俺ガイル~二次 雪ノ下父が贈賄容疑で逮捕!雪乃が独立する? BT付き   作:taka2992

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第十話

 二月中旬になると、小町は三校の入試を受けた。総武高と私立の滑り止め、そして総武高よりもランクが上の私立共学高だ。

 それまでに雪ノ下の家庭教師は六回くらいついてもらったようだ。一回ウチに来てからは、小町が雪ノ下の新居に出かけて教えてもらうようにしていた。それくらい気が使える妹で俺も助かった。

 

 入試の結果は、信じられないことに総武高と滑り止めに合格。合格発表のあった夜は、父母と小町の三人でお祝いの外食に出かけていった。俺はあり合わせのものでテキトーに夕食をとっていると雪ノ下から電話がかかってきた。

 

「もしもし?比企谷君?小町さん合格したって連絡あったわ。おめでとう」

 

「そうそう、びっくらこいた。お前のおかげだよ。今親子三人でお祝いのお食事会。どこ行ってんだろな」

 

「あなたはまた除け者なのね。小町さん合格すると思っていたわ。できてたから。私が教えることもなかったんじゃないかしらね」

 

「そっか。それよりお前の身の回りは落ち着いてきているのか?」

 

「ええ、私だったらもう大丈夫よ。父親は保釈されて都内のホテルに潜伏中。母親と姉さんがついて回ってる」

 

「学習塾のバイトはまだなの?」

 

「4月からよ。それまでは少しのんびりしたいわね」

 

 こうして雪ノ下と自然に会話していることが、ふと不思議に感じた。去年の4月、俺たちはほとんどけんか腰で言い合っていた。あのとき、強烈な印象を残す言葉があった。

 

「なあ、雪ノ下。一つ聞いていいか」

 

「なに?あらたまって」

 

「お前は最初に会ったころ、人ごとこの世を変える、って言ってたよな」

 

「ええ、覚えているわ」

 

「その気持ちは今でもあるのか?」

 

「あるわよ」

 

あるのかい。最近の雪ノ下の変貌ぶりを見ると、そんなこと忘れていてもおかしくない感じだが。

 

「どうやって?」

 

「そうね。あのときは具体性に欠けていたのは確かだけれど、今はちゃんとしたヴィジョンがあるのよ」

 

「どんな?」

 

「SETIって知ってる?」

 

「いや、知らん」

 

「Search for Extra-terrestrial intelligence、地球外知的生命探査プロジェクトといって、主に米欧の科学者たちが研究を続けているのだけれど、私の夢はそこに参加することなの」

 

「世界を人ごと変えることとどう接続するのかよくわからんが・・・」

 

「SETIって今では少し廃れたプロジェクトで、あまり科学界でも話題にならなくなってきているのだけれど、それでも研究は続いているの。比企谷君、もし地球外生命が発見されたら、もし地球外の知性が発見されたらどうなると思う?」

 

「そうだな、俺は科学のことはよく知らんが、世界中が大騒ぎになるだろうな。科学史上の最大の発見だろう」

 

「その通りよ。もし地球外の知性を持つ生命体が発見されて、コミュニケーションが成立したりすれば、私たち人類に与える衝撃は大きい。そして、地球全体の意識改革が起こるはずよ」

 

「うん、なるほど。地域紛争や民族紛争といった大規模なものから、個人間のいさかいまで、そんなものは些細でくだらないものに思えてくるだろうな」

 

当然、俺が悩んでいた問題など吹き飛んでしまう可能性がある。それどころか、地球外にライバルが出現して、大人はおろか、子供たちでさえ結束してしまうことも考えられる。人類が初めて発見する他者、その存在が人類に与える影響は計り知れない。

 

「そう。だから、私は将来宇宙科学、細かく言うと惑星科学とか宇宙物理学の方へ進むつもりなの」

 

「そうか、さすがだな。たいしたもんだ。専業主夫とか言ってる俺は恥ずかしいわ」

 

「あなたもやりたいことがそのうち見つかるはずよ。そうすれば専業主夫なんて言ってられなくなるでしょ」

 

「そんなもんかなぁ・・・」

 

「そうよ。あなたの将来も一緒に考えてあげるから、あせらずにがんばりなさい」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

 雪ノ下の知らない一面を見た思いだった。あいつはあいつで、この一年で色々なことを考えて成長し、どんどん突っ走っている。やはり、俺には手が届かない人のように思えた。そして、ふと、夏の合宿に行ったとき、夜中に夜空を見上げてたたずんでいた雪ノ下の姿が脳裏に浮かんだ。

 

 そんな会話を交わした翌日、部室の扉を開けると、平塚先生と雪ノ下がいた。

 

「おお、比企谷、来たか。由比ヶ浜は?」

 

「なんかクラスの連中とじゃれあっていましたが、そのうち来るんじゃ」

 

「ふむ。まあいいか。比企谷と雪ノ下、例の勝負のことだが」

 

「はぁ、そういえば勝負なんてやってましたね」

 

「そろそろ結論を出してもいいころだと思うのだが」

 

「平塚先生、その勝負のことでしたら私の負けです。先生もそう思っているのでしょう?」

 

 雪ノ下が目を瞑って両手を広げながらそういった。すると、平塚先生はしばらく絶句していた。

 

「・・・雪ノ下、君は本当に変わったな。あっさり負けを認めるとは。いったい何があったんだ?」

 

「冷静に今までのことを思い出してみると、そうとしか言えないでしょう。ほとんどの依頼は比企谷君が解決しています。まあそのやりかたに異議のある人もいるでしょうけど」

 

「その異議申し立てをすることも可能なんだぞ。いいのか」

 

「ええ。約束どおり、煮るなり焼くなり好きにしてくれてかまわないです」

 

そこで扉が開いて由比ヶ浜が入ってきた。

 

「あ、遅れました」

 

「由比ヶ浜か、今、例の勝負について結論を出そうとしていたところだ。だが、雪ノ下があっさり負けを認めたて驚いているところだ」

 

「そうなんですか。でも、そんな勝負どうでもいいような気もしますけど」

 

「いいえ。ちゃんと白黒つけてもらわないと私が気持ち悪いわ」

 

「そうか。それから、由比ヶ浜は途中参加だ。勝負していることを知ったのも遅かったし、今回はノーカウントだな」

 

「異議はありません」

 

「じゃあ、比企谷、罰ゲームはどうするんだ?」

 

「え?どうするといわれても・・・」

 

 雪ノ下は相変わらず目をつぶったままだ。このままうやむやにしてしまいたかったが、雪ノ下自身がけじめをつけたがっている。なんか、極道の妻みたいだな。

 

「じゃあ、雪ノ下さんには一日・・・」

 

 俺が言いよどんでいると、平塚先生と由比ヶ浜がゴクリと喉を鳴らした。

 

「一日?」

 

「ヒッキーあんまりひどいのはダメだよ・・・それから猥褻なのも」

 

それを聞いて雪ノ下がひきつった笑いを見せる。

 

「そうですねぇ、一日だけ猫耳としっぽをつけて過ごしてもらいましょうか」

 

「ヒッキーそれいいかも。ゆきのん可愛いよ、きっと」

 

「それで決まりだな。ただし、正規の授業中はダメだ。明後日からの土日に卒業式の設営準備や雑務がある。それに奉仕部や生徒会に参加してもらう。そのときに雪ノ下がそのコスプレをする。それでいいな」

 

「わかりました」

 

「いやあ、どうなることかと思ったけど、コスプレで済んでよかったね~」

 

「でも、すごく恥ずかしいのだけれど」

 

「そんなことよりも、私は雪ノ下の変わりっぷりのほうが驚くけどな。お前たち何があった?ん?」

 

「いや、とりたてて何があったわけじゃないでしょ」

 

「そうか、じゃあ私はこれで戻る。そうだ、比企谷、お前には少し話しがある。ちょっと来い」

 

 平塚先生と一緒に部室を出る。すると平塚先生が顔を近づけてきた。

 

「比企谷、あの雪ノ下が負けを認めるのが信じられん。いったい何があった?」

 

「いや、最近雪ノ下家で色々あったじゃないですか。それで俺とか由比ヶ浜が会いに行ったりしてたんです。それくらいですかね」

 

「まあ、いずれにしても最近の雪ノ下は明るい。好ましい方向へ成長しているな。比企谷、君と由比ヶ浜の功績だ。氷漬けの眠れる美女を見事救出したんだからな」

 

「先生もそろそろ・・・なんというか、白馬の王子様に救出してもらえるといいですね」

 

「うぐっ。ぐはっ」

 

しばらく平塚先生のヘッドロックに耐えた。この人ほんと、こんな性格じゃなきゃ今ごろ・・・次は平塚先生の独身地獄からの救出が奉仕部の仕事になるんだろうか。しかし、そればっかりは・・・

 

意識が薄れてばったりと記憶が途切れた。

 

 


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