王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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第94話 エースの定義

 

「うはー……、こっちまでのドライブ、田中さんの姉さんとのドライブで、そんな事までしてたんだ……。すげー濃厚な時間だったんだねぇ」

「うん……。最終的に煽ってきた車追いかけて、捕まえて、舎弟にしてた……」

 

火神は日向に今日の補習、追試の件の延長で 田中冴子とのドライブの件についてを日向に聞いていた。田中の姉が送ってくれる事は知っていたのだが、その詳細については知らなかったから。……話を聴いてみて、【是非自分も!】と、ならなかったのは当然の話。

 

「あ、はははは……。それが無かったら、もうちょい早くついてたかも、なのか?」

「ん~、取っ捕まったにーさん、ねーさん達がこの辺りが地元らしくて、近道教えてくれたから結果オーライだった、かな?」

「………なんにせよ、すげー刺激的、濃厚なドライブだったんだな。こっちも刺激的な試合ばっかりだったけど」

「うーー! 刺激的っていうなら、オレは絶対試合(そっち)が良い!!」

 

冴子とのドライブは確かに刺激的。ジェットコースターの連続、と表現すれば解りやすいだろうか。特にガラが悪そうな車を追いかけだした時なんか、色んな意味でドキドキしっぱなしだった。

 

でも、やっぱり同じドキドキをするのなら バレーで強い相手と切磋琢磨、高め合って~ と言うのが日向にとっても嬉しいし、やりたい。

どう頑張っても 過去に戻れない以上、今日 日向や影山が来てなかった時の試合は出来ないんだから。

 

【回り道】について説いてくれた冴子が、日向のセリフを聞いていたら怒るかもしれないけれど。

 

 

「………それに、オレは今日の試合……やっぱ、まだまだだと思ってるから」

「ん。森然や生川には勝ち越し出来たし、初日の入り方としては上出来……と言えるかもだが、満足はしないよな。―――やっぱ2強の音駒や梟谷は甘く無い」

 

日向は神妙な顔を、火神はこれでもか! と言う程の笑みを見せる。

 

「いや、うん。勝てたのは良い事だってオレも思う。………けど、違う(・・)んだ」

「ん?」

 

日向は、実に対照的だ。

寧ろ、火神と日向が反転したのでは? と思える程 更に神妙な顔をした。

 

火神が笑っている事も全く目に入っていない様だ。

 

 

「(後半……もう、あの速攻に付いて来られた。何度も触られた。多分、もっと回数を重ねれば重ねる程、捕まってしまう。………伊達工、青葉城西、それに今日。強いトコは 今のオレ程度の攻撃じゃ………)」

 

 

生川、そして森然。

勝ち越しをしたとは言え、全て接戦だ。そして初日である事も当然あるだろう。

 

何せ 火神・日向のビックリタイム継続時間をしていたから。

 

それは あの主将同士の会話を聴けば解る通り 初日は十全に機能していたと言えるだろう。……だが、それでも接戦。音駒や梟谷に至っては、接戦で善戦したとはいえ 全敗だ。

 

 

「(……強いトコ相手じゃ、いつまでもは通用しない。……オレには誠也みたいに駆け引きできないし、東峰さんや田中さんみたいに、(パワー)勝負もできない。………それに)」

 

 

日向は次に思い浮かべるのは音駒の事。

 

音駒、……孤爪に負けない、と言う気持ち以上に あの犬岡の事を考えていた。

前回、犬岡と言う好敵手が自身を高めてくれる相手だと。色んな駆け引きをして、高め合っていける間柄であり、それに加えて負けたくない相手だと認識していた。

 

 

でも、今日は違ったんだ。

 

 

その好敵手(ライバル)は、控えに居て コートに立っているのは別の男だった。

 

190はあろう長身の高さ、身体を操るしなやかさ、更に目立つのはやはり攻撃面。

その身体は 背が高いだけでなく手足も長い。まるで鞭みたいな高速のスイングから繰り出されるスパイクは、その高さに合わさり、とてつもない攻撃力となっている。

 

ネットを挟み、相対して見たらよりよく解る。

 

あの一撃は音駒のエース、トラの一撃よりも強かったと言うのが。

 

※それは日向の感想である。

(勿論、口に出しては言わない。……無言の圧力を受けた気がしたから)

 

 

 

 

「誠也は、音駒の11番―――」

 

 

日向は火神にあの11番の事、知っているか? と聞こうとしたその時だ。

 

「しょうよーー! それにせいやーー!」

 

ぱたぱた、と駆け足で寄ってきた者が居た。

丁度、考えていたばかりの男、犬岡だ。聞きたい事があった日向にとってみれば 実にタイムリーで有難い事に。

 

 

「翔陽の速攻も相変わらず凄かったけど、やっぱ今日の誠也の方がやばかったって!! なんか、もうとにかく 守備もスゲーの!! くーーー、護りの音駒として、オレも負けてらんねーー!!」

「お、おうっ!? 攻撃面も頑張ったつもりだったけど……?」

「もちっ! どっちもスゲーけど、目立ってたのが守備だったんだって!」

 

 

突然駆け寄ってきた。嵐の様にやってきては1人ハイテンションで、目の前でぴょんぴょん飛ぶ犬岡に流石の火神も気圧されてしまいがちだった。

犬岡に呼ばれて振り返ったその瞬間からこの会話だから、当然と言えば当然だ。返答できただけ見事と言って欲しい。

 

「……犬岡、落ち着きなよ」

 

そして、そんな犬岡の影に隠れる様にいたのは孤爪。

 

普段から猫背で小さく構えているからか、犬岡みたいなそれなりに背の高い人と一緒に居たら、余計に隠れられてしまいそうだ。……元々、目立ったりするのは好ましくないから好都合なのかもしれないけど。

 

「丁度良かった、なー、研磨、それに犬岡! あの音駒のMB(ミドルブロッカー)って何者なんだ!?」

「あ、翔陽がさっきオレに聴こうとしてたの、ってソレか。えっと、灰羽―――って呼ばれてた長身のMB(ミドル)

 

ふんふん、と日向の疑問に対し、音駒の2人が居るのに、ついつい知っている(・・・・・)火神が (やや嬉しそうに)ある程度、答えていた。

 

そして―――孤爪がそれに付け加える。

 

 

「そ。1年の灰羽。灰羽リエーフ。ロシア人と日本人のハーフだよ」

 

 

リエーフについての説明をしてくれた。

勿論、日向が一番食いついた単語は当然【日本っぽくない名前】と【ハーフ】。

 

「ハフッ! ハーフッッ!! かっけぇぇ!! り、リエっ!??」

「翔陽、一旦落ち着こうか。今 過呼吸みたいになってて言えてないから」

 

先ほどの神妙な顔つきは一体どこへやら……。興奮度が一気に最高クラスになったのか、ぴょんっ‼ と飛び上がりそうだったので、火神は背を叩いて落ち着かせる。

結構力強かったのか、日向は今度は咽てしまった。

 

「げふんっ! 強いよ、せーやっ! いや、それより、りえ、りー??」

「【リエーフ】ね。えっと、なんだっけ……? ロシア語で、………虎?」

「研磨さん、虎だったら、山本トラさんと被っちゃいますよ?」

「ん。確かに。……でも、それ仕様がなくない?」

「大丈夫っすよ! リエーフは【獅子】! らいおん、っすから!」

 

リエーフの名に暫く盛り上がる。

 

誰かの名前でここまで盛り上がったのは結構久しぶりの事だ。

更に付け加えると、盛り上がっていたのは火神だけであり、全て自己完結していた事だから、誰かと名前で盛り上がるのはちょっぴり新鮮だったりもする。

 

 

「前の時は居なかったよな? 誠也」

「うん。あんなに目立ってたら忘れようがないよ」

 

以前の練習試合の時の事を思いだしながら、日向は火神に改めて聞いていた。

単純に、チーム最長身の黒尾よりも大きいから、もしもリエーフが烏野へきていたら目立つ。何より、火神がビックリするから。

 

日向自身は、音駒と練習試合をやれる事自体が嬉しすぎて、音駒主要メンバー以外の選手まで、事細かな事までは覚えきれなかったのかもしれないが。

 

 

―――若しくは、個人で受けるテストならまだしも、他の不明点に関しては、結構火神に依存してるかもしれない………と言うのは別の話。

 

 

「うん。あの時はベンチ入りメンバーしか行ってないからね。それに あの時はGWだったし。まだ1ヶ月ちょっとだったから。リエーフはほぼ素人同然だったし」

「え? 1ヵ月? 素人??」

 

 

今日のリエーフの動きを見た上で、孤爪の言葉を頑張って日向は頭の中で連想させたのだが……、やはりそぐわない。リエーフに一致しない事が多くて首を傾げた。

 

GW(5月)、1ヶ月。……素人。つまり、アレで高校からバレースタートした、って事ですか。……末恐ろしい、ってヤツですね」

 

分かってない日向にも解る様に掻い摘んで翻訳・解説。

日向も、【あれで高校からっ!??】と目を丸くさせて驚いていた。

 

リエーフは 技術面がどうしても影響する守備は兎も角、兎に角 点を稼ぐスコアラー。

点を獲る為に必要な手段、手法は正確に理解してなくても、実演できるだけの身体能力を持っている。

 

そして何より、心底火神が楽しみにしていた者の内の1人、と言っても良い。

 

まだ2度しか対戦していないし、犬岡や黒尾と交代もしてたから まだまだ物足りない気分だから、明日以降が楽しみで仕方ない。

 

「……………れ」

 

そんな時、孤爪の声が聞こえてきた、気がする。

リエーフの事を考えていたので、少々気が散漫になってたかもしれないが、それ以上に孤爪の声が小さいのが原因だと思われるが。

 

火神は孤爪の方を改めてみていると……、普段から眠たそうにしている印象の孤爪の目が更に薄くなっている。

 

火神は、孤爪に ネコの様な瞳で……ジト目されていた。

 

 

「それ、誠也が言っても説得力全く無いんだけど……?」

 

 

自身の声が届いてなかったのを察した孤爪が、改めて火神に苦言を。

日向は、リエーフの事に対して驚いていて、犬岡も 負けない! と奮起していて、正直聞いてなかったのだが、今の声は届いた様で、皆が孤爪に視線を向けた。

 

「え? 何でです?」

「クロに聞いた。クロは……多分、そっちの澤村(主将)に聞いたんだと思う」

「「???」」

 

孤爪が言っている意味がいまいち解らない火神……と日向は同時に首を丁度右45度に傾ける。妙に息が合った連携に、思わず犬岡は笑ってしまったが、それ以上に孤爪の言ってる事も気になるので、口は挟まない。

 

「―――――はぁ」

 

孤爪は、一度ため息を吐いて――――続ける。

 

「誠也と翔陽って、同じ中学だったんだよね? 練習環境も正直悪くて、中々練習出来ない環境で。……それで、公式戦に出たのって、中学の最後の大会だったとか?」

「おう!!」

「――――プライバシーの侵害だー、と言いたくなりそうな気もしますが、まぁスルーします。その通りですね」

 

 

同じ中学出身~ までは 普通に話で上がりそうだが、流石にその中学時代の環境等の紹介は必要無いだろう。それこそ、テレビ番組で有名人が紹介される様な展開ならまだしも。

 

それに、話の肝の部分が見えてこないので、改めて聞き手に回る火神を見て、孤爪はもう一度視線を狭めながら言った。

 

「身体能力に依存してる翔陽なら解る。でも、誠也はどう考えてもおかしい。どうやったら、そこまで(・・・・)レベル上げれるのか、全然解んない。スライムばっかり倒してても、そこまでレベル上げるのは時間が足りないよ」

「へ?」

「んん??」

 

孤爪お得意のゲーム例えに、中々ついていけてない日向だったが……、何となく空気くらいは読めたので、訝しむ様な視線を孤爪に向ける。

火神も、所々孤爪節が出ていて面白い事を聞いた、とも思った。

 

そして、その話を理解していくにつれて……、ややタイムラグはあったが、孤爪が言わんとしている真意を把握。

 

「リエーフは確かに凄いと思うけど、今はほぼ、センスと身長に任せてるだけ。デキる事にも限度があるし。その点誠也は? ―――――どこで(・・・)レベル上げた、っていうの?」

 

 

じ~~、と孤爪に見られる火神。

確かに、リエーフと比較されてもおかしくないか、と改めて思う。

 

クロ―――即ち 黒尾と孤爪は幼馴染だし、例え先輩だろうと普通に接し、話す友達の間柄だ。それに加えて、黒尾は主将だから澤村と話す機会も多いだろう。

 

更に言うと、黒尾は火神の事を当然ながら注目している。正直異常だ、とも何処かで思っていて、それが澤村の説明で完璧に合致した様だ。

 

【おたくのおとーさん、あんだけやれるんなら、――全中とかで騒がれてそうじゃん?】

 

どんな会話だったかの詳細は省くが、火神の力量に舌を巻き、その話の延長戦上に 中学時代はどうだったか? 中学の全国を知ってるのでは? と言う疑問に行きつき――――そして、大体知っている澤村から、先ほど孤爪が聴いた通りの答えが帰ってきたのである。

 

 

即ち………中学の実績は皆無である、と。

 

 

練習環境でさえ劣悪そのもの。加えて、日向と共に過ごしてきた、と言う言質も取っているので、日向に隠れて社会人チーム等でもまれた、みたいなのも無い。

 

だからこそ、日向は最初の頃。

 

【誠也は色々おかしいんですーー!】

 

と発言が多かったのだ。

 

 

 

そして、それを聞いた黒尾も当然 日向と同じ意見。

日向も色々とおかしい事を鑑みると、方向性は違うがある意味同類? とも思えるのは事実だが。

 

 

 

それは兎も角―――――色々と察した火神は苦笑いをする。

孤爪は、とことんまで追求する! と言う性格ではないと思うが、ゲームで例えた以上、それなりに……いや、それなり以上に気になっているのは確かだろう。

 

色々と教えて貰えたし、これからも良好な関係は築いていきたい、と言う気持ちもあるので……できる範囲(・・・・・)では正直に、そして、なるべく(・・・・)真実を含めて。

 

 

「えっと―――アレです。強くてニューゲーム(・・・・・・・・・)?」

「………………」

 

 

その後、孤爪が更にネコ化(・・・)したのは言うまでもないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だかんだで、火神は。

 

【小学校の頃、頑張った】

 

や。

 

【親がバレーをしていて教わった】

 

 

等で落ち着いていた。

テレビでバレーの試合を見て興味を持って―――とも伝えた。

 

起源にして頂点なのは、今目の前に居る人達なのだが。

ある意味本当の事を話していたつもりではあるが、そんな突拍子もなく荒唐無稽な話を信じられるワケ無いのでもどかしいのは致し方ない事だろう。

 

孤爪もある程度満足? してくれたので、話題を変えようと奔走。

 

と言うより、日向が口火を切ってくれた。

 

 

「だーー! 遠回しに研磨はオレの事 バカにしたんだろーー! わかってますよーー! そーですよーー!! 誠也は凄いの! そーなのっ!!」

「あー……、まぁ解らなくもないけどね、そーいうのも」

 

 

大体の日向の心情くらいは察する孤爪。

孤爪も負けず嫌いな性格である事を考えたら………多少興味が無かったとしても、そのくらいは察しが付くと言うものだ。

 

 

「っていうか、リエーフも高校からスタートってのもスゲーよな! ふんっ! 羨ましくなんかないやいっ!!」

 

腕組んで、ぷいっ、とそっぽ向く日向を見て、火神は呆れながらも笑う。

 

「だーかーら、翔陽には翔陽にしか無いモンがあるんだ、って何度言ったらわかんだよ、つーか、高校生にもなって 頬膨らませて ぷいっ、ってのは幼過ぎるだろうに……」

「うっせーー!」

 

今度は両拳を振り上げて抗議。

火神は、とりあえず日向を落ち着かせようとしていた。

 

 

「リエーフに関して言えば凄いっていうのは概ね正しいね。戦力になるし。それに素直なヤツでもあるし、ヤな奴ってわけじゃないよ。……たまに素直過ぎるけど」

 

 

リエーフの事を考えてると……弧爪は1つちょっとした日向へのフォローを閃いた。

そもそも、ずっと考えていた事(・・・・・・)ではあるが。

 

 

「凄いのは身体能力とセンスだけ。他のは翔陽より ダメダメだよ。パスとかレシーブとかの基礎は全然まるっきり。翔陽よりもダメ。サーブも翔陽よりヘタクソ。そこが誠也と圧倒的に違うトコ」

「……………」

 

 

つまり、リエーフは日向よりヘタクソです、をなるべく強調して、ちょっとした劣等感を拭ってあげようと言う孤爪なりの優しさ? である。

 

勿論、それで日向が喜ぶワケもなく。

 

 

「なんだよそれっ!! 研磨のヘタクソはオレが基準なのかよっっ!」

 

 

所謂火に油状態なのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、それは夜の事。

たらふく晩飯を腹の中いっぱいに詰め込み終えて一息ついた所。丁度尿意を催してきたのでトイレに向かっていた。

 

烏野の学校内合宿では、トイレのオバケさん騒動(正体=西谷)があってか、日向もそれなりに怖がっていたんだけれど、この合宿では大丈夫そうだ。今は日向も思いっきり飯を腹の中にかきこんだみたいで、部屋で少々丸く膨らませた身体を横にしている。

 

 

「(確か、翔陽はトイレに行こうとして、リエーフに会った……んだったっけかな?)」

 

 

まだリエーフとの邂逅は知る範囲ではない。

今日の試合、翌日から参戦予定だった筈だけれど、自身が知る以上に到着が早かったので、2人とも音駒との試合には参加出来ている。

 

結果、また惜敗したワケではある……が、それは次に持ち込みだ。

 

「これ、最早 色々と知らないハイキュー‼ って言って良い。……最高最高っ。絶・最!」

 

火神はニヨニヨ~ と今日の試合やらを思い返しては頬を緩めていた。

最初だ。最初のみだ。そこから先は、従来の負けたくない気持ち全面で全力で頑張る所存ではあるが、どうしても一番最初は、変なテンションの上がり方になってしまうのは、重々承知している。

 

清水に 七転八倒、百面相、した痴態を目撃された時に、より強く思った。

 

 

アレも最初だった。烏野高校に入学して……、本当に最初の頃だった。

そして今もそうだ。

仕方ない、本能のようなものであり、それを御しようとするなんて実に難しい。

 

だから、こうやって(なるべく)誰も居ない所で口に出してそれとなく発散するのが火神流である。

 

 

「ふんふんふーーん♪」

 

 

鼻歌も混じって、これじゃ 便所行く時の日向と同じだな、と頭の中では笑いながら、ガラッ、と扉を開けてみると……。

 

 

「「あっ」」

 

 

――――バッタリ出会ってしまった。

 

火神にとっては想定してなくて、唐突、それでいて随分ベタな出会いだ。

 

 

 

「なんか変な声が聞こえてきたかと思ったら、烏野の11番!」

「っ!?? へ、へんな声で悪かったなっっ!!」

 

 

 

正直――清水パターン再来か!? と、脇の甘さ、そして煩悩に逆らえない自分に恥じらいを覚えつつ、聞かれた?? と心配していたのだが……、ある意味良かった。

歌ってた、とまでは思われてなかったらしく、変な声との事。

 

それはそれで失礼だと思うが。

 

兎も角、変な声、と言われて 思わずまた変な声を上げてしまった火神だったが 兎に角気を落ち着かせた。

 

 

「灰羽、リエーフ君、だったかな」

「そうそう! オレ、リエーフ! リエーフで良いよ。君要らない。それよか、すげーな! 11番!! あの梟谷のエースの人の一撃止めちゃったのみて、オレ、めっちゃビビった!! ビリリっ! と来た。あんなヤベーの止めちゃうなんて、黒尾さんも止めてたけど、何か違った!!」

 

 

そして、出会った相手とはリエーフ。

どのタイミングだとしても、リエーフが出没するのはトイレ? と一瞬火神は苦笑いしつつ、突如始まったマシンガントークの合間を狙って自己紹介を。

 

「オレは、火神誠也。1年の」

「! そう、そうだった! 先輩たち言ってた。かがみせいや。烏野のお父さん」

「………………」

 

 

これは不本意である。

本当に不本意である。

 

火神は、自身の変な渾名が烏野と言う枠を超えて他校にまで渡ったんだ……と認めたくはないが、認めざるを得ない、と観念したと同時に、どっ、と肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「解ってると思うけど、同い歳だからな! リエーフとオレ! 烏野高校1年! 1月6日の早生まれ!」

「うん。解ってる」

「なら、おとーさん、ておかしいって思わなきゃだろ??? 烏野の皆は…… まぁ、兎に角。音駒の皆さんとの面識ってそこまで多くない筈なんだが!?」

 

そして、不本意な渾名が広まった火神。

とりあえず、同じ1年であるリエーフには ツッコム所はツッコんでおこう、と言うワケで反論をした。

 

リエーフは、火神の圧力に、ぎょっとしていたが、両手で制しつつ ニカッ! と笑う。

 

「でも、皆に頼られてるって事じゃん。それ素直にスゲーと思うな! あのブロックも凄かった! 音駒(ウチ)とやった時も色々凄かった! 流石、烏野のエース!」

 

孤爪が言った通り。

リエーフは良くも悪くも素直な性格。

思った事は口に出さないと気が済まないのだろう。

負けたくない、と言う気持ちは節々に感じるが、それ以上の称讃の気持ちがあるのか、飾らずストレート。

 

でも、返答は大体予想がついているけれど、一応否定はしておく。

烏野のエースの名は、まだ少々早い……と言うより、ちょっぴり荷が重い気がするから。

 

十分過ぎる程の過小評価な火神だが、裏を返せば まだ一切満足していない、と思っているという事。

 

 

烏野のエースは、もっと凄い(・・・・・)んだ、と思っているという事である。

 

 

「いや、エースはオレじゃなく「うわあああっっ、せ、せいやがロシア語話してるっっ!??」………へ?」

 

 

色々と考えを選んで言葉を口から出してる所に水差された。

それもワケが解らない言葉で。

 

乱入者は、声を聴けば解る。

 

振り返ってみて確信する。

 

日向だ。

 

 

「翔陽?? え? オレが、何だって??」

 

意味が解らない言葉をとりあえず貰って、その上大層日向に驚かれたので、一応聞き返した。

 

「だ、だって、ホラ! 音駒の、ファッ! フェッ!! りっ、リエッッ!!」

「はいはい、どーどー、落ち着いて落ち着いて」

 

日向がテンパるなんて最早日常茶飯事。

初めて(・・・)の付く事をする時は、決まって大体テンパる。 

なので、対処法も自然と身についているものだ。

 

 

「取って喰いやしないから落ち着けって。そもそも、オレ、普通に日本語で話してるじゃん。何処をどー聞いたらさっきのがロシア語? になるんだ?? 英語なら兎も角、ロシア語なんて喋れるわけないじゃん」

 

呆れ果ててると、リエーフも誰がやって来たのか解ったのだろう、ひょいっ、と火神の横から顔を出すと、日向と目があった。

 

「お、次は烏野の10番!」

「ッ! ニホンゴだ!!?」

「ほらほら、リエーフだって日本語話してるでしょ? ……そもそも、今日の試合でリエーフずっと日本語喋ってたじゃん。ロシアッぽい言葉喋ったの聞いた?」

「そ、そーいえば………」

 

 

火神にそう言われ、言われたままに日向は試合まで記憶を遡る……。

 

 

鞭の様なスイングから放たれる強力な一撃。

影山の超精密且つ、ブロッカーに悟らせない姿勢で、一度離したかと思えば、直ぐに追いついてくる敏捷性(アジリティ)

犬岡の様に、ブロックに捕まった相手。

そして、火神よりは背が明らかに高いから……恐らくは190はあるであろう長身。

 

幾ら思い返しても、ロシア語? っぽい言語は聴いた覚えが無い。ただ、耳に入ってなかっただけかもしれないけれど。

 

 

「あっ、ごめんごめん。確かに、そう思われちゃうかも。火神がふつーに対応してくれてるから、ウカツだった。ロシア語ならオレ、喋れない。日本生まれの日本育ちだから」

「!!」

 

リエーフ本人の口から言質も取れたので、とりあえず日向は落ち着きを完全に取り戻せていた。

 

怖がっていた様だが、落ち着きを取り戻せていたので、改めて傍に寄ってみる。

近付けば近付く程―――灰羽リエーフと言う男のデカさが身に染みて解ると言うものだ。ずっと傍に居たら首が痛くなってしまいそうだから。

 

「近くで見たら、やっぱ、でけーー! 誠也より10㎝くらい?? もっと? な、なぁ 身長どんくらいあんの?? あ、オレ日向翔陽! 誠也の相棒! 1年!」

「へぇ、おとーさんの相棒かぁ。っとと、背ならこの前194になってた。因みに、オレ灰羽リエーフね」

「194! すげーー、いいなーー! ん??」

 

日向はふと、ある事に気付く。

気付くと同時に、孤爪の話を思い返す。

 

 

「あっはっはっは。やっぱ、もう広まっちゃってるな? 誠也おとーさん」

 

 

孤爪が黒尾から聞いた様に、リエーフにも伝わっていて、この分じゃ 音駒全体に広まってたって不思議には思わない。横でため息を吐く火神に大笑いして言う日向。

 

 

「やかましい! 背、もっとちっさくすんぞコラ!」

「ぐあああ、や、ヤメレ―――!」

 

 

とりあえず、調子を取り戻し調子に思う存分乗った日向の頭を鷲掴みにして、ぐりぐり~と体重をかけながら押しつぶしていく。

 

日向は、これ以上背を小さくさせられてたまるか! と藻掻くが、パワー比べはどう足掻いても火神に軍配が下るので、中々難しい。

 

 

「あっはっはっはっは! そんな事しなくたって、日向は小さいじゃん。近くで見ると、余計に」

 

 

そんな時だ。

リエーフにまで暴言を言われてしまい、日向はいきり立つ!

面白パワーで、どうにか火神の拘束を抜け出ると。

 

 

「ぬ゛あんだァァアアア!? クラァァァ!!」

 

 

キシャーーーー! と音駒(ネコ)相手にネコの様に構えて威嚇する。

 

「ほーれ、今のオレの気分解ったかい? 翔陽君?」

「誠也のソレ(・・)とオレのコレ(・・)は全然違うだろーー! どー考えたって、オレの方が腹立って良い筈だっっ!! どーせ、いつか皆おとーさんになるんだからなっっ!」

 

リエーフへの威嚇ポーズを辞めず構える日向。

 

とりあえず、日向が身長にコンプレックスを感じているのはリエーフも理解した。

 

「!!! ご、ごめん! 悪気は無かった! ほんとだ」

 

そもそも、彼の身近にも身長にコンプレックス……を十分過ぎる程感じている選手は居るだろうに、と火神が思ったのは、言うまでもない事。

 

勿論、なんでも話せる様な、付き合いが長いとは言えない間柄だし、心から尊敬する人なので、暴言と取られる事は口には出さない。

 

 

「でも、全然気にする必要ないと思うけどな。えっと、日向と試合やったけど、すっげえ跳んでたじゃん? ほら、オレのここまで、よゆーで」

「むっ!」

 

 

リエーフは、手を上に持ち上げて、自分の頭の天辺辺りをヒラヒラとさせる。

確かに、その位置ならば日向なら余裕だろう。寧ろそれ以上跳ぶ。跳ぶ事にかけては小さな巨人を見たあの日から、並々ならぬ思いでやってきているから。

 

火神は、傍でそれを見てきているので、誰よりも解ってるつもりだ。

 

 

「でも、オレはそこから更に跳ぶけどな? 明日も止めてやるからなー」

「!! りゃあ!!」

 

日向はリエーフの目線まで跳んだ。

最高到達点にまで達する速度も常人より遥かに速いので、目の前で跳ばれたら突然目線に日向が現れた、と思ってしまうだろう。

 

 

「明日は、もっともっと打ち抜いてやる!!」

「ふふんっ、なら、明日1番に日向のあの速攻、オレが止めてやるよ」

「くっそーー! お前のスパイクはブロック居てもお構いなし、って感じでスゲーけど、負けないからなっっ!」

 

びょんびょん、何度も何度も子供の様に飛び跳ねる日向。

流石にもう夜だし、騒がしくして、怒られるのはごめんなので。

 

ゴムボールみたいに飛び跳ねる日向の頭に手を置き、地に添える。

 

「その力は、また明日にとっとけよ、翔陽。……明日こそ、音駒をやっつけよう」

「ぅおうっっ!」

「おーー、言い聞かせてるトコ見ると、やっぱ、おとーさんじゃん」

「っ! うっせー!」

 

リエーフはケタケタ笑うと、次に指をさした。

 

「オレは音駒のエースだからな! 明日、1番多く点とって、火神や日向、烏野を倒してやるよ」

「っふふ。………明日こそはリベンジしてやるよ!」

「………! エース(・・・)?」

 

 

火神は笑顔で頷く。負けているからどちらかと言えば挑む側だと言うのに、その雰囲気はまるで逆の様な気がする。

 

日向は日向で、リエーフの言う【エース】の単語が気になっていた。

 

 

「リエーフがエースなのか?」

「ん? あ――――……でも、こう言うと 猛虎さんに怒られるケド」

「ぷっ、試合中も怒られてたよな? 【守備もロクに出来ない奴はエースとは呼ばないんです】って」

「うぐっっ」

 

 

とりあえず、リエーフの顔を歪ます事が出来たので、ちょっぴり清々しい火神。

リエーフ自身も、全くの図星なので、そこは言い返せず苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。

 

エースと言う響きに、まだ拘りを、蟠りを少なからず持っている日向はまだ注目する。

 

 

「でも、そもそもリエーフはオレと一緒でMB(ミドルブロッカー)だろ? センターだろ? エースって、音駒のモヒカンの人とか、誠也みたいなWS(ウイングスパイカー)の事を言うだろ?」

「ん。一昔前は、(セッター)の対極側、OP(オポジット)をスーパーエースって呼んでたから、そこから多分来てるんだろうな、WS(ウイングスパイカー)がエース、って括り」

「そうだと思うけど、これまでだって、大体がそうだったからさ。やっぱMB(ミドル)は―――」

 

と、日向と火神が話している間にリエーフは割って入る。

 

 

「さっき、火神にも言ったケド、オレは自分が怒られても、まだ守備が未熟だったとしても、エースだって思ってる。―――だって、エースって一番沢山点をもぎ取った奴の事だろ? 単純な話」

 

 

にっ、と笑って言うリエーフ。

その言葉には説得力があった。

今日1日限りの話ではあるが、音駒で攻守において(守備はブロックに限る)、一番目立ってたのはリエーフだ、と言っても誰も疑いを持たないから。

だからこそ、孤爪は戦力になる、と言っているのだろう。

 

 

「だから、火神が一番烏野で点取ってたからエース! って思ってたんだよ。なんか違う、って言われたみたいだけど」

「いや、リエーフ それイメージだけで言ってるって絶対。確かに木兎さんを止めれたけど、今日の烏野で一番の得点でって言えばオレじゃないよ? 3年のエース、東峰さん」

「へ? そーなの??」

「うん。清水先輩……、烏野のマネージャーなんだけど、スコアノート見せて貰ったから間違いないよ」

 

リエーフは、強烈なサーブやブロック、そしてレシーブでも周囲を魅せ、更にセッターと見紛うセットを熟した火神を 純粋に凄いと思っている……が、よくよく考えてみれば、得点になる一撃の数を考えてみれば……違うのかもしれない。

 

大体の得点に繋がる場面で火神が絡んでいる(様に見えていた)から、リエーフはそう思ってしまったのだろう。

 

 

色々とリエーフが思案し、思い出そうとしている最中、日向だけは違う意味で今日の試合の事を思い返していた。

そして、リエーフの言うエースの定義についても。

 

 

横目で、日向はリエーフと話をしている火神を見る。

 

確かに、火神の言う通り。今日 点を一番取ったのは東峰かもしれないが、自分の手(・・・・)で沢山の点を捥ぎ取れるであろう火神は、エースと呼ぶに相応しい。日向自身も思っている。

 

昔から打たせてもらってる(・・・・・・・・・)事が多いが、それでも、そこは思っている。不自然には思わない。

 

 

ならば―――自分自身はどうだろうか。

 

 

日向は今日の試合を、そしてこれまでの試合を思い返した。

確かに、点は稼げていると思う……が、それは、リエーフが言っている事と違う気がするのだ。

 

超人的なスキルを持つ影山のセットアップが合ってこそのあの速攻だから。

影山が居れば、確かに点は沢山取れるかもしれない。

 

 

でも―――そうじゃない。

 

 

 

「…………自分の手で(・・・・・)

 

 

 

 

日向は、暫くの間。

リエーフと分かれるまでの間―――自身の手をじっと見つめ続けるのだった。

 

 

 

 




すみません……。

全然進んでないです。
本当に最高な原作なので、書きたい所が多すぎるんですよね……。

次は、試合! 進化!!

何とか頑張ります!

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