王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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本日1/13

ここハーメルン様に ハイキュー‼ 二次小説 【王様をぎゃふん! と言わせたい】を投稿しだして丸1年となりました!

書き始め当初はこんなに長く続けれるとは思っても無く、勿論、恐れ多く……こんなにも沢山の方々に読んでもらい、評価・登録・感想までしてもらえるなんて思っても居ませんでした……。

改めて今年もよろしくお願い致します! 
これからも頑張ります!






P.S

一応、記念日? と言う事で………… しれーっとまた、R18版を更新しちゃったりしてます。苦笑 
よろしくお願いします(〃▽〃)


第93話 今までで1番

 

今日一番の大盛り上がりを見せた場面。

梟谷学園の大エース 木兎の一撃を完全にシャットアウトされた事について。

それは当然ながら梟谷のチームにも影響を与えた。

 

エースが止められたのだ。普通なら士気にかかわる事……だが、その辺りは心配ない。

 

 

 

「うっがあああ!!」

「やられましたね? 木兎さん」

「赤葦! こういう時ストレートに言わないで!!」

 

 

木兎自身が人一倍、いや人2,3倍程なテンションで口に出して慌てていたので逆に冷静にもなれる、と言うものだから。

そして、例え木兎が不調であっても簡単に崩れないのが梟谷。

 

でも、今回に関しては、木兎は熱くなり過ぎてなかった。

 

 

エースが止められた!! 

チームの士気に影響が!!

相手も調子をあげてくる!!

 

 

と言った事よりも、メンバー達は木兎の様子の方が気になっていたりしていたのである。

勿論、中には火神に対する称賛の声もある。

 

 

「ふぃ~、今のはアッチがすげー、で良いと思うな。……でも」

「うんうん。完膚なきまでに止められたのに、木兎の調子が上がりっぱなしなのが驚く。そろそろ調子落とすか? って思ってたのに続いてるのが不思議」

「以下同文」

 

「って、お前らもけっこーー、ヒドイぞ!!」

 

 

そんな 仲間たちの温かい言葉? に木兎も奮起していた。

 

 

 

騒がしかった梟谷の中で、赤葦だけは 静かにそして冷静に……、あの火神の方を見ていた。

丁度、田中に揉みくちゃにされている場面だった。

 

 

「……………」

 

 

火神の一連の動きについては、梟谷の司令塔である赤葦は逐一見逃さなかったつもりだ。

 

特に注目していた―――とは言わないが、初めての相手と言う事で、烏野の試合はある程度は注目して見ていたつもりだ。

 

生川への勝利、森然との善戦、そして自分達との試合、序盤から中盤……そして今。

 

 

相当な実力を持つ1年だと言う事は理解していた為、マークもしていた筈、だったのだが。

 

 

「(あの11番は、これまで終始リードブロックに勤めていた筈。……コースを絞る、若しくはワンタッチ狙い。それに どちらかと言えばブロックフォローが目立ってた印象。ディフェンスがリベロかと思うくらい上手い。――と言うかトスも上手かった。サーブもレシーブもブロックも全部上手い………苦手なのは無いのか? ……でも、今の動きは(・・・・・))」

 

 

赤葦は脳内で凡そコンマ数秒間で 先ほどの一連の流れを頭の中で再生させた。

 

木兎に上げた事でブロックされる結果になった……が、それよりも気になったのは、寸前まで視界の端で捕えていた火神の事だ。

 

「(今のはリード・ブロックじゃない…。リード・ブロックじゃ、木兎さんの位置までは間に合わない。ドシャットするつもりなら尚更。……だから、リードブロックを匂わせておいて、ここ一番(エース)の攻撃に来てのあのブロック(・・・・・・)、か)」

 

 

梟谷学園に入り、これまで数多のチームと戦ってきた。

 

全国相手に幾度となくネットを挟んできた経験が備わっている筈だったのだが、それでも読み誤ってしまったのは 最早言い訳できない。

 

センターからの攻撃も選択肢としてはあったし、ライト側の選択肢も勿論ある。

一番攻撃手段、その選択肢が多かった場面だ。

 

 

梟谷と言うチームの攻撃力については、まだ初戦とは言っても解ってきていてもおかしくない筈なのに、あの11番(火神)は、あの場面で 迷う事なくボールの上がる木兎へと飛び、そして 木兎の打つコースも読んで見せた。

 

 

火神は、ブロッカーとして、赤葦(セッター)木兎(エース)の両方の読み合いを制したも同然の結果だと言える。

赤葦は、エースの木兎が打ち負かされた……だけとは決して言えないし、あまり言いたくなかった。(勿論、木兎の前ではこんな事言わないが)

 

 

ただただ、皆と同じく素直に賞賛の言葉を送る。

 

 

「……ほんと随分と凄い1年が出てきましたね」

「そーですね!! そーですよ!! くっそーー!」

 

 

木兎はうがーー! と声を上げながらびしっっ! と火神の方を指さす。

 

 

「ヘイヘイヘーーイ! 誠也へーーーイ!! 次はオレが止めてやっからなぁ!! 次からは もう全部止めてやっからなぁ!!」

「いえ、全部止めるのは無理だと」

「赤葦っ、こういう時はノってきて!」

 

 

木兎の宣告に、烏野チーム内でもお祭り騒ぎだった火神が振り返った。

ビシッ! と指さされている木兎を見て、満面の笑みで火神は返す。グッ、と拳を握り腕を前に出して宣言。

 

 

 

「(木兎さん&赤葦さんコンビ最高ですっっ!!!)」

 

 

 

と、ブロック時の興奮よりも更に興奮を覚えるやり取りを目の前に、火神のテンションは更に増し増しになる。

勿論、赤葦と木兎のやり取りは知っている。覚えている。当然中の当然だ。

 

 

「アッス! オレも1本じゃ満足しないですよ! 何本でも止めて、何本でも拾います!!」

 

 

不敵に笑う……ような笑みは幾らでも見てきたが、こうも好奇心旺盛、バレーをする事そのものが楽しくて仕方が無い、と言わんばかりの笑みを見たのは随分久しぶりな気がする。

(当然、火神が別の意味で笑っていた事までは読み取れない)

 

 

木兎も、火神の返事を聞くと、似た様な笑みを浮かべて大きくガッツポーズをする。

(止められた側の癖に―――と一瞬思った者も居ただろうけど、今は誰もツッコまない)

 

 

 

「ぃよっしゃああああ!! 行くぜ、おまえらーー!」

 

 

 

木兎も火神と似た様な気分なのだろう。

心底楽しい。心の底から楽しんでいる。

 

 

梟谷学園は、全国有数の強豪校。全国大会での上位に食い込むチーム。

 

 

そんなチームと戦う相手は、大なり小なりの格上である相手に対する畏怖の念や同じく勝利への飢え。勝って全国を目指す、と言った気持ちが見えてくるのが殆どだった。

 

 

火神誠也と言う男の事を、【なんかおかしいヤツ】と称していたが、それ以上に彼を見ていると――――何だか初心に還れる気持ちにもさせてくれていた。

 

それは……いわば バレーをし始めたばかりの時の気持ち。

 

バレーが好きで、楽しくて、楽しくて……ボールに触ったばかりの頃の気持ちに。

 

 

「さぁ、一本止められたぞ? エース」

「このまま黙ってる訳ねーよな?」

「何なら、オレが取り返してやってもいーけど??」

 

 

三者三様に煽りを入れていく梟谷メンバー。

これもまた、珍しいパターンだ。

 

いつもなら、熱くなり過ぎて行き過ぎてしまった後、頭を冷やさし、そして煽て上げる、と言うのが一連の流れだと言うのに。

 

今回は【(おだ)てる】のではなく【(あお)る】。

 

 

「なにおーーう!! オレだオレ! オレが取りかえーーす!」

 

 

煽った結果。

単純極まりない木兎(エース)は、いつもよりも いい具合に力が入りそうだった。

 

 

 

 

 

烏野のベンチでも勿論お祭り騒ぎは継続していた。

烏養のドシャット叫び、武田の歓声、そして控えメンバーほぼ全員が大きくガッツポーズ。

 

「ツッキーも火神に負けるなー!」

「……山口うるさい」

「ゴメン、ツッキー!!」

 

いつも通り、しれっと それとなく月島を煽る山口。

 

これは決して暖簾に腕押しの様な、何も生まない結果になるとは実は山口も思ってはいない。確実に月島の中に消え入りそうだが、確かに燻っているであろう火種に活を入れる結果に繋がる、と思えるから。

 

 

あの火神のドシャットの時、いや、あのブロックの一連の流れを 誰よりも静かに誰よりも火神を見ていたのは月島だったから。

 

 

「(……多分、火神(おとーさん)今の攻撃を(・・・・・)待っていた。自分なら 相手を観察して、相手の焦り、苛立ち、そこから生じる僅かなリズムのズレ、それを見逃さずに、止める。………でも、今のはその真逆。相手の調子が最高潮に上がった所に迎え撃ちに行った、って感じ……)」

 

 

今も月島は先ほどのブロックについての自分なりの考察を続けている。

ド派手で気分よく、何よりも目立つドシャットに目を奪われてはいけない。それまでのプロセスが何よりも重要だと思っているから。

 

もし、今のを自分自身が。マッチアップした自分自身がやろうとして……できるだろうか。

 

 

「(僕には出来ない? そりゃ、王様を倒せる勇者様なんだからさ、出来てとーぜんじゃん? ………僕には出来ない……?)」

 

 

自分で自分の事を否定する月島だったが、自然と拳に力が入っていく。

頭では否定しているのに、まるで身体は 頭を否定しているかの様。

 

 

そして、考えとは裏腹に まるで【やってやる】と言わんばかりの表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、今回の攻防に関しての影響は烏野や梟谷だけに留まらない。

 

横目で、ばっちりと目撃していたのは音駒の黒尾。

 

「ひゅ~~♪ やっぱ、やるねオトーさん。……ほんとに(・・・・)笑うブロックってヤツを改めて見せられた気分だ」

 

自分達の試合も行われてる最中だと言うのに横目で烏野の事を気にしていた。

 

注目するのは当然。

 

 

【ネコとカラス】

【ゴミ捨て場の決戦】

 

 

その相手だ。因縁……否、自分にとっては悲願(・・)とも言える相手だ。

 

気にならない訳がない。

主力軸と言って良い1年コンビが遅れている様だが、その1年を纏めていたスゴイ男が健在なのだから、より注視したって不思議ではない。……が。

 

 

「おいコラ、余所見すんじゃねーよ!」

「っとと」

 

 

当然、自分達の試合があるのに目の前の相手ではなく烏野を見ていて怒られたりもする。……音駒の主将なのに、と。

 

黒尾は悪い悪い、と手を上げながら謝罪をしながらも、夜久に一言モノ申す。

 

「つーか、夜久(やっく)んだって、さっきのレシーブん時、向こうみてたっしょ? オレと一緒で気になってんじゃん」

「! オレは今 外出てるし、この試合は 芝山がメインだから良いんだよ。そっちは、次前衛だろ?」

「うわっ、なんか ずっるー。つーか、もっと味方のレシーブ見てやんなさいよ。ほれ」

 

黒尾が夜久に苦言を言い、視線を向けた先に居る男を見る様に促した。

 

 

そこに居るのは……音駒一の長身であり、身体能力もピカイチな1年。

 

以前はベンチ入りメンバーしか烏野と戦っていないから、火神を除いて、誰も面識が無い選手。 

注目の選手の1人である男―――灰羽(はいば)リエーフ。

 

 

 

「あっ、やばっっ!! す、スンマセン!!」

 

 

 

確かに、ここ最近でレギュラーの座を勝ち取ろうと頭角を見せてきた逸材! ではあるものの、如何せん高校からバレーを始めたからか、バレーの技術は非情にも乏しい。

 

山なりで威力が殆どないチャンスボール。明らかにイージーボールをミスって相手に点を献上してしまっていたから。

 

 

「ったく、あのバカ……」

 

 

夜久は、頭を抑えつつ……大きく息を吸い込んで。

 

 

「リエーーーフゥゥゥ!! ぬぁぁぁんで、今のが獲れねぇんだ!!? 自主(レシーブ)練、50本追加だからなァァァ!!」

「うひぃっっ!?」

 

 

今日もレシーブの鬼コーチの声が響く。

 

「(リエーフの件は置いといて。………つっても、1年で、それも リベロでもない男のレシーブを、出てないとはいえ 試合中に、夜久が注目すんのも 大概驚きもん なんだけどなぁ。烏野(あっち)西谷(リベロ)ならまだしも)」

 

 

黒尾は、もう一度烏野の方を見る。

 

あの得体のしれない超高速の日向(チビちゃん)が居ない烏野は、さぞ見劣りするだろう……と思っていた自分を叩いてやりたい気分だった。

笑っている火神を見て、特に。

 

 

 

今の火神は 枷の無い烏……まさに超烏(スーパークロウ)

 

 

 

(クロウ)だけに苦労してきたであろう男は、今 純粋に試合を楽しんでいる様に見えた。(勿論、それは流石に黒尾の読み過ぎではある、が)

 

 

「…………アホ」

 

 

黒尾は 自分で考えておいて、面白くない、と自分自身をぽかっ、と叩いた。

幸いにも誰にも見られてなくて良かった。

 

そして、今日の練習試合はどの試合も決して楽とは言えない。厳しい試合の連続だ。どのチームも満遍なくレベルが高いし、梟谷においては一応現時点ではトップの位置に君臨しているチームだ。

 

そんな所で、メリハリをつけているとはいえ、あそこまで笑顔でプレイできるなんて……、どう言い繕っても、やっぱり異端以外の何者でもない。

 

 

 

黒尾がそう考えていた矢先、火神は盛大にクシャミをするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っしゃあああ、今度はオレのサーブで突き放―――すっ! つーか、後 全部決め――るっ!」

「木兎さん、冷静にですよ?」

 

 

腕をぶんぶん振り回し、ボールを取るとその勢いのまま サーブ位置にまで向かう木兎に赤葦は、注意喚起した。……だが、それは無用だと言う事が直ぐに理解できる。

 

 

「解ってるぜ赤葦! でもよぉ…… あーんなサーブ見せられて、燃えない方が逆におかしいだろ?」

「……………はい」

 

 

今の木兎には無用だと言う事を肌で感じた。

下手な言葉は無用、今は外部からのカンフル剤は必要ないのだと。

 

 

現在のスコアは23‐23。

 

 

火神のドシャットから間違いなく烏野は勢いがついている。

チームの士気・雰囲気も上々、特に 味方に魅せられ、1年に魅せられた2,3年の気合の入り具合は半端なく、それが良い具合に空回りする事なく続いていた結果だ。

 

それに格上とも言える梟谷とて決して不調ではない。

 

調子に乗れ、と言う烏養の指示が上手く機能している、ともいえるだろう。

 

 

 

そして、そんな土壇場で回ってきたのが木兎のサーブ。

 

 

 

入れば(・・・)間違いなく梟谷チーム最強のビッグサーバーだ。

 

 

だからこそ、冷静にならなければいけない事を赤葦は良く知っていた。

ここぞ! と言う場面で連続サーブミス、なんてことは木兎には珍しい事ではないから。

だが、今は一切心配はしていない。

 

 

―――こんなにも任せられる木兎のサーブは久しぶりだ、とこの時チーム内の全員が思った。

 

 

いつもなら、後頭部をしっかり守っておかなければならない、と言う使命感も同時に起きる所だが……、今はそんな心配はしてない。(勿論 心配はなくても、しっかり後頭部は守ってるが)

 

 

 

「(さぁ………行くぜー。このあっちぃ思いも、全部――――乗せる!)」

 

 

 

 

 

木兎から放たれるこの威圧感。

烏野のレシーバー陣が感じない訳がない。

 

特に先ほどサーブで魅せた火神は尚更だ。

 

 

 

「つええの来るぞ! 1本で切る! 集中!!」

【おう!!】

 

 

澤村を中心に、烏野最硬の守備で迎え撃つ。

攻撃に関してはやはり、影山・日向の居ない状態では 攻撃力ダウンと言われても仕方ないし、当然とも思えるが、守備に関しては別だ。

 

 

西谷、火神、澤村の堅牢な地の盾。

烏野最硬の(レシーブ)

 

 

そして、迫るは 相手は全国を知り、全国を戦う5本の指に入る男の最強の(サーブ)

 

 

 

「―――――!!!」

 

 

 

空を切り裂くその一撃(サーブ)。狙われたのは火神。

 

木兎の(サーブ)と火神の(レシーブ)

 

 

 

 

―――今回は 矛盾は起こらず。

 

 

 

 

「っっ!?(―――早ッ、―――強ッ)」

 

 

これまでのサーブがまるで肩慣らしだったかの様な、最高の威力のサーブが、最悪の位置に飛んできた。

 

見事、火神は反応を見せ、飛び付いたが…… 想定以上の威力のボール。まるで直前で更に伸びてきたのではないか? と思える様な一撃に、捕えきる事が出来ず、外へと弾き出されてしまった。

 

 

 

「っしゃああああ!!」

「ナイッサー!!」

「ナイスです、木兎さん」

 

「ヘイヘイヘーーーーイ!!」

 

 

 

指をビっ! と突き刺す木兎のポージング。

まるで、某100、200m走の世界記録保持者のあのポーズ。

 

 

24‐23

マッチポイント。

 

 

「っっ~~~!!」

 

火神は思いっきり飛び付いたせいか、膝と肘をかなり擦ってしまった。

そして、何よりも木兎のボールの威力が十全に解る程、それは爪痕として自身の腕に残っている。

 

 

「誠也、ドンマイだ! 次切るぞ!」

 

 

西谷が横から声を掛ける。

そして、澤村も同様だ。

 

「今のは マジでスゲーな、スゲーけど…… 次は獲るぞ!」

 

より深く腰を落とし、より眼光を鋭くさせて、木兎を見据えた。

腕をビリビリ……と痺れさせている火神が考えていたのは、勿論悔しさもあるが、それ以上に、恐らく今試合、もしかしたら本日1番の木兎のサーブを受ける事が出来た事に対する歓喜だ。

 

 

「(スゲー……、スゲー……、及川さんとは、また違う。木兎さんの、サーブ……。全力の、サーブ………!)」

 

 

膝を付いていた火神は、そのサーブを目に焼き付け、そして身体に覚え込ませると同時に、びょんっ! と飛び上がった。それはまるで日向の様に……。

 

 

一瞬、ぎょっ、としたのは 外で見ているメンバー達。

派手に弾かれて倒れていたので、少なからず大丈夫か? と注目していた矢先の事だったから。

 

 

コート内に居るレシーバー陣は 木兎のサーブに集中していた為、火神の所作にそこまで気にしてはいなかった。

 

 

 

【もう、1本!!】

 

 

 

目を見開き、構え―――そして吼えた。

 

 

 

 

「いいねー烏野。……それに、痺れるねぇ 誠也ぁ! ……燃える!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烏野が梟谷を……カラス達がフクロウを追い詰めん勢いで、鋭い眼光を向けてくる。

その圧力は、木兎だけじゃない。当然梟谷のメンバー達にも十分過ぎる程届いていた。

 

 

事前に聞いていた この合同グループの中でも1,2を争う音駒を苦戦させた、後一歩まで追い込んだ、と言う情報が嘘ではない事はもう重々承知している。

 

自分達のエースと似た匂いのする男が居るのだから尚更だ。

 

 

 

 

「―――正直 今の木兎にも驚きを隠せんが、やっぱり あっちの11番の方が驚きものだな……。木兎を触発し、引き出してる様にも見える。……こんな好敵手が居たとは」

 

監督の闇路は、木兎の実力は勿論知っている。

チームをこれまでに何度も窮地から救ってきたし、何より全国大会の舞台で勝負が出来ているのも、木兎の力が大きいと言えるだろう。

 

だが……、惜しむべきは絶好調~絶不調のムラ。

調子にムラがあり過ぎる所だろう。

 

 

もし……自身の調子をコントロールする術を身に着け、常に絶好調! とまでいかずとも好調をキープできる様になれば?

 

 

もっともっと面白い木兎が見れる筈だ。

 

 

「波長があった~ って事ですかね~~、あの子とは同類~、みたいな?」

「うーん……、まだ何とも言えないケド、周囲をよく見て気遣いとか出来そうなあの子が木兎と、って言われたら、中々想像出来そうにない……かな?」

 

幾度となく木兎には、迷惑? を掛けられ大変疲れる事も多い。負担が掛かっちゃってるマネージャー陣は 木兎と火神を見比べていた。

 

 

木兎と火神。

 

 

バレーは6人vs 6人 で行われる筈なのに、先ほどの木兎のサービスエースの時から、まるで1対1で行われている様にも見える。

 

そして、互いに集中しきってるのも解る。

練習(・・)試合とは思えない本番宛らな緊迫感が。

 

 

「……ん~ 単細胞、には見えないけどね~」

「まぁ、今日あったばっかだし? でも、解んないかもよ。実は――――みたいな?」

「それもそっか~」

「おいおい。何も木兎に似てる(・・・)って言ってる訳じゃないんだぞ?」

 

 

軽口を飛ばす事が出来ているが、それでも ベンチ側も手に汗握る展開なのに違いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボールをジッ……と見つめる木兎。

このボールに、次のサーブに全てを込める為に。

 

 

そして 梟谷の横断幕、【一球入魂】の字を胸に。

 

 

何より木兎はまだたった1本だけしか決められてない。

火神誠也と言う男から、まだ1本程度だ。

 

この試合、火神は多彩な攻撃……多彩なサーブで梟谷を翻弄した。

そして サービスエース数を考えれば、火神は2本取っている。

 

 

たった1本で満足してる訳がない。

 

 

 

 

 

「(楽しいなぁ! スゲー楽しいなぁ!)」

 

 

 

笑みが止まらない。増えている? とも言えるかもしれない。

どんどん増していく木兎。そして、それに比例する様に集中力も増していく。

 

 

 

外野である音駒の黒尾が、生川の強羅が、森然の小鹿野が。

 

 

自分達も練習試合の真っただ中だと言うのにも関わらず、視線を集める程。

 

そして、偶然か 必然か。

 

この見逃せない一騎打ちにも似た状況を嗅ぎ付けたとでもいうのか。

体育館の扉勢いよくが左右にガラッ! と開いた。

 

 

「おっ、やってるやってる。間に合ったね。上出来だ」

 

 

1人の女性、そして引き連れてきたのは遅れてやって来た烏野の主要メンバーの2人。

影山と日向。

 

本来なら、田中の姉、冴子がやって来た事を気にし、更には遅れてきた2人に小言の1つや2つを言って……そして 田中龍之介に至っては姉の運転事情? をよく知っているので、無事に到着したことを安堵したりもするだろうが、今はそれどころではない。

 

突然開いた体育館の扉、そこからの姉の登場、影山と日向の登場。

 

 

それらが入る隙間は一切ない。

 

 

何故なら、木兎が高く高くボールを上げたから。

助走から跳躍、そしてその空中姿勢(フォーム)。先ほどの一撃の前兆と全く同じ。

笑顔と共に打ち放たれる一撃。

 

 

「「―――――ッ!!」」

 

 

 

渾身の一撃。

先ほど以上の威力。

 

寸前で、あの木兎の笑顔を見てなかったら、反応しきれてなかったかもしれない。

火神はあの一瞬、木兎の顔をはっきりと見た。こちら側を確認した……と言うより。

 

【取って見ろ】

 

と言わんばかりの笑みだ、と火神は感じた。

 

着弾点は、丁度澤村と火神の中間地点。先ほどは、西谷の居るライト側だったので、全くの逆サイド。渾身の威力に加えて精度まであるのか? と思われるコースだった。

会心の当たりだったのは 梟谷側にも十分に伝わる程のモノであり、サービスエースの手応えだと確信さえしていたのだが。

 

 

 

――― 2度目は無い。

 

 

 

烏野のコートに、弾丸となったボールが突き刺さる寸前、黒い影が割って入った。

 

今度こそ正確にボールを捕らえた両腕は、今度は逃さない、と言う意思表示の表れともいうのだろうか。

 

 

「んんんんッッ!! ぎぃっ!!! っっしゃあああ!!」

 

 

1度目は後塵を拝した火神だったが、2度目は見事に上げて見せた。

上げたと同時に渾身の雄叫びを轟かせた。

 

 

「ナイスだ、火神ぃぃ!!」

「カバー!! 繋げぇぇぇ!!」

「うおおおお!! ナイスレシーブ!!」

【うおおおおお!!!】

 

 

一気に盛り上がりを見せる烏野陣営。

そして、当然。

 

 

「「!!!」」

 

 

 

遅れてきた二人組である日向と影山もしっかり、はっきりと見ていたのだった。

 

 

 

見事、木兎の渾身のサーブを上げてのけた火神だったが、その攻撃を梟谷の堅牢な壁に阻まれ――試合は25-23で敗れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「清水先輩。今までの戦績って、どうでしたっけ?」

「ん」

 

 

清水が谷地と共につけてくれていたスコアブックの中身を見せてくれた。

細かな点数(スコア)は置いといて、一先ず戦績を確認。

 

 

梟谷 2-0 烏野

音駒 2-0 烏野

森然 1‐2 烏野

生川 0-2 烏野

 

 

戦績を見ると―――十分運命とやらに少しでも歯向かえた、と言えるかもしれない。生川や森然に勝ち越しが出来ているが、そんな生易しい相手じゃなかったのはやり合った自分達が一番知っているから。

 

……やはり 完全に否定するには音駒・梟谷の2強を下さなければならない、と火神は思う。

 

「(この合宿中に―――必ず)」

 

ゆっくりと汗を拭い、そして今ラストの試合を外から見ていた。

最後の試合も佳境を迎えている。

 

 

西谷のレシーブが影山へと綺麗なAパスで返球されると――――最早、あの小さな烏を仕留めるのは困難だ。

 

 

「栄吉ィぃ! 10番だ!! 止めろォぉ!!」

 

 

変人速攻は健在なり。

火神と言う男の手腕を見て驚いていた面々だったが、続く影山・日向の変人速攻にも当たり前だが舌を巻く。

 

火神の時はどちらかと言えばオーソドックススタイル。空中での読み合い、地上でのボールの拾い合い、それらで勝ち点を積み上げてきた。

 

それが突如スタイルチェンジされてはたまったモノではない。

 

 

日向の一撃は、相手ブロッカーの指先を掠めはしたものの、そのままコートに叩きつけ、ラストの試合終了。

 

「っしゃッ!」

「勝ったーー!!」

 

20-25

 

本日の試合 森然相手に1-3。

 

十分の快挙!

 

だが、勿論 目指すは更なる高みだ。

 

 

 

「くっそ~~~、負け越しか! 烏野は 変幻自在ってヤツなのかよ、メッチャ翻弄されるわ!」

 

 

 

 

地団駄踏みながらも、(ペナルティ)を粛々と熟していく。

 

そして本日本当のラストの試合、音駒vs生川の試合も音駒の勝利で終了し―――本日の練習試合終了。

 

 

 

そして全員で体育館を掃除タイム時。

強羅が小鹿野にボソリと一言。

 

 

「翻弄されてたな。お前たちも」

「解ってるわ!! 目の前でめっちゃくちゃ動かれて すっげーー嫌だったわ!! あんなの! 剛速球ストレート打ちばっかだったのに、突然魔球が飛んできた気分だわ! 3outチェンジだわ!」

「何でバレーを野球で例える?」

「例えやすいからだよ!」

 

2人の会話を聞いていて、木兎は笑う。

 

「ふっふっふ……」

「「ッ??」」

 

 

突然笑い出した木兎に思わず ぎょっとする2人だったが、直ぐにその気持ちは理解する。

木兎の視線は、今丁度ネットを片付けている烏野の1年達。

 

 

 

「間違いないぜー! いやぁ、今年は絶対面白くなる! 今までで1番だ! そんでもって、明日は オレ達が全部勝ーつ! ノー(ペナルティ)でな!」

 

 

ビシッ! 指を天井にさして宣言する木兎。

勿論、それを黙って聞いているワケにはいかない。

 

 

「へんっ! 明日は けちょんけちょんに止めて しょぼくれさせてやる!」

「梟谷には1セット獲った。……だが、烏野には負け越しだ。色々趣向を凝らさなければな」

「わーーーっはっはっは! どっからでもかかってこーーい! 全部受けてたーーつ!」

 

 

 

 

 


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