王様をぎゃふん! と言わせたい   作:ハイキューw

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どうにか投稿出来ました……。
牛島さん達との出会いで1話分の文字数余裕で超えてしまったので投稿します。
……全然進んでませんが、年末年始を乗り切れれば! 苦笑


これからも頑張ります!
ありがとうございました!

















P.S

とうとう―――――番外編(⑱ver)完成!
………間近です。今日か明日か………。
王様ぎゃふん! ではちょ~~っと載せれないので、新規で投降致します。(ボソ)


第90話 白鷲を喰らう

それは遡る事数十秒前。

 

 

「谷地さん! 土曜なのにアリガトっ!!」

「あざす」

「わざわざ図書館まで来てくれて助かったよ。……やっぱ、1人より2人の方が効率良いし、まぁ 負担少なくて済むから……」

 

マイペースな影山、元気いっぱいな日向と、やや げんなりな火神。

 

火神の気持ちは当然谷地にも解る。

 

日向と影山の学力レベルはほぼ同じ。

2人とも満遍なく悪い(暴言)が、得意・不得意まで同じと言うワケではない。

 

だから、質問される時 1人だったらステレオ感覚で左右の耳に違う情報が入ってくるので、頭が中々追いつかないのだ。

 

幾らお父さんお父さん言われても、火神は 聖徳〇子じゃないんだから。

 

―――勿論、こう表現しても2人は理解する事はないだろう。テスト範囲外だし、日本史の成績も当然悪いから。

 

 

「いやいや、ウチから結構近いし、こんなので良かったら。……それでどう? 2人ともテスト大丈夫そう?」

 

谷地の質問に対し……2人の返答は。

 

 

「まぁ………、なんとか」

「ばっちりだよ!! ……たぶん!!」

 

「(………なんとか(・・・・)たぶん(・・・)か……)」

 

2人の返事を聞いて、谷地は反射的に火神の方を見た。

火神は両手を左右に広げて、首を振る。

 

 

「後は運を天に任せる他ない……かな? やるだけやったのは事実だし。それに 100点目指してる訳じゃない。十分可能性はあるよ。…………たぶん」

「(あぁ……、火神君もたぶん(・・・)、なんだ、それに()も、かぁ……。あんなに頑張ったんだけどなぁ……)」

 

 

谷地は谷地なりに、そして火神は火神なりに全力は尽くした。

後は本人たち次第。そして テスト内容次第。……運要素も確かに絡んでくる。急拵えである2人だから尚更だ。

 

 

火神と谷地は 互いに何を考えているのか解ったのか、ただただ示し合わせた様に苦笑いを交わしていた。

 

 

―――そんな2人の考えは露知らず、影山は周囲を見渡している。

 

 

見覚えがある景色―――だったのだろう。

思い出す様に少し考えた後、口を開いた。

 

 

「……この辺て、白鳥沢の近くだよな?」

 

 

影山は白鳥沢を受験した事がある。

地理を覚えるのも正直、苦手だとは思うが、白鳥沢は……県内の王者である白鳥沢の事に関しては、印象が強かったのだろう。

だからこそ、覚えていた様だ。

 

「あっ、うん。図書館(ここ)からだったら、駅も近いし。2駅先くらいにあったと思うよ。白鳥沢」

 

谷地も、影山の言葉に肯定して頷いた。

 

「おお! よく覚えてたな、飛雄」

「そんくらい覚えれる!」

 

【なら、勉強もそれくらい覚えろよ】と澤村の様に言おうとしたが、今更感満載なので口を噤んだ。

 

流石にバレーに関して、バレーに一寸でも関係のある事に関しては、影山は大丈夫。寧ろ得意中の得意分野。学校の教科書は読まずとも、月刊のバリボだけは欠かさず読んでる様なので。

 

今度のテストでバレー関係の用語が出てくれれば………とも思ったが、流石にそれは無理無茶なので、考えをシャット。

 

 

「白鳥沢って…… あっ、誠也にスカウト来てたトコの1つだ!! こんにゃろーー!!」

「ハイハイ。ってか、翔陽はオレが白鳥沢に行った方が良かったのか?」

「んにゃ! 誠也は烏野確定だ!!」

「なら、もう【こんにゃろーー】は 要らないだろうに」

「ふんっ! それでも仕方ないんですーー! やっぱ、くやしいんですーー! 一緒にバレーしてきたのにーー!」

「正直で宜しい」

「誰と自分を比べてんだボゲ」

「ふぐぅっ……」

 

 

スカウト云々に関しては、当然だが同じ雪ヶ丘出身である日向も良く知っている。

現場に居合わせた時だってあるし、色々と情報は顧問から筒抜けだったりもしていたから。

 

「それにしても、あの【ウシワカ】の居るチームがこの辺にあるのか――――」

 

と、日向が周囲を見渡そうとしたその時だ。

 

 

 

 

「オレに何か用か?」

 

 

 

 

後ろから、声が聞こえてきたのは。

あまりにタイミングが良すぎる。

 

日向が、【ウシワカ】と言ったタイミングで、【何か用か?】と聞こえてきた。

 

まるで――――直ぐ後ろに、本人(・・)が居るかの様……。

 

と、 まるで錆びついた機械の様に ぎぎぎぎぎ……とゆっくり影山と日向が振り向いた時だ。

 

 

「あっ、牛島さん。久しぶりですね。お疲れ様です!」

 

 

誰よりも早く、火神が返事を返し、そして頭を下げていた。

火神の声に反応して、影山と日向は 先ほどまで ぎぎぎ、とゆっくりだった首が一気に大回転。

 

 

牛島の姿を視界にはっきりと入れた。

 

 

足を止めているがランニング中だったのだろう事がよく解る。息が多少荒く、そして多量の汗を流しているから。

 

 

「ジャパン!!!」

「ッ……」

「でか―――ッ!!」

 

 

三者三様に驚愕。

 

ただ1人……火神だけは笑顔だった。

 

牛島は、全員と軽く視線を交わした後。

 

「今し方、オレの名と白鳥沢(ウチ)の話題も聞こえてきたが」

「あ、あははは……、ちょっと 烏野(ウチ)のが中学時代の事、話してまして……」

 

火神と話をした。

 

影山や日向を置き去りに、普通に話をしている。

日向も影山も、ジャパン牛島にまだ言葉を交わす事が出来ないでいる。

 

そして、谷地はやっぱり驚いている。

 

 

「(ぜ、ゼッタイオージャの【ウシワカ】と、ウチのカガミくんがはなししとるーーー、ふつーに、はなしとるーーー!!)」

 

 

驚愕と同時に、この強烈なオーラ、圧力を全身に浴びてしまって、谷地は気が動転してるようだ。

 

 

 

 

 

そんな谷地の混乱具合な事は露知らず。

 

火神と牛島の自然な会話には度胆抜かされた感はあるが、影山は火神が足止めした、コレ幸いに、と言わんばかりに火神を押しのける形で前に出た。

 

「と、飛雄?」

「すみません。オレ達、烏野から来ました。白鳥沢の偵察させて貰えませんか?」

「「!!」」

 

 

まさに堂々と正面突破。

小細工を好まない……と言うより、バレーの技術・プレイを除いては 小細工する事が出来ない影山らしいと言えばそうだ。

 

「(やっぱ言うよなーとは思ってたけど、いざ聞いてみたら、正面突破は色々となぁ……)」

「(影山(コイツ)マジか!? 偵察ってコッソリやるモンじゃねーの!?)」

 

 

火神は苦笑い、日向は驚いて何度も何度も影山の顔を見ている。

何度影山の顔を見ても、その表情は真剣そのものだ。

 

 

「烏野―――――。……知っている。白鳥沢(ウチ)を断って 火神(お前)が入ると言った場所(チーム)だ」

「「「!」」」」

「(それきっと、か、かがみくんの事ダーー!!? こ、ころされる!??)」

 

 

火神の事しか認識してないのか! と影山と日向は表情を強張らせ、谷地は 火神の心配を心の底からしていた。

 

渦中と言って良い火神は、スカウトを断った時の事を思い返したのか、バツが悪そうに苦笑いをする。

 

 

「それに――――」

 

 

だが、当然 牛島が知っているのは ソコだけではない。

 

白鳥沢がスカウトしようとした男が、それを断って入った烏野(チーム)に興味を持たない筈がないから。

 

 

「おかしな速攻()目立つチームだな」

「「!」」

 

烏野の事は知っていたのだ。

3回戦で敗退し、まだ近年では成績を残せていないと言うチームではある。……が、それでも、それだからと言って 慢心して良い理由にはならない。

 

どのチームに当たっても良い様に、叩き潰せる様に ある程度の試合内容は頭に入れているのだ。

 

現在の白鳥沢(王者)に慢心や油断と言う隙は存在しない。

 

影山と日向は、しっかりと 個人だけでなく自分達も認知されている事にある程度は 留飲が下がったのか、強張っていた表情が少しだけ緩む。勿論、ほんの少しだけだ。

 

 

―――…3人いる中で、火神以外眼中にない。

 

 

そんな空気を出された事に変わりはないから。

 

 

「――好きにしろ。お前たちの実力がどうであっても、見られる事でオレ達が弱くなることはない」

「それは……正論ですね」

 

 

火神は、軽く笑いながらそう返す。

この雰囲気で笑みを見せれるなんて――――。

 

 

「(し、心臓が出そう……)」

 

 

口を ウップッ……と押さえる谷地。

流石の村人Bも、まだ入門編しか越える事が出来てない。イキナリ、ゼッタイオージャ相手に何か言葉を発する事も見つける事も、出来やしない。何かしようと考える事自体が()滸がましいとさえ思っている。……それも、()だけに。

 

 

「―――悪いが、オレは行く」

「あ、はい。呼び止めてすみません」

「構わない。………同じ烏野であるお前にも言える事だ。これから学校に戻る。見たいならついてくれば良い」

 

 

牛島は、そういうと背を向けた。間違いなく自分達より遥かに大きい背だ。

もう振り返った為、表情は見えないが……感じる事はある。

 

 

「……ついて来られるならな」

 

 

牛島の表情自体は変わらない。

彼は感情を表に出す事が極端に少ないと言えるから。

 

だが、その言葉はいつもいつもストレート。

 

ぴく――――んっ! とストレートだからこそ、ダイレクトに脳に突き刺さってくる。

 

 

バレーの技術も、勿論体力にも自信がある影山。

バレーの技術は兎も角、体力は誰よりも自信がある日向。

そして、心技体は言わずもがな、それに加えて、牛島をこの後の事をもっともっと間近で見たい欲求が最高潮に達した火神。

 

 

3人が一様に反応を見せ、軽く柔軟体操。

 

 

「行くか!」

「行くに決まってるだろ。春高で倒す相手だ。見て損は無ぇ」

「損得考えたら こっちは色々と(・・・)メリットだらけだし。頭ばっかり使って鈍った身体に丁度良い」

 

 

それぞれが対抗して口に出す。

勿論、それを本当に間近で聞いている谷地にとってはたまったものではない。

牛島が、じろり…… と振り向いたのも見ている。

 

 

「(ギャワアア!! ご、ご本人様の前で何を!!? お、おとーさんまでーーっ!??)」

 

 

普段は問題児たちを纏め、更には烏合の衆と称した烏野バレー部でさえも、時には纏めると言われている(清水談)、烏野のお父さん事 火神誠也までもが物凄く乗り気。

 

普段の勢いの日向を止めるストッパーが無ければどうなるか……、普段止めていた者がそちら側に回ったらどうなるのか……、谷地は恐ろしさのあまり身体を震わせていた。

 

 

「(谷地さん、やっぱ 過剰反応してるなー……)」

 

 

そんな谷地の気配には当然ながら気付く火神。

普段の何でもない日常なら、彼女のフォローに回る事も吝かでは無いのだが、今回のコレはちょっと譲れないのだ。

 

「本当に白鳥沢にお邪魔して大丈夫です?」

「心配ない。教師に見つかれば注意されるとは思うが、見つかった所で注意程度に過ぎない。長く居座れば別だろうがな。………それに、別にお前たちに限った話でもない」

「――――ああ、なるほど」

 

 

その火神と牛島のやり取りに、日向や影山は喜びの表情を見せる。

 

教師と揉める―――――なんて、正直 あの教頭との一件で流石に懲りているから。

 

と言うか、懲りないと 色々と怖い目に合うから。

 

 

 

それに、牛島がオープンにしてくれている事だが、よくよく考えてみれば確かにそうだ。

白鳥沢はバレーに限らず、多種多様の競技に力を入れている高校だ。

 

火神の知識の中では、白鳥沢に偵察! なんて面白おかしい事をしたのは烏野の猪突猛進コンビの2人だけだが、実際 視野を広くして見てみると、前例がないワケでない。

 

そして―――牛島が言う通り 王者としてのプライドを持っている者も多い。

 

見られる程度でどうにか出来る程、甘くないと。

 

 

とりあえず、柔軟体操は済んだ。

ただのロードワークとはいえ 王者と呼ばれるチームのトップの練習だ。入念なストレッチを欠かさない。

 

 

「1人でロードワーク中なんですか?」

 

 

日向は牛島に聞く。

自分達の練習では、基本全員で走るから。……色々と変な方向に走って消えていった日向だから、色々と感じる事があったのかもしれないが、事実は全くの別物だった。

 

 

「他の連中が遅いだけだ。――――後ろのどこかに居る」

 

 

牛島はそう説明すると、足に力を入れ 地を蹴って駆けだした。

初動を見ただけで、かなり早いのが良く解る。加えて身体の大きさに比例しているかの様なストライド。……他の部員達を文字通り置き去りにしているのが伺えた。

 

 

だが、烏野の体力3バカには関係ない。

 

 

バカ(・・)と言われて 火神が? と疑問符を浮かべるかもしれないが、幼少期から日向翔陽と言う体力お化けと延々付き合ってきた実績があるので、別段疑問を浮かべる者は、まだ入部して日の浅い谷地は別だが、基本烏野には居なかったりする。

 

 

とりあえず、駆け出した牛島を見失うワケにはいかない。

 

 

「(や、やめなよ! 死ぬよ!! 死ぬ!!)」

 

今にも飛び出しそうな3人を止めるかの様に、手をさっ! と伸ばす谷地。

ご生憎、何言ったか解らないくらい小さな声だったので、3人には伝わってない。……勿論、火神は解っているが、ただただ苦笑いするだけに留めた。

 

「じゃ、ありがと谷地さん! また明日ねーー!」

「送っていけたら良かったケド、ごめんね? また明日、埋め合わせするよ」

「そ、そんなことだいじょーぶだから! ほ、ほんとに死ぬ! 死ぬぬ!!」

「へ? 何??」

「おい、ボゲ。もう行っちまうぞ、牛島さん」

 

最終的に、影山の言葉がスタートの合図。

 

どんっ! と牛島に負けない勢いで地を3人は蹴って駆けだした。

 

 

「あっ! コラ、影山! お前フライングだぞ!」

「てめーが遅えんだよ!」

「はいはーい、とりあえず、見失わずに、追いついてからにしようか、2人とも。まぁ、オレは道解ってるけれども」

 

 

意気揚々と、嬉々と走り去っていく3人を見て、目に涙?? を浮かべながら谷地は見送る。

 

 

 

【――――生きて帰ってきてね】

 

 

 

と言葉を添えながら。

一体どんな戦場へと見送っているつもりなのだろうか?

全速力でスタートを切った火神の耳にもそれははっきりと届いていて、もう堪えきれずに吹き出すのだった。

 

 

 

 

 

―――5分、くらいたっただろうか。凡そ1㎞を3~4分台で走り抜ける脚力だ。

 

 

 

 

 

「(……他の連中が遅い……か、ああ言えるだけのハイペースだな)」

「―――牛島さんは 全国の猛者相手に戦うチームの主将、これくらいの体力はあって然り、じゃないか? 飛雄」

「……ああ。だな」

 

 

白鳥沢学園は、全国へと出場したら 必ずベスト8には食い込む実力を持つ高校だ。

中でも近年 牛島若利と言う選手が来てからは更に評価が高い。

 

高校3大エースの一角と称されているのだから、当然と言えば当然かもしれないが。

 

ほんの少し、基礎体力に過ぎないが、垣間見た気がした影山は 笑みを浮かべる。

そして、中でもより笑顔だったのは日向だ。

 

 

「うはーー! やっべ~~!! なんか、テンションアガル!! ウェ―――イ!」

 

 

走ってる、と言うよりスキップ? 時折ジャンプを見せて、とことんまで笑顔。

 

「翔陽~~。はしゃぐのは良いケド、公道には飛び出すなよーー。車注意だぞーー」

「つーか、ちっとは落ち着けやボゲ!! 犬か!!? 初めての散歩か!? アホが!!」

「なんだとっっ!!? 誰が犬だアホだ! 誰がーー!!」

 

取っ組み合い……までは行かないが、互いに手の差し合い。鍔迫り合い。

リーチは影山の方が勝っていて有利だが、持ち前の素早さを活かして日向も懐へと飛び込む。

ハイペースなマラソンと両立させている所を見ると、見事と言っても良いかもだし、面白いのだが、周囲の目が痛くなってきた。

 

ハイペースだと言っても、本日土曜日。町には沢山の人が居る。丁度 人通りも決して少なくない場所だから。

 

道もある程度広いし、走ってる進路上には歩行者も居ないので 火神は2人の間に割って入る様にポジショニング。

ぽかっ! と2人の頭を軽く叩いた後。

 

 

「はいはい。2人とも黙って走る。……変な目で見られてるから」

「「う、ウス」」

 

 

これで漸く大人しくなった。

ほんの少し―――ではあるが。

 

 

そんな3人のやり取りをチラ見で伺うのは前を走ってる牛島。

 

 

「(余裕でついてくる……。しかも喋りながら、か……)」

 

 

口下手……と言うより、元々の性格ゆえにか 基本口数は少ない牛島。

チームメイトでさえ 色々と畏怖しているせいか、好んで話しかける人も少ない。……例外は居るし、それに別に苦手と言うワケでもないので、話す時はきっちりしっかりストレートに話す事はあるが、全力で走ってる時に話す事なんて基本無い。

少ない酸素量になっても十分にパフォーマンスを落とさず、ついてくる3人に舌を巻く。

 

 

烏野――――注目していたのは、火神の存在があったが故にだ。

 

 

白鳥沢学園は、その名の効力もあってか、基本的には有望選手が集まりやすい。

監督がアンテナを張り、直々にスカウトに行く事もあるだろうが、これも基本的には 強豪中学とか、ある程度は限定されている。

 

 

火神誠也と言う男は例外中の例外。

 

 

無名校に加えて、中学時代はたった1試合しかしていないと言うのにも関わらず、たまたま その1試合だけが目に留まり、スカウトする……と判断した程の男だったから。

 

 

牛島も感じるモノはあった。

 

そして、中学時代のたった1試合の映像も見たし、1~3回戦の試合も見て確信もしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く走り続け――――漸く白鳥沢学園へ。

この特徴的な鷲を象った門は忘れようがない。そして 異様に広い学園内も。

 

 

「うおっお~~~!! 広ぉぉぉ~~ッ!!」

「ッ……!!」

 

 

当然、初めて来た日向は興奮を隠せれない。元々隠す性格ではないが、いつも以上に つい先ほど以上のテンションで周囲を散策していた。

 

烏野しか知らないから、全てが凄過ぎて興奮が増していく。

 

門をくぐって直ぐに目にするのは勿論校舎。

デザインが烏野とは違う学校の校舎もそうだが、何より兎に角広い。

学校の敷地内が広すぎて、校内を移動するのも大変そうだ。

 

何処を見ても絵になる風景に感激している。

 

 

「見ろよ! 誠也!! アレ!! あの校舎!? なんかホテルみてぇでかっけぇ!!」

「中は外から見た印象よりももっと凄かったぞ。色々と綺麗だったし。白鳥沢(ここ)出身の高名な美術家の人の作品とか階段に飾ってたりしてて―――」

「ふおおおおお!! やっぱせいやずるいぞーー!! ずりぃぃ!!」

「呼ばれたんだから仕方ないじゃん。先生と挨拶に行った時に入ったんだよ。飛雄は受験来てたんだよな?」

「………うっせー」

「ぷぷーーーっ! 意味不明で落ちちゃったんだよな~~??」

「うっせぇぇボゲ!! テメーの学力でオレの事笑えんのかよボゲ!!」

 

 

 

ハイテンションのまま、馬術部の馬を見たり、これまたデカい駐車場にあったバレー部専用のバスがあるのに興奮したり。……マイクロバスじゃない大型の専用車。VBCとバスには記載されているので、バレー部の専用だと言う事がよく解る。(バレー(V)ボール(B)クラブ(C) の略)

 

烏野にもマイクロバスはあるが……生憎 アレは共用のモノだから、やっぱり白鳥沢の方が凄い。

 

 

「はいはい、お2人さん。白鳥沢(ココ)に来た目的忘れてない?」

 

 

色々と目を奪われている影山と日向。

確か、火神の遠い過去の記憶では……日向は兎も角、影山は まだバレーの方に集中していた筈。色々と圧倒されつつも二度目の訪問だし、ここに来た本分を忘れてなかったと記憶しているのだが……、バレー関係の記念碑やら横断幕やらを見て完全に止まっていた。

 

 

「やべぇ!! 牛島さん見失ったぞ!!」

「えええっ!? それじゃ迷子ジャン!!? ここメッチャ広そうなのに!!」

 

 

だから、当然 牛島を見失う事になった。

 

烏野組は 白鳥沢に来るのが目的だったので、ここに入った時点である程度の目標は達成した。だから自然と周囲に目を奪われ走る速度がかなりダウン。

当たり前だが、牛島は元の体育館にまで戻るのがゴールだから、走る速度を緩めるワケが無い。

 

【ついて来られるのなら】

 

と、ある程度下に見ていたのだが、あっさりとついてきた。

予想以上の体力に目を見張るものがあったのは事実だが、だからと言って律儀に案内するつもりもない。

 

【好きにしろ、見たいならついて来ればいい】

 

とも言ってるから。

 

 

それは兎も角、火神はまた軽く苦笑い。

引率はやっぱり大変だ、武田先生たち教師には頭が下がる――――と色々考えながら前に出て。

 

「はぁ……、ほら こっち。オレ 体育館の場所も解ってるから」

「「!! オトーーサン!!」」

「お前らまで、おとーさん呼び(それ)すんのヤメロ!」

 

 

火神の記憶を辿りながら、バレー部専用の体育館へと向かうのだった。

 

 

 

 

ある程度進んでいくと―――大体わかってくる。

 

外にまで音が響いてくるから。

シューズが擦れる音、バレーボールを打つ音、バレー部であるなら大体察する事が出来る音。

バスケ部でも似た様な音を響かせているが、バレーとはまた違うので、近付いたら日向や影山にも解る。

 

 

「うおおお、ここか!!」

「……おいボゲ。偵察って意味わかってっか? 目立つなよ」

「わ、わかってるし! 大丈夫だし!!」

「……そう願うよ、翔陽」

「そんな顔すんな誠也! だいじょうぶだからっ!!」

 

日向が大声を出して大丈夫だと宣言する――――が、大声を出してる時点でアウト。

 

火神は口元に人差し指を当てて 静かにする様に促すと、グサッ! とその所作が 目立つな、と言っていた影山の視線が日向に突き刺さった様で…… とりあえず静かになった。

 

 

「牛島さん、まだここに来てないのかな?」

「ウシワカいねーの? 見える??」

「いや、見える範囲には居ないよ」

「うっせえ、押すな日向」

 

 

体育館の小窓から中を覗く3人。

傍から見たら完全な不審者だが、とりあえず周囲に人が居なくて良かった。

 

 

「………これ、高校生じゃねぇよな?」

 

 

白鳥沢の練習風景を見て、影山はそう呟く。

身に纏う風格、そして体格、その他諸々。単純に練習着も違うと言う理由もある。

別の高校と練習試合か? とも思ったが、多分違うと判断したのだ。

火神もそれを肯定する。

 

以前この場所に来た時、《○○college》と言うロゴの入ったスポーツバッグを見たから。

 

 

 

「県内には白鳥沢の相手になる高校はもう無ぇから、県外に行くか、大学生相手にしか練習になんねぇんだろうな」

「練習相手、って言われると、青葉城西は十分実りある練習ができると思うけど、流石に今んトコは一番のライバル。牛島さんの主義に反するとは思うけど、手の内を見られたり、強打に慣れさすような事は避けてると思うよ。まぁ、堂々とは言わないと思うけど」

 

IH県内予選。

青葉城西は善戦……どころか、超接戦を演じていた。

1セット獲っているし、最終セットもデュース故にだ。

 

あの試合を経験したなら……きっと判断を間違えてなかった、と安堵する者も居るだろう。……常に勝ってきた王者だが、下も見るべきだと。直ぐ傍に、足元に来ているかもしれない、と言う事が改めて分かった筈だ。

 

「ふんっ! ジャパンめ……」

「変なトコ意識してどーすんの……」

 

日向は日向で、大学生しか相手がいない、つまり 烏野など眼中に、みたいな感じに伝わった様子。

 

それらを全て、牛島のジャパン、に込めていた。

 

 

色々と練習風景を見ていた時だ。

 

 

「……来ていたのか。途中見えなくなったから遅れると思っていたが」

 

 

後ろから牛島の声が聞こえてきた。

 

「ちょっと、ウチのが学校で燥いじゃってて……」

「ちょっ! 子供みたいに言うなよッ!!」

「どー見てもガキだろうが、ボゲ!」

「飛雄もあんまし翔陽の事言えないからな? 牛島さん見失ったのは事実だし。まぁ、確かにオレも興味あったけど、2人と違って体育館の位置は知ってたからな~」

「「ぐむ……ッ」」

 

 

3人の話を耳にしていたが、さして興味もない様に、体育館内へと入ろうとする牛島を、駆け足で歩み寄って止めたのは影山だ。

 

「オレは、烏野高校の影山です。偵察しても良いですか」

 

改めて、自己紹介。

 

火神だけ知られていて、自分は(日向も)知られていないのは、プライドに触る様だ。

 

影山の名を聴いた牛島は、足を止めて―――考える。そして思い出した。

 

 

「カゲヤマ……、北川第一か」

「!」

 

 

出身校を言い当てた。

ある程度は知られている、と言う事に 火神に置いて行かれてないと言う少なからずの安堵感も芽生えたが、今は良い。

 

「ハイ。オレ、白鳥沢(ココ)受けて落ちました」

「……その説明居る? 推薦とかじゃなくて、一般で受けて落ちたんだから、完全に飛雄のミスデショ……。入りたい気持ちがあったんなら、せめてベンキョーもしないと……」

「うっせぇ!」

 

 

影山が白鳥沢を受けて落ちた理由は火神が言う通り 単純に学力不足。

一般入試の場合は、当然だが 合格ラインを越えなければ無理だ。定員割れ等するワケが無い名門校。部活だけでなく学業の分野においても華々しい実績を残している高校だから、敷居が相応に高いのは当然の事。

 

―――と言うより、中学時代の進路希望で 先生たちは影山に何かアドバイスをしたのかな?

 

 

と思えてしまったりもする。

私立高校だから、公立の烏野も残っているし―――記念で受けさせたとしか思えない、と言うのが火神の感想である。

偏差値の高さを比べれば一目瞭然……。

 

 

「……お前に推薦が無いのは当然だ」

 

 

話を聴いていて、牛島がはっきりと口に出した。

影山と言う名、そしてその試合運び。

 

奇しくも、火神と言う男の事を知る切っ掛けとなったあの試合から、影山の事も見ている。

 

 

「中学のお前の試合を見た覚えがある」

 

 

ここで初めて牛島は振り返って影山を見た。

彼にとっては普通の表情に過ぎない筈なのに、威圧感が凄まじい。そして、その言動も凄まじいモノだ。

 

 

 

(エース)に尽くせないセッターは、白鳥沢(ウチ)には要らないからな」

 

 

 

はっきりと突きつけられた事実。

影山は力量だけを見れば、その能力だけを見れば間違いなく白鳥沢の練習にもついていけるだろうし、通用もするだろう。

 

だが、選ばれなかった。推薦が来なかった。

 

「! ……………」

 

理由は――――牛島が言う事が一番的を射ている。

 

 

推薦枠や条件を彼が決めるワケではないのだが……、影山もその辺りの事はしっかり自覚しているだろう。過去を乗り越えた身だから、当然だ。

 

 

「まぁ、中学時代の話をすれば……なぁ? 翔陽」

「ブハッ! うんうん! 確かに、お前【尽くす】って感じじゃねーな?? 【俺が認めたヤツだけ!】って感じ??」

「あ゛!?」

 

 

直近で戦った事がある2人に更に駄目だしされるのは、苛立つと言うものだ。

それも日向だったら尚更。

 

 

「あ、でも県内最強セッターと言えば、大王様だから、白鳥沢(ここ)に来れた筈じゃん?」

「学力面は知らないケド、及川さんの技術やコミュニケーション能力の高さなら、確かに白鳥沢(ここ)でもあっという間に馴染みそうだよな。その辺は翔陽に同感。まぁ 来る来ないは自分達の自由だから」

「今、及川さんは関係無ぇだろうが! なんで、そんな話になる!?」

「大王様に負けてる王様だから?」

「日向ボゲェぇ!!」

「どうどう……」

 

及川に負けている、と言う部分は決して否定できない。

あの試合も負けたワケだし、及川より勝ってるとは影山自身も思えないのが実情。

 

ただ――――それを日向に言われる事に関してだけは除く。

 

 

そして、及川の名に反応したのは牛島だ。

 

中高、長らくライバル関係として対戦し続けてきたから。

 

 

「及川―――……ヤツは優秀な選手だ。白鳥沢(ウチ)に来るべきだった。……火神誠也。お前と同じくな」

「「!」」

「………(ここで俺の名前、出さないで欲しかったなぁ……)」

 

 

この牛島の言葉から、より嫉妬心を向けられそうな気がした火神。

だが、白鳥沢からスカウトが来ていた事実は変わらないから、今は影山も日向も、及川について、注目していた。

 

 

「………及川さんなら、エース(あなた)に尽くすって事ですか?」

 

 

 

火神の技術の高さ、周囲と合わせる器用さ、―――――そもそも烏野()のお父さん。

 

 

 

なら、訳ない事くらい把握できるが、及川の性格を知っている影山にとってはなかなか信じにくい。

容易く誰かに従う様な人じゃない。と思ってるから。

 

 

「……恐らくお前たち自身も体験してると思うが、及川を始め、火神と言う男も チームを伸ばす事に長けた選手だ。どんなチームであろうとも、そのチームの最大値を引き出す事が出来る。……チームの最大値が低ければそこまで。高ければ高いだけ引き出す。それがお前たちの能力。………宮城(同じ場所)に同系統が居ると知った時は正直驚いた」

 

顔は全く驚いてない。

無表情のままだ。

 

そのまま―――続ける。

 

 

そして、一方。

 

 

先ほどまで、影山ネタでやや笑っていた日向の表情が消えていく。

ただただ、黙って話を頭に入れていた。

 

 

「優秀な苗には、それに見合った土壌があるべきだ。……及川と言う男が、青葉城西をあそこまで引き延ばし、実らせた。なら――白鳥沢(ウチ)ではどうなっていたか? もっと大きな実を、立派な実を育て上げる事が出来るだろう。―――あの試合でも驚いたが、やはり、痩せた土地(・・・・・)では限界がある」

 

 

言葉に強く反応する。

表情が無かった日向の顔が強張る。

 

並んでいた筈なのに、いつの間にか日向が 火神よりも、影山よりも前に出ていた。

 

 

ヤせた土地(・・・・・)?? どういう意味ですか??」

 

 

その真意を聞く。

如何に学に乏しい日向であっても、その真意くらい想像がつく――――が、それを本人の口から聴きたかった。

 

 

そして、想像通りの答えが帰ってくる。

 

 

「? 青葉城西は及川以外弱い。と言う意味だ」

 

 

確かに、接戦だった。

昨今の試合ではこれまでにない緊張感があったのは間違いないだろう。

 

 

だが――――勝敗と言うものが必ず決まる以上、勝者と敗者の隔たりは果てしなく大きい。

強い方が、勝った方が相手を弱い、と言っても それは間違えていない。例えどれだけ僅差だったとしても、最後の1点を取りきらなければ意味がない。

 

 

 

頑張った、接戦だった、次は勝てる。

 

 

そんな言葉は外野の意見。

 

 

 

――――結果を出す事が出来なければ、本人たちにとっては納得しない。弱いと言われても否定はできない。……負けたのだから。

 

 

 

「…………弱い」

 

 

日向の脳裏に、あの試合が蘇る。

持てる全てを尽くした。

火神は離脱してしまった事を差し引いたとしても、烏野の全力だった。

 

それを受け止め、受け流し、打ち放つ。

多彩な攻撃手段と完成度の高さ、個々の実力の高さ。

 

それを肌で体験している身としては―――――自分達を、烏野を倒して決勝まで進んだ人達の事をそう言われるのは………。

 

 

 

 

「――青城(せいじょう)が【ヤせた土地】なら、オレ達はコンクリートか何かですかね?」

 

 

 

周囲がざわつく。

 

小さな身体の何処にそんな覇気があると言うのか、周囲の音を一瞬置き去りにした感覚さえあった。

 

体育館前で、色々とうるさいと思える程の音が存在している筈なのに、この一瞬だけ無音の気配。

 

牛島も、その圧に表情を険しくさせる。それは一瞬怯む気配を見せた……と言って良い。道端の石ころ程度にしか感じてなかったかもしれないが、はっきりと日向を意識した筈だから。

 

影山も、時折見せる日向のこの圧についてだけは、一目以上置いている。

普段が普段なだけに(強面には思いっきりビビる)、そのギャップがあまりにも激しいから。

 

 

「(なるほど………なるほど、なるほど………)」

 

 

そんな中で、火神だけは思う存分堪能していた。

 

日向の事を知っているし、一緒に上がってきた身。

覚醒していくと言っていい過程を、この目の前の上へと続く階段を上っていける事を傍で感じられる喜び。

 

画面越しでは目と耳では感じる事が出来るが、今は実際に肌で、触感で、五感の全てで感じ取る事が出来、自然と笑みが出ていた。

 

 

方向性は違えど、明らかに変わった日向と火神を見た牛島は言葉を紡ぐ。

 

 

「……何か気に障ったのなら謝るが、青葉城西に負け、県内の決勝にも残れない者が何を言っても、どうとも思えん」

 

 

それもまごう事なき正論だ。

 

世の中勝者が全て!! とまでは言わないが、そう思われてしまっても仕方が無い。

勿論TPOさえ弁えてさえいれば。

 

 

 

 

何も言えない―――が、行動で示す事は出来る。

 

 

 

 

 

 

一際大きな音が響いたかと思った次の瞬間。

 

 

「すまん、取ってくれーー!」

 

 

声も聞こえてきた。

打たれたボールが大きく撥ねて、外へと飛んできた様だ。

ボールが外に出れば汚れてしまうし、遠くまで飛んでいけば取りに行くのも面倒だ。

 

牛島は、高くバウンドしたとはいえ 十分跳躍で届く範囲内。

そのボールを取ろうと跳躍したその時だ。

 

 

 

 

それは―――あの場面(・・・・)

 

 

 

 

火神の傍にいた筈の日向は、弾かれた様に動いた。

牛島の前へと回り込む。

その動きを助走とし、最短にして最速で頂点(ボール)へ。

 

バシッ!!

 

本来なら、牛島が取る筈だったボールを横から掠め取ってしまった。

 

 

「!!!(コイツ、今確かに俺の後ろに居た筈……!!!)」

 

 

普段、表情に出さない牛島。

間違いなく変化した。驚愕した。

 

牛島がその場で跳躍してボールを取ろうとしていた。間違いなく一番早くに処理できるであろう距離だ。だと言うのに、この自分よりも遥かに小柄な男は追いついた。……いや、追いぬいてボールを取ってのけた。

 

跳躍力も目を見張るが、何より驚くのは 最高到達点……ボールに到達するまでの時間があまりにも早い。

小さい分空中で加速する速度が速いとでもいうのだろうか。

 

 

地に落ちたタイミングは牛島も日向も同じだった。

重力を一瞬疑いそうになったが、その辺りは公平の様だ。

 

 

―――目の前の男の跳躍力、そして跳躍速度が常軌を逸している。

 

 

 

 

 

「火神誠也だけじゃないです……烏野は」

 

 

 

 

 

日向は、ぐっ……と掴んだボールに力を入れると、一切臆する事なく牛島の前に立つ。

 

 

 

 

「烏野……、コンクリート出身、日向翔陽です」

 

 

 

 

何10㎝高くても、関係ない。

目線が全く違う、見上げなければならないが、関係ない。

 

 

 

 

 

「あなたをブッ倒して、全国へ行きます」

「!」

 

 

 

 

 

鷲と烏のにらみ合い。

 

群れる雑食な烏は――――、大空を泳ぐ鷲さえも時には喰らう。

 

 

 

 

「コラー! 他校生かな? 勝手に入っちゃだめだよー!」

 

 

 

一触即発な空気だったが、注意する外の声が届いた為、張りつめた空気も霧散する。

 

 

「……中見せてくれてありがとうございました。失礼します」

 

日向が一礼する。

そして、次に影山が前に出た。

 

 

「及川さんが県内で最強のセッターなら。――――それを超えるのが俺なんで」

 

 

日向に倣った形ではあるが、はっきりと宣言する。

及川を超えると。……つまり、青葉城西を超える。

 

白鳥沢の前に立つのは烏野だと。

 

 

日向と影山は背を向けた。

 

 

最後に残っているのは火神だけ。

 

 

「牛島さんの言ってる事は、間違いないです。―――今まで(・・・)なら」

「?」

 

 

火神は笑顔のままだ。

闘争心、殺気に似た迫力、それらを一切感じられない。

 

少ないとはいえ、日向と影山の2人と一緒。

3人いる仲間たちの中に居て、それでいて勢い等で色に染まったりせず、自身を貫いている姿も、また、あの2人とは違う何かを感じさせられる。

 

 

ただ解るのは―――――気味が悪いとさえ思える種類の笑顔だと言うこと。

 

 

 

 

未来(さき)の事は誰にも解りませんから。この春高で、何処が(・・・)宮城県代表として 全国相手に戦っているかなんて、その時にならないと(・・・・・・・・・)解りません」

 

 

 

 

そういうと、火神も軽く一礼をした。

 

 

また(・・)会いましょう。あの時言った言葉(・・・・・・・・)に嘘偽りはないつもりです。……だから、オレは烏野に居る。………今日はありがとうございました」

 

 

 

 

そして、烏たちは去っていった。

獲るべき場所を、広げるべき縄張りを確認できた、と言わんばかりに。

 

 

 

 

「――――烏野、高校」

 

 

 

 

牛島は、その名前は知っている。

近年でこそ目立った成績を残せてはいないが、嘗ては常にトップ争いを行い、そして全国へ進んだ事もある筈だ。

 

回数で言えば、白鳥沢が圧倒しているが、それでも―――あの時代の烏野は凄まじかったと、記録と先輩たちの記憶の中に残っている。

 

 

「―――スタミナ・スピード・瞬発力・バネ・闘争心。……それらを全て出す統率力」

 

 

去っていく3人の背をじっと見つめる。

 

 

ヒナタ ショウヨウ

カゲヤマ トビオ

カガミ セイヤ

 

 

火神が及川と同種の選手である事は重々承知だ。

たった数試合だが、見ていて確信した。仲間たちを活かすプレイをしてのける。それを可能にするだけの高い技術を持っていると。

 

 

 

そんな男が、あの2人を最大限に発揮させたらどうなるだろうか―――――?

 

 

 

 

牛島はこの時解っていなかった。

 

 

今の自分自身も、火神の様に………笑みを浮かべていたという事を。

 


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