俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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第七話

家について着替えたときは午前11時だった。スマホを充電する時間もないので、充電器をカバンに入れて家を出た。

 教室は授業中だった。ガラガラと扉を開けて入ると、由比ヶ浜と戸塚のほか、ほんの数人の注目を浴びただけ。そして、休み時間になると、戸塚が近寄ってきた。

 

 思えば最近戸塚とあまり喋っていない。体内の戸塚エキスが底をついて、俺の心の襞はアフリカのビクトリア湖のように干上がり地割れしていた。

 これは待ちに待った戸塚エキスを吸収するチャンスなのか? もっと近寄って! ひざの上に座ってくれたらストローでエキスをチュウチュウ吸っちゃうよ。そしてクンクンもしたい!

 ところが、戸塚の雰囲気はいつもと違い、少し緊張しているようだった。

 

「おう、戸塚。寝坊しちゃったよ」

 

「八幡、何でぼくには教えてくれないの? 平塚先生がピンチなんだって? 由比ヶ浜さんから聞いたよ」

 

「戸塚、声が大きい。そのことは拡散するな」

 

「あ、ごめんごめん、でもぼくにも何かさせてよ」

 

「う~む」

 

戸塚の肩越しに由比ヶ浜が覗く。

 

「ヒッキー、私がさいちゃんに教えちゃった。さっきはコマちゃんも来てたんだよ。昨日の夜、電話切れてからまったく通じないって怒ってた。何やってたの?」

 

「電池が切れただけだ。ほら、まだ充電する機会もない」

 

俺は画面の黒いスマホと充電器をカバンから出した。

 

「それでね、陽乃さんからの情報がたくさんたまってて、みんなで一回集まったほうがいいと思うよ。先生の昔の彼氏とかの件で」

 

「お前も声が大きい。じゃあ昼休みに部室に行くか」

 

「そうだね。そうしよう」

 

「あの~ぼくも行っていい?」

 

「いいでしょ?ヒッキー。もう知っちゃってるし。さいちゃんも準部員みたいなもんだし」

 

「ああ」

 

そんな会話をしていると、由比ヶ浜の後ろから川崎沙希まで顔を出した。

 

「あのさ、私も話を大志から聞いちゃったんだけど。あんたちまた何かやってんだね」

 

「川崎、その話は極秘事項にしてくれないかな。あんまり広がると先生、学校にいられなくなるかもしれん」

 

「わかった。しゃべらないよ。で、大志が色々世話になっているみたいで、お礼をいっとく。ありがとう」

 

そう言うと川崎は自分の席に戻って行った。大志に関してはあんまりお世話していないような気もするが。

 

昼休みになると、俺は購買でパンとコーヒー牛乳を買って部室に行った。すると、戸塚を加えたメンバー全員が揃っていた。みんな昼飯を広げている。小町がさっそく話しかけてきた。

 

「お兄ちゃん。先生の昔の彼氏の名前、片岡淳平っていうんだって。それでね・・・」

 

「まあ、落ち着け、とりあえず充電させてくれ。やっとだわ。音信普通になったのはこれが原因な」

 

俺はポットの脇にあるコンセントに充電器をつなぎ、スマホをセットした。

 

「ふう~。それで?」

 

「その片岡さんてね・・・」

 

小町の話をまとめると、片岡淳平なる人物は平塚先生の2歳年上で、同じ高校と大学の先輩。片岡は高校球児で、大学や社会人になっても野球を続け、スポ根を絵に書いたような熱血漢だったという。

 なんか平塚先生の片割れみたいな人だな。それで、先生と付き合い始めたのは大学時代から。3年前に別れるまで6~7年は付き合っていたことになる。

 体力の限界を感じて社会人野球を止めたのが28歳のとき。それ以降は憑き物が落ちたようになってしまった。いわゆるアノミーというやつだ。で、あとは落ちぶれる一方。会社では営業職だったのだが、その成績も落ち、やがて無断欠勤や勤務態度が問題になりクビ。

 その後、1年近く平塚先生のところへ無職のままシケ込んでいたが、愛想をつかされて放り出された。大雑把にいって、こんなストーリだった。

 

「ヒッキー、それでね、私とコマちゃんで会ったんだよ。片岡さんに」

 

「ほ~」

 

「片岡さん、今ではちゃんと会社勤めして自活しているんだよ。先生にはぜひお詫びしたいと言ってた。今でも先生のこと思っているみたいだった。平塚先生は元気か、とか聞いてきたよ」

 

「へぇ。それはいい情報だな。詐欺師につかまっていることは言ったのか?」

 

「言ってないよ」

 

「それはいい判断だったな」

 

戸塚が「どうして?」と聞く。

 

「片岡さんは今でも平塚先生を思っているんだったら、その話を聞いて勝手に動くかもしれん。動いてもいいんだが、そのときは俺たちが集めた証拠を持って行ってもらわないと説得力がないだろ」

 

「そうだね」と由比ヶ浜が言う傍らで、さっきから雪ノ下がひと言も発しない。表情もどことなく硬い。何か違和感がある。それに気がついたのか、由比ヶ浜がたずねる。

 

「ゆきのん、どうしたの? 疲れた?」

 

「いいえ。ちょっと気になることがあったのよ」

 

「どんな?」

 

「・・・」

 

沈黙する雪ノ下にみんなが注目する。

 

「・・・今回の件とは関係ないのかも知れないけれど、今朝、家についたら、郵便ポストにタロットの『DEATH』カードが入っていたの。そして、5階に上がって扉を開けようとすると、ドアにチョークで『死』って書いてあった。部屋に入ったとたんに固定電話が鳴って、出ると無言で切れた。これが数回。あと、留守電にメモリいっぱいの着信。表示はみんな『コウシュウデンワ』になってた」

 

「ええ~!!怖い!」

 

「本当か」

 

「ええ。まだあるの。着替えて家を出たら、見たことのない25歳くらいの男につけられた。コソコソつけるのではなくて、堂々と。5メートルくらい後ろで、私が止まると止まって、歩き始めると男も歩くのよ。人通りがあって大丈夫だと思ったのだけれど、怖くなって駅まで走ったの。男がつけてきたのはそこまでだった」

 

・・・俺は重大なことを見落としていたのかもしれない。平塚先生が山梨の家に行ったとき、空き家に家具などを入れて住んでいるように見せかけるには、それなりの人手が必要だ。それも、周囲に見られないように注意しながら、夜中に見せかけの生活道具を出し入れする必要がある。それは一人ではできない。仲間が必要だ。

 佐川明彦には詐欺仲間がいたのだ。あいつに顔を見られているのは雪ノ下だけ。雪ノ下は逆に尾行されて家を突き止められたのかもしれない。固定電話の番号は、請求書などの類を懐中電灯で照らせば見える。

 俺たちはヤバイ連中を刺激してしまったのかもしれない。だが・・・雪ノ下に対する脅しみたいな面倒なことをやったとして、何の効果がある? これ以上首を突っ込むなという警告にしかならないのでは?

 

「ちょっと、それは怖いね」と戸塚がいう。

 

「戸塚ごめんな、お前に来てもらったとたんにこんな状況になっちゃって。由比ヶ浜、今日から雪ノ下の家に泊まってくれるか?」

 

「え? もちろんいいよ」

 

「大丈夫よ・・・」と雪ノ下。しかしその表情は若干こわばっている。

 

「小町も行きます」

 

「女だけか。それがちょっと気になるけど。まあ、大丈夫かな、三人いれば」

 

「あの、自分は男っす」と大志がいう。

 

「お前はダメだ。小町と同じ家で寝泊りするのは俺が許さん」

 

「あ、やっぱりそうっすか」と大志が頭をかく傍らで、戸塚も俺のほうを向く。

 

「八幡、ぼくも男の子だよ」

 

と、戸塚、戸塚はむしろ俺の家に泊まってくれよ。

 

「戸塚君、大丈夫だから。ベッドとか布団の数が限られているし」

 

雪ノ下がそういうと、戸塚が少し残念そうな顔をする。

 

「それに、比企谷君のあの顔には、小町さんがいないのをいいことに、俺の家に泊まってくれよ、って書いてあるわよ」

 

「八幡、またからかうの?」

 

「そんなことこれっぽちも言ってないだろ」

 

俺を見ながら小町が「あちゃ~」みたいな顔をしている。

 

「おほん・・・んっ・・・んっ。まあ、俺たちはヤバイ連中を刺激してしまったようだな。これ以上、首を突っ込むのは危険だ。ビビることを期待して雪ノ下を脅したんだろう。確かに高校生をビビらせるには十分だ。ここは素直に、言うことを聞いておいたほうがいい。

 おそらく雪ノ下にこれ以上危害を加えることはないと思う。ちょっとした警告だろう。すると・・・。平塚先生への詐欺は諦めてはいないということになるな。

 あいつら、疑われていると気がついた以上、手を引くか、手っ取り早くコトを済ませる可能性が高い。でも、あれだけ強気で詐欺だと言っておいたから、金を貸してくれと言われてもさすがに先生は躊躇するだろう。いずれにしても、俺たちも急ごう」

 

「それであんな失礼な調子で先生に言ってたのね」と雪ノ下が言うが、その意味について他にわかる者はいない。

 

「それで、どうするの?」と由比ヶ浜。

 

「春ラララ作戦だよ」

 

「それも危ないような気がするのだけれど」

 

「もう、こうなったら録音ファイル二つと山梨の写真を片岡さんに持たせて先生の前で佐川と対決してもらう」

 

「大丈夫かしらね」

 

小町が雪ノ下のほうに向き直って言う。

 

「片岡さんって体格いいですよ。喧嘩になったら負けないと思う。でかいし。結構顔つきもするどいし。そうそう、写真も撮ってきました」

 

そう言うと小町は携帯の画面を見せる。

 

「その写真くれ。連絡先も教えてくれ。とにかく、雪ノ下は今日は部活を休止したほうがいい。由比ヶ浜の家を経由して着替えとかを一緒に持ち出して帰って欲しい。小町と三人で家でじっとしていてくれ」

 

「わかったけれど、ちょっと大げさじゃないかしらね」

 

「一応警戒しとけ。ここ数日で終わるさ。万が一、お前の実家に金があると気がついたら、そういう可能性もある」

 

昼休みが終わるチャイムが鳴った。

 


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