王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第99話 衝突

 

 

 

「ハイ! 皆さん、お疲れ様でした!」

【した!!】

 

 

 

 

 

無事に東京から宮城――烏野高校へと到着。

 

「で、明日はお伝えしてた通り。体育館に点検作業が入るので部活はお休みです。まぁ、IH予選以降、休み無しでしたのでゆっくり休んでください」

 

武田は しっかり無事故無違反。

 

影山や日向は、色々と想う所がある合宿だったが、最後の最後で思ったのは、【冴子と武田の運転の仕方が全然違う……!】 と言う事だったりした。

 

 

だが、それを感じたのは最初の一瞬だけ。

 

 

後考える事は互いに同じだ。

 

 

そう――あの【変人速攻】の件

 

 

日向は、自分自身で戦える強さが欲しい、と言う欲が原動力。

ただ、どうすれば良いのか、練習すれば良いのかが、まだ不明確だ。

この気持ちは中学時代から持ち続けてきた。……当初は火神と共に練習を積み重ねてきたつもりではあったが………上手くいっていたとは到底言えない。中学時代、最初で最後の公式戦での結果を見ても明らかだ。

勝つためにも 日向は高校に来ても、烏野に来ても、中学時代の二の舞だけは嫌だった。

 

 

影山は、間違えた事は言っていない、と言う自負。……それと烏養の言葉。

あの速攻は、日向の全てを出し切る事で初めて出来る速攻だ。

そこに思考が入ればどうしても一歩、二歩と出遅れる。

コースの打ち分けに関しては元々理想として考えていた事であり、音駒との最初の練習試合、あの犬岡に捕まってから特に考えていた。

それでも―――何度も試してみたが 上手くいく兆しさえ見えそうにない、と言うのが影山の結論。

少なくとも、もう直ぐ始まる春高予選に間に合うとは思えない。

 

間違えていない筈なのに、あの時の烏養の言葉、日向に掛けた言葉が頭を巡る。

 

そして、何より2日目 日向を練習試合に出さなかった事もそうだ。

打たせてもらう感覚を捨てる為に―――とも言っていた。

 

つまり、あの速攻の改善を推奨している、も同然なのだ。

 

 

日向・影山だけではない。

 

 

今、烏野は走り始めて―――云わば分岐点(・・・)に立った状態だ。

 

 

 

様々な内に秘めた想いが渦巻いている、と言える。

ここから進化する方向へ進める事が出来るか否かは、本人たち次第だ。

 

それは火神も決して例外ではない。

 

この合宿で確かに森然、生川とセットを獲る事が出来た。少なくとも自身が知る結果(・・・・)よりも、より良い結果を残せたのは間違いない。勝率も遥かに高いと言える。

だから、全力で否定したいが、運命(・・)とやらがあるのであれば……、少しは抗う事が出来たとも取れる。

だが、それで納得するワケも、満足するワケも無い。

もっともっと上に行く為にも。

 

それに、帰り間際 冴子から言われた事も頭の中に残り続けている。

言われるまでも無い事だ。

烏野排球部に入ったあの瞬間から、清水に背を押され迷いを断ち切り、烏野排球部に入ったあの瞬間から、自分自身は当事者。……一部だと強く思っているから。

 

 

「……………」

 

 

そう、一部。

だが、1つだけ言えるとするなら、目の前の日向だけは少し違う。

 

火神は、この世界の全てが好きだ、と言っても決して大袈裟ではない。

どれだけ強面で、威圧感があっても、他を圧倒する男だったとしても それは変わらないだろう。

 

威圧と言えば コート上の王様、影山と会った時。烏野高校にきて田中に会った時。

更に伊達工業の青根、青葉城西の及川や岩泉、白鳥沢の牛島。……錚々たる面々にあった時もそう。

 

身体で感じた。皆 凄い人達だと思った。

それこそ、同年代、近しい年代とは思えない程に。

日向は面白い位動揺していたが、気持ちは解らなくない。纏っているオーラそのものが凄いのだから。

 

でも、それに勝る感動故に火神はいつも笑顔。まるで明るく無邪気、天真爛漫な男と称される程な振舞をし続けて、新たな縁で繋ぐ事が出来ている。

 

皆平等、等しく同じ気持ちを持っている……と火神自身も内心では思っているが、日向はやはり違う。

 

何故か?

それは単純な事だ。

 

 

 

他の誰よりも付き合いが長いから。

他の誰よりも、付き合いが長いが故にその姿勢や懸命さ、強い想いを知っているから。

 

 

 

知らなかった部分まで、知ったから。

 

 

 

 

 

「考えるよりもまず行動」

「!」

「それ、翔陽は得意な筈だろ? やろうとしている事は、間違いなく超がつく程難問。この間のテストなんて目じゃない。迷うのは当然だし、どうすれば良いのか解んないのも当然。……でも 少なくとも、()出来る事はある」

 

日向が、火神の視線の先を追いかけてみると……、そこには影山が居た。

影山自身も考え事をしているのだろう、何処か上の空だと言う事が、いつも以上に上の空だと言う事が解る。

 

「【1人では出来なくても、2人なら出来る】 だったよな?」

「―――おう!」

 

それは中学時代、日向がよく言っていた事だ。

パス練習もスパイク練習も、1人では満足に出来なかった。まだまだ初心者だったから、と言う理由もあるが、兎に角1人では出来なかった。

 

でも、そこに火神と言う男が加わって、出来る事の幅が劇的に広がった。

 

だからこそ、最初の頃の日向の口癖にもなった。

 

 

「オレも付き合う。今日はまだ身体を動かしたい気分だからな。ただ、トスを上げるとなると―――――烏野のセッターは、飛雄(アイツ)だからな」

 

 

火神がそう言うと、日向は頷き、そして影山の前まで。

 

火神が言わなくても、日向は行動するつもりだった。……決して後付けではないし、独り立ち宣言も、口だけではないつもりだ。

 

それを証明したい、と言わんばかりに 真っ直ぐ影山の顔を見据えた。

考えすぎていたのだろうか、何時にも増して凶悪な顔持ち(暴言)になっている影山に対しても一歩も引かない。

 

 

「影山。……トス、上げてくれよ」

「………………」

 

 

影山は直ぐには返答しなかった。そこに火神がやってきた。

 

 

「もう、疲れて動けない――――なんて言わないよな?」

「や………。………たりめーだ」

 

 

やる意味を見出せないだけ、と言おうとしたが、一先ず飲み込む。

 

あの時から、少しずつだが日向の技術も向上しているのも事実。やらない理由としては弱いし、何より バレーに関しての練習であれば、空いた時間の自主練習であれば、影山は断らない。

 

今まで。烏野にくる以前。

自分の練習に 最後の最後まで付いてきた者は、付いて来れた者は殆ど居なかった。

 

それは単純に横暴だから、王様だから、ではなく、目立たないかもしれないが、影山も日向・火神に負けずと劣らない程の体力お化けだから。

 

 

 

 

 

 

 

そして、体育館へと移動。

ネットを張って、(ボール)を準備して……後は長距離車移動で少々鈍った身体を解してスタートするだけだ。

 

 

「あれ? まだ残ってる……??」

 

 

そこに、体育館の光が見えて、体育館の音に気付いて様子を見に来た谷地が顔を出した。

マネージャーとして、最終確認は済ませたつもり……だったけど、電気がつきっぱなしだった事が気になったから。

 

 

 

「あ、谷地さん。お疲れ様。初めての合宿大変だったでしょ?」

「う、ウッス! 色々とぐわわわーー! で、どわわーー! でした!」

「(どわわー、は初めて聞いたかな)」

 

 

 

谷地の独特な表現方法。

日々、色々とバリエーション豊かになっていくので毎度思わず笑ってしまうのは火神だ。

 

 

「それで、えっと…… 日向と影山君、火神君の3人はまだ帰らないの?(……大丈夫かな?)」

 

 

谷地は体育館内を見渡して、残っているメンバーを確認しつつ 話を聴く。

因みに、谷地の心配は 清水にも聞いていた事がある。

 

日向・影山コンビが 体育館内で大奇声を発しながら、のた打ち回っていた……らしいのだ。

 

部室にまで響いてくる程の大音量であり、清水が覗いた時にはひっくり返っていたらしい。

その場に火神も居た様なのだが……止めきれなかったらしい。

 

また、そんな事が起きたら 今度は誰が……止める?

 

 

「(清水先輩居ないし……、ま、まさか わたしっっ!??)」

 

 

 

ぶるぶるぶる、と思いっきり首を左右に振る谷地。

無理無理無理、と。

 

 

 

谷地が何を考えているのかは、流石に解らない火神は 恐らくまたオーバーアクションで自分の中で盛り上がっているんだろう、と判断した。

 

 

「ちょっと3人で最後に練習していくだけだよ。主に翔陽のスパイクの練習」

 

 

バレーの練習で残る、と言う火神の言葉を聞けたので、1人盛り上がりをみせていた谷地だったが、とりあえず安心・落ち着く事が出来た様だ。それと同時にやっぱり驚く。

 

 

「えー。あんだけ、練習してたのに…… 凄いなぁぁ、やっぱり」

 

 

東京合宿で、これでもか! と思える程動き回っていた筈なのに、帰ってきても練習するとか、一体この人達は何を食べて、何が原動力でそこまで動き続ける事が出来るのか、常人では理解出来ない何か、体力確保アイテムでもあるのではないか? と谷地はまた違う意味で脳内で盛り上がる。

 

 

今回の谷地の妄想? は、ある程度察した火神。

 

 

「まぁ、今日は翔陽はあんまし出れてなかったからね。体力の方は大丈夫だよ。勿論、飛雄とオレも。体力には自信、あるから」

 

 

ぐっ、と拳を握って笑って見せる火神を見て谷地は、改めて驚愕。

考えを読まれた事もそうだが……。

 

 

「ここは村人Bとして……、戦えるBとして……」

「谷地さん?」

「あの! ちょっと見てても良いかな!?」

「……え゛」

 

 

谷地から残る、と言われるとは思っても居なかった火神は、思わず変な声を出してしまっていた。

 

 

「―――でも、今日は疲れてない? 帰って休まなくて大丈夫?」

「大丈夫っス!!」

 

何やら、谷地は気合が入った様子。

何処に気合が入る要素があったのかな? と火神は思ったが…… それ以上にこれから高確率で起こる事を思い浮かべると、谷地が居て大丈夫かな……とも思う。

 

お互い譲れないものがあるなら、文字通り見た通りぶつかり合うのは当然普通の事だ。

勿論、起こったら止めに入るつもりだが。

だが、同時にこうも思う。

火神自身にとっての譲れない物とは? ぶつかり合ってでも譲れない物……とは?

 

 

「(……よくよく考えてみたら、身内以外オレってケンカの類(そう言うの)は した事無い気がするなぁ、こっちに(・・・・)来て。いや、あるのかな? んでも、ネタっぽいのじゃなくて、翔陽みたいな真剣なヤツは………。まぁ 確実にやるってワケじゃないと思うし、何とかオレも止めれるなら止めるし………)」

 

 

答えは出ないので、それ以上考えない。

それに、影山と日向の方はもう準備完了してそうだから。

 

「じゃあ、じっと見てるのもアレだから、オレの真似してやってみる?」

「え゛!?」

「基本翔陽の練習だから、オレも違う角度で見てみたいし、ブロッカーとして立つのも練習になるし」

 

谷地はやる気満々! と言った顔だったが、主に見学スタイルであり、自身が一緒に入ってやることは想定してなかった様だ。

だからか、今度は谷地が変な声出ていた。

 

火神は火神で、レシーバー役…… つまり、影山にAパスで返す係。

勿論、影山は 高く上がればどんな位置からでも、セットアップしてのけるが……今は、今やろうとしている練習では、まず理想的な返球からのスタートで行く。

 

火神は外から見てみて、改善点が有れば口を出すし、例え(ブロック)が1人だったとしても、居るのと居ないのとでは、感じるプレッシャーが違う。

ある程度の本番を想定するなら、ブロックについておいても、何ら問題ない。……遥かに難易度が増す事を伝える結果にもなるだろうから。

 

「え、えと、私にできる!?」

「大丈夫大丈夫。オレがやってるの見てたら直ぐ出来るよ。飛雄に向かって(ボール)を投げるだけだから」

「う……、ウス! やってみる!! 戦える村人Bとして!!」

「ははは。(村人Bめっちゃ気に入ってる気がする……)ありがと。……おーい、翔陽に飛雄! 谷地さんも手伝ってくれるって」

 

 

谷地の了承を得た所で、火神は2人にそう伝える。

2人ともビシッ! と頭を下げて【アざす!】と一言。

谷地ももう流石に慣れている様で、威圧される事なく【オス!】と返事を返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず一球目。

 

火神からの返球……そして、影山の高速トス。

それは、日向がMAXの速度と跳躍力で跳び、フルスイングするインパクトの刹那を完璧に狙って放ったトス。

 

いつも通り(・・・・・)なら、間違いなくドンピシャで打つであろうボール。

 

 

だが、今回は違った。

 

 

「!!」

 

 

日向のスイングは、影山のトスに当たる事なく、(ボール)はそのまま日向を通り越して、コートの外へと飛んでいった。

 

 

「((ボール)に気を取られて、MAXのジャンプじゃない……!)」

 

 

それは、合わせていた影山だからこそ解る事。

そのズレは、時間で表すとするなら、間違いなく1秒を切るコンマレベルの話だろう。

 

そう―――そのコンマレベル、ほんの少しのズレが、このような事態を生む。

 

攻撃が出来ない。コートに落ちた時点で、相手の得点となる。

 

 

「(くっ……そ!)」

 

 

日向の脳裏で、影山が言い放った言葉が廻る。

この致命的なズレ。こちらの点になるかもしれない筈の攻撃が、そのまま相手の得点となってしまった事を認識しつつ、それでも諦めるつもりは毛頭ない。

 

 

「翔陽、今のはジャンプが足らない様に見えたぞ。できる範囲でそっちにも意識してみろ」

「ッ……‼ もう一回!」

「(外から見ても解る程、今、コイツのジャンプ、持ち味が殺されてる)」

 

 

 

次も、駄目だった。

触れる事は出来たが、凡そ攻撃とは言えない代物。

 

 

「飛雄、トスだけど。翔陽のフルスイング、インパクトのタイミングで「誠也!!!」ッ!?」

 

 

火神は、火神の知る知識を影山に伝えようとした……が、それは日向に阻まれてしまう。

 

 

「影山は、良いんだ……! 出来ないのは(・・・・・・)、オレだ! オレが打てる様になれば良いんだから!」

「……翔陽」

「だから―――もう一本!!」

 

 

自身の口では、何を言っても……。

 

仮に後に理解して、今日言った事が正しかったとしても、ただの綺麗事の様に聞こえてしまっている今の(・・)日向には納得できそうになかった。

 

影山の上手さを知っているからこそ、その上手さ故に打てる様になるスパイクなら必要ない、とすら思っていた。

 

 

 

火神は日向の想いを聞いて……。

今の自分に、絶対的に足りないモノを感じた。

 

 

教える技術もそうだが、何より あの烏養繋心(コーチ)の様に、そして何より その祖父の烏養一繋(監督)の様に、平時なら兎も角、今の飢えに飢えている獣の様な日向を説き伏せる事が出来るだけの言葉が見つけれないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

その後、何度も何度も続けた。

(ボール)に当たる事はあっても、それは攻撃とは呼べない。まるで程遠い。

変人速攻の劣化版……、いや 最早 消滅してしまっている。

 

 

 

 

 

掠る、空振り、掠る、掠る、空振り、空振り、掠る、掠る…………。

 

 

 

 

 

何球続けても兆しさえ見えない状況だ。

途中で、谷地が火神がやっていた(ボール)だしを代わり、横からネットを挟んだ対面側から、色んな角度から見て、アドバイスをしている様だが、そもそも 口で何かを伝えただけで、修正できる程、完成に近づける程、この攻撃法は生易しいモノじゃない。

 

それに、火神が谷地に言った通り。

ブロック位置に付いた時。今度は日向は(ボール)だけでなく、火神(ブロック)にも意識が持っていかれてしまい、(ボール)に掠るどころか、何球分だろうか、と思う程、全くと言って良い程触れる事が出来なかった。

 

 

ただ、時間だけが無情に過ぎていく。

 

 

いつもの迫力のあるスパイクの轟音は今日は響かない。

只管、コートに(ボール)が落ちる音だけが延々と続いた。

 

 

「おい! お前もいい加減解ってんだろうが!」

 

 

もう何本目になっただろうか。

如何に体力無尽蔵の日向とはいえ、如何に今日は試合数が少ないとはいえ、今自分がやろうとしている事は、普段の何も考えず(・・・・・)全力で打っていたスパイクと比べたら、遥かに心身ともに負担がかかる。

いつまでも成功しないもどかしさ、混乱する頭。そして何よりも合宿明けの疲労している身体。

 

肩で息をする日向を見て、そして それに対してただただアドバイスに、時にはブロックに徹する火神を見て 痺れを切らせた影山は声を荒げた。

 

 

「オレが間違った事言ってるか!? このスパイク一体いつできる様になるって言うんだ! そもそも出来るかどうかすら怪しい攻撃を繰り返すより、他にもやる事が山ほどある、って事を何で、火神(テメェ)も言ってやらねぇんだ!」

「―――ああ。飛雄()間違ってないと思うよ。……スパイクもそうだが、翔陽には他にも練習すべき事は沢山あるから」

「! だったら「ただ――」ッ……!?」

 

 

火神は日向の方も見た。

そして、はっきりと告げる。

 

 

「翔陽も間違えてない。上手くなりたい、って気持ちが間違いだとはオレは思えない」

「―――ッ!」

 

 

この異常とも言える難易度に挑もうとしている姿を目に焼き付ける。

闘志は何ら衰えていない。

正直、初めて見る姿かもしれない。

 

 

難しい事に挑む姿勢。

 

 

思い返すのはやはり中学時代。

より高く跳ぶ……、あのコートを強く蹴り、その蹴りの音を響かせる跳躍を見様見真似ではあるが、日向に伝えた事があった。

 

正直、火神自身がしても、猿真似に過ぎないジャンプだから、上手く実演してやる事は出来なかったが、それでも日向が確実に将来覚える事であり、現時点での最高到達点向上、より高く、より小さな巨人に近づけるだろう、と火神は発破をかけて、そして 日向もそれに乗って練習をした事があった。

 

 

何度も、何度も。……火神は今目の前にいる影山の言葉を借りて、日向に跳躍力向上を促そうとしたが……やっぱり難しかった。直ぐに伸びるワケもなく、結果として現れなかった。

 

その時も日向は懸命に挑戦をしていた。……が、その姿勢も闘志も、今現在の方が遥かに上だ。

 

ただただ自身が欲し続けてきた飽くなき飢え。

強くなりたい、と言う思いが段違いにその姿勢に現れていたのだ。

 

 

だからこそ、影山は 今火神に言っている事を直ぐにでも言おうとしたが、しなかったのだろう。日向のこの真剣な姿勢を目の当たりにしたから。

 

それでも、失敗を続ければ、成功に程遠い出来であれば、最早我慢の限界。

 

火神が言っている事、これまでは直ぐに理解できたし、何より説得力がとてつもなくあった。影山自身が吸収できる面もあり、信頼すると言うならこれ以上ない程、火神にはあったのだが、この時ばかりは納得は出来ないし、説得力も感じられない。

 

 

【両方共に間違えてない】と言う答えなんて。

 

 

「―――オレは!!」

 

 

そんな時、肩で息をしていた日向が声を荒げた。

 

 

「オレはッ、この速攻が通用しなきゃ……使いこなせるようにならなきゃ、コートに居る意味がなくなるんだ……!」

 

 

日向の想い。

その根幹はやはり自身の力不足。

 

影山・火神の様な天才性も無ければ、月島の様な身長も無い。

山口も突出したものは無いかもしれないが、基本的な身体能力は別として、バレーの基礎は遥かに日向よりも上だ。

そして今は、後塵を拝してしまっている田中の様なパワーも無い。

他の2年、縁下、成田、木下……。自分には圧倒的に足りない面が多すぎる。

 

 

「だから、この速攻にお前の意思は必要ないって言ったんだ! オレがブロックに捕まんないトスを上げてやる!! オレが、お前の100%を引き出して、お前の身体能力の全部を使った攻撃を! そんなトスを上げてやる! なら、お前がコートに居る意味がないワケが無ぇ!」

「でも それじゃあ、オレはいつまでたっても上手くなれないままだ!!」

 

 

影山なら、出来る。ブロックに触らせないトスを上げる事だってきっとやる。日向は確信できる。……だが、同時に打たせてもらうスパイクじゃ自分の成長も無い、と確信できるのだ。

 

影山は、日向を睨み、そして火神の事もにらむ。

 

 

「これでもコイツが正しいって言えんのか? 間違えてねぇと言えんのか!? 春高の一次予選は来月だぞ。すぐそこだ!」

「ああ。……時間があるとは 言えないな」

「使えねぇ武器を引っ提げて、何が出来んだよ!! 完成された速攻と、現時点で全く使えない速攻! どっちが必要だって思ってんだよ!!」

 

 

影山の右手が火神の方へと延びる。

胸倉を掴もうとした。

 

 

「だ、ダメだよ、ケンカは、だめ……っ」

 

 

あまりの迫力に、冗談抜きで普段よりも10倍は怖い影山に威圧されて、声が中々でない谷地だったが、流石に手が出そうになるのだけは、止めないと、と声を上げる。

 

だが、男子の喧嘩を間近で見た事などないし、日向よりも遥かに華奢な自分が止めれるワケも無いから、それ以上何も出来ないでいた。

 

 

「ははっ」

「あ゛!? 何がおかしいんだテメェ!!」

 

 

ガッ、と、掴み上げる。

とうとう火神の胸倉に、影山の手が届いた。

だが、それでも火神は冷静そのものだ。

 

 

 

「飛雄。―――今、完成された(・・・・・)速攻、って言ったか? らしくないんじゃないか。本当にそれでお前は満足なのか? オレにはそうは思えないんだが。普段のお前を見ていたらな」

「!」

 

 

火神はゆっくりと、影山の手を離させた。

 

 

「あの速攻……、これまで何度ブロックに止められた? 何度、レシーバーに拾われた? ……オレも初めてあの速攻を見た時、あの3対3の時、拾う事が出来たぞ。それで、本当に完成された(・・・・・)って言えんのか?」

「ッ!! だから、オレが、オレがブロックに捕まんないトスを上げりゃ良い!! ブロックを振り切ったなら、オレがブロックを振り切れたなら、どんなヤツでも んな何度も拾えるもんじゃねぇ筈だ!!」

 

 

明らかにプライドに触る言葉を言われた筈なのに、……明らかに動揺の色を隠せれていないのは影山の方だった。

 

何度も何度も自分を、と主張する影山に火神はまた一歩前に出る。

 

 

オレが(・・・)オレが(・・・)オレが(・・・)、……それじゃ飛雄。中学時代(あの時)に逆戻りだ」

「ッッ!!?」

 

 

怒気を強める影山に対し、終始冷静でそれでいて言い聞かせる姿勢を貫く。

頭に血が上っている相手を説得する……なんて、かなりの難題ではあるが、聞く耳はまだ持っている筈だ。

 

過去の出来事を、心底怖い―――と表現していた影山なら。

 

 

 

「―――オレは! 自分でも戦える強さが欲しいんだ!! 打たせてもらうだけじゃ、絶対ダメなんだ!!」

 

 

 

影山が一瞬引っ込んだ所で、日向が更に前に出る。

 

 

「―――オレも正しい、って言ったよな?」

「……ああ。飛雄の事も間違ってるとは思えないよ」

「なら、コイツのこれは、正しい(・・・)じゃなく、わがまま(・・・・)、って言わねぇのか!? チームのバランスが崩れるって思わねぇのか!? オレは、今の攻撃が、この攻撃が勝ちに必要だとは オレには到底思えねぇ! 今の日向(コイツ)が勝ちに必要なヤツだともな!」

 

 

影山も息切れをする勢いで吐き捨てる。

 

「な、仲良く、仲良く……しよ? ね……!?」

 

火神が入っても、一向に収まる気配がしない。

これまでとは根本的に何かが違う、と谷地は感じていた。

 

あの試合の時から、日向と影山に亀裂の様なモノが入って……それは、火神でも埋められないモノじゃないか、と谷地は思ってしまった。

 

 

必要だと思わない、と日向を見た後、改めて火神を見た。

 

昔に逆戻り―――。

 

その言葉は、影山を抉る事になる。

だが……それでも。

 

影山は少しだけ冷静になれたのか、声のトーンが落ちた。

 

 

「例え、納得出来ない事言われた火神(ヤツ)でも、試合に勝てるなら、オレはトスを上げる。……火神。お前と日向(コイツ)の絶対的な差は、そこだ」

 

 

 

 

 

―――下手な奴は 自分の言う事だけを聞いていれば良い。

 

 

 

まるで、そう言っている様だ。

だからこそ、火神はあの中学時代、王様と呼ばれたあの時代の話を持ち出したのだが、影山は頑なだった。

 

 

もう一度……と前に火神が出る前に、行動に移したのは日向だった。

 

 

「そんな事解ってる!! オレが誰よりも解ってる!! ぜんぜん埋まらない差がある事くらい、痛いくらいわかってる!!! ――――だからっっっ」

 

 

弾かれた様に、日向は動いた。

まるで、あの速攻の時の様な素早さで、火神を横切り、影山の名を叫びながら その腹部目掛けて突進(タックル)

 

日向が爆発しなければそれに越したことはない、と考えていた火神。

仮に爆発してもどうにか強引にでも抑えれば良い……と思っていたのだが、流石にタイミングが解らない攻撃に対して、止めるのは至難の業だ。

 

少なくとも―――火神が知る場面ではない。影山は終始否定的なのは同じだが、少なくとも放棄して、背を向けたりしてない。

 

 

日向の琴線を……火神も見誤っていた。

 

時折、言われていた事だから、と、易く見ていたかもしれない。

 

 

 

 

「ッッ!!? だ、誰か……! 先輩!!」

 

 

 

遅れた形にはなったが、火神も2人の方へと駆け寄る。

 

 

 

 

 

「ッ! くっそが、何すんだ!! 離せ!!」

「トス!! トス上げる! 再開する! って言うまで、絶対放さないッッ!!」

「バッカッ、落ち着け翔陽ッ!」

「離せボゲェ!!」

「飛雄も落ち着けッ!」

 

 

影山と日向の間に割って入る火神。

普段の日向なら、それで止まるだろう。……でも、今回ばかりはどうしても譲れないモノだった。

 

自分で戦える強さもそうだが、やはり、日向の根幹にある飢えの原点でもある あまりにも大きすぎた光。

その差を突きつけられたから。

 

 

だから不甲斐ない自分を変える為に。強くなる為に、間違った方法かもしれないが、日向は突き進むしかなかったのだ。

タガが外れたかの様な日向の力は普段よりも増している。

普段手玉に取る、日向を放り投げるくらいの腕力を持つ影山も振り切る事が出来ず、加減が出来ない。

火神もそんな2人の全力の取っ組み合い、2人分の火事場の馬鹿力を1人で抑える事は難しいらしく、どうにか間に割って入るが、こんな時でも日向の素早さには舌を巻く。

 

 

 

 

「!? お前らやめろ!!!」

 

 

 

 

最終的に、谷地が呼んできた田中が(実力行使で)止めてくれたのだった。

 


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