人を使って何かたくらんでいるんでしょ? あとは任せるよ。片岡って人はまだ静ちゃんに未練があるみたいだけど、静ちゃんのほうはどうかな~。女って昔の男のことでいつまでもウジウジしていないからね」
「そこはやっぱり賭けってことでしょ」
「静ちゃんも変わっているところがあるからな~。義理と人情の世界の人だからね。うまくいくことを祈っているよ。静ちゃんを助けてあげてね」
「ベストを尽くします」
「なんか、しおらしいね、今日の比企谷君」
「いや、陽乃さんのお手並みに素直に感服しているんです」
「いやだな~、これは私がやったことじゃないんだけどな。全部人任せだよ。君みたいに山梨まで行ったりしたほうが偉くない? 小町ちゃんから色々聞いたけど。その証拠だけでも十分でしょ?」
「まあ、おそらくそうですけど」
「ところで、昔、私と約束したこと覚えてる?」
「なんでしょう。約束なんてしましたっけ」
「雪乃ちゃんの彼氏になったらお茶しようねって言ったじゃない」
「はあ」
「で、なったんでしょ?」
「さあ、どうだか・・・」
実際、雪ノ下の彼氏になったのかどうかわからない。なったような気もするし、まだなっていないような気もする。
「う~ん? 否定しないんだね、今回は。もし否定するんだったらまた私とお茶しなきゃならなくなるよ?」
陽乃さんが大きな目で見つめてくる。目がん?ん?と返事を催促している。
「いや、その・・・」
「この前もそんな感じで煮え切らなかったよね」
俺は思い出していた。俺はかつて雪ノ下にも「あなた私のこと好きでしょ?」と問い詰められたような気がする。確かに俺は雪ノ下のことが好きだったのだが、それを認めるのを避けていた。はっきりと意識することが怖かった。
それは、中学で告白してふられた経験から学んだ俺が、簡単に女を好きになるはずがないという思い込みがあり、また、逆に俺なんかを好きになる女がいるわけがないと思い込んでいたからだ。だが、耳元で雪ノ下にそう問われたとき、俺はとうとう自分の気持ちを認めないわけにはいかなかった。
そして、同じような状況がまた訪れた。妹とその姉によって、俺の心は一番深いところから揺さぶられ、決断を迫られる。
「わかりました。はっきり言います。こんな俺でよかったらですけど、妹さんと付き合わせてください。お願いします」
そういって俺は頭を下げた。一瞬、自分で言ったことが信じられなかった。まるで親に結婚の申し込みでもしているかのような気分だった。
「よく言った! 男はそうでなくちゃね。お姉さんはうれしいよ。二人でいるところを初めて見たときから、お似合いだと思ったもん。雪乃ちゃんのことも助けてあげてね」
「このまえは、身の回りのことやってあげるのはよくないみたいなこと言っていたじゃないですか」
「比企谷君だったらそこらへんの匙加減うまいでしょ?」
陽乃さんは本当に嬉しそうな顔をしていた。何かふっきれたような顔をしている。妹の交友関係や、恋愛関係にこれほど興味を持ち、首を突っ込んでくるのは何か理由があるのではないだろうか。それに、実はこの人、意地悪じゃないんじゃないの? 腹が真っ黒というのもウソ? そんな思いがこみ上げてくるほどだった。
「これで私もアメリカに心置きなく留学できるってもんだよ」
「そうなんですか? いつから?」
「アメリカの大学は9月が多いからね。そのころになると思う」
「陽乃さんのことだからハーバードとかコロンビアとかMITとか?」
「さすがにそのへんは無理なんじゃないかな。しかも1年くらいの短期留学だよ。まあ、いずれわかると思うよ」
帰りは陽乃さんが家まで送ってくれた。俺は佐川とその車の写真を封筒から出し、机の上に並べた。佐川を直撃するにはどこがいいだろうか。しかし、その場面には平塚先生がいることが条件だ。